麻帆良の紅茶王子(2) |
「ああもう五月蠅い!偶然呼び出したタイプはこれだから……」
「あ、あうあうあう、あう……よ、妖精さん?超さんのロボッ、ロボットとかじゃなくて本当の?」
満月の夜、プレーンティーに満月を溶かし突如現れた妖精、『セイロンの紅茶王子』
予想だにしない事態に、ついさっきのどかは本日二度目の叫び声をあげていた
それを一番近くで聞かされたセイロンの紅茶王子は、両耳を塞ぎつつ顔をしかめて悪態をつく
混乱で舌が回らず上手く言葉が出ないのどかの眼前まで、フワリと宙に浮いて距離を近付けた
「超って誰さ。本物だよ、さっきも言ったよねセイロンの紅茶王子って。それで、君が僕のご主人様」
「わ、私が?」
「セイロンティー飲んだの君でしょ?だから主じ……っと、さむ」
セイロンの紅茶王子は話を続けようとしたが、まだ四月で肌寒い夜風がベランダの四人に吹きかかり思わず言葉を止める
ちらりと横を見やると、開いたままのガラス戸の先にあるのどか達の部屋が目に入った
「……寒いんで中入るから」
なるほどここはベランダかと自分の現在位置を把握し、許可も取らずに浮いたまま入室
一番ガラス戸に近かったハルナは、夕映より先に我へと帰り彼の後に続く
少し遅れて夕映がのどかの手を引いて部屋へ戻り、椅子やらの片づけは後回しにすると決めてピシャリと戸を閉めた
「……つまり仕事としてこちらに来ているあなたには、自分を呼び出したのどかの願いを三つ叶える義務がある、と」
「そう」
「本当に妖精さんなんだ、えっと……」
「セイロン。さっき『セイロンの紅茶王子』って言い方したけど、普通に本名なんだよね。あむ……」
ソファの上にセイロンはポスンと座り、なんか食べるものないの?と要求したらのどかが持ってきたクッキーを小さな体でポリポリとかじる
それと並行して床の上に座る三人には自身、『紅茶王子』のことについて幾らか追加で説明していた
夕映の確認を一言で軽く返し、呼び方に困っていたのどかにはセイロンが本名であると説明を追加する
「というわけでさ、何か無いの?願い事」
「きゅ、急にそんなこと言われても……」
「チャンスじゃないのどか!」
紅茶王子としてのどかのもとにいられるのは『三つの願いを叶え終わるまで』、別段時間制限が課せられているわけではない
しかしここに長いこと留まりたいという理由があるわけでもなし、とりあえず一つ目くらいはとのどかに願い事を急かす
と、ここで暫く無言でいたハルナがいきなり話に加わってきた
「ねえねえ!妖精ってことは魔法とか使えんの?さっき空飛んだみたいに!」
「出来るよ、流石に限度とかもあるけど」
よっしゃ!ハルナはガッツポーズをとりセイロンとの距離を詰める
セイロンは怪訝そうな表情で『君の願い事を叶える義理は欠片もない』と念を押したが、そんなことは問題ではない
のどかの肩を掴んで引きよせ、ハルナは声高らかに願い事をのどかに代わって口にした
「この子とネギ君……私達のクラスの担任とを両想いにしてあげて!これはのどかも望んでることだから問題無い筈よ!」
「却下」
「はあ!?」
が、セイロンの答えはNO
やはりのどかが直接言わねば駄目なのか
そう思ってのどかにさっきと同じことを言うよう強いるが、セイロンが語る理由はまるで別物
「僕ら紅茶王子が叶えられるのは、『ささいな願い事』だけなんだよ。他人の感情弄るとか論外」
「何よそれ!?」
「……あー、でも確かにそれは辻褄が合ってますね」
ようするに願い事の内容が、キャパシティというか限度を超えているのだ
納得せず不満を漏らすハルナであったが、そんな中夕映は一人この決まり事に納得を示した
「さっきの話からすると、紅茶王子は複数人。何でもありなんてことになると、世界征服やら超大金持ちやら言い出す人も必ず出るでしょう。そんなのが世界中の紅茶王子によって叶えられれば、世界の大混乱以外の何物でもないです」
「そういうこと。もっとも、世界征服みたいな大それた願いを叶える力なんてどの紅茶王子も普通持ってないけどね」
まあこの願い事の制約も含めて、だいたい言うことは言ったかな
そう言うとセイロンは手に持っていたクッキーを食べ終え、ホッと一息
「……要するに、『限度を超える魔法を行使する必要のない願い』なら問題無いわけですね?」
「……気安く人のこと摘ままないでもらえる?」
そこへ夕映が手を伸ばし、後ろ襟を摘まんで持ち上げる
「そういうことでいいんですよね?」
「……言い忘れてた、『無期限』なのと『他人の人生に重大な影響を与える』のもアウト」
おそらく自分にとって面倒な願い事でも考えたのだろう
そう予測したセイロンは、言い忘れていた残りの願い事の制約で最後の釘を刺しておく
前者は仕事の関係上言うまでもない、厳密には『私(主人)が死ぬまで云々』も大半は駄目
後者は一番最初に言った魔法の限度にも抵触するわけだが、他にも紅茶王子を魔法無しで殺人・窃盗等に使わせるのも入るのだろう
しかし夕映が考えたことは、そのどれにも抵触しない
夕映はのどかを一瞥した後、セイロンへ願い事を告げた
「ならこれなら問題ないですね、『のどかの恋の成就のため、私達三人へ一切の協力を惜しまないこと。期限は、恋に決着がつくまで』」
途端に、セイロンの顔が嫌そうなそれに染まる
「おおっ、夕映あったまいー!」
「またそんな厄介なのを……ねえ」
だが彼には、紅茶王子として仕事を全うする義務があった
願い事の内容が面倒で骨が折れそうなことは充分承知だったが、本来彼の主人であるのどかへ顔を嫌そうなままそれのまま向け、
「君の友達こんなこと言ってるけど、一つ目ホントにそれでいいの?」
確認、これで『はい』と言われれば決まりだ
突然訊かれたのどかは、えっとえっとと落ち着きのない様子でセイロンへの回答に悩む
ついには、自分だけでは決め切れず親友二人へ視線を送ったが反応は言わずもがな
二人が二人無言で頷き、のどかの決心を促した
「……お、お願いします、一つ目の……願い事」
やれやれ、とジェスチャーで分かりやすく表現し、夕映の手から脱出してのどかの目の前まで移動
「りょーかい、それが君の一つ目の願い事。決着云々の判断は僕がするけどいいよね?」
「は、はい……」
とりあえず、一つ目の願い事を言ってもらえたことで仕事としては一段落か
一つ目の願い事すらなかなか決めかねる主人が過去にいたことを考えると、初日としては充分かもねとセイロンは思った
(とは言ってもこの子流されすぎ。実質、友達二人の願いを代弁したみたいな形だし……まあそれでさくさく三つ叶え終わるなら、僕としてはいいんだけどね)
二つ目以降の願い事を言うことは、今日はもうあるまい
最初の説明でも話していたが、願い事が叶え終わるまではここに住むことを改めて三人に言って再確認
とりあえず今日はこれでと厚めのハンカチを一枚渡され、ソファのクッションの上で寝ることに
「それじゃセイロン君おやすみー、明日からお願いねー」
本来ならのどかが言うべきであろうセリフをハルナが言い、電気を消し三人はそれぞれのベッドへ
(そういやここ、日本のどこだろ?……まあいいや、明日訊こう)
紅茶王子の一日の生活のリズムは、人間と殆ど変わらない
腹が減れば物を食べるし、眠ければ寝る
セイロンは自身の睡眠欲に素直に従い、瞼を閉じた
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短いうえ大分間が空きましたが二本目です。 | ||
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