IS学園にもう一人男を追加した 〜 80話
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投稿者SIDE

 

 

獅苑orコウ・B

「『おらぁっ!』」

 

2本の鉤爪と、2刀のククリナイフが電光石火のように交わり、ぶつかる毎に閃光が走る。

 

獅苑

「っ!」

 

踏み込んだ足をさらに強く踏み込んで、『B』の頭上に跳ね、頭部の対艦刀を振り下ろす。

 

B

[ニヤリッ]

 

だが、刀身の先にいた『B』は、避けもせず防ぎもせず、真正面から斬り付けられた・・・だが、

 

獅苑・コウ

「『・・・残像か』」

 

B

「何だよ。驚かないのかよ・・・」

 

フィードの壁に立つ本物の『B』はため息をついて、出現させた己の残像を消し去る。

 

獅苑・コウ

「『ここは、お前専用の"闘技場"って事か?』」

 

B

「おう。このフィールドの中じゃ俺は実質、無敵だ」

 

『死戔』の機動性に対抗するため、フィード全体に陽極と陰極の性質を持たせていた。機体に帯電している磁力を変化する事で、引力と反発を起こして高い機動性を発揮する。残像はその布石。

ただ、この能力の難点は、機体とフィードの操作が難しく、うまく操作が出来なければ、いちいち壁に引っ付かないといけない。

しかも、このフィードの中では『雷神』のエネルギーは永久的に補給される。

 

B

「あと、声が二重になって気持ち悪いんだが・・・」

 

獅苑・コウ

「『だったら───耳ふさいで殴られろぉ!』」

 

B

「やなこった! クソ野郎!!」

 

[ガキィンッ!]

 

獅苑・コウ

「『あっ、てめぇ! さっきは"兄弟"って言ってたくせに、"クソ野郎"だと!?』」

 

[ガキンガキンッ!!]

 

B

「クソ野郎で十分だろうがぁ!! 俺より弱いくせによ!!」

 

獅苑・コウ

「『たいした自信だな、クソ野郎っ!!』」

 

珍しく声を荒げた獅苑だが、心のどこかでこの死合を楽しんでいた。それに、今の獅苑と『コウ』のシンクロ率が高く、まるでお互いの意識が一つになっているみたいだった。

そのせいなのだろうか、高揚感を抑えきれず、つい思った事を口に強く出てしまっている。

 

獅苑・コウ

「『花天月地!!』」

 

B

「がっ───はぁああっ!! んなもん、弾き飛ばせたら意味ねぇだろうがよ!!」

 

獅苑・コウ

「『だったら、もっとデカイのぶつけてやらぁ!!』」

 

B

「試してみろよっ!」

[カチャ]

 

獅苑・コウ

「『槍雷!!』」

 

B

「ぐっ・・・」

 

ククリナイフを×印に重ね、インパクトカノンを真正面から受けきった『B』

だが、踏ん張っていた足場が崩れ始め、バランスを取れずにカノンのエネルギーを逸らすしかなかった。

 

獅苑

「『鉄槌!』」

 

B

「ぐふっ・・・!」

 

逸らした隙を狙ったカノン付きボディーブロー。意識が一瞬、吹っ飛びかけた『B』に獅苑(orコウ)はさらに追い討ちをかける。

 

獅苑・コウ

「『鉄槌!!』」

 

B

「がっ!!」

 

止めを入れられた『B』は山と化した瓦礫にその身を埋められる。

同時に、『アフタリミジン ランカン』の使用時間が過ぎ、禍々しい赤い眼光などが静まって、頭部と腰部に取り付けられた対艦刀が床の上に落ちる。

 

獅苑

「ぐぅぅ・・・」

 

膝をつき、左手で右腕の痛みと痙攣を、歯を食いしばいながら押さえつける。

 

コウ

『だ、大丈夫・・・?』

 

獅苑

「あと一発ぐらいなら・・・それより、アイツがあのまま寝ててくれればいいんだが」

 

コウ

『まぁ、それは大いに賛同するけど・・・ってか、何で僕達のところからいなくなったの?』

 

獅苑

「それを今、聞くか・・・」

 

コウ

『今。聞かなくていつ聞くの? またどっか行っちゃったら、また悲しむよ・・・僕も皆も』

 

獅苑

「・・・本音もか?」

 

コウ

『もちろん・・・ほっとくと、取り返しが付かなくなるかもよ〜』

 

楽しい感じで言う『コウ』の発言に、左手に握り拳を作った獅苑。だが、その拳をゆっくりと下ろす。

 

獅苑

「・・・そうだな」

 

コウ

『ふぅ・・・じゃ、僕に言わなくてもいいからさ、本音ちゃんには聞かれたら言うんだよ。絶対っ!』

 

獅苑

「分かった」

 

コウ

『うむっ』

 

キッパリと断言した獅苑に、『コウ』は頷きの声を上げた。これで、

 

B

「和やかになるには───」

 

獅苑

「っ!?」

 

B

「まだ早ぇぞ!!!」

 

瓦礫の山から飛び出した『B』の激号が、光の如く走り、『死戔』の両肩部装甲に帯電ククリナイフが突き刺さる。

装甲を貫通して肩から血を噴出し、そのまま力任せに押し出された獅苑は、フィードの壁に叩きつけられ、高圧電流がナイフからフィードへ、フェードからナイフへ流れる。

 

獅苑

「がぁあああ!!!」

 

B

「ギブだったら言え。これはただの感電じゃね───っ!?」

 

獅苑

「いっ──────だ、誰がぁ!!」

[ガシッ!]

 

B

(っ・・・おいおい、マジかよ。これで意識を保ってここまで力が出せんのか・・・これじゃ、まるで・・・)

 

普通ならば、体内の血液は蒸発し、内臓はコンガリ肉状態のはずだが、獅苑は記憶改ざん以外にも、人体に改良が加えられている。それに加えて『No.40』の"欠陥"が合わさって、"異常な耐久力と精神力"が、高圧電流に耐えてられるのだろう。

 

獅苑

「ぎ、ぎぎっ───!」

[ガシッ!]

 

B

(ガチもんの化け物じゃねぇか!)

「くそっ!」

 

『B』にさっきまでの死合の高揚感はすでに消えていた。恐怖を通り越した拒絶が、『B』を本能的に動かして、フィードの壁から天井まで扇状に獅苑を引きずる。

天辺に着いた時点でも、獅苑は突き刺さったナイフから手を離さず、おぞましい危険を感じ取った『B』。ナイフごと、下の瓦礫に向けて投げ飛ばす。

 

B

「ふー・・・ふー・・・まさか、ここまでの奴だったとは」

 

息を整えた『B』は、瓦礫から顔を出しているククリナイフを繋ぐ鎖を引き抜く────

 

[ガチャッ]

 

B

「っ!?」

 

ククリナイフのだと思い込んでいた鎖が、『B』の片腕に纏わりつき・・・

 

死戔

『ォォォォォォオオオオオッ!!!』

 

B

「な、何だぁ!?」

 

まず最初に目に飛び込んできたのは、瓦礫から飛び出す"黒い獅子"。全身装甲(フルスキン)に覆われた黒装甲に、逆立った毛のような背部ユニット。そして、鎖と同化した左腕に、『B』に突き出された右腕。

 

B

「ぐほっ・・・!?」

 

死戔

『・・・[フシューー・・・!]』

 

右手のカノンで『B』を吹っ飛ばした『死戔』は瓦礫から脱して、両肩に突き刺さったナイフを抜き捨てる。

 

B

(も、もろに喰らっちまった。機体は回復するが、あばらがイッちまった・・・)

「随分と、身なりが変わったな?」

 

獅苑

『・・・悪いな』

 

B

「あ?」

 

獅苑

『もう俺は、お前達と同じじゃなくなったみたいだ』

 

B

「は? お前と俺は同種だろ・・・何が、同じじゃねぇんだよ?」

 

獅苑

『・・・お前が化け物に勝てるのか?』

 

B

「つまり、その姿になったお前は俺より強いと・・・自惚れんなよ!!」

 

磁力の力でククリナイフを両手に持って『死戔』に斬りかかり、『死戔』は左腕と同化した鎖巻で防ぐ。

 

獅苑

『自惚れてないさ・・・』

 

B

「自惚れてんだろ!! それに俺の腕に纏わり付いた鎖は、ただの飾りか!?」

 

[ガキィンッ!!]

 

獅苑

『飾りじゃない・・・』

 

B

「だったら全部、口で説明してみろよ! それか、行動で証明しやがれ!!」

 

[ガキンッ!]

 

獅苑

『説明もするし、証明もする・・・現に、もうお前の片腕に一つの答えが出ている』

 

B

「あ?───!?」

 

一瞬、片腕に目を落とした『B』は、つい二度見をしてしまった・・・片腕に纏わり付いた鎖が赤く変色して、『雷神』のSEを吸い上げていた。

まるで、堅く繋がれた運命の赤い糸のようだ・・・獅苑でしか外れないけどね・・・

 

獅苑

『次に、お前が俺に勝てない訳だが・・・言っとくがお前が原因なんだぞ。あれほど刺激を与えて───』

 

B

「え?」

 

獅苑

『死戔が起きてしまったんだから・・・』

 

死戔

『オオオオオオオッッ!!!』

 

咆哮とともに、『死戔』の背後・・・正確には後両肩から"黒い狼の顔"が首を長くして飛び出し、2頭は今にでも噛み付こうとするように大口を開けた。

だが、2頭の行動は脅しで止まり、『死戔』は『赤い鎖』を振り回して、『B』は片腕から体全体を持っていかれる。

床に叩きつけられ、引きずられ、空中で回され・・・続けて数分、『赤い鎖』を振り回していた『死戔』の行動がピタリと止まり、同時に『ディストンション』のフィードの磁場が消えていった。

『赤い鎖』から吸い取られるSEを、『雷神』が吸収した磁場で補え切れず、フィード自体の制御が出来なくなってしまったのだろう。

 

B

[バタッ]

 

獅苑

『説明も証明もしたろ。ほかに何か・・・って、その状態じゃ無理か』

 

B

「ま、待てよ・・・」

 

半壊の機体をぶらさげて、立ち上がる。体はふらふらだが、その割りに眼光の鋭さは衰えてはいない。

 

獅苑

『・・・まだ、動けるのか?』

 

B

「ったりめぇだ・・・やっぱ、自惚れてんじゃねぇか。俺はそんな、柔じゃ、ねぇ・・・情けかけてんじゃねぇぞ!」

 

獅苑

『・・・そうだな。徹底的にやらないと、俺もお前自身も納得しないか』

[ジャリッ]

 

B

「っ!」

 

獅苑

(なら、希望通りにしてやる・・・死戔もそう言ってるしな)

[グイッ!]

 

左腕をめい一杯に後ろへ回し、『B』は勢い余って空に浮いて引き寄せられる。だが、負けじとその反動を利用して、雷撃を纏った拳を構える『B』。

その姿勢を見た獅苑は、装甲の中で笑みを浮かべ、右手をかざす・・・

 

【インパクトカノン 200%】

 

獅苑

『同心戮力(どうしんりくりょく)───』

 

B

「おらぁぁぁ!!!」

 

死戔

『オオオオオオオッッ!!!』

 

獅苑

『───ブレイク』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【同時間・・・】

[・・・っ]

 

本音

[ピクッ]

 

ラウラ

「もうじき出口d・・・どうした?」

 

本音

「・・・ん〜〜?」

[スタスタスタスタ]

 

ラウラ

「お、おい! どこに───

 

『B-4からC-2まで"消滅"。防衛システムを起動します』

 

動力炉が破壊され、崩壊まじかの基地内にアナウンスが流れ、本音とラウラの間に隔壁が降りる。

 

ラウラ

「ちっ、防衛システムも完全にころしておけばよかった。別のルートを探すしかない、か・・・時間がないっていう時に」

(それにしても、消滅とは何だ? 本音はそれに反応したのか? 私は何も感じなかったが・・・)

 

その時、"下層からある反応を察知した"と『シュヴァルツェア・レーゲン』からウィンドウで知らされる・・・その反応は───

 

ラウラ

「っ!? 急がないとっ!!」

 

"核"反応・・・・・・地球に優しい?"核"反応・・・

 

 

 

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獅苑

「腕、いてぇ・・・」

 

全身装甲だった『死戔』は通常の第二形態へと戻っていて、『B』にやられた傷は痛みは残っているが跡は消えていた。

 

[ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!]

 

獅苑

「揺れが激しくなっているな・・・こりゃ、早く出ないと」

 

獅苑は操縦席から降りて、鎮座している『死戔』を撫でる。すると、眠気を訴えている『コウ』があくび交じりで・・・

 

コウ

『ふぁああぁ・・・ねむ・・・』

 

獅苑

「おつかれ。もう寝てていいぞ・・・死戔もな」

 

コウ

『うん・・・そう、す・・・る・・・』

 

死戔

[ウーーン・・・]

 

機能を完全に停止させた『死戔』は待機状態に戻る。

 

ラン

「く〜」

 

獅苑

「おっ、よしよs・・・何で、ボールを咥えてんの?」

 

抱き上げたランの口にテニスボールが咥えられていた。遊び道具と思って取ってきたのだろうか・・・だが、獅苑は何やら別の予感を感じ取り、咥えていたテニスボールを確認する。

良く見れば、ボールの皮がめくれていて、ビリッと剥がすと・・・

 

[ピッ・・・ピッ・・・](5分前)

 

獅苑

「・・・」

 

静かにボールを床に置く・・・

 

獅苑

「行くぞ〜」

 

ラン

「ワンッ」

 

ロン

[ジーーー]

 

ルン

「zzz・・・」

 

いつの間にか、頭の上でスヤスヤと寝ている『ルン』・・・は、さておき、テニスボール(とても優しい核爆弾?)を置いた獅苑達は少し・・・かなり大きなトンネルをくぐり、荒れた通路を通って出口に向かった・・・

 

 

 

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山田

「―――よし、終わり」

 

小型フェリーの甲板。『砦(フォート)』基地からかなり離れた位置で、気絶した箒を介抱している山田。その隣では様子を眺めているレーアと、海風で壊れないよう気安めであるが、飛ばされないように大きな布を被されている大量のゲーム・・・あと、寝てるユウキ。

 

レーア

「いや〜、"クリヤ"と会えて良かったぁ。あのままだったら、基地と一緒に吹き飛ぶところだったよ」

 

山田(クリヤ

「それはこっちの台詞だよ・・・でも、相変わらずの方向音痴でちょっとホッとした」

 

レーア

「うぐっ・・・家近くのお店には行けるようになったもん」

 

山田(クリヤ

「そ、そうなんだ・・・」

(遅すぎ・・・)

 

レーア

「でも本当、クリヤが居てくれて助かったぁ〜」

 

山田(クリヤ

「う、うん・・・」

 

レーア

「・・・」

 

山田(クリヤ

「・・・」

 

ユウキ

「zzz・・・」

 

レーア

「・・・」

 

山田(クリヤ

「・・・聞かないんですね」

 

レーア

「ん?」

 

山田(クリヤ

「僕が、ここにいる理由・・・」

 

レーア

「別に聞いてもいいけど・・・興味ないし」

 

山田(クリヤ

「きょ、興味が、ない・・・[ドヨ〜ン]」

 

レーア

「どうせ、あなた事だから、また面倒な事に巻き込まれたんでしょ。私の弟は"貧乏クジばっか引いても、なんやかんやで乗り越える優しい弟"だもの」

 

山田(クリヤ

「お姉ちゃん・・・」

 

レーア

「だから、別に詳しく話す必要ないわよ。元々、テロリストになれる性分じゃないでしょ?」

 

山田(クリヤ

「あ、あはは・・・褒め言葉として受け取るよ」

 

レーア

「まっ、頑張んなさいよ。無理して倒れないほどに、ね・・・」

 

そう言って、ISを展開して介抱された箒を抱きかかえるレーア。

 

レーア

「あと、たまには私とジュンに顔くらい出しなさい。顔には出さないけど、ジュンだって心配してるんだから」

 

山田(クリヤ

「うん・・・そうだね。ジュンには"ごめん"って言っておいて」

 

レーア

「そんな事、本人前にして言いなさいよ。じゃあね」

 

 

 

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マドカ

「うっ・・・ここは?」

 

マドカが目覚めた場所は基地から少し離れた小島。

 

イーリス

「起きたか?」

 

マドカ

「き、貴様、何故ここに!?」

 

イーリス

「あ〜、動くなよ。動いたら撃つぞー」

 

マドカ

「っ・・・チッ」

 

イーリスが持つピストルの銃口はマドカに向けられていないが、ダルそうにしている表情の裏でマドカの行動にギラギラと眼を光らせているイーリス。

 

マドカ

「・・・何故、私を助けた」

 

イーリス

「誰もおめぇなんか助けたくなかったよ・・・ただ、まぁ・・・『ブリュンヒルデ』の頼みだったからな」

 

マドカ

「何を言っている? 姉さ・・・あの人が何故、見ず知らずの私を助ける」

 

イーリス

「知るか」

 

マドカ

「ならば、あの人はどこだ?」

 

イーリス

「水を汲みに行ってる・・・といっても、海水だがな。つか、見れば見るほど、『ブリュンヒルデ』にそっくりだな」

 

マドカ

「っ・・・」

 

"そっくり"という言葉に反応して、マドカはイーリスから顔を逸らす。

 

イーリス

「・・・んじゃ、私の仕事も終わって、基地遭難者も軍人小娘が見つけてくれたみたいだから、帰るわ・・・あっ、イギリスの『サイレント・ゼフィルス』は回収させてもらったからな」

 

マドカ

「ま、待て! 何で私を見逃す!?」

 

イーリス

「そんなもん、どうでもいいからに決まってんだろ・・・あ〜あと、あの基地、そろそろ吹き飛びそうだから、さっさと離れろよ。んじゃな」

 

マドカ

「お、おい!・・・ア、アイツは馬鹿なのか?」

 

しかも、足に忍ばせているナイフも手を付けず、マドカに対して動きを封じる拘束すらしていない。

 

千冬

「そうかもな・・・だが、私はああいう奴は嫌いじゃない」

 

マドカ

「っ!?・・・織斑、千冬・・・」

 

千冬

「おいおい、随分と他人行儀だな・・・本人の前じゃ"姉さん"とは呼べないか?」

 

マドカ

「何故、呼ばなければならない・・・他人の目から見たら、私とあなたは姉妹だが、実際は"別物"だ」

 

千冬

「"別物"、か・・・お前達の事は、つい最近知ったばかりだが、どうも私達姉弟を気に食わないらしいと聞いたのが?」

 

マドカ

「それなら話が早い・・・ここで死んでもらう」

 

忍ばしたナイフを抜き、先を千冬に向ける。

 

千冬

「で・・・その後は?」

 

マドカ

「なに?」

 

千冬

「お前はそれで"変われる"と思っているようだったら、勘違いするなよ・・・所詮、お前がしている事は、人徳から脱している」

 

マドカ

「そ、そんな事、最初から・・・

 

千冬

「それを知っても尚、お前はその手を汚す気かっ!!」

 

マドカ

「っ・・・」

 

千冬

「私は一夏のように甘くないつもりだが、これだけは言わしてもらう。お前が私や一夏に危害を加えようと、その先に待っているものなんかない。死ぬまでな」

 

マドカ

「なら、私が今の今までやってきた事・・・生きてきた事は全ては無意味だったというのか!? それじゃ、私の存在理由なんてっ」

 

千冬

「存在理由は最初からあるものではない。人から人へ、人から物へ、物から人へ・・・与えられるものだ」

 

マドカ

「なら、あなたの存在理由は何だ!? 誰に与えられたんだ!?」

 

千冬

「私は一夏の生涯を見届けるためにいる。私の存在理由は一夏に与えられた・・・いや、ある意味、両親が私達を捨てたからこうなったのかもしれん・・・さて、お前は、"今の存在(テロリスト)"のままでいいのか?」

 

マドカ

「わ、私は・・・」

 

先を向けていたナイフが、俯くマドカの握る力が弱まって地面に落ちる。

マドカは、テロリストとしての自分を認めていない。だからこそ、織斑姉弟の存在が邪魔だと感じ、殺意の矛先を向けていたのに、結局はマドカ自身がやろうとしているのは、"犯罪者=テロリスト"と変わりない。

もしかしたら、この事にマドカは気づいていたかもしれない・・・ただ嫌だった。自分に何も出来ないことが・・・

 

マドカ

[ガクンッ]

 

脱力で膝を付くマドカ。

ないものを模索し、作り上げた"殺"。その基盤は不安定で緩く、そして壊れやすい・・・マドカは"改めて"、自分が最初から空っぽだという事に気づく。

そんなマドカに、千冬は濡れタオルを投げ渡し、背中を向けて・・・

 

千冬

「賭けてみないか―――?」

 

マドカ

「・・・は?」

 

千冬

「お前の未来に・・・私も出来る範囲の事は手伝ってやるさ。なに、厄介者が一人増えたところで変わらないからな。ハッハッハッ」

 

マドカ

「な、何を笑って・・・」

 

千冬

「分からん・・・分からないが、笑いが込み上げてきてな。ハッハッハッ」

 

マドカ

(・・・このっ)

 

笑みを浮かべた千冬の背後に気配を消して近づくマドカ。地面に落としたナイフを拾い、鋭利な先を千冬の背に切り付けるように振り下ろす。

だが、この行動は作り出された"殺"ではなく・・・

 

[シュッ]

 

千冬

「おっと・・・おいおい、そんなに戯れ付くな。ハッハッハッ」

 

マドカ

「うるさい!! その"小馬鹿にしたような笑い声"を止めろっ///!!」

 

 

 

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[ザザァ・・・ザザァ・・・]

 

スコール

「・・・はぁ」

 

細波の音に意識を呼び戻されたスコール。海の表面にプカーと浮いていたスコールは、近くの盛り上がる岩まで流され、海水を含んだ服の重さに負けず、岩場に這い上がる。

 

オータム

「よぉ、起きたか?」

 

その上空で、ずぶ濡れのスコールを見下すようにオータムがISを展開して佇んでいた。

 

スコール

「人が悪いわね・・・そこにいるなら、助けてくれてもいいのに」

 

オータム

「勝手に死のうとしていた奴の台詞じゃないな・・・私はお前の"仇討ち"に人生を懸けて協力してきた。だけど・・・頼むから、勝手にいなくなるのは、やめろ・・・残された奴の事も考えてくれ」

 

顔を伏せるオータムの頬から落ちた涙が、見上げるスコールの目の下に流れる。

 

オータム

「はっ・・・こんなの私らしくないな・・・」

 

スコール

「オータム・・・」

 

 

 

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B

「うっ・・・えっ?」

 

目を開けた『B』は、今見える景色に驚く。『死戔』の一撃を喰らったはずの『B』が、何故か雲の上を飛行していた・・・いや、おぶられて運ばれていた。

 

W

「おは〜」

 

B

「お、おは〜・・・って、お前、言葉・・・」

 

W

「ISを展開してるだけだけど、ね」

 

テヘッと笑う『W』に新鮮さを感じ、戸惑いながらも今の状況を聞きだす『B』。

『死戔』が貯蔵する全てのエネルギーは、確実に『B』の『雷神』を貫いていた。だが、極限に圧縮されたエネルギー物質は機体の装甲だけを貫いて、人体に外傷はなかった。

それでも、最大出力の攻撃に絶対防御では相殺しきれない強大な衝撃が『B』を襲い、今の今まで気絶していたのだ。

 

B

「つまり、俺はジジィの作った"コイツ"に助けられたって訳か・・・」

 

『雷神』の待機状態である金貨を『W』の首に回している片手で弄ぶ。

で、その後は気絶していたところを『W』に回収されて、今の状況に至る。

 

B

「そんでさぁ、気になる事があんだが・・・」

 

W

「?」

 

B

「そのデカイたんこぶ、どした?」

 

 

 

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一夏

「くそっ! 一体、どこに出口があるんだ!?」

 

所々が隔壁に阻まれ、行き止まりに詰まり、一夏のイライラは沸騰寸前。

 

一夏

「次はどっちだ!? 右か!?」

 

楯無

「左、よ・・・」

 

一夏

「左か!って、起きたんですか!?」

 

楯無

「何よ・・・悪い?」

 

一夏

「い、いや、このタイミングに起きたので、都合の良さに驚いてて・・・」

 

楯無

「何それ。あっ、次は左ね」

 

一夏

「あ、はい・・・って、楯無さんは出口が分かるんですか?」

 

楯無

「お姉さんの勘よ♪」

 

一夏

「そ、そうですか・・・」

(まぁ、俺の勘よりは当てがあたるかな・・・)

 

楯無

(さようなら。もう二度と会う事はないと思うけど・・・"次に会える日を楽しみにしてるわね、獅苑君"・・・)

 

 

 

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獅苑SIDE

 

 

獅苑

(ちょっとやばいな)

 

ロン

「?」

 

獅苑

「ここはどこだ?」

 

やべっ、デジャブ・・・いや、あの時は"ここはどこだ"の後に"?"が付いていなかったから、デジャブじゃ・・・

 

ロン

「・・・」

 

[ピ・・・ピ・・・]←フェミニスト核爆弾

 

やっぱりデジャブじゃない・・・だって、こんな危ない所に、こんな危険物があるんだから・・・ってか

 

獅苑

「何故、持ってきた?」

 

ロン

「・・・?」

 

首傾げんな・・・可愛いじゃないか。

 

獅苑

「置け」

 

ロン

「・・・」

 

獅苑

「置けっ」

 

ロン

[ブンブンブンッ!]

 

えぇ〜〜・・・なんちゅうもんにハマッてしまったんだ、お前は・・・まぁ、こいつがあれば───

 

獅苑

「・・・ビーフジャーキー」

 

ロン

[ピクッ]

 

懐から取り出したブツに反応して、ちらつかせる。

すると、咥えていたボールがポロッと落ちて、目の前にブツを置くと、その空いた口にビーフジャーキーを噛み始め、落ち着ける場所まで走り去っていった。

 

獅苑

(なんかこう・・・緊張感がないよな。一応、かなり危険な状況なんだけど・・・)

 

ほか二匹もいつの間にかどっかに消えてるし・・・と、思いながら、ロンが落としたボールを拾い上げる。その瞬間・・・

 

[ビュンッ!!・・・カーンッ]

 

物質が風切り音とともに、背後からから俺を追い越して通過した。

 

獅苑

「・・・」

 

どうやら、危険なのは状況だけじゃなく、俺自身もかなりデンジャラスな立場になっているようだ。

頬ギリギリを通過した銀色の棒状・・・向こう側で響く金属音・・・背後から本人に似合わない黒いオーラ・・・

 

本音

「ギッリ〜!!」

 

獅苑

「ぐふっ!?」

 

スパナで殴られるかと思い、振り向き様にバックステップしたが、まさかの腹部に頭突き。しかも、大分助走つけて突っ込んできたな・・・

 

獅苑

「ぐっ・・・!」

 

本音

「あれ〜? これくらいなら、倒れないと思ったんだけどぉ」

 

この笑みは読み違いの誤魔化し笑いなのか、確信犯の笑みなのか?

ってか、俺だって疲れてんだ。2機のISを持っているとはいえ、1機は機能停止。もう1機はラン、ルン、ロンの気分が乗らないと展開できない・・・"暴走"すれば話は別だが・・・

記憶が戻る前の織斑先生と戦闘、その後の暴走の疲労、楯無さんと姉さんの制裁、戦闘狂『B』に傷つけられた痛みに戦闘後の目眩。

それで、何故かここにいる本音との絡み・・・ってか、皆は何故ここに集まってきたのだろうか?・・・あっ、テロリストの基地だからか。

 

本音

「ん〜〜?」

 

いやいやいやいや、それでも本音がいるのはおかしい・・・って言ったら、織斑姉弟もだけどさ。さすがに従者までも戦場に連れ出すなんて、楯無さんはしないと思うし、織斑姉弟に限っては夫婦旅行ならぬ姉弟旅行にしては、場違いだろ・・・

 

本音

「ほらぁ、帰るよ〜」

 

思考を巡らせていた俺の襟首を掴み、俺を引きずる形で本音が当てもなく、歩き始める。

この時、俺が何故、ここにいるのかを聞かないのは、気を使っているのか、端から興味がないのか・・・その代わりに、何かを恐れてて慌てているようにも見える。

 

獅苑

「い、いや、俺は───

 

本音

「あー! あー! 聞こえなーい!」

 

獅苑

「本音・・・」

 

襟首を掴む手に力が込められる・・・二度と離さないという意味なのだろうか。

だけども、今の自分は"前の自分"と"本来の自分"の記憶が合わさった"不安定なポジション"にいる。それゆえ、俺は元の生活に戻ることが出来ない。

"テロリストの自分が本音達の傍に居てはいけない"とかそんな自分よがりな考えではない。いずれ全国の政府は俺達、クローンの存在に気づく。俺もお偉いさんの思う事は分からないが、面倒事になるのは間違いない。

ただでさえ、他国から俺と一夏の誘いを学園の特記事項を盾にして断り続け、ピリピリした関係が続いているのだ。そこに"犯罪者を匿っている学園"などと理由をつけられて実力行使になられたら、俺も皆も学園も国もただでは済まない。

イギリスやドイツは、マドカやリリヤを自国に影響を与えていて拘束する口実があり、より被験体を欲しがる。その抑圧に他国はさらに圧力を増す。

そうなれば、学園か国は事が大きくなる前に俺の身柄を明け渡すか、社会から遮断して俺を閉じ込めておくだろう。それが正しい判断なのだから。

 

本音

「っ!?・・・しおん、くん・・・」

 

だから、俺はこの手を振りほどかなければならない・・・何故って? 俺は面倒事が嫌いなんだ。

 

獅苑

「・・・餞別だ」

 

本音の目を見ないように、手首につけた"黒のブレスレット"の逆手首にはめた"もう一つのブレスレット"を投げ渡す。

そのブレスレットは、ゴツゴツした水色の小石に、それを挟むように3つの赤い勾玉が繋がれたパワーストーンのような物だった。

 

獅苑

「さよなら・・・」

 

本音

「ぁ・・・」

 

俺が歩き出す方向に出口はあるのか・・・知らない。ただ分かっている事は、本音は追ってこない事だけだ。

 

獅苑

(ここまで俺の我侭に付き合ってくれてありがとう・・・結局、最後まで俺の我侭で振り回せてしまった・・・)

 

しかも理由が"面倒事が嫌"・・・だからな。

 

獅苑

(だが、もう二度と泣かせたりしない。俺の株が下がろうが、言っている事が矛盾してようが・・・俺のやり方で!)

 

───俺がもっとも直面したくない"面倒事"を回避するために。

 

 

 

-10ページ-

ラウラ

「見つけたぞ! さっさとここから・・・どうした?」

 

本音

「ラビちゃん・・・大変、だよね」

 

ラウラ

「は?」

 

本音

「獅苑くんの相手って、大変だね♪」

 

顔を上げた本音の笑みは、苦し紛れの笑みでも、涙を誤魔化す笑みでもない・・・太陽のように明るく、目の奥が熱く燃えていた。

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