IS~音撃の織斑 四十六の巻:オロチ、再臨
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次の朝、一夏が目覚めたのは九時を少し回った所だった。両隣では、シーツと毛布だけを被って幸せそうな顔を浮かべて眠っている二人がいる。左手に例の指輪が日光を受けて煌めいていた。そんな時に、マナーモードになっていた携帯のバイブレーションが。

 

『オロチが完全に覚醒する可能性大なり。また、血狂魔党の武装蜂起の予兆有り。アームドセイバーを使いこなせる者、ないし過去にオロチ討伐に同行した者達、そして戦国時代の七人の戦鬼に該当する猛士の鬼に招集をかける。早朝明日に出頭されたし。

 

吉野本部長』

 

「オロチか・・・・・俺も遊んでられねえな・・・・にしても・・・・」

 

「にしても、何?」

 

「ん、おお?!」

 

二人が起き上がっていた。毛布を被ったままではあるが。

 

「ああ。吉野の本部長から招集が掛かったんだ。明日、また行かなきゃならない。これが、本当の本当に一番ヤバイ戦いになる。死人も恐らく出る。」

 

二人の頬に触れて、二人を抱き寄せる。

 

「だから、限られた時間でも、二人を幸せにしたい。ボロボロで半身不随になってるかもしれないけど、俺は絶対に戻って来る。約束する。」

 

「うん・・・」

 

「分かった・・・・」

 

コンコン

 

「開いてるぞ。」

 

一夏は急いで下はジーパン、上は黒いタンクトップを着てそう答えた。

 

「おお、黛さん。久し振り。どうかしたの?」

 

「ちょっとお願いがあって・・・・」

 

「取材?」

 

「ん、まあね・・・・実は・・・」

 

ぽつぽつと薫子は歯切れ悪くも語り出した。

 

「成る程、でそのインフィニット・ストライプスの副編集長であるお前の姉が俺にインタビューをしたいと。それも楯無、簪、そしてラウラも同行して。本人の意向と言うのもあるぞ。まあ、俺自身別に構いはしないが・・・・高く付くぞ。」

 

「そう言うだろうと思って、ジャーン!」

 

「ファッションショーの入場券?」

 

「そ、一夏君てやっぱりファッションセンスが良いと前々から思っててさー、たっちゃんや簪ちゃんと一緒でも絵になるし。宣伝にもなるしさ。当然ながらギャラは払うわよ?」

 

「・・・・・二人はどう思う?」

 

「やって、みたい・・・・」

 

「面白そうね、私は良いわよ?」

 

二人共全く異存は無い様だ。(この時二人は姿を晒していないが。)

 

「こう言うのは出来るだけすぐの方が良いだろう、先に準備させてくれ。インフィニット・ストライプスなら俺もネットでたまに読んでいる。この格好じゃ流石にマズい。一時間位で用意するから、それまで待っててくれるか?」

 

「分かったわ。 ラウラちゃんは私が説得するから、心配しないで。」

 

薫子は満足したのか、扉を閉めて鼻歌混じりで出て行った。

 

「さてと、シャワー浴びるか。」

 

一夏が部屋に取り付けられている浴室に向かうと、二人もそれに付いて行く。

 

「おいおい、三人は流石に狭いだろう?」

 

「良いでしょ、別に。今更照れる事無いし。それに、一夏って以外とキス魔だったって事が分かったわ。あんなに・・・・するしさ・・・・」

 

「隠れ狼さんだよ、一夏ってば・・・・いつもと全然違うもん・・・・」

 

「いやいや、俺も分かった事があるぞ。簪が隠れSで楯無がだらしないとろけ顔になったらメチャ可愛い甘えん坊になるって。見ろ、俺なんかお前らに噛まれたんだぞ、首とか、後肩。まだ歯形が残ってるし。」

 

そんな事を言いながら三人はそれぞれ体を洗った。ある程度身なりの整った服装で外に出ると、薫子がラウラと待っていた。タクシーでインフィニット・ストライプスに向かうと、受付口で彼女の姉、黛渚子がビジネススーツを着て出迎えた。

 

「あ、姉さんだ!おーい!」

 

「あら、薫子。彼が・・・?!あ・・・・」

 

「あまり、俺の事で騒がないで下さい。こう言っちゃ悪いですけど、記者とかだったら俺の正体知った瞬間ダボハゼ並みに飛び付きますから。」

 

渚子が叫ぶ前に、一夏が彼女を止める。

 

「え、ええ・・・・付いて来て。」

 

興奮を微妙に抑え切れずに四人を連れて行った。

 

「ここか・・・・」

 

「うん、一応上からも言われてるんだけども、宣伝の為にも、ウチの服着てもらうから。皆も選ばれた服、ちゃんと着てねー。」

 

試着室から出た四人は、それぞれ変わった服装をしていた。一夏は肩袖が破り取られた裾の長い革ジャン、ダメージジーンズ、そしてその露わになった左腕には指輪やバングルを幾つか嵌め、凶悪な笑みを浮かべたバッドボーイ。簪は眼鏡を外して楯無と同じ服装を着ていた。縞模様のニーハイソックスにパンプス、フリルの付いたミニスカートにお揃いのトップで正に『姉妹』と言う感じを引き出していた。ラウラはと言うと・・・・何故か着流しを着ていた。季節外れかもしれないが、(以外にも)似合っていた。黒い布地にあしらわれた白い花は、一纏めに結わえてある銀髪に良く映えている。それぞれがポーズを取って写真撮影を行い、合計が百枚以上に達した所で休憩が入った。

 

「以外と疲れるな・・・・まあ、みんな似合っていたし、その写真も幾つか貰えたから俺としては役得だけど。特に、ラウラが着流しを着るとは思わなかった。あんなのがあったのは正直以外だったが、綺麗だったぞ。」

 

「は、はい・・・・」

 

ラウラは俯いて消え入りそうな声で返事をする。一夏は彼女の頭を優しく撫でる。

 

「二人も、本当に姉妹って感じが出てた。凄く可愛かった。簪、時折眼鏡外してみたらどうだ?別に目が悪い訳じゃないんだろう?」

 

「うん・・・・ISの、簡易ディスプレイだから・・・・」

 

「そっか。まあ、あっても無くても、簪は簪だから。」

 

「はいはーい、じゃあ、次は男女一組で写真を撮りまーす!用意した服に着替えて下さーい!今度は大体五枚ずつでーす。」

 

渚子とスタッフ数名が新しい服を持って来た。まずは楯無とだった。元々恋仲なので、ナチュラルに腰を抱き寄せたりする事が出来るので、撮影は滞り無く進んだ。簪は多少の照れがあったのか、子供の様にいやいやと頭を振っていたが、耳元に何か囁かれると直ぐに大人しくなった。最後はラウラだったが、今回の服装は何かが変だった。

 

「何故に燕尾服・・・・・?」

 

「どうなるかと思ってさ。実験よ、実験。」

 

そう、ラウラはフリルの付いた白いドレスを着て髪留めを止めていた。それはまるでどこぞの令嬢に見えなくもない。その隣に立っていた一夏は執事の服装をしていた。シャツ以外の衣服はほぼ漆黒であり、まるでカラスの様だった。髪も後ろに撫で付けられ、伊達とは言え眼鏡もかけさせられた。左手の甲にはスデンドグラスの様なデザインの黄色いペンタクルがスプレーで描かれ、爪も黒いマニキュアを塗られた。

 

「おい・・・・これ、どう考えてもアレだろ?」

 

「じゃあ、この台詞言ってみて。」

 

差し出された紙切れを渚子から受け取り、読み上げた。

 

「砂糖を塩に、偽りを真実に、濃紺を金色に。これぞボーデヴィッヒ家の執事・・・」

 

「もっと感情を入れて!棒読みじゃつまらないでしょ?」

 

渚子はやはり遊んでいる様だ。いつもよりテンションが高い。

 

「はいはい、分かりました。」

 

「後、ラウラちゃんも眼帯外してね?」

 

それを聞いてラウラは表情が固まる。彼女の眼帯は制御出来なくなったナノマシンが埋め込まれた『ヴォーダン・オージェ』を隠す為に付けてあるのだ。そして制御不能に陥った故に目が変色し、失敗作の烙印を押された。その金色のオッドアイは言うなれば屈辱の証なのである。

 

「大丈夫だ。ラウラ、お前の目は、お前の個性だ。お前をお前にしてくれる。お前は俺の妹だ。お前のその目は、俺の家族の中でも、お前しか持っていない特別な物だ。誇れよ。」

 

一夏は彼女の顔に両手を添えて、そう囁いた。ラウラは小さく頷くと、一夏の手が眼帯を外し、ヴォーダン・オージェを晒した。彼女の前に、一夏は片膝をつき、手を胸に当て、もう一つの手は、ラウラに差し出された。

 

「さあ、((お嬢様|レディ))、ご命令を。砂糖を塩に、偽りを真実に、濃紺を金色に。これぞボーデヴィッヒ家の執事。」

 

すかさずそこをフラッシュが焚かれる。

 

「良いね?、正に主従と言う物を見た気がするよ。次は、うーんと・・・」

 

「じゃあ、思い切ってこう言うのはどうだ?」

 

一夏はラウラの後ろに回り込んで後ろから腕を回した。当然、左手のスプレーアートが見える様にだ。目は冷たく、口元は甘く。それを直視したラウラは思わず顔を朱に染める。更にシャッター音が響き、撮影が終了した。一夏は唯一の男子なので、四人の中でも最も着替える回数が多かった。それ故疲労が他よりも甚大なのである。

 

「ようやく終わったぜ・・・・・疲れた・・・・」

 

マニキュアは落ちた物の、スプレーアートが未だ落ちないため、左手にタトゥーを入れた様になってしまった。変な目で見られる事は確定だろう。

 

「ったく、どうすんだよ、これ・・・・・?」

 

ドッスゥゥゥウウウウウウンン!!

 

地面が突然揺れ始める。地震ではない。それ位は分かった。

 

(魔化魍か・・・・やはりオロチが絡んで来ると厄介だ。これはもう休みは取れなくなるな。)

 

「ラウラ、避難誘導を頼む。簪と楯無は逃げ遅れた人の確認。あいつらは俺が相手する。」

 

一夏は着ていたジャケットのフードを被って顔を隠すと、屋上に上りながら変身した。アームドセイバーはアサギワシが運んで投げ渡した。

 

「荊鬼、装甲。」

 

ディスクアニマルが大量に集まって更なる鎧を形成し、一夏はアームドセイバーと断空を構えた。地上の魔化魍はアームドセイバー、空中の魔化魍は断空で対処する為だ。魔化魍何体かに鬼石を撃ち込んで吹き鳴らすと、アミキリ、イッタンモメン、そしてオトロシをそれぞれ二体ずつ撃破した。

 

「鬼神覚声・・・・はあっ!!!!!」

 

気合いの籠った声が清めの音に変換され、大量発生したヤマビコ、ヤマアラシ、バケガニ、そしてロクロクビを一掃した。等身大の魔化魍はアームドセイバーの一撃で葬られる。

 

(ヒビキさんからも聞いた・・・・もしこれがおろち復活の予兆なら・・・・どこからか・・・・森が・・・コダマの森が現れる筈だ・・・・でも、どこに・・・・?!)

 

だが、後ろから迫って来る存在に気付かなかった。オロチが大口を開けて荊鬼を丸呑みにしようとしているのだ。だが、既の所で何者かによって投げつけられた音撃弦が目に突き刺さった。その音撃弦には見覚えがある。

 

「斬劉雷火?!って事は・・・・」

 

「よう。地獄の道が入り組んでたから、迷い出て来たぜ。」

 

「師匠?!」

 

そう。それは紛う事無き師の姿。両手に携えられた音撃棒、灰色の旋風の名残。間違い無く、石動鬼であった。

 

「でも、何で・・・?あの時・・・死んだんじゃ・・・?!」

 

「あの手紙に俺が死んだなんて一言も書いてないだろうが。少なくとも、俺はまだ死なない。お前と一緒に、オロチを倒すまで。」

 

「じゃあ、一緒にやりましょう。」

 

荊鬼はアームドセイバーを差し出す。

 

「石動鬼、装甲!」

 

ディスクアニマルが体中に纏わり付いて鎧に変わり、白い炎を振り払ってアームド状態になった音撃戦士二人が現れた。

 

説明
残り後五?六話となります。最終決戦も間近です。では、どうぞ。準備ができ次第、書き溜めした物を一挙投稿して行きます。
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コメント
はい、実際に見た時には鬼の成長過程とその厳しさを知りました。あのシーンは印象深かったので。(i-pod男)
斬鬼さんと同じ術を使ったのか・・・師匠・・・(デーモン赤ペン)
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響鬼 IS 

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