竜たちの夢 拠点2
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 見たくない現実は、目を逸らせば消えてくれるか?――答えは否である。

 

 現実は排除しようと動かなければ、そこから消えない。

そもそも、それを消し去ることなど大体の場合は叶わないものであって、変えるのは難しい。

それを変えることができる程の力を自分が持っているのならば、そもそもそのような状況にはならないのだから。

 

 孫権仲謀も、かつてはその状況に陥っていた。

偉大な母と姉を誇りに思いながらも、同時に二人に届かない己を呪い、二人を妬んだ。

将にも王にもなり切れぬ己を呪い、孫呉に必要とされぬ己に悩み、己を必要としてくれない皆を憎んだ。

あまりにも矮小で、愚かなことだが、それしか彼女には道が無かったのだ。

 

 そんな孫権を変えてくれたのが北郷一刀だった。

思春の兄貴分であり、同時に想い人でもある彼は、孫堅文台の生存に一役買い、孫権の自己否定を強める原因になった人物だ。

実を言えば、孫権は彼のことを憎んだこともある。母を生かしたことを心の中で責めたこともある。

 

 

「……私は、本当に醜かったわね」

 

 窓から見える日暮れを見ながら、孫権は思う。

もしも一刀が彼女を求めてくれなければ、彼女の心はあのまま死んでいただろう、と。

王に相応しくあろうと己に重圧をかけ続け、孫策と孫堅に届かない現実に苦しんで、そのまま自滅していたのは間違いない。

あの頃の彼女には、余りにも余裕が無かった。

 

 一刀はそんな彼女を、孫策や孫堅よりも必要な存在だと言ってくれた。

ただ言うだけならば誰にだってできる……しかし、彼はそれを証明までしてくれたのだ。

彼が思い描く未来に居るのは孫伯符でも孫文台でもなく、孫仲謀であるとはっきりと言ってくれたのが、彼女には嬉しかった。

そこまで誰かに求められたのは、初めてだったのだから。

 

 孫権にとって最も重要なのは、何者にもなれなかった彼女から、王たる彼女になることで一刀に応えることだ。

彼は彼女に期待してくれている……彼女を明確な形で求めてくれている。

そして、彼はただ求めるだけではなく、その為に彼女を導いてくれるのだ。

これ程、彼女にとって有難い環境は無い。

 

 

「可愛い子には旅をさせよ、ね」

 

 家族の元を離れてから、孫権は変わった。変わることができた。

未だ母や姉に並ぶ程の力は無いかもしれないが、少なくとも二人を追いかけることは止めた。

彼女は一刀の下に来て気付いたのだ……参考にすべき者が、目指すべきものが間違っていたことに。

彼女が目指すべきは鼓舞する王ではなく、慈しむ王だ。

 

 北郷一刀と劉備の二人を参考にすることで、孫権は彼女の才能を生かした王になることができる。

慈しみ、共に歩み、支え合い、先導するのではなく共に歩むことで皆を率いる王になれる。

彼女には一刀程の圧倒的な武も知も無いし、劉備のような底抜けの精神力も無い。

しかし、それでも彼女は二人と同系統の王だ。

 

 追いつくことも、追い抜く必要も無い……彼女に必要なのは、一刀のような実務能力と劉備のような理想だけであって、二人に成ろうとしなくても良いのだ。

ただ、彼女は彼女が国を治めるのに必要な要素を知り、それを習得するだけで良い。

王でありながらも王を支える王佐である彼女は、それに必要な能力さえあれば、やっていける。

一刀は必要なものをそれとなく教えてくれる……だから、彼女はそのヒントを手掛かりに進んでいく。

 

 

「! どうぞ」

 

 不意に聞こえたノックに、孫権は応えた。

ノックをする者など、彼女の知る限りでは一刀一人しか居ない。

そのような習慣はこの大陸では無いし、異国から来たという彼くらいだろう。

そういう意味では、彼であることを意味するこのノックは実に分かりやすい。

 

 

「失礼する。孫権、時間は大丈夫か?」

 

「ええ、今日は予定を入れていなかったから」

 

「そうか。では、行こうか。この部屋からでも月は見られるが、もっと良い場所がある」

 

「良い場所?」

 

「ああ、蜃気楼で少しばかり走ると、もっと月が良く見える場所に行けるんだ」

 

 一刀の言葉に孫権は少しばかり考えると、頷いた。

彼の言葉に偽りは無いようだし、その眼も疑念を抱く必要が無いことを教えてくれる。

孫権は疑うべきか信じるべきかを直感で切り分けることが可能だ。

これこそが、彼女が王でありながらも王佐たる由縁である。

 

 王は信じることが仕事であり、王佐は疑うことが仕事だ。

その両方をすることができる孫権は、王でありながらも王佐たることが可能な、稀代の天才である。

思春が見出し、一刀が磨いているこの原石は、とてつもなく美しい宝石へと変わり得る可能性を以ているのだ。

 

 曹操は天才型だと言われているし、実際そうであろう。

しかし、信じるか疑うかという点においては、彼女は明らかに凡人だ。

孫権はそれを直感で切り替え、信頼に信頼で答えることが可能な、稀有な存在だ。

呉で真に恐れるべきは孫文台でも孫伯符でもなく、孫仲謀である。

 

 

「分かったわ。ここからどのくらい?」

 

「すぐに着く。蜃気楼は別格だからな」

 

「そう……それじゃあ、行きましょうか?」

 

「そうだな。蜃気楼は城の外に待たせてある」

 

 孫権は、一刀と共に部屋を出ると鍵を閉めてそのまま歩き出す。

鍵と言っても簡易なものなので、鍵を無くしても入る方法はいくらでもある。

この鍵を発案したのは一刀であり、今までは内側からしか扉を施錠できなかったのが一気に変化した。

出かける際に鍵を閉めるだけで、大分防犯性は上がるのだ。

 

 簡単に鍵を開けることはできるが、それをできるのはこの鍵の構造を知っている者だけだ。

詰まる所、この城に通っている者か、この鍵を作成した者の関係者かに限られる。

そもそも、そうならないように一刀は徹底的に腐敗を焼き尽くしているのだ。

この鍵も飽く迄保険であって、元来は必要の無い物でしかない

 

 

「この鍵の仕組みは単純だけど、安心できるわね」

 

「気休めでしかないが、その気休めも役に立つだろう?」

 

「ええ、精神衛生上とても助かるもの。北郷殿は、本当に凄いわね。こんなに沢山の発明をして」

 

「なに、俺の国では普通のことだったからな。それに、今は試作段階でしかない」

 

「北郷殿の国はまさに天の国みたいね……そこまで進んでいるなんて」

 

 孫権の言う天の国というのも強ち間違いではない。

一刀は天からこの世界に降り立った竜であり、元々は天に居たのだ。

ただ、その天こそが揺るぎ無い正史であり、この世界は外史ですらない他の何かだが。

実際一刀の現代の知識はこの世界ではオーバーテクノロジーと言われても良い代物だ。

実現することができる程の技師が居ないだけで、その元となる案は彼の頭脳にある。

 

 一刀としては、それがこの大陸の発展に繋がることは分かっているが、やはり躊躇いがある。

成長し過ぎれば、すぐに現代のようになってしまい、人々は生きる意味を見出すことすら難しくなるからだ。

彼の知識は飽く迄知識のままで、実現させる訳には行かない。

発展するのは良いことだが、発展の終わりが見えるまで発展させては、後が無い。

 

 公害なども考慮すると、やはり一刀は明らかに不自然な発展を齎すことは叶わない。

早い時期から化石燃料などの使用が始まるのも良くないし、蒸気機関などもかなりの燃料を使う。

発展することは悪いことではないが、滅びへの近道となる発展はさせてはいけない。

歴史を知っているからこそ、彼はあまり発展に乗り気になれないのだ。

 

 

「孫権、確かに進んでいることは良いように思えるだろう。しかしそれが頭打ちになったら、人々は希望を持てなくなる」

 

「発展のしようがないと気づいてしまうから? それとも、向上心が必要無いから?」

 

「両方だ。餌を与えられる動物はいずれ自分で狩りをすることすらできなくなる。過ぎた発展は危険だ」

 

「成程……そこまで考えているのね。でも、そんな時代は暫くの間は来ないでしょう。悩んでも仕方ないわ」

 

「……そうだな」

 

 一刀はオーバーテクノロジーの鍵を握っているが、それを知識に留めるだけだ。

実現などしないし、してしまえば歴史が大きく狂いだしてしまうのは目に見えている。

確かにこの世界は彼の育った世界とは違うが、それは歴史を大きく変える理由にはらない。

これは劉備を王にすることにも言えることだが、歴史を変えるのならば、それなりの責任を負わねばならないのだ。

 

 一刀にその責任を負うことなどできないし、そうならないことを祈っている。

孫権の言う通り、今は未だその時ではないし、後千年以上も先にそうなることは分かっている。

彼はそのようなことではなく、今からどうしていくかを考えていれば良い。

千年も後のことを今から考えていても詮無いことだ。

 

 

「孫権、ありがとう」

 

「いきなりどうしたの? 私はお礼を言われるようなことなんてしていないわよ?」

 

「良いんだ。孫権のお蔭で、一つ悩みが解決したからな」

 

「そ、そう……なら良いの」

 

 仏頂面から一転、微笑と共に感謝を述べる一刀に孫権は思わずどもってしまう。

感謝されることなど滅多に無かった彼女にとって、彼のこういう態度は実に嬉しい反面、戸惑ってしまう。

余りにも経験が足りない彼女は、こういう時に黙って受け取るということが自然にできないのだ。

それもまた、これから学んでいく……一刀達の下で。

 

 この陣営に加わってから、孫権は自然に笑うことが増えた。

今まで良い王であろうと気負っていた彼女は、それを忘れてひたすらに成長し続けている。

思いばかりが先行していた以前とは異なり、今は成長がそれについて来ている。

まだ思い通りの王には程遠いが、間違いなく彼女は進んでいるのだ。

 

 良き師を手に入れた今、彼女はその稀代の才能を開花させつつある。

 

 

「正直な話、孫権がここまで成長するとは俺も思っていなかったんだ。本当に、孫権は凄いな」

 

「ありがとう……北郷殿達のお蔭よ」

 

「孫権、殿は要らない。俺とお前は飽く迄対等な婚約者であって、お前は俺の従者ではない」

 

「ふふ……そうね。貴方の夢を叶える為に忠誠を誓いはしたけれど、飽く迄私達は婚約者だもの。北郷、で良いかしら?」

 

「ああ、それで良い」

 

 孫権は知っている……一刀に「お前」と呼ばれて初めて、彼の心の内側に入ることができるのだと。

実の処、彼が「君」と呼ぶ間は彼との距離は遠いままでしかない。

彼がそう言い続けている間は、彼は関係を割り切っておらず、踏み込もうとはしてくれない。

思春は彼に最も近い場所に居るようで、実は一番遠い場所に居るのだ。

 

 孫権の見立てでは、一刀に最も近い場所に居るのは司馬懿と劉備だ。

一刀は間違いなく、あの二人に対しては一切の遠慮をせず、最大限の感謝を込めて接している。

特に、司馬懿に対してはまさしく一切の隠し事もしていないと言える程だ。

もはや彼女に関しては別格と言っても良い。

 

 一刀という名を呼ぶのを許されているのが司馬懿と劉備だけなのも大きい。

彼は口に出しては言わないが、皆彼が真名の重みを大事にすることから、彼の名を呼ばないようにしている。

そんな中、あの二人だけは一刀という名を呼ぶことを許されている。

これは、とても大きな差だ。

 

 一刀という名を呼べないようでは、彼の妻になることなど到底できないだろう。

 

 

「ねぇ、北郷。貴方はいつも真名を大事にしているけれど……貴方にとって真名とは何なの?」

 

「真名は……鎖だよ。最大限の信頼を意味する、鎖だ。それで縛られたら、俺には同じ鎖で縛ることができない。だから、そう簡単には受け取れない」

 

「鎖、ね。でも、真名ってそんなに重いものなのかしら? 大切な人に呼ぶのを躊躇われる名前なんて、私は嫌よ」

 

「真名とはそういうものだ。その者の本質を表す名であり、親が子を祝福する為に名づける名だ。だから、重い」

 

「でも、親はその名で子が呼ばれるのを願ってつける筈よ。重さだけ見ていては、名の本質を見誤るわ。心を傷つけるだけの名など、滅んだ方が良いでしょう?」

 

 孫権の言葉は正しいし、一刀もそれは考えている。

呼ばれない名前はゴミにも劣る無価値なもの……そう彼は甘家で教わった。

実際その通りであることは承知しているが、それでも彼は真名の元来の重さを捨てられない。

時代で価値観が変わるのと同じように、やがて過去の文化は軽視されていくものだと知っていても、彼はこの価値観を捨てることができない。

 

 真名の重さを捨ててしまえば、途端に真名を使った誓いは軽薄なものになってしまう。

そのことを多くの者は理解できていない……真名とは命そのものだと思っても良い重さを持つ。

だからこそ、真名を使った誓いは絶対であることができ、破れば待つのは死だ。

 

 まさしく己の正体、つまりは己自身にかけて誓うことを意味するのだから、当然であろう。

それでも守れないことはあるし、その時責めるようなことを一刀はしない。

彼は人間よりも遥かに強いが、その強さを他者に押し付けるつもりはないし、システムしか守れない者になるつもりもない。

だから、仮に真名を使った誓いを破られても、彼はそれに失望したりなどしない。

ただ、最初から準備していた保険を使うだけだ。

 

 

「まさしくその通りだ。人間は絶対ではないし、約束を違えることだってある。真名だけでそれをどうこうできる筈も無い。しかし――初めて真名というものが生まれた際、それは確かにその不確かさを確かなものにする為のものだった筈なんだ」

 

「……真名の発祥を知っているの? 異国の者である貴方が?」

 

「意外か? 最初の真名をつけられたのは高祖劉邦であったと聞く。真名は、不確かな存在である人間がこの世界との繋がりを持とうとしたからこそ生まれたんだ。そして、真名は人と世界だけでなく人と人を繋ぐこともできる」

 

「それが真名の本来の使い方なの? 発案した者は、余程の人外だったのね。名前一つで世界と人は繋がらないし、人と人も繋がらないわ」

 

「そう思うか? ならば、お前にとって真名はただの慣習か? 本当にそこには何も無いか?」

 

 一刀は知っている……真名が持つ力は、人間に理解できるものではない。

それは確かに人間をこの世界に根付かせ、人と人を繋いでいるし、それを持たない彼はそのどちらも叶わない。

真名はただの慣習ではない……その力は失われつつあるが、確かに神聖なものなのだ。

 

 

「……確かに、何かに繋がっているような感覚はあるわ。それはとても大きくて、まるで揺り籠みたいよ……だけど、これがこの世界だと言うの?」

 

「恐らくそうだ。俺は真名を持たないから、直接感じることは叶わない。しかし……皆を通してそれが伝わってくる。本当に羨ましいよ」

 

「……それじゃあ、真名を与えられなかった子や、忘れてしまった子は皆この世界から切り離されてしまうのかしら?」

 

「与えられなかった者は、確かにそうなる。しかし、忘れてしまっても世界からは切離されることは無いさ。一度繋がれば、死ぬまでそのままだ」

 

「そう……北郷は真名が欲しいの?」

 

「ああ、欲しい。最大限の重さを持つ信頼の証として、この世界との繋がりとして、皆との繋がりとして、真名が欲しい」

 

 名は飽く迄名なのだから、自分で真名を決めてしまうことだって可能だろう。

しかし、そうしたところでこの世界とは繋がれないし、彼は皆を縛ることもできない。

真名はこの世界で、この世界の者が名づけてこそ初めてその力を発揮する。

この世界の者ではない北郷一刀の名づけた名前など、少しの力も持たない。

 

 北郷一刀は飽く迄外世界――天からやって来た竜であって、この世界の人間ではない。

彼には竜に真名があるか否かすらも分からないし、それを愛紗に尋ねたことも無い。

苦しみ続けても、他者を優先し続けた結果であることは重々承知しているが、それでも彼は後悔せずにはいられない。

この不安を誰にも明かせないことが、苦しい。

 

 彼には縋れるものがあるのに、縋れない。

 

 

「なら、誰かに付けて貰えば良いんじゃないかしら?」

 

「それは無理だな。真名は飽く迄親がつける名前であって、それ以外は駄目だ」

 

「そう……でも、貴方の本質を表す呼び名を付けるくらいは良いんじゃないかしら? 真名でなくとも、それさえあれば気休めになるでしょう?」

 

「成程……確かに気休めだな」

 

「それでも、その気休めも役に立つでしょう?」

 

 ニコリと笑いながらそう言う孫権の表情は実に爽やかだ。

先程一刀が言った言葉をそのまま返して言い聞かせる彼女は、やはり頭の回転が速い。

彼女はどの分野でも一番にはなれないが、その高い能力と鋭い勘で上手くやっていくだろう。

王は王たる能力さえあれば、それ以外の能力は凡庸でも構わない……完璧であろうとする必要は無い。

 

 そういう意味では、曹操は最も王に向かないのかもしれない。

あまりにも高潔で、己に満足が行かなければ、認めることも諦めることもできない頑固さは、将来彼女を苦しめるだろう。

覇王になろうと必死になっているのは良く分かるが、それでもその歪みは拭えない。

曹操は自滅していくタイプの者であることは間違いない。

 

 

「ああ、そうだな。それで、その場合俺は何と呼ばれるんだ?」

 

「そうね……北郷は誰よりも強く、誰よりも優しいわ。それはまるで、本当に天のよう……だから、天というのはどうかしら?」

 

「蒼空の空ではなく、天の天か? これはまた随分と大層な名にしたな」

 

「そうさせるだけの力が貴方にはあるもの。帝への不敬だと言われても、私はこの言葉を取り消さないわ」

 

「そうか……天、か。ありがとう。もしもの時は使わせて貰おう」

 

 孫権の言葉に、一刀は思わぬ形で彼が他者からどう見えているかを悟る。

彼はいつの間にか己が天からやって来たことをその身で以て示していたのかもしれない。

以前の彼ならばそれを大げさだと言ったかもしれないが、今の彼は己を客観視できる。

それだけの力を己が持っていることなど、とっくに理解していた。

 

 この時代において、彼は一国を一人で滅ぼせるだけの力がある。

彼が元々居た世界の近代兵器を持っている軍を相手にしたのでは勝負は分からないが、この時代では彼はまさしく無敵なのだ。

氣さえ使えばいかなる刃も通さず、逆に氣で以てあらゆる防御を粉砕することもできる。

一人で一軍処か、一人で一国に値するだけの力が、彼にはある。

 

 だからこそ、孫権が言った名を笑い飛ばすことなど、彼にはできなかった。

 

 

「ふふ……どういたしまして。あっ……あれは蜃気楼かしら?」

 

「そうだ。孫権は間近で見るのは初めてだったか」

 

「! 賢いわね……向こうからこちらに向かっているわ」

 

「蜃気楼は、俺の知る限りでは最高の名馬だからな」

 

 一刀達を見つけた蜃気楼が自ら近づいてくるのを見ながら、一刀は笑う。

蜃気楼は愛紗と同じくらい付き合いが長く、まさしく愛馬と言えるだけの月日を共に過ごしてきた仲間だ。

十年経った今も少しも衰えることのないその力は、竜馬である証とも言える

愛紗の血で強化され、ただ竜だけの為に生きる縛られた生き物だが、彼らにはそれが幸せなのだ。

 

 八年前に彼が出会った少女もまた、竜馬と同じ性質を持っている。

ただ、己の意思となってくれる主に尽くし、愛し、愛されることで満たされる。

そういう風にできていて、それが悪いことだとも、異常であるとも、虚しいとも、絶対に思わない。思えない。

どんなに悲しい生き物であったとしても、幸せだと思ってくれているのならば、彼はそれに応える。

 

 

「さて……孫権、俺の後ろと前のどちらが良い?」

 

「そうね……後ろかしら。北郷の体をしっかりと抱きしめていないと、振り落される気がするし」

 

「了解した」

 

「……こんなに大きい馬に良くそんな簡単に乗れるわね。その身体能力を千分の一で良いから分けて欲しいわ」

 

「無理を言うな。ほら、手を伸ばせ」

 

「ん……ありがとう」

 

 ひらりと蜃気楼の背に飛び乗った一刀は、それに小言を言う孫権に苦笑しながらも、手を伸ばして後ろに乗せた。

女性とはいえ、片手で人間一人を軽々と持ち上げて後ろに乗せるその力は半端なものではない。

人間程度など、竜である彼にとっては大した重みで無く、それこそ指一本でも持ち上げてしまう。

 

 一刀は基本的に厚着を好むが、その下には細身ながらも逞しい肉体があるのを知っているのは劉備と愛紗だけだ。

愛紗は十年も共に旅をしてきたのだから当然だし、劉備は彼の部屋で彼に甘えることもあり、その際にそれを認識している。

そして今、孫権は一刀の体に触れることでそれを実感していた。

 

 

「……北郷の体って、結構筋肉質なのね。元々体格も良い方だと思っていたけれど、予想以上だわ」

 

「まぁ、身長がここまである時点で体格には恵まれているからな。この体格で恵まれていない方だったら悲しいぞ」

 

「北郷なら、冥琳よりも大きいかもしれないわね。びっくりだわ。冥琳……ああ、周公瑾なんだけど、殆どの男性よりも背が高いのよ」

 

「周公瑾か。孫伯符も同じくらいの身長なのか?」

 

「そうね。二人共、結婚するなら自分よりも身長が高い男性の方が良いって言っていたし、北郷なら及第点かもしれないわよ? まぁ、あげないけど」

 

 一刀は早速蜃気楼を走らせながらも、孫権の言葉に笑う。

彼女のコンプレックスの相手である姉達のことを、このように気負わずに会話に出せるのならば、もう大丈夫だ。

姉達と戦っても自分が負けないという自信を少しずつだが、彼女も獲得し始めている。

その自信に見合うだけの力を彼女は確かに得つつあるのだから、当然のことかもしれない。

 

 さり気なく一刀は自分のものだとアピールしている点も中々に可愛らしい。

感覚が崩壊を始めている今、一刀は竜の眼で多くを理解しながらも、元々疎かった好意に関する部分が空白になってしまう。

だからこそ、孫権が彼に憎しみなどの負の感情を抱いていないことこそ分かるが、本当に好意を抱いているかは分からない。

だからこそ、こういう好意を垣間見せる行動も彼にとってはただの行動でしかない訳だ。

 

 竜の眼でも補完できなくなってきているのは非常に危険な状態だ。

このまま感覚の崩壊が進んでいけば、いずれ人間性を失うことになり、人の心がまるで理解できなくなる。

そうなる前に死へと向かい始めるように竜はできているが故に、心を失うことはない。

しかし、どちらにしろ待っているのは死だ。

本当の逆鱗を選ばなければ、彼はいずれ死ぬ。

 

 

「孫権と周公瑾の差はどのくらいだ?」

 

「そうね……二、三寸くらいの差からしら」

 

「となると、やはり俺の方が大きいな。俺と孫権だと一尺近く差がある」

 

「……そんなに冥琳と結婚したいの?」

 

「いや、凡その体格を知りたかっただけだ。孫呉はかなり体格の良い者が多いようだな」

 

「確かに他の勢力とは違って身長は平均以上な子ばかりだけど……それは武にはあまり関係ないわね」

 

 孫呉の武将は確かに体格は悪くないが、肝心の武に関しては曹操や劉備の下に居る者達よりも劣る。

劉備の下には関羽、張飛、太史慈の三人が居るし、曹操の下には夏候惇、夏侯淵が居る。

特に関羽、太史慈、夏候惇はまともに戦っては孫呉で勝てる者は孫堅以外居ない。

孫堅文台のみがこの三人の圧倒的な武人を相手に勝ち目がある。

 

 孫呉は武将の質がどうしても他の勢力よりも一段劣る為、兵卒を育て上げるしかないのが現状だ。

その為、兵の練度は相当に高いが、将の一騎打ちが必須な状況では孫呉は脆い。

一騎打ちを全て孫文台に任せてしまうのも無理があるし、かといって関羽レベルが相手では彼女以外では勝ち目は薄い。

 

 

「そうだな。しかし、体格も一種の才能だ。例えば、張飛は関羽以上に伸びる可能性を秘めているが、体が出来上がらなければ関羽を超えることはできないだろう。そこが分かれ目だ」

 

「成程……確かにそうね。少なくとも私達はやろうとしていることに体はついてくるもの。今はそれだけで十分だわ」

 

「それで良い。今ある手札でどうやっていくかを考えろ。無い袖は振れないからな」

 

「でも、良いの? 貴方がそうやって私を導く程に孫呉は強くなるわよ? 劉備よりも強くなったら、容赦なく飲み込むかもしれないわ」

 

「俺が居る間はそのようなことはさせないさ。孫権も本気でそう思っているのならば、言わずに黙ってやるだろう?」

 

 一刀の言う通り、本当に孫権がそうするつもりならば、彼には明かしてはいけない。

彼はこの陣営において誰よりも強く、賢い。地の能力は孔明や士元には劣るものの、頭の回転は恐ろしく速い。

竜になる以前から顕著だった頭の回転の良さは、竜になったことで気持ち悪い程の速度になっている。

 

 一言彼に漏らすだけで、彼は常人ならば吐き気を催す程の思考を一瞬で行える。

彼にこのような話をすれば、忽ち千通りの潰し方を言い渡され、抗う気も失せるだろう。

そもそも劉備を敵に回すことは彼を敵に回すことと同義であり、勝ち目などある筈もない。

関羽達ですらまるで歯が立たないのは孫権も良く分かっているのだ。

 

 

「勿論よ。私は貴方の理想の為に力を貸すことを誓ったのだから、それを違えるつもりはないわ。それに、夫の居る勢力を潰すなんて嫌だもの。北郷が呉に来てくれるのならば話は別だけど」

 

「俺は孫呉に行くつもりは無い。呉ならば別だが」

 

「そう……なら、私も頑張らないといけないわね」

 

「期待しているぞ」

 

「ええ、任せて」

 

 今の呉は孫文台と孫伯符の二枚看板からなっており、一見非常に強固に見える。

しかし、その実孫呉の弱点である武将の武に関しては孫堅頼みの状態だ。

このままでは孫呉はいずれ曹操達に飲み込まれていくだけで、何も変わらない。

いずれは完全に呉を一新して、孫家ではなく孫権の血がそれを治めていくようにするのが一刀の考えだ。

 

 

「それにしても、蜃気楼は凄いわね。馬に乗っている筈なのに、まるで浮かんでいる気分だわ」

 

「この浮遊感を味わえるのは蜃気楼だけだろうな。普通の馬では、こうして話しながら乗馬など危険過ぎる」

 

「慣れたら不可能ではないけれど、確かにそうよね。流石に最高速の状態で話したくはないわ」

 

「蜃気楼に慣れると普通の馬でもそうしてしまうから注意するんだな」

 

「忠告ありがとう。注意しておくわ」

 

 蜃気楼はその名の通りこの世界のものとは思えない程希薄で、まるで幻のようだ。

燃え上がる業火のようなその姿は、後一刻もすれば暗黒の中を走る業火に見えることだろう。

今日、孫権は蜃気楼が最高の馬であると言われている所以を漸く実感した。

そして同時にこの名馬が一刀にしか背中を許していないことも実感する。

 

 一刀は乗り手としての腕は一流ではあるが、超一流ではない。

張遼や馬超などの騎馬の天才を相手にしては、彼は乗馬の技術などは負けるだろう。

しかし、それでもこの蜃気楼の能力を最大限に引き出してやれるのは彼だけだ。

蜃気楼は人間の手には余る……その高過ぎる機動力を生かしきれない。

 

 竜である一刀は蜃気楼の能力を限界まで引き出しても揺るがない。

だからこそ蜃気楼は彼に背中を許し、その比類無き機動力を最大限に発揮する。

彼だけがそれに耐えることができ、同時に彼の要求に応えることができるのも蜃気楼だけだ。

 

 

「さぁ……見えて来たぞ。ここの天辺だ」

 

「あそこは……山頂?」

 

「さて……ここからは口を開くなよ。近道をする」

 

「近道? 近道っていったい――」

 

「跳べ、蜃気楼」

 

「―――って、ええええええ!!?」

 

 一刀の言葉に応えて、蜃気楼がその巨体を宙に投げる――その圧倒的な跳躍は馬にはできない類のものだ。

竜馬である蜃気楼達だけに許された、圧倒的な跳躍力とそれに耐え得る肉体は、まさしく名馬の中の名馬であろう。

それを要求できる一刀を蜃気楼が主として選んだのは、正しい判断だったに違いない。

 

 彼は蜃気楼にできることはさせ、できないことはさせない。

蜃気楼はそんな彼に尽くすことを最上の喜びとして、最後まで生きていくのだ。

異形の真紅の眼をその業火の如き眼で見て、主の求めに応じて、風よりも速く走っていく。

蜃気楼にあるのはただ主に尽くす忠誠のみであり、それ以外は十年前に捨ててきた。

愛紗の血によって生まれ変わった竜馬であることは間違いない。

 

 

「そら、着いたぞ」

 

「……嘘」

 

 まるでバッタのように飛び跳ねていく蜃気楼は、あっという間に山頂まで辿り着いてしまった。

そのことに少しの驚きも無い一刀は、そっと己の腰に回っていた孫権の手を解く。

彼に為すがままにされて地面に降り立った孫権の表情はまだ驚愕に染まっている。

彼女の呆けた姿に、彼は苦笑しながらも蜃気楼の装備から酒と器を取り出した。

 

 

「いつまで呆けているつもりだ? 見ろ……月が綺麗だ」

 

「えっ?……本当に綺麗」

 

「ここは少し前に蜃気楼が見つけた場所でな……実はまだ愛紗達にも教えていない」

 

「そう……そんな場所に私を連れて来て良かったの?」

 

「少しくらい婚約者らしいことをしなければ、愛想を尽かされてしまいそうだからな。せめて愛のある政略結婚であって欲しいんだ」

 

「ふふ……そんな心配はしなくても良いわ。最初から、私は幸せだったもの」

 

 孫権は何処か寂しげに言う一刀の頬に触れると、笑った。

彼女は確かに不安だったが、それも彼らの暖かい空気の中に入った途端消えてしまった。

いつの間にか彼女を包んでくれていた一刀達の愛は、まさしく揺り籠のようだ。

一刀は本当に愛することを恐れず、最後まで一緒に居てくれる。

 

 孫権は愛には愛で以て応えることができるし、一刀は既に十分過ぎる愛をくれている。

思春や愛紗、劉備のようにはいかないものの、孫権もまた愛されていると実感できる。

それは一番の愛ではないが、それでも深過ぎて、途方も無くて、十分過ぎるのだ。

だから、孫権は今のままでも十分幸せだ……これが夢だと言われたら信じてしまうくらい、幸せなのだ。

 

 

「孫権……本当に、お前は今のままで良いのか?」

 

「ええ、ここでは皆と笑い合って、ぶつかって、泣いて、成長できる。貴方が傍に居て笑ってくれる。だから―――私は幸せよ」

 

「そうか……なら、良いんだ」

 

「北郷こそ、今幸せ?」

 

「……どうかな。即答できないということは、きっと幸せではないんだろう」

 

 一刀にとって、思春が無事だっただけで幸せだが、その後にあった愛紗と思春の衝突が気がかりだ。

二人には争って欲しくないし、愛紗に思春を殺させたくはない。

思春も死なせないし、愛紗も失わない……そういう道を彼は探しているが、中々見つからない。

 

 彼にとってはどちらも掛け替えの無い存在であり、どちらも失いたくはない。

しかし、思春と愛紗は互いを敵視している。それも、ただの敵視ではなく、明確な目的のある敵視だ。

愛紗は一刀を救いたいが故に思春を排除しようとしているし、思春は生きる為に愛紗を排除しようとする。

二人はまるで水と油のように親和せず、互いを敵視してしまう。

 

 

「何かあったの?」

 

「思春と愛紗のことだ。あの二人はまるで水と油のようで決して交わろうとしない」

 

「……北郷は感じたことはないの?」

 

「?……何がだ?」

 

「貴方と司馬懿は確かにこの世の者ならざる気配を持っているけれど、それは思春も同じよ。貴方達とは違うけれど、間違いなく私達とも違う」

 

 一刀にとっては孫権も劉備も思春も皆外史の住人であり、気配の違いなど個々の違い程度でしかない。

しかし、孫権にとっては思春もまた彼らと同じ外界の者だと言う。

もしも彼女の言う通りならば、一刀は思春がいったい何者なのかを考えなければならない。

幼い頃からこの世界に居るのを彼は知っているが、それ以前のことはまるで知らない。

 

 そもそも、いかに愛娘であるとはいえ思秋と思伴は何故一刀に竜の情報を話さないようにしてまで、彼に思春を逆鱗とさせたかったのだろうか?

思春は春の意味を持つのだから、少なくともあのまま何も無ければ一刀は彼女を逆鱗としていただろう。

甘家が全員で彼に魔法をかけた理由は、彼には今も分からない。

 

 もしかしたら、孫権の言っていることとその理由には関係があるのかもしれない。

 

 

「思春がか?」

 

「ええ、その様子だと気付いていなかったみたいね。思春は何と言うか……時々気配がおかしいの。貴方達とは違う種類の異常だけど。まるで異界の者のようだわ」

 

「異界の者、か」

 

 一刀にとっては思春が異界の者であろうが関係ない。

ただ愛するだけであって、彼女の正体はそこまで重要ではないのだ。

しかし、愛紗にとってはその正体こそが重要なものなのかもしれない。

彼が知らない何かを彼女は知っていて、だからこそ思春をあそこまで排除しようとしているのかもしれない。

 

 愛紗の行動は全てが一刀の為であり、彼もそれを察している。

もしも思春を排除しようとしているのも、その為であるのならば彼は一度彼女と話さなければならない。

彼女がいったい何と戦っていて、それがいったいどんなものなのかを知らねばならない。

愛紗だけに背負わせる訳にはいかない。

 

 

「暗い話はここまで! 折角二人きりなのだから、楽しい話をしましょう?」

 

「そうだな。美味い店があるんだが、今度一緒に食べに行かないか?」

 

「良いけれど、非番は暫く無いわよ?」

 

「なに、早めに仕事を終わらせて行けば良い。一人では難しいならば、俺が手伝う」

 

「なら、お願いしても良いかしら?」

 

 一刀の事務能力の高さは孫権も良く知っている。

まるで熟練した文官のように仕事をこなす彼は、本当に頼もしく、反面恐ろしい。

彼は常日頃孔明や士元などを絶賛しているが、その実彼は彼女達を同等とは見ていない。

いかに未来予測ができても、軍略が優れていても、彼は後出しで対処できてしまう。

事前に全てを知っていたかのように、滑らかに形を変えてしまうのだ。

 

 少なくとも孫権の知る限り、孔明と士元は一度たりとも一刀に勝っていない。

二人共間違いなくこの大陸の中でも五指に入る天才であろうに、彼に勝てないのだ。

確かに孔明も士元も戦略、戦術の観点においては彼に勝る天才であろう。

しかし、彼は二人の性格などから全てを予測し、あらゆる可能性を吟味している。

頭の回転速度と柔軟性が人間とは違い過ぎるからこそ、彼は後出しに見せかけて元々用意していた策を使えるのだろう。

 

 こういう場合はこうする、という風に軍師は考えて策を練るものだ。

一刀はその軍師の性格、傾向を異形の眼で以て理解し、その人間性を元に策を練る。

言うなれば、軍ではなく軍師本人を攻略している訳だ。

まだ幼い孔明と士元は自分の癖を隠すことができないからこそ彼に負けるのであって、それさえ克服すれば才能がある彼女達が勝つだろう。

 

 

「ああ、任された。近いうちに暇をつくろう。さて、そろそろ飲もうか」

 

「ん……ありがとう」

 

「どうだ?」

 

「美味しいわ。呉で飲まされていた強過ぎる酒と違って飲みやすいわね」

 

「俺は度数に興味はないからな。味にはそれなりに拘っているつもりだが」

 

 一刀は酒に酔えないからこそ、酔うことよりもその味を楽しむことを優先する。

酒であることは必要ないかもしれないが、酒好きが多いこの世界では仕方のないことだ。

ただ度数の強い酒では、一刀にとっては消毒液を飲んでいるようなものであり、水を飲んだ方がマシだ。

だからこそ、度数ではなく味付けに拘る。

 

 

「そうね……お酒に弱い人にはとても飲みやすいお酒だと思うわ。強い人には物足りないかもしれないけれど」

 

「孫権はどちらなんだ?」

 

「私? 私は少し強いくらいね。私の母や姉はとても強いけれど」

 

「一応強い酒も持って来ているが、どうする?」

 

「私はこれで良いわ。何だか落ち着くの」

 

 孫権は月を眺めながら胡坐をかいている一刀にもたれ、そう告げる。

彼は微笑と共に盃を口に運んで酒を飲みながら、彼女のその行動に口出しをしない。

婚約者らしいことをすると言ったのだから、この程度は許すのが流れというものだ。

彼女はもう十八になるし、己の責任は己で取れる。

 

 

「そうか」

 

「……ねえ、北郷。ずっと前から疑問に思っていたんだけど、どうして貴方はいつも壁を作ってしまうの?」

 

「壁?……先程重い話はしない、と決めた筈なんだがな」

 

「ごめんなさい。でも、気になるの。貴方は私達は愚か思春や司馬懿にまで何か大切なことを隠しているわ。それが皆に対する貴方の壁になっているのよ」

 

 孫権は信じるか疑うかを感じる一点においては間違いなく天賦の才を持つ。

真偽を見抜くことに長けているが故に、彼女は一刀の抱えているまやかしに気付いた。

異国から来たのは嘘ではないが、たったそれだけではないのも確かだ。

彼女の勘は、一刀が常に壁を作っていることを見破っている。

 

 

「はっきり言って信じられないような話だが……聞きたいか?」

 

「ええ。是非とも」

 

「俺の故郷は日本と言う島国で、丁度この大陸の東にある。そして――俺が生まれた時代は今から千八百年後になる。ある日事故で死んだと思ったらこちらの世界に来ていたんだ」

 

「千八百年後?……未来から来たとでも言うの?」

 

「そうだ。その証拠に、俺はこの大陸の未来がどうなるかを知っている。お前が将来子につける名前すら俺は知っているぞ」

 

 一刀がこの話を誰にも、それこそ愛紗達にさえもしなかったのは信じて貰えないからだ。

逆の立場であったならば彼は信じないし、それを認めてしまえば異界の存在を認めるのと同義だ。

それは酷く不可解ことで、人は理解できないことは受け入れないし、一刀はそのことを良く知っている。

 

 だからこそ、彼の言葉に少しの疑いも持たない孫権が不思議だった。

その眼には疑いなど少しもなく、ただ信じようという強い思いだけが垣間見える。

一刀はそれと同じ眼をすることはできるが、それを向けられることは叶わないと思っていた。

それだけに、孫権のこの眼は彼を驚かせる。

 

 

「それじゃあ、貴方はこの世界に来る前から私達のことを知っていたのね」

 

「ああ。まあ、俺の知っている歴史だと孫権も曹操も劉備も、皆男なんだがな」

 

「それはまた……この世界に来た時の貴方の混乱は分かるわ。私も高祖である劉邦が習った歴史と違う性別だったら戸惑うもの」

 

「……随分とあっさり受け入れるな。明らかに理解の及ばない領域の話をしている筈だ」

 

「確かにそうだけど、貴方は嘘をついていないわ。だから、私はただ受け入れるだけ」

 

 一刀は内心嬉しく思いながらも、隣の孫権に向かって苦笑する。

そんな彼を愛しく思いながら、孫権も笑顔でそれに応え、彼の片腕に己の腕を絡めた。

一刀だって完璧ではない……そう本人が何度も言っていても、それを実感するのは難しい。

しかし、こうして親しい間柄になれば、彼の欠点も見えてくる。

 

 北郷一刀の歪みを知る者は少なくないに違いない。

孫権を含めれば、愛紗、思春、劉備、関羽の五人が既にその歪みを認知している。

与えるだけ与え、受け入れるだけ受け入れる癖に、少しも受け取りもせず、求めもしない身勝手さが彼の歪みだ。

はっきり言えば、彼のその態度は人間を嘗めていると言われても仕方ない。

 

 いかに自分が無価値だと思っていたとしても、誰も己を受け入れられないと思うのは、他者を嘗めている証拠だ。

自分は己の器に収まらなかったとしても受け入れる癖に、他者にはそれができないと思っている。

それが滲み出ているからこそ、孫権は一刀を愛しく思える。

 

 

「北郷、一度はっきり言っておくわ。貴方は、私達を嘗め過ぎている。確かに私達は貴方程強くないし、賢くもない……だけど、貴方を受け入れられない程弱くも無いわ。嘗めるのも大概にしなさい」

 

「……成程。確かに、舐め過ぎていたようだ。もっと、皆に頼っても良いかもな……」

 

「関羽が以前私に教えてくれたわ。一人で背負い続けていてはいつか倒れてしまうから、一緒に背負おうと貴方が言ってくれた、と。その言葉はそっくりそのまま貴方にも言えるでしょう?」

 

「そうだな……ああ、間違いなくそうだ。教え子に教えられるとは、まさにこのことだな」

 

「貴方はもう十分私達に与えてくれたわ。だから、私達の思いを受け取って。貴方への感謝を、ちゃんと向き合って受け取って。与えられるだけの関係なんて、私は嫌よ」

 

 一刀の異形の眼を見据えて、孫権はその碧眼に偽りの無い思いを乗せる。

彼は他者に拘り過ぎて己を見失いがちだが、そこは彼女達がフォローすれば良い。

そのフォローを彼が嫌うのが問題なのであって、それさえ許されるのならば、彼女達は彼を支えてみせる。

まだ彼の歪みに気付いているのはたった五人だが、その五人だけでも十分過ぎる程に彼を支えられる筈だ。

 

 

「そうか……しかし、俺には欲しいものがない」

 

「嘘ね。あるじゃない……真名という貴方が渇望しているものが」

 

「……俺は異界の者であって、この世界の住人ではない。真名を名乗るなどおこがましい」

 

「貴方が異界の者だからこそ、真名が必要なのよ。貴方が言った通り真名がこの世界との繋がりであり、人と人の絆でもあるのなら、貴方は絶対にそれを手に入れなければならないわ。私達を置いて、元の世界に帰るなんてことは―――絶対に許さないから」

 

 孫権の言う通り、真名とはこの世界との繋がりだ。

真名は人と世界を繋ぎ、人と人を繋ぐ大切なものであり、それを持たない一刀はこの世界の住人にはなれない。

この世界の住人だからこそ真名を持つのか、それとも真名を持つからこそこの世界の住人なのかは分からないが、少なくとも彼は真名を持たないのだ。

 

 今更真名を手に入れても、彼はこの世界の住人にはなれない。

一刀にとって孫権の言葉はとても嬉しいものであるし、彼を必要としてくれているのは心地良いものだ。

彼女はこの世界から彼が消えることも、彼女達との絆を断ち切ることも許さないと言ってくれている。

それは一刀の誰かに必要とされたいという願いが叶ったと言える証拠になる。

 

 しかし、それでも真名を軽視させる訳にはいかない。

 

 

「独りを救うために真名を穢すか?」

 

「逆の立場だったなら貴方はそうする筈よ。何もかも背負って、真名を穢して、きっとこう言う筈――――人一人守れないシステムなど最初から穢れきっている、と」

 

「……否定できないな。それで、いったいどんな名をくれるんだ? 天か?」

 

「それはまだ分からないわ。私だけで決めるのは軽率過ぎるもの。真名に代わる名ではなく、真名そのものなら私以外にも貴方と親しくしている者で話し合う必要があるわ」

 

「では、楽しみにしていても構わないか?」

 

 実を言えば、一刀は真名というものが欲しくて堪らない。

以前の世界には無かった何かがこの世界にはあって、彼はずっとこの世界と繋がっていたいからだ。

愛紗や思春と最後まで共に歩みたいし、途中で元の世界に戻ることなどあり得ない。

この世界で死を迎えることを彼は受け入れているし、望んでいる。

その為にも、真名が欲しいのだ。

 

 

「ええ、任せて頂戴。時間はかかるけれど、必ず今までの感謝を込めて決めるから」

 

「ありがとう。しかし、今は学ぶことに集中してくれ。俺のせいで孫権の成長を妨げるのは困る」

 

「分かっているわ。己を疎かにすることは貴方のやってきたことを疎かにすることと同じだもの」

 

「分かっているならば良い。さぁ、飲もう……今は全部忘れてしまおう」

 

「ええ、そうね……今はただの北郷一刀とただの孫権だもの」

 

 世界は刻一刻と形を変えていき、それに多くの者は翻弄されて生きている。

翻弄されたくないならば、翻弄する側になるしかないのが現実であり、形を変えなくしてしまえば世界は滅びる。

変化しない世界はそのまま死へと直行するのだ。

だから、皆翻弄する側になろうと必死にもがいている。

 

 一刀達もそうであるし、彼らは皆が笑い合える世界の為にそうなるつもりだ。

全員を救えるなどとは思っていないし、犠牲を出すことに躊躇はなく、理想を穢しながら突き進んでいるのは分かっている。

それでも、できる限り多くの者が笑い合える世界が欲しい。

だから抗う。だからもがく。

 

 しかし、今この瞬間だけは二人はそのことを忘れて静かに寄り添う。

ここに居る一刀は劉備の家臣である一刀でもなければ、死に逝く竜である一刀でもない。

ここに居る孫権は孫呉の王の妹である孫権ではなく、王に従う王である孫権でもない。

ここに居るのは、ただの北郷一刀と孫権だけだ。

 

 そう―――今この瞬間だけは、あらゆるしがらみを振り払って、何もかも忘れて、ただ二人はそこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 二刻後、一刀は城内を歩いていた。

 

あの後一刻程して孫権は寝てしまった為、今彼女を部屋に送り届けた所だ。

一刀は彼女にとって絶対的な立ち位置に居る為、彼に拒絶されることも考えてあそこまではっきりと意見を言ったのだから、相当なストレスになっていたのだろう。

無力な赤子が親無しでは生きていけないように、孫権は一刀に捨てられてしまえば、生きていけない。

それでも、彼女ははっきりと彼の歪みを指摘してくれた……これはとても有難いことだ。

 

 普通は拒絶されることを恐れて意見など言えない。

孫権の場合は一刀が拒絶すれば、孫呉に帰ることもままならない状態にあるのだから、尚更だ。

彼に捨てられたことを知っても、母である孫堅文台は彼女を助けてはくれないだろう。

姉である孫策は助けようとしてくれるだろうが、やはり母の前では彼女もはっきりと意見を言えない。

そんなギリギリの状態でも、孫権は一刀にはっきりと意見を言ってくれたのだ。

 

 

「……焦らない筈が無い、か」

 

 孫呉における孫権の立場は今非常に危ういものであり、一刀は彼女にとっての居場所そのものだ。

孫堅と孫策が死にでもしない限り、孫権はずっとここに居ることになるかもしれない。

孫堅が復帰した後も孫策が王となっている状況を考慮すれば、孫策を一時戦線離脱させれば良いのは分かる。

しかし、それを行うのは非常に難しい。

 

 一刀は孫権を娶ることで孫呉にその圧倒的な暴力を向けないことを暗に約束している。

彼以外の勢力が孫策を一時的に王の座から引きずり降ろせれば、孫権が王になることは難しくない。

孫呉の母体となるのは孫家とそれに付き従う豪族達であって、豪族達は力がある者に従う。

しかし、その際に孫権をダシに孫呉が救援を求めてくるのは分かり切ったことだ。

 

 その際には一刀だけで向かえば、全てを終わらせるのは簡単なことではあるが、先に孫策と話をするべきであろう。

元々孫策がいずれ孫権に王の座を譲るつもりであったならば、その方が良いに決まっている。

そういった未来図を確認しておく必要がいずれ出て来るのは明白だ。

いずれ会う時には、一刀は孫策とそのことについて話し合うつもりで居る。

 

 

「一刀様」

 

「愛紗? 何かあったのか?」

 

 一刀は自分の部屋の前で待機していた愛紗に気付き、異形の眼を細めた。

今の時間はもう深夜と言っても良い時間であり、場内も殆どの明かりは消えている。

こんな時間まで起きているのは見張りの者や一部の熱心な文官くらいであろう。

殆ど睡眠を必要としない一刀は毎日のように徹夜をするが、この時間に他の者に会ったことは殆ど無い。

 

 

「いえ、何も。今日は久しぶりの非番でしたが、どうでしたか?」

 

「とても良かったよ。関羽と孫権の成長を実感できた。あの二人は、以前俺が教えたことをしっかりと理解した上で、俺の矛盾をついてくれたんだ」

 

「ふふ……一刀様も漸く弟子達から受け取るものができてきたようですね。貴方はいつも与えてばかりで、受け取ろうとしません。その壁は今日消えた……私にはそう思えます」

 

「……これはまた、随分と愛紗も意地悪だな。分かっていて今まで言わなかったのか。まぁ、お蔭で関羽孫権の成長が実感できたのだから良しとしよう。入るか?」

 

「はい、失礼します」

 

 一刀は部屋の扉を開けると、笑顔で彼の招きに応じた愛紗と共に中に入った。

机の上に置かれた大量の竹簡を撫でながら愛紗が遠くを見つめているのを静かに見守りながら、彼は椅子に座る。

愛紗は時々こうして遠くを見つめていることがあるが、彼にはその理由は分からない。

彼女はあまり過去に触れて欲しくないようだし、彼も今の彼女さえ理解できていれば良かった。

 

 一刀にとって愛紗は不完全ながらも同族であり、仲間であり、誰よりも彼の傍に居てくれた大切な存在だ。

思春とはまた違った方向性の大切さであって、彼には二人を比べることはできない。

愛紗が何故そこまで尽くしてくれるのかを彼は知らないし、聞くことは愛紗が許さない。

彼は、いつか彼女が本当の理由を話してくれるのを待っているし、その日が来るのを信じている。

だから、今はただ彼女に感謝するだけだ。

 

 

「愛紗と共に進んでもう十年以上になるが……本当に感謝している。こんな俺を見捨てずに、今まで共に歩んできてくれてありがとう」

 

「……一刀様、いったい何をおっしゃっているのですか? その言い方だと、まるで今際の時のようではありませんか。私はこれからも貴方について行きます。だから、そのような言い方をしないでください」

 

「そうだな……この言い方では、終末の時だな。愛紗、これからも俺を支えてくれるか?俺には愛紗が必要だ」

 

「勿論です。私は最後まで一刀様の御傍に居ます。貴方がどんなに嫌だと言っても、離れませんから」

 

「……ありがとう。愛紗が居てくれて、本当に良かった」

 

 手を握って必死に訴えかける愛紗に、一刀は微笑んで感謝を伝える。

そんな彼に愛紗は思わず涙が出そうになるのを必死に堪えて、笑みと共に頷く。

彼女にとって、北郷一刀とは呪いであり、救いであり、何よりも大切な存在だ。

数十万の別離の引き金となった存在であり、彼女が生まれた原因でもある。

 

 この三国時代を弄ぶ外史は彼を始点に始まったものだ。

彼が最初に管理者と接触して、事故で外史に入り込んだことで、それまでの外史とは違う別の何かが生まれた。

そして、その何かは愛紗達を生み出し、天から降り立った一刀を導くことで、大陸を統一まですることになる。

この時愛紗は関羽雲長として彼を導き、最後まで傍に居た――その筈だった。

 

 

「どんなに皆が一刀様を拒絶しても、憎んでも、愛しても―――私は変わらず御傍に居ます」

 

 しかし、彼女は彼の傍に居ることは叶わなかった。

最終決戦の時、傀儡としての役割を全うして壊れていく仲間達の屍を超えて、一刀に手を伸ばした愛紗の手は届かなかったのだ。

正史に戻されてしまう彼を離すまいと伸ばした手は空を掴み、そこからループが始まった。

何度も何度も彼と出会い、別れ、永久に結ばれないというもはや狂うのは必至と言えるループから、今漸く彼女は解放されようとしている。

 

 不完全ながらも竜となった彼女は、外史に弄ばれるのではなく外史を弄ぶ側へと変貌した。

不完全であるが故に何もかもを己の好き勝手にできる訳ではないが、正史とは完全に切り離された、“世界”の及ばぬこの世界を生み出すことに成功し、漸く一刀と結ばれた。

それだけならば完璧だった……しかし、現実は“世界”の残光である思春が居て、しかも彼の逆鱗となっている。

 

 数十万の別離を経て、漸くループから抜け出せる希望が見えたのに、今度は一刀が飲み込まれようとしているのだ。

彼が愛紗だけに話してくれた事実は、正史では彼は既に死んでいるという恐ろしいものだった。

肉体の無い彼はもう正史に帰ることは叶わず、完全な竜にならない限り愛紗のように外史を彷徨い続けてしまう。

ループの痛みを知る彼女だからこそ、それだけは嫌だった。

 

 一刀にだけは、その痛みを感じさせたくない―――だから彼女は思春を殺す。

 

 

「愛紗……」

 

「一刀様、私は甘興覇や劉備様のように貴方を癒すことはできません。ですが、それでも―――御傍に居たいのです。何があっても、最後まで御傍に居ることをお許しください」

 

「ならば、誓えるか? あの日あの場所で誓ったように、全てを捧げると誓えるか?」

 

「はい。この愛紗、一刀様のみに預けた真名に誓って、眼も髪も血も、知も武も、心も、あらゆるものを一刀様に捧げることを誓います」

 

 臣下の礼を取り、二度目の誓いを果たす愛紗に、一刀は手を伸ばす。

その手が彼女の頬を撫で、異形の眼が交わり、刹那に二人は眼で意思疎通を終えた。

ゆっくりと立ち上がった愛紗はそのまま一刀の頬に両手を添えて、静かに見つめ合う。

深紅の眼と黄金の眼がその異形を互いに曝け出しながら、奥に宿る思いをぶつけあっているのだ。

 

 やがて、愛紗は目を閉じてそのまま一刀に接吻をした。

一刀もそんな彼女を受け入れ、その体を両腕で抱き締め、必死に唇を貪る彼女を慈しむ。

誰よりも彼の為に尽くし、誰よりも彼を理解している彼女は、しかし彼には理解されていない。

理解されたくても、思春が居る限り彼女にはそれができない。

だから、必死に彼に尽くし、強請る。

 

 愛紗にとって一刀は呪いであり、救いであり、全ての始まりだ。

彼女の記憶にはいつも一刀が居て、共に笑い、泣き、怒り、時には衝突し、それでも一緒だった。

数十万の外史で別離を経験し、もはや狂気へと至った彼女の唯一の希望は、その原因である彼だけだ。

彼だけが全てを終わらせてくれる。彼女を救ってくれる。

 

 だから、彼女が彼を救うのだ―――ただ与えられるだけではなく、与える為に。

 

 

 

 

 

 

 今度こそ、二人で笑い合う為に。

 

 

 

 

 

説明
一刀と蓮華の語らい編。

拠点だからと言って話の大筋に関係しないと思ったら大間違いだ!(

心の余裕があれば蓮華は非常に伸びるタイプだと思います。

桃香に関しては前半は本気を出さないので拠点は後半からになります。


・分岐に関しては最初は思春、その後桃香、愛紗の√を書いていくつもりです。
・誤字を修正しました。ご指摘ありがとうございます。
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コメント
訂正が、武将の武に関しては孫権頼み…→孫堅では。(殴って退場)
↓↓↓ほんとだ、真名をつける云々の話のときに言ってるな。(アルヤ)
一刀の救いの鍵は「真なる逆鱗」なのか「真名」なのか、それとも・・・(ataroreo78)
いずれ一刀が得ることになる真名が気になりますね・・・。(本郷 刃)
孫権が「システム」という単語使ってますが、これも伏線でしょうか?(tububu12)
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