魔法幽霊ソウルフル田中 〜魔法少年? 初めから死んでます。〜 ナイト来た! これで勝つるな30話
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「いやあ卓球は楽しかった、またやりましょうよ! 今度はメリーさん達も呼んで!」

 

 

俺と花子さんによる『ポルターガイスト卓球』は時間を忘れるぐらいに楽しくて、今となっては太陽も沈みすっかり夜になってしまっていた。

 

ホント、あれは面白い遊びだった……自分の腕で動かす訳じゃないからラケット何本も使えるし、幽霊だから汗もかかないし、ポルターガイストの特訓にもなるという良いこと尽くし。

俺もストレス発散できて完全回復したし。

 

「……え? あー、そうだね。でも都市伝説級は加減が出来ない奴らが多いから力が強すぎて試合にならないんだよ」

未だに興奮が覚めやらない俺に対して、何でか知らないけど花子さんはテンションが低かった。

 

あれれ? なんでだろ。

試合中は花子さんも楽しそうだったのに……。

 

「はぁ……」(せっかく二人っきりの時間だったってのに、アタイは何卓球ばかりやってるんだろう……。いや楽しかったけどさ、こう、デートとまではいかなくても少しぐらい甘酸っぱい展開があっても――)

 

「??」

 

なんか凄い『もったいないことをした』って感じで溜め息をついてるし。

ううむ……心当たりが全然ないな!

もしかして、卓球にあまり良い思い出がないとか?

 

なら会話を変えるべきだ!

花子さんが暗い顔してるのなんて見たくないし!

 

「花子さん花子さん」

 

「んー……?」

 

あ、しまった。

会話を変えるのは良いけど、会話の内容考えてなかった。

何かなかったかな、『今日はいい天気ですね』ぐらいの話題でいいんだけど。

 

えーと今の天気は……。

 

 

 

「今日は『月が綺麗ですね』!」

 

「ブフッ!!?」

 

何か間違えたのだろうか、花子さんめっちゃ顔が赤いんですけど。

 

「な、な、な……!」って、信じられないといった感じで口パクパクさせる花子さん。

しばらくこの状態が続いてから、やがて何かを決心したような表情で彼女は口を開いた。

 

 

「あ、アタイっ、『死んでもいいっ』!!!」

 

「なぜ!? ていうか俺達もう死んでますよね!?」

 

わ、わけがわからない!

ただ天気の話をしただけなのになんで花子さん死んでもいいの!?

 

 

それからしばらく会話がかみ合わなくて「天気の話なんですけど」っていったら「紛らわしいんだよアホぉぉぉ! 文学作品でも読んで感性磨いてこいっ!」って怒られました。

 

よくわかんないけど、今度図書館で夏目漱石辺りを読んでみよう……。

 

 

 

 

「全く紛らわしいったらありゃしない……。で、もうそろそろフェイトっていう魔法少女が動きだすのかい?」

 

少しの間、屋根の上で月を見ながら会話をしていると花子さんがそんなことを言った。

どうでもいいことなんだけど、「言質はとった……言質はとったからね……」って花子さんが呟いてたがなんだったのだろうか。

 

「そろそろとは思うんですけどね。詳しい時間も場所も分からないんで、なのはちゃんに感知してもらおうかと」

 

 

それに対する俺の返答は随分と人任せなもの。

 

仕方ない、だって下手にジュエルシードを探してたら準備が整う前にフェイトちゃんとリニスさんにはち合わせする可能性があるし。

 

どうせフェイトちゃんがジュエルシードを封印するときにジュエルシードを反応させるんだから、なのはちゃんが反応して自然とフェイトちゃんがいる方向へ向かう筈。

俺はそれを見てから先回りしてしまえば何の問題もない。

 

 

 

「必ず今夜中に戦いは始まりますから、そろそろ『例の物』が届くはず――――

 

俺はそう言って首を後ろに回すと。

 

 

 

 

――――ですよね、異次元さん」

 

「お待たせしました田中さん。持ってきましたよ」

 

ちょうど、異次元さんが空間を割って出現していた。

ナイスタイミングです……って。

 

「異次元さん、なんでアロハ?」

 

いつものスーツ姿じゃなくてバカンスに行っていたかのようなアロハシャツにサングラス、あとサンダルにズボンタイプの水着。

若干日焼けしてるし、まだ5月なんだけど……。

 

 

「おっ異次元、ハワイ旅行楽しんでるみたいだね」

 

「ええ、あそこは常夏ですからすっかり日焼けしてしまいましたよ」

 

「幽霊がハワイ旅行!?」

 

ガチでバカンスに行ってらっしゃった。

いや異次元さんの能力ならハワイなんて簡単に行けるんだろうけどさ、密入国なんじゃないのか……?

 

「まあ積もる話はゴールデンウィークの後にしましょう、それよりも『コレ』が必要なのでしょう?」

 

異次元さんは両手に持っていた大きな袋(足売りさんのよりは小さいが)をおろす。

 

「いやー、頼んどいてあれですけどよく見つかりましたね『コレ』」

 

ガシャン、と金属質な音を立てて落ちたそれの中身を、俺はポルターガイストで『組み立てていく』。

ガシャン! ガシャン! ガショーン! とロボットみたいに組上がるそれを見て花子さんの顔が引きつった。

 

「えーと田中、異次元、これって……?」

 

「見てのとおりですよ、花子さん」

 

「これぞ、『対フェイトちゃん用ポルターガイスト操作人形』――――

 

 

 

 

「「『マクシミリアン式甲冑』! 題して、『マクシー君』!!!」」

 

シャキーン! というラップ音と共に出来上がったのは鈍い鋼色に輝く、鎧の騎士。

左手には青く輝くカイトシールド、そして右手には銀色に輝く十字剣(刃引き済み)を握りしめポーズを決めるその姿、正に男のロマン!

 

ちなみにこの鎧、正式名称を『フリューテッドアーマー』といい16世紀始め頃に作られた西洋の鎧。

マクシミリアン一世って人が作らせたから『マクシミリアン式甲冑』、為になるね。

 

 

「まじでカッコイイ! あーもーこのバイザーの部分とかたまりませんよね!」

 

「なかなか田中さんも理解があるようですね、私は特にガントレットがお気に入りでして。ああ別に壊してしまっても大丈夫ですよ、まだストックは別の世界に大量にありますから」

 

 

ポルターガイストで俺はマクシー君に色んなポーズをとらせたりして、その格好良さを堪能する。

うむ、細部に刻まれてる傷が単なる観賞用ではなく実戦で使われていたことを感じさせてくれるなぁ……。

 

お、所属してる国のマークも書いてある、なになに……『ボーレタリ……』?

 

異次元さんがどこで入手したのか気にしないことにしよう、うん。

割とヤバい気がする、マクシー君じゃなくてオストラヴァ君に改名しないといけないぐらい。

 

「なあ田中、『人形』が必要とは聞いてたけどなんで甲冑……」

 

「カッコイイから、それ以外に理由はいらないんですよ花子さん」

 

「そ、そうなのかい?」(全く良さが分からない……)

 

 

このマクシー君は俺がフェイトちゃんと戦うためのものなのだ。

 

確かにポルターガイストは生身の肉体は操作できない、だが『金属』である甲冑オンリーならばゲームのように自由に動かすことは可能というわけだ。

 

俺一人でリニスさんとフェイトちゃんを同時に相手にするのは不可能に近い。

戦闘力的に見てもだがそもそもフェイトちゃんは『俺が見えない』つまり勝負そのものが成立しないのだ。

 

だからフェイトちゃんには俺がポルターガイストで操作するマクシー君と戦ってもらい、俺自身はリニスさんと直接対決に持ち込む作戦。

いっぺんに2つの戦いをする難しい作戦だが、これが俺なりの『死者が生者にしてやれること』のつもりである。

 

 

「それでは私はハワイに戻ります。田中さん、頑張って下さい。特訓の成果期待してますよ」

「異次元さん、ありがとうございます!」

 

右手の手刀を振り下ろしてゲートを開いた異次元さんは、はやてちゃん達とのバカンスへと帰っていった。

 

はやてちゃん、すっかり家族してるなぁ……。

今度俺も遊びにいこうかな、はやてちゃんの挨拶ついでにハワイ旅行の話聞きたいし。

 

 

さて準備は整った、俺はマクシー君の操作の肩慣らしをするため屋根の上でラジオ体操させておく。

 

 

「いよいよだね。……田中、絶対に死ぬんじゃないよ。危なくなったらアタイがやる、アンタが嫌だと言ってもね」

 

花子さんは厳しい顔をして俺にそう宣言する。

分かってはいた、『修行の成果を見る』なんて建て前で、花子さんは本当に俺を心配してここまで付いて来てくれたのだってことは。

ほんと、俺にはもったいないぐらい素敵な師匠だよ。

 

 

 

「大丈夫です、俺は負けません。みんなと修行して、色々試行錯誤して作戦考えて、俺は一人で戦う訳じゃないですから」

 

自分でもカッコつけたセリフだと思うんだけど、ここでカッコつけなきゃ男じゃないぜ。

おっと、そう言えば『もう一つ』付け加えねば。

 

 

「それに『約束』もありますからね! 今年のクリスマスは花子さんにまたケーキをご馳走してあげますよ!」

 

そう、『約束』だ。

前にちょろっと言ったと思うんだけど、実は去年のクリスマスに『日頃の感謝の気持ちを伝える』ため花子さんにケーキを作ってあげたのだ。

 

作り方やレシピとかは桃子さんのを見様見真似でやり、ポルターガイストで調理器具操作して出来上がったそのケーキはおいしかったらしい。『らしい』っていうのは、俺は食べれないから。

花子さんがおいしいって言ってくれて凄い嬉しかったな……。

 

「『また来年も作る』って約束しましたからね、期待して下さいよ。そうだな……豪勢にウェディングケーキとか作っちゃいましょう! 3段の奴!」

 

「うェ!?」

 

ってアレ? 花子さん顔が赤くなってる?

 

「うぇ、ウェウェウェ……! あーもー! さっさと行きな! 行って勝って帰ってこいっ!」

 

「わわわ!? 花子さんまだなのはちゃんが動いてな……。あ、ちょうど動き始めてました。あっちの方向か」

 

花子さんがパニックになってる理由も気になるんだけど、どうやらその暇はないらしい。

なのはちゃんの気配が移動を始めたのだ。

もたもたしてるとフェイトちゃんがジュエルシードを回収しちゃうし、そうなったら作戦に支障を来す。

俺はなのはちゃんが移動する方へ高速飛行で、マクシー君はポルターガイストで走らせることにした。

 

 

さて……早速特訓の成果を見せる時が来たようだ。

 

 

 

「いくぞマクシー君! トコトコさん直伝、『十傑走り』!」

 

ガン! と屋根から地面へ着地したマクシー君は剣を鞘に収め、盾は背負い、両の腕を組ませて前傾姿勢のまま足のみを激しく動かす!

トコトコさん曰わく『一番上半身(テケテケさん)がぶれない速い走り』だそうだ。

 

ダカダカダカダカダカ! ととんでもないスピードで駆け抜けるマクシー君。

これなら浮かして行くより速い、このままフェイトちゃんまで一直線だ!

 

「それじゃ花子さん! 俺、この戦いが終わったら貴女に伝えたいことが

 

「言うなああああ! 本当に学習しない奴だね!」

 

いざ、決戦の地へ!

 

 

 

 

 

「……絶対に帰ってくるんだよ、田中。便所でしか飯が食べられないアタイに『次は一緒にケーキを食べましょう』なんて事を言ってくれる奴はアンタだけなんだからさ」

愛すべき馬鹿弟子を見送った花子さんは一人呟く。

ここから先は出来るだけ自分は手出ししない、やれることは田中の勝利を祈るだけだと。

 

 

 

 

――――だがもうちょっとだけ周りをよく見ておくべきだった。

 

同時刻、ハワイにて。

「異次元さーん。どうやった? 花子さんの恋バナ聞けたん?」

 

「しーっ、はやてさん一応耳だけあちらに繋いでますから聞こえるかもしれません」

 

「で、やっぱりケーキが決めてだったわけ?」

 

「やはりそのようです。しかも今年のクリスマスはウェディングケーキを作るとか」

 

「ふぇっふぇっ、花子ちゃんにもとうとう春が来たねぇ……」

「きゃーっ! ウェディングケーキとか素敵やん、ええなあ〜憧れるわ〜」

 

八神家のガールズトークはこれからだ。

 

 

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時は少しさかのぼって、温泉旅館。

 

百合フィールドを展開したすずか達から離れるため、一人部屋へチェンジしたなのはは布団の中で眠りにつこうとしていた。

 

(というか、いいのなのは? 友達と一緒に寝なくて)

 

(いいの、だってすずかちゃんあの状態になったら『言わない』っていっても怖い話するもん)

 

最近、すずかとアリサにのけ者にされてる気がしてむくれてるなのはは、プイと顔を背ける。

 

 

(うっ、むくれてる顔も可愛い……)

 

可愛らしい仕草にユーノがちょっとだけ顔を赤くしているのだが、そっぽをむいてたなのはは気付けなかった。

無自覚な小悪魔だけあって自分では分かっていないことが悲しい。

 

ちなみに、すずかとアリサはなのはに気付くことすらなくやはり恋バナ――――じゃなくて『怪バナ』をしている。

 

今頃怖がったアリサがすずかに抱きついて『浴衣越しに感じるアリサちゃんの体温……愉悦!』とか言ってることだろう。

どうしてこうなった。

 

 

 

 

(……ねぇユーノ君、もう寝ちゃった?)

 

(いや、まだだけど。どうかした?)

 

 

数分間ほど時間が空いて、なのはは再びユーノと念話を繋いだ。

いつもより早い時間に寝ようとして、目が冴えて眠れないというのもあったが、実はなのはは気になることがあるのだった。

 

(その……こないだの女の子の事なんだけど……)

 

こないだの女の子、それだけでユーノはなのはが先日出会った魔導師のことをさしているのだと分かった。

言いづらそうにしてるのは、気分転換をするはずのこの旅行で目下悩みの種になってしまっているその事を口にだすのをためらっているからである。

 

(あっ、ごめんね? せっかくの旅行なのに)

 

(いいよ、聞かせて)

 

 

そんなことは気にしないで、と言外にユーノはそう伝える。

そもそもなのはが気分転換出来れば良いのであって、不安や気になることがあるのなら自分で良ければ喜んで話し相手になるつもりだった。

 

なのはは「ほっ」っと安堵した様子で話し始める。

 

 

(もしも、もしもだよ? 私とあの子がまた出会って、ジュエルシードを賭けて争うことになって、そうしたらその後はどうなるのかなぁ……って思ってるの)

 

(その後って? 勝負したらどっちが勝つのかっていうこと?)

 

戦う事に不安を感じているのだろうか、そう思ったユーノだがなのはは「違うの、『もっと先』のこと」と否定する。

 

 

(もっと先……?)

 

(うん、ジュエルシードを私とあの子が別々に集めてるなら、いつかきっと全部のジュエルシードを賭けることになると思うんだ。でね、私が気になるのは『それが終わったらあの子はどうするのかな』って)

 

 

つまりなのはは、全てが終わった後の事を気にしていたのだ。

ジュエルシードを全て集めるのがなのはなのか、それともフェイトなのか、そして自分が勝利すればフェイトがどうなってしまうのかを。

 

(うーん、あの子が何でジュエルシードを集めているのかは分からないから、仮に負けたとしたら絶対にこうなるとは言えないんだけど……。もし、なのはが勝ったら時空管理局に身柄を渡すのが普通かな……)

 

ユーノの答えが意外だったようで、なのは驚いて返事を返す。

 

(えっ、 時空管理局って警察みたいな組織だよね。そんなまるで犯罪者みたいな扱い――)

 

(実際、あの子がやってることは間違いなく『犯罪』だよ。管理局の遺失物、それも危険なロストロギアの強奪をしてるんだから)

 

きっぱりとフェイトを『犯罪者』と見るユーノ。

 

まあ、ユーノがここまでフェイトに対して厳しいのは、初めて会った時の印象が悪いせいなのが多分にあるのだが。

 

(そんな……)

 

そんなユーノの判断に、なのはは落ち込んでしまう。

無理もない、自分と同じぐらいの年齢の少女、それも気にかけている人間が犯罪者だと言われてしまえばショックはうけるだろう。

 

 

 

(あっ、いやその……)

 

ただまあ、ユーノはなのはの落ち込む顔は見たくないわけで。

 

(か……仮の話だからね! あくまでも! もしかしたらあの子は誰かに無理矢理やらされてるのかもしれないし、そうだとしたら罪も何もないわけだし!)

 

(ユーノくん……)

 

結局はフォローに回ってしまうユーノであった。

ユーノも元々非情な性格でも、法律を厳守することを重視するような性格ではない。

地球に単身ジュエルシードを探しに来ることもギリギリだったりするし。

 

(そもそもなのはが僕を助けてくれなかったら、あの子にジュエルシードを全部回収されちゃってただろうしさ。だから、なのはがやりたいように、どうしたいのか決めていいんだよ)

 

(私がやりたいように?)

 

ユーノに言われて、なのはは考える。

『自分は一体、どうしたいのだろうか』と。

 

 

 

 

悪い人に見えないし、話もしないまま管理局に身柄を渡すのは自分が納得できないから嫌で。

でも何で『悪い人に見えない』ように見えるのだろう、自分と彼女は他人の筈なのに。

 

そうだ、あの目だ。

寂しそうな光をした目が気になってるからだろうか、父が入院した時の自分と同じようなあの目が。

 

それに、あまり考えたくない事だけど、初めて戦った時の人魂のようなものが見えたから。

彼女ももしかしたら『憑かれてる』かもしれなくて――――

 

 

 

(ユーノ君、私わかったよ)

 

ジュエルシードをめぐる戦いの先にある、彼女が望む結末は――――

 

 

 

(私は、あの子と友達になりたいんだ)

 

名前も知らぬ少女と、手を取り合うことだった。

なのはのその答えを聞いたユーノは、(やっぱりなのはらしいな)と思う。

この少女は、敵対する人物でさえ分かり合おうとする、それぐらい『優しい』から。

 

(あの子がどうして悲しい顔をしてるのか知りたいし、もしかしたら私と同じで『幽霊』のことで悩みがあるのかもしれない。だったら力になってあげたいの)

 

 

力強い瞳で、なのはは決意を新たにする。

ジュエルシードを回収するのとは別の目的、それは最近ジュエルシードを集めれず、気に病んでいたなのはに渇をいれたようだった。

 

 

(あ、そうだ。僕もなのはに聞きたい事があるんだけど)

 

(? なあに、ユーノ君?)

 

と、なのはの決意表明が終わったすぐに、ユーノは思い出したようになのはに尋ねてきた。

 

 

(いや、今までずっと聞きそびれてたことなんだけど……『幽霊』って、何?)

 

(っ!)

 

 

先程のなのはも念話で話した『幽霊』というワード、ユーノはそれが気になっていたのだ。

それも随分と前から。

 

その言葉が関係する事態が起きる度に自分たちは理不尽な恐怖と謎の渦に叩き込まれて、気にはなるけど『なのはが怖がるみたい』という理由で言えなかったのだが、ユーノはこの機会にはっきり知っておこうと思ったのである。

 

(さて聞いたはいいけど、今日はホールドか頬ずりか……ハァ……また寝不足決定……)

 

割と壮絶な覚悟で、この温泉旅行で一番リフレッシュしてないのは恐らくユーノだろう。

 

 

(え、えっと……その、いいんだけど。ユーノ君の世界じゃ幽霊って信じられてないから……)

 

(あ、大丈夫だよ。一応予備知識は調べてあるから、なのはの部屋に本があったし)

 

ちなみに本のタイトルは『週刊除霊大全』週に一度、初刊は100円ぐらいで付録がついてくるアレである。

 

しっかり全巻揃っていたその本を読んでいたために、ユーノは『幽霊』とは何なのかぐらいは知っていた。

 

 

(死んだ人の魂が未練をもってこの世に留まって、人魂とか足が無かったりとか色んな姿をとる。こんな感じなのは分かるんだけど。僕が知りたいのは『その幽霊がなのはに何をするのか』、教えてくれないかな?)

 

ユーノは薄々感づいてはいる、なのはを悩ませている幽霊とは暴走体と戦っていた『黒い服の青年』なのではないのかと。

 

彼はたびたび自分たちを助けてくれたようだった。

だからこそ知りたいのだ、なのはの口からあの青年がこちらに危害を加えるような存在かどうかを。

(じ、じゃあ言うよ)

 

なのはは『ユーノ君も私のお話聞いてくれたし、ちゃんと話さなくちゃ……』と怖いのを我慢して、話すことにした。

 

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(私ね、小さい頃から――3、4歳ぐらいかな、幽霊に取り憑かれちゃってるみたいなの)

 

そんなに幼い時期から悩み続けていたのか、とユーノは思ったのだがそれを悟ったなのはが(ちょっと違うかな)と否定した。

 

 

(実際に『幽霊に取り憑かれてるかも』って思い始めたのは小学校に入学した辺りからなんだ)

 

(えっ、じゃあなんで取り憑かれたのが3歳ぐらいって分かったの?)

 

(それは……その……。3歳ぐらいを境に『霊媒師』とか『占い師』とか、その筋の人達に会う度に2度見されちゃうようになって『あの頃から憑いてたのかー』みたいな)

 

(寧ろその時点で気にならなかったの!? 凄い不安になると思うんだけど!)

 

 

自分だったらとりあえず見てもらうんだけど、と思うユーノだが、その時期は士郎が入院で大変な時期でもありドタバタしていたのだ。

 

色んな意味で余裕のなかったなのはは気づけなかったのである。

 

 

 

 

(いつから憑かれてたのかは分かったからいいとして……。なのはが『憑かれてる』って思い始めたのは、やっぱり小学校に入学してから幽霊が何かしてきたから?)

 

 

(うん)

 

いよいよ本題、今までなのはに取り憑く幽霊が何をしてきたのかを聞くユーノ。

なのははやはり思い出すのも恐ろしいらしく、顔を少し青くしながら話しだした。

 

 

 

(そう、あれは入学したばかりの頃)

 

(私は掃除当番で裏庭を掃除してたの)

 

(そうしたらね、その時はまだ知り合ってもないアリサちゃんがすずかちゃんの髪飾りを取って意地悪してるのを見ちゃって)

 

(放っておけなかったから私、アリサちゃんと大ゲンカしたんだ。あ、これがきっかけで私達仲良くなったの)

 

(でね、ケンカが終わってお互い分かり合えて後ろを振り返ると……)

 

 

 

 

 

(そこには、私が途中でお掃除をほっぽりだした裏庭が、草一つ生えないぐらい掃除されてキレイになっていたの!!!)

 

(それは怖いのかな!?)

 

思わず念話でツッコむユーノ、というかそれは幽霊の仕業というより誰かが知らない間にやってくれたのでは、と思わなくもない。

 

(だって人の気配なんてしなかったもん! きっとポルターガイストとかで箒を動かしたに決まってるの!)

 

(箒が独りでに動き出すのは不気味だけどさ……。なんか、怖がらせると言うより寧ろ役にたってるような……)

 

初っぱなから本で読んだ『幽霊』のイメージが崩れてしまったユーノである。

まあ田中は一般的な幽霊とは言い難い性格をしてるので仕方ないっちゃ仕方ない。

 

しかしなのははユーノの『役にたってる』という感想に納得できないようで、(これだけじゃないんだよ!)と続けて幽霊による怪奇現象を話す。

 

 

 

(学校の授業中に突然耳元で声が聞こえたこともあるんだよ! 『なのはちゃん、そこは弘法も筆の誤りと同じで、上手い人でも失敗するって意味だから、カッパは?』って!)

 

(教えてもらってるんじゃないかなそれは!?)

 

(あとあと! 家族で炭火焼きバーベキューやった時に、人魂がでてきて炭の中に飛び出こんできたり!)

 

(火種になってくれたんじゃないかな!?)

 

(それとか、夏にお出かけしてお家に帰って来たときなんか、消してた筈のクーラーがついててお部屋が快適な温度になってることもっ!)

 

(なのは気付こう! 君は多分日常的に助けてられてる!)

 

ちなみにクーラーの設定温度は28度、地味に節電を意識してる田中だった。

幽霊ってなんだっけという印象しか受けない怪奇現象(笑)の連続に、ユーノは混乱するしかなかった。

 

 

(というか、寧ろ何でなのはが怖がるのか理由が分からなくなってきた……)

 

(ええーっ! 怖くないのユーノ君!?)

 

まあ、上半身だけの幽霊とか生足を袋詰めにしてる幽霊とかは気絶するぐらい怖いのだが。

あんなのと比べれば、あの青年がやってる事は可愛いものだとユーノは思う。

 

(怖くないも何も、怖いことしてないし。なのはに憑いてる幽霊って本に書いてあった『守護霊』なんじゃ?)

 

田中のやっていることに思い当たる節があったユーノは『守護霊』と呼ばれる種類の幽霊を思い出していた。

 

 

――いわく、取り憑いた人物を疾病等の災いから守る存在。

 

――いわく、大切な人物を死後も心配し成仏できなかった存在。

 

――いわく、他の幽霊から取り憑いた主を遠ざける存在。

 

 

死に別れた親しい人物がなるというその存在は、正になのはに取り憑いてるらしいあの青年と似ている気がするのだ。

 

(守護霊だったら、今までその幽霊がやっていたことにも説明がつくし。何か心当たりはない?)

 

 

守護霊だとしたら恐らくあの青年はなのはに親しい人物だった筈、それならなのはは怖がる必要などどこにもない。

ユーノはそう思って尋ねたのだが、対するなのはの返事は予想外のものだった。

 

 

(……ないの)

 

(え?)

 

 

(私、どうして取り憑かれてるのか全然心当たりがない、誰が取り憑いてるのか分からないの)

 

 

 

それってどういうこと?

ユーノはそう聞こうとしたその時だった。

 

 

 

 

ゾッ、と背筋に走る不快感。

しばらく感じることの無かったこの感覚は――――

 

〈ジュエルシードです!〉

 

「「ッ!」」

 

間違えようもない、あの災厄の宝石が起動する前触れだった。

レイジングハートの声で二人は布団から飛び起きる。

 

「まさか、こんな所にまでっ!」

 

「急ごうユーノ君! この旅館にいるみんなに被害がでる前に!」

 

なのははバリアジャケットを纏い、悪寒を感じた方角に顔を向ける。

せっかくの旅行でこんなことが起きるなど予想もしていなかったが、覚悟も準備も万全であった。

 

 

「なのは、少しだけ待って」

 

ユーノはなのはにそう言うと、自身の足元に魔法陣を展開する。

 

 

(結局、あの人の正体もわからないし。多分、あっちの黒い魔導師にも仲間の幽霊がいる可能性は高い、けど!)

 

フェレットの姿だったユーノの体を、翡翠色の光が覆い尽くす。

 

(あの人が何であろうと、他にも幽霊がいたとしても、僕のやるべきことは一つ! 『なのはを守る』!)

 

翡翠色のシェルエットは人の形をとり、やがて光が収まった後には。

 

 

 

「お待たせ。僕も戦う準備が出来た、行こうなのは!」

 

人間体になったユーノ、本格参戦である。

 

「………………」

 

「? なのは?」

 

「ふぁ、ふぁいっ! どっどどどうしたのユーノ君!」

 

「いや、突然ぼーっとしちゃったからどうしたのかと」

 

「べ、別になんでもないよっ!? ユーノ君に見とれてたとかそんなことないからね!?」

 

「え、あ、うん分かったけど……」

 

「ホラ行こう! あの子もいるかもしれないし!」

 

「わ! ちょ、なのは待ってってば!」

 

 

若干グダグダ気味だが二人は旅館を抜け出し、ジュエルシードへ向かって走り出した。

 

 

 

 

 

――――満月が輝く月夜。

今宵、それぞれの意志を持つ者同士がぶつかり合う事になる。

 

 

待ち受ける悲劇を回避しようとする意志。

 

死してなお教え子を守ろうとする意志。

 

分かり合おうとする意志。

 

母のために戦う意志。

 

優しい少女を守ろうとする意志。

 

主を支えようとする意志。

 

そして。

 

 

 

「さあて、俺も乱入するか……。アイツ強けりゃいいんだが」

 

それらの意志を無視し、戦いを求める意志。

 

 

 

 

 

 

オマケ、旅館を出た直後。

 

 

「ジュエルシードの気配は……あっちからだ!」

 

「川があった辺りかな。良かった、旅館からそれなりに離れてる。これならみんなに迷惑はかからないかも!」

 

 

ガアンッ!!!

 

「「!?」」

 

「いくぞマクシー君! トコトコさん直伝、『十傑走り』!」

 

 

 

ダカダカダカダカダカ! ゴチンッ!

 

「おおっと。しまった、木の枝に兜が当たって落ちちゃったか。こりゃ首無し騎士だな」

 

ヒョイッ、ガション。

ダカダカダカダカダカ!

 

 

「なななのは、いっ今の人(?)首が……!」

 

「…………」

 

〈マスター?〉

 

 

 

「…………アハッ」

 

「ま、まさか……暴走……!?」

 

〈始まりましたね〉

 

分かり合おうとする意志、終了のお知らせ。

 

説明
リニスさんとの再戦、と思いきやまだですゴメンナサイ。
戦闘前の準備をしてます。

あと異次元さんは基本どこでも行くことが出来ます。
フリューテットアーマー? デモンズソウル? 俺のログには何もないな。
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コメント
ネフィリムフィストに戦慄走ったさん、感想ありがとうございます! 花子さんはウブです、田中も鈍いから好意に気付かない。……ですが! いつか砂糖ドバドバ吐けるような甘い関係にしてやりますフフフ。(タミタミ6)
願わくば、花子さんに幸運を…!(ネフィリムフィストに戦慄走った)
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