勇者伝説セイバスター 第8話「死へと誘う者」
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第8話「死へと誘う者」

 

 その男は、突然街に現れた。

 

 人と車がせわしなく動く街の中に、どこからやってきたという訳ではなく、その場に音も立てずに現れたのだ。

「うわあっ!」

「ここが『青の星』の街か……」

「な、なんだ……?」

 人々はいきなり現れた男に驚き、ただあ然と眺めていた。

「……うるさい……何とも雑音にまみれた世界なのだろうか……」

 男は黒いマントを身にまとい、背中には巨大な鎌を背負っていた。その姿はたとえるなら『死神』と言った所だろうか。

「邪魔な者はすべて排除するか。我々の目的のために……」

 そういって男は車道に向かって歩き出した。

「なっ!?」

 歩道から出てきた男に驚き、車は急ブレーキをかけて止まる。

「なにしてやがる! 死にてーのか!?」

「『死』だと……? お前に『本当の死』というのがわかるのか……?」

 運転手は男に向かって怒鳴りつけたが、男は『死』という言葉に反応し、顔を強張らせる。

「はぁ? 何言ってやがるんだ。そこをさっさとどけ!」

「貴様がどくんだな……」

 男がそうつぶやいた瞬間、あたりは閃光に包まれた。

「な、なんだ……? う、うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 運転手は閃光の中で悲鳴を上げる。その悲鳴は、同時に男から遠ざかっていったような気がした。

 

 

「これが、昨日起こった事件です」

「とても人間がやった仕業とは思えんな……」

 石橋はモニターに映る惨劇をじっと見詰めながらつぶやく。

 モニターの中、いや、現実に起こった惨劇はあまりにも生々しく、まるで地獄を見ているかのようだった。

「だから、地球外知生体の仕業だっていってるでしょう」

「おお、そうだったな。すまんすまん」

 石橋は、半分わざとらしい応答を返す。

「はぁ……(大丈夫かな?)」

 そんな石橋に、HBCスタッフは完全にあきれていた。

「それより、神波君に伝えておいてくれないか? 『B−プロジェクト』はどうなったか、とな」

「『B−プロジェクト』なら順調に進んでますよ」

 石橋がスタッフに伝言を頼んだその時、グレートオーダールームに神波が顔についたオイルを拭きながら入ってきた。

「おお、神波君。噂をすれば何とやら、というものか」

「ハハハ……たまたまですよ」

 石橋の軽い冗談に、神波は軽く笑ってあしらった。

「ところで、石橋司令官。B−プロジェクトを進めるにあたって必要なデータが……」

「わかった。そこにあらゆるデータが入ってるから必要な物だけ持っていっていいぞ」

「ありがとうございます」

 神波は礼を言うと石橋の指差したコンピュータをいろいろと操作する。

(しかし……)

 その光景を見ていた石橋は、急に表情を変えて深刻に何かを考えはじめた。

(いまさらB-プロジェクトを再開させるなんて……自分でもよく分からないな。いくら嫌な予感がするとはいえ……)

「あの……石橋司令官?」

「ん? ああ……」

 石橋はスタッフに呼ばれて、少し我に帰る。

「どうしたんだ?」

「大丈夫ですか? いつもの司令官らしくないですよ」

「いや、少し考え事をな……」

 石橋はスタッフに返事をするものの、まだ考え事をしているかのようだった。

「あの……?」

(私の考えが、杞憂で終わればいいのだがな……)

 スタッフに話しかけられたのに全く気づかずに石橋は軽くため息をついた。

 

 

 一方、ここは瞬治と誠也の通う新泰原第一中学校。瞬治と誠也のいるクラスで先日起こった謎の事件の話題が少し盛り上がっていた。

「……だから、何でこんなことするんだろーな?」

「そんなん知らねーよ。だいたい、他の奴等がどうなったっていいだろ?」

「俺達には関係ねーんだからよ。自分が助かりゃいいんだから」

「それもそうだな。ハハハ……」

 無責任な口調で会話をしている他の生徒に対して、瞬治は少しあきれを感じていた。

「どうしたんだ、瞬治?」

 と、そこに誠也が近づいてきて話しかけてきた。

「いや、こんな話しかできないあいつらがちょっとうっとうしくなっただけだ」

「あいつらはいつもああじゃないか。気にすると毒だぜ」

 誠也はそういいながら近くにあった椅子を引き寄せて瞬治の前で座る。

「まあな……」

 瞬治は思わずため息をついた。

「それよりさ、この前の事件、どう思う?」

「あの事件か。確かに普通じゃ考えられないな」

 瞬治は話しながら体勢を変える。

「俺の勘だけど、あの事件おこしたのは新たな敵じゃないかと思うんだ」

「新たな……敵?」

 誠也の言葉に瞬治は顔を強張らせる。

「だってよ、この事件、どうかんがえたって人間の仕業じゃねーし、だったら地球外知生体だろ?」

「確かにそうだな」

「だけど、この事件は今までの地球外知生体のどのやり方にも当てはまらない。ということはそういう風に考えるしか……」

「ほらほら、早く席につけ〜。チャイムはもう鳴ったんだぞ」

 誠也が言いかけたその時、次の授業の先生が教室に入ってきた。

「やべっ……じゃ、瞬治、また後でな」

「おう……」

 誠也が瞬治に向かって手を振るので、瞬治は返事と共に誠也に向かって軽く手を振った。

 しかし、頭の中では誠也の言った『新たな敵』という言葉が何度も響いていた。

「……新たな敵、か…………」

 

 

 ここは空人達の通う南立葉小学校。ここでも生徒達の間では全く同じ話題で盛り上がっていた。

「それで、空人はどう思うんだ?」

「えっ、う〜ん……」

 力也にいきなり話題を振られて空人は少し悩む。

「やっぱり、悪い人の仕業じゃないの?」

「そんなことぐれー、誰だってわかってるだろ。そうじゃなくて、ほら、例えば宇宙人の仕業だったり……」

「もしかして、とんでもない犯罪計画の始まりとか……」

 恭子が冗談交じりで自分の意見を話す。しかし、その言葉に返事するものはいなかった。

「……ちょっと、無視しないでよ」

「私は聞いてたよ」

 その時、晴香がニコッと笑って恭子に向かって返事した。

「晴香……やっぱりあんたは私の友達だわ」

「うん、友達だよ」

 晴香はそういって再び笑顔になる。

「………………」

「………………」

 それを見てた空人と力也が思わず見とれてしまう。

「それで、何の話だったっけ?」

 しかし、晴香が次に言った言葉で空人達は激しくズッコケてしまった。

「は、晴香……」

「前にも同じセリフを言ってたぞ……」

「あ、思い出した。この前の事件のことだよね?」

 やっと晴香は何について会話をしていたのか思い出した。

「思い出した? それについて話してたってこと」

 恭子はそう言いながら体勢を立て直す。

「これがなけりゃ文句ないんだけどな……」

「そうかな? 僕は今のままの晴香がいいと思うけど……」

 空人の言ったことに恭子と力也が敏感に反応した。そして空人に耳打ちするようにこう言った。

「相変わらず仲いいな、空人」

「ホント、仲がいいわね。もしかして付き合ってる?」

「ええっ!? そ、そんな事ないよ」

 空人はそれを聞いてあせってくる。だが、そんな空人をもてあそぶかのように力也は話を続けた。

「ま、いろいろ頑張れよ」

「なにをがんばるの……?」

「さあ、後は空人が考えることね〜」

 恭子はそう言いながら怪しげな笑みを浮かべる。

「……?」

 晴香はそんな光景を、頭に疑問符を浮かべながらもずっと眺めていた。

 

 

 翌日。事件は新たな展開を起こそうとしていた。

 

 男は再び街に現れ、前回と同じように辺りを閃光に包んだ。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 閃光が終わった後、人々は激しく吹き飛ばされ、辺りの建物はほとんどが破壊されて原形を止めてはいなかった。前回の事件と同様に。

「フン、虫ケラが……貴様らが私にかなうと思っているのか」

 男が微笑したその時、警察が駆けつけて男に向かって銃を構えた。

『そこの男、今すぐ武器を捨てて両手を上にあげるんだ!』

 その中でリーダー格らしき警官がスピーカーを使って男に武器を捨てるよう言った。

「………………」

 しかし、男は警官の言葉に耳を貸すことなくその場にたたずむ。

『聞こえないのか!? 背中に背負っている武器を捨てるんだ!』

「ちょうどいい。貴様らを勇者達をおびき出す『生け贄』としよう……」

 そういって男は警官の方にゆっくりと近寄ってきた。

「く……仕方がない。男の足元を狙って撃つんだ! 間違っても男を撃つな!」

 その言葉を聞いて警官達は男を足止めするために足元を狙って銃を撃った。

「………………」

「なっ……?」

 しかし、男はまったく歩みを止めることなく、逆に今まで背負っていた鎌を手にする。

「まずは貴様からだ」

 男はそういった瞬間、一人の警官を鎌で捕らえた。

「ヒィッ!」

「ま、待て! そいつを傷つけるな!」

「フン……」

 警官の言葉を無視して、男は捕らえていた警官を上に放り上げた。そして次の瞬間、

「うわあっ!」

 男は警官に向かって鎌を一振りし、警官を二つに裂いた。

「あ……ああ……」

 そのあまりにも残酷な光景を目にして、他の警官は恐怖のあまり腰を抜かしてしまう。

「さあ、次は誰だ……?」

「う、撃てー!!」

 警官の掛け声で全員が一斉に男に向かって銃を撃った。

「………………」

 しかし、銃弾は男を貫かず、逆に跳ね返って地面にパラパラと落ちていった。

「そ、そんな……」

「これが貴様らの武器か。弱い、弱すぎるな」

 男は警官達を見下しながら再び鎌を振り上げ、盾にされていたパトカーごと警官を次々と切り裂いていった。

「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

ビーッ! ビーッ!

 

 ほぼ同じ頃、HBCでは非常警報が鳴り響いていた。

「地球外知生体か!?」

「反応はそうでています! しかし……」

 荒井は目の前のモニターにうつる文字の並びを見て口ごもってしまう。

「いくぞ、瞬治!」

「おう!」

 しかし、そんな事はおかまいなしに瞬治と誠也は出撃していった。

「あ、瞬治君! 誠也君!」

 石橋は呼び止めようとしたが時すでに遅く、二人はグレートオーダールームを出ていた。

「……荒井君、本当に地球外知生体なのか?」

「はい。ですが、その地球外知生体は、以前謎の行動を起こしてそのまま消えた『あの地球外知生体』です」

「あの地球外知生体とは?」

 荒井の少し抽象的な言葉に、石橋はもっと具体的にしてほしく、荒井に聞き返す。

「つい先日、謎の閃光を放って多大な被害を作ったあの地球外知生体です。しかもその強さなんですが……」

 そう言いながら荒井はキーボードをたたいてその地球外知生体の強さを画面に表示する。

「強さ? いまさら力を計測したって……」

「いえ、十分に意味があります。その地球外知生体の強さは、少なく見積もっても、今までの地球外知生体の……約十倍です」

「何だと!?」

 荒井の口から出た単語に、HBCスタッフの全員は驚きを隠せなかった。中でも、一番驚いていたのは石橋だった。

 

 

 男が破壊を続けている街中。

 最初のときとは違い、人々は血を流して倒れ、建物はそれが建物だったかわからないぐらい崩れ、街は完全に廃虚と化していた。

「なんとも美しい姿だ……『死』の悲鳴が我が『ヘルズゲート・フルート』に集まってくる……」

 そう言いながら男はどくろのついた横笛を大きく掲げていた。その横笛に人々から浮き出た黒いエネルギーが集まっていく。

「ククク……叫べ、わめけ。そして私に力を与えるのだ」

「やめろ!」

 男が軽く笑ったその時、ヴァリアントセイバスターが男に向かって飛んできた。

「………………」

 しかし、男は全く動じることなくその突進を軽くかわした。

「やっと現れたか。待ちくたびれたぞ」

「それは悪かったな!」

 男が下を向くと、すでに合体して待機していたファイナルセイバスターとレオンセイバスターの姿があった。

「全員でお出迎えか……腕試しにはちょうどいいな」

「に、人間……?」

 空人は男の姿を見て少し驚いていた。その男は人間と同じ姿だったからである。

「いや、人間の大きさをしているが、浮遊しているからどう考えたって地球外知生体だろ」

「お前は誰だ!?」

 ファイナルセイバスターは男に向かって名前を聞く。

「我が名はレクイスト。宇宙帝国デストメアの帝王ヘルゲイズ様に仕えし『邪騎士レクイスト』だ」

「レクイスト……」

 空人はレクイストという名を脳に刻み込むように繰り返して言う。

 そう、男の正体は宇宙帝国デストメアの新たな刺客だったのだ。

「レクイスト! こっちに降りてこい!」

「いちいちうるさいな……それでは、のぞみどおりに降りたとうではないか!」

 レオンセイバスターがレクイストを手招きした次の瞬間、レクイストはものすごい勢いで勇者達に向かって突進してきた。

「なにっ!?」

「最初のターゲットは赤い勇者、お前だ!」

 しかもすでに鎌を手にしており、最初にファイナルセイバスターに向かって攻撃を仕掛けてきた。

「ファイナルブレード!!」

 すかさずファイナルはファイナルブレードを取り出し、その鎌を受け止める。

「ぐっ……」

 しかし、普通に考えれば簡単に弾き返せるその攻撃だったが、どういうわけかレクイストの攻撃は弾き返すことができなかった。

 それどころか、むしろレクイストに押されているようにも見える。

「どうした? 『勇者』の力とはこんなものか?」

 レクイストは鎌に力を加えながら怪しい笑みを浮かべていた。

「くそ……! ヴァリアント、攻撃だ!」

「だが、あの男は……」

 瞬治の指示にヴァリアントセイバスターは少し戸惑う。

 いくら勇者とはいえども、人間と同じ姿でしかも同じ大きさだと攻撃の手を出しづらいのだ。

「ファイナルを押すほどの力があるんだ。今やらないともっと被害が広がってしまうぞ!」

「……了解」

 ヴァリアントセイバスターは仕方なくレクイストに向かって構えを取った。

「ヴァリアントエッジ!!」

 ヴァリアントセイバスターは右腕をレクイストに向かって突き出すと、右腕についていたV字の刃がレクイストに向かって飛んでいく。

「フン……」

「なっ!?」

 だが、レクイストが鎌を持っていない方の手をヴァリアントエッジに向かってかざすと、ヴァリアントエッジは一瞬にして勢いを無くし、そのまま地面に落ちてしまった。

「言っておくが、私はソルダーズやゴルヴォルフほど弱くない。少なくとも貴様らとは互角以上に戦えるのだ」

「くそ……ふざけるな! レオンクロー!!」

 レオンセイバスターは、レクイストに向かってレオンクローで切り付けようとした。

「無駄だ……」

 レオンクローもさっきのヴァリアントエッジと同じように、レクイストに傷をつけることなく弾き返されてしまった。

「ぐわあっ!」

 しかも、勢いあまってレオンセイバスターは後方に倒れてしまった。

「さあ、さっきの続きといこうか」

 そういってレクイストは鎌に力をこめた。すると、徐々にだがファイナルセイバスターが力負けしているのが再び目に見えてきた。

「ぐっ……!」

「ファイナル!」

 その時、ファイナルセイバスターの目に空人の姿が映った。

「空人……そうだ、私は負けるわけにはいかないのだ!」

 ファイナルは気を引き締め、ファイナルブレードに力をこめる。

「……ほう」

 すると、今度はファイナルセイバスターがレクイストを押し返す形になってきた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 そして渾身の力を振り絞ってレクイストを弾き返した。

「なかなかやるな。だが、これはどうかな?」

 レクイストは鎌を上に掲げると、何やら呪文を唱えはじめた。

「なんだ?」

「『暗黒の鎌』よ、負の力を吸い取って巨大化するのだ……」

 すると、レクイストの鎌は暗黒に包まれ、さらにはどんどん巨大化して勇者達並の大きさにまでなっていった。

「で、でかい……」

 全員がその大きさにあ然としていたその時、レクイストは鎌を持ち直してファイナルセイバスターに向かって振り下ろそうとしていた。

「いくぞ……」

「ヴァリアントボウガン!!」

「VALIANTBOWGUN、MACHIN GUN MODE!!」(ヴァリアントボウガン、連射モード!!)

 その時、レクイストが一瞬隙を見せるタイミングを待っていたヴァリアントセイバスターが、レクイストに向かってヴァリアントボウガンを放った。

「ぐうっ!」

 そのうちの一発はレクイストに命中し、残りの弾は鎌に命中した。それによって鎌は元の大きさに戻り、落下して地面に突き刺さる。

「今だ!」

「ドラゴンバーン!!」

「レオンクロー!!」

 瞬治の合図でファイナルセイバスターとレオンセイバスターはすかさずレクイストに向かって攻撃した。

「ぐああっ!」

 油断していたレクイストはかわすことができず、まともにその攻撃を受けてしまって地面に落下する。

「どうだ!」

「………………」

 レクイストは顔を強張らせ、勇者達を睨み付けた。

「私をここまで傷つけたのは貴様らが始めてだ。油断していた私もうかつだったな……」

「へっ、負け惜しみいってんじゃねーよ!」

「それでは、本気で行かせてもらうとしよう……」

 レクイストがそういってレオンセイバスターに向かって手のひらを突き出したかと思ったその時、

「なっ!?」

 

ズガアッ!

 

「ぐはっ!」

 激しい衝撃波がレオンセイバスターを襲い、レオンセイバスターを吹き飛ばしてビルに向かって叩き付けた。

「ぐああっ!」

 レオンセイバスターと融合していた誠也にもその衝撃は伝わり、体中に激痛を走らせる。そしてそのまま崩れ落ち、気絶してしまった。

「レオンセイバスター!」

「誠也さん!」

 ファイナルセイバスターや空人が声をかけるが返事はかえってこなかった。

「くそ! ヴァリアント!」

「ヴァリアントボウ……なっ!?」

「遅いな!」

 ヴァリアントセイバスターがヴァリアントボウガンを放とうとした瞬間、レクイストが目にも止まらぬ速さで目の前に現れ、鎌を使ってなぎ払う。

「ぐあっ!」

「がはっ!」

 その攻撃によってヴァリアントセイバスターも吹き飛ばされ、レオンセイバスターと同じようにビルに叩き付けられてしまった。

「ぐう……」

 ヴァリアントセイバスターと瞬治はかろうじて気絶することはなかったが、それでもかなりのダメージを受けてしまい、立つ事さえもできなくなっていた。

 もっとも、ヴァリアントセイバスターは超AIのため、『気絶』というよりは『機能停止』といった方がふさわしいだろう。

「ヴァリアントセイバスター!」

「瞬治さん!」

 二人は慌ててヴァリアントセイバスターに近寄った。

「どうだ……」

 そんな光景を見て、レクイストは冷たい笑みを空人達に見せる。

「くっ……」

 二つの強烈な光景を目にして空人は怒りを覚え、レクイストに向かって走りだした。

「もうやめて!」

 そして、何を思ったのかレクイストに向かって叫びはじめた。

「貴様は……そうか、『勇者』と共に戦う者か……」

「どうしてこんなことするの!? 人を傷つけて楽しいの!?」

 空人は、震えた声でレクイストに向かって大声で質問を叫ぶ。

「なぜこんなことをするか……答えは『我々の住みやすい世界にするため』だ。人を傷つけて楽しいか……答えは『当たり前』だ」

「!!」

 レクイストの答えに、空人はひどく驚いた。自分が予想していた答えとは違っていたからだ。

「そんな……そんなの間違ってるよ!」

「貴様らにとってはそうかもしれない……だが、我々にとってはこれが当たり前なのだ。当たり前のことをしてなにが悪い?」

 レクイストは、空人の言葉に全く屈することなく反論する。

「ここは地球なんだ! あなた達の星の当たり前とは違うんだ!」

 空人はレクイストに向かって何度も何度も大声で叫んだ。レクイストに自分の思いを分からせるために。

「貴様は宇宙に住む全ての生物が友好的な存在だと思っているのか? それこそ間違っているな。

確かに広大な宇宙には友好的な存在もいるが、大半は他の星を支配しようと常に戦争を仕掛けている」

「戦いで他の星を支配しようなんて、間違ってる!」

「………………」

 空人の言葉にレクイストはしばらく黙り込んだ。だが、すぐに口を開いたかと思うと今度は空人も思いがけない言葉を口にした。

「貴様に何を言っても無駄か……どうやら私の『ヘルズゲート・フルート』の餌食にならないとわからないようだな」

「え?」

 空人が一瞬小さく驚いたその時、レクイストはどくろの飾りがついた笛『ヘルズゲート・フルート』を手にする。

「『観客』はあの少年一人。さあ、始めようではないか。独奏曲第一番『恐怖』……」

 そして何やら音楽の名前らしき言葉をつぶやくとその笛を使って演奏を始めた。

「なんだ……?」

 レクイストが演奏しはじめたその曲は非常に重々しく、哀しい雰囲気を漂わせて辺りに響く。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 その時、空人が激しく絶叫した。

「空人、どうしたんだ!?」

「ああぁぁぁぁぁぁぁ……」

 ファイナルセイバスターは空人に声をかけるが、空人は全く返事をしないで激しく、何度も絶叫する。

「空人!」

「いやだ……いやだあぁぁぁぁぁぁ!!」

 空人は何かに怯えるようにその場にうずくまってしまった。

 

 

 時を少し前に戻し、空人の視点で見てみよう。

「なんだ、この音楽……?」

 空人はレクイストの演奏する音楽に引き込まれ、しばらくボーッとしていた。

「え?」

 だが、いきなり足を誰かに掴まれた気がして足元に目を向けた。

 すると、そこには地面から出てくる腐敗した人、つまりゾンビが空人の足を掴んでいたのだ。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 空人はそれに驚き、慌ててそれを振り払った。だが、

「う、うう……」

 ゾンビ達は地面から次々と現れ、空人にしがみついてきた。

「や、やめて!」

 空人は怖がりながらも振り払う。しかし、次から次と出てくるゾンビ全てを振り払うことはできず、とうとう全方向を囲まれてしまった。

「……え?」

 しかも、よく見ると目の前には自分と同じ姿をした少年がいた。

「僕……?」

 そう、それは紛れもなく空人だったのだ。

「そう、我はお前……だが、我は恐怖に支配されたお前だ……」

「恐怖に支配された僕……?」

 少年の言葉に、空人は今まで感じたことのない悪寒を感じた気がした。

「お前も恐怖に支配されるのだ……そうすれば、戦わなくていいのだ……地獄に堕ちてな……」

「そんな……」

「恐怖に陥るがいい……!」

 最後に少年は低く、重い声でそういったかと思うと、急に顔が崩れてまわりと同じようにゾンビと化した。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 さらにそのゾンビは空人につかみ掛かり、空人を自分の方へと引きずろうとする。

「恐怖に心を奪われよ……」

「勇気を失うのだ……」

「いやだ……いやだあぁぁぁぁぁぁ!!」

 空人は激しく絶叫し、その場にうずくまってしまった。

 

 

「貴様……空人に何をした!」

「その少年は、この笛が奏でる『恐怖』のイメージに取り付かれた。しばらくは直ることがない」

 レクイストは演奏を止め、ファイナルセイバスターの質問に答えた。

 だが、レクイストが演奏を止めたにもかかわらず空人はいまだに恐怖に怯えていた。

「貴様……うっ!」

 ファイナルセイバスターがレクイストに向かって攻撃しようとしたその時、ファイナルセイバスターの体に異変が起きた。

「ファイナル、どうしたんだ?」

 ヴァリアントセイバスターが声をかけるが、ファイナルセイバスターは体を抑えたまま返事をしない。

「ぐ……うあぁぁぁぁぁぁ!!」

 ファイナルセイバスターが激しく絶叫したかと思うと、ファイナルセイバスターは合体が強制解除され、ファイナルとセイバードラゴンに分離してしまった。

「ぐはあっ!」

 しかもファイナルはかなり高い位置で合体を解除され、自由落下して地面に叩き付けられてしまった。

「う……ぐ………」

「勇者は全員ゲームオーバー……あっけないものだな……」

「く……」

 意識がはっきりしている瞬治とヴァリアントセイバスターは、レクイストの言葉を聞いて反撃の構えを取ろうとする。

 しかし、思うようにに体が動かずにいたため、全く構えをとる事ができない。

「安心しろ。今日はこれで引き上げてやる。だが、次に会うときは命がないと思うんだな……」

 レクイストはそう言い残してその場から去っていった。

 勇者達は多大なダメージによりまともに動けず、空人達も精神的に激しく傷ついていた。

「ああ……ああ……」

 中でも空人はいまだに『恐怖』のイメージを拭い去ることができずに怯えていた。

「空人! しっかりするんだ、空人!」

 その時、瞬治がヴァリアントから降りて空人に近づく。だが、瞬治の呼び掛けにも返事をしないで怯えきっていた。

「いやだ……いやだ……いやだあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 空人の絶叫が、辺りに虚しく響いた。

 

第9話に続く

 

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次回予告

 

…僕、空人。

 

怖い……怖いよ……なんで僕がこんな怖い思いをしなくちゃいけないの……? もうやだ……戦いたくない……

…晴香、泣いてるの? なんで………今の僕は『勇者』じゃない? ……そう、そうだよね。

勇気をなくしたら、勇者じゃなくなっちゃうよね。ごめん、晴香。そうだね、忘れてたよ。僕も『勇者』なんだ!

だからファイナルやみんなと戦っていたんだ!

ありがとう、晴香! 僕、またファイナル達といっしょに戦うよ! この地球を守るために!

 

次回、勇者伝説セイバスター『燃え上がる烈火』

 

僕と一緒に、「ファイナル・ブレイブ!!」

説明
アニメ『勇者シリーズ』を意識したオリジナルロボットストーリー。中学生の頃に書いていた作品なので、文章の稚拙さが著しいのでご注意を。
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オリジナル勇者 連載 勇者伝説セイバスター 

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