魔法少女リリカルスバル〜Guardians〜 第一話『星屑の姉妹』 |
魔法世界、第一管理世界ミッドチルダ。
我々の暮らしている世界(彼らからすれば第97管理外世界ともいわれる)とは、文化も文明も良く似ているが、大きく違うところがある。
魔法世界の名が指すとおり、魔法が広く一般的に普及しており、また魔法を中心とした社会構造が成り立っているからだ。
だが全てが魔法に依存しており、全ての人間が魔法を使えるかと言われればそうでもない。
訓練や練習などを積まないと使えないのはもちろんであり、電気や燃料などを利用した道具も広く普及している。
また、魔法が普及しているからこその犯罪も跡を絶たない。
各世界の文化管理や災害救助、そして次元を超えた様々な世界の管理を目的とした、時空管理局が設立されている。
道路が舗装されていることから、車が普及していることも明らかだ。
色や形がさまざまな車が道路を行き交っている。
ここはミッドチルダの中でも特に大きいと言われる町、クラナガン。
いわゆる首都のようなもので、人口や建物の規模もかなりのものであり、時空管理局の地上本部もある。
そしてクラナガンの大きな道路を走る多くの車の中の一台。
運転しているのは白髪が特徴的な中年の男性、助手席には青紫の長くてきれいな髪が特徴的な女性、年齢は20歳間近の10代後半といったところだ。
父親のゲンヤ・ナカジマと、娘のギンガ・ナカジマである。
しかし親子と言うのにあまり和気藹々と会話はしていないようである。
ゲンヤが運転に集中しているというのかもしれないが、どちらかといえばギンガに原因があるのかもしれない。
ギンガはさっきから窓に頬杖をついて、クラナガンの街並みの光景に目を向けている……。
「ところでどうなんだ最近?」
沈黙に耐えかねて、ゲンヤがギンガに尋ねる。
「なにが?」
「おまえももうすぐ二十歳(はたち)なんだろ?"そういう"相手とかがいる話とか浮かばねぇのかって思ってな」
溜息をつきながらゲンヤの方に顔を向けるギンガ。
「"そういう"相手が私にできてほしいわけなの? 父さんは?」
「そりゃ、父親としては複雑だがな。けど、いつまでたっても家族一緒っていうのもどうかと思ってな……。お前が本当に好きな人で、俺が任せられると思う相手なら、考えてやらんことないと思ったわけだが」
「なのはさんだって独身でしょ」
また窓の方へと顔を向けるギンガ。
今度はゲンヤが溜息をついた。
「けどどう考えても高町の嬢ちゃんには相手がいるだろ?ほら、無限書庫のスクライアの坊主……」
「でもなのはさんはユーノ先生のことを『お友達』だって……」
「そういうのは表向きだけだぞ……じゃあおまえがスクライアの坊主とくっつくか?」
「ふざけないでよ」
「いいやふざけてない。スクライアなら確かに金と地位はもちろんだが、以前会った時にも良い奴だと確信したしな」
「あの人にはなのはさんやフェイトさんとかが似合うから、私じゃ規格外でしょ」
またしても会話が止まってしまった……。
さきほどとは打って変わって、ゲンヤは重い口を開いた。
「"責任"なら、感じることないんだぞ……おまえが……」
「……」
ゲンヤが"責任"と言うように、ギンガはあることを後悔しており、責任を感じている……
「誰もおまえを責めたりしないのだから」
「わかってるわよ……」
「現におまえ、あの元ナンバーズの子らの更生プログラムに名乗り出たりと責任なら」
「あの子たちの面倒は責任から引き受けたわけじゃないわ!あの子たちには、人間として生きたいように生きてほしい、それだけなのだから」
若干語尾を荒くしてギンガは話す。
だが、すぐに静かになり……
「でも、あの子たちしっかりしてるから……お姉さんとか必要なかったかも……」
「ギンガ……」
一年前、「JS事件」と呼ばれる事件が起こった。
その過程でギンガは拉致され、"再処理"を施され、妹を襲ってしまったことがある。
自分が守るべき存在である妹を……
結果は妹の奮闘によって、ギンガの"再処理"は解かれ、リハビリを経て現在の健康に戻っている。
だが、心にできた傷は大きすぎて、そして「妹に救われる」といううれしくも苦い経験が残った……。
この事件の首謀者、ジェイス・スカリエッティに、文字通り"道具扱い"されていた戦闘機人と呼ばれる人造生命体の少女たち、「ナンバーズ」の更生プログラムの担当に名乗り出たのもギンガだ。
それはゲンヤの言うように責任を感じてのものでもあり、また自分で言ったように「人として生きてほしい」という純粋な思いもあっての行動であった。
しかし、心の奥底では、未だに捨てきれなかったのかもしれない。
<姉>という立場を……
「これはどう?」
「ちとノーヴェにそれはかわいすぎるんじゃねーか?」
今日は二人で、新しく加わる家族の皆の日用品を買うため、クラナガンの有名なデパートに来ていた。
新しい家族というのは、ギンガの担当した更生プログラムの子たち、元ナンバーズの少女たちである。
「スバルのお古をあげるってのもあったんだがなぁ」
「それは絶対嫌がるよ……」
「にしてもだ、うちも一気に大所帯になるもんだなぁ」
一通りの買い物を終え、一階の食品街の中の喫茶店で二人は向き合って座っている。
四人席用のテーブルを挟んでいるが、二人の隣には山積みの買い物袋が席を陣取っている。
「そうねぇ、私とスバルに、ノーヴェ、ウェンディ、ディエチ、チンク、それとお父さんで六人家族になるものねぇ」
「こんだけ居て男が俺だけというのもおかしい話だな」
「あら?美人姉妹達の父親という恰好のポジションなのだから喜ぶのかと思ってたよ」
「自分で美人言うな、あほらしい。まあ、みんなある程度成長しているからまだいい方だな。おまえとスバルがチビのころは本当に大変だったからなぁ……」
「うっ……ま、まあスバルは本当に手がかかったわね」
「おまえもだギンガ」
ナカジマ家で引き取る戦闘機人は四人。すでにギンガとスバルという二人の姉妹がいるだけあって、ゲンヤの言う様に大家族になるのは間違いない。
幸い全員の勤務先も就職先も安定しているため、当分は財産的に困ることもないだろう。
もっとも、すでにスバルとギンガがかなりの大食いであるため厳しい生活になるのかもしれないが(現に今ギンガはゲンヤの目の前で四つ目の皿を空にしている)。
部屋もある程度は確保できたが、一部は部屋の共有になるのかもしれない。
「おまえたち姉妹には本当に振り回されたからなぁ……まあおかげで今のおまえたちと俺があるわけだからいいんだが」
「ご迷惑をおかけしました」
不愛想にギンガが答える。
いつまでもじゃじゃ娘のように扱われるのは気に食わないだろう。
だが……
「でも……」
「ん?」
「母さんは、全然大変とは思わなかったのかな……」
「……」
飲みかけていたコーヒーカップを置き、窓の外に目を向けるギンガ。
一階であるため、歩行者や車の流れが後を絶たない光景だ。
だがギンガの目には歩行者も車も映っていなかった。
まるで何か、そこにはない何かを探しているような目だった。
ゲンヤが何か言おうと口を開いたとき……
突然爆音が鳴り響いた。
港湾警備隊・防災課特別救助隊セカンドチーム。
時空管理局において最大規模と言っても過言ではない救助部隊。
レスキュー隊員を目指している者にとって、憧れの部隊でもある。
「うーん! 絶好の晴れ日和!!」
その特別救助隊に所属する少女、スバル・ナカジマ。
先ほどのギンガ・ナカジマの妹であり、ゲンヤ・ナカジマの娘でもある。
16歳という若さでありながら、救助部隊の中でもトップの実力を備えている。
青空を見上げてぐーんと背を伸ばし、ストレッチをするスバル。
青いショートヘアが日光を浴びて輝いている。
「アラートはかかってないようだから、ちょっとしたウォームアップはできるかな〜」
「何にも事故や災害がないのは平和で一番なんだけどね〜。書類もなんとかまとめられたし……」
見ての通り、救助隊のエースとはいえじっとすることが苦手な16歳の女の子である。
活発的な性格とその髪形から、少年と間違えられた事もあるとか?
ちなみに彼女、デスクワークが苦手。
机に座ってものを書いたりするよりは、こうして動く方が好きなのだ。
「ギン姉とお父さんは、今日確かみんなの分の買い物に行っているんだったよね。えへへ、楽しみだな〜新しい家族の生活♪」
すでに更生プログラムを終えたナンバーズの子らのことはスバルは知っている。
正確に言うと、先のJS事件の時、スバルはナンバーズの子らと戦っている。
かつては敵同士だったが、今は全く敵対心を抱いていない。
スバルはすでに更生施設に顔を出し、少しでも仲良くなろうとナンバーズの子たちと交流を取っている。
体を伸ばしたり曲げたりし、屈伸し、よしっと息を整えるスバル。
「休憩はここまで! お仕事をもう少しがんばろっと!!」
そう言いオフィスに戻ろうとした時。
突然の爆音だ。
「な、なな何!?」
町の方へと目を向けると黒煙が立ち上っている。
何かが爆発したのであろう、スバルが理解した瞬間、アラートの警報がオフィス内に鳴り響く。
「ソードフィッシュ! 動要請!!繰り返す、ソードフィッシュ出動要請!!」
ソードフィッシュ、スバルの所属する小隊でもあり、スバル本人のことでもある。
先ほどまでの少女の顔から、スバルの顔は救助隊員の顔に変わっていた。
「なんだ今の爆発は!?」
驚愕の声を上げながら立ち上がり、クラナガンの街並みへと注意を向けるゲンヤ。
周囲の客達もざわめき、窓の外にもパニックになっている者が見える。
黒煙が立ち上っているのがハッキリ見えることから、どうやらクラナガンのどこかで爆発が起こったのかもしれない。
距離的にはここのデパートから近いのだろう。
(このままじゃ二次災害が!!)
ギンガは爆発現場に一刻も早く向かいたいと思った。
いつの間にかさっきまでの憂鬱な気分もなくなっていた。
「ラッド! 聞こえるかラッド!!」
振り向くとゲンヤが通信画面を開き、黒髪の青年と対面していた。
『隊長! 今どちらに?』
ラッドと呼ばれるこの男性は、ゲンヤが隊長を務める陸上警備隊第108部隊の隊員だ。
ゲンヤが最も信頼している部下の一人でもあり、更生プログラムの件ではギンガもお世話になったことが何度もある。
「センターデパートビルの一階だ」
『とすると、現場のすぐ近くですね』
「何があったんだ?」
『原因は不明ですけどクラナガンの医療施設で爆破事故が起こったようなんです!現在解明中ですけどロストロギアの危険性があるかと』
(医療施設? どうしてそんなところで爆発が?)
ギンガは疑問に思ったがゲンヤとラッドの会話は続いた。
「俺とギンガが今の所一番近い。俺が現場の臨時指揮をとるから、108の連中をかたっぱしから声かけてくれ!」
『了解です、すでにマッシュとダリルとギブソンが向かっています!』
「手際がいいな、また連絡を頼む!」
『はいッ!』
あっという間にやりとりが進み、最後は敬礼で締めて画面を閉じた。
「行って来いギンガ」
ギンガは引き締まった表情で頷き、すぐさま駆け出した。
デパートを出て、パニックで流れる人々の群れをかき分け、爆破現場へと走る。
黒煙も大きくなり、だいぶ距離も近づいた。
走りながらもギンガは自分の首にかけてあった水晶のようなものを手につかんだ。
「ブリッツキャリバー!! セットアップ!!」
ギンガの身をまとっていた衣服が一瞬消え、すぐさま魔力の光が全身を包む。
水晶の輝きは胸から腰へ、腰から足へ、肩から腕へと広まる。
純白のスーツが全身を構築していき、胸と腰にプロテクターが装備される。
さらに紺色の短い上着が羽織られる。
そして両足には機械を内蔵していそうな重圧のローラースケート、左腕にはこれも機械を内蔵していそうなナックラー、リボルバーナックルが装着される。
一瞬のできごと、一瞬のうちに以上のプロセスを経て、ギンガはバリアジャケット=魔力製防護服を構築、瞬時に身にまとう。
ギンガは足のローラー、ブリッツキャリバーを稼働させ、一気に加速する。
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JS事件解決から一年後……少女たちに再び試練が訪れる | ||
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