真夜中ディスプレイ
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ボクはパソコンの前で、ディスプレイを見つめていた。

 

円周率。それは何百万何千万で収まらない無限の数字の群れだ。

 

いつから見ているのかも覚えていないが、ずっと昔から見ているような、下手すれば生まれたときから見ているような気になってくる。

 

ぐるぐる、縦のスクロールバーの動きと共に高速で過ぎ去っていく数字の群れを見ているうち、それが回転しているように見えてくる。

高速回転するスロットのドラムのように、ぐるぐると、円になって最初と最後が繋がっているようにさえ錯覚する。

 

目がディスプレイに張り付いたように、視線をそらせなくなって、脳が平衡感覚を失い、やがて船に揺られたような吐き気がして、それでも目だけは離せなくて。

 

やがて目が乾いて砂漠の砂になった気がした頃には目の前で数字が踊り出す。

無意味な記号でしかない数字が、うねるように、水面の波紋のように揺れている。

 

世間じゃタバコだの麻薬だの中毒性の高いものがあるというが、この数字の羅列ほど目を奪うものをボクは知らない。

 

ぐるぐる、ゆらめく、なにかの呪文のような数字の羅列。

 

疲れた脳がそこに意味を見出そうと、数字という海面を船になって揺られている。

 

 

 

ボクはパソコンの前で、ディスプレイを見つめていた。

 

 

 

ずっと前から、ずっと昔から、それは多分きっと比喩でもなんでもなく、もう壊れたガラクタに成り果てたボクの今。

 

ディスプレイはとっくに電源が切れて、暗いだけ、鏡のようにボクの顔を写すだけ。

 

ずっと考えているようで考えてさえいないボクの視界には、数字の羅列が今も今も流れていた。

説明
パソコンの前で、ディスプレイを見つめる話
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タグ
真夜中 ショートショート SS 短編 一話完結 

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