魔法少女リリカルスバル〜Guardians〜 第二話『焔の中で』
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 時を同じくして、ギンガと同じように走る少女が居た。

さきほどのスバルだ。

 

「じゃあ、爆発が起こったのは医療施設ってことなんだね、マッハキャリバー?」

《情報をまとめてみても、そう見るのが妥当だと思われます》

 

 スバルは自分の手の中にある水晶に話しかけている。

この世界の魔導師達はデバイスと呼ばれる道具を用いて魔法を使用する。

魔法プログラムを保存しておく、いわばハードディスクのような機能を持つのが特徴だ。

一般的には「杖」もしくは「魔法杖」と呼ばれるが、形状は杖に限らない。特に待機状態のときは、携帯し易いようにカードやアクセサリの形状を取ることが多いようだ。

特にスバルとギンガの二人の使用するデバイス「マッハキャリバー」と「ブリッツキャリバー」は「杖」とは程遠いデザイン、ローラースケート型なのだ。

また、デバイスの中には疑似人格を備え、自立行動し思考能力することができるのもある。

二人の使用するデバイスは、これに属する。

 

「でも、なんで爆発したんだろう……医療施設って、爆発するようなものあったかな?」

《空調機器などの施設環境に関する機械が不具合を出したのかもしれません。もしくは地下資源などの爆発……あるいは》

「ロスト、ロギア……かもしれないね」

《その通りです》

「医療施設にロストロギアがあるとは思えないけど……」

 

 考えても考えてもわからないことだ。

だが、今はスバルのすべきことを優先すべきだ。

 

「まあ難しいことはあとで考えよう、今はとにかく人命最優先!!」

《行きましょう、相棒》

「うん、マッハキャリバー!! セットアップ!!」

 

 走りながらも、バリアジャケットの展開を詠唱する。

ギンガと同じように衣服が消え、魔力の光が身体をつつむ。

ギンガと違うのは、スバルの胸囲部分を黒いスーツ、腰は水色のカーゴパンツが構築される。

さらに純白の上着が追加され、それと同じ色の鉢巻が額に巻かれる。

そして、ギンガの物よりも明るい色のローラースケート、マッハキャリバーが展開される。

最後にギンガのものと同じリボルバーナックルが右腕に装備される。

 

勢いそのままに、スバルは駆け出した。

 

 

 

 

現場に到着したギンガはすぐに野次馬やパニックになっている人々の誘導を開始した。

ある程度の二次災害を防いだところで怪我人の搜索に移る。

幸いにも108の同僚の三人が到着したので、交代で怪我人を探し、救急隊員へと引き継がせていく。

 

ギンガはまだ怪我人が残っている可能性の高い、医療施設最深部への突入を試みる。

すでに何人かの局員が入っているため、残っている人は少ないかもしれないが、それでも気になった。

ブリッツキャリバーの車輪が高速回転し、足元に青紫の魔方陣が形成される。

そして、青い光の道がギンガの足元から建物へと伸びていく。

ウイングロード――ギンガとスバルの固有魔法だ。

「翼の道」という名が示すように、使用者が大空を駆けるための道をその場に形成する魔法である。

ウイングロードによって形成された道を、ギンガはブリッツキャリバーを駆使して、建物の窓から突入する。

内部はひどい汚臭と煙で占めていた。

あらかた救助はしたので人影はないが、気は抜けない。

 

「誰かー! 誰かいませんか!! 救助に来ました、返事ができましたらしてください!! もし返事が厳しいのでしたら音を立てるだけでもかまいません!」

 

 声をあげるが誰も返事がない。

手当り次第に部屋を次々と覗いでいく。

無論見落としが内容にしっかりと、なおかつ確実に。

 

どんどん奥へと進んでいく。

なかなか人が見つからないことに、安心と焦りが混ざった複雑な気持ちになっていく……

 

 

そのときだった

 

 

 

――― たすけて ―――

 

 

「え?」

 

 頭の中に声が響いた。

一瞬誰かからの念話(魔法による頭の中で行う通信手段)がかかったのかと思ったが、そうではなかった。

念話とはまた違ったものだった。

不思議な声、うまく言えないが、「脳」というより「心」に伝わった声であった。

ギンガは立ち止まり、周囲を見回す。

周りには人影が全くない。

部屋も見れるだけ見て回った。

 

 一瞬だけの声だったので、ギンガは気のせいかと思ったが……

 

 

――― たすけて ―――

 

 

またあの声だ。

今度はハッキリと聞こえた。

それも頭の中、心に向かって……

 

 

――― くるしいよ ―――

 

 

 さきほどとはまた違った言葉が投げられてくる。

自然とギンガは、声の来る方へと進んでいった。

確証はない。

ただ、こっちから声が聞こえるような気がしたのだ。

 

 

――― たすけて、たすけてよ ―――

 

 

「待ってて、すぐ行くからね」

 

 むこうが聞いているかわからなかったが、ギンガは自然と返事していた。

自分でもわからなかった。

ただ、この"声"の持ち主を何としても助けたいと思っていた。

 

 ギンガの返事の声を聞いたからのか、あの声は聞こえなくなった。

ふと、ギンガはあるものを見つけた。

 

「……通路? なんでさっき気付かなかったのだろう……」

 

 薄暗い通路を発見した。

煙が奥から続き、近くの壁の非常等がチカチカと点滅している。

ギンガは慎重に、ゆっくりと通路を進んでいく。

 

 

 そして見つけた。

 

 

「あっ……!」

 

 

 ギンガは確信した。

さっきの声の持ち主はこの人なんだと。

通路の壁に身体をあずけ、苦しそうに歩いている少年をギンガは見つけた。

年は18歳といったところ、赤紫色のボサボサの髪が特徴だ。

緑色のボロボロの診察服を身にまとっていることから、ここの医療施設の患者なのかもしれない。

お世辞にも、あまり衛生的ではない状態だった。

一歩、一歩と、ゆっくりと、苦痛に満ちた顔を浮かべながらも少年は歩いている……。

 

「だ、大丈夫ですか!? どこか怪我でも」

 

 ギンガが駆け寄り、言葉を向ける。

だが、その反応はギンガの予想外のものであった。

 

「っ!!!  ――あ、あぁ……あぁあ、えぁ、……ああああぁ!!!」

 

 少年は、ギンガの存在に気づくと、さきほどの苦痛の表情が消えた。

代わりに、恐怖の顔に変わっていた。

まるでギンガに怯えているかのように……

 

 

「ど、どうしたの?」

「あああぁ!!! 嫌だ、嫌だ嫌だ!!!! あぁあ、あああァあ!!!」

 

 そのままズルズルと後ずさりしかけるが、もともと足がおぼつかなかったので、壁にすがってそのまま倒れてしまう。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 怯えられていたとはいえ、さすがにギンガは駆け寄った。

倒れてしまった少年を腕に抱え、顔をのぞき込む。

どうやら気絶してしまったようだ……

 

「……一体、何が……」

 

 通路の奥へと目をやる。

この奥で、何かがあったのかもしれない。

その原因をすぐにでも探りたいが、今はそういう訳にはいかない。

 

「と、とにかく安全の確保を」

 

 そのまま少年を背中に背負い、ブリッツキャリバーを全開、一気に駆け出した。

 

 

 

 

 一方のスバルもまた、多くの怪我人を救助していた。

行っては戻り、戻ってはまた行きを繰り返していた。

既に何人かの救助に成功し、医療班へと引き継いでいる。

 

「まだ、残っている人いるかな?」

 

 炎を上げている医療施設を見上げる……

と、炎の中から飛び出す人影が見えた。

よく見ると、それはスバルのよく知った人物であった。

スバルはその人物に駆け寄りながら声をかける。

 

 

「ギン姉!!」

「スバルっ!?」

 

 炎の中からウイングロードが伸びて、ちょうどスバルの前へとギンガを導く。

 

「ギン姉も救助に来てたんだね!」

「たまたま近い所に来てたから、お父さんが臨時の指揮をとってね」

「ふぅーん……ってその人は?」

 

 ギンガの背中でぐったりしている少年を指さすスバル。

年齢的にはスバルより少し上なようだ。

ギンガは、あぁ、と

 

「施設の奥で救助したんだけど、気絶しちゃって……あ、ごめんスバル、悪いけどこの子お願いしてもいい?」

「え?ギン姉は?」

「……原因とか気になるし、それに、この子のことで気になることがあったから、もう一回行ってくる」

「えっ!? だ、ダメだよギン姉!!もう限界時間来てるんだよ! 私もさっきからなんども往復したし、奥まで入って人を助けたから大丈夫だよ!」

 

 奥……けど、あの先には何かがあったはず……

ギンガはまだ納得できなかった。

スバルの言う事はもっともだ。

今ここで単独で突入しては、何がおこるかはわからない。

さきほどのようにうまくいくとは限らないし、何より奥に進めば進むほど脱出の成功率が低下するだろう。

そして、この施設は今にも崩れそうだ。

 

 一瞬ギンガはためらったが、それでもやはり真相をつきとめたかった。

スバルの心配はありがたかったが、行くことにした。

 

「ごめんスバル。行ってみるね」

「ギン姉!!」

 

 ウイングロードを再び展開しようとしたとき……

 

 

「あぶないっ!!」

 

 スバルがギンガにとびついた。

一瞬ギンガはスバルの行動の意味がわからなかった。

が、すぐにわかった。

建物が再び爆発したのだ。

スバルはギンガを抱えウイングロードを操作し回避する。

さっきまで二人がいたところに爆風が押し寄せ、さらに瓦礫が崩れてきていた。

いくら体が"普通ではない"ギンガやスバルでも、今の爆発では危なかったであろう……

スバルはそのまま慣性を利用し、施設から離れる。

 

 

「……」

「……」

 

 燃え盛りながらも、崩れていく医療施設を、息を飲んで見つめるギンガとスバル……

あまりにもあっけなく、鮮やかな炎の色と共に崩れていく建物は、どこか非現実的な芸術のようにも感じられた……

 

「崩壊が終わったら、鑑識の人たちが調べてくれるよ……」

「そう、ね……」

 

 

 

 

 

 結局、この医療施設の爆発の原因はわからないままだった。

 

 そして、今スバルの腕の中で気を失っている少年のことも……

 

 少年は、一体何に怯えたのだろうか……

説明
燃え盛る施設内、ギンガは一人の少年と出会った
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タグ
魔法少女リリカルなのは オリキャラ ギンガ スバル 

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