三人の御遣い 獣と呼ばれし者達 EP15 黒き虎と妖術使い
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烈矢達が向かっている森の中―――

 

事態は予想外の方向へと動いていた……

 

 

 

 

 

森の中では至る所に死体が転がっていた

 

鮮血に塗れ

 

脳天を割られ

 

 

『死んでいる』と判断するに十分過ぎる程の光景がそこには広がっていた

 

そして、何より―――その『死』という光景よりも何よりも意外なのは

 

その死んでいる者達全員が―――『黄色の頭巾』を被っていたことだった

 

 

黄巾兵「……な、何だよ……何なんだよ!何で俺達を―――俺達を殺すんだよ!!」

 

 

唯一生き残った黄巾党の兵士は目の前の惨状を生み出した集団に−――否、一人の男に問いかける

 

???「おやおや、これは意外なことを言いますね?元はと言えば貴方達が私との約束を破るからでしょう?……言ったはずですよ、あの村にいる二人の少女―――『許緒と典韋の二人を抹殺すること』―――それが今回貴方達に私が依頼した内容です」

 

黄巾兵「そ、それは……わかってるけどよ……でも!」

 

???「……でも?」

 

黄巾兵「それは仕方ないじゃねえか!折角あと一息で仕留められたのに……あの官軍共が余計な真似をしたから!」

 

???「それも前もって言ったはずですよ?遠からず官軍が来るのでなるべく早く済まして下さいね……と」

 

黄巾兵「それはそうかもしれねえが……」

 

???「……おまけにあの厄介な―――『魏の天の御遣い』である赤羽烈矢まで出てきてしまう体たらく。まったくもって最悪ですよ。折角あれだけの大金を前金としてお渡ししたのにこんな有り様では―――殺したくなるのも仕方ないでしょう?」

 

そう言って男は妖しくも禍々しく微笑み……目の前の黄巾兵を蹂躙した

 

 

 

???「……ふう、まったく……これだから無能な賊は信用できないのです。所詮はこの脆弱な『外史』の中でしか生きられない人形に過ぎないということでしょうか。……予定と大分変わってしまいましたがこの際仕方ありませんね。私自ら手を下すとしましょう。……赤羽烈矢、貴方の力―――試させてもらいますよ?」

 

 

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烈矢達が兵の報告により黄巾党の拠点へと向かっていた

 

村を襲っていたという黄巾党は森に拠点を置き、官軍の目から逃れるようにその身を隠していた

 

そしてその拠点とされている森に烈矢達一行は今正に足を踏み入れようとしていた

 

 

秋蘭「なるほど……これだけの規模の森ならば我々官軍にはちょっとやそっとでは見つからんと踏んだのか……賊の割には中々考えてるじゃないか?」

 

烈矢「まぁ……そうだな。だが、拠点がばれちまったらその価値は皆無だ。如何に隠れ家としては優秀でも数の利を活かせない森の中では交戦時に返って不利になる。そういった『万が一』を想定していないところが賊らしいと言ったところでもあるが……」

 

秋蘭「賊らしい……と言うのはどういう意味だ?」

 

烈矢「犯罪者特有の思想と言うのか?ああいった『奪う』側に属する人間というのは基本的に『ばれないように』と考慮することはあっても『ばれた後のこと』を考慮することはないんだよ。だからばれる前の処置はそれなりの策を弄するけど、ばれた後の対処では予想外に脆いものなんだ」

 

秋蘭「……なるほど」

 

烈矢「まぁ、こんな偉そうなことを言ってるけど、この考えも一刀からの受け売りなんだけどな……」

 

秋蘭「……一刀?」

 

烈矢「ああ、俺の親友だよ。実質的な国戦の頭脳だな」

 

秋蘭「ほう……お前たちの組織にも指導者というものがいるのだな」

 

烈矢「そりゃ、いるさ。俺達みたいな一癖も二癖もある奴らが集まってる集団なんだ。しっかりとまとめられるだけの能力を有した奴は当然いる」

 

秋蘭「それもそうか……」

 

烈矢「おい……今俺の方見た気がするんだが?」

 

秋蘭「……気のせいだ」

 

 

 

 

烈矢と秋蘭がそんなどうでもいい話をしながら森の中を歩いていると―――

 

季衣「ね、ねえ……兄ちゃん」

 

後ろから誰かに声を掛けられた

 

烈矢「……ん?」

 

烈矢が後ろに振り返ると先の騒動で同行することになった二人の少女が立っていた

 

烈矢「…えっと……確か許緒と典韋……だっけ?……どうかしたか?」

 

季衣「うん、あのね……兄ちゃんってさ、天の御遣い様なんだよね?」

 

烈矢「ああ、一応この世界ではそういうことになってるな……それがどうかしたのか?」

 

流琉「はい……それで先ほどの事でどうしても謝りたくて……」

 

烈矢「……謝りたいこと?それと御使いであることと何の関係が……?」

 

季衣「関係あるよ!天の御遣いって言ったらこの大陸を救ってくれるっていう凄い人なんだよ!?そんな凄くて曹操様にとって大事な御使い様に僕たちは……」

 

そう言って彼女達は気まずそうに下を向いた

 

その様子から察するにどうやら二人は春蘭との戦闘の際に割って入った烈矢に誤って矛を向けたことを気に病んでいるようだった

 

烈矢「……あ〜、なるほどそういうことか……」

 

確かに普通に考えたら二人の気持ちも分からなくはない

自分達がこれから仕えるであろう王の―――それも側近よりも遥かに近い地位にいる『天の御遣い』に対して刃を向けた

そこだけを考えれば気に病む理由も十分に理解できる

 

だが―――

 

烈矢「そんなこと気にするようなことじゃないと思うぞ?」

 

季衣「……え?」

 

烈矢「……さっきのことは確かに結果だけ見れば許緒達は俺に刃を向けたことになるけど、それは俺が自分から間に割って入ったから起こったことだ。それに……その原因を作ったのは―――その指示をだしたのは他でもない華琳だ。俺のことが心配だったら華琳はそんなことはやらせない。俺だからこそ出来る―――俺だからこそ止められる。そう判断したからこそ……華琳は俺を向かわせたんだ。だから、許緒達が気にすることなんかないんだぞ?」

 

流琉「で、でも……」

 

烈矢「でも―――はなしだ。これから戦場に立つって言うのにそんなことをいつまでも引き摺っていたら勝てる戦も勝てなくなるぞ。……まずは戦に勝つ―――それだけに集中しろ……いいな?」

 

許緒「……うん、わかったよ兄ちゃん」

 

問答を終えた三人は再び賊が潜む森の中へ視線を向けた

 

 

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秋蘭「……さて、話も終わったようだな赤羽」

 

先に森へと足を踏み入れていた秋蘭は近寄ってくる烈矢に声を掛ける

 

烈矢「ああ、待たせたな秋蘭」

 

秋蘭「別に待ってはいないさ……ただ―――」

 

烈矢「……ただ?」

 

秋蘭「……何か、森の様子がおかしくないか?」

 

烈矢「……何だと?」

 

秋蘭の言葉に烈矢は訝しげに森の方へと視線を向けた

 

一見すると森の中におかしな様子はない

 

これから戦場になる場所とは思えないほどに静寂な空間に包まれていた

 

 

 

 

だが、『そこ』がすでにおかしいのだ

 

静寂と言えば聞こえはいいが、そこには本来あるべき自然のそれとは明らかに異質なものが存在した

 

動物の声はなく

 

風による森のざわめきも

 

川のせせらぎも

 

その何もかもがその空間には存在しなかった

 

まるで絵本の中にでも閉じ込められた様な―――そんな閉鎖的で圧迫感に包まれたその異質さに

 

烈矢と秋蘭を始め、春蘭に季衣と流琉、そして魏の精兵たちの誰もが気付いていた

 

 

春蘭「おい、赤羽!これは一体どういうことだ!?」

 

季衣「ねぇ、兄ちゃん!なんかこの森おかしいよ!」

 

流琉「そうです兄様!この森何か薄気味悪い感じがします!」

 

森の異様な空気に近くにいた春蘭達は慌てた様子で烈矢に近づいてきた

 

烈矢「確かにな……この空気は少しおかしい。いくらこれから戦とは言え―――嵐の前の静けさにしてはあまりにも異質過ぎる」

 

秋蘭「そうだな……正直、嫌な予感がしてならないな」

 

春蘭「だが、ここでこうしていても仕方がないだろう!?我々はここに許緒達の村を襲った賊共を討伐しに来たのだぞ!?」

 

許緒「夏候惇様!さっき季衣でいいって言ったじゃないですか!ちゃんと真名で呼んでくださいよ!!」

 

春蘭「おお、そうだったな。だが、それを言うならお前もだぞ、季衣?私の事は春蘭でいいと言ったはずだぞ」

 

季衣「えへへ……そうでした」

 

秋蘭「まったく、季衣も姉者も騒がしいものだな」

 

烈矢「あ?秋蘭も季衣と真名を預け合ったのか?」

 

秋蘭「ああ、季衣だけじゃないぞ。先ほど流琉とも真名は預け合った。なあ、流琉?」

 

流琉「はい!」

 

烈矢「そりゃ、羨ましいことだな」

 

季衣「兄ちゃんも僕のことは季衣って呼んでよ!僕兄ちゃんのことも気に入ってるから許してあげる」

 

流琉「わ、私も!!」

 

二人はとてつもない勢いで烈矢に詰め寄ると満面の笑みで口にした(流琉は若干恥ずかしそうだったが……)

 

烈矢「……お、おう……ありがとな」

 

勢いに押されながら半ば引き気味に承諾し、烈矢は礼を述べながら優しく二人の頭を撫でた

 

季衣「えへへ♪」

 

流琉「///////」

 

そんな和やかな空気に包まれながら誰もが優しい気持ちになっていた―――油断しきっていたその時―――

 

 

ヒュンっ!

 

 

 

季衣「……え?」

 

 

 

 

一迅の矢が―――季衣に向かって飛来した

 

先ほどまで烈矢に頭を撫でられ気を緩めきっていたために季衣は襲ってくる矢の存在に一瞬とはいえ反応が遅れた

 

眼前まで迫ってくる矢の存在に避けられないと判断した季衣は反射的に目を閉じる

 

季衣「っ!!」

 

 

 

 

だが、いくら待てども自身に矢は刺さらない

 

その状況を不思議に思った季衣はゆっくりと、恐る恐る目を開く

 

 

 

するとそこには―――

 

 

季衣に向かって飛来してきた凶刃を寸でのところで掴み防いだ―――赤羽烈矢の姿があった

 

 

季衣「……に、兄ちゃん?」

 

烈矢「おう、季衣大丈夫か?けがはないか?」

 

そう言って烈矢は季衣に頭を優しく撫でると矢が飛んできた方向へと視線を向け直し一言口にする

 

 

 

烈矢「おいこら……こんな小さな子にいきなりこんな物騒なモン撃ちやがって―――覚悟できてんだろうな?」

 

 

その言葉を口にした瞬間、烈矢の周囲の空気は一変した

 

空気は重く

 

張りつめた怒気は森に悲鳴を上げさせ

 

味方である周りの兵士達ですら呼吸をすることすらままならなくなった

 

 

 

そして、その圧倒的なまでの怒気を向けられた―――『矢を放ったであろう』方角にいた人物はゆっくりと木の陰から姿を現した

 

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木の陰からは一人―――また一人と敵と思われる白い装束を纏った者達が姿を現した

 

その数はざっと見積もっても二千と三百

 

当初討伐予定となっていた黄巾党の数を僅かばかりとも上回っていた

 

 

春蘭「な、なんだこの数は!?お前達は一体何者だ!?」

 

叫ぶ春蘭

 

だが、その春蘭の怒号すら目の前の白装束の集団は微動だにしなかった

 

まるでその怒号など耳に入らぬかのように

 

無機質とも言えるその無反応さに春蘭の横にいた秋蘭はぼそりと率直な感想を口にした

 

 

 

 

 

 

 

秋蘭「……まるで―――『人形』だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

秋蘭が発した言葉を耳にした瞬間、烈矢の脳裏には一人の男が浮かび上がった

 

土から生み出した無数の人形を使役する一人の男

 

自分がこの世界に来ることになったきっかけ

 

 

元凶

 

 

その男の存在が烈矢の思考を埋め尽くした―――その時

 

 

???「おやおや、それは何とも的を得た感想ですね」

 

 

白装束の集団の中から現れた一人の男の存在により―――烈矢の予想は悪い方へと当たってしまった

 

 

烈矢は忌々しく舌打ちをすると目の前の男の名を口にする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烈矢「……やっぱりてめぇだったか―――『于吉』!!!」

 

 

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于吉「……はい、于吉です。初めて会う方には初めましてと言っておきましょう。……そして、『国戦』の一人である赤羽烈矢さんはお久しぶりですね―――いや、この場合は『魏の天の御遣い』と言った方がよろしかったですかね?」

 

烈矢達の前に姿を現した男―――于吉は軽々しい歪んだ笑みを浮かべながらそんな言葉を口にする

 

春蘭「于吉だと!?何者だお前は!おい、赤羽!お前はこいつを知っているのか!?」

 

烈矢「……こいつは―――俺がこの世界に来る原因を作った男だ」

 

春蘭「な、何だと!?」

 

烈矢「そして、付け加えるならさっき秋蘭が言っていた通り……奴の周りにいる集団は全員が一人残さず人形だ」

 

秋蘭「何?つまり奴は妖術使いということか?」

 

烈矢「まぁ、こっちの世界の言葉で言うならそうなるだろうな」

 

 

于吉「まぁ、厳密には少し違うのですが……解釈としては間違ってはいませんよ。それはそうと……赤羽さん。貴方は私に聞きたいことがあるんじゃないですか?」

 

烈矢「ああ、しこたまあるに決まってるだろう?だが、ここですぐさまお前に聞きたいことは三つだ。……答える気はあるんだろうな?」

 

于吉「ええ、それはもちろん。私に答えられる範囲でならどうぞ遠慮なく」

 

烈矢「そうか……ならまず一つ目、『季衣と流琉の村を襲わせた』のはおまえか?」

 

季衣・流琉「え!!」

 

于吉「おや?どうしてそう思うのですか?」

 

烈矢「俺達は元々この子達の村を襲ってる賊討伐を目的に遠征に来たんだ。その賊共の拠点となる森に入ったら会ったのはお前だ。お前と会ったのはこれで二度目だがお前の蛇蝎の如き卑劣さは十分に理解した。それに―――」

 

そこで一息吐くと決定的な言葉を口にする

 

烈矢「それに―――そんなに『血の臭いを漂わせていたら』どんな馬鹿でも気付くに決まってるだろうが?」

 

于吉「…………」

 

烈矢「……大方、黄巾党を影で操っていたのはお前らだろう?黄巾党の一部隊を使って季衣達の村を襲わせたが結局落とすことが出来なかったから始末したってところだろ」

 

于吉「……ふう、どうやら貴方を少し見くびっていたようですね。てっきりそういった洞察力では北郷一刀が一番だと踏んでいたのですが、貴方も中々どうして油断ならない」

 

烈矢「……俺とあいつを一緒にすんな。俺がわかることをあいつがわからないはずねぇだろ?お前らの狙いはどうやら俺達―――正確には一刀のようだが……その程度の理解では逆立ちしたって一刀には敵わないぞ?……あいつの底はそんなもんじゃねぇからな」

 

于吉「……口の減らない人だ。まぁいい、それで二つ目の質問は?」

 

烈矢「おう、二つ目の問い……率直に聞く―――『一刀達はこの世界にいる』のか?」

 

 

 

 

そうそれこそが烈矢の最大の疑問

 

最大の目的なのだ

 

今現在、烈矢は二人を探すという目的のために動いている

 

だが、それはあるかどうかわからないものを暗闇の中手探りで探すような不透明なものだ

 

もし、最悪なことに三人が別々の世界に飛ばされてしまったとしたら烈矢のしていることは無駄以外の何物でもなくなってしまう

 

聞かずにはいられないのだ

 

烈矢「さあ、答えろ于吉!!」

 

 

 

烈矢の二つ目の問いにしばし于吉は黙り込む

 

答に迷っているのか

 

烈矢を焦らして様子を窺っているのか

 

どちらにしても烈矢にとってその沈黙は不愉快で仕方なかった

 

出来ることならこの場で一足飛びに奴の顔面に拳を叩きこみたい衝動に駆られていた

 

しかし、そんなことはするわけにいかず憤りを抑え込みながら烈矢は于吉の答えを待つ

 

 

 

 

すると先ほどまで黙り込んでいた于吉が静かに口を開く

 

 

 

于吉「……その質問に答えるのなら―――『YES』と言っておきましょう」

 

烈矢「っ!それは……本当か?」

 

于吉「ええ、本当ですよ。ただ、会えるかどうかは貴方方次第ですがね。それはそうと最後の質問はいいのですか?」

 

烈矢「……ああ、最後の質問―――『今のお前の目的は何だ』?」

 

 

その瞬間、于吉の表情は変わった

 

眉間に皺をよせ、まるで不愉快なことを言われたような

 

そんな印象が見て取れた

 

 

于吉「どこまでも……油断できない人ですね。どうやら私は一つ勘違いしていたかもしれません。貴方達『国戦』の中では北郷一刀が要注意人物だとおもっていましたがどうやらそれは間違いでした。貴方が……赤羽烈矢こそが最要注意人物―――そう認識させていただきます」

 

烈矢「そんなことはどうでもいい……お前はさっさと聞かれたことだけ答えろ。それ以外のことを口にすれば―――その軽口ごと顔面が弾けるぞ?」

 

于吉「ふっ……いいでしょう。本来なら許緒と典韋の二人を殺すことが最大の目的だったのですが……貴方がここにいるのなら少々目的は変更ですね。しいて今の目的を答えるなら―――」

 

 

 

于吉は静かに目を閉じると禍々しく歪ませた笑みを浮かべ

 

 

 

于吉「私の目的は―――『貴方達を皆殺しにすること』です」

 

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于吉と名乗った男の言葉に呼応するように周りにいた白装束の者達は一斉に私達に向かって飛び掛かってきた

 

私を初め、秋蘭、季衣、流琉、そして魏の兵士達はそれに真正面から応戦した

 

幾重にも降り注ぐ刃を掻い潜り襲いくる人形共を

 

私は次々と斬り倒した

 

秋蘭も

 

そして季衣や流琉も

 

襲いくる無数の敵を薙ぎ払っていった

 

如何に黄巾党の部隊を全滅させた人形達とはいえ、個々の実力は大した程ではなく

 

私達程の武人であればそうやすやすとはやられるような戦力差ではなかった

 

 

 

 

だが、しかし―――

 

 

 

個々の実力は大したことない人形でも数が無制限に増え続けるのでは勝ち目がないのもまた事実

 

こともあろうか……この目の前の男―――『于吉』という妖術使いは己の使役する人形を際限なく増やし続けられるという―――出鱈目なことをやり続けていた

 

どれだけ雑魚の人形共を打倒そうと

 

どれだけ多くの人形を同時に屠り去ろうが

 

目の前の妖術使いは削られた戦力を呪符のようなもので一瞬にして人形兵を増員する

 

 

 

このままではじり貧だ

 

 

 

私は咄嗟にそう思った

 

普段こういうことは秋蘭等が判断する事柄だが、今の私は自身で驚くほどに冷静だった

 

どれだけ苛烈な攻めを受けようと

 

どれだけ多勢に襲われようと

 

今の私に焦りはなかった

 

だが、現状の戦局では我が軍の劣勢は変わりなく、同時に冷静であるがゆえに私には一つの気がかりが生まれていた

 

 

 

 

それは……これだけの規模の敵に襲われていると言うのに未だに私達の軍に一人の死傷者も出ていないことだった

 

 

 

どれだけ敵の実力が低かろうと

 

『兵数が多い』ということは戦場において最も有効であり最も重要な要素である

 

どれだけ個として優れた武人が存在しようとそれが人間である以上、体力には限界があり、一度に相手に出来る人数も限られる

 

故にこのような二百対二千などという馬鹿げた兵数差がある以上

 

森と言う障害物を利用した乱戦に持ち込めなくなった以上

 

私達がこうも長々と対抗し続けられるはずがないのだ

 

 

 

 

 

……ならば何故私達は今も尚こうして生き延びられているのだろう

 

 

そんなことは考えるまでもない

 

 

 

……あの男の所為だ

 

 

本来我々に割かれるはずだった敵軍の兵力のほとんどを

 

 

たった一人で受け持っている

 

 

魏の天の御遣い―――赤羽烈矢の所為に他ならない

 

 

 

 

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赤羽は二千に近い人形達に囲まれていた

 

 

本来ならば助太刀するべき絶望的な状況だが

 

 

残念ながら今の私達にそんな余裕は微塵もなかった

 

 

如何に敵戦力のほとんどを赤羽が一人で受け持ってくれているとはいえ

 

 

私も

 

 

姉者も

 

 

季衣も

 

 

流琉も

 

 

戦場にいる全ての人間に赤羽を助ける余裕などはまるでなかった

 

 

いや……それでは少し語弊がある

 

 

少なくとも私に―――私と姉者に関して言えば

 

 

『助ける余裕がない』のではなく

 

 

『助ける必要がない』と判断したと言っていい

 

 

普通ならばどんなことをしても―――それこそ自国の天の御遣いを守るためには己の命を賭してでも助けに行かねばならない場面だが

 

 

我々に関して言うならば―――少なくとも赤羽烈矢という『規格外』を語るにあたって

 

そのような常識などはまったくの無意味と言わざるを得ない

 

 

……え?

 

 

何が『規格外』なのかだと?

 

 

ふふふっ……そんなことは見ればわかるだろう?

 

 

我々は敵戦力の残りを二百と言う兵力で―――しかも一騎当千と言って差し支えない姉者を筆頭に私や季衣や流琉、そして選りすぐりの魏の精兵を持ってすら慌ただしく対応しているというのに

 

 

あの赤羽烈矢という男は―――『ただ其処に立っているだけ』で二千の敵の動きを止めているのだ

 

 

これを『規格外』と言わず何と言う?

 

 

そのような姿を見て誰が助けようなどと図々しくも場違いなお節介をするというのだ

 

 

あの于吉という男……我々のことを『皆殺し』にすると言っていたが

 

 

私としては実に興味深いものだ

 

 

あのような人間の枠を超えた『規格外』を相手にそんなことを言えるのだからおめでたいものだ

 

 

そんな奴に私がかけてやれる言葉は一つしかない

 

 

 

 

 

 

 

 

『やれるものならやってみろ』

 

 

 

 

 

 

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烈矢「……いつになったら掛かってくるんだ?」

 

 

幾何かの時が過ぎたその時―――

 

 

滾る猛虎は自身を取り囲む二千の命無き兵に向かいそう言い放つ

 

 

否、正確には―――その命無き兵を操る男に向かって言い放ったのだ

 

 

その言葉を向けられた于吉は息を飲む

 

 

于吉は先ほどからそうしようとしているのに体が―――頭がそれを拒否するのだ

 

 

それほどまでに目の前の男の―――

 

 

目の前の獣の存在感が、殺気が、重圧がすさまじかったのだ

 

 

 

その異常なまでのプレッシャーが

 

 

目の前に殺すべき標的の一人がいるにも関わらず己の本能は全力で警報を鳴らし続ける

 

 

『やめておけ』

 

 

『死ぬぞ』

 

 

『壊されるぞ』

 

 

頭に響くそれらの言葉が于吉にとって不本意な膠着状態を築かせていた

 

 

 

 

 

 

于吉「……くっ、小癪な男ですね」

 

 

自身の思いとは真逆とも言える本能の警戒音に于吉は忌々しげに舌打ちをする

 

 

それが今の于吉に出来る精一杯の強がりだった

 

 

しかし、強がりだけでは何も起こりはしない

 

 

現状は変わらない

 

 

このまま無意味に時が過ぎるのが続いてしまえば遅かれ早かれ赤羽烈矢は動いてしまう

 

 

それはこの状況において最も悪手と言えるものだ

 

 

どれだけ戦力的に勝っていようと相手はあの規格外の集団―――『国戦』の一角なのだ

 

 

個として圧倒的な武力を有する彼らに対して先手を取らせることは死と同義

 

 

故にそれをさせないためには己が先手を取るしかない

 

 

先の先を取ることで赤羽烈矢の出鼻をくじくしかない

 

 

それがわかっているからこそ于吉は覚悟を決めるしかなかった

 

 

于吉「……ふふっ、いいでしょう!ならば望み通りにしてあげましょう。―――二千の人形に呑まれて死ぬがいい!」

 

 

 

 

 

 

 

そして、その言葉を皮切りに宣言通り千を超える命無き人形達は群れをなして赤羽烈矢に襲い掛かった

 

 

 

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遂に赤羽の戦闘が始まった

 

 

于吉と名乗る妖術使いの言葉と共に無数の敵が赤羽に向かって襲い掛かる

 

 

 

春蘭「っ!赤羽、逃げろ!!」

 

 

私は咄嗟にそう叫んでいた

 

 

それほどまでに今の赤羽の状況は危険だったのだ

 

二千を超える無数の波は

 

 

如何なるものも

 

 

あらゆるものも

 

 

無慈悲に

 

 

そして無情に捻じ伏せる力があった

 

 

どれだけ個としての力がある人間でも群を成す力には敵わない

 

 

それが世の常であり道理であり

 

 

例え『天の御遣い』と言えども例外ではなく

 

 

私にとって雲の上とも言える存在

 

 

赤羽烈矢はあっさりと―――あっけなく二千の荒波の中にその姿を消していった

 

 

春蘭「そ、そん…な……」

 

 

その光景を見ていた私は戦っていることすら忘れてその場に膝を着く

 

 

それほどまでに目の前の現実は信じられないものだった

 

 

戦闘中の私は―――私自身が驚くほどに今までにないほどの冷静さを持っていた

その理由は赤羽が―――私が師と仰いだ『天の御遣い』赤羽烈矢が誰にも負けないという信頼なのだと思っていた

 

 

それは私の勘違いだったのか?

 

 

あの安心感は何だったのだ?

 

 

あらゆる思考が駆け巡り、私が絶望感にも似た喪失感を味わっていると―――

 

 

 

 

 

 

秋蘭「姉者!!」

 

 

 

 

私の異変に気付いた秋蘭が駆け寄ってきた

 

 

その顔は焦りと不安が入り混じった―――今にも壊れてしまいそうな

 

 

そんな印象が見て取れる表情だった

 

 

それ程までに

 

 

あの秋蘭がそんなに不安そうな顔をするほどに今の私の様子は弱々しく見えるのだろうか

 

 

はは……

 

 

それはそれで笑えてくる

 

 

 

 

 

秋蘭「このっ……馬鹿姉者!!」

 

 

春蘭「しゅ、秋……蘭?」

 

 

秋蘭は駆け寄ってくるなり、私に向かってそんな暴言を口にする

 

 

いきなり怒鳴るな……びっくりするじゃないか

 

 

秋蘭「この馬鹿姉者が!何をいきなり自暴自棄になっている!?さっきまでの勇ましさはどこにいった?」

 

 

春蘭「だって……赤羽が……」

 

 

秋蘭「それが馬鹿だと言っている!!そんな下らないことを気にして戦闘を放棄するなどいつもの姉者らしくないぞ!」

 

 

春蘭「なっ、何が下らないだ!?赤羽がやられたのだぞ!あの赤羽が……私が認めた男が私の目の前で―――」

 

 

秋蘭「貴方の目は節穴か!あの赤羽が……私達が認めた赤羽烈矢があの程度の敵で本当にやられたと思うのか!?―――あれを見ろ!!」

 

 

そう叫ぶと秋蘭は先ほど赤羽を飲み込んだ千の敵軍の中を指差した

 

 

そこには赤羽を飲み込んだ人形達が今も尚わらわらと蠢き中にいる赤羽を蹂躙していた

 

 

あんな中で生きていられる人間などいる訳がない

 

 

私が諦めようとしたその時―――

 

 

 

 

ズドーーーーンッ!!!!

 

 

 

 

突如赤羽を飲み込んだ軍勢から大音量の爆発音が響き渡った

 

 

群れの中心部にいた人形達はその音に呼応するかのように

 

 

まるで紙屑が宙を舞うかのように軽々と爆散していった

 

 

春蘭「……一体何が?」

 

 

私は感じるままの疑問を口にする

 

 

すると傍にいた秋蘭は私の肩を優しく触れるとその疑問の答えを口にした

 

 

 

秋蘭「まだわからないのか、姉者?あのような―――無数の敵をあっさりと……軽々と葬り去れる人間離れした行為を出来る人間は私達の知る限り一人しかいないだろう……」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、私の目にはある人物の姿が飛び込んできた

 

 

 

それは私が望んだ人物

 

 

 

二千の敵に飲み込まれ、もう死んでしまったのではないかと諦めかけた人物

 

 

 

赤羽烈矢の―――無傷な状態で悠然と佇む姿があった

 

 

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今私が見ている光景は一体何ですか?

 

 

二千を超える人形を一斉に突撃させ、確実に殺したと確信したはずなのに……

 

 

私の目に映るこの『クレーター』は何ですか?

 

 

いやいや落ち着け

 

 

落ち着け于吉

 

 

まずは思考を整理しろ

 

 

最初は良かった―――良かったのです

 

 

目的とする赤羽烈矢を確実に消すために

 

 

事前に二千を超える人形共を用意して圧倒的な戦力を持つことで

 

 

魏の武将達と赤羽烈矢を分断し

 

 

これ以上ない程の孤立を完成させた

 

 

如何に国戦の一角と言えど、二千を超える敵を前に無事でいられるはずがない

 

 

後は数の暴力によって思う存分嬲り殺しにすれば私の目的は達成される―――はずだったのだ

 

 

 

それがどうだ

 

 

今の私の眼前に転がる光景は

 

 

私の確信にも似た予想を大きく裏切るものだった

 

 

それはあまりに常軌を逸したものだった

 

 

一斉に襲い掛かった私の人形達は文字通り覆い被さるように赤羽烈矢を呑みこんだ

 

 

だが―――

 

 

呑みこんだのも束の間

 

 

 

赤羽烈矢に覆いかぶさっていたはずの人形達は

 

 

 

こともあろうか私の目の前で『爆散』したのだ

 

 

土で象られたその肉体は元の土塊となり至る所に自身の血肉ともいえる体の一部を木端微塵に撒き散らした

 

 

そして散っていた人形達がいたはずの場所には未だに無傷のままで拳を高らかに突き上げて仁王立ちする赤羽烈矢の姿があった

 

 

その姿を己が瞳に映したことでようやく私は理解したのだ

 

 

先ほどの爆発音

 

 

散っていった人形達の亡骸

 

 

それらは目の前の―――赤羽烈矢という一匹の獣による

 

 

たった一つの拳による

 

 

たった一撃によって

 

 

生み出された光景なのだということを……

 

 

-11ページ-

 

 

妖術使いの人形達は赤羽の一撃により爆散した

 

 

跡形もなく

 

 

微塵の残骸すら残さずに

 

 

敵の大半を塵と化した

 

 

その光景を目の当たりにした于吉という妖術使いは何が起きたのか理解し難い様子だった

 

 

私からしたら納得できる光景だが

 

 

それを知らない者からしたらその光景が信じられないと言うのも無理からぬ話だ

 

 

私自身納得できる−−−と言いはしたがそれも赤羽の実力を知っているからこそ言えるもの

 

 

何度も姉者との鍛錬を見ていた私だからこそ言えるのだ

 

 

 

でなければ−−−誰がこのような光景を信じられる?

 

 

二千を超える敵軍を

 

 

ただの一撃で

 

 

ただの拳で

 

 

 

あっさりと……そしてあっけなく全滅させられる力を有した『規格外』と言える男の存在を−−−

 

 

一体どこの誰が信じてくれると言うのだ

 

 

-12ページ-

 

 

秋蘭の言葉通り−−−赤羽烈矢という男を語るについて『常識』の範囲内で説明するのはまず不可能と言わざるを得ないだろう

 

 

それほどまでに赤羽烈矢と言う男は常軌を逸した存在なのだ

 

 

『国戦』という規格外の集団の中で

 

 

事実上その『国戦』を指揮していた人物−−−現在桃香達と行動を共にする男

 

 

『天才』北郷一刀を持ってすら『傍に置かざるを得ない』と言わしめる者こそが

 

 

この赤羽烈矢という男なのだ

 

 

 

 

 

 

人形達を一瞬の内に失った于吉は今更ながらにその情報を思い出す

 

 

最悪だ

 

 

最悪すぎる

 

 

それをもっと早く思い出していればこのような事態にはならなかった

 

 

于吉は内心自身の迂闊さに舌打ちする

 

 

何故自分は数で相手を圧倒しようとしたのだろう

 

 

例え千の兵であろうと

 

 

万の兵であろうと

 

 

目の前の獣にはそんな差など些事でしかない

 

 

それこそあの男を始末したいなら毒殺なり闇討ちなり

 

 

取れる方法はいくらでもあった

 

 

それなのに于吉は愚かにも−−−最も選択してはいけない方法『戦闘』という行為を選んでしまった

 

 

それは赤羽を相手にするには最悪と言える選択だ

 

 

現在呉にいる−−−巽兵衛を『殺しの天才』と称するなら

 

 

赤羽烈矢は『戦闘の天才』と言えるだろう

 

 

その相手に最悪な選択をしてしまった于吉は今更ながらに後悔の念に押しつぶされそうになった−−−その時

 

 

烈矢「……つまんねぇな」

 

 

 

唐突に−−−千の人形を一瞬にして塵に変えた男……赤羽烈矢が口を開く

 

 

 

于吉「……つ、つまらない?」

 

 

烈矢「おお……つまんねぇよ。これだけ阿呆みたいに数揃えておいて−−−『この程度』の一撃で全滅なんて拍子抜けも良い所だ。一匹一匹の質が悪すぎる。これじゃあそこらにいる賊の方が幾分マシだな。……いい加減本気出したらどうだ?」

 

 

于吉「……言っている意味が分かりませんが?」

 

 

烈矢「ふんっ……それは本気で言ってるのか?だったらてめぇは相当な馬鹿だな。ある意味兵衛以上だぜ。分かってないなら教えてやる」

 

 

そう言うと烈矢は呆れ顔で理由の説明を始める

 

 

烈矢「見た所……お前の能力−−−いや、戦闘スタイルと言うべきか……その『人形師』としてのスタイルは自軍の人形の数を天井知らずとも言えるほどに増やせる驚異的なものだが……その能力こそがおまえの人形達の質を落としている」

 

 

于吉「私の……人形の質?」

 

 

烈矢「そうだ。お前は俺と春蘭達を引き離したいがために二千を超える人形を用意したがそれがそもそもの間違いだった。本来人間は……瞬間的に数えられる数には限りがあり、戦闘と言う過酷な状況下の中ではより一層それは如実に表れる。お前は数の力をもって有利になったつもりだろうが……二千なんていう膨大な数を精密に操作するなんてことはまず不可能だ。お前はそれに気づかずに考えなしに数を増やし、結果的に人形一体一体の質を本来あるはずの能力よりも大幅に落としてしまったんだ」

 

 

于吉「…………」

 

 

烈矢「群としては申し分ないが、俺に襲い掛かる一体一体の剣技は酷く些末で酷く荒いものだった。正直言ってがっかりしたぜ……あの程度の腕で俺を殺そうだなんて十年どころか百年経っても無理だろうよ」

 

 

于吉「……一つ、聞いても宜しいですか?」

 

 

烈矢「別に構わないぜ」

 

 

于吉「なぜ……そのようなことをわざわざ私に教えたのですか?貴方の話は分かりましたが、それで私に本気を出せと言うのは一体……」

 

 

烈矢「何……特に理由はねぇよ。しいて言うなら『喧嘩は楽しい方がいい』−−−ただ、それだけだ」

 

 

于吉「なら、本気と言うのは?」

 

 

烈矢「わざわざそんなことも説明しないとわかんねぇのか?簡単だろうが……お前はさっきまで二千と言う自身ですら御しきれない数の人形を操ってた。……なら御しきれる数−−−つまり自身の全精力を注ぎ込んだ三体くらいならそれなりのもんは作れるだろう?」

 

 

于吉「そんなことを言って……本当は私の戦力を削ぐつもりなのではないですか?」

 

 

烈矢「信じようが信じまいがお前の勝手だ……だが、いいのか?すでに先の戦闘で俺にどれだけ大群をぶつけようと無駄だということは分かっているだろう?ならどちらにしろお前の取るべき選択は一つだろう?俺はただ−−−『面白い喧嘩』が出来ればそれでいいんだ。それに−−−」

 

 

そこで烈矢は先ほどまでの楽しそうな口調から一変すると鋭い眼光を于吉に向け−−−

 

 

 

 

 

烈矢「季衣と流琉の村を襲ったんだ。そんなふざけた真似する糞野郎には完膚なきまでに体も心もぶっ壊さねぇと気が済まねぇだろ?」

 

 

 

 

本当の理由を−−−怒りの言葉を口にする

 

 

-13ページ-

 

 

于吉「ふふっ……いいでしょう。ならば貴方のその自身−−−私の全力で迎え撃ちます!」

 

 

烈矢の言葉に呼応するように于吉は自身の全力を出すことを宣言する

 

 

于吉は言葉の通り、自身の全力を出すために術を解き、先ほどまで春蘭達と戦っていた人形達を元の土へと返した

 

 

元の土へと帰ったそれは于吉が天に手をかざすと同時に于吉の元へと引き寄せられ、今まで生み出されていた人形達とは明らかに異なる空気を身に纏った三つの塊を形成する

 

 

生み出されたそれらの形状は先ほどの人形達と同じ―――『人型』の形を形成しており、唯一違う点を挙げるとすればその三つの人形は各々が時代の差異を感じさせる服装だった

 

 

一人目は僧の恰好をし、異常なまでの巨大さを誇る薙刀を有した巨漢の男

 

 

二人目は刀の刃長が三尺三寸(1メートル)ほどありそうな長刀を携える優男

 

 

 

そして三人目は―――

 

 

赤羽烈矢の親友……北郷一刀と同様に二刀を構える男だった

 

 

 

烈矢「ふんっ……どいつもこいつも人形のくせに良い面構えしてんじゃねえの」

 

 

その三体の人形を見た烈矢は余裕を見せつけるように軽口を叩く

 

 

だが、同時に烈矢は気付いていた

 

 

目の前の三体の人形が先ほどまで戦っていた千の人形兵達を遥かに凌駕した殺意と存在感を発していることに

 

 

烈矢(……なるほど、これは流石に『全力』って言うだけはあるな。どいつもこつも纏ってる空気が尋常じゃねぇ。ぱっと見た感じ……一体一体の実力は春蘭や秋蘭達と同等と言ったところだろう。―――特にやべえのは真ん中の男……一刀と同じ二刀使い。こいつの殺気は特に尋常じゃねえな。戦闘スタイルは二刀で一刀に近いものがあるが、タイプで言えば兵衛に―――野生のそれに近い。こりゃ、一筋縄ではいかないな)

 

 

それに気づき、これまで以上に警戒心を高めた烈矢に対し―――三体の人形を出現させた妖術使い……于吉が口を開く

 

 

于吉「ふふふっ……この三体を前にしてまだそれだけの軽口が叩けるとはまったく感服しますよ、貴方には」

 

烈矢「……そいつはどうも」

 

 

于吉「そんな貴方に敬意を表し、今から全力を持って貴方を抹殺してあげます」

 

 

その言葉と同時に三体の人形の内の一体―――薙刀を携えた巨漢の僧兵が烈矢に向かって歩み始める

 

 

烈矢「……あん?何だよ、三体同時じゃねえのかよ?」

 

 

于吉「ええ、出来れば私もそうしたいのですが……生憎この三体に関しては私の意向に沿う行動はしてくれないのですよ」

 

 

烈矢「……どういうことだ?」

 

 

于吉「いえ、先ほどは『全力』―――と言いはしたのですが、お恥ずかしながら……今の私ではこの三体を同時に御することは出来ないのです」

 

 

烈矢「……何?」

 

 

于吉「私は『全力』を―――強力な人形を作ることに全力を注いだ。だが、その結果……強大な力を得るために肝心の制御側をおろそかにしたので、今のこの三体は個々が独立して動いてしまう―――いわば『自律型人形』なのですよ」

 

 

烈矢「『自律型人形』……ね。だが、だからといって一対一の戦闘を挑んでくる理由にはならないぜ?」

 

 

于吉「まぁ……気持ちはわかりますが、それも仕方ないでしょう。何と言ってもこの三体のベースとなった人物は全員が歴代の武人だったのですから一対一に拘るのもわからなくはないでしょう?」

 

 

烈矢「武人……なるほどな。それならそれで納得はいくが……それで俺に勝てると思ってるのか?」

 

 

 

于吉「ええ、もちろんですよ。確かに三体同時に当たれないのは痛いですが―――それを抜きにしても個としての力だけで十分に貴方に『勝てる』と思いますよ?」

 

 

烈矢「ほう……それは面白い冗談だ―――なら、その力存分に見せてもらおうか?」

 

-14ページ-

 

 

その言葉と共に烈矢もまた―――自身に向かって歩いてくる僧兵に歩み寄る

 

 

 

お互いに歩み寄り、二メートルの間合いまで近づくと両者は構えを取り戦闘準備に入る

 

 

じりじりと間合いを詰める両者

 

 

 

そしてお互いに攻撃が出来る範囲まで間合いを詰めたその時―――

 

 

 

初めに動いたのは僧兵だった

 

 

 

僧兵は自身が持つ巨大な薙刀を烈矢の頭部目掛けて勢いよく振り下ろす

 

 

高速で振り下ろされる死の刃が眼前まで迫りくると烈矢は瞬時に前進し、薙刀の柄の部分で受けることで薙刀の斬撃を防いだ―――はずだった

 

 

烈矢「……っ!?」

 

 

烈矢は僧兵の斬撃を受け切ったと確信した瞬間、自身に圧し掛かる異常なまでの重量感に苦悶の表情を浮かべ、その場に崩れるように膝をつく

 

 

烈矢(な……なんだこりゃ!?俺が押し負ける!?いくら本気じゃないとはいえこれほどまでの……こんな異常な斬撃力―――『あいつ』以外じゃ初めてだぞ!歴代の武人でこんなことが出来る僧兵と言ったら……俺は一人しか知らない!こいつは……)

 

 

そして烈矢は全身に力を込めて自身を押し潰そうとする薙刀を弾き返し、後ろに大きく飛び退いた

 

 

 

 

 

 

 

距離を取り、斬撃を防いだ右腕の痺れに忌々しく舌打ちすると烈矢は目の前の僧兵に向かって指差す

 

 

 

 

 

 

 

 

烈矢「……ようやく分かったぜ、お前の正体。今の異常なまでの怪力から繰り出される斬撃力……通常の薙刀よりも遥かに巨大な薙刀『岩融』……そして敵をその圧倒的な圧力で押し潰す剛の僧兵と言えば……俺は一人しか知らない!そうだろ?―――平安時代に主君『源義経』に仕え、守るために壮絶な最後を遂げた悲運の怪力僧―――『武蔵坊弁慶』!!」

 

 

 

 

-15ページ-

 

あとがき

 

 

 

どうも勇心です

 

 

今回はすき放題やってしまい、すいません

 

 

でも色々やってみたかったのでやっちゃいました

 

 

すいません

 

 

次回はまた烈矢の話です

 

 

それではまた次回に会いましょう

 

 

説明
勇心です

今回は色々期待を裏切ると思いますが何卒よろしくお願いします
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コメント
続き待ってます(あか)
デーモン赤ペン 様 コメントありがとうございます! 正にその御方を参考にしましたからね(笑)やっぱり「一撃」とか「拳」といったものから連想するならあの方の右に出るものはいませんね!(勇心)
侵略!?イヌ娘 様 コメントありがとうございます! その発想はなかったですね(笑)(勇心)
西湘カモメ 様 コメントありがとうございます! アドバイスを参考に書かせていただきましたが西湘カモメ 様の期待に応えられているか正直不安でしたがそう言っていただき安心しました。(勇心)
鹿島 遥 様 コメントありがとうございます! 初めましてですね!キャラが生きていると言っていただきありがとうございます!効果音に関しては自分もいまさらながら後悔しています。反省ですね…(勇心)
本郷 刃 様 コメントありがとうございます! 正直、今回はこういった展開にする予定はありませんでした。一刀や兵衛が大群を相手にしたため三回連続で大群というのも芸がないと思い急遽変更しました。期待に応えられる内容にしたいと思っているので今後もよろしくお願いします(勇心)
更新乙です。2000の兵の大半を吹き飛ばす一撃。「規格外」ここに極まれり、ですね。天に向かって拳掲げてるのみたら、世紀末の「わが生涯に(略」を思い出してしまった(デーモン赤ペン)
最後の一人は・・・ロイド・アーヴィング!?(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
前回のアドバイスを生かして頂き感謝。一刀が敵に回したくない程の実力者としては、確かに何の能力も無い人形じゃ相手になりませんな。弁慶の他に「厳流」「二天一流」の剣豪が後に控えている状況で、烈矢がどう戦うのか次回に期待大ですよ。(西湘カモメ)
小説ってキャラが生きていればいるほど面白いものだと思っているのですが中々どうして生きてますね、先が気になるのでお気に入りに登録させてもらいます。 気になる所を言うのなら爆発音などは入れない事をおすすめします。(鹿島 遥)
烈矢の戦闘スタイルは格闘戦による戦闘の天才だったんですね・・・そして、やっかいな敵の一人は『武蔵坊弁慶』とは。どんな戦いになるのか楽しみです。(本郷 刃)
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