魔法少女と呼ばれて 第6話 『変身』 |
―変身―
「この私の真の姿を目に出来た事を光栄に思いなさい」エターナルは中島を睥睨すると居丈高に告げる。「さあ…絆さん…。共に行きましょうか…」魔女エターナルがさらりと衣擦れの音をさせ絆に歩み寄る。「待…ちなさい…」苦痛に呻きながら中島が立ち上がっていた。
「このまま絆さんを連れて行くなど…私が許しません」立ち上がった物の中島は今にも崩れ落ちそうな雰囲気だ。それでも彼女は気丈にもエターナルに挑む。「愚かな事ね…折角見逃してあげようと思っていたのに、私に盾突くと言うの?」エターナルの目がついと細まる。
「私達が…教師が生徒を守って何が悪いと言うのです!」「見上げた覚悟ですこと…。でも、その責任感で生徒達から疎まれるのでは甲斐がないわね」エターナルが嘲笑う。「私は…ただ生徒に好かれる為の教師になった訳ではありません!」
生徒に好かれた偽りの教師と生徒に疎まれた真実の教師が睨み合う。「面倒な…。関係者が二人も消えるのは怪しまれると思っていましたが…もう良いです。貴女には消えて貰いますよ。中島先生」エターナルが右手の長い杖をクルリと一振りし先端を中島に向けた。
「起きて! そして逃げなさい、絆さん!」中島が捨て身でエターナルに飛び掛ろうとした、その時―――! 「もう良い…無理すんな…先生よぅ…」少女の声が二人の間に割り込んだ。「つまり…テメエが俺の敵だって事だな…」ベッドから掠れた声が立ち上がる。
「絆さん…」中島がその少女の名を呼んだ。ベッドから降り立った絆の足元はふら付いている。しかし獲物に襲い掛からんとする猛禽の鋭い瞳から力は失われていない。その瞳がエターナルを睨め付ける。「気付いていた!? でも術式の効果はまだ―――」
「そんなモンは関係ねぇ!」エターナルの驚愕を絆が一蹴する。「根性論で…これだから脳筋は…」エターナルが軽く眉を顰めた。「それよりも…答えろ」深く怒りを込めた絆がエターナルを指差し問う。「騙したのか…お前を信じていたのに…」
目を覚ました時、中島とエターナルが言い合うのを絆は聞いていた。孤独の世界の中で何時も優しく助けてくれた千歳…。「今まで俺を騙していたのかッ!?」それが…今、姿を変えた異形として目の前に立ちはだかっている。挙句、魔術が結社がと眉唾な事を言い出した。
「騙したなんてとんでもない誤解だわ。私は本当に貴女の才能を評価しているのよ」エターナルは悲しい顔で絆を諭すように声を掛けた。「貴女が暮らす施設に…学校に…そこには本当に居場所はあるの?」「…」思う所がある絆はその声を黙って聞いていた。
「天涯孤独の鼻摘み者…そう蔑まれて生きてきたのでしょう? 貴女の価値を認めない愚暗な社会…。そんな貴女に私達なら居場所を約束できる…。素質を持つ貴女の真の価値を理解し共に歩める私達なら―――!」
(搦め手で来たか!)情に訴えて絆を篭絡しようとする魔女の誘惑に気付いた中島が慌てて口を挟む、「絆さん!その女の言う事を真に受けては駄目!」だが絆は中島の言葉を聴いてはいなかった。絆は只、エターナルの声に耳を傾けていた。そして気付く―――。
(流石は適合者…と言うべきかしら)(貴女は生まれ変わる…最強の"魔女"に)
改造手術の中聞こえた声はエターナルの…教師千歳だった者が発する声と同じであったと言う事に。「テメエか…テメエだったのか―――!」絆が怒りに吠える。
「血を肉を臓腑(はらわた)を抜き取り、得体の知れない物に中身を入れ換えられた人外の身体…俺をそんな風にしたのは誰だ!? お前達だ! 俺は許さない!」絆の怒りは治まらない。今にもエターナルに飛び掛りそうな雰囲気だ。魔女が本性を現し冷たく嗤う。
「私に歯向かう気? 触媒(魔導杖)も無ければ、使い魔(ファミリア)さえ持たない、なりそこないの魔女風情の貴女が?」
「俺は魔女にはならない! 人の身体を弄ぶ貴様等と同じ魔女には! 武器なんか無くても、俺はこの憎悪を拳に闘ってやる!」
怒りが…己の身を弄び得体の知れない何かに変えた者達への憎悪が底知れぬ力となって胸から溢れ出す。命の証(心臓)に換わって絆の胸に埋められた魔女の力の源、魔女の心臓(ソルシエル・クリスタル)が燃焼し炎となって絆の身体を覆う。
絆が生まれ持った四大元素は炎。湧き上がる怒りと憎悪が炎を加速し更に激しく燃え上がる。「うおおおおおおおぉぉぉッ! 変身ッ!」絆は千歳がエターナルに変化した際に見せたポーズを真似た。絆の周囲を炎で描かれた魔術文字がリングとなって幾重にも覆う。
炎が絆の身に着けていた衣服を一瞬で燃やし尽くす。生まれたままの無防備な状態を晒した身体に炎が纏わり、炎は薄いピンク色をしたワンピースとそれを飾るひらひらのフリルとふわりとしたスカートを形作る。
次に飛翔した炎の帯が絆のポニーテールを炎を象徴した髪留めが飾り、拳を覆うグローブと膝下まであるブーツに変わる。最後にワンピースを飾るフリルとスカートのフレア部分にアフターバーナーを思わせるレース状の炎めいたエフェクトが発生した。
炎が治まるとそこには俯き加減で仁王立ちになった絆が立っていた。首をゴキゴキと鳴らしながらゆっくりと顔を上げた彼女の瞳の奥には燠火の様な紅い炎が揺らめいている。エターナルが驚愕に目を見開いた。
「魔女化した…? 馬鹿な…魔宴の洗脳教育(インストール)も済ませていない者が何故!?」その事実に只、エターナルはたじろいでいた。今の絆は言ってみれば未成熟で誕生したばかりの動物の赤子が、外科手術用の麻酔を打たれそれが切れたような状態の筈なのだ。
「俺が得た力が、お前と同質の力だとしても…それが相手を滅ぼす唯一の力だと言うなら…俺は化け物にだってなってやる! 俺は魔女の咽喉笛に喰らい付く牙…魔法少女…"魔法少女キズナ"だ!」絆が高らかに名乗りを上げる。それが…魔法少女が誕生した瞬間だった。
説明 | ||
“天城絆”(アマギ・キズナ)は小学校四年生の少女である。中島教諭によって保健室に匿われた絆。そこへ現れたもう一人の教師、千歳…。だが彼女の正体は―――! | ||
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