緋弾のアリア 紅蒼のデュオ |
………………………
どれほどの時が経っただろうか。飛牙が意識を失った後も物語は進み続け、遂に彼を舞台に上がらせないまま物語は終幕を迎えてしまった。
台場の人工浮島(メガフロート)の一つ、通称『空き地島』に不時着した飛行機から乗客達は降りていく。もとより高料金の旅客機、乗員はさして多い訳では無かったが、それでも人の流れは凄まじく地上に降り立った者は皆安堵の息をもらしている。
その人の流れに逆流する影が一つ。影は流れの隙間を縫って機内に駆け込み、急いで目標の確認へ向かう。
彼女は怜那。作戦開始前に飛牙によって下された命令に従い、武装解除したUH-60ブラックホークと共に『空き地島で』待機していた。機体からキンジ達が降りてきた時、そこに飛牙の姿がない事に妙な危機感を覚えいてもたってもいられずに駆けだしたのだ。
「飛牙……ッ!」
彼女を知る者は揃って驚愕したであろう、その表情は普段の彼女からは見れない感情に溢れていて、声もいつもの抑揚のないものではなく悲痛なものに染められていた。
人の流れを脱した怜那は、まるで何かに引き寄せられるかのように歩を進める。一本も道を違うことなくたどり着いたのは一階のバー。もとの装飾は見る影もなく砕け、破け、壊れ、所々赤で上塗りされていた。ある壁はまるで爆破されたかのように大きな穴が空き、夜風を吹き込んでいた。
その室内の一角、赤色の水溜まりの中心点に目標はいた。
目標−−−飛牙は壁に寄りかかるようにして倒れていた。
「飛牙ッ!」
彼の姿を確認すると、怜那は彼の元へ駆けた。うっすらと目元に涙が浮かんでいたが、彼女はそれに気付かない。近寄った彼女は、飛牙の負傷具合に驚いた。
彼の装いはまさに満身創痍。防刃性のマントは裂け、腹部の制服に至っては最早見る影もない。
戦場でもここまでの重傷を負うことは無かったのに、と怜那は飛牙と相対した相手の事を考えた。
「……よう、怜那…。お前…いい顔してんじゃ、ねえか…」
「…!飛牙!」
「…叫ぶな…。体に、響くじゃねえか…」
まだ意識があった彼を見て、怜那は顔を綻ばせる。同時に、彼の右横腹が酷い火傷状態であることに気付く。
「…応急処置だ…。傷を塞がなきゃ、出血多量で死にそうだったからな…」
怜那の視線に気づいた飛牙は、自身の能力で傷を強引に塞いだ事を説明した。
見れば右手の横には空き瓶と半ばから折れたダガー。無茶をする、と怜那は呆れた。
「取り敢えず、病院に行きましょう。この傷では危険です」
そう言いつつ、怜那は軽々と飛牙の体を担いだ。飛牙自身あまり軽い方ではないが、さして苦とする訳でもなく細い体で持ち上げたのだ。
「ああ…。また伊仙に怒られんだろうな…」
「当たり前です。そんな無理をしたのですから」
外に出ると、雨は既に止んでいた。風はまだ肌寒く、飛牙を担いだ怜那はいそいそとブラックホークへ向かう。軍用機が珍しいのか車輌科(ロジ)を中心とした学園のメンバーが機体に群がっていたが、さして気にすることもなく搭乗。飛牙を固定すると人が離れたのを確認し浮上した。
眼下には『端以外は少しだけ湿った地面』と、『二台の風車に激突しかけているエンジンの破損した飛行機』が見える。今日は能力を使いすぎた。私も早く休みたい。ヘリを操縦する怜那は溜め息をついた。
「入院だね。しかも絶対安静だ」
飛牙がいる病室で、さも当たり前のように有言院は告げた。隣のソファーでは怜那がすうすうと寝息をたてながら寝ており、特別室であるここには他に誰もいなかった。
「…チッ。やっぱりそうなっちまうか」
「当たり前じゃないか。右腹部は焼いて強引に傷を塞いだせいで焼けただれてるし、内臓に損害が無かったのが奇跡とも言える大怪我だったんだ。おまけに両脚両腕、特に右腕には大きな裂傷もあるんだ。ここまで焼いて塞がれてたら正直僕でも手に負えなかったよ」
憎々しげに天井を睨む飛牙に、有言院は更に、と付け加える。
「火から無理やり爆破を起こさせたんだ。それこそ体がそのまま後ろに吹っ飛ぶような威力のね。おまけに君の実力以上の能力を頻発したんだ。君の脳と精神はもう参ってるはずだよ」
チッ、と視線を外へそらす飛牙は見ずに、有言院はソファーで静かに眠っている怜那を見つめる。
「まったく、彼女も彼女だよ。まさか、
『水を操作して人工浮島の雨を海に逸らし、地面の水を海に流して乾かす』
なんて恐ろしい事をやってのけたのに、未だ脳のどこにも異常が無いなんてね。匙を投げ出したくなるよ」
「んなこたぁ当たり前だ。俺のパートナーなんだからな」
「……まったく。そう言うことは本人が起きてるときにでも言うんだね」
はぁ?と言いたげに飛牙は有言院を睨む。お大事に、と言い残して彼は肩をすくめながら病室を出た。
室内が静寂に包まれる。よく耳を澄ませれば微かに怜那の寝息が聞こえてくる。飛牙が顔を向けてみれば、普段からは想像もつかない綺麗な笑みを浮かべ寝ている彼女がいた。
(まさか、能力酷使の反動で感情が戻った…なんてな)
彼女の笑みにつられ、自然に顔が綻んでいたのに気付いた彼は、自嘲気味に鼻で笑った。
「……………ありがとう」
自然に出た言葉に、これは頭がどうにかしてんだなと判断した彼は、彼女と正反対の方向を向き、やがて深い眠りに入った。
そのせいで彼は見れなかったが、怜那の浮かべる笑顔はより一層輝きを増した。
説明 | ||
1巻の内容が終わってしまいました。進行が早いな、と自分の文才の無さを痛感しております。 | ||
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非ハーレム 銃火器 緋弾のアリア | ||
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