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秘密の暴き方
そう遠くはない昔の話であるが、山奥のある小さな集落に心の読める老人が住んでいた。
相手の考えていること全てが分かるというが、老人は自分でそう吹聴していた割にその能力を公に見せることはしなかったために、当然ながら集落の人々からは相手にされていなかった。それを知ってか知らずか飄々と暮らす老人。
ある夏の日のことである。集落に最近嫁いできたという、若く美しい女性が建物の影に入って眠っている老人の前を通り過ぎた。すると突然老人は目を見開き「うぬよ、秘密を抱えておるな。」と言った。女性はハッと振り返ったが、老人の評判は知っていたので、無視しようとした。しかしながら、余りにも全て見透かすような厳格な視線をこちらに向けてきたために、不安と恐怖を抱き、逃げるようにその場を後にした 。その後も数日間、老人はその女性に会うたびに厳格な視線を送りつづけ、女性の恐怖は肥大した。そして翌日、女性はまた老人に出くわした。すると老人はおもむろに女性に近づき小声で言った。「うぬよ、整形手術しておるのではないか」女性は天を仰いだ。「あなた、ここの人からは馬鹿にされてるみたいだけど本当に心が読めてしまうのね。そうなの、私整形しているわ。顔、乳房、念入りにね。でも誰にも言わないで。そんなこと知れたらここで生きていけない。なんでもするから。」すると老人はそれまでの険しい表情が一転、皺だらけの笑顔を見せた。「いや、誰にも言うまい。じゃからうぬも、儂が本当に心が読めると言うことは、誰にも言うでないぞ。」「え?それだけで良いの?」女性は拍子抜けしたようだが、老人に感謝の意を抱くとともに、老人が本当の能力者であると信じるようになった。
しかし、実のところ、老人は、まだ夏の盛りにも関わらず急に厚着と厚化粧を始めた女性の様子を見て、推測しただけなのである。その様子が変わったのは、言うまでもなく、秘密を抱えていると言われた後である。老人曰く、「秘密を暴きたいなら、裏でこっそりかぎまわるより、正面から疑いの目を向けてやることだ。そうすれば人は不安になり、秘密を不自然に隠したがる。秘密を自ら見せびらかしたようなものだ」と語った。実は老人はこの手法で集落のほぼ全員の秘密を握り、同時に能力者だと信じさせた。老人は相手にされていなかったのではなく、尊敬と畏怖から相手にできなかったのである。
老人は程なく死亡したが、遂に自分の秘密は暴かれることはなかったのである。
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超短編です読んで頂けたら何かかんそうをいただきたいです | ||
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