天の迷い子 第十四話
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「なぁーーにをしていらっしゃいますの!!?劉備さん、白蓮さん!貴女方が不甲斐無く華雄さんに抜かれてしまった所為でわたくしの軍にまで被害が及んでしまったんですのよ!?まったくあなた達はせっかくわたくしが先鋒に抜擢して差し上げたのにその期待に応えられないばかりか、わたくしに迷惑をかけるなんて、情けないとは思いませんの!!?大体あなた達は…………………。」

 

ヒステリックに延々とまくし立てる袁紹。

正直な話、他の諸侯達もうんざりしていた。

劉備や公孫?の失態に対する罵声ではなく、華雄に自軍をいい様にかき回された憂さ晴らしと言った方が正しいかもしれない。

 

「麗羽、そろそろいいかしら。」

 

袁紹の罵倒がループし始め、とうとう本人も何を言っているのかわからなくなり始めた時、曹操が声を挙げた。

 

「劉備・公孫?の失態については今は置いておいて、水関攻略について、明日からの方針を考えたいのだけれど。いくらまだこちらの兵数が圧倒的に勝っているとは言え、長期戦になればこの連合そのものに亀裂が入りかねないわよ。」

「そんなもの決まってますわ。劉備さん、白蓮さん、明日中に水関を落としなさいな。」

「そ、そんな一日でなんて無理に決まってます!」

「出来ないのならあなた方の軍の存在を無視してでも本隊を動かすしかありませんわねぇ。」

 

その言葉に劉備と公孫?の顔は真っ青になった。

つまり一日で落とさなければ連合本隊を動かし踏み潰す、と。

しかし、

 

「やめておきなさい。どうせ今日の二の舞になるだけよ。そんなことをするくらいなら、私を水関攻略の前線指揮官にしなさい。そうすれば…そうね、十日…いえ、五日で落として見せるわ。どうかしら?」

 

と、曹操が提案する。

 

「華琳さんがそうおっしゃるなら別に構いませんわ。た・だ・し、失敗したらわかっていますわね?」

「ふん、私を誰だと思っているのかしら。失敗なんてするはずが無いでしょう。」

「それでは、期待していますわ。お〜〜〜〜〜ほっほっほっほっほっほ!!」

 

袁紹は高笑いを残して天幕へと消えていった。

 

「すまないな、曹操。迷惑をかけた。」

「ありがとうございます、曹操さん。私達の為に。」

 

そう言って、二人は頭を下げた。

 

「ふう、何を言っているのかしら。私は別にあなた達を助けるために自分を指揮官にと言った訳ではないわ。」

「えっ?でも…。」

「あなた達が無駄に時間をかけて、しかも敗北し華雄の部隊を本陣まで攻め込ませた事で、否応無くあの水関の価値は上がるわ。それを考えれば、次の飛将軍・呂布の護る虎牢関を攻略するよりも、水関を落とした方がこちらの被害と得られる名声を考えれば利が大きいと判断しただけよ。そもそも私は名を上げるためにこの連合に参加したのだから。」

「そんな…。それじゃあ曹操さんは洛陽の人達が苦しんでいるのはどうでもいいって言うんですか!?私達のみたいな力のある人間が弱い人達を護ってあげないといけないのに!」

 

曹操の言葉に劉備は怒りをあらわにする。

 

「民を護るには強い力が必要よ。半端な力しか無い者が誰かを護るなんて傲慢もいいところだわ。私はこの戦いで力を手に入れる。もちろん本当に洛陽の民が暴政に苦しんでいるのであれば、その為の援助はするつもりよ。≪ぼそ≫本当にそうなら、ね。」

「えっ?今なんて…。」

 

それには答えず、曹操はくるりと踵を返す。

 

「作戦は後で伝令を送るわ。それまで身体を休めておきなさい。」

 

振り向きもせずそう言うと、そのまま自分の陣に戻って行った。

 

「白蓮ちゃん、私の理想は傲慢なのかな…?」

 

肩を落とした劉備が公孫?にそう尋ねる。

 

「そんなことないさ。桃香の理想は素晴らしいと私は思うぞ。少し曹操とは考え方が違うだけさ。ほら桃香、民をこれから笑顔にして行こうって奴がそんな顔してちゃ駄目だろ?」

 

ぽんっ、と劉備の背中を叩く。

 

「白蓮ちゃん…。そうだよね、私の理想は間違ってないよね。そうだよ、皆を笑顔にして行こうって言ってるのに落ち込んだ顔してちゃ駄目だよね。ありがとう白蓮ちゃん。」

 

そう言って笑顔に戻った劉備は、自分の陣に戻って行った。

 

「…曹操のことだ、麗羽みたいに無茶なことは言わないだろうけど、かなり危険な任務を与えられるかも知れない。桃香は親友である私が護ってやらないとな。」

 

硬い決意を胸に、心配そうな表情の公孫?がそう呟いた。

 

 

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翌日から連合軍の攻撃が始まった。

先日までの半端な攻撃とは違い、本格的に関を落とす為の攻撃。

華雄隊の突撃によって二千ほどの兵が減ったとはいえ、劉備・公孫?の混成部隊は未だ一万六千程も残っている。

それに加えて曹操軍が約一万二千、さらに各諸侯達から補充された兵が約七千で合計にすればおよそ三万五千の軍勢である。

さらにそれぞれの軍には優秀な将が揃っている。

まずは白馬長史と呼ばれる公孫伯珪。黄巾の乱で名を上げた、青龍刀の関雲長に蛇矛の張翼徳。さらに常山の昇り竜・趙子龍。そして、曹孟徳に仕える三大将軍、大剣の夏候元譲、弓の名手・夏候妙才、馬上槍の曹子孝。

これだけの名将・猛将が揃っている上に、伏龍・鳳雛と呼ばれる諸葛孔明に鳳士元、曹操に我が子房と言わしめた荀文若という名軍師が名を連ね、さらにはそれを率いるのは、万能の天才・曹孟徳。

これは、主だった将が張遼と華雄の二人しかいない董卓軍にとっては、五千程度の兵数の差など無きに等しい物どころかもはや圧倒的不利な状況であると言えるだろう。

 

 

曹孟徳が指揮を執ることになって五日目。

袁紹に曹操が落としてみせると宣言した最後の日。

ついに曹操が動いた。

劉備・公孫?が軍を分け、後退する。

それに合わせ、夏候惇の部隊が前進。前の部隊と入れ替わった。

入れ替わってすぐに銅鑼の音が響く。

すると、水関の左右の崖にそれぞれ千人程度の別働隊が現れた。

すぐさま董卓軍は兵を割き、迎撃に当たらせる。

しかし、次の瞬間

 

ボフンッ!!

 

何かが破裂するような音と共に、関の前の視界が遮断された。

もうもうと煙が立ち込める。

 

「よっしゃ!!成功や!真桜ちゃん印の煙幕玉!よお見ときや!!」

 

それは、曹操軍が誇る発明家・李典によって開発された強力な煙幕玉。

ものの十数個で目の前が真っ白になるほどの煙が発生している。

それに合わせ、左右からの別働隊から矢による援護射撃。

精兵揃いである董卓軍といえど、動揺は隠せなかった。

 

「慌てるな!!まずは盾で矢を防ぎ、両端の部隊は崖の上の部隊の迎撃に当たれ!!残りは盾を構え、前方からの攻撃に注意しろ!」

 

徐晃が軍を立て直そうと声を上げ、指示を飛ばす。

しかし曹操軍はそれを良しとしない。

 

ガガガガァン!!

 

何かが壁に当たる音。

見ると何かが壁のヘリにかかっていた。

 

「うぉぉぉおおおお!!!行くぞ!!全兵我に続けぇぇぇええ!!!」

 

雄たけびと共に夏候惇が突っ込んでくる。

 

(煙幕を利用して城門を壊すつもりか!?だが、そう簡単に壊せるほどこの門は脆くは無いぞ!)

 

徐晃はそう予測したが、それは裏切られた。

 

ドドドドッという轟音と共に城壁の上に敵の兵がなだれ込んできたのだ。

梯子で登ってきたにしては数が多く、井闌車を使ったにしては早すぎる上に何の音もしなかった。

 

そして煙が晴れる。

そこには恐ろしく長い渡し板が数十取り付けられていた。

曹兵がその渡し板の上を平地を行くかのように走り、突っ込んでくる。

 

「…よく折れないものね。あれだけ長い物なら真ん中にかかる負荷は相当な物になると思うんだけど。」

「おっ!なんや桂花、うちの技術に興味あんのんか!?ほんなら一から説明したるわ!まずは…。」

「いらないわよ!!まああんたが折れないって言うんなら大丈夫なんでしょうね。」

「ぶーぶー!…ま、その辺は心配せんでもかなりの強度に作ってるから問題あれへんよ。」

 

その言葉通り、かなりの人数が乗っているにもかかわらず、一向に折れる気配が無い。

 

「くそ!は、早くあの板を落とせ!!蹴り落とすのでも叩き折るのでも何でも構わん!!」

「ひゃ、百将!敵の勢いが強すぎて近づけません!!」

「まずい!まずい!このままじゃ負けちまう!!」

「なんだ!?あの女は!!?一振りで三・四人をいっぺんに…!!」

「ば、化け物だ!!殺される!!!」

 

予測していなかった事態に董卓兵達が混乱する。

その中心で剣を振るい、兵達を蹴散らすのは曹軍の大剣・夏候元譲。

 

「華雄!張遼!どこに居る!?この私が討ち取って、その頸、華琳様への手土産にしてくれる!!どうした、臆したか!!」

 

吼える夏候惇。

しかし、その声を遮るかのように、夏候惇の喉元に槍が迫る。

寸での所でこの一撃を避わし、反撃しようとした夏候惇だが、攻撃に切り替える一瞬の隙を狙っていたかのように後ろから剣が迫る。

 

「≪ヂッ!!≫…くっ、はっ!!何者だ!!」

 

辛うじてそれも避わし、距離を取る。

そこに居たのは六十を越えているであろう老将と、四十半ばの武将だった。

 

「夏候元譲殿とお見受けする。わしの名は李?。董卓軍千人将を任されておる。」

「オレは郭っちゅうもんだ。悪いがあんたにゃここから降りてもらわんといかん。ついでに言うと両将軍はもうこの水関にゃいねえ。一足遅かったな。」

「何ぃ!!?逃げたというのか!?くそっ!華琳様に喜んでもらえると思ったのに!!」

「ここで兵力を減らすよりは、虎牢関に兵を集めて迎え撃ったほうがいいと判断したのだよ………聞いておらんな。」

 

 

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四日前。

曹操指揮の下始まった連合軍の攻勢初日に行われていた董卓軍の軍議。

 

「やっぱり今日指揮を執ってたんは、曹操やったみたいやで。」

「そうか。ふふふ、ようやく歯応えが出てきたな。腕が鳴る。」

 

ばしっと掌に拳を打ちつける華雄。

 

「あほか、歯応えどころかめっちゃ手ごわなったっちゅうねん。もう昨日みたいに作戦忘れるとかやめときや。次やったら張り倒すで。」

「うぐっ、す、すまん。気をつける。」

 

しゅんと頭を垂れる華雄。張遼は顔を上げ、

 

「流騎、高順、徐晃、自分らも軍議に参加しぃ。意見があったらどんどん言うてくれてええからな。」

「私達もですか?しかし…。」

「ええって。自分らは“特殊”千人将やろ?率いる数は少なくても、独自に動くことが許されてんねんから、重要度は将軍とどっこいや。ああ、あと普通に喋ってくれてええよ。堅苦しいのんは嫌いやし、月っちの誕生日会で一緒に酒飲んだ仲やしな。」

「いいんスか!?よかった、俺敬語とか苦手でしんどかったんスよ〜。」

「おい、高順!?はあ、まったく君の順応度の高さには感心するな。わかりました。言葉使いはともかく、一つ意見させてもらいます。張遼さんと華雄さんには明日より、部隊をまとめて虎牢関に退いてもらいたい。」

 

その提案に辺りはざわめく。

 

「どういうことだ!戦わずに尻尾を巻いて逃げろというのか!!」

「ちょっと雄姉、落ち着いてくれって!それに俺も公明の意見に賛成だ。」

「なんだと!?お前までそんな腑抜けたことを!!」

 

華雄は掴みかからんばかりに身を乗り出す。

 

「かゆっち、話ぐらい聴いたりぃや。うちも納得はいってへんしな。」

「ええ、これからそれを説明します。まず、単純に敵兵力の問題です。劉備、公孫?、曹操の三軍に、袁紹をはじめ各諸侯から兵を借りたことによって兵力はこちらと同等。さらに、将の質と人数です。もちろん一人ずつ戦えば、二人が遅れを取ることは無いでしょう。ですが、人数が違います。ざっと調べただけでも名の知れた武将が七人はいます。いくらなんでも多勢に無勢。勝ち目はありません。他にもありますが、これがこの水関で戦うことの不利です。次に虎牢関に退いて戦うことの利を説明します。まず一番大きいのは呂布将軍の存在です。彼女が居れば将を三人、いえ四人は引き付ける事が出来るでしょう。それだけの武を持っている将が居るという事実は、兵の士気にも影響します。それに虎牢関には無傷の三万の兵が居ますし、あれだけの大軍を虎牢関まで行軍させるとなれば、疲労も溜まる。というわけで、ここで戦うより虎牢関に退いて戦ったほうが勝ち目が出てくるというわけです。おわかり頂けましたか?」

 

華雄は腕を組み、深く息を吐いて、

 

「……………………つまりどういうことだ?」

 

たっぷり十数秒の間を開けてそう言った。

 

「≪がくっ≫何でやねん!!あんだけ丁寧に説明されてわからんのんかい!!」

「い、いや、聞いてはいたんだが、どうにも難しい話をされると眠気が…。」

「子供かあんたは…。つまり、ここで戦うより虎牢関で戦ったほうが勝つ可能性が高いっちゅう話や。」

 

華雄はぽんっ、と手をうち、

 

「おおっ、なるほど!そういうことか!」

 

納得したようだ。

 

「流騎…。私の説明は何だったんだ?」

 

がっくりと肩を落としうなだれる徐晃。

 

「いや、雄姉以外はちゃんとわかったから、そんな落ち込むなって。」

「ぎゃははははは!!説明がなげぇんだよ、お前は!」

 

慰める流騎に、大笑いする高順。

 

「と、とにかく時間をかけるわけにはいかないから、三日に分けて退却してもらいます。明日は歩兵隊九千。多めに物資も運んでもらう。二日目も歩兵九千。運ぶ物は初日の部隊に持っていってもらう積もりだから途中で追いつくことになるだろう。最後は騎兵隊九千。前の二部隊に追いついたら馬を使って物資を運ぶ手伝いをしてくれ。部隊の指揮は初日の部隊は王方千人将に任せる。二日目は華雄さん、三日目は張遼さんに頼む。」

「ちょっと待ち。自分らはどないすんねん。まさか…。」

「ああ、俺たち三人は水関で、残った八千の部隊を率いて殿を務める。」

「何を言っている!!死にに行くようなものだぞ!!」

「大丈夫だよ、雄姉。足止めするだけだし、ある程度戦ったらすぐ逃げるし。それに誰かがやらなきゃいけない仕事だろ?その為の“特殊”千人将だ。」

 

華雄と張遼は何も言えなかった。

三人の目には揺るぎ無い覚悟が籠められていたから。

死ぬ覚悟ではなく、生き抜く覚悟を。

 

「…わかった。自分ら、死んだら承知せえへんで。」

「ああ、ありがとう。」

 

張遼は想いを込めて三人の肩を抱きしめる。

すると、一人の老将が歩み出た。

張遼は三人を放し、彼に尋ねた。

 

「李?どないしたんや?意見があるんやったらどんどん言うてくれてええで。」

「はっ。わしはこの三人の元上官です。この者達は若く、才が有り、よき将ではあります。しかし、一つだけ足りぬ物があります。それは経験。それは時に武力や知力より重要になり、そして此度の戦い、防衛戦において必要な物です。それを補うためにわしとこの郭が補佐に付こうと思います。いかがでしょうか?」

 

張遼は少し考えてから答えた。

 

「せやな、自分の言う通りや。ほんならよろしく頼むわ。」

 

 

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それが、四日前の出来事であり、すでに他の部隊の撤退は完了している。

そのことを告げると、夏候惇は悔しそうに顔を歪ませた。

 

「むむう、ならば貴様ら全員を倒し、さっさと水関を落としてやる!将がおらんのなら容易い!」

 

剣を握り締め構える夏候惇。

しかし、

 

「はりきってるとこ悪いけど、そろそろ下に降りてくれねえ?」

 

乱戦の中から飛び出した高順が夏候惇の懐に入り込む。

繰り出す拳。

防ぐ大剣。

しかし、拳から放たれた氣によって吹き飛ばされ、見方の兵を巻き込みながら下へと転がり落ちていく。

 

(くっ!これは凪と同じ氣弾!?まさか他にも使い手がいたとは!!)

 

着地し体勢を立て直す。

そこは丁度、関羽の部隊が展開している場所だった。

 

「お前は、夏候惇?!何故お前が上から落ちてくる?!まさかあの男が…?」

「あの男?何のことか知らんが、来るぞ!!」

 

夏候惇は水関の上を見る。

すると、そこにはものすごい速さで駆け下りてくる一つの影。

しかもその影は、曹軍の兵達の頭や肩を踏み台にして跳ねる様に疾駆している。

ズザッと砂埃を巻き上げ着地する影。

 

「夏候惇将軍、関羽将軍とお見受けする。私は徐晃。水関の最後の守りを任された部将の一人だ。………ふふふふ、今急激に名を上げている武人と戦えるとは。しかも二人も同時に。久しぶりに味方以外の強者と戦える!燃えてきた!燃えてきたぞぉぉ!!」

 

徐晃は双剣を構え、二人を睨みつける。

にやりと口角を上げながら。

 

「さあ!存分に死合おうじゃないか!!あなた達に打ち勝てば、私は一歩階段を登ることが出来る!!」

 

身体から噴き出す殺気を伴った強大な闘気があたりに広がる。

それをまともに受けて、回りの兵達は息を呑む。

 

「ふん!やれるものならやってみるがいい!!まずは貴様の頸を華琳様に捧げてくれる!!」

「望むところだ!我が青龍刀の剛撃、受けてみろ!!」

 

しかし二人も後に歴史に名を残すほどの武人。

徐晃の氣当たりに勝るとも劣らない闘気を発し、構えを取る。

 

「うおぉぉぉおおお!!」

 

最初に動いたのは夏候惇。

一足で間合いを詰め、上段から必殺の一撃を振り下ろす。

並の将なら避わす事も受け止める事も不可能。

まさしく鬼神の一撃。

しかし、それを受ける徐晃も並ではない。

左脚を引き半身になり、左の剣で夏候惇の剛撃をいなす。

同時に右の剣が夏候惇の喉元を襲う。

首をひねり、皮を裂きつつもその突きを避わし、前蹴りを放って距離をとる。

 

「次は私だ!!」

 

そして関羽が動く。

間合いの長い偃月刀を続けて振るう。

まるで暴風のような連撃。

その姿は荒々しい風を纏う風神。

それを徐晃は時にいなし、時に避け、柳の如く受け流す。

 

三人の実力は正に拮抗していた。

であるにも関わらず、徐晃は二人を相手に引けをとらない立ち回りを見せ、時に攻勢に転じる。

 

「おのれ!ちょこまかと!!おとなしく斬られんか!!」

「自分から斬られに行く奴などいるわけが無いだろうに。」

「ぬおぉぉおお!!何故当たらんのだ!!!」

 

なかなか当たらない事に夏候惇は怒りと焦りを募らせる。

そんな中、関羽は数日前に戦った男を思い出す。

個人の戦いで動きの中に罠を張り、戦術的に戦闘行為を行っていたにやけた顔の男を。

 

(そうだ、何故当たらない?落ち着け。冷静に考えろ。あの男との戦いで学んだはずだ、熱くなっては相手の思う壺だと。見たところ私と徐晃、そして夏候惇の実力にほとんど差は無いはずだ。なのに何故こうも避わされる?こうも翻弄される?何か私達の気付いていない欠点があるはずだ。)

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関羽が考えたことは間違ってはいなかった。

間違いなく三人は実力伯仲。

二対一で戦ったなら確実に勝てるはずだ。

なのに何故討ち取ることが出来ないのか。

それは関羽と夏候惇の戦い方にある。

武人としての誇りが、どちらかが攻撃を仕掛ければもう一人は待機するというのを無意識のうちに行っていること。

さらに、同時に仕掛けたとしても、連携を取れていない者同士であるが故に互いが互いの動きを邪魔し、制限し合っているということ。

徐晃はその綻びを突いていた。

たとえば、関羽の相棒が趙雲ならば、たとえば、夏候惇の相棒が夏候淵ならば、こうはならなかっただろう。

しかし、二人共に守りや補助よりも攻めを得手とする武人であるが故に徐晃を倒すことが出来なかった。

それによって二人は焦り、隙を広げていく。

 

 

関羽・夏候惇と同じく徐晃も焦っていた。

突然の煙幕、大量の敵兵の侵入、そして夏候惇の猛威。

その所為で、味方の兵の混乱がひどい。

早く立て直さなければならない。

しかし目の前の武将は自分でないと止められない。

一体どうすればいい?と思考を巡らせている時、背後の砦から突風のような圧力を感じた。

 

(これは水関の兵達の軍氣か?一体何故急に?)

 

 

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徐晃が夏候惇を追って行った後、それでもなお董卓軍の劣勢は続いた。

指揮官が居なくとも曹操軍は精強で、各隊長格もよく兵を纏めていて隙が無い。

さらに、最初に目の当たりにした夏候惇の圧倒的な武力に、董卓軍の兵達は萎縮し、力を発揮しきれていなかった。

 

「怯むな!敵将は徐晃隊長が抑えてくれておる!落ち着いて隊列を組み直せ!!」

「おら!早くしねえかい!敵は待っちゃくんねえぞ!!」

 

李?と郭は必死で兵を鼓舞する。

しかし、それによって多少立て直しても、地力の差を覆すほどではない。

高順も別働隊の隊長三人に足止めをくらい指揮どころではない。

このままでは全滅は必至。

しかも駄目押しとばかりに新たに趙雲の部隊も登ってくる。

すでに兵達の心を諦めが支配し始めていた。

 

が、

 

『おぉぉぉおおおおおおお!!!!!!』

 

千人ほどの部隊が趙雲の部隊に突撃し押し返した。

それを率いるのは流騎。

 

「諦めるな!!俺達は何の為にここに居る!?国の為か!?名誉の為か!?それとも命令されて仕方なく戦ってるのか!?違うだろう!!?董仲頴はお前達に何の強制もしていない!!何の命令もしていない!!お前達がここに居るのは大事な家族が!友が!恋人が!護りたい人が居るからだろう!?義務でも使命でもましてや命令でもない!俺達一人一人が自分の意思でここに立っているんだ!!皆、雄叫びを上げろ!!群れを護る狼の様に!一丸となって敵を討つ!!」

 

流騎の部隊が声を上げる。

それに続いて他の兵達も叫ぶ。先ほどまでの恐怖を吐き出すように。

 

「また会ったな、流騎よ。今日は手加減などしてやれる余裕はないぞ。覚悟はいいか?」

 

槍を掲げ、流騎たちの前に立ちはだかる趙雲。

 

「…死ぬ覚悟と殺す覚悟、そして生き抜く覚悟は戦が始まる前に魂に刻んでおくものだろう?」

 

流騎も兵も怯まず猛然と突撃する。

 

「はあぁぁぁあああああああ!!!」

「うおぉぉぉおおおおおおお!!!」

 

趙雲の槍が流騎の首を狙う。

しかし流騎は未だ抜刀すらしていない。

終わった、趙雲はそう思った。

しかし、彼女は気付いていない。先日戦った時とは彼の得物が変わっていることに。

彼女は知らない。その技を。

日本刀のよってのみ繰り出すことの出来る日本の侍独自の技法。

 

居合い。

 

その一撃が趙雲の左肩を裂く。

深い傷ではあっても致命傷にはなっていないのは、彼女の練磨された体捌きによるものか。軸をずらして避わしていた。

相手の知らぬ技術、対峙した時には予測出来ない速度、さらに普通より一尺ほども長い野太刀、これだけの有利な要素が有りながら趙雲は致命傷を避けた。

 

(危なかった。自分の勘を信じて回避に切り替えて正解だった。しかし何という技術だ。流騎の動きの限界は先日の戦いで見切っているはずだった。しかし今の一撃はその予測を遥かに超えるものだった。そしてあの剣。あの時使っていた物とはまったくの別物。形状はともかく、尋常ではない切れ味だ。ここまで見事な切り口は味わったことが無い。なるほど、構えや重心を見るにこちらがあやつの得物ということか。)

 

「ふふ、この広い戦場で二度目の会合とは、お主とは縁があるのやも知れぬな。しかし見事な一撃だった。幸い利き腕ではなかったが、この趙子龍に傷をつけるとは自慢してよいぞ。」

「相変わらずすごい自信だな、子龍。まあ、実力あってこそなんだろうけどな。……敵将は手傷を負ったぞ!!今こそ好機!全員突撃!!敵を押し返せ!!!」

「まったく、つれない奴だ。少しは余韻を楽しめば良いものを。機に敏感すぎるのも女から警戒されるものだぞ?」

「悪いな。ここは男としてでも武人としてでもなく、将として動かなきゃいけないところだから。ここでお別れだ。」

「逃がさぬと言いたい所だが、腕がこれではな。仕方ない、私は下がって傷の手当に専念するとしよう。」

 

趙雲が下がるのを見届けると、流騎は部隊に戻り攻勢に出た。

 

活路は前。

 

退けば追撃をされ、留まっても最早砦は用を成さない。

 

一人でも多く生き延びるため、彼等は突き進む。

 

自分と、大事なものの為に。

 

説明
お久しぶりですor始めまして。
へたれど素人です。
かなり間が開いてしまいましたが、なんとか書き上げることに成功しました。
拙い文章ではありますが、ほんの少しでも皆さんの暇つぶしに役立てれば幸いです。
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2004 1771 4
コメント
真山 修史様 kame様  コメントありがとうございます。頑張りますので気長にお待ちください。(杯に注ぐ清酒と浮かぶ月)
徐々に成長する姿にとてもわくわくします。続きが楽しみです・(kame)
流騎が武将らしくなってきた・・・続きが楽しみです(真山 修史)
真山 修史様 ご指摘ありがとうございます。修正しました。(杯に注ぐ清酒と浮かぶ月)
防衛線× 防衛戦○(真山 修史)
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