真恋姫†夢想 弓史に一生 第五章 第一話 力の目覚め |
〜聖side〜
正式に月に客将として雇われることが決まった。
これで俺はこの洛陽の宮殿に自由に行き来できるようになり、街を見るのに何不自由なく行動できる。
まぁ、元々料理屋をやっていたときもそれなりに街を見ていたけど、今は警邏という名目上で至る所を見て回ることが出来る。
これは俺にとってはなんとも都合の良いものだった。
そんなこんなで、洛陽に着てから早一月経過。
俺は今、一刀と一緒に政務を行っている。
政務に関しては、重要な案件は流石に任せてもらえなかったが、農耕の内容書や治水の計画書などの発案を任せてもらえてるぶん、この一月で少しは信用を得られたのだと思う。
実はこの時、月が詠に頼んで仕事を回していたのだが、そのことを聖は知らない…。
「…あぁ…〜〜〜〜。」
「どうした一刀? 手が止まってるぞ?」
「なんか頭が痛くなってきた…。もう駄目だ〜…。」
「よし、そんな戯言がはけてる時点でまだ大丈夫だな!!」
「鬼!!悪魔!!」
「なんとでも言え。お前も文官として少しくらい使えるようにならないと大変だぞ?」
「そうは言っても…。俺こんなことするの初めてだし…。」
「俺だってこの世界に来たときには初めてだったさ…。一刀、俺達には未来の知識がある。それを併用できるところは併用し、出来ないものはやり方を変えて使えないか試す。そうすることでこの地域は発展するんだ。これを後々この国全体で行わなければならない…。ならば、今は少しでもやっておいた方が後々楽になる…そう思わないか?」
「う〜…。言ってることは分かるけどさ…。 聖はこの世界を統一することが目的なのか?」
「……統一せざる負えない状況ならな…。」
「…と言うと?」
「俺達と同じような思想、考え方を持っていて、俺達と共生することを望んでいるならそれを拒むことはしないさ…。と言うか、全員で共生できるんならそれが良い…。」
「共生できそうにないときは??」
「国、城、家臣、民、理想全てを賭けて戦う。お互いの矜持、威信のために…。」
「そうか…まぁ、当たり前だよなこんな乱世じゃ…。でも、何とかならないものなのかな?」
「簡単に折れるようじゃ君主としての威厳がない…と言うか君主としての素質を疑われる程だな。そして、良い君主ほど一度口にした言葉を簡単に曲げはしない…だからこそ、戦うことになるんだよ…。」
「そんな…。そんなのって…そんなのって無しだろ!? 良い君主ほど共生出来れば絶対に良い国になるはずなのに!!」
「…俺だってそう思うよ。だがな…それは武人の矜持か君主の矜持か…。とにかく、この世界はそういう世界なんだよ…。」
「……大した罪もなく人が死ぬことになるなんて…。報われなさ過ぎる…。」
「……せめて俺の手で、苦しまないように一撃でそいつの命を絶ってやるさ。」
「………。」
「平和ボケした考えは今の内に捨てておかないと後悔するぞ。」
俺は席から立ち上がり、扉の方へ歩いていく。
「あっ…おい!!聖!! どこに行くんだよ!!?」
「どこって…昼を食べに外に行くんだが…??」
「仕事は!!!」
「……お前の口から仕事という言葉が出るとはな…。」
「うるさいな!!」
「まぁ良いが…。俺の分はもう終わってる。だから俺は良いんだよ。」
「えっ!!?何時の間に!!」
「お前が『あ〜』とか『う〜』とか唸ってる間だ。」
「…なぁ…。」
「やだ。」
「まだなんも言ってないじゃん!!」
「どうせ『俺のを手伝ってくれないか?』とかだろ?だったら答えはNOだ。それはお前の分、お前がやらないと意味がないだろ?」
「…すっ…少しくらい…。」
「駄目だ。」
「ケチ!!鬼!!人でなし!!」
「…案外間違ってないからな…悪口になってないな…。」
俺結構、ケチだし…。巷の噂では俺って「鬼の化身」って言われてるし…。チート能力持ってんだからある意味で人ではないし…。
「うわ〜ん!!!少しくらい手伝ってよ〜!!!!」
「…餓鬼じゃあるまいしこんなことで駄々を捏ねるな…。」
「…聖が手伝ってくれないって言うなら誰か他の人に…。」
「自分だけでやるって選択肢はないのか…。」
「そうだ!! 芽衣なら優しいし、頼めばきっと…。」
「芽衣なら今日は一日中部屋で政務をやってるよ。お前の何倍もの量の…な。」
「……。なら、麗紗に頼もう。あの娘も文官志望だし、今日は非番だって言ってたし。」
「麗紗なら確かに非番だが、今の時間帯は食堂で御飯作ってるんじゃないか? 麗紗は文官兼料理人として雇われたし。」
そういう俺も文武官として雇われていたりするんだが…。
「……。じゃあ、橙里なら。ちょっとキツイ言葉を使われることもあるけど、基本的には優しい娘だし、可愛いし、おっぱいおおk『ズドン!!!!!』……。」
「……俺の彼女をそんな目で見てたのか??」
「っ!! …嘘だって!! じょっ…冗談!!冗談だから!! 早くその弓をしまってくれ!!」
「ったく、笑えねぇ冗談だな…。」
「あははは…。」
一刀の所為で壁に穴が空いちまったな…。後で埋めておくとするか…。
「残る希望は…そうだ!! 奏なら…。」
「奏はこういうのが苦手なのはお前も知ってるだろ?」
「……万事休すか…。」
「まぁ、一人で頑張れ。」
一刀は物凄く落ち込んだ様子で俯く。
なんだかその光景を見ていると助けてあげたくなるような雰囲気を持っている。これが一刀の才能なのか…?
「ったく…。しょうがねぇ、半分寄こせ!!」
「良いのか!!?」
「あぁ…。このままにしたら本気で誰かに手を出しそうだからな…。 ……その代わり、今度何かしらで返せよ。」
「あぁ、分かった!!」
「じゃあ、ちゃっちゃと終わらせて飯食いに行くぞ。」
「お〜。」
こうして、再び書類と格闘することになる。
まったく、なんだかんだ言って俺も一刀に甘いもんだ…。
書類と再格闘すること一刻程。
残す所一刀の手元に一枚という状況…。ふぅやっと終わったか…。
「一刀、さっさと終わらせてくれ。」
「う〜ん…。」
「…何悩んでんだ?」
「悩んでるというか…。黄巾賊の被害が最近この洛陽周辺でも多いらしくてね…。それで、その光景を思い浮かべたら可哀想でね。」
「ふっ……可哀想…か…。」
「…何か可笑しいか?」
「可哀想って言葉を吐くお前が可哀想でな…。」
「どういう意味だよ!!」
一刀が声を荒げる。普段温厚な一刀にしては珍しい。
「珍しいな、お前が怒るなんて。」
「悲惨な現状を憂い、民の人たちの不安な状況を思い浮かべ、それに共感しただけだ!! 聖の言葉は、その民達を侮辱するのと大差ないじゃないか!!」
「別に民を侮辱はしてないさ。俺は『一刀』が可哀想であり、惨めだと思っただけだ。」
「なんだと!!」
「じゃあ、お前に何が出来る?」
「っ!!」
「戦う力もない、兵を統率する力もない、この悲惨な状況を看破するべく秘策もない…。まぁ、現代から来れば当たり前に持ってない力だが、この世界ではそれが大事になる。そんな世界で、お前一人が憂いたところで何が出来る?」
「…何か一つくらいは!!」
「ほら、具体的に出てこないだろ?」
「っぅ……。」
「それに、おまえ自身が自分で認めちまってるんだよ。」
「…何を?」
「言ったよな?『可哀想で仕方ない』って」
「ああ…。」
「その時点でお前は自分じゃ出来ないって、他の人にやってもらうしかないって言ってんのさ。」
「っ!!!」
「何か出来る奴はな…。その時にはもう具体的に何するか考えてるんだよ…。どうすれば賊の横行を止めれるか、賊討伐にどのくらいの兵が必要か、とかな…。」
「……。」
「お前が可哀想なんだよ、俺は…。この世界に力なく突然迷い込んじまったお前は、やりたいことがあってもその力がない…。そりゃ辛いことだろな…。でもな、そんなお前でもきっと変われる。俺はそう思ってる。」
「…本当か…?」
「本当だ。実際お前は、少しずつだが武も上達してるし、文字も読めるようになって今日みたいに仕事が出来てる。先の道のりはまだ果てしないものだろうが、お前には何かを成し遂げるための力がある。そう、思えるんだ。」
「俺に…何かを成し遂げるための力が…?」
「だから今は少しずつで良いから色んなことを吸収していけ…。そして、お前のやれること、やれないことをしっかりと見極めて、常日頃から考えるようにしろ。思いは力になる…そうだろ?」
「…やっぱり、聖は凄いな…。なんて言うか…大人として成熟してる気がするよ…。」
「俺なんかまだまだ甘ちゃんだよ…。一刀一人で出来ることをわざわざ手伝ってやってんだから…。」
「ははっ…。今はそれで助かってるんだけど…。」
「何時かは一人で出来るように…な。」
「ん…。聖は優しいな…。」
「優しかねぇよ…。これも一刀の教育の一環だからな…。」
「…聖らしいな…。」
「さてと、長話もこれくらいにして、早くそれを終わらせてくれ…。」
「ああ。えーっと、邑の被害がこことこことここで…。その被害がこんなもので…。」
「ん? 一刀、ちょっと見せてくれないか?」
「ん?良いよ、はい。」
「……これは…。」
「…どうかしたか?」
「案外良い発見をしたかもしれないな…。一刀、これはお前の手柄だ…。」
「何?なんなの?」
「さて、急いで詠のところに行ってくるか…。一刀、先に飯食っとけ!!午後は外に行くぞ!!」
そう言って執務室の部屋を出て、俺は詠の居るだろう玉座の間に移動する。
〜一刀side〜
午前中の政務が終わり、御飯を食べたところで聖から城門に武器を持ってくるように言われた。
なんだか凄くやな予感がするんだが…気のせいだろうか…。
「おっ!! 来たな。」
「…なぁ聖、これは一体…。」
目の前には、董卓軍の方々であろう紫色の鎧を身に纏った兵士達が、約100人ほど並んでいた。
「あぁ。実はな一刀。お前の書類を見てて気付いたんだが…多く被害を受けてる邑の場所が、あるところから等間隔にあることが分かってな。それで、きっと賊の根城がそこにあるだろうから、それを討伐するためにこうして兵を率いて向かうことになったんだ。」
「へぇ〜…。そいつは大変だね…。」
「何を他人事みたく言ってやがる。お前はこの討伐軍の副将軍だぞ?」
「ええっ!!!」
「お前が纏めた資料でこうなったんだ。ちゃんと責任はとらないとな。」
「そんな馬鹿な…。」
「大丈夫だ、一刀。お前はそれなりには強くなってる。そこら辺の賊なんかには負けねぇよ。」
聖は満面の笑みでそう言っているが…正直不安でしょうがない…。
それから数刻後…。
舞台は戦場の真っ只中。俺は剣を体の正面で構えながら敵と対峙する。
「死ね!!小僧!!」
「おぉぉりゃあああ!!」
賊が切りかかってきたのをかわし、返す手で胴を薙ぎ払う。
男は腹から大量に血を噴出し、絶命した。
初めは恐怖で体が震えていた。
しかし、賊が切りかかってきたときに『殺らなきゃ殺られる』と思い、気付くと体は動いていた。
その時の感触は今まで感じたことのない、とても奇妙で、とても生々しいものだった。
それから何人切ったのだろう…。
もう感覚が麻痺してきた。
初めにあった吐き気は、眩暈は…。
そんなものどこかにいってしまった。
乱世の世界であることは分かっている。しかし、こんなことが日常茶飯事に行われており、こんな体験を多くの人がしているのかと思うと血反吐が出る思いだ。
この乱世は早く終息しなければならない…。皆が平和に暮らせるために…。
そのためなら、俺は努力しよう。
俺の出来ることをやろう、それこそ血反吐が出る思いで…。
そして、それは聖のために、優しき王の誕生のために必要なことなんだ…。
俺の目線の先で剣を振るう聖。
その姿はまるで舞でも踊るかのように無駄のない洗練された動き…。
戦場でありながら一種の芸術のようにも感じてしまうこの光景。しかし、その目にあるのは憂いだけ。黄巾賊の人たちへの無言の追悼の意…。
聖のために出来ることをすることが、聖のためになり、俺のためになり、ひいては皆の為になる。
この世界を平和にするために…俺が出来ることはそこからだ…。
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 この二週間、書き溜め作りに徹してきましたが……あんまり進んでません…。 なので、更新ペースが落ちるとは思いますが…一週間に一話は上げれるようにしますので…読んでいただけると嬉しいです…。 第五章は、私自身が満足のいく作品が何個か出来てます。 お楽しみ戴けると幸いです。 次話は来週の日曜日にあげますね…。コメントお待ちしております。 それでは、お楽しみに…。 |
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