とある科学の自由選択《Freedom Select》 第 十 話 月下での余興の対峙 |
第 十 話 月下での余興の対峙
「でもまあそんな冗談は置いといて、そろそろ本当に面倒になってきたからさっさと終わりにしますか」
神命 選はSプロセッサ社脳神経応用分析所に侵入していた。彼と対峙しているのは、絹旗 最愛である。
「どうやって倒されたい?」
「そんな質問に応える超バカがどこにいますか?」
「そこは『どうやって殺されたい?』じゃないことに感謝して大人しく質問に答える所だろ?」
「随分と余裕ですね」
「ほら、俺って強いし。暗部の一人や二人問題じゃないからな」
いかにも余裕そうな表情を作って選は話している。
「さっきから超気になってたんですが、あなた一体何者ですか?」
「俺ってこれでも一応侵入者だからさ、そんな質問に素直に答えると思ってんのか?」
「超思ってませんが」
「じゃあ何で聞いたんだ?」
「それはあなたも同じでしょう」
「確かにそうだな」
確認するが、神命と絹旗は侵入者とそれを迎撃しに来た暗部であり、とてもこんな会話を交わす程の余裕は無いはずなのだ。
「って言うか本当にそろそろ始めないとさ、ここに来た意味が無くなるからもう始めるぞ?」
「お好きにどうぞ」
「じゃあまあ、お言葉に甘えまして」
そう言うと、神命は突然壁に向かって走り出しこう呟く。
「現在いるこの建築物を選択、引力を発生」
壁に到達する前にそういい終えた選は止まることなく壁に足をかける。するとまるで重力を無視しているかのように垂直に壁に張り付き、そのまま天井まで走って行き逆さまになって見せる。
「どうだ?面白いだろう?」
「確かに、たったそれだけと言うのなら超笑えますね」
しかし、どちらも笑うどころか口元に全くほころぶ様子は無い。
「確か、さっき出て行った方が能力追跡だったな。で、残ったお前は窒素装甲って訳だが……資料によれば、お前圧縮した窒素を操って大きな力を生み出すとかなんとかだったな。でも裏を返せば、窒素しか操ることが出来ないってことになるけど……」
そう言って神命は絹旗の方を再度見つめる。
「な、何ですか?」
「拍子抜けだな。これじゃ簡単に勝敗が着きそうだ」
「そんなに勝手に決めてもらっては超困るんですが」
「じゃあ遊んでみる?」
そう言うとまた彼は何かを呟いた。
「窒素を拒絶、身体を透過」
呟くと彼はゆっくりと扉のあった方へと天井を歩き始める。そこへまた絹旗は、手近な机を神命へ向かって投げてみる。が、先程と同じく机は彼の体をすり抜け勢いよく床へ落ちる。
それを絹旗は見届けると、今度は常人では有り得ない跳躍で選に拳を入れようとする。そして今回は絹旗の拳が神命の身体に触れたのを感じた。
「!?」
そこで彼女は驚いた。
何故なら、普通ならば彼女の拳が相手に当たるはずがないのだ。確かに彼女は窒素を操って巨大な力を生み出すことが出来る。しかしその範囲は彼女の身体からわずか数cm程であり窒素越しで物を持つ姿は彼女が直接持っているように見える程だ。
だからこそ彼女は驚いた。
当たるはずが、触れるはずが無いのだ。技が決まれば神命の身体は遠くへ吹き飛んでいるはずだ。しかし、肝心の彼は微動だにせず、彼女の拳が優しく彼の服を押さえつけているのを見て笑いながら言った。
「だから効かねえって」
そう言った時、彼は既に床の上に立っており先程破壊された扉の前に来ていた。
「やっぱ無理だって言ってもやりたくなるのが人間の性分なのか?まあでもどうせ、ここで人間としての一生を終えるんだけどな、お前は」
そして神命は扉があったはずのこの部屋唯一の出入り口の外へ手を伸ばす。
「これで人を殺るのは初めてだな。窒素の拒絶を解除。大気を選択、右手の平に圧縮。外部からの熱を拒絶、身体を透過」
すると突然部屋の外から中へ向かって風が生じた。
「流石に室内だと時間が掛かるか。遊んでやる、何処からでもいいから掛かって来いよ」
「言われなくても超ぼっこぼこにしてやりますよ」
そう言うと絹旗はさっき彼が呟いた言葉を思い出す。
(先程彼は『窒素を拒絶』と呟きました。そしてその直後の私の攻撃は窒素の層は彼には当たらず手だけが彼に超触れました。と言うことは『○○を拒絶』言ったものは彼に超触れることが出来ないと言うことになります。でも彼はその後拒絶を解除と言ったという事は今なら超攻撃が当たるはず)
そう考えた彼女はすぐさま彼に攻撃を仕掛ける。それに対し神命は部屋の外の廊下へ素早く移動する。
(今回は私の攻撃を移動して避けましたね。という事はやはり今は超攻撃のチャンスのようです)
確信した彼女は、彼を追いかけるような形でさらに攻撃を仕掛ける。しかし、神命はそれに対してただ背を向けて走るだけだ。
ここは研究所の丁度中心の様で廊下には外を見ることの出来る窓は一つもない。ただ蛍光灯が薄暗く照らしているだけの廊下を二人は走ってゆく。
「超逃げてばかりじゃないですか。どこまで逃げるつもりですか?」
「別に逃げてる訳じゃ無いんだけどな。中心部だとこの攻撃の準備に時間が掛かるんだよ。だからもう少し待ってくれないか?もう後少しであれが完成するから」
「誰がそんな技を使わせると思いますか?」
「でもそれにしては攻撃が温いな。その程度の攻撃が俺に当たるとは思えないんだが」
そう言いながら、彼は顔面目掛けて絹旗が放ってきた拳を避ける。
「どうした?疲れて来たか?動きが鈍いぞ」
「ちょこまかと動き回って……避けることしか能がねェ超クソ野郎が、私から逃げられるとでも思ってンですか」
「なんだかいきなり口が悪くなったな。あれか、『暗闇の五月計画』で一方通行の思考パターンを移植された影響か?」
「私が『暗闇の五月計画』の被験者ってことまで知ってンですか。なら尚更逃がす訳にはいきませんね」
「そうかい」
結構走り回った。そろそろ研究所の端の方まで着いた頃だろうか。窓からは淡い月明かりが差し込んでいる。その光景が見えた途端に、神命は進行方向を変え絹旗に向かって突っ込んで来た。
「でももうそろそろだ。待ってな今面白いもの見せてやるから」
突然神命は右腕を上に掲げた。
するとさっきまで何も無かった空間に眩い白光が生まれる。先程まで薄暗く照らされていた廊下は、その溶接のような純白の光によって明るく照らされた。
「な、何ですか……これは……」
「どうだ?こんな綺麗な高電離気体(プラズマ)だ、この月明かりの中でも負けず劣らず映えるだろ?」
「……プラズマ?」
高電離気体(プラズマ)???空気は圧縮されることで熱を帯びる。あまりの圧縮率で凝縮された大気は、摂氏一万度を超える高熱の塊と化し、周囲の空気中の『原子』を『陽イオン』と『電子』へ強引に分解してしまう。
そしてその超高温の物体はその形状を剣の様なものへと変えて行った。そのあまりの高温は絹旗の皮膚にまるで火傷を負ったようにじりじりとした痛みを植えつける。
「研究設備が超高温で溶かされていたと報告を受けていましたが……そういう事だったのですか……」
「御明察。まぁほとんど夜しか使わないから半分程しか正解と言えないがな」
最後まで余裕しゃくしゃくな表情で語る神命。
「流石に私の窒素装甲でもそんなもの振り回されたら超一溜まりもないですね」
「結局の所振り回すんだけどな。まぁ月並みには楽しかったよ。欲を言うともう少し知恵を振り絞って欲しかったくらいか」
そう言うと神命は一歩一歩絹旗の方へ近づいて来る。
そして後ずさりする絹旗の上に容赦無くプラズマの剣は振り下ろされる。
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第十話 | ||
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