恋姫無双 槍兵の力を持ちし者が行く 20話
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― side 秋蘭

 

 

 「しゅーらーん、きーいー。」

 

 「あっ、春蘭様!」

 

 そうして、姉者に手を振る季衣。

 

 許緒、真名は季衣、村を守る為に一人で戦っているのを助け、仲間になった。

 

 ん?なぜ私は今さら季衣の説明をしているんだ?

 

 「おー、秋蘭、季衣、怪我はないか?」

 

 「ああ姉者、私達は大丈夫だ」

 

 そう言っても、確かめるように姉者は私の体を触って行く。そんなに心配しなくても大丈夫だと言ったのにな。

 ……ああ、そんな心配する姉者も可愛いな。

 

 「秋蘭、季衣、お疲れさま。よく頑張ったわね」

 

 「あ、華琳様」

 

 心配している姉者を愛でていると、華琳様が来たようだ。

 

 「華琳様、ありがとうございます。援軍が来なければ危なかったでしょう。」

 

 「秋蘭、謙遜はやめなさい。寡兵でここまで守り切ったのは誇ることであって、謙遜することではないわ」

 

 「はっ、ありがとうございます。

 ……しかし、私だけでは耐えれなかったのも事実です」

 

 「そう。で、後ろにいるのは?」

 

 そう言いつつ、私が連れて来た、義勇兵を率いていた三人を指し、尋ねられる。

 

 「私と共に守ってくれた義勇兵を率いていた三名です。

 華琳様、この者達を召し抱えてはもらえないでしょうか?」

 

 そう言いながら、頭を下げる。

 それにつられて後ろの三人も下げつつ、楽進が喋る。

 

 「聞けば、曹操様もこの国の未来を憂いておられるとのこと。

 僅かな力ではありますが、その大業に是非とも我々の力もお加え下さいますよう……」

 

 少し固すぎる気もするが、華琳様にも楽進の思いは伝わったようで、他の二人にも尋ねる。

 

 「……そちらの二人も同じ思いかしら?」

 

 二人とも頷く。

 

 「秋蘭、彼女達の実力はどうなの?」

 

 「しっかりと鍛え上げれば、一角の将になるかと。」

 

 「……そう、分かったわ。良いわ、合格よ。

 貴方達、名前は?」

 

 「楽進と申します。真名は凪。曹操様にこの命、お預け致します」

 

 「李典や、真名は真桜で呼んでくれてもええで、以後よろしゅうお願いするで」

 

 「于禁なのー。真名は沙和っていうの。よろしくお願いしますなのー」

 

 「凪、真桜、沙和ね。……

 私の真名は華琳よ。預かりなさい。

 ……それで終わりにしたいのだけれど、秋蘭は他にもいうことがありそうね?」

 

 やはり、分かりますか。

 

 「はっ、今回の戦で、助けられたのは義勇兵にだけではありません。

 『傭兵』に助けられました」

 

 「『傭兵』ね。」

 

 私が傭兵の部分を強調したのを気付き、華琳様は笑う。

 あれ程の少数で、戦況をひっくり返すバカを私達は一人だけ知っている。それも今、傭兵をしている。

 

 「私はその『傭兵部隊』の副官としか会っておりません。

 部隊の状況を確認した後に、此方に向かうと言っていましたが……」

 

 姉者は分からないのか首をかしげているが(その姿も可愛い)、おそらく私も笑っているのだろう。

 

 「分かったわ。春蘭、秋蘭、今、桂花が後始末の指示をしているからそっちに行って指示に従って頂戴。

 凪達は此処に残りなさい」

 

 「御意、ほら姉者行くぞ」

 

 「う、うむ」

 

 そのまま、考えこんでいる姉者を連れて桂花の所へ向かう。

 華琳様には言っていないが、『傭兵』の副官は女だった。おそらく道中で落としたのだろう。しかも無自覚に。

 これは仕置きが決定だぞ蒼。私も姉者もそれに参加するだろう。華琳様の命に関わらず、な。

 

 

― side 華琳

 

 ふふふ、ようやく帰ってきたわね。自分自身が笑っているのが分かる。

 あれから約3年。

 ようやく、私達は全力で天下を目指せる。

 アイツのことだ、土産もあるのだろう。

 

 「華琳様、何故傭兵に直接会われるのですか?」

 

 そう凪が尋ねる。

 確かに傭兵とは報酬の為になんでもし、数合わせに使われることもある。

 普段なら、相手の要求を聞いて、戦の処理に忙しく、報酬は部下から渡す方法でも良かったけど、今回はただの傭兵じゃない。

 私と共に進むと誓ったアイツだ。

 旅に出た仲間を出迎えるのは当然のこと。

 

 「ただ、興味が沸いたの。少し、私の我が儘に付き合ってちょうだい」

 

 そう言うと、凪は渋々といった形で下がった。

 まあ、これでその傭兵の正体を知ったら、どういう態度を取るのか見物だけれど……

 

 「申し上げます。傭兵が来ました」

 

 来たようね。

 

 「そう、通しなさい」

 

 そうして通されて、立っていたのは私が待っていた奴(蒼)で……

 

 「もうちょっと、驚く行動をしてほしいものなんだが……」

 

 「残念ね。あんな無茶するのは私が知る限り、あなたぐらいよ」

 

 そう言うと、「あっ、そっか」と今気付いたように舌を出しつつ納得する蒼(バカ)、おそらく何も知らせず驚かし、その顔を見たかったとかそんなことだろう。相変わらず、飄々としている。

 残念だけど、私はそんなに安い女じゃないわよ。

 

 「それより、自分の部隊を纏めなおすのに時間がかかり過ぎじゃないのかしら」

 

 「ああ、それな。

 さっきの戦で素質ありそうな奴を見つけたんだが……すでにお手つきだったようだ」

 

 そういいながら、凪を見る。

 此方に来る前に凪を探したのだろう。

 

 「ふふ、それは残念だったわね。

 それじゃあ改めて……おかえりなさい蒼、少し遅刻したようだけど」

 

 皮肉を込めて、出迎えの言葉を言う。

 照れ隠しとか思った奴は……モグわ。

 

 「相変わらず華琳はきついな。

 けど、前のようにサボらねぇんだから上等ってことでいいだろ。

 それにその分『土産』も増えた」

 

 どんな『土産』なのかしら、気になるわね。

 ……けどそれより、後ろにいる女が気になるのだけれど。

 ふー、落ち着こう。別にあの女が蒼に落とされているなんて簡単に決めたら駄目。

 そう、分かるまで、蒼(バカ)に仕置きをするのは我慢よ。

 

 「まあ、いいわ。

 それより、その後ろにいる人は誰なのかしら?」

 

 「ん、こいつは俺の副官だ。ほれ面倒だから、自分で紹介しろ」

 

 そう蒼が促し、女が前に出る。

 やっぱりというか、こいつは敵だ。……男女の仲的な意味で。

 

 「私の名は司馬懿 仲達、真名は森羅と言います。

 蒼様とは約二年間、副官として従ってきました。所謂『右腕』と呼ばれる者です。

(二年間、蒼様と一緒にいた森羅と言います。蒼様の隣は私の物ですので。邪魔はしないで下さい。)」

 

 「そう、私は曹 孟徳、真名は華琳よ。蒼とは『昔から共に歩んで来た』仲よ。これからは私の為にも働いて頂戴。

(小さい時から共にいた華琳よ。蒼の隣は私の物だと既に決まってるから、残念ね。譲るつもりはないわ。)」

 

 とお互いに自己紹介という名の宣戦布告(副音声付き)を交わし、真名を交換する。

 そして同時に蒼(バカ)への仕置きが決定した。

 どんな仕置きにしてやろうかしら?なるべく苦痛を与える方法で……

 

 「華琳様、ただいま後処理が終わりま…し…た……」

 

 「あら、桂花、どうしたの?」

 

 後処理を任した桂花が戻って来て、固まっている。

 大方、目の前にいる蒼(男)に反応しているのだろう。

 全く、これから先のことを考えるとあの男嫌いの性格をどうにか治して欲しいものね。

 

 

― side out

 

 

― side 桂花

 

 私は今後処理を終えて華琳様の元へ向かっている。

 主な理由は報告、これは当然のことだ。

 けど、もう一つ理由が秋蘭から聞いた話で出来た。

 曰く、華琳様が今回助けに入った、傭兵の指揮者とお会いになるらしい。

 曰く、その指揮者は男である。

 特に、二番目が問題だ。

 『男というのは卑しく下品な生き物だ。……例外を除いて』

 これが私の男に対する評価だ。

 ましてや、金で人を殺す傭兵など更に卑しいはずだ。そんな物に見られたら華琳様が汚れてしまう。

 それを避けるためにも早く戻り、私がその男の本当の姿を華琳様に見せなければならない。

 

 「華琳様、ただいま後処理が終わりま…し…た……」

 

 そして、報告をし終えて、威嚇するように睨もうとして、男を見た時に、息を呑んだ。

 万物には例外がある。私の男に対する評価もそうだ。

 男に対する評価が決定した原因となった出来事で、助けてくれ、その後、私の視野を広げさせてくれ、私に相応しい主を探す旅で、途中まで守ってくれた人(男)、この人だけは違う。

 私に新しい道を作ってくれた人だけは華琳様と同じぐらいの尊敬、もしくは恋慕かもしれないが私の中にはある。

 そして、今、その人が目の前にいる。

 

 「あら、桂花、どうしたの?」

 

 そう華琳様に尋ねられても答えられない程、思考がまとまらない。

 いや、華琳様の目に止まる男はこの人しかいない。納得出来る。

 ただ、どう言えばいいか分からない。「お久しぶりです」か?いや、もし覚えていなかったら……。なんて言えばいいか分からない。

 すると、その人が華琳様から此方を見て、こう言った。

 

 「よう荀ケ、結局華琳の所に行ったのか。久しぶり」

 

 ああ、覚えていてくれた。それだけ、たった一言で不安が除かれる。

 だから、抑えない。恥や外聞など知ったことか。

 

 「りーこーうーさーんー!」

 

 そう叫びつつ、唯一認めている男、李高 雲犬に抱きつこうと、突撃した。

 

 

― side out

 

 

― side 華琳

 

 

 「りーこーうーさーんー!」

 

 今、目の前であり得ない光景が見えている。

 あの桂花が、あの男嫌いの桂花が、蒼にさん付けで突撃している。

 今、これは夢ですよ。といわれても、納得するようなことが起こっていた。

 現状把握が出来ないぐらいに混乱している。

 遅れて来た春蘭、秋蘭も同様のようね。蒼と挨拶するのを忘れて驚いている。凪達はもう私と蒼の会話で付いてこれてない。

 

 「させるか!メスネコ!」

 

 「ちっ、邪魔しないでメスタヌキ!李高さんに近づかせなさい!」

 

 その中で、唯一動いた森羅が桂花を押し留め、言い合いを開始している。聞いている限りだと桂花は、森羅と蒼のことを知っている。

 そして、蒼のことを慕っている……

 ふう、落ち着きなさい。ただ、蒼(バカ)が知らない内に桂花も落としてただけ。

 そう、仕置きに更に力を入れるだけね。

 そう考えながら春蘭と秋蘭を見ると、各々自分の得物を持っている。

 春蘭を抑えている秋蘭と目が合い、互いに頷く。

 

 「さて、蒼?」

 

 「な、なんだ華琳?ちょい怖いぞ。

 ほら、楽進とか怯えてるぞ。そんな目が笑ってない笑顔を向けんなよ、な!」

 

 あら私は笑って(怒って)いるわよ。何を可笑しいことを言うのかしら?

 そう、言いながら下がる蒼。……少し面倒ね。

 

 「凪、沙和、真桜」

 

 「「「は、はい!」」」

 

 私の言葉でようやく動き出した凪達を見て少し嗤ってしまう。

 まったく、そんなに怯えなくてもいいのに……

 

 「最初の仕事よ。

 あの蒼(バカ)捕えて動けないようにして頂戴。」

 

 「「「了解しました!(なの!)(や!)」」」

 

 そう言うやいなや、すぐに三人が蒼を羽交い締めにする。

 後はここでイライラを解消するだけね。

 そう考えつつ、蒼に歩いて近づく。

 

 「ちょ、お前ら離せ!

 俺はまだ死にたくない。

 本当に離せ!」

 

 「覚悟はいいかしら?蒼?」

 

 「無視か?無視ですか?バカヤロウ!

 ていうか、覚悟って……

 落ち着け!で、まず力一杯握っている武器を置いて話し合おう。暴力は駄目だ」

 

 「却下よ」

 

 大体、傭兵が暴力は駄目って似合わないわよ。

 

 「即答かよ!?

 こういう、華琳が話を聞かない状況、だったら冷静な秋蘭なら……ってなに春蘭を抑えずに俺に向かって弓を引いてやがりますか!?なら森羅……は無理だな。……詰んでね?」

 

 見れば、春蘭と秋蘭も準備はいいようね。

 

 「春蘭、秋蘭、……殺るわよ。」

 

 「「はっ!」」

 

 「いや、やるの字が違うかもしれないから、確認の為に話し合おう。

 いや、近付くな!まず此方の言葉を聞こう。

 いや話を、話をしよ………ギャアアアア!」

 

 

 

 

 

 

 「ふう、スッキリしたし一応、許してあげる」

 

 って意識がないわね。やりすぎたかしら?

 

 「誰か、蒼を馬に括り付けと来なさい。

 そのまま、陳留に帰るから」

 

 そう言い残し、私も帰る用意をする。

 蒼、帰ったら三年間のことじっくり聞いてあげるわ。

 

 

 

 

 

 

 

ー 追記

 

 尚、この仕置きの最中に繰り広げられていたネコとタヌキの戦いは両者相打ちになっていたりする。

 

説明
そして、3個目です。尚、森羅と桂花の仁義なき戦いは閑話で書こうかなとか思ってみたり。
今日はこれで打ち止め。
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コメント
ちょっ…デレ桂花ですか!?(紫蒼の慧悟[しっけい])
ふむ、さすが蒼の兄貴・・・いい気味だw(よーぜふ)
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