IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ―五十七話
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「スコール……!」

 

 

長身で豊かな金髪を持ち、抜群の美貌を誇る彼女はゆっくりとこちらに歩み寄る

 

 

「てめぇ……」

 

 

まずい……

 

 

今は動けないっての……

 

 

「ふふ……貴方が神谷 士くんね」

 

 

「だったら、なんだってんだよ……!」

 

 

体が言う事を聞かない

 

 

立て……立って戦え……

 

 

頭では分かっていても、体が動かなかった

 

 

それでも、立ち上がることはできる

 

 

後は、バックルを……

 

 

「無理しなくても……いいのよ」

 

 

ふと、スコールが言った

 

 

「あ?」

 

 

「私達と来なさい」

 

 

優しい声だった……

 

 

母親のようで……甘えたくなるような声で……

 

 

それは……いったい……

 

 

「っ!」

 

 

そして、スコールは俺を抱きしめた……

 

 

それも優しく

 

 

まるでマシュマロに包まれているような……

 

 

それでいて、どこかしっかりと……

 

 

くそ……マジで体が動かねぇ

 

 

「行きましょう」

 

 

そう言ってスコールが手を広げた瞬間

 

 

俺とエム、オータムは黄金の繭に包まれた

 

 

その後、増援として麻耶と教師陣

 

 

千冬までもが駆けつけたことを士は知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……あ……?」

 

 

目が覚めたここは……部屋?

 

 

大きい高級感溢れるマンションのようだ

 

 

大きな窓から見える夜景はこんな状況でも分かるくらい綺麗だ

 

 

とりあえず体を起こすと

 

 

「あら?起きたかしら」

 

 

声がして飛び上がるように身構えた

 

 

そこにはオレンジのライトで明るく照らされた長方形のテーブルが……

 

 

俺の正面にはスコールとオータムが

 

 

その左の辺にはエムが座っていた

 

 

テーブルには豪勢な料理が並んでおり、食欲を増進させた

 

 

「そんなに警戒することないじゃない」

 

 

「どこだ……ここ?」

 

 

警戒するな?するだろ……普通

 

 

「ここは私達のアジトってところかしら?」

 

 

アジト?ここが?

 

 

「とりあえず、食事にしましょう……お腹が減ったわ」

 

 

「ふざけんな……帰らしてもらうぜ」

 

 

ディケイドライバーのバックルを取り出そう……として気づいた

 

 

やっぱりないか

 

 

「探し物はコレかしら?」

 

 

スコールがバックルを見せてくる

 

 

取られてるなら何も出来ないな……

 

 

「さあ、諦めて座りなさい」

 

 

スコールに足されて、仕方なくスコールとオータムの正面に座る

 

 

「いただきましょう」

 

 

そうスコールが言うと同時にエムとオータムは食器を取り、サラダやらスープやらを飲み始めた

 

 

「士君もどうぞ」

 

 

スコールは笑顔で勧めた

 

 

断りたいところだが空腹とその豪勢さに思わず

 

 

「いただきます」

 

 

いただいてしまった

 

 

まず、スープを一口

 

 

……美味い

 

 

次に、肉

 

 

霜降りの見るからに高級なステーキは

 

 

……美味い

 

 

「美味しいかしら?」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

「それは良かった」

 

 

両手を軽く合わせ、微笑むスコールは敵とはいえ不覚にもドキリとしてしまう

 

 

「おい神谷 士」

 

 

左隣で座るエムが話しかけてきた

 

 

「な、なんだ?」

 

 

「貴様はなぜ強い……私とオータムだけではなく20はいたIS部隊を全滅させるなど……」

 

 

「な、なぜって……てかお前らズルすぎだろ!」

 

 

よくよく考えたら腹立ってきた

 

 

「う、うるさい!あれだけしても勝てなかったのだ!文句を言うな!」

 

 

「言うわ!せこいもんはせこいわ!」

 

 

「ふふ……仲がいいわね」

 

 

スコールがまたも微笑む

 

 

「「よくない!」」

 

 

息ぴったりですやん

 

 

どこか緊張が解けてきた

 

 

食事が終わり

 

 

「食器は置いておいていいわよ」

 

 

「いや、洗う」

 

 

さすがに、それくらいはしないとな

 

 

「あら、優しいじゃない」

 

 

「さすがにな……」

 

 

とりあえず流しまで運び終わったところで……

 

 

「っ!?」

 

 

急に膝の、いや力が一気に抜けた

 

 

あ、ヤバイ……

 

 

死ぬほど眠いのに眠れない感じ

 

 

「てめ……なんか、盛っ……た、のか……」

 

 

目の前にはスコールが……

 

 

ヤバイって……

 

 

とうとう、しゃがみこんでしまい

 

 

スコールも膝を立ててしゃがむ

 

 

「何も盛ってないわよ……ただこの空間はね催眠状態に陥りやすいように工夫されてあるの……」

 

 

ああ、ライトの色がオレンジから白になっていく

 

 

頭を振るがまるで意味がなく、ちゃんと振れているのかもわからない

 

 

不意に体が軽くなり、次の瞬間には意識を失った

 

 

 

 

 

 

 

亡国機業side-

 

 

「スコール。本当に神谷 士を仲間にできるのか……」

 

 

エムはベットに寝かせた士を見下ろしながら対面のスコールへ尋ねた

 

 

「ええ……彼には催眠状態にいてもらうわ……絶対に解けない催眠ね……貴方達はもう寝なさい。今日は疲れたでしょう」

 

 

そうして2、3言葉を交わし、スコールとエムは部屋を出た

 

 

「さぁ、楽しいことになりそうね……士君」

 

 

そう言ってスコールは熱っぽい眼差しを向け、士の頬を撫でた

 

 

 

 

 

 

学園side-

 

 

翌日―――

 

 

IS学園では亡国機業による襲撃と神谷 士の誘拐事件の解決作戦本部として

 

 

全ての教師と専用機持ちが会議室に集められていた

 

 

「今回の任務は誘拐された神谷 士の奪還と亡国機業の壊滅だ」

 

 

作戦本部部長として立った織斑千冬はスクリーンに背を向け、言い放った

 

 

「捜査には生徒1、教師2の3人で組んで行動しろ。無視したものは作戦から外す。全力で当たれ!」

 

 

『はい!』

 

 

全員の声が重なる

 

 

「これは……個人的な頼みになってしまうのだが……私はここを動けない。上層部への報告もある……弟を……士を助け出してくれ」

 

 

そう言って頭を下げた

 

 

全員が唖然とするなか、扉が開く

 

 

「その作戦。私も参加するわ!」

 

 

ナターシャ・ファイルスだ

 

 

「士くんには何度も助けられた……今度は私が助ける番よ!」

 

 

「ナターシャ……助かる」

 

 

そうして作戦本部のメンバーは解散した

 

 

 

 

箒side-

 

 

「くそっ!」

 

 

箒は部屋の壁を何度目か分からないほど殴っていた

 

 

同居人の鷹月は気を利かしてくれたのか部屋にいない

 

 

悔しい……あの時、自分は本当に何も出来なかった

 

 

ただ士とラウラが戦うのを見ていることしか出来なかった……それが腹立たしい

 

 

思い返すだけで涙がにじむ

 

 

「ぐっ……!」

 

 

またも壁を殴った

 

 

 

 

 

セシリアside-

 

 

セシリアもまたベットに腰掛け、涙を流していた

 

 

今すぐにでも飛び出したいのだが、千冬のあんな姿を見てしまっては動けない

 

 

そんな弱い自分が腹立たしかった

 

 

「約束……しましたのに……」

 

 

士の武器……ファイナルフォームライド状態になりながら決意した彼との自分が勝手にした心の約束

 

 

彼の力になる……彼が許してくれるなら一生傍にて彼を支える

 

 

そう約束したのに……

 

 

「オルコットさん……貴方なら絶対、神谷君を助けられるわ……神谷君にもそんなこと言われたことあるんでしょう?」

 

 

セシリアのルームメイト「夜竹さゆか」が隣に腰掛けながら背中を撫でた

 

 

「わ、分かっ、て……ます……」

 

 

彼女はその日、人生で二度もないくらい涙を流した

 

 

 

 

 

鈴side-

 

 

「……お菓子、食べる?」

 

 

いつもとは違い、重い口調でそう尋ねたのは鈴のルームメイトで同じクラスのティナ・ハミルトンだ

 

 

ポテチの袋を差し出してきた彼女を一瞥もせず

 

 

「いらない」

 

 

そう短く答えた

 

 

「そ、そう……」

 

 

そして再び訪れる沈黙

 

 

「あ、あのさ……」

 

 

再びその沈黙を破ったのはティナだ

 

 

「助けてあげてね……神谷君のこと……」

 

 

「うん……」

 

 

そう頷く彼女から涙が落ちる

 

 

「うっ……うう……」

 

 

ティナはそんな彼女をそっと抱きしめた

 

 

「神谷君の代わりってのは無理だけど……勘弁」

 

 

涙が止まったのは、彼女が眠りに着いたのと同時だった

 

 

 

 

 

シャルside-

 

 

シャルはラウラが部屋を出たと同時に無理に作っていた笑顔が消えた

 

 

「つかさ……」

 

 

「ここにいろ」と強く言ってくれた士

 

 

存在意義を示してくれた士

 

 

自分の素性を知っても尚、変わらず優しく接してくれた士

 

 

自分の好きな……大好きな……士

 

 

そんな彼は今はいない……

 

 

それだけで胸が苦しい

 

 

何かが突き刺さっているような……感覚

 

 

「つかさぁ……」

 

 

布団をかぶり直し、涙を隠した

 

 

 

 

ラウラside-

 

 

ラウラは学園の中庭を散歩していた

 

 

夜風が気持ちよく、気持ちを落ち着かせる

 

 

自然と涙が出るわけでもなく、まして悲しいなども思わなかった

 

 

取られたのなら取り返せばいい

 

 

「嫁の事を信頼できなくて何が夫婦だ」

 

 

月に士を取り返すことを強く誓った

 

 

 

生徒会side-

 

 

「うっ……つ、つか……さぁ」

 

 

「泣き止んで。簪ちゃん」

 

 

簪を抱きしめながら楯無は頭を撫でる

 

 

「私、何も…できな、かった」

 

 

「それは、私もよ」

 

 

楯無は簪の体を離しながら冷たくも聞こえる声音で答えた

 

 

「おねえ……ちゃん」

 

 

「私だって……泣きたいわよ……でも」

 

 

「でも……?」

 

 

「士くんなら……ここで泣かない……絶対に」

 

 

楯無の目には確かに涙が滲んでいたが、それが溢れることはなかった

 

 

「だから……簪ちゃんも頑張りなさい」

 

 

その姉の厳しくも優しい口調に簪はまたも涙を溢しそうになるが、袖でそれを拭う

 

 

「うん……!」

 

 

「つっちーはかんちゃんに任せたよ」

 

 

「ええ……ISの整備は完了しましたので……あとはお嬢様方のお力で……」

 

 

本音と虚の姉妹はそんな姉妹を見届けた

 

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