真・恋姫†夢想 とある家族の出会い『結の幕』 |
『結』の幕「それは、新たな始まりの時、なの」
「おやおや、これは思わぬ珍客の来訪ですねえ」
あれは、祭壇か何かなのだろうか。徐庶こと輝里と先の皇帝劉弁が括り付けられた円柱の両隣には、映画なんかでよく見る炎の焚かれた仰々しい燭台がある。眼鏡ホモ、乙級管理者八の席である于吉は、中央の柱の前に悠然と立ち、その眼鏡の下の両目を怪しく光らせて俺たちのことを見下ろしている。
「貂蝉、貴女がこの外史に居ることは分かってましたが、まさかそちらの彼まで来ているとは思いませんでしたよ。確か、甲級132席、狭乃狼……でしたか」
「……ああ、こうして直に会うのは初めてだっけか。で?単刀直入に聞くぞ?一体お前、何をする気だ?二人をどうするつもりなんだ?」
「何をする気かと聞かれれば、答えは一つしか無いでしょう?この外史の消滅。否定派の私たちがするのはそれしかないでしょう?」
確かに、奴の言うとおり、否定派と呼ばれる連中は自分たちにとって不要な、その存在自体認められない、正史からあまりにかけ離れすぎた外史を修正、もしくは消滅させることを、その行動理念においているのがほとんどではある。
だが、それを踏まえたうえでも、于吉の行動にはもう一つ、納得いかないことがある。それは。
「なるほど。だから、病の劉協を治して表舞台に立たせたり、その為には邪魔な存在である劉弁を除くために、王允に傀儡を与えたりしたわけだ。けどな、それじゃあ一つだけ、どうしてもおかしなことがあるんだよ」
「ほう……それは?」
「たったそれだけの仕込みで、貂蝉という管理者が傍に居るというのに、そこでお前が舞台から退いたのは何故だ?俺の介入が予想外のものだったとは言っても、貂蝉ならさほどの苦も無く劉弁を救い、流れを元に戻すことだって出来ていただろうよ」
そうだ。
貂蝉もまた俺と同じく、いくらあの漢女の姿に自由になれるとはいっても、その本質的な力、管理者としての力には外史内では制限がかかっていて、自由には使えない事に違いはない。
とはいえ、それでも彼女がずば抜けた身体能力の保有者である、その事には違いが無いのだから、劉弁を守り逃げる事にだけ集中するのであれば、彼女にとってはそれは造作も無いことのはずだ。そしてその上で、心ある同士を見つけ、劉弁を再び表舞台に戻すことも、出来た可能性は十分にあった。
なのに、于吉はその可能性を放置した。
そう。
彼奴のやり方は、あまりに中途半端すぎるんだ。それはまるで。
「……まるではじめから、劉弁を表舞台から無事に、生きたまま降ろすのが目的みたいに、な」
「……ふふ。いい洞察眼をしていますね。そこの貂蝉や卑弥呼が過度に期待を持つのも、分からないでもないですよ。流石、伊達に年はくってませんね」
「最後の一言だけ余計だっての。……さて、じゃあ答えてもらおうか?なぜ劉弁を必要とする?輝里、徐庶ともども、お前が捕らえているのは何の目的がある?その祭壇、まるで“生贄を捧げる為”の様に見えるのは、俺の気のせいか?」
「あはは。やはりいい勘をしていますねえ、狼。そう、この二人は生贄なんですよ。このかつて感陽と呼ばれたこの地に封じられしモノ、『蚩尤』とその無敵の軍団を呼び出す為のね」
「蚩尤……だと?」
蚩尤。
それは古代中国神話に登場する神の名であり、三皇五帝のうちの一人である神農の子孫とされ、兵器の発明者ともされる存在。その姿は四つの目に六つの腕、人の身体に牛の頭と蹄を持ち、その頭は銅、額は鉄で出来ているとも言われ、それの現れるところ戦乱が起こるといわれた、戦の神のことである。
「とはいえ、私の言うそれは、正史の記述に残るそれとは少し違いましてね。ここで言う蚩尤とはすなわち、外史破壊プログラム、というやつです。他の外史だと、五胡などがそれにあたりますね」
「外史破壊プログラム……!」
「そう。そして、すでにそれは目覚めています。二つの、この外史ではイレギュラーな生命体であり、それで居てその存在がしっかりと確立してもいる、そんな矛盾を抱えたこの二人の、生命エネルギーと存在力を得て」
「……な……に?」
「……そん、な……それじゃ、白ちゃんは、もう……っ」
生命エネルギー、それはもちろん、呼んで字の如く、生物が肉体を活動させる、その為のもの。そして存在力とは、外史の人間だけが備える、それが無いと存在感が薄くなるどころかその存在すらそこに出来なくなる、外史の登場人物には決して欠かせない力だ。
存在力そのものがどんなもので、そしてどんな理屈で有り得ているのかは、あの((意思|ウィル))ですら立証も解明も出来ていない。目には当然見えず、計器で計るなんてことも出来ないそれだが、それが無ければ、外史の存在としてのキャラクターを、その“個”を保つことは不可能だ。
ちなみに、某ハムの影の薄さとか、某双子が無印以降居なくなったのも、実はその存在力が薄い、もしくは失われてしまった、それが原因ではないかと、上級管理者連中の中ではそう、まことしやかに噂されても居たりするのは、ちょっとした余談である。
「二人とも、もうすでに生命力も存在力も、ほぼ吸われてしまっています。後は、蚩尤を召還する際の起爆剤として最後の残り火を捧げれば、この外史、いえ、すべての世界から文字通り消滅するでしょう」
「なら話は簡単だ。この場で二人をそこから助ければいいだけだ。そうすれば蚩尤も現世に顕現出来ない」
「出来ますか?私の用意した傀儡達は強いですよ?生命無き木偶であるがゆえに死ぬこともありませんし、ましてや管理者本来の力も使えない今のあなた方で勝てますか?そしてさらにいえば、運良くこの二人を助けられたとしても、どの道長くは持ちませんよ。ほぼ底をつきかけている生命力と存在力は、何もしなくてもすぐ、空になってしまいますよ?」
そう、生命力にせよ存在力にせよ、わずかづつではありながら常にそれは消費され続けており、彼女ら外史の人間の存在そのものを保っている。それを十分に補給するためには、一度、その役割を終えて次の外史に改めて誕生するというパターンを通過しなければならない。
しかし、このままいけば確実に、あの二人、徐庶と劉弁は双方の力を枯渇させ、もう二度と、あらゆる外史に誕生することが出来なくなってしまうだろう。もっと簡潔にいえば、存在そのものが永久に消滅してしまう、ということだ。
だから、彼女らのその存在を繋ぎ止めて置くためには、失われつつあるその存在力、それを補充してやる必要がある。そしてその手段は、一つだけ、ある。甲級の管理者である俺なら出来る、この場でたった一つの方法が。
「……受け入れてくれるかどうかは、分からんけど、な」
「?何の話です?」
「こっちのことだ。まずはこのヒトガタを片付けないと、それ以前の話だしな」
「でも狼?この傀儡たち、于吉の言うように結構な質のものみたいよ?それに量も相当伴っているわ。……正直、力に制限のかかっている今の私たちじゃあ、片付けるのはかなり厳しいわよ?」
……確かに、このヒトガタたち、かなり質の良い術式で組み上げられてるぽい。おそらく、一体一体がこの世界で言うところの関羽や張飛、愛紗とか鈴々といった、五虎将レベルに近い強さだろう。漢女としての貂蝉ならともかく、今の彼女でもちときつい相手だろう。
「……なら貂蝉、一つ、頼みがある」
「なに?」
「今から俺のすること、一切“記憶”しないでくれ。お前のこの外史での本来の役目、乙式観測用代替端末としての役目には反するが、甲級管理者権限第6号をもって、最優先命令として乙級管理者貂蝉に対し、甲級管理者狭乃狼、非常時における強制介入権を発動する」
「ッ!……ハイ。管理者権限第六号ノ発動ヲ確認シマシタ。コレヨリ一時、傍観者ヘノ強制もーど変更ヲ行イマス。記録作業ヲスベテ一時中断。意識ノかっとヲシマス。権限有効時間、600秒ノかうんとだうん開始シマス」
「なっ!?狼、貴方、それを使うとは一体なにを」
……………………………………………
管理者権限の第6号。それは、何時如何なる外史においてであろうと、乙級以下の管理者に対し、甲級以上の管理者が行える、対象への強制命令介入の権利だ。それを発動すると、時間にして600秒、つまり十分間の間だけ、命令を受けた管理者は強制的に傍観者モード、つまりはそこにただ居るだけの存在になる。
ただし、だ。これが通用するのは同じ派閥同士、つまり、肯定派なら肯定派、否定派なら否定派同士にしか、発動することは出来ない。その細かい仕組みは機密扱いなので分からないが、ともかく、俺と同じ肯定派の貂蝉にはこれを俺が発動することが出来ても、否定派に属している于吉に使ってその行動を今すぐやめさせることは不可能、ということだ。
まあもっとも、俺がこれを発動したのは、これからやることを『公式な記録』に残したくないから、なんだが。
「さて、それじゃあ始めるか。管理者狭乃狼、管理者権限の第10号、『能力封印限定解除』を発動する。併せて、『((真体|リアルボディ))』の使用を申請……承認確認」
「なっ!?ま、まさか狼、貴方、この世界に自分の“本来の身体”を」
「……来い、『牙』」
《うおおおおおおおおおおおおんんんんんんっっっっ!!》
俺の声に応え、それの咆哮が世界にこだまする。そして、蒼空に一瞬の煌きが走り、それは俺の下にやって来た。
「……蒼いフェンリル……ッ!まさか、本当に“牙”を呼ぶとは……ッ!」
そう。俺の下に降り立ち、目の前にその力強い四肢でもってしっかりと大地を踏みしめているのは、蒼白い鬣を大きく風にたなびかせる、一匹の狼。俺の本来のパートナーであり、それと同時に、俺自身の力そのものでもある、北欧神話における伝説の神喰らいの狼、フェンリルの姿を模した『牙』という名の融合機だ。
『狼。まさか吾をこの世界に召還するとはな。正直、思いもよらんかったぞ?』
「悪いな。俺もまさか、お前を呼ぶことになるとは思わんかったよ。けど、状況が状況なんでな。悪いけど時間が無い。とっとと『戻る』ぞ」
『……承知。《うおおおおおおおおおおおおおおおんんんんんんんんっっっっっ!!》』
管理者になって後、俺は様々な修行をしていくうちに、ある時点で自分の限界を見てしまった。そのままではどうにも越えなれない壁に当たり、そして色々試行錯誤を繰り返した結果、俺はある日一つの結論に達した。
それまでに培った力のほとんどを別の器に移して封印し、そうしてほぼ初期状態になった身体で改めて修行を行うという、そんな方法に。
そして、普段はそんな封印状態ですごしつつ、いざという時には力の封印先である自立式半生体融合機の牙と融合することによって、非常識をさらに超えた非常識な力を発揮出来る、俺の“元々の姿”に“戻る”という寸法なわけだ。
「……それが、貴方たちの、いえ、貴方の本来の姿、というわけですか、狼」
「ああ。北欧神話において主神を喰らったフェンリル狼、それを下地のイメージに創り上げ、さらに始祖の巨人ユミルやロキを始めとした神々、それらを全て統合して組み上げた、俺の管理者としての本来の身体だ」
「……某龍玉世界の主人公の第三段階に似てるのは?」
「俺の趣味だ」
見た目の相違点とすれば、髪の色が金色でなく蒼と白が混じった感じなのと、服装がタイ無しのスーツってところぐらいかね。ちなみにいっておくが、デコの広いのは後退してるせいじゃないらな?元々広いのがオールバック(?)のせいでそう見えるだけなんだからな?
「……経過たいむ、180秒……ノコリ420秒……」
「……と、そんなやり取りしてしてるうちに、もう三分も経ったか。んじゃま、ひっさびさに全力全壊で往ってみますか!」
……………………………………………
台風や竜巻などで、木々や家屋、果ては車などが、巻き上げられ吹き飛んでいく様を見たこと、読者諸兄は見たことあるだろうか?
「……」
そしてその折、吹き飛ばされたそれらは大抵、宙を舞っている時点か地面に叩きつけられた時点で、粉々に粉砕されるものだが、今、俺を中心に舞っているそれらは、舞い上がったその時点において、すでにミリ単位の細かさにまで粉砕されている。
俺の拳と脚。
それによって、于吉が精魂込めて念入りに作ったであろうそれらヒトガタは、まるでガラス細工のようにいとも簡単に砕かれ、そして塵となって宙へと掻き消えていく。
「……やっぱり、化け物、ですね……甲級の連中は……」
「化け物で悪うござんしたね。これでもアロハのよく似合うどっかの誰かさんには、ちょいと及ばないんだがな」
「いや、あれを引き合いに出されても。……しかし冗談はさておき、あれだけ居たクグツがもう、残っているのは一桁だけ、ですか。これはさすがに、少々まずいですね」
総数としては確実に万を超えてはいたろうヒトガタ。まあ空間の限界的に十万は居なかったろうが、長安の街全体を埋め尽くすんじゃあないかって位の数は居たヒトガタも、残すは于吉を直接守っている数体だけ。
所要時間60秒か。うむ、ちょっと最近なまってる感はあったけど、まあまあな数字かね?
「……仕方ないですね。今回はあきらめますか。蚩尤を復活させてそれでこの外史を消滅させて、この外史そのものの存在力を((妲己|だっき))の復活にあてがおうと思ったんですが」
「……妲己……?まさか、あの妲己、か?」
「おっといけない。口が滑ってしまいましたね。では狼?私はこれで消えますね?あ、そうそう。蚩尤ですがね、もうまもなく出てきますよ。最後に残ったクグツ、これをエサに捧げておきますから。じゃ、頑張って下さいね?」
「って、おい、ちょっと待て!」
あいつ今、なんかとんでもないこと言わなかったか?
ごごごごごごごごごご
「……うわー……モーレツにやな予感。残り時間300秒……こりゃ、急がんとな」
映画とかでよくある、ラスボス出現前兆の地響きがとどろく中、俺は劉弁と徐庶、二人の括り付けられている柱へと駆け寄り、彼女らをそこから解放。地面に寝かせ、息を確認すると。
「……お、よかった、まだ息がある。……けど、ちょっと影が薄くなってきてるな。こりゃいかん、早いところ存在力を補充してやらにゃ。まずは二人の意識に同調して、と。……聞こえるか、お二人さん」
『……狼、さん……?』
『この声は?徳か?朕は、いや、妾は一体』
「経緯や詳しいことは後でたっぷり話して聞かせる。だからまずはこれだけ確認。二人とも、生きて居たいか?」
『……なんかよく分からないけど、そりゃ、まあ』
『死なずに済むのであれば、それは何より越したことは無いが……もしかして、妾たち相当にまずいのか?』
「ありていに言えばな。で、だ。このままだと二人とも確実に死ぬ。それどころか、存在そのものが維持出来ん。回避の手段は二つ。このまま死んで来世というか次の外史に生まれ変わるか、今この場で俺と契約して俺の本当の娘になるか、だ」
『……どういうこと?』
つまり。生命力に関しては、その存在さえ維持できれば、どうとでも回復のしようはある。しかし、存在力のほうはそうはいかない。存在力というのは、大概その固体ごとに量が決まっていて、本来は失われる一方のものだ。
そんな存在力を補充する方法は、今のところ二つしかない。
転生に寄る再補充、ただしそれはいつか尽きる有限のもの、に頼るか。それとも、正史の人間である俺と契約を交わすことでその魂を繋げ、俺が生きている限りは尽きることの無い存在力、それに頼るか。
前者であればこれまでどおり、外史の登場人物として何も知らず、ただ与えられた役割をこなすだけの存在に戻る。そして後者を選んだ場合は、全てを知り、そして俺の正史での寿命の尽きない限り、ほぼ永遠の時を、俺の専用観測室であるユグドラシルで過ごしていく事になる。
有限の生を時の流れる外史で繰り返すして過ごすか。
無限に近い生を時の止まった観測室で過ごすか。
これが、二人に今選べる、二者択一。そして二人が選んだ、選んでくれたのは。
『……いいわ。これからは本当に、義父…ううん、父さんって、呼んであげる』
『妾も良いぞ。知らずに踊る人形より知ってなる道化の方が、妾的には好みじゃしな』
「……ありがとさん。なら、とっとと儀式を済ますか」
まあ、儀式といっても簡単なことだけどね。二人の結論を聞いた俺は、懐から二枚の白紙のカードを取り出し、横たわる二人の身体の上にそれぞれ置く。
……………………………………………
「ならばここに、汝らに我、甲級管理者132席、狭乃狼が、新たな名を贈る。徐庶元直。その真名をもち、我が娘、ヴァルキュリア第一柱、『東乃・シグルド・リファ・輝里』とし、契約を結ぶ」
『とおの、しぐるどりふぁ、かがり……それが、私の、新しい名前……』
「劉弁白亜、その真名……あ〜っと」
『みこと、じゃ。命と書いてみこと。それが妾の真名じゃ』
「……さんきゅ。……劉弁白亜、その真名をもち、我が娘、ヴァルキュリア第二柱、『皇・ヴリュンヒルデ・命』とし、契約を結ぶ」
『すめらぎ、ぶりゅんひるで、みことか。なにやらややこしい名じゃが、中々に格好良い名ではないか』
二人が俺の贈った新しい名を受け入れる。それと同時に、それぞれの体の上に置かれたカードが淡い光を放ち始め、徐々にその白紙だった箇所に絵柄が浮かび上がる。
『T』と『U』。
ラテン語読みで、それぞれ『ウーヌス』、『ドゥオ』。そしてそれらの数字の下地に、輝里と命、それぞれの絵姿が浮かび上がる。
「契約は此処に為れリ。我が娘、戦女神となりしこの者らに、父たる我の祝福を贈る……っと。これで、俺と二人の間には繋がりが生まれた。もう、存在力が尽きる事は無い。俺の生きている限りはな」
「……うん。確かに感じる。狼さん……ううん、父さんと私の間に、とっても暖かい何かを」
「そうじゃな。これが、繋がりなのだな、親父殿。……まあそれはいいのだが」
「ん?どうかしたか、命?」
無事目を覚まし、自分達にも感じられるソレを改めて確認するかのように、しげしげと自分と俺のことを見比べていた命が、なにやらとっても怪訝そうな顔をしている。……なにかミスでもあったか?
「……なあ親父殿?妾たちのこの格好……“コレ”はなんじゃ?」
「あ、私のこれも何?」
「何、って。君達用の戦いの装束、『メギンギョルズ』ってやつだけど?デザイン、気に食わなかったか?」
ちなみに、今の二人の格好、つまり、ヴァルキュリアとしての戦装束姿だが。
輝里はベーシックな紺のセーラーに、赤色の肩当と手甲、脛当を着け、額には翼を広げた鳳凰をあしらったバンダナを着けてる。左右の腰には俺がムスペルヘイムの灼熱の炎で鍛えた双剣『グラム』が、その冷たい鋼の刀身を煌かせて差されている。
命の方はといえば、こちらはブレザータイプのそれで、赤色タイとチェックのミニスカートがポイントである。輝里とは色違いの、紫の各種防具を身に着け、手に持っているのは彼女用の武器、その名も『リディル』という、パッと開けばそこに漢、と、ばっちり目立つ文字が描かれているナイスデザインな鉄扇である。
「……気に入らんと言うわけではないし、これはこれで可愛いとは思うが、何故かしらとっても趣味的と言うかそんな感じがするのは気のせいじゃろうか?」
それは多分にキノセイデス。
《ごごごごごごごごごごご》
「あ、なこと悠長に喋ってる場合じゃなかった。そろそろ蚩尤が出て来るぞ、お二人さん。貂蝉に使った管理者権限、あれと俺の能力限定解除、後一分ほどで時間切れになるから、その前に片付けるぞ」
「はい、父さん!」
「任せよ、親父殿!」
「違う違う。その時の返事はこう。『YES,MY,DAD』、だ」
『YES!MY,DAD!』
おー、付き合い良いねえ、二人とも。さあてそれじゃ。
「……伝説の神様、それを模した外史破壊プログラムとやら、拝ませてもらいますか……っ!」
………………………………………………
「……そこまでか?」
「そ、そこまで。結局、蚩尤と言う名の件の外史破壊プログラム、あれは何でか出て来ずに終っちまったからな」
ぱち、と。それまで見ていたモニターを消し、隣に座る華雄にそうその時の事を、肩をすくめながらいう俺。
「その後管理者権限の発動時間が切れて、元通り活動を始めた貂蝉の分析いわく、最後の目覚めの起爆剤を輝里たちからヒトガタに移したのが、蚩尤の目覚めなかった原因だろうとさ。要するに、エネルギーがもう一つ不足していたってワケだ」
「……なるほどな。しかし、あの時私が死んだ後、そんな風になっていったとはな。だが狼?その蚩尤とやらが目覚めなかったのに、何故、あの外史は消滅と再生の道を進んだのだ?」
「……暗躍していたのが、于吉の奴だけじゃあ無かったってことさ。左慈。アイツもまた、于吉とは別に行動していたんだよ」
蚩尤が結局復活するような事も無く、それで完全に安堵してしまった俺は、輝里と命、それと貂蝉も連れて、その直ぐ後にあの外史を後にした。最初の目的だった反董卓連合で董卓軍を勝たせるというそれは、結局もう成し遂げられなくなり、その後のあの世界は決められた道筋のままに運命を全うすること、それが確定してしまったとそう思ったからだ。
けれど、その読みが甘かった。
あの外史に居た否定派は于吉だけじゃなく、その相方である左慈の奴も居たらしく。あの原初の外史に真以降のキャラがいると言うそんな世界だった外史は、基となった原初の外史である無印の世界の様に、左慈の介入によって終焉の時を迎えてしまった。
その後、あの外史は一刀の想いと願いによって新たな外史へとその姿を変え、今はまた、別の新たな世界として、外史宇宙の何処かに存続し続けている……筈だ。
「……結局、どちらがあの世界の予定調和とやらだったんだ?」
「俺にだって分からないよ。((意思|ウィル))の、ましてやさらにその上の存在の考えてることなんざ、唯の人の身には理解不能さな」
「……なあ狼?」
「ん?」
「私は、もう、月様たちと、あの世界の皆と、会うことは出来ないのだろうか?」
「出来るよ?」
「って、そんなあっさりと!?」
だって可能なものは可能なんだし。あー、でも。
「その代わり、早いところ仮免から脱しないとな。管理者資格保有状態ってだけで何の権限もまだ与えられていない、肉体と魂だけが管理者としてのそれになってるだけの、今の丁級のお前さんじゃあ、外史に渡れる資格はないからな」
「丙級とやらの資格試験に合格して、そこで初めて一人の管理者に認定されるんだったな。……お前もその試験とやらを?」
「いんや。俺ら甲級の管理者にはそう言ったものは無いよ。ある日突然ウィルから管理者に選定、認定されただけ」
「……何かずるいような気が」
「そこは正史と外史の人間の差、ってやつだろ?外史の人間でも管理者になれるってのは俺も今回はじめて知ったが、外史出身の管理者は乙級までしか上がれないって所も、その辺の違いだろうよ」
甲・乙・丙とある三段階の管理者クラスの内、甲に成れてほぼ制限の無い管理者として動けるのは、俺たちのような正史の人間だけ。乙以下の管理者はそれと似て非なり、様々な活動制限が設定されている。俺が貂蝉に対して使ったような、上級管理者権限による強制介入命令とか、指示無く外史に介入出来ないとか、な。
そう考えると、左慈や于吉の行動も誰かの指示の上にあるってなる訳だけど、一体誰が連中に指示を与えているんだろ?原作だと老人たちが云々ぐらいしか出てないから、はっきり正体が分かってるわけじゃあないし。
「狼」
「ん?ああ、なんだ、華雄?」
「何だ、では無く、私が月様たちにもう一度会えるというのは、本当に本当なんだろうな?」
「本当さ。丙級試験に合格して正式な管理者になれば、上司の認可付きって条件はあるが、ある程度は好きに外史世界に入れるようになる。……じゃ、そろそろ休憩は終わりにするか。そんなにあの世界のみんなに会いたいんなら、その分みっちり勉強と修行をしないと、な?」
「う、うむ。……しかし修行はともかく、勉強のほうはなあ……管理法だの外史法だの、頭に詰め込むのが大変だよ。もともと、向いてないし」
「ま、な。俺もそんなに物覚えの良いほうじゃあないけど、なに、人間その気になれば何でも出来るさ。それに、この観測室にいる限り、勉強時間は無限にあるから、な?」
「……そう、だな」
……この先視点は輝里に移ります……
「で、華雄さんは今みっちり、父さんが付きっ切りで勉強中、と」
「ふむ。少々タイミングが悪かったかの。まあ仕方あるまい、二人が出てくるまで妾たちだけで茶でもしておるか」
「そうね」
そうして私たちはそれぞれ好きな飲み物をテーブルに出して、用意してきたそれぞれのお茶、私が紅茶のオレンジペコ、命は玉露茶をすすりつつ、スコーンなんかを時折ほおばり、まったりとした時間をすごし始める。
「……ふう、よい茶だの。親父殿も良い舌をしている」
「だね。私のこれも父さんに薦められたものだけど、この世にこんなにおいしい飲み物があるなんてねえ。お菓子もまたあの世界には無かったものばかりだし、そういう意味でも、父さんの娘になって良かったかも」
「ははは。確かに、これは思わぬ収穫だったかも知れんな。……そういえば輝里よ、お主にひとつ聞きたいのだが」
「ん?」
こと、と。湯のみをテーブルに置いた命が、ちょっと真面目な顔を作って私の方をじっと見てくる。何かしら、一体?
「そんなに大したことでもないんだがの。お主がいつも腰にぶら下げているその鍵の着いた書物、どんな内容なのかずっと気になっておったのだ。……良ければ見せてくれんかの?」
「これ?……んー、まああんまり人には見せたくないんだけど、姉妹になった記念にちょっとだけなら」
そう言って、私は腰に下げている本の片方をベルトから外し、懐から取り出した鍵を錠に挿して開ける。そしてそれを彼女にすっと手渡し、その中身を命が見ている姿をティーカップ片手に眺める。……これで同士が増えたら最高なんだけどなあ。こっちに来た以上、もう簡単には朱里や雛里たちとその手の談義が出来ないし、同好の趣味者が出来るんならそれに越したことは無いんだけど。
なんて風に、考えていた私だったわけなんだけど、それが甘かった。
「……おい、輝里。“これ”は一体なんだ?」
「何、って。“唯の恋愛小説”だけど?」
「こ、これのどこが“唯の恋愛小説”か!?な、内容がお、男同士のその」
「そうそう。世にいわく『BL本』って、こっちじゃ呼ばれてる、八百一よ。ね?良いと思わない?良い男同士の許されざる禁断の愛と、目くるめく倒錯の世界……鼻血ものでしょ?」
と、私は自分の書いたそれの内容に自信満々、命にそう勧めたわけなんだけど。
「良いわけあるかこのようなは、破廉恥な、それも不毛な内容の書物なぞ!男同士の絡みなぞ、傍から見ていて気持ち悪いだけじゃ!!」
「(カチンッ!)……気持ち悪い、ですって?この、徐元直改め東乃・シグルド・リファ・輝里の渾身の、愛と浪漫に満ちた一作が?!」
「こんなものに愛と浪漫を感じれる奴の気が知れんわ!それに、この中に出てくるのは美形の男子ばかり、そうでない男は一切出て来ん!これは明らかな顔での人間差別じゃろうが?!」
「別に差別してないわよ!それにブサメンだって出てくるわよ!ブサメン×イケメンとかその逆とかだって萌えるでしょ!?」
「だからそもそも男同士の絡みというのが間違って居るというのじゃ!男と女だからこそのこういう行為じゃろうが!」
「……こういう行為ってのは?」
「ぐッ。だ、だからそれはその……せ」
あ。顔真っ赤にして詰まった。あらまー、命ってば以外に初心ねー。……まあかく言う私は唯の耳年増なんだけど。
……視点、俺に戻ります……
「……何やってんの、お前ら」
『父さん(親父殿)』
「男同士がどうのと聞こえたけど、まさか二人とも……腐女子だったのか?」
なにやら凄い怒声が聞こえると思ってきてみれば、輝里と命が腐談義していようとは。なるほど、あの世界で輝里が朱里と雛里を知っていたのはこれ繋がりか。納得。
「妾まで一緒にするでない!変態は輝里だけじゃ!」
「変態とは何よ変態とは!私は唯、私が美しいと思えるものを書いてるだけよ!」
「こんなものを美しいと思える神経がおかしいわ!」
「……殺る気?」
「……殺らいでか」
うおう。すっげえ殺気。アー、やっぱこの手の話の肯定派と否定派の壁は高いなー。……さて、華雄の勉強見に戻るk(がっし)……あれ?なんか、捕まってるぽい?
「父さん……どこ行く気?父さんも小説、趣味で書いてるんだから分かるわよ……ね?私の気持ち」
「親父殿……親父殿も男なら、同じ男性との絡みなぞ、受け入れられるものでも無かろうよな?妾同様」
……。よし、ここは逃げの一手発動DA。
「じゃ、ちょっと父さんもそこに座って、三人でたっぷり、O☆HA☆NA☆SHI合いと逝きましょうか?」
「いやあ〜……その、俺にはえと、華雄の勉強を見るという大事な用事が」
「あ、それなら問題は無いぞ?たった今彦雲、ではなく、貂蝉に親父殿の代わりに華雄の勉強を見るよう、連絡をしておいたでな」
……しかし回り込まれてしまった……orz
「さ、それじゃあ再開しましょうか。で、さっきの続きだけど……!」
後はもう延々。喧々諤々。それがずっと続き。終わる頃にそこに残っていたのは、髪の毛真っ白になって燃え尽きた俺という名の屍。
まあ詰まるところ、今ではありきたりな光景となったそれが、初めてここに繰り広げられたその日でありました。
……俺が一体何をした、ちくせう。
終わり
どうしてこうなった。
最初はこんな終わり方のはずじゃあなかったのになー。
もっとこう、家族団らん?みたいな感じで、ほのぼの幸せ家族の情景からフェードアウトして終わり。
そんな予定だったはずなのに。
いや、唯の願望だったのかもしれないなー。
・・・・・・現実ってこんなものよね。
さて、以上でこのうちの家族の出会い物語は終了です。
ですが。
後一回というか、エピローグというか、そんな感じの回を、追加して書こうと思ってます。
作者なりの管理者に関する設定とか解釈みたいなもの、本編でもちらちらと出したそれらを、一度文章としてはっきりまとめてみたいと思います。
シチュエーションとしては、華雄が丙級の管理者試験を受けるための勉強、それを貂蝉相手に受けている、見たいな感じで書こうかと現在おもってます。
ではまた、その時におあいしましょう。
再見〜w
説明 | ||
妄想大爆走の家族の出会いss、これにて結幕ですw 捏造設定、厨二設定盛りだくさん! いつもの落ちはここから始まる(おw では、お話の方をどうぞwww |
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たこむきちさん<中庸派も中には居ますしね、管理者。後半、特に最後のは絶対違うけど(おw(狭乃 狼) 俺は否定も肯定もしないけどね、外史。なに、違う?じゃあなんだよ!BLか?一刀×狼とかか?(たこきむち@ちぇりおの伝道師) summonさん<そーなんですよねえ、肯定派の色んな意味で強いですよねえ(汗えェ、ホントにw(狭乃 狼) 輝里と命のように肯定派と否定派の争いはどこにでもありますね。ただ、若干気持ちの強さ的に肯定派が強いような気が…次回も楽しみにしています。(summon) 一丸<マシだった?それは何よりw 上の二人を知りたいのであれば、ちょっと前に投稿したリレーの最終話をチェックするようにw 制服が戦闘服って、何気に格好いいと思わない?(おw(狭乃 狼) mokitiさん<あの二人のあれに関する対立は運命なのですw・・・そしてそれに俺が巻き込まれるのも、ね・・・orz(狭乃 狼) おお〜〜思ってた内容より、輝里と命の状態は若干ましでしたwwでも、理由を聞いて納得!!そして、前回のコメント返信で三男って言ってましたけど上の二人って誰!?・・・次の作品と他の作品の続きを楽しみに待ってます・・・狼さんは娘に自分の趣味の服を着せるのか・・・まあ、嫌がってないからいっかww娘が嫌がってたら変態かな?ww(一丸) 結局、輝里と命はそれで喧嘩するのですね…まあ、私もさせたけど。そしてそれに未来永劫巻き込まれる運命にある狼さん、ご愁傷様です…南無阿弥陀仏。(mokiti1976-2010) 帽子屋さん<そう、その人のことですよwww(狭乃 狼) 丈二<萌えるし実際様になるから良いと思うが?(おw アロハの似合うのって言ったらお前さん以外誰がいると?www(狭乃 狼) 不知火観珪さん<応援どうもですw 眼鏡や匙が懲りる?ありえませんねwww(狭乃 狼) M.N.Fさん<ありがとござましたwww(狭乃 狼) 乱<オケイ、楽しみに待っててくれいw(狭乃 狼) アロハのよく似合うどっかの誰かさんって…あぁ、心友のことかなw(帽子屋) 輝里の趣味は元来のものだったか。娘に趣味全開の服を着せるのは、気持ちはわからんでもないが、どうなんだ? で、アロハのよく似合うどっかの誰かさん……誰のことだ?(峠崎丈二) こんな誕生秘話があったとは……外史とはまた奥深いですね。 そして、まぁ、なんというか于吉もまだ懲りないようですねww。 狼さんのますますのご活躍を心より応援いたします!(神余 雛) お疲れ様でした。それだけ言っておきますね^^(M.N.F.) 再見〜w 楽しみにしてるYo〜〜。(乱) |
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