魔法世界に降り立つ聖剣の主 (改訂版)
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6:疲れた時にはレッドブル!ただし元気ハツラツは短い間だけ

 

 

 

 

リモネシアの侵攻から一週間後、インサラウム邸の庭では既に馴染み深くなった剣戟の音が響いていた。

今日はゼンガーがシオンに剣の稽古をつけており、互いに抜き身の真剣で実戦さながらの激しい攻防を繰り広げているのだ。

 

この構図だけ見ればいつもと変わらない光景のように思えるが、決定的に違っていることがあった。

いつもなら相手の動きに着いて行くのがやっとという苦しそうな表情でゼンガーの指導を受けていたシオンが、とても清々しい顔をしていたのだ。

 

その姿からは、いつものような仕方なくやっているだとか、今にも倒れてしまいそうな心境だとかは伺えない。

笑みすら浮かべる少年らしい容貌は、厳しい修行を楽しんですらいるように見えた。

 

 

「まだまだ行きますぞ若様!」

 

「よっしゃあ!バッチこいやあ!!」

 

一寸の乱れも無い完璧な軌道を描いたゼンガーの袈裟斬りが振るわれれば、シオンが右に跳んでそれを躱し、尽かさず小刻みなステップでゼンガーの脇腹に滑り込む。

そこにめがけて鋭い突きを繰り出すが、それはいつの間にやら添えられていた刀身に遮られ、更には勢いを左にに流されてしまう。

 

 

「うおっと!?」

 

「隙あり!」

 

そのまま相手の目の前によろめき出てしまったシオンに、容赦の無い柄尻による殴打が見舞われる。

だが、黙ってそれを受けてやることはせず、半ば仰向けに倒れ込むように強引に身体を捻り、額を狙った一撃を紙一重で回避する。

 

 

「なんのっ!」

 

そして無理な姿勢になったせいでひっくり返りそうになった所で地面に左手をつき、片手で逆立ちしながら身体を支える。

 

 

「なんとっ!?」

 

予想外の挙動にゼンガーは一瞬だけ驚愕の表情を見せるが、それでも手を休める事無く、左に振るう横薙ぎの一撃を放つ。

 

 

「おん…どりゃあ!!」

 

それが身体に触れる前に勇希が左手の腕力と全身のバネを使ったハンドスプリングの用法で飛び跳ねて距離を離し、ゼンガーに背を向ける形で着地すると、振り向きながらの大降りの一閃を繰り出した。

次の瞬間、剣先が降り抜かれる前に鈍い感覚を持ち主に伝える。それは金属同士が激しく接触する感覚に他ならない。

力強い一文字切りを防いだのは言うまでも無くゼンガーの剣であり、すぐ目の前ではさも余裕そうな笑い顔がこちらを見据えていた。

 

 

「ったく。ピョンピョン飛び跳ねるのも楽じゃないんだから一発くらい当たってくれよな。」

 

「それは出来ぬ相談ですな。ご当主に加減などせぬようにと厳命されております故。」

 

「知ってるよ!」

 

以前はこのような軽口を叩き合う余裕など無かったというのに今となっては激しい打ち合いの中でも笑顔すら浮かべていられるようになったのは、ひとえにシオンの心境の変化によるものが大きかった。

 

進むべき指針を見出したシオンの精進は今までの比ではなく、今や人外四人組の修行という名の拷問すらも進んで受けるようにすらなっていた。(決してそっち形に目覚めたのではないのであしからず)

 

その頑張り様に、四人が安堵の色を溢したのも無理は無い。

7歳の少年が見るには戦場はあまりにも凄惨過ぎる。

その凄惨さを逆手にとって力のあり方を自覚させるという方法もかなりの荒療治であり、危ない綱渡りであったがそれが吉と出たのは幸いと言える。

 

少なくとも剣の師を務めるゼンガーにとって、弟子であり若主であるシオンが心から騎士の道を目指してくれるのは嬉しい限りであった。

 

 

「ならば!」

 

「どわっ!危ね!」

 

喜んでばかりもいられない。弟子が心を決めたのならば師として全力でぶつからねば無礼というもの。

 

故にゼンガーは手加減無しの連撃を次々と浴びせていく。

それをシオンは持ち前の俊敏さで躱しては剣、拳、蹴りなどを絡めた変則的な戦い方で対応する。

 

 

「せいやぁ!!」

 

空気を震わせる掛け声と共にゼンガーが鋒を突き出す。

それは狙い澄ましていたかのように屈伸で回避され、更に剣を逆さに保持した状態からの跳躍と同時に光速移動を発動する。

シオンの全身が青白く発光すると同時に周囲の景色がスローモーションになった。

 

 

「獲ったああぁぁぁ!!」

 

全身の力を使ったアッパーカットのような切り上げは、吸い込まれるようにゼンガーの顎に迫っていく。

勝利を確信したシオンだったが、刃が肌に触れる直前に突然その軌道が右に剃れた。

 

驚愕も露わに目を見開くシオンの視界には、澄まし顔のゼンガーと、左手を軽く手首に添えられただけで弾かれた自分の腕。

 

 

「いやいやいや、ゼンガーさん。光の速さの攻撃を何で普通に防げるわけよ?」

 

「何も難しいことではありませぬ。“直感”ですよ。」

 

さも当然のように言い放たれてシオンは嘆息を漏らし、呆れた様子で首を左右に振る。

 

 

「おkおkよく分かったよこのバグキャラさんめ。」

 

「?何を仰られているのかは理解しかねますが…若様、お覚悟はよろしいですか?」

 

「…出来るだけ優しくして下さい……」

 

「手を抜くなと命じられました。先程も仰った筈…。」

 

「ジーザス。神は死んだか…てかあんな神ならさっさと死んで欲しいわ。割りとガチで。」

 

恐らくこの状況もまるでスポーツ観戦の如く覗き見ているであろう神に悪態をつきながら、シオンはゼンガーの一撃で卒倒した。

 

side out

 

 

 

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side ゼンガー

 

俺は足元でうつ伏せになって気を失われた若様をじっと見つめながら思案に更けていた。

考えていたのは問われるまでもなく若様のこと。

 

あのリモネシアとの一戦を機に若様は鍛錬に精を出すようになられた。

やり方が強引だったこともあり、ご当主含め我ら重臣一同も一時は肝を冷やしたものだが、いざ若様にその後の心境を伺えばそれが杞憂だったと理解した。

 

 

俺決めたぞ!親父や皆みたいな騎士になるぜ!

 

 

強い光の篭った目でそう言い放つ若様の姿に初めこそ動揺を禁じ得なかった。

戦場特有の重々しい空気の中にあって若様は追うべき背中をしっかりと見据えておられたのだ。

 

「心配して損した」と声を挙げて笑っていたカイの姿は記憶に新しい。

実際、俺もシュバルも不意に苦笑を漏らす程だったのだ。

 

そしてご当主は、力のあり方を理解したことを褒め称えることも、いつものように「まだまだ!」と叱咤することもなく、ご当主はただ黙って頷いておられた。

あれは恐らく喜んではおられるのだろうがそれを表に出す気になれないのだろう。

 

そんな素直でない主にその場にいた全員が、不意に暖かな視線を送っていた。

それに気付いた循環ご当主が若様の頭に拳骨を見舞っていた辺り図星だろう。

 

あの時の情景に思わず口元を緩めながらも若様をそっと抱え上げる。若様は実に穏やかな表情で寝息を立てておられた。

 

 

「やれやれ、ここまで激しい打ち合いをしておきながら心地良く眠れるなど一種の才能だな。それに随分と無邪気なお顔をして…否、本来ならばこれが普通なのか。」

 

生まれ持っての才能や、近頃の見違えるような精進ぶりのせいで、つい忘れがちになるが、若様は未だに後一月程でやっと8歳になるという子供なのだ。

 

親や周囲の者の影響もあってか若様は今のお歳では考えられぬ程に大人びた思考をお持ちだ。

感心出来る一方でどこか悲しくもある。子供ならばもっと無邪気に振舞われても罰は当たらないというに、若様はまるで成熟した大人のように、人に迷惑をかけ過ぎず、かと言って全く頼らないわけでもなく、言うなれば他人との接し方に程良い折り合いをつけておられるのだ。

 

 

「成長が早いと言えば聞こえは良いものの……それはそれで幼い若様に背伸びをさせてしまっているようで臣下としてはいただんな。ままならぬものよ。やはり周りがこう大の大人ばかりだといかんか。まぁ、度々城下町に降りて民と触れ合っておられるそうだから人付き合いに問題は無いのだろうが…もっと身近な繋がりがあれば若様の為にもなるのだがな……」

 

らしくもなく独りごちていると、庭園の入り口の方に気配を感じた。

振り返ればそこには同僚であるシュバル・レピテールの姿があった。

 

 

「ゼンガー、鍛錬は終わったようだな。」

 

「ああ。危うく一本取られる所であった。」

 

「ほう、若様は更に腕を上げられたか。この一週間というもの、随分とご熱心になられたと思ってはいたが…いやはや予想以上だな!」

 

自分のことのように喜ぶシュバルに釣られて軽く笑いを溢す。

俺とて若様のご成長ぶりに驚愕するばかりではないのだから。

 

 

「して、何か報せでもあったのか?」

 

「いや、拙者はただ通りすがったに過ぎん。剣戟の音が聞こえたのでな、どうせなら鍛錬の風景を見ておこうと思ったのだが、一足違いであった。」

 

「そうか。それは残念だったな。更に磨き上げられた若様の闘技は見事なものだったのだが。」

 

若干型破りな所があるが、それ故に読み難く大胆だ。

話によれば若様は既に意図せず身体強化術をかけてしまう体質を克服されたらしく、先程も素の状態で戦っておられたのだ。

それであの力量なのだから感服せざるを得ない。

 

 

「なに、次の機会に嫌でも拝見することとなろう。しかし、お前がそこまで賞賛するとはな。これはもしやそう遠くはない内に我等に届くやもしれん。」

 

「全くだ。今の段階でも戦場で十分通用するだろう。まぁそれはまだまた先のことであろうがな。」

 

「心得ている。それまでに師である我等が、授けられるだけの闘技を全て叩き込むまでよ。」

 

無言で頷き、肯定の意を示すと、シュバルは踵を返して庭園から立ち去って行く。

 

 

「早く若様を医務室にお連れしろ。アンブローンには拙者から話をつけておこう。」

 

「かたじけない。頼むぞ。」

 

去り際にそう言い残し、遠ざかって行く背中を見送り、俺もその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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あとがき

今回はシオン君があの蹂躙タイムの後どんな心境の変化があったん回?でした。

いや〜キャラとか原作ストーリーのリサーチでかなり時間食われてますね〜。

多分更新速度がかなり落ちることになった要因ですねこれは。

まぁこんな感じにノロマな投稿になりますけどご容赦下さい。

後アンケート解答待ってます。多分ベルカ編終わる頃に集計結果出します。でわでわ。

 

 

 

 

 

 

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