fate/zero?君と行く道?
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行間2 白くて紅い過去

 

 

 

夢を見た

悲しい夢を

大切なあの人が苦しむ夢を

父の様で、兄の様な

強くて優しいあの人が

たった一人で泣いていた

でもその顔はとても満足そうで

とても嬉しそうだった

分からない

どうしてそんな顔をしているの?

何がそんなに悲しいの?

何がそんなに嬉しいの?

お願いだから

教えてよ……勇希

 

 

 

 

そこは真っ白な砂漠。

生きとし生けるもの全てが削り取られたかの様な景色だった。

そこに彼は沢山の人達を伴っており、背後に控える人達は全員とても大きな剣や銃を担いでいて、そんな人達の先頭に彼は立っていた。

 

暫くして真っ白な大地に地響きが木霊し、地平線が濁った色に縁取られ、遥か彼方のむこうから異形の群れが押し寄せて来る。

 

 

仮面を被った猿

 

異常に頭部が大きい鮫

 

戦車や戦艦などを滅茶苦茶につなぎ合わせたような怪物

 

鎧を纏った蠍

 

マントを背中から伸ばした虎

 

その他にも一回り小さい怪物がそれこそ数え切れない程に溢れ返っていた。

 

どれもこれも見たことの無い生き物だ。

そんなモノを前にしながら、彼等は顔色一つ変えなかった

彼等はそんな光景がまるで日常の1ページであるかのように澄まし顔で怪物の群れを見据え、次の瞬間、彼を先頭に一斉に駆け出した。向かう先はもちろん怪物の真っ只中。一切の恐れも抱かずにただひたひたすらに前へ前へと進んで行く。

 

彼等は凡そ人の出せる速度とは思えない速さで大地を駆け、敵対していると思しき集団に襲い掛かる。

それは相手にしても同じことで、歪な雄叫びを上げながら化け物達は人間に突進して行く。

 

程なくしてぶつかり合う両者。先制を遂げたのは人間達だった。

各々が携えた巨大な武器で、斬り裂き、貫き、撃ち抜く。

瞬く間に数十体もの怪物が屍と成り果てた。

しかし、彼等が倒したのはまだまだ何百といる内のほんの一部であり、周囲を見渡せば怪物が津波の様に覆い被さって来る。

 

いっそ現実味を感じさせない程に絶望的な光景を前にして、彼等の表情が“一瞬”だけ恐怖に歪んだ。

だけど、彼等は突然同時に同じ方を向いた。視線の先にいたのは黒い髪を背中まで生やした青年。

彼は他の人のモノとは趣の違う黒い剣を振り回して、竜巻の様に周囲の怪物を次々と吹き飛ばして行く。

 

圧倒的

 

その一言に尽きる光景だった。彼はまるで挫けそうになった仲間達を励まそうとするかのように、よりいっそう奮起する。

 

頭上から振り下ろした一撃で猿を左右に両断し、鮫の大きく開いた口に自ら飛び込んで脳天を内側から貫き、巨大な戦艦の様な化け物の腹に剣を深々と刺し込む。

比較的大きな個体ばかりを狙って攻撃し、仲間達の負担を少しでも減らそうと奮戦するその姿に、戦意を取り戻した人達もまた一騎当千の働きを見せた。

近付く怪物も、離れている怪物も一様に作業のような手つきで葬られて行く。

数の差による不利など一切感じさせない勇猛果敢振りで彼等は戦い続け、とうとう怪物の群れは一匹残らず駆逐された。

 

鮮やかな紅で染め上げられた白い砂漠のキャンパスの真ん中で彼等は喜びに打ち震える。

誰一人として欠けることなく戦い抜いた達成感と安心感に涙する人さえもいた。

彼もまたその中で微笑を浮かべていた。

 

暫くして彼等の頭上に沢山のヘリが現れ、戦いで疲れ果てた戦士達を次々と収容していった。

ヘリは暫く飛び続け、やがて大きな壁で囲まれた街に辿り着く。

その中の中央に聳える大きな建物にヘリは着地し、乗組員は次々と屋内に入って行った。

 

また暫く歩いていくと、大きなエントランスのような部屋に辿り着き、その場に集っていた人々が一斉に歓声を上げた。

 

「良く帰ってきた」「また会えて嬉しい」

 

各々が知人、友人、家族、恋人と思しき人々に駆け寄って行く中、彼一人だけはその場に一人で佇んでいた。

まるで彼の存在が忘れ去られ、その場に置き去りにされたような光景は見ていて楽しいものではない。

なのに彼はやはり笑っていた。目の前で幸せそうに笑い合う人々を眩しそうに眺めている。

一番頑張ったのは彼なんだから、混ざった所で文句を言う人なんていないだろうに、彼は意図的に彼等に近付こうとはしない様子であった。

 

自分を邪魔者のように卑下して孤独に甘んじながらも彼は幸せそうだった。

だけどその一方で、彼の表情は何かを羨み、思い焦がれるような感情を暗に含んでいるようにも見えた。

 

 

 

場面は変わって彼はまたヘリの中にいた。だけど他に同乗している人はおらず、彼は一人だけでどこまでも続く白い大地を眺めている。

これが雪景色とかなら趣の欠片もあったのだろうけど、広がっているのはそんなモノとは程遠い死んだ大地。

いい加減に見ていて気が滅入って来たのか、彼は目を瞑って風の音に耳を傾ける。

 

 

そこで再び場面が変わり、今度はさっき見たモノとは違う建物の中だ。

そこで彼は年配の男性と握手を交わしていた。男性は笑顔を浮かべていたがその表情はどこかぎこちなく硬質で、上っ面だけのものであることが丸分かりである。

これが虎の威を借る狐の表情なのだろう。当然彼もそのことに気がついていて、若干苦笑しながらも不満を露わにするような真似はしなかった。

 

その後、男性と軽く会話すると、彼は一礼して部屋から立ち去り、長い廊下を静かに歩く。

そして何故か道行く人々が彼が通り掛かるとおかしな視線を送る。

彼には別段変な点は見られないし、何かしでかした後でもない。ならばどうして皆して彼に珍獣を見るような視線を向けるのか?

 

疑問に思っている間に再び景色は変わり、また白い砂漠のど真ん中だ。

彼は以前のように大勢の人々を引き連れているが、今回は前とは違い、彼以外の人々の表情には不安の色が見えた。

それを振り返りながら、彼は憂いの表情を浮かべる。

彼も不安なのだろうか?ならば恐らくその不安の原因は後ろの人達にあるのだと思う。

彼は以前のように奮闘するだろうが、腰の引けた人達はそうもいかない。

以前は仲間達も勇気を出してくれたが、この人達が同じようにしてくれるとは思えない。

 

でも彼は不安だからといってその場に立ち尽くすことはしなかった。

意を決したように地平線を睨み付け、地響きを立てながら迫って来る怪物の群れと向き合う。

相変わらずの津波のような猛進に、彼は黙して佇み、背後の人々は絶望に顔を蒼白に染める。

彼は早々に戦意を失った人達に檄を飛ばすようなことはせず、何も言い残さずに駆け出した。

 

後ろに続く人達もいない。たった一人による特攻。あんな怪物を相手にそれがどれだけ無謀な行為であるのか一々言うまでもない。

だけど彼は別段やけになったようにも見えなかった。

その目は強い光を灯し、その表情は湧き上がる闘志を疑わせない凛とした佇まいで、その歩みに恐れは無い。

一歩一歩踏みしめて、彼は自分が定めた敵に向かって咆哮する。

その雄叫びは人間も怪物も一様に恐れをなすような、覇気を含んでいた。

 

そして彼が剣を振り上げて、敵の群れと激突する直前に、それが夢であることに私は漸く気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

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