真恋姫†夢想 弓史に一生 第四章 第十一話 偽りの力
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〜聖side〜

 

 

邪魔な間諜たちには…捕まってていただきたいところだが……。

 

 

中央に移動しながらどうすれば一番効率が良いか考える。

 

 

「ほな、徳ちゃん。準備はええか?」

 

 

気付けばもう中央付近。張遼さんとの距離もあと少しというところ。

 

しょうがない……。

 

使うのは初めてだが、これでいくか……。

 

 

「……悪いんだけど、ここにいる全員。 ……勿論、そこで門の警備をしている兵の人たちも。俺の近くに集まってもらえますか?」

 

「なんや? なんかあるんか?」

 

「来れば分かります。」

 

俺がそういうと、芽衣たちは素直に俺の近くに来る。

 

初めこそ不審な顔をしていた董卓、賈駆だったが、恋と何か一言二言話した後、こっちに来てくれた。

 

その行動を見て、華雄や張遼、門兵さんも来てくれて、俺を取り囲むようになってもらった。

 

 

「(集まってもらってすいません。で、早速なんですが…俺が合図したら、耳を塞いでしゃがんでいてもらえませんか?)」

 

俺は皆に聞こえるかどうかぐらいの小さな声で話しかけた。

 

「はっ!? アンタ何わけわかんない事言ってんの!?」

 

「え〜っと…徳種さん…おっしゃてる意味が良く分からないのですが…。」

 

「…。(し〜っ。)」

 

「「…ぁぅ…。」」

 

「(君達に危害を加えるつもりはない…。ただ、大事なことだからやっとかないといけないんだ。)」

 

「(…信用しろと…?)」

 

「(全てを信じなくても良い…。ただ、耳だけは塞いでいてくれ。)」

 

「(詠ちゃん。信じてみよう。)」

 

「(う〜。月が言うなら…。)」

 

「(ありがとう。)」

 

俺は皆に話が分かったかどうかを確認した後、一人、輪の中心で刀に手を掛けた。

 

今までやったことはないけど、理論上は可能なはず…。

 

陶酔静歌の副産物を活かさせていただきましょうか…。

 

目を閉じすぅ〜と大きく息を吸い込み集中する。

 

静まりかえった鍛錬場、その緊迫した空気を壊すものはいない。

 

息をゆっくりと吐き出し終えた後、目をかっと見開く。

 

 

「皆!!耳を閉じろ!!」

 

 

俺の合図でその場にいる全員が耳を塞ぐ。

 

俺は刀を抜刀した後、光速で刀を鞘に戻す。

 

刀の鍔が鞘に当たる衝撃音は、人間にかろうじて聞こえるくらいの高音域の振動数を持っており、一見、人には害がないように思えるが、その波は耳に入り、耳小骨を震わせることで耳の内部での刺激を発生させ、三半規管に流れる波の大きさや数を変化させる。

 

その為、三半規管が正常とは違う刺激で働かなくなり、平衡感覚が失われ、意識とは裏腹に起きてることが出来なくなる。所謂麻痺状態に陥るわけだ…。

 

そして、俺にはそれが何故か聞かない。まぁ、音の発信者ってことで、俺の付近では音の干渉の効果で振動数が減弱されてたりするのが最大の理由だろうけど……。

 

 

 

 

もう一つ、俺は陶酔静歌の副産物として、音を聞く耳を持ち合わせる。

 

つまり、歌を上手く聞かせることが出来るのは耳が良いからということである。

 

その耳は絶対音感を持っており、それを活かして音の反響を利用して人の位置を知ることが出来る。

 

 

つまり、今回のこの行動は、全て敵国の間諜を捕まえるためのこと。

 

中央に集まってもらったのは、反響した音が一箇所から来るようにして、それ以外を見分けるためと、俺の近くの方が波の威力が弱いためだ。

 

 

「皆、もう良いよ、手をどかしても。」

 

 

俺がそう言うと、聞こえてはいなさそうだが、俺の顔と口の動きで何を言っているか理解した芽衣は手をどけて、皆にそれを伝えていった。

 

皆が手を外し終えたころに、

 

 

「門兵さん。悪いんだけど、天井裏に一人、外の木の陰に二人、他国の間諜がいるから捕まえて置いてください。」

 

「えっ!? あっ…はい…。」

 

「お願いしますね。」

 

 

俺は門兵さんにそう告げて、ようやく張遼さんと面と向かって対峙した。

 

 

「さぁ、始めましょうか。」

 

「なんや徳ちゃんは…。結局さっきは一体何したん?」

 

「う〜ん、そうですね…。門兵さんが戻ってこれば分かりますから、それまで試合をしましょう!!」

 

「…なんやはぐらかすん? まぁ、ええわ。ウチも本気で徳ちゃんとやりたいからな…。」

 

「おやっ? さっきまでとはまた打って変わって真剣になりましたね?」

 

「当たり前や…。さっきの剣の納刀の速さ…アレはそん所そこ等の奴にできることやない…。相当な手練やって言う証や…。強い奴とやれると考えたら…真剣にやらな損やろ…。」

 

 

そう言う張遼さんの表情は興奮しているのか頬は紅潮し、呼吸は浅く早めになっている。

 

 

「そんなに期待されてると照れますね…。じゃあ、その期待に恥じないように…やりますか。」

 

「じゃあ、第二試合。両者とも準備は良い?」

 

「「ええで!!(良いよ。)」」

 

「では…始め!!!」

 

 

試合開始の銅鑼が大きな音をたて、鍛錬場に響き渡った。

 

じゃあ……((遊んであげるか|・・・・・・))!!

 

 

 

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〜張遼side〜

 

試合開始の銅鑼がなる。

 

対峙する男は、その武器である細身の剣を腰に挿した状態で重心を低くしてこちらをじっと見据えている。

 

その構えをウチは見たことがない。

 

まずは、一撃打ってみて実力の確認といこうやないか…。

 

先ほどウチ等の目の前でやったことに何の効果があったのかは分からない。

 

しかし、あの時の抜刀から納刀の速さは異常だった。

 

あんな速さ今まで見たことがない…それが素直な感想だった。

 

この世界は女の方が武力、知力ともに優れている人物が多いため女尊男卑の傾向が強い。

 

当然、ウチの相手になるような男なんているはずがなかった。

 

しかし、現に今目の前にその関係を覆す男がいる…。このことがウチの興奮を最大限にし、さっきから心臓が早鐘を打つ様に止まらない。

 

この勝負、燃えないわけがないわ!!!

 

 

「はぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!!」

 

 

持てる力の6割ほどの速さでとりあえず試しに切りかかってみる。

 

さぁ、どう反応する?

 

 

「うわぁぁぁああああ!!」

 

「………えっ??」

 

 

徳ちゃんはウチの攻撃に驚いたようにその場にへたり込んだ。

 

その頭の数センチ上をウチの愛刀、飛竜偃月刀が通過する。

 

ウチの攻撃が見えず、姿が消えたことに驚いて転んだようだ。

 

 

「はっはっはっ!!!! なんだ、あそこまで大言壮語を吐きおったわりに、霞の一撃がまるで見えないじゃないか!! しかも、それに驚いて転ぶだと!! そんな腰抜けが武人などと呼べるものか!!」

 

「聖様…。」

 

「お頭…。」

 

「先生…。」

 

「聖…。」

 

「お兄ちゃん…。」

 

なんか、向こうの奴らからも落胆の声が聞こえ取るし…。ウチもがっかりや…。

 

 

「…なんや、期待はずれやな…。せっかく面白い勝負が出来るとおもっとったんに…。」

 

「成程……神速の張遼とはよく言ったもんだ…。」

 

 

ウチの落胆を尻目に、埃を叩き落としながら徳ちゃんは立ち上がる。しかも、上から目線の口調で喋りながら…。

 

 

「……もうええわ。早々で悪いけど、終わらせてもらうで。」

 

 

そう言って最高速で動き、真横から斬りかかる。

 

狙うはその脇腹、これで終わりや!!

 

 

「うわっ!!また消えた!!」

 

 

ガキンッ!!

 

 

「っ!!」

 

「おっ!!あぶね〜…。」

 

 

徳ちゃんが驚いて姿勢を伸ばしたため、刀の鞘に邪魔をされて攻撃が当たらない…。

 

 

「なんや…やけにツイとるやないか…。でも、次こそ決めるで!!!」

 

 

今度も最高速で彼の周りを動き回る。

 

近付いたり遠ざかったり、その動きで撹乱しながら仕掛ける機会をうかがう…。

 

次は右足を峰うちで狙う。

 

そう決意したところで、懇親の一撃を見舞う。

 

 

「でぇぇぇりゃあああああ!!!」

 

 

体勢を低くし、地面を滑るように移動しながら近付く。

 

徳ちゃんの視線は、さっきまでウチが居たところを見ている。

 

これは…貰った!!!

 

 

「うおっ!!!足元に虫が!!!」

 

 

フォン!!!

 

 

「何っ!!!」

 

「なんやて!!」

 

「おぉ〜…ラッキー…。」

 

 

今度も徳ちゃんは右足をウチが打つ寸前にあげることで回避した。

 

その光景には華雄も驚いているように見える。

 

客席からは、

 

 

「何よあいつ!!さっきから運だけは良いじゃない!! でも、あんなのじゃ将としては役立たずだわ!!」

 

「詠ちゃん…そこまで言わなくても…。」

 

「まぐれが重なるとは…あいつの悪運も相当なものらしいな。」

 

「行け〜霞!! そんな奴とっととやっつけてしまうのです!!」

 

「……何とかかわしていますが〜、聖様は果たして何時までもつのでしょうか〜…。」

 

「う〜ん…。お頭でも張遼に勝つのは難しいのかねぇ…。」

 

「だっ…大丈夫なのです!! 先生は負けるはずないのです!!」

 

「でもなぁ………。あの様子だと…。」

 

「お兄ちゃん…頑張って…。」

 

 

と、皆それぞれの意見を出しながらこっちの様子を見てる。

 

っと!! 恋は…??

 

恋の方を見るとなにやら怪訝な顔つきでこちらの試合を見ていた…。

 

 

なんや、恋。なんか言いたいことでもあるんかいな…。

 

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〜恋side〜

 

試合が初めってからまだそれほど時間は経っていないけど、形勢ははっきりとしていた。

 

やはり、目に狂いは無かった…。何となくだけど…そう思う。

 

先ほど耳を塞がせて行ったことの意味は分からない…。でも…その瞬間…纏っている空気が若干変わっていた…。

 

彼は…聖は今、きっと…手を抜いている。

 

戦いの最中に声をかけるのは…出来ない。

 

私は目で霞に訴える。

 

 

「霞…気をつけて…。聖は…強い…。」

 

 

 

 

 

 

 

〜張遼side〜

 

 

視線を徳ちゃんに戻し、次の攻撃の準備を整える。

 

先ほどから二度続けて攻撃をまぐれで防がれている…。

 

 

「まったく、悪運が強いって言うのも困ったもんやね…。」

 

 

そうぼやいたところで先ほど自分が思ったことに引っかかった…。

 

二度続けて攻撃を((まぐれ|・・・))で防がれている……。

 

そんなこと起こりうるはずがあるだろうか…。

 

手を抜いているとは言え、ウチの最高速をもった切込みを二度も防いでいるのである。

 

そんな((まぐれ|・・・))が立て続けに…??

 

 

「はっ!!?」

 

 

ウチは徳ちゃんとの距離を離す。

 

そして、離れた位置でお互いに硬直状態になった。

 

そうか…最初から全部見切っていたんや…。

 

なんや、つれへんなぁ〜……。

 

 

 

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〜董卓side〜

 

霞さんと徳種さんの試合が始まって少し経ったころ、二人の距離が空いたところで硬直状態になりました。

 

 

 

先ほどまでは誰がどう見ても霞さんが圧倒してました。

 

徳種さんは奇跡的に攻撃を防いでいるようでしたが、それも何度も起こりうるはずがありません。

 

 

しかし今、霞さんは攻撃を止めてしまいました。

 

特に霞さんに疲れが見えたりとかそういうものは無いように見えます。

 

では何故、攻撃するのを止めて距離をとったのでしょうか…??

 

 

「詠ちゃん…。なんで霞さんは離れたのかな…??」

 

 

私は隣に居た詠ちゃんに質問します。

 

詠ちゃんは霞さんが離れたことに驚いているようでしたが、私の質問を聞いて少し考え込んだ後、

 

 

「あくまでこれは試合だから、相手の出方を伺おうとしてるんじゃない?」

 

「成程!!さすが詠ちゃんだね…!!」

 

 

霞さんはこの試合の意味を考えて戦ってるんだ…。やっぱり凄い人だな〜…。私には出来ないや…。

 

徳種さんは良い人だと思う…。あの穢れ無き真っ直ぐの瞳は、きっと一勢力を持ったときに大きな力を生む。

 

そんな人だからこそ、私達の下で一緒に働いて欲しい…。それに、あの笑顔は…。( ///)

 

今は少しでも将が欲しい時期…。でもこのままだと採用は難しいよね…? どうにかならないかな…。

 

 

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〜一刀side〜

 

聖と張遼さんの試合が始まってすぐに一方的な試合になり始めていた…。

 

 

あの聖が見えないほどの速さで打ち込む張遼さんはやっぱり凄い。

 

史実の張遼もその勇猛さが有名だったが、この人はその名に恥じぬ強さを秘めている。

 

そんなことを考えていると聖が張遼さんの攻撃の三度目の回避に成功する。

 

しかもまたまぐれに近い…。

 

 

 

ん?? そんなにまぐれって続くのか…??

 

 

 

そもそもあの聖だぞ…俺に弓の訓練をした時に、あの弓の速度が見えてた聖が、今の攻撃が見えなかったということ自体おかしくないか…??

 

 

ってことは…あれは演技……??

 

 

じゃあ、何で直ぐにこの試合を終わらせないんだろう…。

 

 

 

聖の顔を見てみると、先ほどの張遼の攻撃に驚いたような顔をしているが、良く見てみると笑っている。

 

なんだ、ただ単に楽しんでるだけなんだ…。

 

見てるこっちの心配も考えて欲しいものなんだが…まぁあいつに言うだけ無駄か…。

 

 

 

張遼さんが聖と距離をとった…か…。

 

 

……駄目だよ、張遼さん……。

 

………そこじゃあ聖の間合いだ…。

 

説明
どうも、作者のkikkomanです。

前話より、聖は採用を賭けて張遼と戦います。

でもその前に、聖の持つ陶酔静歌の副産物が明らかに…。

そしてその利用法とは…。


今話も中々のご都合っぷりです。実際では……こんなことできるんでしょうかね……??


原理的には結構簡単なものを使用しているので、不可能ではないと思うんですがね…。


さて、次話は日曜日に投稿します。それでは、お楽しみに…。
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