IS~音撃の織斑 四十三の巻:兄弟姉妹 |
デュノア社の悪行は当然フランス政府の耳にも届いていたので、次の職場は簡単に決まった。と言うのも、一夏がフランスをイグニッションプランに参加させて国家を安定させる為、第三世代のデータとシャルロットの専用機の設計図を束に送らせたのだ。これにより、フランスは快くシャルロットをテストパイロットとして雇い、代表候補生としての看板も下ろさずに済んだ。デュノア一家は賄賂、横流し、恫喝、偽造、捏造等々の罪に問われ、終身刑が確定したらしい。シャルロットは安心してフランスで暮らす事が出来るだろう。それが済むと、一夏達はIS学園に帰還した。時差ぼけも気にせず職員室で山田先生に聞いて千冬の居場所を突き止めた。どうやら生徒は入れないらしいが・・・
「それなら大丈夫。学園で一般生徒が立ち入り禁止の所は生徒会長なら入れるから。」
と言う訳で立ち入り禁止の地下ブロックに到着した。薄暗く、かなり広い為、どこか不気味だった。シャルロットや簪は一夏のワイシャツの袖を掴んで震えている。
「ご丁寧に地図がある訳でも無いしな・・・・これは時間が掛かりそうだ・・・」
「(ディスクアニマルなら)・・・・・」
「(あれが監視カメラに写ったら俺がヤバいんだよ。)地道に探すしか無いな。二手に分かれよう。楯無は簪とラウラ、シャルロットは俺と来い。何かあったら直ぐに連絡する様に。」
「分かったわ。気を付けて。」
「地図なんてある訳無いよな、この中に・・・・・」
「あ、見て!館内図がある。僕達が今ここら辺で・・・・うわ、何、この部屋の数。」
「一番ありそうな所は・・・・・ここら辺か。取調室が五つもあるが・・・はあ・・・・仕方無い。(コイツらを使うか。)」
一夏はそっとディスクアニマルを取り出し、音角で軽く叩いた。それを地面に置くと、ニビイロヘビに変わって取調室に向かい始める。もう一度音角を手に打ち付けると、ニビイロヘビの姿が消えた。と言っても、一夏には見えるのだが。部屋を幾つも通り過ぎるうちに、ようやく取調室に着いた。当然防音仕様の壁の為何も聞こえない。が、ニビイロヘビの活躍でどの取調室か容易く分かった。
「四番だ。」
「何で・・・?」
「俺の勘。当たる方だぞ。」
人知れずディスクアニマルを回収し、第四取調室の付近で一夏は楯無達に連絡を入れた。
「合流するまで待ってる。今どこだ?」
『すぐ近く。先に入ってて。見張りは任せて。』
一夏は迷わずその扉を蹴り開けた。そこには拘束具を付けたまま壁に固定されたマドカの姿がある。体中に電子機器のワイヤーが繋がれている。その隣には織斑千冬を含む教師数名。
「権力に従うしか脳が無いのか、お前は?こんな事が許される筈が無いだろうが。」
「一夏、デュノア・・・?!何故ここに・・・!!」
「俺とお前のDNAが一致したんだろう?だったら形はどうあれ、俺達の妹だ。その妹を縛り上げているお前に俺は問いたい。何故こんな事をしている?尋問しても何も吐かないから強硬手段に出たとでも言うのか?殆ど知りもしない事実を吐けと言われる方が無理な話だ。それを少しでも考慮したか?」
答えるのを待たず、彼女の拘束を白式の部分展開で破壊した。ぐったりして汗もかいている。衰弱も著しい。
「まずはコイツを休ませる。止めるなよ。」
一夏はマドカを背負って部屋に戻り、ベッドに寝かせた。本来なら保健室に行った方が良いのだが、念の為という事もある。
「ん・・・・」
「あ、起きた。」
「よう、マドカ。随分酷い目にあっていたな。大丈夫か?いや、大丈夫な訳無いよな。来るのが遅くなってすまない。」
「織斑、一夏・・・・・」
「一夏で良い。俺は織斑じゃない。」
「何故・・・・?」
「事情が込み入ってるんだ。お前と同じ様にな。腹、減ってないか?」
「何を馬鹿な・・・」
(クゥウウウ・・・・)
「体は正直らしいが。まあ、有り合わせでしか作れなかったから、勘弁してくれよ。」
茶碗に出汁粥を注ぎ、差し出した。中には卵と刻んだネギも入っている。マドカはそれを見つめる。
「心配しなくても毒入りじゃない。ほら。」
一夏は自分で少し掬って口に入れて何とも無い事を示す。マドカはそれを見て、少しずつ食べ始め、最後は小鍋を空にした。
「そんだけ食えりゃ、もう大丈夫だろう。辛かったな。所で、俺と一緒に住まないか?」
「な、何?!」
突然の申し出にマドカは面食らう。
「お前が何で俺を殺そうとしたかなんてどうでも良い。俺と来い。今までのお前の人生を語れとは言わない。過去の事は何も聞かない。俺はただお前を助けたいんだ。俺と織斑千冬のDNAから生まれたなら、妹も同然だ。だから」
「馬鹿を言うな!私は私たる為にお前を」
「お前はお前だ!誰もそれを変える事は出来ない。言っただろう?俺がお前の存在を認めると。お前をお前として接すると。」
マドカの肩を掴んで諭す。彼女は俯いたまま何も答えない。俯くマドカを一夏は優しく抱きしめる。
「何故だ・・・・?(何故・・・・涙が・・・・何故・・・・振り解かない・・・?!)」
訳が分からず、マドカは静かに泣き始めた。
「辛かったな、マドカ。お帰り。もう、誰にも傷つけさせはしない。」
「うぅ・・・・う・・・・うわああああああああああああ!!」
遂に涙腺のダムが決壊し、大泣きを始めた。一夏のシャツを掴んで胸に顔を埋めてこれでもかと泣いた。だが、マドカは突然頭を抑えて苦しみ始める。脳に埋め込まれたナノマシンが作動し始めたのだ。
「う・・・ぐあああああああああ?!」
「マドカ?!」
「頭・・・・ナノマシンが・・・・・」
切れ切れにも食いしばった歯の間からそう絞り出した。瞬時に理解した一夏は彼女の頭を掴む。
「少し痛いが、我慢しろ。戦鬼流:雷針突。」
指先から電流を放ち、両手で頭を掴んでそれを直接流し込む。それにより仕込まれたナノマシンがショート、回路が焼き切れて行動不能になった。
「う、ああ・・・・・」
「マドカ、しっかりしろ。今のでナノマシンの制御回路を焼き切った。しばらく寝てろ。良いな?」
「何故・・・・お前はそこまで強いのだ・・・・?」
「強くなんかない・・・只の痩せ我慢だよ。強く見えるのは・・・支えがあるからだ。」
「ささ、え・・・?」
「倒れそうになったら引っ張り上げてくれる、落ちそうになったら俺の手を掴んでくれる、怖じ気づいたら背中を押してくれる、そんな存在が、俺の周りには沢山いる。楯無も、簪も、ラウラも、シャルロットも。お前にはそれが無い。人間ってのは、何かに頼らないと生きて行けない弱い生き物なんだ。俺はここにいる。ゆっくり休め。」
一夏は優しく微笑み、マドカの頭を優しく撫でた。不思議と彼女の髪の毛は良い香りを放ち、指通りが気持ち良い。彼女もその手を払い除けようとはしなかった。
「不思議な気分だな・・・・」
「確かにな。」
そうしている内にマドカはゆっくりと眠りについた。
「もう良いぞ。入って来い。聞いてたな?」
ラウラ、簪、楯無、そして千冬が入って来た。
「ラウラ、もう一人妹が増えるが、仲良くしてやってくれ。」
「はい。」
一夏は数秒間何も言わなかったが、目にも留まらぬスピードで千冬を張り倒した。
「兄様?!」
だが千冬が手を挙げて制する。
「構わない。元々この程度で済む程の事では無い。だが一夏、これだけは分かってくれ。私はあの事件の後、片時もお前の事を忘れた事は無い。お前は常に私の心の中心にあった。これも、常に持ち歩いている。」
内側の胸ポケットから写真を取り出した。まだ幼い一夏と高校の制服を着た千冬の姿がある。端が折れ、多少傷んでいるが、紛う事無き最後に二人で撮った写真である。
「これは・・・・」
「私に・・・・・私にもう一度だけチャンスが欲しい。」
一夏は顔を背けたが、後ろにいる三人の眼力に押されて小さく頷いた。
「次は無いぞ。後、マドカは俺が面倒を見る。IS委員会に俺からの伝言を伝えてくれ。
マドカはクローンだが、俺の細胞を使った故に俺の家族だ。文句があるなら俺が相手になると。だが、彼女に手を出せば只では済まさないと。もう出てくれ。彼女が起きてしまう。」
説明 | ||
さてさて、マドカの運命、そして千冬との関係修繕は・・・? | ||
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