武装神姫「tw×in」 外伝 天使×天使=−1 |
それは、Fバトルの予選会が開かれていた神姫センターの、ショップで起こった出来事だった。
しかし、Fバトルの予選会が開かれていた為ショップに人は少なく、出来事を起こした物が偶然誰の目にも止まっていなかった事が、その後の悲劇にして、一つの出会いを起こす要因となったのだった……
Fバトル大会出場権争奪戦。
その内容もあり、多くの人、神姫、神姫マスターが歓声を上げ、見物していた。
その中に、その時には珍しく、加えて珍しい組み合わせの二人の神姫を連れたマスターが居た。
「真南さん順調に勝ち進んでますね」
その内の一人、アーク型の神姫がマスターと思われる少年に声をかけた。
「そうだね、このまま行ければ優勝かな」
「まぁ相手によりますけどね、ここに出る人の条件はほぼ一緒だから強さも同じくらいでしょうけど」
「きっと大丈夫だよ、真南はその気になれば強いんだから」
少年がそう言うと、
「ふふっ、マスターってば真南さんを過評してますね」
もう一人の神姫、アーンヴァル型が微笑んだ。
「過大評価かは分からないけど、出来れば知り合いに勝ってもらいたいなって思ってさ」
「そうですね、私も出来れば、ミズナに勝ってもらいたいです」
「まぁ、知らない人よりは知ってる人の方が良いですかね」
「なら、オレ達は応援するしかないよ、シエル、スレイニ」
「はい」
「了解です」
シエルと呼ばれたアーンヴァル型と、スレイニと呼ばれたアーク型が返事をした。
その時、
歓声の中に、悲鳴が混じった。
「! な、なに、今の?」
「悲鳴、みたいですね」
悲鳴がした方向を3人が向くと、その原因を中心に十戒の如く空間が出来ていた。
「あれは……」
最初に気づいて声を出したのはシエル。それもその筈、中心にいたのは、たった一人の神姫。しかもそれはシエルのアーンヴァル型の正統後継機に当たる、アーンヴァルMk.2型だったのだ。
その頃巷では、アーンヴァルMk.2型には決定的なバグがあり、暴走する恐れがあるとされて回収が始められていた時の事だった。
「うゥぅうゥゥゥアぁァあァァぁあぁァァァァ!」
アーンヴァルMk.2型のノイズ混じりの咆哮が会場内に響く。
それを合図にしたように観客達が一斉に逃げ始めた。
「マスター! アタシ達も逃げましょう!」
スレイニが2人を誘導するように先を行く。
「……」
だがシエルは一人、その場から動かずただ暴走する後継機を見ていた。
「シエル、早く逃げるんだ」
「シエルさん!」
少年とスレイニがシエルへと声をかける。
「……マスター、私の剣を下さい」
しかし、シエルは自らの武装を求めた。
「シエルさん!? まさか、止めようとしてるんですか!」
「マスター、お願いします。他の武装はいいので、剣だけ下さい」
「シエル、ダメだ、危なすぎる」
少年は冷静に伝えた。
確かにいかに相手が武装を何もつけていない状態だとしても、暴走した神姫はそれだけで危険な物とかす。例え武装した神姫でも、負けてしまうこともあるくらいにだ。
「ですが! 私の後継機は私の妹も同じ、ほおってなんておけません!」
「……」
「シエルさん……」
「マスター……お願いです。剣を」
「……分かった」
「マスター!?」
「ありがとうございます。そう言ってくれると信じてましたよ、マスター」
「シエルさん…………っ」
「でも剣だけじゃダメだ。ちゃんと武装した状態じゃないと行かせられない」
「分かりました。では、私の武装を…」
その時だ、
「ウゥゥぅぅうアァァぁァァァぁぁ!!」
暴走したアーンヴァルMk.2型が標的を定めたかのように少年達へ突進を開始した。
「! マスター! 早く武装を!」
「ダメだ! 間に合わない!」
シエルの武装は少年が背負うリュックサックの中に入っていた。それを降ろし、チャックを開け、中の武装を取り出して装備する。その行動を全てこなす間には後継機は2人に到着してしまっている。
「では! 剣だけでも!」
「アァァあぁァァあァ!」
後継機か迫る。すでに剣を取り出して渡している間も無い。
「っ、マスター!」
シエルが我が身を盾にするように自身のマスターの前に立ちはだかった。
「シエル!」
しかしそれはマスターの守護と同時に、シエルの損傷が決定された行動だった。
「アァあァぁァ!!」
後継機の腕がシエルの首へと伸びる。
「っ!!」
シエルは思わず目を瞑った。
しかし、
「だぁぁ!」
バチィン!
「ァアァァ!?」
アーンヴァルMk.2型にぶつかった何かにより、シエルとの接触は免れた。
「……?」
何も起こらないことに気付き目を開けたシエル。そこにいたのは、
「マスター! 早くシエルさんに武装を着けてください!」
「スレイニちゃん!」
少年のリュックサックの中から飛び出した、自らの武装を全て身に付けたスレイニだった。
「いくら暴走してるからって完全武装した神姫二人がかりなら勝てる筈です、アタシが時間を稼ぎますから、早くシエルさんに!」
「分かった、けど無茶はするなよ!」
「スレイニちゃん! すぐに行くからね!」
「だぁぁぁ!」
「あァぁあァァ!!」
スレイニとアーンヴァルMk.2型の戦闘が開始された直後、少年はリュックサックの中からシエルの武装を取り出して装備していく。
ヘッド、アーム、ボディ、レッグ、そしてリア、アーンヴァル型の正式装備に身を包み、手には青白い刃を小剣を持った。
「マスター、行ってきます」
「シエル、無茶はしないでくれ。もしヤバいと感じたらスレイニと一緒に逃げるんだ」
「はい、マスター」
シエルがリアパーツのブースターを開放、空中をダッシュして戦い続ける二人の元へと駆けた。
「アァぁ!」
「うわぁっ!」
暴走神姫の一撃がスレイニを吹き飛ばす。その際手に持っていた小剣を誤って落としてしまい、暴走神姫がそれを拾い上げた。
「しまった! 剣が……」
「スレイニちゃん!」
倒れるスレイニの横へシエルが降り立ち、スレイニを立たせる。
「すみませんシエルさん……相手に剣が……」
「大丈夫、剣の扱いなら私の方が上だろうし、こっちは二人。絶対に止めるよ」
「分かりました、アタシが援護します」
スレイニはハンドガンを持った。小剣を奪われ、もう一つの武器ランチャーも弾切れ、スレイニにはそれしか残っていなかった。
「お願いね、スレイニちゃん」
二人は暴走するアーンヴァルMk.2型を見た。
「あ、アァぁァァ、うゥ」
使い心地を確かめるかのように小剣を振り、その切っ先をこちらに向ける。
「アイツ、武装なんてした事ないくせに」
「きっとスレイニちゃんが使ってるのを見て覚えたのよ。けどそれなら何とかなる、行くわよ!」
「了解です!」
シエルが前へ飛び、その後ろからスレイニにが続く。
「ウァ、アァゥゥぁぁア!!!」
アーンヴァルMk.2型が咆哮をあげ、遂に戦闘が開始された―――
―――その後、それはちょうどスレイニの持つハンドガンの弾丸が、全て切れた時だった。
「はぁぁ!」
「ァアァぁ!!」
ガギィィン!
互いの持つ剣の刃が滑り、シエルの剣はアーンヴァルMk.2型の武装していないボディを貫いた。
そして、アーンヴァルMk.2型の剣は……
「……すみません。暴走した神姫を止めていただいただけでなく、貴方の神姫まで……」
「謝らないで下さい。無償で治して頂いたのですから、それだけで充分ですよ」
「ですが……貴方の神姫はもう…」
「覚悟はしてました。冷めた奴だと思うかもしれませんが、予想出来ない事とは予想出来ないからそう言うんです。いつ起こるか分からない出来事にいちいち驚いていたら、身が持ちません」
「そう、ですか……」
「……それに」
「はい?」
「…………もう、充分過ぎる程悲しみましたから」
「……」
「ところで、あの神姫はどうなったんですか?」
「え、あ、はい、あの神姫のバグは完全に取り除きました。今は修理を行っているところです」
「そうですか。治るのなら良かったです」
「……あの、もしよろしかったら。彼女を貰って頂けませんか?」
「……代わりのつもりですか?」
「もう彼女が戻って来ないのは重々承知です。しかもその原因となった神姫を、と言っている事も理解しています。ですが貴方の神姫を亡くしたお詫びとして、ただその思いだけでのご提案です。同機種はご用意出来ませんが、その後継機ならば釣り合うと思いました。もちろん他の型でも、望む型を用意いたします」
「……いえ、彼女で結構です。頂けるというのに文句は言いません」
「それでは…」
「ですが、少し時間を下さい。説得しなくてはいけない神姫がいるんで」
「分かりました。どちらにせよまだ修理に時間がかかります。そちらの決意が固まったらご連絡下さい」
「はい、ありがとうございます」
それから、幾日もの時が過ぎ、少年の家に一体の神姫が届けられた。
「マスター、来ましたよ」
「うん、ありがとうスレイニ」
「何ですか? この荷物」
「ルミアの妹、って言えばいいのかな」
「え!? ということはこの荷物は……」
「開けますね」
スレイニの手により包装が解かれて中身が姿を見せる。
中には一つのクレイドルと、その中で眠るように動かない神姫が一体入っていた。
「うわぁ?♪アーンヴァルMk.2型ですか」
「うん、仲良くしてあげてね」
「もちろんです!」
「スレイニもね」
「えぇ、ルミアちゃん共にビシバシ特訓してあげますよ」
「ひぇぇ!!」
「ところでマスター、本当にやるんですか?」
「うん、未練がましいかもしれないけど、コレがせめてもの抵抗かなって思ってね」
「そうですか……マスターが決めた事なら、アタシは止めませんよ」
「ありがとう、スレイニ」
「マスター! 早く起動しましょうよ!」
「うん、そうだね」
少年は送られてきた神姫の胸部を開けた。そこには神姫の感情を左右するCSCチップを入れる穴が3つ空いている。
少年は一緒に送られてきた一つと、一つを破壊され今は動かないある神姫から受け継いだ残り2つをはめ込んだ。
胸部を閉め、インストールが開始される。
「そういえばマスター、名前は考えてあるんですか?」
「うん、一応ね」
「何ですか?」
「それは、本人が起きてからね」
その時、インストールが完了。眠っていた神姫が目を覚ました。
「あなたが、私のマスターですか?」
目を覚ましたアーンヴァルMk.2型の第一声だった。
「うん、オレの名前は上木宗哉。よろしくね、エンル」
「エンル……私の名前ですか?」
「そうだよ」
「分かりました、私の名前はエンル。マスターの名前は上木宗哉。登録完了しました」
「マスター、エンルって、ひょっとして……」
「一つ無いから、ね。おかしいかな?」
「いえ、良いと思いますよ。よろしくね、エンルちゃん」
「よろしくお願いします!」
「エンル、二人はスレイニとルミア、君の先輩だ」
「はい! スレイニさん、ルミアさん、マスター! これからよろしくお願いします!」
この日、上木宗哉の家に一人の神姫、天使型アーンヴァルMk.2型のエンルがやって来た。
エンルのこの声は、押し入れの中のクレイドルに眠る一体の天使型神姫にも、しっかりと届いていた。
説明 | ||
外伝。掛け算の先の答えが出ている。 それはつまり、この一話で、続かずにこの話は終わるという事。 本来の物語の前日談になっています。 |
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