IS~音撃の織斑 四十八の巻:弔いと宴 |
その夜、石動鬼の弔いが済むと同時に、戦闘に参加していた全員が吉野に呼び出された。
「え・・・・?!吉野本部長って・・・・楯無のお母さんだったのかよ?!」
「そうよ。あら、そう言えば言わなかったわね。更識家前当主、そして吉野本部長の更識((雅美|みやび))よ。よろしくね。集まってもらったのは、オロチ封印の後の事。オロチは倒せたけど、封印の為に、またあの場所で石盤を叩いてあの地を清めなければならないわ。後、コダマの森の事もあるし。」
「コダマの森は、オロチを倒したからもう問題は無いんじゃ?」
「それがそうでもないみたいよ。杞憂だとは思いたいけど、偵察に向かわせたリョクオオザルとアカネタカ達が戻って来てないから、恐らく全て破壊されたと思うわ。一枚だけ戻って来ても、映像と音声にノイズが混じって殆ど何もないけど。まあ、見て頂戴。」
降りて来たスクリーンに映し出されたのは霧のかかった薄暗い不気味な森の中だった。その中で一瞬だけ何かが動いたのを見たが、それ以外は雑音が混じって大した物は聞こえない。
「でも、確かにこの中で何かが動いたのは見えたのよ。だからコダマの森が出て来ていると言う事は恐らく間違い無いわ。仮にそうじゃないとしても、魔化魍である事に変わりはないわ。」
「コダマの森の方は俺とイブキ、後イバラキで片付けます。」
ヒビキが進み出てそう申し出る。
「そうね、ここは経験者に任せた方が良いかもしれないけど、鬼の中でアームドセイバーを使いこなせる二人を森の方に回すと言うのはどうかと思うわ。正直に言うと、貴方達二人で封印に向かって欲しいわ。オロチがこれほど速く復活するとは思わなかったし、念には念を入れておきたいの。」
「だが、六人でコダマを倒せるのか?森の中にある本体は一本の木で、簡単に見分けがつくとは思えないのだが。それに、その森は広大だ。森の中を探索するだけでも時間をかけてしまう。」
トウキが口を添える。そう、コダマの森は元々一本の木から出来ているのだ。その一本の木を探し出して攻撃、破壊しなければコダマの森は無くならない。更に森自体が生きている為、妨害等が入る事も必然だ。お世辞にも簡単に探せるとも言える筈が無い。
「そうなのよね・・・・そこが困りどころなのよ。ディスクアニマルを投入しても破壊されるのがオチだし。」
「俺に良い考えがあります。」
一夏がハッキリとそれを口に出した。その目は確信の二文字が宿っている。
「かなり大掛かりな術ですけど、成功すればほぼ確実にコダマの森を消せます。」
「城郭大炎上ね?」
「はい。音撃戦士が七、八人いれば簡単に発動出来ます。コダマの森が出現したのはつい最近ですから、まだそこまで広がってはいない筈です。そこを炎で一気に叩いて、本体を見つけ出せる。そこに清めの音を流し込めば・・・・」
「確かに、そうね。分かったわ。貴方の賭け、乗ってあげる。今日はゆっくりと休みなさい。市さんの事は・・・・気の毒だったわね。あの人ってば最後まであんな調子で・・・・厳しいけど、良い人だったわ。」
一夏は何も言わずに頭を下げ、退室した。建物の外を出てから、一夏は思い切り近くにあった電柱を蹴り付けた。そのパワーと勢いにより空き缶の様に拉げ、スニーカーの靴跡がそこに残った。左手の指輪に目を落とすと、先程の蹴り飛ばした電柱を殴打し、折れてしまう。拳に痣が残ったが、そんな事は気にもせず関東支部に徒歩で戻った。気を紛らわせでもしなければ、悲嘆でどうにかなってしまいそうだった。ワザと険しい獣道を進み、『自宅』に着いたのは夕方近くだった。扉が開いていた為、音叉剣を握り締めて中に入った。明かりは点いている。中にいたのは・・・
「お前、人の家で何してんだ?」
そう、そこにいたのは、織斑千冬だった。
「私が呼んだの。中々帰って来ないからみどりさんに合鍵貸してもらったから。」
「楯無・・・・まあ、良い。で、どうした?今は疲れてあまり話す気になれない。用事があるなら手短かにして欲しい。」
「更識から聞いた・・・・お前が戦う理由・・・その覚悟がどこから来るのかも。」
「能書きは良い。要点を言え。」
「私にはお前の様な立派な大義名分は無い。お前の様になれないのも、お前を戦いから遠ざける事を出来ない事も充分理解した。だが、せめて・・・・せめて私を・・・・・・私をお前が見える場所に置いて欲しい。」
「何が言いたい?」
しばらく間が開いて千冬の言葉の真意を探ろうとする一夏。その目は虚ろだった。
「もー、一夏ってば・・・・要するに、一夏とここに住みたいって事。」
「・・・・・あの家はどうした?」
「貸してある。今は空き家だ。あんな所は・・・・お前がいなくなってからはもう我が家と呼べなくなってしまった・・・・」
「ちゃんと片付けてあるんだろうな?」
「家事は少しは出来る様になったが、お前の様には行かなくてな。」
「そうかよ。まあ・・・・・探せば空き部屋位はあるだろうな。片付いてるし。私物は元々少ない方だろう?散らかすなよ。俺はシャワーを浴びたら適当に飯を作って寝る。吉野から徒歩で帰って来たんだ。」
「徒歩って・・・・!?」
「大体走って四、五時間弱だな。今回は獣道を通っていたから仕方無いが、公道を使っていればもっと早く着いた。」
それだけ言うと、二階に登って行く。
「更識・・・・・妹にも伝えておけ。一夏を頼むぞ。」
「はい。」
不覚にも、千冬は涙を流してしまう。
「くそ・・・・・」
一夏は浴室で凍える様な冷たい水を浴びながら頭の中で整理を付けようとしていた。
許すべきなのか?いいや、彼女は守るべき存在を蔑ろにした。当然の報いだ。だが、情状酌量の余地はある。それは只の慈悲だ。師匠の願いでもあった。でも、彼は死んだ。自分の中で二つの気持ちが口論を繰り広げている。
「俺はどうすれば良い?一体、俺はどうすれば良いんだ?」
冷水を浴びっぱなしでは風邪を引いてしまうので水の温度を調整し、しばらくしてから体を乾かして着替えた。下に降りると、響鬼を筆頭に七人の戦鬼と立花一家、ラウラ、更識姉妹、そして千冬が準備を終えた所だった。テーブルの上には料理が所狭しと並んでおり、皆が一夏が降りて来るのを待っていた。
「ヒビキさん・・・・皆も・・・・」
「惜しい人を失くした。彼は、俺が知っている中でも最高の鬼だった。黙祷!」
全員が目を閉じて手を合わせた。
「献杯。」
猪口を上に掲げ、狙い澄ました様に全員がそれを一気に飲み干す。
「明日は明日の風が吹く。俺達は、立ち止まれない。立ち止まっちゃいけない。仲間の為に、家族の為に、友人の為にも。だから、今日だけでも嫌な事は全部忘れて祝おう。」
ヒビキの言葉を皮切りに、大人組にはアルコールが回されて行く。一夏は縁側に腰を下ろして麦茶を一口飲んだ。夜空は朧月が切れ切れながらも見える。
「隣、良いか?」
滅多に見ない普段着を着た千冬が隣に現れた。缶ビールを持っている。
「ご勝手に。」
千冬は一夏の隣に腰を下ろし、ビールを隣に置いた。そして何を思ってか、突然一夏を抱き寄せたのだ。
「な、ちょっ、おい!離せ!!」
「辛いのだろう?悲しいのだろう?何故そうやって一人で背負い込もうとするのだ?何故、周りを頼らない?私も、お前に頼りたいし、頼って欲しい。」
(まただ・・・・また・・・・体が振り解こうとしない・・・・!それに、この感覚・・・・・懐かしい感覚だ・・・・・)
「・・・・・・・分かった・・・・・分かったよ・・・・」
それから宴会は数時間続き、終わった頃には泥酔した猛士の鬼達がへべれけになって出て行った。千冬はソファーの上で眠ってしまっている。
「はあ・・・・片付けは明日にでもやるか・・・・・」
嵐が通り過ぎた様なとは言え無いが、そこそこ散らかってしまったので、ゴミはポリ袋に入れて纏めておき、明日出す事にした。ソファーで熟睡している千冬を見ると、自然と顔がほころんだ。((戦乙女|ヴァルキリー))の頂点であるブリュンヒルデがここまでの間抜け面で寝ている事が無性におかしく思えてしまうのだ。タオルケットをかけてやると、自分も部屋に戻った。と言っても、ベッドでは既にラウラ達がいたのだが。
「お前ら・・・・・しゃーねーか・・・・」
一夏は呆れ顔で下のソファーに戻り、肘掛け椅子の上で丸まった。
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残り後僅かですが、よろしくお願いします。何ぶん高校三年は正念場であり、忙しいので・・・・ではどうぞ。残りは全て今日中に投稿する事はお約束いたします。 | ||
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