踊る双月2 |
気がつけば草原にいた。
私の目の前にはローブ姿の金髪の青年がいる。
「僕の名はブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ。
君達の言い方では英霊で世界に召喚された守護者だよ。
実は君に仕事の依頼があってここに来てもらったんだよ。
僕の世界のハルケギニアに使い魔として召喚されて欲しい。
報酬は受肉して君の思うままに生きることだよ。英霊エミヤ」
そして、そんな事を言い出した。
「なぜ私が?」
問い返して自分に意思と言葉が備わっていることに気がつく。
英霊の座から呼び出された身であるにもかかわらず、後始末を行うだけの殺戮兵器ではない。
「正直、その手の質問にはうんざりしているんだ」
ソレは私の質問にため息をついて答える。失礼な奴だ。
「ハルケギニアに本来存在しない因子が多数投入されたんだ。
調整しなくてはならなくて、それに君が選ばれた。
英霊なら他から魂を引っ張ってくるより穴が小さくてすむしね。
これが君がここにいて仕事に向かってもらう理由だね。
意思と言葉が与えられたのは仕事が殲滅じゃないからだよ。
さあ、覚悟はいいかい?」
一応、疑問には答えてくれたが、仕事内容以外はいつもどおり否応なしらしい。
「覚悟もなにも毎度のことだ。仕方あるまい。
だが何故私かは答えてないぞ。英霊なら他にもいるだろう。
それに私を投入してもイレギュラーが増えるだけではないかね?」
私は目の前の男に問いを重ねる。
「さあ?僕も仕事を振られただけで意味までわからないよ」
男は肩を竦めて無責任なことをいう。
「僕は世界間の仲介を任されただけで詳細は知らされてないんだ。
世界の都合に振り回されるのは何時もの事じゃないか?
あと本当なら君の世界の仲介人もいる。守護者じゃないけどね。
今は忙しくて手が離せないそうなんだ。
君が選ばれたのは君がその人の系譜で手っ取り早いからだって。
キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグさんていうんだけど。
会いたかった? あ、この杖が代理だってさ」
「イヤア、オ会イデキナクテ非常ニ残念ダナア」
「あはー。士郎さん本音だだもれですよー?
それから私の存在を無視しないで下さい。
そんな反応されたらルビーちゃん、うれしくて告げ口しちゃいそうです?」
ワレナガラレイセイな反応にブリミルの持つ魔杖がツッコんでくる。
オネガイヤメテ。
俺とルビーの漫才を無視してブリミルが告げる。
「さあ、もう時間だ。はじめようか。英霊エミヤ」
そして((杖 | ルビー))を掲げる。
草原からブリミルとルビーの姿が消えた。
代わりに現れたのは杖を持ちマントを纏った少年。
周りには少年の同年輩、同じ意匠の服の少年少女たち。
「前非を悔いて心を入れ替えます。どうか命だけはお助け下さい」
そして私を召喚したと思しき少年が土下座を始めた……
「……なんてこともあったな」
「あらシロウさん。考え事とは随分余裕ですわね?」
現実逃避する私に((桃色の魔王 | カトレア))が単色の瞳の笑顔で告げる。
右手に杖。左手にかつてマスターであったボロクズ。
「さあ、もう時間です。 そろそろ始めましょう。 覚悟はよろしいかしら?」
そして杖を掲げる。
私が最後に見たのは溜め息を吐くルイズ嬢と手を合わせてこちらを拝む平賀才人だった……
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