咲-Saki-《風神録》日常編・南二局 |
はてさて、俺がこの鶴賀学園に入学してから早くも一ヶ月の月日が経とうとしていた。
進学校ならではの授業の進みの速さや、やや多目の課題にも若干慣れ始め、友人たちと花の高校生活を謳歌していた。とはいってもこの辺りはだいぶ田舎の方なので、遊ぶとなると休日に電車に乗って街まで出て行かなければならないのだが。それでもカラオケやらゲームセンターやらいかにも「らしい」休日を過ごしていた。
また部活動においても、男子が俺だけなので若干肩身の狭い思いをしているが、まあそれは女の子に囲まれていておいしい思いをしていると考えて我慢しよう。ちなみに戦績は部活内で部長とモモと三人で二位争いの真っ最中。一位はもちろんゆみ姉。俺は部長の麻雀の腕に敵わず、部長はモモのステルスを破ることが出来ず、そしてモモのステルスは俺に効かないため、見事に三竦みで三つ巴の状況なのだ。
そんな感じで私生活でも部活動でもなかなかな充実した毎日を送っている。
……が、今俺は若干悩んでいることがあるのだ。
それも、あまり誰にも相談できそうに無い類の悩みが。
なんというか、その……どうやってモモを遊びに誘えばいいのだろうか。
あ、石とかゴミとかそういうの受け付けてないんで。
咲-Saki-《風神録》
日常編・南二局 『遊びに行こう!〜お誘い編〜』
誰かに言うというわけではないのでここでは素直に認めるが、俺はモモが好きだ。友人としてとか部活仲間としてとかでなく、純粋に一人の女の子としてモモが好きなのだ。
気になる女の子を遊びに誘おうとする事は、十五歳男子としては全く不自然な行動ではないはずだ。
ただ、生まれてこの方、女の子を遊びに誘ったことがないのでイマイチ勝手が分からない。ちなみにゆみ姉とだったら二人で遊びに行ったことならあるが、結局((従姉|あね))と遊びに行っただけなので、そちらの勝手もよく分からない。
なので色々と悩んでいたりするのだが、中学からの友人がいないこの高校に、残念ながらそちらのことに関して気軽に相談できるような友人はまだいない。佐賀? アイツに女の子の話なんてしたら色々とメンドクサイから却下。
俺の身近にいて、こういったことを気軽に相談できるような人物は……。
そう考えたところ、思い当たる人物は一人しかいなかった。
†
『なるほど、東横をデートに誘いたいと、そういうことだな?』
「う、うん。まぁ、そんな感じかな」
夜。開け放たれた窓から上体を投げ出すようにしながら俺は電話をかけていた。電話の相手はゆみ姉。やっぱり、こういうときに頼りになるのは((従姉|あね))である。
『別に相談に乗るのにはやぶさかじゃない。ただ前提条件として、お前は東横のことが好きだということでいいんだな?』
その質問に、一瞬言葉に詰まる。だが、相談に乗ってもらっている以上素直に答えなければならない。
「う、うん」
『そうか』
うわ、これスゲー恥ずかしいんですけど。なんか携帯電話の向こうのゆみ姉が滅茶苦茶ニヤニヤしてるのが手に取るように分かる。
昔から色々と相談することがあったけど、こういうことをしてるからゆみ姉に弱み握られたり頭が上がらなくなったりするんだろうなぁ。まぁゆみ姉だったらその弱みを使ってどうこうするような人間じゃないから俺も安心して相談に乗ってもらうことができるのだけど。
「そんなわけで、どのようにしてモモを遊びに誘ったもんかと思い、相談に乗ってもらいたいのです」
『なるほどな。事情は分かった。そうだな……』
窓の外に投げ出していた上体を部屋の中に戻し、近くの机に置いてあったマグカップに手を伸ばす。中身のコーヒーを啜りながらゆみ姉の言葉を待つ。
『……普通に遊びに行こうと誘えばいいんじゃないか?』
しかしゆみ姉から返ってきた答えはそんな身も蓋もないようなものだった。
「いやいや。それが出来ないから相談しているのでしてね?」
『これが私がお前の相談に乗ってやった結論だよ。……そんなに難しく考えることじゃないさ。どんな些細な理由だっていい。気軽に誘えばいいのさ』
「……まぁ、ゆみ姉がそう言うなら……頑張ってみる」
基本的に俺はゆみ姉のことを信用している、それこそ知り合いにシスコンの気を指摘されるレベルで。ゆみ姉が大丈夫だというのならばきっと大丈夫なのだろう。そう結論付ける。
『それじゃあ、頑張れよ』
「うん、ありがとうゆみ姉」
「……全く、似た者同士にもほどがあるだろう。まさか二人揃って同じ相談をしてくるとはな……」
さて、ゆみ姉に相談した翌日の放課後である。頑張ってみるとは言ったものの、はてさてどうしたものだろうか……。どんな些細な理由でもいいからとは言ったものの、突然遊びに誘って引かれないだろうか。
「はぁ……」
帰り支度をしながらどうしたもんかと悩んでいたら、思わず溜息を吐いてしまった。
「ん? どうしたどうした! 元気無いな! いいか? 溜息を吐くと幸せが逃げるっていうのは本当の話なんだぞ。人の体の中には陽の気と陰の気ってのがあってだな――」
耳聡く俺の溜息を聴いていた佐賀が何やら長々と語り出したが聞き流す。一体こんな無駄知識を何処で仕入れているんだか。
(さて、部活に行くとするか)
鞄を持って立ち上がり、そこで本日の部活がないことに気が付いた。確かゆみ姉と部長の三年生コンビが補習とかなんとか言ってたっけ。二人いないだけだから普通に部活をしてもいいような気もするが、残った人数が三人なので((三人麻雀|サンマ))しかできないため、昨日の部活中に今日の部活がお休みになることが決定したんだった。
しょうがない、家に帰ってラノベでも読んでいよう……。
もう一度溜息を吐いてから鞄を手に帰ろうとする。
「み、御人君」
「……ん?」
聞き覚えのある声が背後から聞こえ、振り返る。
するとそこにいたのは我が麻雀部の五人目の部員にして現在の俺の想い人、東横桃子だった。
他のクラスの生徒が教室に入ってきたというのに周りのクラスメイトたちは全くの無反応。これも東横の言う『存在感の無さ』とか言うやつなのだろう。
「ど、どうかしたのか?」
そんなことより今の俺の動揺が半端じゃなかった。どうやって遊びに誘おうかと考えていた相手が気が付いたら目の前にいるのだ。動揺しないはずがない。というか、モモが俺を訪ねてこの教室にやってくるということ事態が初めてのことだった。そのことに若干感激してしまった自分がいる。
「その、今日も一緒に帰ろうかと思って」
お誘いに来たっす、とはにかみ頬を染めるモモ。以前も話したと思うが、可愛い女の子が顔を赤らめながらモジモジと一緒に帰ろうと言われて断る男がいるだろうか? だからいるはずないってーの!
「ああ、部活も無いしな。んじゃ帰るか」
目を瞑りながら陶酔するように未だに無駄な知識をひけらかしている佐賀を無視し、俺は東横と共に教室を後にした。
というか、目の前にいたモモに佐賀が一切気付かなかったは、モモの影が薄いからなのかこいつが鈍いからなのか……まぁどうでもいいか。
さてさて、モモといつもの帰り道を共に歩いている訳なのだが。
ちなみにモモと一緒に帰宅すること事態は最近ではあまり珍しいことではなく、部活がある日は結構頻繁に一緒に帰っていたりする。しかし、部活の無い日にわざわざ迎えに来てまで一緒に帰るということは今までには無かった。
しかし、何故か今日はいつもと違い会話がやや少なめだった。いや、モモはやや控えめな女の子なのでキャッキャウフフと会話が弾みに弾むということはほとんどないのだが、ここまで会話がないのも初めてだ。というか、なんかチラチラとモモがこちらを見ているような気がする。
(というか、今って遊びに誘う絶好のチャンスなんじゃなかろうか)
夕暮れ。二人きりの帰り道。周りに自分たち以外の人影は無し。これをチャンスと言わずして何をチャンスと言おうか。
こういうのは勢いだ。このままガッと誘ってしまおう。
「「あ、あの――!」」
……被った! モモと発言が被った!
まるで小説の恋人同士のようなこのシチュエーション。若干モモも先ほどより顔を赤らめている。多分俺も赤くなっているだろう、顔が熱い。
「……え、えっと、どっちからいく?」
「……み、御人君からどうぞっす……」
モモから譲られたので俺から話すことにしよう。
「えっとさ、今度の休日なんだけど……特に予定が入ってないようだったら、一緒に何処か遊びにいかないか?」
気軽に気軽にと意識してそう尋ねたところ、モモはバッと勢い良く首を動かし見開いた眼でこちらを見てきた。が、徐々にその顔が赤くなっていき視線を俯かせてしまった。たぶん俺の顔も負けす劣らずで赤くなっていることだろう。
「……ふ、二人っきりで……っすか?」
それからたっぷり十秒ほど沈黙が続いたが、恐る恐るといった様子でそう逆に尋ねてきた。俺の言葉を「そういう意味」として捉えたのだろう。
「……うん、モモが嫌じゃなければ」
もちろん俺も「そういう意味」として言ったので肯定する。ただ二人して顔を赤くしたことが今更ながら照れくさく、ススッとモモから視線を外す。
「……全然、嫌じゃないっす」
「っ……!!」
目の前で頬を赤く染めて上目遣いのモモに心の中で壮大に叫びながらガッツポーズを決める。
こうして、俺とモモの初デートが決まった。
《流局》
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大変遅い更新で申し訳ないです。 ギャラクシーデッキの構築は一先ず置いといて執筆執筆。 |
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咲-Saki- 麻雀 学園 オリ主 再構成 東横桃子 加治木ゆみ | ||
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