リリカルなのは×デビルサバイバー As編
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 すずかと共にカイトがはやてに呼びかけること数十分。恐らく一時間は経ってはいないだろうが、長時間話していると疲れるのと同じで、声に出すという行動はとても疲れる。

 時折アースラから来る人員に、飲み物をもらいながらカイトははやての名を呼び続けていた。

 すずかの声もまた時々止まる事から、カイトと同じく喉が乾いたりして、休んでいる時があるのだろう。

 ちなみにカイトの仕事は呼びかけるだけではない。どうやら、意識が無くなっていても自動的に攻撃もしてくるらしく、一回氷結解除された時は、手痛いしっぺ返しをくらってしまったのだ。なので、時々ブフを唱えて動かないよう、注意しているというわけだ。

 

「起きないね、はやてちゃん」

「うん。多分それだけ闇の書の呪縛は強いんだと思う」

 

 なのはとフェイトの二人は、この機会に休みをとっている。先ほどまでずっと強敵と戦っていたのだ。いざという時のためにも、休息というものは大事である。

 

「しかし、本当に効果はあるのかね? はやてー」

 

 身じろぎ全くしない(出来ないとも言う)女性を前にして、カイトはそう言った。

 目についた効果がないので、現状の作戦に疑問を抱いているのだ。

 

「大体さ。はやてー。男の俺がやるよりも、はやてー。女友達の方が良いんじゃない? はやてー」

「それでも呼びかけは止めないんだね?」

 

 苦笑い気味に、なのはは言う。

 そも、年頃の女性を膝枕しつつ、名を呼びかけている少年とは、絵柄的にどう映るのだろう。

 

「……心がこもってないんじゃないですか?」

 

 どこか余所余所しい、フェイトのツッコミが入る。母を殺されたのだから、仕方ないのだろうが。

 

「それは、すずかにも当てはまることになるぞ? はやてー」

「……」

 

 一度出来た瘤は中々治らない。現実を知らない以上、当然ではあるし、知ったとしても納得は出来ないだろう。カイトがフェイトの母である、プレシア・テスタロッサを殺したのは、紛れも無い事実なのだから。

 

「(まぁ、その事実に対して否定はしないし、もし仇を討とうとするのならば、相手にはなる。殺しはしないが。そういえば……)」

 

 はやての名を呼びかけながら、自身の拳を開閉する。確かめたいのは、身体の体調ではない。自身の中に存在する、ジュエルシードの魔力のことだ。

 

 あの時、腹部をカイトの拳に貫かれたプレシア・テスタロッサは最後にこう言った。

 

「コレは、私からのプレゼントよ。きっと何時か、貴方の役にたつはず」

 

 そう言って、ジュエルシードを押し付け、カイトの体内へと消えていった。

 これが、カイトの体内に魔力が存在する理由だ。

 

「(プレシア・テスタロッサ。一体何処まで知っていた? "何時か"か。まるで、未来を知っているような……まさかな)」

 

 COMPを手に取る。

 もはや、ラプラスメールはこない。ナオヤ曰く、もはや必要の無くなったもの。存在し得ない未来。だと言っていたのだ。それは、カイトが生き続ける未来が、他には存在し得なかった。ということなのだろう。

 だというのに、プレシアはそれを知っていた。これはおかしいのだ。

 

「まぁ、考えても無意味か。はやてー……むっ」

 

 突如として、女性が宙に浮き、淡い光を放ち始めた。

 何か起きるのかっ!? カイトは警戒するのを忘れず、女性の動向を見守る。何故ならこの現象が悪いことではなく、はやてが開放される前触れである可能性もあるからだ。それとは逆に、はやてが目覚めず、この女性が目覚めるという可能性もある。

 光は次第に強くなり、女性の姿を確認できなくなっていく。

 そして――。

 

「きゃっ!?」

「くっ」

「……」

 

 カイト、なのは、フェイトを眩いばかりの光が包み込んでいく。目を閉じていなければ、鼓膜が焼かれていたかもしれない。それほどまでに強い光。

 目を閉じていても感じるその光が、時間とともに弱まっていくのを、その場に居た全員が気づいた。

 今はまだ強く輝いているが、それでも目を開けれない程ではない。カイトは少しだけ眼を開けると、先ほどまでそこには一人しか居なかったはずなのに、光の中には五つの影を見つける。

 

「セイリュウ!」

「うむ! ……いや待つがいい」

 

 攻撃の指示を出したカイトに対し、セイリュウは自身の意志でそれを止めた。

 一瞬何故攻撃を止めたのか、カイトにも分からなかったが直ぐにその理由を悟る。それと同時に、ピンク色の光がカイトの視界に入ってきた。

 

「高町さん攻撃するな!」

「ふぇ?」

 

 カイトの言葉に反応して、なのはは砲撃の動作を取りやめた。しかし、警戒は解いていないようで、レイジングハートは構えたままだ。

 

「……? 寒いな」

 

 冷えてきた身体を、アギの炎で暖めながらカイトもまた警戒を解いてはいなかった。

 何故セイリュウとカイトは攻撃を止めたのか。その理由は、目の前の者達から一切殺気を感じなかったからだ。

 

「羽根……?」

 

 光が収まってくると同時に、空から黒いカラスの羽根のようなものが舞い、カイトの近くに流れ着いてきたその羽根を掴み、観察したあと再び視線を前に戻した。

 

「はやてちゃん! ヴィータちゃん!」

「シグナム……!」

 

 なのはとフェイトが喜びの声を上げた。

 光が収まったとき、そこにはカイトもよく知っている、五人の姿がそこにはあった。

 四方にヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ。その中心には、はやてが居た。

 

「みんな!!」

 

 カイトたちが何か言う前に、はやてがシグナムに駆け寄り抱きしめていた。

 

「……ある、じ?」

「うん……! うんっ、そや! 私や!」

 

 シグナムの感触を確かめるように(何処の感触とは、あえて言わないが)はやてはシグナムを抱きしめ続けている。

 

「これは一体……?」

「なんでしょうね?」

 

 なのはヴィータの元へと、フェイトはシグナムの元へと移動する中、現状の説明のために、カイトはザフィーラとシャマルの元へと移動していた。

 

「よう」

「! お前はカイトか?」

「……龍に乗ってる?」

「俺のことについては後で良いしょう? 今はとりあえず……?」

 

 話の途中でカイトは自身の背後を見た。

 

「……なんだ、あれ?」

 

 海上に一つの大きな影が存在していた。

 いや、影というのは正しくなく、闇といった方が正しいかもしれない。半径一km以上にも渡るその闇は、徐々に広がり続けていた。

 

「あれが闇の書の……夜天の書の闇、防衛システムのバグの塊」

 

 カイトの疑問に答えたのははやてだった。

 

「防衛システムのバグ?」

「ええとな、闇の書のほんとうの名前は、夜天の書って言うんやけど、その夜天の書の管制人格、リインフォースから聞いたんよ、夜天の書が闇の書に成った理由、その原因があのバグなんよ」

 

 はやてが説明している間にも、闇は広がり続けていた。それと呼応するかのように、カイトの顔色が悪くなっていく。

 

「カイトくん……?」

「なんでもない。それで? どうするつもりなんだ?」

 

 心配して近づいてきたはやてを、カイトは押し留めてから問いかけた。

 

「えっとな……カイトくん、なのはちゃん、フェイトちゃん。頼みがあるんよ」

 

 右にシグナムを、左にヴィータを、その後ろにザフィーラとシグナムを従えはやては言う。

 

「あの防衛システムを……私と、私たちと一緒に倒して欲しいんや」

 

* * *

 

 カイト達がはやての話を聞いている頃、時空航空艦アースラに異常が起きていた。

 

「アリサちゃん? アリサちゃん!」

 

 アリサが突然胸を抑えてうずくまったのだ。すずかがアリサを心配して背中を擦りながらありさの表情を見ると、その顔色は決して良くはないように、すずかには見えた。

 

「うぅぅ……すずか、あんたは大丈夫なの?」

 

 アリサに問われてすずかは冷静になる。

 

「(寒気はするけど……)」

 

「私は大丈夫だよ! それに、私のことよりもアリサちゃんのことだよ!!」

 

 アリサを心配し、すずかは少しでも楽になるようにと背中をさすり続ける。だが、 身体の異常を訴えたのはアリサだけではなかった。

 

 

「……エイミィさん?」

 

 エイミィを初め、非戦闘員もまた胸を抑え床に倒れたのだ。

 

「これは、一体……?」

 

 

 誰に言うわけでもなくて、一人動揺を抑えるようにリンディは言った。

 

* * *

 

 海鳴市海上公園。ここでもまた、異常を訴える人間が多発していた。

 その場に倒れ不調を訴える人々を、アヤとジンの両名はベンチや、草の上に人々を移動させ、水を飲ませるなどして介護をしていた。

 

「ジン、救急車はいつ頃来るかしら?」

「先ほど連絡した所だと、数十分はかかるらしい。どうやら渋滞が発生している上、同じような症状を訴えてる人が多くいるそうだ」

「……そう」

 

 アヤは海を見つめる。

 正しくは海ではなくて、もっと先……黒くて、暗くて、ぞっとするような闇を見つめていた。

 周りの様子を見て、自分以外には見えてないことにアヤは気がついていた。

 普通にあれを見ることが出来ているのなら、今頃街中でパニックが起きるはずだが、そんな様子は一切ない。それとなくではあるものの、

ジンに聞いた所「何も異常はない」と言っていた。

 

「ところでジン、貴方は体調大丈夫なの?」

「あぁ俺は大丈夫だ。なぜかはわからないけどな?」

「そうだね、それは私もよ?」

 

 ジンに対して微笑んだあと、アヤは自分とジンの胸元で光り輝くものを見ていた。ふと思いつきで買ってみた魔除け道具。効果があるのかは分からなかったけど、なければないでジンとお揃いのアクセサリとしてで十分だ。そう思って購入したものだった。

 

「(本物だなんて思わなかった。でも……)」

 

 いったい何が起きているんだろう? アヤは海のほうを見つめながらそう思った。

 

* * *

 

「えっとつまり、あの防衛システムが全ての黒幕だったってこと?」

「正しくは防衛システムも被害者の一つなんやけどね。夜天の書と呼ばれとった時は、バグもなく正常に動いとったって話やし。あとはアレが形を成した時に叩けばええって、リインフォースは言っとるよ」

 

 なのはの問に対し、はやてが答える。本来であれば、そんな話し合いをしている暇はないはずなのだが、いまだ防衛システムが物理的な形を成していないためこうして話す時間をとれている。

 

「でもバグにしたって、あれの様子おかしくないかな?」

 

 そう言ったフェイトが指さした、バグった防衛システムがある。しかしはやての言葉とは裏腹に、防衛システムは一向に変化を見せていない。

 

「うん。それについては確かにリインフォースもおかしいって言っとるよ。あんな機能が防衛システムにはなかったはずやって。シグナム達はなんか知っとる?」

 

 はやての言葉にシグナムは首を横に振りってから答える。

 

「申し訳ありません、我が主。私は何も……みなはどうだ?」

 

 ヴィータたちも首を横に振って知らないという。

 

「どっちにしろあれかな? あれが姿を持たないことには、何も出来ないか」

 

 そう結論づけた所で、はやてはカイトの方を見る。

 

「大丈夫? カイトくん」

 

 カイトはセイリュウの上でぐでっとしながら、手を振ることで答えた。大丈夫だと言いたいのだろうが、全くそうは見えない。

 

「体調が悪いのなら、アースラに戻ってたほうがいいんじゃないかな?」

「……悪い、そうしたほうがいいかもしれない。このままだと唯の足手まといになりそうだ」

「うん、それじゃ待っててね。今エイミィさんに連絡するから」

 

 なのははそう言うと、レイジングハートの通信機能を使い、連絡を取ろうとする。

 

『こちらアースラ、要件はなんだい? なのは』

「あれ? クロノくん?」

 

 てっきりエイミィが出ると思っていたなのはは、面食らっていていた。

 

「エイミィさんは?」

『ちょっと事情があってね。それよりどうしたんだ?』

「えっと、カイト君が体調悪いって言ってるから、アースラで休ませたいんだけど」

『……カイトもか』

 

 ボソッと、小さな声で言ったその言葉をなのはは聞き取ることが出来なかった。

 

「え?」

『いや、なんでもない。直ぐに転送させるから、カイトにもそう言っておいてくれ』

「うん!」

 

 通信を切ると、なのははカイトの方を見る。

 

「直ぐに転送を始めるって」

「分かった……すまんセイリュウ、あとは頼んだ」

 

 セイリュウは首を縦に動かした。

 

「……直ぐに戻ってくる事になりそうだがな」

「……?」

 

 そのセイリュウの言葉をカイトは聞き取ることが出来ずに、転送の光に飲まれていく事になる。

 

* * *

 

 転送先のアースラにて、時空管理局員に支えられながら、カイトは歩いていた。すると前方からクロノ、ユーノ、アルフの三人が歩いてきた。

 

「大丈夫か、カイト?」

「少しは楽になった」

 

 そうは言うものの、カイトの顔色はまだ悪い。

 

「カイト、キミの身に何が起きたのか分かるかい?」

「……? ただ体調が悪いだけじゃないのか? 俺」

「エイミィ以下、非戦闘員。それに、防衛システムが出現した半径数kmにわたって、体調不良者が続出しているらしい。これは何かの因果関係があると見たほうが、自然だろう?」

「そういう事か」

「とにかく、僕達は行くよ。なにか気づいたことがあれば言ってくれ」

 

 そう言うとクロノ達は歩いていった。

 それを見送ったあと、自身を支えてくれている管理局員に、一つ質問をした。

 

「先ほどの話本当ですか?」

「えぇ、最初に倒れたのはオペレーターのエイミィさん。それから次々と……」

「なるほど……あ〜、すずか達は無事ですか?」

「いいえ、アリサさんでしたか? 彼女は今横になっていますね。すずかさんは彼女を看病しています」

「そうですか」

 

 他人のことを考えてる場合じゃないと考えたのか、一つため息を付いていた。

 

* * *

 

 海鳴市海上、そこから遠く離れたビルの上でその男は立っていた。PTと名付けられたあの事件において、たった一人捕まらなかった人間。

 ただ、あの時と違うのはつけていた仮面を、今は外していることだろうか。

 

「ここまで影響が広がるとは……あいつの罪は重いな。さてと、あの話が本当だとするなら、あと数分もしない内に実体を持つだろう。さて、私もやるべきことを行うとしようか」

 

 自身の手からカプセルのような物を放り投げる。カプセルは空中で崩壊すると、中から翼の生えたゴーレムが出現した。

 

「……さぁ行こう」

 

 男もまた、自身の思いのために動き出した。

 

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