STAY HEROES!  第五話
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少し間が空いてしまったね。続きはどこからだったかな。

ああ、あの四人がそろったところだった。

さてさて、たった四名のメンバーが揃い、活動を始めたプラネットスターズだけども、まだ欠けているピースがあった。そう、教官と征正の機装だね。

前途多難なプラネットスターズ。

そんな彼らを待ち受けているのは、運命のカギを握るリーグ開幕戦と、遠州市に渦巻く陰謀。

二つの逆境を前にして、若きヒーロー達はどんな突破口を開くのだろう?

 

 

 

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     第二章 嵐を呼ぶ教官

 

 

 

 

 

三月中旬のとある日。

春一番の風が、天来高校の校庭に吹き抜ける。

そんな校庭で、ファントムコメットが重い足取りでグラウンドをぐるぐる走っていた。

雰囲気ぶちこわしやが。

 

「走れ走れー あと二周だー ふぁいとー」

 

ボール紙のメガホンを持った鳴浜が、顎を上げてへばるファントムを焚きつけている。

あれはパワードスーツ駆動の基本、脳伝達を習得するための訓練だ。

機装を、神経ではなく筋肉で動かそうとするからあのように疲労してしまう。

パワードスーツを動かす要点は、筋力よりも神経の反応と感覚にある。

こればかりは訓練しないと物にならない。

由常はもうしばらく動力をギリギリまで落としたファントムと格闘しなきゃならんだろう。

 

「レンジャー有資格者をっ、なめんじゃっ、ねえぞっ!」

 

「今の少尉殿は『機兵』なんだからさ。歩兵の意地なんて捨てちゃえば?」

 

「レッ、レンジャーアアアアアアアアア!」

 

「あーもうダメだこりゃ壊れた」

 

二人がしょーもない掛け合いをやってるのを、作業がてらに格納庫内から見ていた僕は、小さく嘆息をつく。

 

「疲れたのなら休憩にしますか?」

 

エリスを使い、ガルダの演算機へ電子地図を入力していた櫛江さんが提案してきた。

 

「大丈夫、疲れたわけじゃないよ。ただ、新機装と教官はいつ来るんだろうって考えると不安でさ」

 

そう言うと、櫛江さんの笑顔が引きつり、口角に年不相応な縦しわが寄る。

 

「し、心配ご無用ですよ! きっと教官にも考えあっての行動なんです!」

 

だといいのだけれど。

相変わらず、教官からは何の便りもないままだ。なにしてんだろう。

こういう時に前時代の電子メールがあれば便利なんだろうなあ。

宇宙核機雷が撒き散らすパルスのせいで、

電子演算機も壊れてしまう今じゃそんな願い事は叶いっこない。

 

『フフ、私の電子頭脳は核パルスも寄せ付けませんよミスターアガタ』

 

「あのねエリス。いい加減僕の心を見透かすのやめてくれんか?」

 

 

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「シンダカナー」「イヤー コイツ ハ シブトイゾー」

 

機装を着けたまま長椅子にぶっ倒れている由常を、トイポッズのアーミー達が度胸試しに突いている。

天来高校の格納庫内ではこれが見慣れた光景になりつつある。

もう数分すれば、カラ元気の由常がアーミーを追いかけ回し始めるに違いない。

 

「ガルダの調子はどうだい。といってもガルダにさほどいじる所は無いかな。ただこのままレース競技に出るのは規則違反だからデチューンは必要だけれど」

 

「おっけーおっけーばっちぐー」

 

ガルダは親指を立てて腰を捻り、セクシーなつもりなんだろうポーズをとる。

ほんとに人の話を聞いてるのだろうかこの子は。

たまにゆきまさお兄さんは不安になるぞ。

その時だった。格納庫の鉄扉に控えめなノック音が響いた。

 

「は、はいっ、どうぞ?」

 

櫛江さんが少し怖気ながら返事をすると、

隙間の開いた扉から、するりと陸軍軍人が入り込んできた。

いかにも軍政畑のエリートだというような、爽やかな顔つきの青年将校だった。

おお。もしかしてこの人が教官だろうか?

やっと僕にも機装が割り当てられるのか、長かったな……

 

「これはこれは皆さん、お揃いで」

 

が、僕はすぐに期待が外れたことに気付く。

彼の帽子には民兵隊の徽章が着いていた。

カーキ色の軍服には様々な勲章と銀色の副官モールが飾られている。

僕は彼へぎこちない敬礼を向けた。

 

「うおー! かっけーそのくんしょ……ガッ」

 

櫛江さんは笑顔のまま、無礼なガルダの襟首を掴んで頭を無理やり下げさせた。

時たま彼女は容赦ない。

 

「どうされましたか、町谷大尉」

 

「櫛江女史、御久し振りでございます」

 

 

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「てんめーこのやろー今日という今日は許さねえ」

 

「ギャー!」「バーカバーカ!」

 

哀れにも『首だけ由常』に捕まったアーミーが両手の中で抵抗を試みている。

客前での醜態に冷や汗をかきながら、櫛江さんは由常を諌めた。

 

「えーと、そこらへんにしておいてください吉岡隊員」

 

「ふっはっは。お元気そうですなあ」

 

「いやー、すいませんね変な奴でして」

 

「ガルダが言うかそれを」

 

隣に座ってヘラヘラ笑うガルダを僕はメガネレンチで小突いた。

町谷副官は櫛江さんに向き合って頭を下げる。

 

「この前は我が民兵隊を救出して頂き非常に感謝しております、今は亡き櫛江大佐のお子さんに助けられたとあって、兵士達もそれはもう、とても恩義を感じておるようでして」

 

「……いえいえ。それより今日はどういったご用件でしょうか?」

 

「ああそうでした。実は皆さんに見てもらいたいものがありましてね」

 

朗らかな顔を引き締めて、町谷副官は鞄の中から古めかしいホログラムレコードを取り出した。

 

「トリポッドさん、これを再生してもらえますか? さて。皆さんへ言っておきますが、これは新聞やラジオ局には知らされていない事件です。あと気分を害されることに注意してくださいね。胸糞悪い内容ですので」

 

『諒解しました、キャプテンマチヤ。再生します』

 

意外に思える暴言を町谷副官が吐いてから、エリスはレコードを再生しだす。

空中に投影されたさざ波立つホログラムに、人影が映る。誰だろうか。

いや、これは……

サイボーグの影だった。

 

 

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「生存闘争の脱落者たる遠州市当局に告げる。彼らは我々『サイボット』が捕縛した」

 

薄暗い部屋の中、サイボットの旗を背にして、三体のサイボットが胸を反らせて立っている。

その前には猿轡を嵌められ、目隠しをされている十何人もの兵士達が膝を突いて俯いていた。

僕は青ざめた。これは奴らの常とう手段、誘拐だ。

 

「我々は、遠州市のインフラの無償譲渡と市議会の永久解散を願うものであり、それ以上の事は望まない。我々の要求が三日以内に呑めないのならば、彼らは極刑に課せられるであろう」

 

真ん中のサイボーグが発した言葉に、空軍兵の一人が反応してうめく。

が、他の一体が彼を銃床で殴り付けてむりやり黙らせる。

なんてことだ……

 

「さらに刃向かおうものなら、その罰は遠州市の市民や愚鈍な遠州教育隊にも齎されるものである。我々は遠州市内に多数の戦車を隠匿してある! 自己責任を負え『ひゃい』、ない! 人類に未来は無いのだ!」

 

別な意味で青ざめた。

噛みやがった。ドン引きやわ。

最後にゴリ押しで勢いよく右手を振り上げて、真ん中のサイボーグは叫ぶ。

 

「宇宙に再び飛び立『ちゅ』のが人類の使命である! 遠『ちゅう』市民の友好的行動に期待する! 人類に新しき自由を! 宇宙に光を!」

 

こんなもん送り付けてくんなや。てかなんでこんな奴に原稿読ませた。

町谷副官は困った顔で一同へ向き直った。

 

 

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「どうでしょうか、ご感想は」

 

「糞ですね。メタ糞です」

 

何時の間にか近くに突っ立っていた由常が、眉間に深い溝を刻みながらストレートど真ん中なご感想を吐く。

 

「もちろん遠州人民として要求は呑めませぬ。断固戦わなくては」

 

櫛江さんが怪訝そうな表情で首をかしげた。

 

「戦車の隠匿? まさか」

 

「察しがよろしいようで。恐らく一週間前の駅襲撃事件の際に持ち込んだものと思われます。駅集積倉庫にあった所有者不明のコンテナから、何かが運び出された跡があるのです」

 

「つまり駅に攻めてきたあのボロいサイボーグ達は、囮だったって訳ですか。……やれやれだぜ」

 

ガルダは腰をぷるぷる浮かすと、背中を反らせてエリスを右手で指差す。

その推測は鋭いけれども、正直お前そのポーズ取りたいだけちゃうか。

 

「私が伺ったのは他でもありませぬ。この件に関して貴隊の協力を仰ぎたいのです。陸軍民兵と空軍の合同作戦で、捕まった兵士達の救出を行うのですよ」

 

と言って、彼は書類を櫛江さんに手渡す。

それに目を通した櫛江さんは飛び上がった。

 

「救出作戦決行は明日ですって!?」

 

「ええ、一刻の猶予もありませぬ。人質の命が懸っておるのです」

 

協力を仰ぐ、と町谷副官は言ったがこれはほぼ命令に近かった。

教官がいないため、僕らは『要請』にあらがえないのだ。

また僕だけ生身か……

言い表せない苛々が溜まる。

そういえば、こっちに来てからパワードスーツを動かしていない。

僕も試合に出なきゃならないってのに。ああ、早く自分の機装を着装したいもんだ。

僕もファントムコメットやガルダアルカイドの、あのパワーを思い通りに動かしてみたかった。

 

「では私はこれで。偉大なる兄弟があなた方を見守られんことを」

 

浮足立つ僕らに不思議な言葉を言い残して、町谷副官は立ち上がり、格納庫の外へと去っていった。

 

説明
登場人物がおちゃらけてきたSF小説、第二章の五話となります。
まだ一話をお読みで無い方はこちらへ→(http://www.tinami.com/view/441158)
挿絵はベタ塗り。

天来高校の制服デザインが色々変わっておりますが気にとめないでください!
設定画を色々準備しておりますがまだ時間がかかりそうです。

http://www.tinami.com/view/483684←前 
 次→ http://www.tinami.com/view/490663

なぜか次作の訂正してなかったよ…とほほ
投稿一覧 http://www.tinami.com/search/list?prof_id=40636
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