鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第六五話
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〜世界樹の麓〜

 

『君たちは、人間じゃないようだが…。この世界樹の門番かい?』

 

ダオスは、異形の雰囲気の人間のような者達に、そう告げた。

 

その質問に、その者達は顔色を曇らせた。

 

『違う。逆だ。』

 

その者達は、そう言ってダオスの前に立って

 

剣を、取り出した。

 

『私は、守りではなく、殺しにk』

 

殺しという言葉を聞いた瞬間、ダオスはこの者達を木端微塵にした。

 

暗黒の波動に包まれたディセンダーは、あえなくミンチへと変貌された。

 

『やれやれ。オチオチ中に入れも出来ない。』

 

世界樹は、当然ながら入口と言う物は無い。

 

どうやって、この世界樹を壊すのか。

 

外壁は限りなく極限なる強度であり、破壊することは不可能だ。

 

ならば、更に強大な力をぶつけなければ、入る方法は他無い。

 

この絶対物質を破壊する方法。

 

その方法が、本当にあるのかは不明であるが、

 

人類が滅亡する前に、解明する必要がある。

 

以前の、エドワードが使った錬金術はどうなのだろうか。

 

 

近くに、錬金術を使えるものは、いるのだろうか。

 

『おい』

 

唐突に、声を掛けられた。

 

声を掛けられた方向へと、首を動かすと

 

そこには、ディセンダーにしては、負の感情が著しく高い、妙な者と

 

別の世界の住民の気を持つ少女が居た。

 

『お前、誰だ』

 

『私か?』

 

『お前以外に、誰がいるんだよ。』

 

自己紹介は苦手だ。

 

隠さなければならない部分

 

その部分を意識して、若干でも増大でも

 

不安と罪悪感を感じるからだ。

 

『私の名はダオス。それ以外は何も説明はしない。』

 

『ダオス?』

 

『ふぅん…君は人間じゃ無いみたいだね…』

 

ラザリスがダオスを観察した後、

 

興味無さそうに、次に世界樹の方に目を向けた。

 

『ゲーデ、この樹の外壁を破壊できるか?』

 

『さぁな。壊すには俺の中の人間のエネルギーを多大に消費する事になるのは間違いない。』

 

そう言って、ゲーデは世界樹に手を乗せた。

 

『だから、この樹の魂を”分解”する事にする。そうすればエネルギーはタダ同然だからな。』

 

そう言って、巨大な錬金術を発動し、世界樹に穴をあけた。

 

『!』

 

世界樹の中は、異常だった。

 

壁や床、天井など

 

所々、人間の痕跡があり、どれも脈を打っている。

 

人間の顔や、性器、足、内臓等が露出しており

 

どこからか、空気の漏れる音がする

 

かなり、臭い

 

世界樹の中は”生きている”という認識が、強制的に彼らの中で産まれざるを得なくなる。

 

『うっ……』

 

その異常な光景の不気味さに、ラザリスはその場で嘔吐をした。

 

見るだけで精神を持って行かれそうなその場所は、出た頃には廃人になっているかもしれない。

 

人間では確実で有る上に、人外であるラザリスさえ、そんな心配をしてしまうのだ。

 

『……賢者の石の中と、似たようなもんだな』

 

そう言って、ゲーデは涼しい顔で中に入って行く。

 

『俺は先に行く。気分が澄んだら、追いついてこい』

 

その中へと歩いて行く足音さえも気持ち悪い。

 

精神が狂う。

 

『…………っ!』

 

ラザリスは、こんな世界に、こんな世界に閉じ込められた事に絶望し

 

この世界を前に、平然と立ち向かうゲーデに、憧れを確信していった。

 

『君は……君なら……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜オーリス森〜

 

『ひっ!ひぃぃいいい!!』

 

暁の従者の教祖は、恐怖していた。

 

先ほど、12人居た信者は

 

今、目の前に居る元部下であるプレセアに、皆殺しにされ

 

今、最後の一人を少しずつ傷つけ、確実に殺して行っているからだ。

 

『ああ……ああああ…』

 

最後の一人の信者は、徐々に声が掠れ

 

無い筈の右腕を必死に動かそうとし、

 

涙も最早、枯れ果て

 

裂かれた股からは、小便が流れている。

 

そして最後

 

頭を斧で、繊細な動きで裂いた。

 

『あ』

 

脳が露出した瞬間、信者は事切れ

 

倒れたはずみで、脳味噌がグチャリと愉快な音を出して崩れた。

 

『ひぃ……ああ……あ……』

 

次に、プレセアが見たのは暁の従者の教祖だった。

 

教祖が見たのは、血まみれの鬼子だった。

 

『あああああああああああああああああああ!!!』

 

教祖は、必死にその場から逃げ出し、生き伸びる為に走った。

 

プレセアは、殺す為に教祖を追いかけ、暁の従者を根絶やしにする為に走った。

 

『くっ来るなぁ!!私は!私はお前の主人なのだぞ!?』

 

プレセアは、何も言わずに追いかけ、

 

ただ、目の前に逃げている奴を殺す為だけに、走っていた。

 

『た……助けろ!誰か私を助けろ!』

 

教祖は、ただ醜く、誰にも届く筈の無い命令を唱えながら、走っていた。

 

『私は!いつしかディセンダー様と共に世界を手に入れる存在なのだぞ!こんな…こんな終わりがあってたまるか!!』

 

『そうですか。私は世界を壊す為に貴方も殺して世界も殺します。』

 

プレセアの淡々とした返事に、教祖は更に恐怖心を増した。

 

『おい!誰か!おい!!この女を殺せ!もしくはプレセア!自殺してくれ!!おおおおおおい!!』

 

教祖は、恐怖や混乱でまともな思考回路が難しくなっていた。

 

その発言に完全に失望したプレセアは、斧を教祖に向かって投げた。

 

『がぁああああああああああああ!!!』

 

斧は、教祖の足を両断し、教祖はその場に倒れた。

 

『簡単には殺しません。』

 

そう言って、すぐさまプレセアは次に教祖の右腕と左腕を断ち切った。

 

『ががががががががが!!』

 

教祖の口から、壊れたロボットがオイルを吐きだすように小刻みに血が噴き出される。

 

その光景を見て、プレセアは悲しくなった。

 

どうして、私がこいつの為に人殺しにならなくてはならないのか。

 

どうしても殺したいこいつを、絶対に殺さなければならないこいつを、殺さなければならないのか。

 

『……人殺し…』

 

こいつは、ジーニアスも殺したんだ。

 

殺したんだ。

 

コロシタンダ

 

『ああああああああああああああああああああああああ』

 

叫ばず、呟かず、普通に語るかのように、叫びの言葉を口に出し、

 

斧を、教祖の上へと振り上げた。

 

瞬間

 

背中に堅い物が当たった。

 

『…………!』

 

ロイドが、剣の先を私の背に向けていた。

 

『……何の真似ですか?ロイド』

 

『……もう、止めろ。これ以上…手を汚すんじゃない。』

 

『ロイドさんには関係ありません。私の問題なので、私がこいつを絶対に殺します。』

 

そう告げられた後、ロイドは悲しい顔をした。

 

自分の仲間が、壊れて行く

 

だんだん、自分の知っている仲間では無くなって行く。

 

堕ちて行く

 

正義が、分からなくなる。

 

意味が

 

その意味が、分からなくなる。

 

『……世界を壊した後、俺達は何をするんだ?』

 

『……………』

 

プレセアは、答えなかった。

 

その後の事なんて、

 

目的はあるけれど、それは曖昧で

 

本当に世界があるのか、不安に感じるほどだったからだ。

 

『俺達が、もう一度世界を作るんだろう!?何も間違っちゃいない、本当の世界を作るんだろう!?なのに…こんな…』

 

息を吸いこんでから、もう一度ロイドは叫んだ。

 

『こんな奴と同じ事をしても良いって言うのかよ!!』

 

『………っ!!』

 

その言葉で、プレセアの中の何かが揺らいだ。

 

同じ

 

私が、こいつと同じ

 

同じ

 

私は

 

私はジーニアスを

 

カノンノを

 

アドリビドムを、崩壊させたこいつを許せなくて

 

私は

 

『……私は、もう人殺しです。』

 

『だったら、もうそれ以上…汚く染まるな。』

 

『嫌です』

 

『ひぃいい!!』

 

斧を振りおろそうとすると、ロイドは叫んだ

 

『止めろぉ!!』

 

だが、

 

斧は、教祖の身体から

 

外した。

 

心の迷いが生じたからか、何か

 

『は…はぁ…はぁ…』

 

教祖は、最早駆られる寸前の兎に過ぎなかった。

 

その姿を見たプレセアは、どうしても殺さずには居られなかった。

 

『……殺します』

 

もう一度、斧を振り上げる。

 

だが、斧を振り上げる手は、ロイドに掴まれてしまった。

 

『こんな姿したプレセアを見て…ジーニアスは何て言うんだよ…!』

 

『………!!』

 

プレセアは、ロイドを蹴り飛ばした。

 

『ぐっ…はぁ!』

 

次に、再び斧を教祖に向けた。

 

『ごめんなさい、と。伝えて下さい。』

 

そう言って、再び斧を振り上げた。

 

『ああ……ああああ…』

 

死ぬ

 

そう悟った教祖は、驚くほど大人しくなった。

 

死ぬ

 

死にたくない

 

死にたくない

 

そんな思いを心の中で湧き出てくると同時に、教祖は涙した。

 

死にたくない。

 

『ああああああああああああああああ!!』

 

瞬間、足音が聞こえた。

 

近づいてくると、その足音の主は

 

『………!!』

 

その姿を見て、プレセアは身構え

 

ロイドも、剣の鞘に手をかけた。

 

『おお……!祈りが…!』

 

教祖だけが、救世主を見たかのような顔で、その者を見つめた。

 

『た…助けて下さい!あの者達に…あの者達に殺されるんです!だから…私を助けて下さい!』

 

教祖が、芋虫のようなその身体でそう言うと、

 

『うん。みんな殺すから関係ないよ。』

 

と言った。

 

その言葉で、プレセアとロイドは再び身構えた。

 

『ディセンダー…!』

 

ディセンダー

 

その言葉で、教祖は再び大笑いした。

 

『ディセンダー!?ディセンダー様!ははははは!!やはり私は、世界に選ばれた人間なのだな!?』

 

そして、ディセンダーに目を向けて、祈るような眼差しで言葉を出した。

 

『ディセンダー様!私は…私は貴方の味方です!だから…だから私は!』

 

『それにしても、こんな殺しやすい人間って有りがたいよなぁ。』

 

『え』

 

瞬間、教祖の首は千切られた。

 

何の躊躇も無く、首を掴み、引きちぎり

 

ディセンダーの言葉を理解する前に、教祖は事切れた。

 

『よっし!まずは一人目っと。』

 

ディセンダーは背伸びをし、次にロイドとプレセアを見た。

 

『んじゃ…次の仕事。やりますか』

 

『………っ!!』

 

まず最初に、プレセアが動いた。

 

殺される

 

教祖の時の憎悪とは違い、これは恐怖に対しての憎悪だった。

 

『しょっと。』

 

斧を振りおろした瞬間、細いレイピアでそれは防がれた。

 

『……!?』

 

『俺、運動には自信あんだよね。』

 

そう言って、第二撃を開始し、レイピアを振り回した。

 

『!』

 

レイピアは、プレセアの左膝を貫き、引き抜かれた。

 

『プレセア!!』

 

『はは。痛い?そりゃぁねぇ。』

 

プレセアは、何も言葉は発さず、ただ左膝の傷を押えていた。

 

まともに、立てなくなっており、崩れた正座のように座り込んでいた。

 

『魔力犠牲にして、手に入れた身体神経だもんなぁ。それ程強くなくては、困るってものよ。』

 

『……!!』

 

次に、ロイドが剣を振り上げ、駆け抜け

 

ディセンダーに襲いかかった。

 

『おっと』

 

だが、それも防がれた。

 

『君は、なかなか筋が良いね。』

 

『うるせぇ!お前なんかに…この世界の人間を殺させはしない!!』

 

『んー…。それは困るって話』

 

ディセンダーは、剣で剣を防いでいるロイドの腹を蹴っ飛ばし

 

『……!!』

 

ロイドは、吹っ飛ばされた。

 

『俺達は、人を殺すのが仕事、そんな事されたら、営業妨害なわけ。』

 

『…………っ』

 

『害虫は、当然殺さなくてはならないわけだよね。』

 

そう言って、ディセンダーは再び剣を取り出す。

 

『んじゃ、仕事再開』

 

そして、ディセンダーがロイドに向かって剣を向けて駆けだした

 

『ロイドさん!』

 

プレセアが、動こうにも、足が貫かれて使い物にならない。

 

片足だけでも、助ける事は出来そうではなかった。

 

動け

 

足よ、動け

 

動け

 

そう、切実に望んでいても、それは空しく、届かなかった。

 

 

 

 

剣が、ロイドを貫く音をした。

 

 

 

『………!!』

 

剣は、ロイドを貫き

 

絶望

 

そんな言葉が、似合いそうな

 

似合いそうな、情景となっていた。

 

『…………』

 

『だけど、殺させねえよ。』

 

自分の身体を貫いた剣を、ロイドは必死に

 

離さず、掴み、抜かさない

 

引き抜かれないように、剣を掴んでいた。

 

『約束したんだ。アドリビドムと、エドと。この世界を、ぶっ壊して、俺達人間で新しい世界を作るって…』

 

『はは、俺達にとっては大魔王みたいな願いだな。』

 

そう言って、ディセンダーは剣を引き抜こうとする。

 

だが、

 

そう簡単には、抜けなかった。

 

『んっ…んっ!』

 

まるで、なんでもないように引き抜こうとするディセンダーを見て、

 

プレセアは、動いた。

 

斧を引きずって、一撃でもこいつに攻撃を与えなくてはならない。

 

だから

 

一歩ずつでも、近づいて、築かれないように、近づいて

 

殺すタイミングを、狙った。

 

『んっ…。後、もう少し…だな』

 

『……ぐっ!』

 

引き抜かれるたびに、ロイドは苦痛の表情を浮かべる。

 

それも、もうすぐ終わり

 

終わらせる。

 

プレセアは、ようやく攻撃範囲内に入って来ると

 

斧を、振りおろし

 

『よっと』

 

ディセンダーは、剣を引き抜いて

 

プレセアの斧を、蹴り飛ばした。

 

『さってと、攻撃再開…だな。』

 

そう言って、レイピアを構え

 

プレセアに攻撃しようとした瞬間

 

『インディグネイション!!!』

 

呪文が、唱えられた。

 

神の雷が、空から堕ちて来て

 

ディセンダーを、貫いた。

 

『がっ……あああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ…』

 

殺意の持ったその雷は、ディセンダーの消し炭を目指し

 

目標を達成すると、雷は消えた。

 

『…………っ』

 

その呪文は、見た事がある。聞いたことがある。

 

その声は、聞いた事がある、見た事ある。

 

プレセアは、声がした方向を探し、首を動かす。

 

『………ジーニアス…』

 

ロイドの口から、言葉が出た。

 

彼の、言葉が出た。

 

その言葉から、彼の姿を確認する事が出来て

 

見つける事が出来て

 

『…………!!』

 

生きている事が、確認できて

 

プレセアは、涙腺が決壊し

 

涙を流しながら、ジーニアスに近づいた。

 

『……。僕は、まだジーニアスじゃ無いかもしれない。』

 

そう、ジーニアスはプレセアに告げた。

 

『だけど、確かに僕は君たちと一緒に居た。君たちと一緒に冒険した。そうだよね?』

 

『………当たり前だろ。』

 

ロイドは、木にもたれて、微笑みながらそう答える。

 

『多分、もう記憶は取り戻せないかもしれない。前のジーニアスはもう居ないかもしれない。』

 

ジーニアスは、プレセアの手を取り、

 

首の包帯が、痛々しく血が滲んでも

 

決して、目を逸らす事無く、プレセアの目を見た。

 

『だけど、これからは。一歩ずつ、少しずつでも。ジーニアスと一緒に歩んでいく事にするよ。』

 

プレセアは、何も言わずにジーニアスを抱きしめた。

 

そこに居るのは、ジーニアスじゃない。

 

ジーニアスは、私が殺した。

 

消えた。

 

だけど、今目の前に居るのは確かにジーニアスだ。

 

中身は違っているけれども、間違いなくジーニアスだ。

 

私は、今抱きしめているジーニアスが愛しくて

 

悲しくて

 

苦しくて

 

そして、共に歩みたくて

 

私はただ、ずっとジーニアスを抱きしめていた。

 

『俺も、お前と一緒に歩んでいくよ。』

 

ロイドは、笑顔でそう答えた。

 

ジーニアスは、そんなロイドに微笑みを返した。

 

《さようなら。頑張ってね。》

 

消えた筈のジーニアスの声が

 

ここで、この場所で、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ヴェラトローパ〜

 

人類滅亡の日

 

その日の事は、当然リメインズにも知れ渡っていた。

 

だから、空に浮かぶこの建築物まで、避難警告を出した。

 

リメインズの会長であるリーガル率いて、実行に移された。

 

だが、そこは

 

昔のヒトの祖が作り出した、今は封印されし建築物

 

前にディセンダーによって滅ぼされようとしていた、建築物なのだ。

 

空に浮かぶ技術力を持ってまで、奴らから逃げても、無駄足だった。

 

何一つ、無理だった。

 

逃げられなかった。

 

『そんな事、分かってる』

 

イズミは、弱音を吐いている隊員に向かって、そう一喝した。

 

『だから私達は、今から逃げるのでは無い。立ち向かうんだろう。』

 

そう行って、イズミは空の上に居た。

 

あと半歩進めば。地へと真っ逆さまになる。

 

だが、そこに立たなければ

 

ここに来る”奴ら”の姿は、到底見れなかった。

 

『来たか』

 

空に、影が現れた。

 

それも無数の。

 

それら全てを壊すには、骨が折れるが、仕方が無い。

 

イズミは、この地で錬成した槍を持ち。

 

この地で錬成したボーガンを持って

 

その影に向けて、発砲した

 

『!』

 

羽が千切れ、一体が地に落ちようとしていた。

 

『お前らも手に取れ!一切容赦はするな!』

 

イズミは、あくまで幹部では無い。

 

だが、平の隊員でも、彼女には束ねられるカリスマがあった。

 

だが、

 

イズミさん!見渡す限り…ディセンダーに囲まれて居ます!!

 

『……そんな事、予想はしていたさ。』

 

そう言って、建物に籠っている隊員にも向かって、命令した。

 

『作戦B!各隊軍に伝えろ!全ての部屋に配置した物は、全員ボーガンを放て!』

 

そう叫んだ瞬間、ヴェラトローパの全ての方位から矢が飛びだした。

 

それら全てが奴らに当たる事は無いが、

 

確実に、ディセンダーの数は減らしていった。

 

『攻撃を止めるな!打ち続け!』

 

矢は、攻撃を止めない。

 

確実では無い者の、空飛ぶディセンダーを撃ち落として行く。

 

叫びながら落ちて行くその姿は、人間のようにも見えた。

 

『…………っ』

 

その叫びに、不快を感じ、

 

罪悪感と後悔の念も溢れだしてくるが

 

『攻撃を…続け!』

 

この戦いが終われば、これが解放される。

 

それまでに、精神が死ななかった者は、どれ程居るだろうか。

 

これも、世界の知恵なのだろうか。

 

だとすれば、

 

『世界は…姑息で、汚い…!』

 

そう、考えざるを得ないだろう。

 

だが、考えの切り替えれば、

 

ディセンダーの数は、ほとんど無くなっていた。

 

『……よし!この調子だ!』

 

ただ、前を見て

 

生き残る事だけを見て、進んで行こうと思った。

 

『この調子で…』

 

瞬間、

 

イズミの背に、強力な攻撃を受けた。

 

『え………』

 

反発されたような、何か

 

異常物質に、飛ばされたようだ。

 

見れば、それは宝石のような玉で

 

巨大で

 

ただ、触れられただけなのに飛ばされた

 

と言う事が、分かった。

 

死ぬ?

 

私は、死ぬ?

 

『イズミさん!』

 

仲間の叫ぶ声が、聞こえる。

 

仲間が、遠ざかって行く。

 

だが、急に遠ざからなくなった。

 

彼らも、あの宝石のような玉に飛ばされたのだ。

 

ああ。

 

死ぬ

 

私達は、死ぬ

 

『ふざけるな…』

 

まだ、夫に言いたい事全て言って居ない。

 

何も、全て聞いて居ない。

 

死にたくない。

 

死にたくない

 

『うぉおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

ヴェラトローパの木の根を錬成し、そこにしがみついた。

 

落ちて行く者も、全て拾う為に

 

錬金術で木の根を成長させ、彼らをしがみついた。

 

『掴まれ!!』

 

なんとか掴まれた者は、全員では無かったものの、

 

大半が、しがみつく事が出来た。

 

『あああああああああああああ!!』

 

二人、しがみつけられなかった者が、地に落ちて行った。

 

『うっ……』

 

イズミは、泣きそうな顔になった。

 

仲間を、助けられなかった。

 

二人、助けられなかった。

 

二人……

 

『許さん…!!』

 

イズミは、木の根に沿ってよじ登り、上を目指した。

 

上で妨害をした者を潰す為に

 

『ぅぉおあああああああああああああ!!』

 

叫びながら、全力で昇り

 

登り

 

上り

 

必死すぎた故か。

 

次に掴んだ木の根を掴んだ瞬間、それは引きちぎられ

 

また、イズミは掴む場を失い、身体が浮き

 

今度こそ、助からない現状へと変わった。

 

死んだ。

 

 

今度こそ、私は死ぬだろう。

 

今度のイズミは、何故かいつになく冷静になっていた。

 

さようならエド、アル

 

さようなら、アンタ

 

『きっと、幸せに……』

 

世界を救ってくれ

 

 

願う前に、誰かに掴まれた。

 

『…………?』

 

見上げると、それは

 

仮面をかぶった、黒い剣士だった。

 

『我を失うな。』

 

そう言って、彼は空を飛び

 

ヴェラトローパの上まで飛んだ。

 

『もう、冷静か。』

 

黒い剣士はそう言って、上へと上った。

 

重力なんて無視をしているかのように、球体の壁を登り

 

上へ上へと、上って行った。

 

そして、ついにヴェラトローパの待機場所に辿り着いた黒い剣士とイズミは

 

上でイズミ達を付き落としていた奴の顔を見た。

 

『アンタ…!』

 

イズミにとっては、見た事の無い顔だった。

 

だが、本能から

 

彼女が、人間でない事は、容易に察知できた。

 

『久しいな。光の精霊』

 

『……………』

 

光の精霊は、表情を変えない。

 

ただ、じっと黒い剣士を見つめているだけだ。

 

『貴様に、この仕事は関係無い。洞窟に帰れ』

 

『俺はもう、あの洞窟に縛られない。お前に刃向かう為に来た。』

 

『刃向かう?』

 

黒い剣士がそう言った瞬間、光の精霊は、静かに嘲笑った。

 

『恩を忘れたか。闇の精霊』

 

『いや、恩を返しに来た。光の精霊』

 

黒い剣士は、イズミを下ろし、剣を引き抜いた。

 

『光の世界、たったそれだけでは、太陽としては成り立たん事を、貴様は知っている筈だ』

 

『私も知らないわけではない。だが、貴様は闇の中にひっそりと佇む方が利口だ。』

 

イズミは、この会話については分からない者がある。

 

この二人にしか分からない会話なのだろう。

 

だが、イズミは

 

その会話を無視してでも、光の精霊に太刀を向けなくてはならなかった。

 

『喝!!』

 

『光の中に出てくるな。闇しき者よ』

 

だが、光の精霊は関係が無いように

 

イズミが放った矢を掴んだ。

 

そして、へし折った。

 

『………!!』

 

『貴様は、闇の中で暮さねばならぬ精霊だ。我ら表の精霊とは違う』

 

『…いつか来た少年が語った通り、ではないな。変わらんな、レムよ』

 

闇の精霊がそう答えた瞬間、レムの顔に歪みが現れた。

 

『………』

 

『イズミという者よ』

 

黒い剣士は、イズミを見た。

 

『そなたは、前に来た金色の少年と同じ、異人の匂いがする。』

 

剣を構え、そしてレムに突き出し、答えた

 

『この者…光の精霊を、討伐するのに、力を貸してはくれぬか』

 

『………力は貸さん』

 

イズミは、身構えてレムの前へと対峙した

 

『こいつは、私が倒す。お前は勝手に戦って居れば良い。』

 

『……承知した。』

 

そして二人は、レムの前に

 

戦闘態勢を構え、立ち向かった。

 

『………愚かが』

 

レムの表情は

 

どこか、寂しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜世界樹の麓〜

 

『……やっぱり、ゲーデが先に来ていたか』

 

エドは、人一人は入れる世界樹の穴を見て、そう断言した。

 

『ゲーデって…やっぱり凄い強いんだね。』

 

『全部、借り物の力だけどね』

 

賢者の石として皮肉ったエドは、そう言って前へと進んだ。

 

『師匠!』

 

そこへ、聞き覚えのある声が響いた。

 

『……エステル。師匠は止めろと言っただろ』

 

『兄さん、そんな事言ってる場合じゃないよ。』

 

そう言って、エルリック兄弟は立ち止まる。

 

これから先、待ち受けているのは神の領域

 

この世界を牛耳る、悪魔のような者が居る

 

 

そいつを滅ぼす為に、エドとアルはここに居る。

 

『…私だけじゃありませんよ。』

 

そう言って、エステルは後ろを振り返る。

 

後ろには、かつての仲間

 

アドリビドムで仲間だった、彼らが居た。

 

エミル、

 

リタ

 

ハロルド

 

『やぁ、お久しぶりね。エドちゃん』

 

『………』

 

リッド

 

メルディ

 

ティトレイ

 

パスカ・カノンノ

 

カノンノ・イアハート

 

カノンノ・グラスバレー

 

『………お前ら』

 

全員は集まっていない。それは当たり前の事だ。

 

だが、エドは考えられずには居られない。

 

言わずには、居られなかった。

 

『……俺は、もうアドリビドムじゃないんだぞ。』

 

『ええ。エドワードさんはもう仲間じゃありません。』

 

次に、エステルが笑顔で

 

『私達の、大切な友達です。』

 

そう、答えた。

 

その言葉を聞いて、エドは呆れるように溜息を吐いた。

 

『仲間とどう違うってンだっての…』

 

だが、その溜息をついた声は

 

どこか、笑顔だった。

 

『だけど、お前ら分かってるのか?』

 

次に、エドは真剣な表情となった。

 

『これから行くところは、神の領域だ。一回、いや二回死んだくらいでは、済まされないんだぞ。』

 

『そんな事、百も承知だっての。』

 

リタが、悪態をつきながら笑顔で答えた。

 

『何回、私達が死にかけてると思ってるの?』

 

『少なくとも俺は、二桁行ってるな。』

 

『じゃぁ私は三ケタ。』

 

『じゃあ俺はお前の二倍』

 

『私は三倍』

 

『四倍』

 

『五倍』

 

『十倍!!』

 

『五十倍!!』

 

『ガルルルルル!!』

 

『ガルルルルル!!』

 

また、いつもの喧嘩が始まった。

 

と、アルは呆れながら左手で頭を押さえた。

 

『…………』

 

カノンノ・グラスバレーは、エドを見ては、

 

目を逸らしてを繰り返して、どこかぎこちない表情だった。

 

『…………』

 

もう二度と、出会う事の無いと思っていた。

 

そう考えて、ずっと悲しい思いをしたカノンノの前に

 

今、目の前のエドが居る。

 

嬉しい筈なのに。

 

笑顔ではしゃぎたい筈なのに。

 

この、今の残酷な現状と

 

最後の別れ方との狭間で、気まずくなっていた。

 

『………』

 

それはエドも同じことで、

 

何を言えば良いのか、分からず、お互い何も言葉は交わさないと思っていた。

 

が、

 

『!』

 

エドは、ズカズカとカノンノの方へと近づき

 

そして、頭を撫でた。

 

『悪かった。』

 

ただ、そう答えた後

 

『これからは、最後まで仲間だ』

 

そう、答えた。

 

その答えを聞いたカノンノは、さっきまで閉じ込めていた感情を開放し

 

笑顔になった。

 

『うん。最後まで、戦おう。』

 

『私も。』

 

『私もだよ。』

 

パスカとイアハートも、割って入るようにその場へと来た。

 

そうだ。もう怖くない。

 

これからは、仲間が居る。

 

仲間が、助ける。

 

俺達が、この世界を壊す。

 

そして、俺達の世界を作る。取り戻す

 

『行くぞ!!』

 

本当の最終決戦へと、エド達は歩んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜世界樹の核〜

 

 

ラザリスが見た光景は、あまりにも残酷なものだった。

 

血まみれになり、身体の所々が欠け、

 

それでも、身体は再生して

 

あまりにも苦戦している、ゲーデの姿があった。

 

それはもう戦いでは無く、拷問に近い

 

そう、ラザリスは感じた。

 

『カノンノ・スノウ。終わったら仕事に戻りなさい。』

 

『うん!お母さん!』

 

白いカノンノが言う、母と呼ばれる人物は

 

見た目は、白いカノンノよりも幼い

 

まだ、自分のこの容姿よりも小さい

 

こいつが

 

こいつが、世界を作って

 

こんなイカレた世界を作って

 

僕を、閉じ込めていたのか?

 

『あ…ああああああああああああ!!』

 

僕は

 

動けなかった。

 

肩と足に、壁から生えた枝が刺さり

 

枝が分かれ、抜けるにも抜けられない状態になっていた。

 

枝が、脈を打ち

 

脈を打ち続けるごとに、僕の中が吸われ

 

力が

 

亡くなる

 

無くなって行く

 

『畜生!』

 

ゲーデは錬成を起こし、白いカノンノを弾き飛ばそうとした。

 

だが、それも空しく外れて

 

白いカノンノは宙に舞った。

 

だが、ゲーデの攻撃はそれで終わりでは無かった。

 

『!』

 

僕を掴んで離さなかった枝は、ゲーデの作り出された物体によって断ち切られ

 

自由となった僕は、ようやく吸われる事から逃げられた。

 

『逃げろラザリス!』

 

『ふざけるな!ここまで来て、ノコノコ帰る筈無いだろう!!』

 

僕は、目の前に居るそいつが

 

許せなくて

 

殺したくて

 

溜まらないのだから。

 

『あああああああああああああ!!』

 

ゲーデが一回攻撃するたびに

 

ゲーデは三回攻撃を受けて

 

ゲーデが一回攻撃するたびに

 

ゲーデは五回攻撃を受けて

 

ゲーデが一回攻撃するたびに

 

ゲーデは十回攻撃を受けて

 

『これでもまだ、殺せると思っていますか?』

 

目の前のカノンノの親玉は、冷静な口調でそう答えた。

 

殺したい

 

殺してやりたい。

 

だが、近づく事はおろか

 

何かの力が働いて、動く事さえままならない。

 

情けない

 

自分が情けなくて、自殺したくなる。

 

そうか。そうだよな。

 

やっぱり僕は、人間らしいのかもしれない。

 

だけど

 

それが、もう嫌味として取れなくなっていた。

 

人間だから、いや

 

人間じゃないから、いや

 

『私は……私だから…』

 

人間以下でも、以上でも無い

 

私と言う存在は、そう言う者だ。

 

『……いや、俺はもう、諦めた。』

 

『そうですか。』

 

そう言って、カノンノの母はゲーデに指を指した。

 

『頂きます。しましょう。』

 

『うん!いただきまーす!』

 

白いカノンノも、合わせて

 

ゲーデの頭を掴んで、そう喋った。

 

だが、

 

『!』

 

ゲーデは、その隙に白いカノンノの腕を切り落とし

 

『ぎゃぁああああああああああああああああああ!!』

 

白いカノンノの叫びにまぎれて、その場から離れた。

 

『だけどなぁ、てめぇらにこの力を渡すくらいなら』

 

そう言って、ゲーデは自分の胸に傷をつけて、抉り取るように胸を裂き開いた。

 

血が、大量の血が流れる。

 

『てめぇらを殺そうとしている、今のこの世界の奴らに…全部!この力を返してやらぁああああ!!』

 

開いた胸の中には、巨大な賢者の石。

 

その賢者の石に向けて、ゲーデは錬金術を発動し

 

賢者の石を、分解した。

 

賢者の石に閉じ込められていた魂は、ゲーデの身体から

 

全て、解放された。

 

『………面倒な事を』

 

カノンノの母は

 

面倒事が増える。と、不愉快な溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ガルバンゾ国 城〜

 

 

アスベルが眠るこの部屋

 

その部屋に一人、ソフィが向かった。

 

私のやるべき事は一つ、アスベルを守る事だ。

 

いつか目覚めるであろう、彼の傍に居て

 

目覚めるまで、奴らから守って行く。

 

エドがきっと、アスベルの命を復活させてくれる

 

エドがきっと、いつもの日常を取り戻してくれる。

 

そう、願う事を信じて。

 

アスベルの部屋へと向かった。

 

この部屋に、アスベルの棺がある。

 

棺のカギは、つけていない。

 

ずっと、このままだ。

 

いつ目覚めても良いように、

 

『アスベル………』

 

ソフィは、アスベルの頬を撫で

 

いつか目覚める日の事を、夢見た。

 

アスベルが目覚めたら、何をしよう。

 

アスベルが作ってくれる、カニ玉をいっぱい御馳走しよう。

 

アスベルと一緒に、クロソフィの花を摘みに行こう。

 

アスベルと一緒に……

 

その時、ソフィの手は誰かに握られた。

 

『………!?』

 

その手は誰の手か。

 

警戒し、辺りを見渡した。

 

だが、当然ながらこの部屋には誰も居ない。

 

『………アスベル?』

 

その手は、その手の感触は

 

いつか、最後に握った手の感触と、同じだった。

 

アスベルの顔は、瞳は

 

いつか、目覚める事の無いと思われていた瞳は

 

真っ直ぐ、ソフィを見ていた。

 

アスベルは、微笑んで

 

ソフィの顔を、覗きこんだ。

 

『ただいま』

 

その一言で、ソフィの中身は満たされて

 

ソフィの表情は、変わらなくても

 

涙が、流れた。

 

一筋、静かに流れた。

 

ソフィの涙が落ちた時

 

ソフィも、笑顔になった。

 

『おかれり。アスベル』

 

久しぶりに出会えた大切な人を

 

ソフィは思い切り抱きしめた。

 

 

 

 

 

〜ウリズン帝国 王都〜

 

ヴェイグとカロルは、この地で二人、見回りをしていた。

 

死体が残された、この地で

 

何の意味を成すのか、分からぬまま

 

『…………』

 

そのまま、ヴェイグは一つの死体を見た。

 

クレア

 

彼女は、最後に何を思ったのだろうか。

 

俺に助けを求めたのだろうか。

 

ならば、謝罪しても、謝罪しきれない。

 

助けられなかった。

 

人任せになってしまうが、もし。彼女の魂が戻ったら

 

その時は

 

『…………ん…』

 

……

 

気のせいか

 

魂の無い筈の肉体が、急に動き出したような気がした。

 

『……………ヴェイ…』

 

いや気のせいでは無い。

 

ちゃんと

 

ちゃんと彼女は、生きている

 

今ここで、はっきりと生きている。

 

『クレア…クレア!』

 

居たたまれなくなり、俺は、クレアを抱きしめた。

 

そうか。取り戻したのか。

 

彼女の命を、この国の命を

 

全て、取り戻してくれたのか。

 

『すまない…すまない……』

 

『……私、どこか苦しい場所に居ました。』

 

クレアが、ヴェイグに言葉を伝える。

 

『ぐるぐる回って、ずっと苦しくて、気が狂いそうで、助けて、助けてって。ずっと叫んでました。』

 

『苦しみの渦のなかに、閉じ込められているようでした。』

 

『だけど、ヴェイグ…貴方は』

 

『やっぱり、助けに来てくれたのですね…』

 

クレアの言葉に、ヴェイグは答えた。

 

『助けたのは…俺じゃない。』

 

『へぇ、ヴェイグじゃないんだぁ。』

 

後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

振り返れば、そこには奴が居た。

 

『僕も、その中に居たんだけどなぁ。ずっと、苦しくて辛かったんだけど。』

 

『……お前の場合は、自業自得じゃないのか?』

 

『ははは!良く言う。』

 

そう言って、サレは剣を引き抜いた。

 

『君も抜きたまえよ。ヴェイグ』

 

『………』

 

ヴェイグは、言われたとおりに剣を引き抜いた。

 

二人の間には、緊張が芽生える。

 

そうしている間にも、ウリズンの国民は徐々に魂を取り戻し、起き上がって行く。

 

『ヴェイグ―!』

 

遠くから、声が聞こえた。

 

同じ同胞の、彼の言葉だ。

 

『ナンが!ナンが目覚めた!目覚めたよー!』

 

『サレェ!』

 

ヴェイグがそう叫んだ瞬間、

 

ヴェイグはサレに突進し、

 

サレはヴェイグに突進した。

 

そして二人は

 

対峙する事無く、傍に居た一般人を切りつけた。

 

『あ………』

 

その一般人は、斧を振りおろそうとしている瞬間だった。

 

呪文を、小さく呟いている瞬間だった。

 

そうだ、こいつらは

 

『ディセンダー!?』

 

カロルの言葉で、国民は再びどよめきを隠せなかった。

 

『こいつらを高貴なウリズン帝国から排除するよ。僕に協力したまえ、ヴェイグ』

 

『お前こそ、国民をウッカリ殺すな』

 

サレは微笑み、

 

ヴェイグは戦闘態勢を整え

 

『仕事を始めるぞ。サレ』

 

『ディセンダー狩りが始まるよ。ヴェイグ』

 

共に協力して

 

この国を守る事を誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜世界樹の核〜

 

エド達が見た、その光景は無惨なものだった。

 

ピクリとも動かない、血だらけのラザリス

 

胸が空っぽとなったゲーデ

 

そのつまんなそうにゲーデの顔を踏む白いカノンノ

 

その光景を見て

 

エドの頭の中は、真っ白になった

 

『………おい、何してんだよ』

 

『んー?』

 

白いカノンノは、こちらを見て

 

『あー。また誰か来たよ?お母さん』

 

お母さん

 

そんな言葉を、向けた人物

 

その人物を、エドは凝視した

 

『……今回も、やたら面倒な人が居るのですね。』

 

機械のように冷徹で

 

その姿は、幼女のようで

 

昔から、年を取って居ない

 

昔から、外に出て居ない

 

真っ白な肌をしていた。

 

『お前が………』

 

こいつが

 

何度も

 

何度も

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

 

人間を滅ぼしてきた

 

世界樹の主

 

全ての元凶

 

悪魔

 

『うるぁあああああああああああああああ!!』

 

エミルが、キレたように剣を抜き、奴に近づく

 

『あっ!!この馬鹿!!』

 

エドは、錬金術でエミルの足を物体で掴み

 

そして転ばせた。

 

『〜〜っ!何するんだよエド!』

 

『闇雲に突っ込んで、勝てる相手じゃねえぞ…』

 

リッドが、真剣な口調でそう答えた。

 

そうだ、これは

 

勝手に動いて、何も考えずに剣をふるうだけでは

 

絶対に勝てない。

 

それが、空気を通じて分かった。

 

『……貴方も、この人が使っていた術が使えるのですね』

 

世界樹の主が、ゲーデを木の根で持ち上げて、そう言った。

 

その木の根は、どこからか人間の顔に見え

 

心臓のように脈を打っていた。

 

『…………!!』

 

まるで、人形を見るようなその目つきは

 

不気味さと共に、恐怖と絶望を与えた。

 

『つまり、結構厄介な人なのですね。』

 

『……だったら、どうすんだ。殺すのか。』

 

『はい。』

 

そう、告げた瞬間

 

アルフォンスに、巨大な衝撃が食らわれた。

 

『アル!?』

 

『……この人は、中が空洞なのですね。とても面倒です。』

 

『てっ……めぇ!!』

 

エドは、錬金術を発動し

 

地形を、この樹で

 

トゲを生成し、迎え撃った。

 

『!』

 

だが、そのトゲは次第に勢いを消し

 

そのトゲ自体が、無くなった。

 

『私の身体で、何をしたのですか?』

 

そうだ

 

ここは、こいつの身体

 

つまりだ

 

ここでは

 

『……錬金術が…使えない…?』

 

よほどの勢い、神をも滅ぼす勢いの錬金術を使わなければ

 

奴にダメージは愚か、触れる事も出来ないだろう。

 

『その通り!とってもおっ終いだねー♪』

 

その間にも白いカノンノの攻撃は来て

 

エドを殺そうと、駆け寄って来る。

 

だが

 

『!』

 

バキュンと、乾いた音がした。

 

『だったら、私達が補ってやるだけよ』

 

発砲したのは、イリア

 

もう一つの発砲は、白いカノンノの膝に当たっていた。

 

『私達人間を、甘く見ないでください。』

 

そう言って、ホークアイとイリアは、更に発砲を続けた。

 

だが、

 

『………さすがに、一筋縄では行かないようね。』

 

全ての弾丸は、避けられるか、防がれていた。

 

よほどの工夫をしなければ、どうにもならない。

 

『……人間は、よく考えるのが好きなのですね。』

 

元凶となる世界樹の主は、

 

他人事のように、そう語った。

 

『ああ……そうか…よ!!』

 

エドは、再び錬金術を唱えた。

 

物質は、木の根と人間の魂の混合物であり、扱いが難しかったが

 

思い通りに錬成できない事では無かった。

 

『ひゅっ!』

 

白いカノンノは避け、逃げ、避けた。

 

『ちょこまか逃げんじゃねぇ!!』

 

エミルも加勢し

 

『エミル!お前は右へ!メルディは左に行ってくれ!』

 

『バイバ!』

 

リッドとメルディも加勢し

 

『いつまでも殺されているとは思わないでよね。神様!!』

 

リタも加勢し

 

『おうよ!人間は、もうアンタ達神が居なくても、生き残ってみせらぁ!!』

 

ティトレイも

 

『師匠!ゲーデさんも、ラザリスさんも、息があります!』

 

エステルも

 

『ああ……そうか。それを聞いて安心した!行くぞ!』

 

俺達は、最終決戦へと足を踏み入れた。

 

さぁ行こう。

 

世界を殺しに、

 

生き残る為に。

 

『らぁあああああああああああああ!!』

 

エミルが白いカノンノを右から刺し

 

『ネガティブゲイト!』

 

メルディが、魔術で左から白いカノンノを捕え

 

『裂空斬!!』

 

リッドが、上から剣を叩きつける。

 

『ゴッドブレス!!』

 

そしてリタが、魔術で更に攻撃を上乗せし

 

『疾風!!』

 

ティトレイの弓が、白いカノンノの頭に刺さった。

 

『が……』

 

そして、エドは動きだす

 

『っし!覚悟しやが…』

 

瞬間

 

 

 

 

 

 

エドの視界は真っ赤になった。

 

目の前に、エドの頭に

 

刃物が、貫通したのだ。

 

『がっ………』

 

その様子を見た者は、この瞬間、少なかった。

 

カノンノ・グラスバレーと

 

アルフォンス・エルリック

 

この状況を理解するのに、かなりの時間を要した。

 

頭部が串刺しとなったエドは、何も考えられず

 

感情が、混ざり

 

嬉しくなったり、悲しくなったり、死にたくなったり、苦しくなったり

 

混ざり

 

そして、次第に

 

意識が、無くなった。

 

刃物が引き抜かれた時、エドは

 

地に吸い込まれるように、落ちた。

 

『兄……さん……?』

 

アルは、まだ現状が理解できていなかった。

 

兄が死んだ。

 

そんな事、認めたくも無かった。

 

そんな

 

こんな

 

 

こんな現状など

 

アルの思考の中では、考えられない事だった。

 

いや

 

考える事を、拒否していた。

 

エドを刺したのは

 

エド

 

もう一人の、エド

 

エド

 

エド

 

闇の精霊が、語った

 

エドガー・エルリック

 

『嘘……?』

 

カノンノは、エドの遺体に近づいた。

 

近づいた。

 

遺体から、血が流れる。

 

凄く、凄く流れる。

 

瞳孔が開いている。

 

死んでいる。

 

死んでいた。

 

死んだ。

 

エドガー・エルリックは無表情だった。

 

 

 

 

 

 

『まずは一人』

説明
後少しで最終回です。残りの辛抱、お付き合い頂けると嬉しいです。
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