ぬらりひょんの孫になっちまった!? 第六幕 父の背中
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木造で造られた広い道場。その中心で、カッ、コッ、ゴンッと木と木がぶつかる小気味良い音が響く。

 

「リクオ、少し休憩するか?」

 

父さんが俺を心配して、休むことを促してくる。

 

「ハァハァ……い、いや、まだまだ、大丈夫だよ」

 

俺は今、奴良家本家にある地下隠し道場で父さんと修業中だ。修業というよりは俺が無理矢理にお願いした感じだが。

 

それにしても、家の地下に道場があるとは……。六歳になって初めて知った。

 

「……そうか。よし、先ずは俺に一太刀浴びせてみろ」

 

「俺から頼んだ修業とはいえ、無茶を言うよ。さっきからかすってもくれないし……」

 

俺がそう言うと、父さんはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「何言ってんだ。言葉と表情が一致してないぜ?それに構えを全然崩してないじゃないか」

 

どうやら俺は楽しんでいるらしい。俺もニヤリと笑う。そうだ、さっきの発言は弱音を吐いた訳じゃない。無茶な事だから無茶と言っただけ。出来ないとは言ってない。

 

「ふっ!」

 

短い気合いとともに、木刀を上段から振り下ろす。そして、父さんは鏡花水月でそれをかわす。

 

「隙だらけだぞ、リクオ」

 

背後から父さんの声。振った直後の俺に父さんの木刀が空気を切り、向かってくる。

 

「わかってるよっと!」

 

無理に体を捻り、木刀をかわす。横腹をかするそれを無視して、父さんに木刀で突きを繰り出す。

 

「おっ!?」

 

父さんほどの妖なら、一撃目がかわされるのは当たり前。ならば、二撃目で如何に意表を突けるかが大事になってくる。

 

そこで俺は一撃目でわざと隙をつくり、そこを狙わせ、油断したところに二撃目……

 

「確かに今のは良かったがその後の事も考えて攻撃しろ」

 

という考えだったんだが……どうやら甘かったらしい。軽く避けられてしまい、間髪入れずに父さんの木刀が頭上に降ってくる。

 

これは避けられないし、木刀を戻して受けるのも間に合わない……

 

ピタッと、俺の額寸前で木刀が止まる。

 

「んじゃ、ここまでだな」

 

「はぁ〜、やっぱり全然駄目か」

 

「いや、牛鬼の所で鍛えただけある。俺は剣術に関しては実戦で覚えたが、基礎がしっかりと身に付いてるリクオの方が上達は早いだろうよ」

 

「そう言われても……」

 

父さんに軽くあしらわれてるし……自分がどのくらいの強さなのかわからない。

 

「まぁ、驕りは良くないが、だからと言って自分を卑下するのも良くねぇぞ」

 

「……わかった」

 

まだ、納得した訳ではないが頷いておく。

 

「よし、取り敢えずもう一本だ。打ってこい」

 

「うん」

 

俺はまた木刀を手にとり、父さんに向かっていった。

 

ーーーーーーー

 

「つ、疲れた……」

 

「昼から夕方まで、二代目とずっと道場に居たんですから当たり前です」

 

結局、あの後、父さんに一太刀を入れることが出来ないまま終わってしまった……

 

あまりに疲れたので、自分の部屋でゴロゴロして休憩中。氷麗は俺の洗濯物を畳んでくれている。

 

……それはともかく、なんか氷麗の機嫌が悪い。ムスッとしながら黙々と仕事をこなす氷麗……何かしただろうか?

 

「……氷麗、なんかあった?」

 

「別に……なんでもありませんよ。若が修業三昧の生活を止めたと思ったら、結局、修業してる事なんてちっとも気にしてません」

 

「……思いっきり、口に出してるじゃん………」

 

成る程、子供はそんなに修業しなくてもいいと言いたいのか。あるいは……ヤキモチ?構って欲しいみたいな?

 

……いやいや、原作では氷麗はリクオ(俺じゃないよ)に恋心を抱いていた感じはあったが、俺みたいなの奴にそんなこと思う訳ねぇな。そもそも、年齢が違うだろ、年齢が。

 

……でも、母さんと父さんもとんでもない年の差だからいいのか?

 

……って、何考えてんだ、俺は!?氷麗はそういう対象じゃないだろう……そもそも、氷麗が俺みたいな奴の事を好きになる訳がないし……

 

いかん、原作とは全く違うんだからそんなことあるわけないのにな……なんか、虚しくなってきた。

 

「……どうなさったんですか?難しい顔して……」

 

そんな顔してたかな?氷麗は自分の機嫌が悪いのを忘れて俺の心配をしてくる。

 

「いや、なんでもない。それより、修業の話だけど、あんまり根を詰めてもいけないからそんなにしないよ」

 

「そうですよ。若はまだ六歳なんですから、無理しなくていいんです」

 

あ、また、機嫌悪いモードになっちゃった。やっぱり、子供なのに修業しすぎなことを心配してるんだな。

 

しょうがない、子供らしくするとしますか

 

「あ〜、久し振りにかくれんぼがしたくなっちゃったなぁ〜」

 

ピクンっと氷麗の耳が動く。

 

「じゃ、じゃあ、今から庭で遊びましょう!まだ夕日が出てますから遊べますよ!」

 

満面の笑みで言ってくる氷麗。な、なんか、一気に機嫌が良くなったな……。

 

「あ、あぁ、じゃあ、他の妖怪達も誘って遊ぼうか」

 

俺がそう言った瞬間、氷麗の顔が曇った。

 

「え、いや、別に二人だけでも……」

 

「みんなで遊んだ方が楽しいよ。ほら、行こう」

 

氷麗が何か言いたそうにしてるが……どうしたのかねぇ?

 

ーーーーーーー

 

これはリクオが本家に帰ってくる少し前。地獄でのとある会話であるーーー

 

 

 

暗く、何処までも腐臭が漂うそこでは、生前に大罪を犯した死者が怨嗟の声を上げる。

 

たとえ、底の見えない地の池で溺れもがこうが、針の山で体中を串刺しにされようが、地獄の業火に骨の髄まで溶かされようが、どれほど苦しんでも彼等は死の安らぎを得ることはない。

 

何故ならば、彼等はもう一度死んでいるのだから………

 

この正気を保っている事を許さない圧倒的な闇の中、それをものともせず正気を保っている二つの影。

 

片や、復讐の炎を身に宿す者。

 

《山ン本吾郎左右衛門》

 

 

片や、復活し現世を闇で覆わんとする者。

 

《安倍晴明》

 

 

 

二つの影の一方……山ン本吾郎左右衛門は腹を抑え、苦しみの呻きをあげている。

 

「ハァハァ………おのれ……またも奴良組……こんだぁワシのわき腹を潰しおった……」

 

身体の大半が欠けたような醜い見た目。どこから発しているのかわからない、その歪んだ声音から、長年の積もりに積もった怨みが伺い知れる。

 

「幕末、明治、戦中、戦後……それは世が闇につつまれし時。“羽衣狐”が出るべき時は何度もあった。しかし、そのたびに彼奴につぶされた。奴良鯉伴を殺さねば、私は……復活できぬ」

 

地獄にあって尚、その覇気を失わず大いなる野望を持つ男……安倍晴明は忌々しいとばかりに呟く。

 

「思いは同じ。私もどうしてもあの者に復讐せねばならない。江戸の街をずっと昔から支配してきたのは私たち百物語組なのだ……」

 

山ン本吾郎左右衛門もまた吐き捨てるかのように言う。

 

そこで、安倍晴明に疑問が生じる。ならば、奴良鯉伴をどのように始末すればよいのか、と。

 

相手は現世に居るため、直接手を下す事は到底、不可能。かといって、下手な者を送ったところで返り討ちにされるだけだ。

 

「しかし、一体どうやって」

 

そこまで考えたところで疑問を口に出す。すると、妙案があるとばかりに山ン本吾郎左右衛門は言う。

 

「そこです……どんな大物でも必ず油断する時はあるはず。そう、男ならば……娘などには弱いはず」

 

しかし、安倍晴明には更に疑問が湧いてくる。

 

「娘?彼奴には娘などおらん」

 

「鯉伴はかつて、一人の妖と恋におち……結婚しておりました」

 

ここで漸く、合点がいった。山ン本吾郎左右衛門はその妖との間に子がいたという、幻術を鯉伴にかけようとしているのだ。

 

「でっちあげるわけか。しかし、おぬしの幻術といえどもうまくいくかどうか……」

 

「そこで晴明どの……あなたの反魂の術が必要となるのです」

 

本来なら……正史ならばこれで、この謀議は終わっていた。この後、特に問題なく鯉伴を殺害する事に成功する。

 

しかし、この世界では一つ異なる点がある。そして、それを見逃す程、安倍晴明は愚かではない。

 

「……成る程、おぬしがしようとしている事は理解した。しかし、まだ問題がある」

 

今度は山ン本吾郎左右衛門が疑問を抱く。

 

「はて、特に問題などないとおもいますが……」

 

「おぬしの脳……三ツ目八面と言ったか。奴良組に属しているのだったな」

 

「はい、他の山ン本とは違い脳というのは私同然、地獄から現世に干渉出来る唯一の体であります故、奴良組の情報を集めることができるのです」

 

「その情報……その中で言っておったろう。彼奴には息子がおり、外に出る際は常に護衛をつけさせるか、あるいは自らがつきまとっておる、とな」

 

山ン本吾郎左右衛門は怪訝そうな顔をした。実際は表情など判別不可能な形相だが、本人はそのような表情をしているという意識だ。

「護衛といえども所詮は雑魚……それに鯉伴の子……リクオは齢六つを数えたばかり。恐るべきものではないかと存じますが?」

 

「わかっておる。しかし、念には念をというだろう?おぬしが動かせる駒を使い、鯉伴を出入りに向かわせろ。そこで母を“羽衣狐”を転生させる」

 

「……出入りには子や護衛はかえってじゃまになる。つまり、鯉伴を一人で誘いやすいということですな」

 

「そういうことだ。では、用意を始めよう」

二つの影の目的は一致した。油断などかけらもせず、用意も完璧。運命の刻は刻一刻と近づいてくるーーー

 

ーーーーーーー

 

ところも時間も変わって、奴良屋敷のある部屋で奴良組の初代と二代目もまた密談をしていた。

 

「で、打ち合ってみてリクオの調子はどうなんじゃ、鯉伴」

 

「あぁ、刀を扱うのは問題ないだろうな。寧ろ、あの年であそこまでできる奴はいねぇよ。だが……」

 

鯉伴はそこで言いよどむ。そこから先を察したぬらりひょんは言葉を引き継ぐ。

 

「畏れが少ないって言いたいんじゃろう?」

「……そうだ。牛鬼からも聞いたが、強さはそこらの妖怪には負けねぇだけある。だが、それは人間の戦い方なんだ」

 

「剣術というのは技術……それは人間、或いはある程度の妖怪までは通用するが、それ以上は無理じゃのう」

 

「牛鬼は『きっと、リクオ様ならば将来大きな畏れを持てます故、あまり心配なさるな』とか言ってたんだけどよぉ」

 

「「心配だなぁ(じゃなぁ)」」

 

ハァ、と一つ溜め息を零す。詰まるところ、リクオを心配しているのである。

 

だが、この場合の心配は将来のことではなく……

 

「あいつ、落ち込むんじゃねぇかな……」

 

「そうじゃのう……言うべきか否か……」

 

落ち込むこと、であった。

 

「ワシの孫じゃし、才能がないわけではないと思うが……」

 

「自意識過剰だぞ、親父。しかし、俺の息子なのになぁ」

 

「おめぇの方が自意識過剰じゃろうが」

 

「なんだと、糞親父!」

 

「やるか、馬鹿息子!」

 

どっちもどっちということには気づかぬまま、あわや、取っ組み合いの喧嘩になろうというとき、突然、障子が開き焦った様子の首無が入ってきた。

 

「大変です!新手の妖怪がうちのシマで好き勝手に暴れています!」

 

「「なんだと(じゃと)!?」」

 

ーーーーーーー

 

「若〜、どこですか〜、私から言い出しといてなんですけど、もう無理です〜。降参しますから出てきてくださいよ〜」

 

俺は今、氷麗や青、それに他の小妖怪たちとかくれんぼ中だ。……なんか、デジャヴを感じるな。

 

「俺以外はみんな見つかったか……結局、俺の勝ちだな。そろそろ出ていこう」

 

もう、日が暮れたしな。畏れを解いてっと……茂みから出ていく。

 

「あー!そんな所に居たんですか!?」

 

氷麗が驚いたように言う。

 

「氷麗……見つけられないような場所じゃないぞ?ダメだなぁ」

 

「うっ、だ、だって、仕方ないじゃないですか!リクオ様を見つけられた試しがないですし……どーせ、私なんかオッチョコチョイですし……」

 

まずった、氷麗がいじけだした。青田坊、氷麗の後ろで見てないで助けてくれ!なに、ニヤニヤしてんだ!

 

そんな俺の思いが通じたのか、青は氷麗の肩にポンと手を置いた。

 

「しょうがねぇさ、若はかくれんぼの天才なんだからよ」

 

……なんだ、かくれんぼの天才って……?

 

「そうね……しょうがないわよね」

 

あっ、それでいいんだ。立ち直っちゃうんだ。

 

「おぉ、それいいじゃねぇか!青田坊、オイラ、若はかくれんぼ大将だってみんなに言ってくるぜ!」

 

納豆小僧!何言ってんだ!?俺はそんな変なあだな定着させたくないぞ! 

 

俺は走っていこうとする納豆小僧の頭(藁)をむんずと掴む。そして、俺の顔に近づけ言う。

 

「納豆小僧……お前、かくれんぼ大将とかいうあだな……綺麗さっぱりと忘れるんだ」

 

「えっ、いや、別にいいじゃな「わ・す・れ・る・な?」……はい……」

 

藁がギシギシ鳴ってるが、気にせずに笑顔で納豆小僧と目を合わす。どうやらわかってくれたみたいだ。

 

「わ、若が不良に!」

 

「なんてこっちゃ!」

 

……なんか小妖怪が騒いでるが、ヤクザの一家なんだから不良もなにもないだろうに。

 

「おう、リクオ。楽しそうだな」

 

「あっ、父さん」

 

いつの間にか、父さんが後ろに立っていた。振り向くと、畏の代紋が背中に入った羽織りを着ている父さんがいた。

 

なんだ?出入りだろうか?

 

「……父さん、どうしたの?」

 

「ちっとな、新手の妖怪がシマで悪さしてるらしいんだわ。さっさと懲らしめてくらぁ」

やっぱり、出入りか……羽衣狐が心配だが、これはついていった方が邪魔になるか……

 

それに父さんなら、そうやられるようなこともないだろう。

 

「鯉伴さん……気をつけていってらっしゃい」

 

「なるべく早く帰ってきてよ、父さん」

 

隣りに、いつのまにか母さんが立っていた。心配なのか声が暗いな、俺も心配はしてるが……

 

「あぁ、行ってくる。リクオはそこで見てな。ほら、てめぇら行くぜ。出入りだ」

 

そう言うと父さんは黒や青、首無や毛娼妓、本家の妖怪などといった見知った妖怪に声をかけ、颯爽と歩き出す。

 

俺はそれにみとれていた、魅せられていた。

まだ、闘う前だというのに道場で打ち合っていた時とは比べものにならない大きさの鋭い畏ーーー

 

「リクオ……危ないから下がりなさい……」

 

ハッと、母さんの声で我に返る。……父さんはこんな風に畏れられていたのか。

 

すげぇな……

 

俺はただただ、父さんの大きい背中を見ていることしかできなかった。

説明
こんにちは、白鶴です。えー、長らくお待たせしてしまって誠に申し訳ありません!(待っているほどこの小説を楽しみにしている方がいらっしゃるかわかりませんが……)

もう、言い訳しません。ごめんなさい(土下座)。あまりに久しぶりの投稿なんで、お詫びとばかりに文章を精一杯書きました。

読んで頂けると嬉しいです、それではどうぞ!
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ぬらりひょんの孫 転生 憑依 

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