IS~音撃の織斑 四十九の巻:木霊する叫び
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次の朝、一夏は飛び起きると、身支度を整えて直ぐにステレオから大音量で音楽を流した。爆発する音楽が家中に響き渡り、千冬、ラウラ、簪、楯無の四人が飛び起きた。(注意:午前六時半近くが一夏の起床時間です。)

 

「昨日は盛大に散らかしたから掃除、始めるぞ。洗い物は俺がやるから、楯無と簪は朝飯頼む。ラウラはお膳立て、後・・・・姉貴はゴミ出しと新聞取りに行って。よいさマシのシャワーはその後にでも行けば良いから。はい、解散。行動開始。」

 

一夏は溜まっていた洗い物を直ぐに食洗機に放り込み、手洗いで出来る物は全て自分の手で終わらせる。二階に上がると、自分の部屋も少し片付け、直ぐに下へ降りて朝食の準備を手伝った。献立は和食をメインにしてある。

 

「まあ、こんなもんか。楯無、片付け、頼めるか?」

 

「分かったわ。」

 

「悪いな。」

 

「兄様、私も・・・・」

 

「・・・・分かった。お前も来い。今までイブキさんとの経験はあるだろうが、コダマの森は次元が違う。絶対に中に入るな。冗談抜きで死ぬぞ。」

 

「はい。」

 

一夏はガレージに止めてある市のバイクを引っ張り出し、ヘルメットを被った。歳の割には体もがっしりしており、背も高いので、フルフェイスのヘルメットを被っていれば無免許+未成年であると言う事もバレない。後ろではラウラがしっかりと掴まり、あっという間にたちばなに着いた。

 

「ヒビキさん!」

 

「おお、来たか。うし、皆行くぞ。」

 

サポーターや弟子達も兼ねて全員が(酔いを感じさせない様な動きで)出動し、コダマの森の周りに集まった。すると、全員が呪印を和紙に描いた物をそれぞれ置き、音角、鬼笛、鬼弦を使ってそれを発動させる。すると、周りに紫色の炎が浮かび上がり、やがて森全体を食らい尽くす様な勢いで火勢が増して行く。サポーター達は術で補助、城郭大炎上を維持していた。炎が燃えて行く中、変身した音撃戦士達はすかさず中に飛び込んで行く。等身大の人面樹の様なコダマの分身体、蔦や木の根が触手の様に襲いかかって来るが、燃えた物が再生するのに時間が掛かるからなのか、勢いに欠けていた。生い茂っている木々の中から最も歪んだ太い葉が生えていない木に全員の音撃を全力でぶつけると、コダマの森は爆散、土塊と灰になって消え去った。

 

「っしゃああああああああああああーーーーー!!!!」

 

一夏は大声で叫び、両手を振り上げた。

 

「これで当分の間は一安心だ。帰ってゆっくり休みましょう。」

 

「じゃあ、全員ウチに来て下さい。父が晩餐の用意をしていると言っていましたので。関東支部の皆さんと本部長もどうぞ。」

 

「はい。」

 

イブキの言葉に皆が歓声を上げ、意気揚々と帰って行った。残った一夏は、その場に座り込み、木を背にして倒れ込んだ。アームド状態を維持するのは肉体的な疲労が半端無く、完全に体が成長していない一夏の体がそのダメージと疲労について行けていないのである。鬼神覚声もまた然りである。両手両足に鉛を仕込んだかの様に体が動かなくなり、急に眠気が襲って来た。だがそれと同時に体が激痛に襲われると言う中途半端な事この上無い状況に陥っているのである。

 

(師匠・・・・・俺は・・・・絶対に負けません・・・!!!もう絶対・・・・・)

 

顔だけ変身解除したのが全身解除になってしまう。痛む体に鞭打ちながら立ち上がると、息を深く吸い込み、喉が張り裂ける程の大声で叫んだ。ポケットから携帯を取り出すと、楯無に電話をかけた。

 

『一夏?どうしたの?』

 

「悪いが、ちょっと・・・・・迎えを寄越してくれないか?体が動かねえ、んだ・・・・アームドセイバー使い過ぎたからかな。」

 

意識が朦朧として、体の感覚が無くなって来た。耳に当てていた携帯も力なく落ちる。

 

『良いけど、どこにいるの?一夏?一夏ってば!!』

 

楯無の声も壊れたラジオから発せられる様に聞き取り難くなっている。

 

(死ぬのって、こう言う感触なのか・・・?だとしたら、悪くないかも、な・・・・・・いやいや、あいつらを放っておいたら、師匠にぶん殴られるか・・・・)

 

「コダマの森があった場所・・・・・」

 

それだけ言うと、一夏の体は完全に木の幹に体重を預けた。

 

 

 

 

一夏が起き上がったのは、自宅の自室の布団の中だった。

 

「全く、無茶をするな、お前も。当分アームドセイバーは使用禁止だぞ?お前はまだ肉体的には完全に成長していないんだから。鬼の実力としては一人前だが、まだだ。焦らなくても良い。お前の命はまだまだ先が長い。」

 

「ヒビキ、さん・・・・・?」

 

「よっ。」

 

お決まりの敬礼じみた挨拶で返すヒビキ。

 

「お前さあ、無理し過ぎなんじゃないの?」

 

「はい?俺は別に無理なんかしてないです。いつもの事ですよ。修行なんてちょっとキツい位が丁度良いって言ってましたよね?」

 

「まあね。でも、休みやゆとりも修行と同じ位大事だよ?今までまともに休みなんか取った事ある?シフトじゃなくても、いの一番に率先して出張って来るでしょ?」

 

「う・・・・・」

 

「たまには良いかもしれないけど、毎日そんな事続けてたら倒れるぞ?お前は何も一人で戦ってる訳じゃないんだからさ、頼れよ、少年。」

 

「・・・・・はい・・・・」

 

一夏は起き上がって隣に置いてあるお茶のボトルに手を伸ばした。

 

「おやっさんが吉野本部長と言ってたぞ。お前は二人が言うまでは非常勤の鬼だとさ。まだ年端も行かず、子供でもなければまだ大人にもなっていない半端者を前線に立たせる訳には行かないってな。何より、婿養子を早死にさせたら沽券に関わるって。」

 

「そんな簡単に俺は死にませんよ。あ、そうそう、あの二人は・・・?」

 

そう言おうとした矢先、部屋の中に楯無と簪が飛び込んで来た。抱擁(と言うよりもタックル)をかまして来たので、起き上がった所をまた地面に倒された。

 

「お前らなあ・・・・・・怪我人は労れよ。」

 

「バカ・・・・!!馬鹿馬鹿馬鹿!!!心配かけるんじゃないわよ・・・・・勝手にいなくなったら、絶対許さないんだから!!」

 

楯無が泣きながら罵声を浴びせる。顔から滴り落ちる涙が一夏の顔に落ちた。ヒビキはそのまま静かに部屋を後にし、たちばなに帰って行った。二人が泣き止むまで一夏は彼女達をあやし続け、泣き止む頃には三人とも笑っていた。

 

「二人共、ただいま。」

 

「「お帰り。(チュッ)」」

 

三人は長い間抱き合っていた。お互いの存在を確かめるかの様に、体を密着させた。お互いの息遣いも、心臓の鼓動も、体温をハッキリと確かめる為に。

 

「所で、マドカと姉貴はどうした?」

 

「ご飯作ってるよ?」

 

「何?!」

 

楯無の言葉にこうしちゃいられないと一夏は立ち上がろうとしたが、直ぐに止められた。

 

「大丈夫、簡単な料理だから。」

 

簪が彼を宥める。

 

「なら、良いんだが・・・・ラウラは?」

 

「ラウラちゃんなら手伝ってあげてるみたいだから、大丈夫よ。軍の食事当番もしていたみたいだし。」

 

「そうか・・・・イヤー焦った。」

 

そう言った所で、千冬、マドカ、ラウラの三人が入って来た。鰹出汁を使った卵粥の入った鍋と食器を持っている。

 

「目が覚めたか、兄。」

 

「おう、まあな。マドカ、お前もここに住む事になる。よろしくな。後、姉貴とは喧嘩すんなよ?」

 

「・・・・分かっている・・・・」

 

「兄様、三人で作った卵粥です。どうぞ。」

 

「悪いな、心配かけてばっかりで。」

 

少しずつだが小鍋一杯の粥を食べ終え、一夏は五人を前に座った。

 

「さてと。これからの事だが、いくつかやる事がある。忙しくなるからな。一つは、ここに荷物を運び込む事。マドカや姉貴、ラウラが暮らす為のスペースがいるからな。まあ、元々この建物はデカイから困りはしないと思うが。二つ目、学園に戻ってからの今後。楯無はロシア代表と生徒会長だから忙しいだろうし、簪やラウラも代表候補としても頑張らなきゃならない。三つ目。これはどちらかと言えば姉貴と楯無、簪が関係して来るんだが・・・・俺達の関係を明らかにする必要がある。当然バッシングもあるだろうから、そこら辺は覚悟してくれ。」

 

「確かにな。お前が私の弟であり、尚且つ更識の婿養子であると分かったら、((ハイエナ共|メディア))が放って置く筈が無い。」

 

「まあ、どうにかなるさ。今までだってどうにかなって来た。今回だってどうにかするさ。皆がいるから。だから、大丈夫だ。絶対に、大丈夫だ。」

説明
いよいよ残す所後一話(エピローグ)となります。読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。
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