恋姫無双 槍兵の力を持ちし者が行く 23話 |
― side 華琳
自室で政務の残りを終わらせ、息抜きを兼ねて窓を見ると、もう夜になっていた。
「また、やってしまったようね」
そう呟きながら、書類を片付ける。
外が静かだからもう皆が寝ている時間なんでしょうけど……
「このことを知ったら、また蒼は怒るのでしょうね」
そう言いながら、私を叱る蒼を想像する。
蒼曰く、時間を忘れ、休まず仕事をすると言うのが私のの悪癖らしい、つまり、王はより効率的に仕事を与えること。そして、余裕をもって仕事に望み、下を安心させるのも仕事の内だ。だから根を詰めて仕事をするな。ということだった。(それが余りにも正論で、認めるのが悔しいから、蒼には『それ相応の仕事』を割り当てたのは余談だけど…)
どこか父親面をしながら、悪癖を治そうと注意する。それでも何処か心配そうで顔色を伺いながら怒る。
それを想像するだけで、笑ってしまう、アイツがそんな顔をするのは似合わない。アイツは常に何処か余裕のある感じで飄々と笑うのが一番似合う。
……まあ、たまに見せる真剣な顔もいいけど……
「まあ、これでも楽になった方なのよね」
そう、これでも楽になった方なのだ。
新兵の訓練、治安維持、経済発展等、どんなに仕事を割り振っても私のやるべき仕事が多々あり、徹夜するなんていうのもざらにあった。
けど、蒼……いや紅蓮団が来てくれたお陰でより仕事がはかどるようになった。
紅蓮団は皆非凡と呼ばれてもおかしくない集団だ。
少数なら、新兵の教官から部隊の指揮官まで、集まれば蒼を中心とした槍となり、戦況を有利にするだけの力がある。
また、森羅は、桂花と同等の才能を持っていたので、政務もはかどるようになった。
どれを取っても粒ぞろいの精鋭達。
それを作り出したのが蒼だ。それも約2年で。(ちなみに私の中で最後の1年間はなくなっている。そう、3年じゃない、2年だ)
数ある兵の中からではなく、一から見つけ、選び、動きやすい数に整え、訓練させたのだ。
それ程の才が自分と共に歩んでくれる。それは嬉しい。
けど、たまに思うことがある。もし、私が蒼の才を見抜けず、彼が野に下り、己の望む王に出会えなかったら、と。
そうなれば、彼は紅蓮団を中心に義勇兵をつのり、勢力を広げるだろう。
そしていつかは私達と相対し、己の才と部下の質を賭けて戦う。
想像するだけで、身体の中が熱くなる。蒼という王にもなれる才と全力で戦い、勝利し、彼を屈服させる。
考えるだけでワクワクしてくる。
そう考えながらふと庭を見ると、その当の本人が槍を振っている。
相変わらずただ振るのではなく、目の前に相手がいることを考えた、実戦を意識した訓練法だ。
「こんな遅くに己の牙を磨くなんて、相変わらずね」
「別に、そんなんじゃねーよ。
ただ、寝つきが悪いから、ちょいと体を動かして、疲れさせているだけだ」
そうすぐにばれる建前を言いながら、何で私がいるのかを考えているようだ。
全く、未だに蒼は自分の努力を人前に見せたがらない。少しは他人に見せてもいいのにね。
とは言っても、いいところにいたわ。丁度夜食を取ろうと思っていたから
蒼に頼もうかしら。
「……というわけで蒼、夜食を食べたいから、少し調達してきなさい」
「どういう訳か俺にはさっぱりわからないんだが。それに俺、もう寝るとこなんだが……」
「そんなこと私の知ったことではないわ。
それに貴方には拒否権があると思っているの?」
「……あー、もう分かったよ畜生、了解してやる。
但し、すぐ用意できるのは酒とその肴ぐらいだぞ。いいな」
「別にいいわよ。貴方が酌をするならね」
「了解だ。ちょいと待っとけ」
そう言いながら調達に行く蒼、……ちょっとうれしそうにしている気がするのはさすがに私の自惚れかしらね。
まあ、いいわ。こんな満月の夜にアイツと月見酒も一興ね。
しばらくして、蒼が酒と軽く食べれるものを持って帰って来た。
「あいよ、もう食堂が開いてなかったから、ちょっと量は少ないが勘弁してくれ」
そう言いつつ、蒼の置いた酒に手を伸ばす。
「ん、……あら、これかなりおいしいじゃない。
何処で手にいれたの?」
「ああ、これな。
これはウチ(紅蓮団)で酒作りが趣味の奴がいてな、そいつに頼んで作って貰ったんだよ」
「相変わらずのトンデモ集団ね」
そう呆れながら言うと、蒼は照れ臭そうに頭を書きつつ、笑っている。
全く、褒めているわけじゃないのに。
「まあ、趣味なんて人それぞれ一つは持ってるだろ。……流石に酒作りなんてのはソイツだけだが」
紅蓮団という言葉が出てきたので、以前から耳に入ってくる事についてきてみる。
「そう言えば、兵達の間で話題になってるわよ。
『紅蓮団の奴等が指導する訓練がキツすぎる』って。
せっかく集めた兵が逃げちゃったらどうするの?」
「華琳、お前、分かって言ってるだろ。
今は体力作りが主にやってる。
つまり、戦場の基礎をやってるわけだが、それが厳しいって言ってる奴らは戦場のいざという時に足引っ張るだけだ」
分かってるくせに聞くなよと少し怒っている表情で此方を見る。
分かってるわよ。少しからかっただけ。それが分かってるくせにそんな顔するなんて、心外よ。
「所で、あの娘達はどうなの?貴方が直接見ているようだけど」
あの娘達というのは、凪、真桜、沙和のことだ。彼女達も警備隊に所属させるついでに蒼に彼女達の教育も任せたのだ。
「全く面倒なこと押し付けやがって……
まあ、素質はあるな、それに文句は言っても、食らいついて行く根性もある。紅蓮団の奴等にやったのと同じぐらいの厳しさでついてこられたんだ。将来は一軍を預けられるぐらいには育つと見たな」
「はりきり過ぎて、いじめ過ぎない様にね」
と釘を刺すと不本意極まりないといった表情になっていた。
「あのな、俺はそこまで厳しくはしないぞ。ただ、限界をちゃんと見極めそのちょっと先ぐらいでいつもやめてる」
つまり、限界を越えてやっているということ、こんな訓練をやったから、紅蓮団はあんなに優秀なのね。
「それに、あのお袋にしごかれた俺が、そんな無理をさせるわけないだろうが」
いや、今やってることも十分無理だと思うけど。
と言おうとして思い出す、蒼の幼少期の鍛錬が想像を絶するものだということを。
「まあ、確かにそうだけど……」
限界なんて生易しく、正に生きるか死ぬか(実際は臨死を体験して、蘇生させると言った方が正しいのかもしれないが)で、訓練を見ていた私達でさえ一歩どころではなく、全力で引いてしまうぐらいのを普通にさせているのだから。
「それにしても、小母様は今何処に居らっしゃるのかしら?」
是非再会して蒼の弄り方とかを教えて欲しいのだけれど。
「やめてくれ、なんか噂をしただけでも現れそうだ」
そう本当に勘弁して欲しい顔をして手をふる。
ということは……
「貴方、あの三年間に叔母さまに会ってないの?」
「いや、何か会ったら、とてつもなく面倒な厄介事を押し付けられる気がしてずっと避けてたんだわ」
「という事は、行方が分からないおばさまをずっと避け続けていたの?」
ま、そういうことなんだがな……と苦笑しながら答える蒼に呆れる。
「まあ、あのお袋がくたばるとこなんか想像出来ないし、またひょっこり帰って来るだろうよ」
そう言う蒼の態度を見て、これも一種の親子の関係なのだろうと思う。(それに私も蒼と同じく想像できない)
なんだかんだ言ってもこの親子の仲は良好なのだ。
口では文句ばかり言うけど、育ててくれて感謝している。まったく素直じゃないんだから。
「そういや華琳のとこに戻ったら、やろうと思ってたことがあったな」
とその後、他愛ない会話をしていると、ふと思い出した態度をとっていた。
「あら、何かしら。
つまらないことだったら、怒るわよ」
そう言い返す。
特に女性関係のことだったら。本当に許さない。というか色々な意味でモギたくなってくるわ。
「うーん、なんか俺なりの、……どういったらいいかわかんねーけど、ケジメって言うのが一番正しいかな。
まあとにかくそんな感じで、人それぞれだからな。
ま、俺の自己満足ってトコが強いから見逃してくれ」
私の気持ちに少しも気づかずに、蒼は苦笑いをしながら私につげる。
へえ、ケジメね。
面白そうだからきいてあげようかしら。
って、
「何をしているのかしら?」
そう蒼がそのまま膝まづいている。
一応は君主と家臣なのだから、こういうのは当たり前なのかもしれないけど何故だか蒼にされるとイラッと来る。
「まあ、三年間好き勝手やってた訳だし、帰ってきたらやろうと思ってた。
というわけでまあ聞いてくれ」
そういうと、いつもの軽い雰囲気から、打って変わり、真剣な雰囲気になっている。これはしっかり聞かなきゃね。
「我が名は李高 雲犬。真名は蒼。我が目指す理想は知っての通り、『常に前に進む人の住む国』だ。
華琳、お前ならそんな国を作るだろう。
我が槍と我が真名、そして我が理想、我が部隊、我が全てをお前の理想に捧げ、また支えきれない重荷は共に支えよう。
最後にお前はただ『戦え』と言え。
ならば俺はお前の為に槍を振るおう」
そう言いながら私の返答を待つ蒼。
今、分かった。蒼を特別と思っている理由を。
他の皆は私の覇気や王の才や理想に惹かれ、己の才を私の為に使ってくれる。
それに対して蒼は一応、素晴らしい『武』を持っているのもある、女として惹かれているのもある。
けど、それよりも蒼は自分の『理想』を預けたのだ。己が望む世界(全て)を私に賭け、私の理想をかなえようとしてくれる。いつかは自分の『理想』が私の『理想』と重なることを信じて。
つまり、蒼には表向きには上下関係でも、本当の立場は隣にいて一緒に私の覇道を進んで欲しいのだ。
「フッ、いいわあなたの全てを預かるわ。
ただし、私の理想(全て)を預けるわ。私が『曹孟徳』である限り共に進み、もし私が『曹孟徳』でなくなったら私の理想をあなたがあなたの理想と共に叶えて頂戴」
だから、こう返す。蒼は驚いているようだけど。
……ねえ蒼、これはただの自己評価だけど、私はあなたの隣に立つのには『まだ』ふさわしくないと思っているの。私があなたの隣に立つのにふさわしくなったら、改めて言わせてもらうけど、今はこの言葉で我慢して頂戴ね。
「ああ、了解した。
まあ、華琳が変わるなんて考えられんが」
「あら、それはどういう意味かしら?」
「ちょ、そこで鎌出すな。
ていううか、いやなんか笑みが怖いって」
そういいながら逃げる蒼を追いかけながら、改めて決意する。
私がふさわしくなったら、改めて言おう。
「ずっと、私と共に歩んでほしい。」って。
説明 | ||
では、今回はこれにて終了。これからはストックがなくなるまでは週一に戻ります。 この小説の基本構成は本編・閑話的な物・本編……みたいな感じで進めていきます。 一応、蒼の母親のモデルは『海皇記』のマリシーユ・ビゼンです。 これは作者の理想の母親像です。……割とガチです。 |
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