俺妹 あやせたん百合る |
あやせたん百合る
「お兄さん……一体何の用でしょうか?」
男の人の部屋に入るというほとんど初めての体験にドキドキしながらわたしを呼び出した人物の帰宅を待ちます。
7月のとある日曜日の昼過ぎ、わたしは急にメールでお兄さんに高坂家に呼び出されました。直接会って話したい大事な用件があるという内容でした。
「一体、何の用なのかな?」
お兄さんが指定した待ち合わせ場所は高坂家の彼の部屋でした。その指定に酷く緊張しながらわたしは高坂家へと訪れたのです。
「桐乃もいるし……おかしなことにはならないよね?」
わたしにとって男性の部屋に上がるというのは人生の重要な変換点とも言える大事件でした。
もし、お兄さんがわたしを呼び出した意図が……その、愛の告白だったりした場合……そのまま流れ的に……なんてこともあり得るかも知れません。
だってここはお兄さんの部屋……ですから。
出掛ける前に念入りにシャワーも浴びましたし下着もお気に入りのに変えました。でも、そんなことはやっぱりあってはならないことだと思います。
やっぱりそういうことは2人の結婚が正式に決まってからでないといけないと思います。それにわたしはお兄さんのことなんて何とも思っていませんから。
と、その時扉のノブが回り、カチャッと音がしました。
ビクッと体を震わせながら首をゆっくりと回します。
「お兄さ…ん……えっ?」
そこに立っていたのはわたしをここまで案内してくれた桐乃でした。
「何だ、桐乃かあ。ビックリさせないでよお」
入って来たのが親友だったので安心します。
「あやせこそ何を緊張しているの? さっき案内した時の姿勢のまま固まってんじゃん」
桐乃がわたしを見ながら陽気に笑っています。確かに桐乃の言うとおりです。わたしは部屋に入って勧められるままにベッドに腰掛けた姿勢のままでした。
「仕方ないでしょ。男の人に呼び出されているんだもん。それにここ、お兄さんの部屋だし」
桐乃のおかげで口だけは動くようになりました。
「へぇ〜。あやせが緊張ねえ〜。学校でこれまで何十人の男子の告白を悉くあっさりと振って来た校内一の人気者の美少女の言葉とは思えないわねぇ」
「状況が違うんだから……同じ様に考えられる訳がないでしょ」
わたしを呼び出したのはお兄さんです。そしてここはお兄さんの部屋。校内で男子生徒に告白されるのとは訳が違います。
「ふ〜ん。それはどうしてかしら?」
「知らないっ」
桐乃からプイッと顔を背けます。
「ま〜アイツが戻って来るのにまだ時間が掛かりそうだからさ。待っている間、コーヒーでも飲んで待っていてよ」
桐乃はトレイに載せていたコーヒーカップを差し出してきました。デフォルメされた猫が描かれた可愛いカップです。
「ありがとう」
桐乃からカップを受け取ります。
正直、コーヒーは苦くてあまり好きではないのですがせっかくの好意です。
ありがたく頂戴することにします。
湯気の立つその黒い液体を少し口に含みました。
「うっ。やっぱり苦い……」
多分ブラックに違いないそのコーヒーはわたしにとって苦過ぎるものでした。
「桐乃〜。砂糖かミルクかある?」
口をしぼめながら桐乃を見ます。
「砂糖とクリープとどっちが良い?」
桐乃がトレイに載っている角砂糖の入ったビンとクリープを見せてくれました。
「え〜と、それじゃあ…………えっ?」
どちらにしようか意思表示しようとした瞬間でした。
突然全身から力が急激に抜けたのです。上半身が姿勢を維持できず前のめりに倒れていきます。
「おっと、危ないなあ」
わたしの体とコーヒーカップを支えてくれたのは桐乃でした。桐乃が正面から抱きかかえてくれたので、わたしは床に倒れることもコーヒーをぶちまけてしまうという惨事も避けることが出来ました。
「ごめんね、桐乃」
全身の力が抜けたまま、桐乃に抱き締められたままお礼を述べました。
「何か突然体に力が入らなくなっちゃって。すぐに戻るとは思うんだけど」
わたしの体は今も言うことをきかないままです。
「そっか……薬の効き目はバッチリという訳ね」
「えっ?」
桐乃は小さな声で何かを呟きました。
そして次の瞬間でした。
「じゃあ、今のあやせはアタシが何をしても反撃できないってことだよね?」
「へっ? えっ? ええ〜っ?」
わたしは桐乃に強い力で押されてベッドの上へと押し倒されていました。
「何で? 何が? どうなってるの?」
わたしの顔のすぐ上に桐乃の顔がありました。
「あやせが……悪いんだからね」
その桐乃の表情はさっきまでとは正反対に険しいものです。そして思い詰めたもののように見えます。
「なっ、何が?」
わたしには今の状況が何がどうなっているのかまるで分かりません。
「あんな偽のメール1通でこんな風にホイホイ簡単に呼び出されることがよ!」
「偽のメール?」
桐乃は懐から1機の携帯を取り出しました。ちょっと前に流行したその青い機種はお兄さんの携帯で間違いありませんでした。
「アイツ、模擬試験を受けに出掛けた際に携帯を忘れていったのよ。で、アタシが代わりに使ってあやせをここに呼び出したって訳」
「えっ? それじゃあお兄さんは?」
「今試験中でしょ。きっと夕方までは帰って来ないわね」
顔がとても近い桐乃はしてやったりの笑顔を浮かべました。
「何で、そんなことを?」
わたしは呼び出した人物がお兄さんでないことに内心でかなりガッカリしていました。でも一方で今の事態について尚更よく分からなくなりました。
「遊ぶ約束なら普通に連絡してくれれば良いのに」
「あやせと遊ぶんならともかく、あやせで遊ぶんだから普通にメールでなんか呼び出せないわよ」
「えっ?」
桐乃の言うことがよく分からなくて首を傾げた瞬間でした。
桐乃がわたしの胸を服の上から鷲掴みして来たのです。
「き、き、桐乃!? 桐乃の手が……わたしの胸を掴んでいるよ?」
女の子同士でもふざけて過度なスキンシップを取ることはあります。でも、桐乃の胸の揉み方はそれでは済まない力の入れようなのでした。
「はぁ〜。これが夢にまで見たあやせの胸の揉み心地なのね〜。いや〜本当に極楽だわ」
「桐乃?」
桐乃はうっとりと熱っぽい表情でわたしの胸を揉み続けています。しかも今度は両手を使ってです。
その奇妙な事態にわたしは困惑を深めるしかありません。
「ほんとっ、あやせをアイツにあげるなんて勿体無くて出来ない」
桐乃はわたしの胸を揉みながら今度は舌をわたしの首筋に這わせたのです。
「ひゃあぁああああああぁっ!?」
思わず変な声を上げてしまいます。
でも、ざらざらしながらもヌメッとした舌が首筋を這うという初めての体験にわたしの体はビクッと震えるしかありません。
だけどわたしの体には相変わらず力が入らなくて桐乃を跳ね除けることが出来ません。
「桐乃……一体どうしちゃったの?」
必死に桐乃に訴えかけます。
「みんな、あやせが悪いんだからねっ!」
でも、桐乃はわたしの言うことを聞いてくれなくて、わたしの洋服を脱がしに掛かったのです。
「止めて、桐乃っ! 冗談にしても限度があるんだよ!」
「冗談なんかじゃないものっ!」
そして遂に洋服とスカートを脱がされてしまいました。
緑色の上下お揃いの下着と白いソックスというとても恥ずかしい姿を桐乃に晒してしまっています。
「へ〜随分と可愛いのじゃない。京介に見せるつもりで気合入れて来たんだあ」
「どうしちゃったの、桐乃? おかしいよ。変だよ、こんなの……」
「おかしくなんかないわよ」
桐乃は自分も服を脱いで下着姿になりながらニヤニヤしています。
「だって、わたしは最初からこうするつもりであやせをこの部屋に招き入れたのだから」
服を脱ぎ終えた桐乃はわたしの脇をスッと摩ってきました。その絶妙な撫で具合に電撃が走ったかのようにビクッと全身が震えます。
「一体、どういうことなの?」
桐乃に肌を摩られて意識が朦朧としながら必死に問います。
「あやせはアタシのものなの。だから……京介には渡さない」
「えっ?」
どういうことなのか聞き直そうとした瞬間でした。
わたしの口は桐乃によって塞がれてしまったのです。
その可憐な唇によってです。
わたしのファーストキスの相手は…………女の子でした。
「きっ、桐乃っ!?」
約30秒後、ようやく唇を離してくれた桐乃に驚きと抗議の声を上げます。
もしかすると今日お兄さんとキスすることになるかも知れない。そう思ってとっておきのリップを塗って来た唇は桐乃によって奪われてしまいました。
「言ったでしょ? あやせはアタシのもの。京介には渡さないって。だからそれを実践してみただけ」
「桐乃が何を言っているのか全然分からないよ」
「なら……分かるまで何度でも実践してあげるわよ」
そう言って桐乃は再び唇を重ねてきました。そして今度はわたしの口の中に舌を入れてきたのです。
体の自由がろくに利かないわたしに抵抗する手段はありませんでした。
桐乃の成すがままでした。
初めてのキスよりも長い時間、わたしは桐乃に唇を貪られました。そしてその間にわたしの意識は朦朧としていったのです。
「女の子同士でこんなことをするなんて……おかしいよ」
朦朧とした意識ではこれが精一杯の反論でした。
「女の子の方が女の子の体をよく知っているんだから、いっぱい気持ち良くしてあげられるわよ」
「そういう問題じゃなくて……」
「それに昔のあやせは……アタシのことが好きだったんじゃないの? 性的……ううん、百合的な意味でさ」
桐乃の言葉に全身がビクッと震えました。
わたしは桐乃の言葉に同意も反駁も出来ません。
「昔はアタシのことを神聖視して一方で密かに欲望で汚そうとしていたのにさ。男が出来たらはいさようならってのはちょっとおかしいんじゃないの?」
「そ、そんなことは……」
「アタシの心に火を点けた責任はちゃんと体で払ってもらうからねっ!」
桐乃はわたしの首にキスを……ううん、キスというよりも吸い付いて来ました。
「だっ、ダメだよ。そんなことしちゃ。痕が付いちゃうよ」
「付けてるんだから良いの! あやせはアタシのものだっていう証をみんなに見せ付けてやるんだからっ!」
桐乃はますます力を込めてわたしの首筋を吸い上げます。
首筋に吸い付かれるというのは生まれて初めての体験でした。でもそれはきっと明日には痕が残ってしまうことが明らかな行為でした。
「あやせは京介には渡さないっ!」
「別にわたし……お兄さんのものじゃ」
「あやせはアタシだけのものなんだからっ!」
桐乃が今度はまたわたしの唇を激しく貪ってきました。その唇の動きはとても荒々しいのです。でも一方で、わたしを夢心地にするツボをよく心得ていて……。
わたしはもう何が何だか分からない状態に陥りました。
「あやせを……京介のベッドで奪ってやるんだから」
顔を近づけたまま桐乃が意地の悪い表情を浮かべます。
「だ、ダメだよ……桐乃。お兄さんのベッドでなんて絶対にダメぇえええええぇっ!!」
それはお兄さんを最も手酷い形で裏切ることと同じです。
でも、わたしの体は少しも動かず、意識も朦朧としています。
「さあ、あやせ。アタシが新しい世界に連れて行ってあげるから……」
桐乃の手がわたしのブラのホックを外した音が室内に響き渡りました。
「うっひゃぁ〜〜♪ あやせって胸綺麗よね〜♪」
桐乃のギラギラする視線を右腕で両目を隠すことで遮ります。
「お兄さん……ごめんなさい……わたし、わたし、もう……」
涙が止め処なく流れます。
でも、試験中のお兄さんがわたしを助けに来てくれることはありません。
「愛しているわよ……あやせ……」
ゆっくりと全身を重ねて来る桐乃をわたしは涙で滲んだ瞳で見ているしかありませんでした。
わたしに桐乃に抗う手段はありませんでした……。
「ゆゆゆ ゆるゆり いぇ〜す!」
とても爽快な目覚めでした。両手を高く天井に向けて伸ばしながら上半身を起こします。
時計を見ればまだ5時30分。目覚ましがなるまでにはまだ30分以上あります。でも、これ以上寝ているなんて出来ませんでした。
「何でわたしは今までこんな大事なことを忘れていたのでしょうか? 初心忘れるべからずだというのに」
今朝見た夢はわたしにとても大切なことを思い出させてくれました。どんな夢だったのか詳細は覚えていません。でも、メッセージは確かに受け取りました。そう──
「わたしは桐乃のことが好き〜〜っ! 愛してる〜〜っ!」
わたしは去年まで確かに抱いていたとても大切な感情を思い出しました。
「最近は桐乃のことを恋のお邪魔蟲とかライバルとか、邪魔だからいつか山に埋めてやろうとかそんなことばかり考えてきたけれど──」
両手を頬に当てて桐乃のことを思い浮かべます。明るくて優しくて可愛いわたしの学校が全日本に誇るパーフェクト・スーパー中学生のことを。
「桐乃に比べればお兄さんなんかゴミですよね。エロゲーが大好きで近親相姦を訴える変態ですし、もうゴミ以下ですね。綺麗なワカメ以下の存在です」
考えれば考えるほどあのセクハラ変態男のことが許せなくなります。
「とりあえずあの男の携帯を着信拒否に設定しましょう」
早速携帯を取り出して着信拒否設定します。桐乃を害する変態と対話チャンネルを今まで開いていた自分が許せません。
通話記録の中でもあの変態に掛けた履歴は全部削除します。あの男と口をきいていた会話が記録として残っているだけでも不快です。何故かわたしの携帯はあの変態と会話した履歴だけは1年分全部残していましたが、全部消しました。
「さあこれで変態に関する過去の清算は終了しました」
髪をスパッと切るぐらいの思い切りの清算をした気分です。
「後は……桐乃とどうすればゆるゆり、ううん、ガチゆりな展開になれるかですね」
あの変態はきっと今でも桐乃の可憐な唇、そして体を狙っているに違いありません。あの変態シスコン男の毒牙に掛かる前にわたしが桐乃を解放しないと。
そして、そして──
『ありがとう、あやせ。あの変態から救ってくれて。お礼は…………アタシ、自身ね』
服を脱ぎながら自分から唇を近づけて来る桐乃……。
「マーヴェラ〜〜〜〜〜〜スっ!」
体の奥底からエネルギーが溢れてきます。
今なら伝説のスーパーあやせたんにもなれそうな気がします。
思えばあの変態を狙っている際には、自分を常に抑えておかないといけない。常に淑女たらなければいけない。そんな力がわたしに働いていました。
でも、今回は違います。
桐乃にだったら、全力で未完成しても良い。魂込めてフルパワーで、それ以上の主人公補正を期待しても良い。
そんな気がするのです。
「そうです。わたしは……桐乃と結ばれる宿命にあったんです」
首を縦に振りながらわたしの運命を口にします。
何故今まであんな変態男に構おうとしていたのか自分がまるで分かりません。
でも、今はっきりと目が覚めました。
わたしは桐乃と百合る。だって絶望的に桐乃は綺麗なのですから。
それこそがわたしの真の生きる道なのだと。
「桐乃にはわたしの娘を産んでもらいますよ〜〜〜〜っ! その逆でも可〜〜〜〜っ!」
わたしは大空に羽ばたく白鳥のように軽やかな心で自分の目標を口にしたのでした。
新生新垣あやせの誕生の瞬間でした。
「今日は天気も良いし……絶好のセクハラ日和だなあ」
7月快晴の空の下を学校へと向かって歩いていく俺の足はいつになく軽快だ。思わずスキップしちゃうほどに。
こんな日はきっと良いことがあるに違いない。
そう思いながら進んでいると、前方に艶のある長い真っ直ぐな髪を静かに揺らしながらゆっくりと歩いている美少女を発見。
「あれはマイ・ラブリー・エンジェルあやせたんではないか」
朝から天使に遭遇できるとはこいつは縁起が良い。
だが、単に縁起が良いで済ませて良いのか?
こんな幸運、二度とないのかも知れないぞ。
いや、二度とないに違いない。
なら、ここを単なる幸運で終わらせるなんてあっちゃならない。この幸運を最大限の幸福に換える努力を自分でしなければっ!
「よっしゃっ! 俺は今日この瞬間からあやせたんルートに突入するぜっ!」
セクハラは二度としないと誓った。
だから俺は今日本気であやせを口説き落としに入ることに決めた。
「待ってろよ、あやせ。今すぐ俺のストロベリートークでメロメロにしてやるからな」
俺はスキップのリズムを2倍に上げながらあやせへと近付いていった。
わたしは桐乃とどうすればガチゆりへと進化できるか考えながら登校していました。学校がだいぶ近付いて来たその時でした。
「よぉ〜。あやせ〜〜良い朝だな」
聞き慣れたとても不快な声が背後から聞こえてきました。まるでゴキブリでも投げ付けられたかのようなおぞましさです。
でも、姿が見えないのは背中にゴキブリを這わせたまま放置しているような感覚なので仕方なく顔を振り返ります。
振り返った先に立っていたのはこの世で最もおぞましい変態近親相姦シスコン男でした。
「こんにちは」
気のせいかあやせの声はとても冷たいものに聞こえた。
まるで妹と大喧嘩している時のように俺を汚らわしいものと断定した声で。
いや、だが、最近の俺とあやせはそこまで仲が悪くない筈だ。あやせの冷たい声は俺の聞き間違いだろう。俺の眠っているM属性があやせに女王様を求めたのかも知れない。
まあ良い。あやせたんルートに入る為に仕切り直すことにしよう。
「よぉ。今日は本当に気持ちが良い朝だよな」
「挨拶なら今したと思いますが」
……やっぱりあやせの声が限りなく冷たい。昔に戻ったみたいだ。
何故だ?
何故あやせは俺に対してこんな冷たい声を出すんだ?
原因は何だ?
この間だって、相談という名の無茶なマネージャー稼業もちゃんとこなした筈なのに。
一体何が原因でアイツは怒っているんだ?
分からん。
だが、障害が大きければ大きいほど燃え上がるのが俺・高坂京介の真骨頂だっ。あやせたんの冷たい視線ぐらいに負けていて夫婦が務まるかっての!
俺は、この困難に負けずにプロポーズを果たしてみせるぜっ!
「あやせ……話を聞いて欲しいんだ」
「わたしは貴方と話したくありません」
「グハッ!」
キツい。今日のあやせたんはキツい。本当に昔に戻ったみたいだ。だが、俺は負けないっ!
「あやせっ!」
強引に彼女の手を握る。そして瞳を見つめながら俺はありったけの想いを込めてあやせに正真正銘本気のプロポーズをした。
「あやせ……俺と結婚してくれっ!」
俺は自分の全力全霊をあやせにぶつけた。
変態男にプロポーズされた。
その瞬間にわたしが感じたのは、自分が言葉で汚されたという絶望感でした。
わたしにプロポーズして良いのは桐乃だけなのに。その言葉を聞きたいのは桐乃からだけなのに……。
わたしの中に次に湧き上がったのは激しい、制御出来ないほどに激しい怒りでした。
「何でそんな気持ち悪いことを平然と言ってのけるんですかっ!」
怒りの原因となった変態を激しく睨みつけます。
「おいおい。俺は本気でプロポーズしてるんだからそんな怒らなくても……」
「それが気持ち悪いって言ってるんですっ!」
先程の言葉がわたしの脳内で蒸し返されます。まるでムカデが沢山入ったご飯を食べさせられている気分です。
「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……うっうっうっ」
「そんなに気持ち悪いって連呼するなよ……って、泣いてるぅっ!?」
変態はわたしを見ながら体を仰け反らせて驚いています。
「女子中学生を言葉で苛めて泣かせておきながら、何なんですか、その態度はっ!」
顔を涙でぐしゃぐしゃに濡らしながら変態に抗議します。
「いや、俺はあやせを泣かせるつもりなんて全然……。ただ、俺の愛情をお前に伝えたくて」
「それが気持ち悪いってどうして分からないんですかっ! この馬鹿っ! 変態っ!」
涙が止まりません。止まる筈がありません。こんな変態に愛なんて言われたら誰だって気持ち悪いに決まっています。
「いや、そんなにマジで嫌われると俺は……その、どうせなら蹴りとかスタンガンの方がまだスッキリするんだが」
「貴方みたいな変態に触れるなんておぞましいことが出来る訳がないじゃないですか!」
涙を流し声を枯らしながら目の前の変態に嫌悪感を表現します。
「………………そのさ」
「何ですか? 気持ち悪い」
「そんなに俺といるのは……嫌か?」
「…………嫌です」
一瞬沈黙を置いた後のあやせの回答はとても実感の篭ったものだった。
口調が厳しくない分、受けるダメージはいつもの比では大きかった。
「そっか。そんなにあやせは俺のことが嫌い……なのか」
「はい。嫌いです」
あやせの口調に迷いもツンデレっぽい要素もまるで見られなかった。
「そっか……今までまとわりついてごめんな」
「それでは失礼します」
あやせは俺に背を向けて遠ざかっていく。
俺にはその背中をボンヤリと見送るしかない。
「そっか。あやせと仲良くなったと思ったのは……俺の勘違いだった訳だ」
あやせに思い切り泣かれてしまった。俺との会話中にあんな風にボロボロと涙を流されたのは初めてのことだった。
「もう……あやせに話し掛けることは出来ない、よなあ」
女の子を苦しめて泣かせるという最低な真似をしてしまった。もう2度とあやせに付きまとうような真似はさすがに出来ない。
「ごめんな、あやせ。もう2度と絡んだりしないからさ……」
俺は携帯を取り出して新垣あやせに関するデータを全て削除した。
これで許されるとは思っていない。
けれど、これはもう2度とあやせに付きまとわないという決意の表れだった。
「明日からは通学路を変えよう」
この程度が泣かせてしまった大好きだった少女へのせめてもの罪滅ぼしだった。
通学路で変態に精神的陵辱を受けるという堪え難き苦痛を受けましたがようやく学校に到着しました。
「早く……桐乃分を吸収しないと」
変態近親強姦魔によって受けた痛手は桐乃の笑顔を見ることでしか癒されません。
校門に辿り着いたわたしは駆け足で教室へと向かいました。
始業ベルまではまだ1時間近くあります。だけど桐乃には陸上部の朝練があります。
だから今日もきっともう来ている筈。桐乃のポニーテール姿を見られるのは陸上部の時だけなのでちょっとウキウキしながら教室の扉を開けたのでした。
「おはよう」
扉を開きながら教室内部をよく観察します。まず目に入ったのは桐乃の机でした。
「えっ?」
わたしは落胆の声をあげざるを得ませんでした。
桐乃の机の上やその周辺には何も置かれていません。それは彼女がまだ学校に来ていないことを示す何よりも有用な証拠でした。
「桐乃……っ」
今日は陸上部の朝練がなかったのでしょうか。グラウンドを走り回っている女子生徒たちがいたのでてっきり陸上部だと思ったのですが。
落ち込みながら自分の席へと向かいます。
と、わたしは自分の席のすぐ側まで来た所であり得ない人物が既に来ていることに気付きました。
「加奈……子?」
遅刻の常習犯、来栖加奈子が俯いて暗い影を落としながら座っていました。
加奈子はわたしが歩いて来ているのにもまるで気付かずに溜め息を何度も繰り返しています。
深く悩めない馬鹿として定評がある加奈子が一体どうしたのでしょうか?
「あの、加奈子?」
もしかするとハルマゲドンの到来かも知れないと思い声を掛けます。まだ桐乃に娘を産んでもらっていないのに死ぬわけにはいきません。
「ああ……あやせか」
加奈子が死んだ魚の濁った瞳で顔を上げました。
「何をそんなに落ち込んでいるの?」
「今朝、登校中に嫌なもん見ちまったかな。それで、気分がブルーなんだよ」
加奈子の言葉にはほとんど抑揚が感じられません。魂がどこかに抜けてしまっている感じです。
「嫌なものって?」
「あやせと京介の痴話喧嘩だよ……」
加奈子は死んだ瞳のままわたしをジッと見ました。
「わたしがあの変態と痴話喧嘩っ!? 一体、何を言っているの?」
「あたしは見たんだよっ! 通学路で京介があやせにプロポーズして……それからお前が照れ隠しで怒って2人が痴話喧嘩しているシーンをっ!」
加奈子の瞳に力が宿りました。でもその力は明らかに嫉妬とか妬みとかそういう負のエネルギーでした。
「何言ってるのっ? わたしがあんな変態と痴話喧嘩する訳がないじゃないっ!」
加奈子の嫌疑を力いっぱい否定します。
あんな変態と付き合っていると思われるなんて心外も良い所です。
「あやせこそ何言ってんだ。オメェ、あれだけ京介に熱上げてたじゃねえかっ!」
「わたしはあんな変態近親相姦犯罪者のことなんかこれっぽっちも好きじゃありません!」
きっぱりと言って返します。
「だってこの間だって無理やりマネージャーを京介に頼んで…すっげぇー楽しそうにしてたじゃねえか」
「あれは偶々他に頼める男性がいなかっただけ。楽しそうに見せていたのは単なる営業スマイルです」
わたしがあの変態に笑顔を振り撒くなんてあってはならないことです。
「じゃあ、あやせは本当に京介のことを好きじゃないんだな?」
「当たり前です。あんな変態を好きになる訳がありません」
加奈子にきっぱりと言って告げます。
「そっかぁ〜。良かった〜」
加奈子は大きく息をなでおろしました。
「加奈子は随分嬉しそうね」
安堵してニコニコし始めた加奈子を見ながら問います。
「そりゃあそうだろ。あやせと京介が付き合ってたら……あたしは失恋していた所だったからな」
加奈子はキッパリと言い切りました。
「あたしは今朝、京介に告白するつもりで早く家を出たんだ。そうしたら京介があやせに楽しそうに話し掛けているのを見て、落ち込んじまってさ」
「ふ〜ん」
昔捻くれ者の代表格だった加奈子が今では真っ直ぐに恋する乙女の代表格になっています。
わたしとしてはあんな変態のどこが良いのだか全く理解に苦しみますが。
でも、考えようによってはこれは良い機会かも知れません。
上手くいけばあの変態をこの三次元メルルに押し付けられるかも知れません。
そうすれば……わたしにちょっかいを出して来ることも桐乃に付きまとうこともなくなる筈です。
うん。これは良い考えだと思います。
「ねえ、加奈子? あの変態とデートしてみたいと思わない?」
「デ〜〜〜〜〜〜ト〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」
加奈子は予想以上に大きな声を上げながら反応を示しました。でも、その瞳はピカピカと輝きを放っておりわたしの言葉に興味を惹かれているのは間違いなさそうでした。
「そうよ。あの変態と加奈子がデートするの」
「そ、そりゃあ、京介とデートできればあたしは幸せだけどさ。でも、京介はあたしのことなんて全然相手にしてくんねえしさ」
加奈子は口を尖らせながらイジけた態度を取ります。
「大丈夫。わたしが上手くセッティングしてあげるから」
「ほっ、本当かっ!?」
「うん。だからデート中に必ずキスはすること。あの変態を絶対にものにして」
そうすればわたしと桐乃の間の妨害物はなくなるから。
黒い笑みが毀れそうになるのを抑えて携帯を取り出します。
お兄さんのメールアドレスを選択し、文章を打ち込んでいきます。
『 あやせです。大事な用件がありますので放課後いつもの公園まで 』
以前メールを送信していた時と同じ様に簡潔に内容だけ打って送信します。
「これであの変態は必ず放課後に自宅近くの公園に来るわ」
あの変態はわたしに嫌われたことに落ち込んでいました。だから尚更やって来る可能性は高いと思います。
「後は加奈子が頑張ってあの変態を落としなさい」
あの変態は実の妹にも平気で手を出すような男です。相手がどう見ても小学生にしか見えない三次元メルルでもきっと余裕だと思います。
子供でも出来てくれればあの変態を半永久的に加奈子に押し付けることが出来るのですが。いや、それ以前に今の加奈子が子供の出来る体なのか知りませんが。
「…………あやせは本当にそれで良いのか? あたしは全身全霊で京介にぶつかるぞ」
「ぶつかってくれないとコーディネートした甲斐がないわ」
「…………そうか。なら、あたしは全力を尽くす。そして、京介と結ばれてやるからな」
決意表明した加奈子はとても良い表情をしていました。
わたしにはあんな変態のどこが良いのかまるで分かりませんが。
まあたで食う虫も好き好きと言いますから、変なの同士くっ付いていれば良いと思います。
「じゃああたしは放課後に備えて保健室で寝てくる。昨夜は緊張して眠れなかったから」
加奈子は席を立ってフラフラと教室を出て行きます。
「何しに学校へ来ているんだか……」
大きな溜め息が漏れ出ます。だけど加奈子は振り返らずにそのまま出て行ってしまいました。
「だけどこれであのド変態は上手くいけば加奈子が処理してくれる。後は……わたしが桐乃と結ばれるだけ……っ♪」
桐乃の登校を心待ちにしながら自分の席に座ります。
「そう言えば……今日体育あるわね」
体育といえば更衣室での着替えが最初にすることです。今までその行為に何の感慨も湧きませんでしたが……考えてみるともの凄いことをしていたんじゃないでしょうか?
「はっ、半裸の桐乃と密室空間……っ!?」
そうです。わたしは体育の度に桐乃のブラやショーツを見ていたのです。これって、本当に大変なことじゃないかと思います。
「体育が始まったら2人1組で準備体操……わたしは、いつも桐乃と組んでいたっ!」
それはそれはとても凄い事実に今更ながらに気付きました。
そうです。わたしは薄着の桐乃と1週間に3度も密着する機会をこれまで得ていたのです。我ながら恐ろしい果報者であったことに今更になって気付きました。
『あっ、あやせぇ……そんなに腿を撫でる様にストレッチしないでよぉ』
『ダ〜メ。よ〜くほぐしておかないと怪我しちゃうかもしれないでしょ』
桐乃に堂々と触れるわたし。
それはまさしく。それはまさしく……。
「ヴィクトリィ〜〜〜〜〜〜っ!」
わたしは桐乃が学校へやって来るのを今か今かと心待ちにしていました。
でも始業ベルが鳴っても桐乃はやって来ませんでした。
放課後、わたしは高坂家の前に立っていました。
桐乃が学校を欠席したのでお見舞いにやって来たのです。
「桐乃……大丈夫かな?」
心配しながら呼び鈴を押します。
けれど、しばらく待っても何も応答がありません。
「留守……の筈はないよね」
もしかすると桐乃は寝ていて呼び鈴に気付かないのかも知れません。
さて、どうしましょうか?
「…………桐乃が寝汗を掻いて気持ち悪がっているかも知れない」
桐乃がやっぱり心配です。
わたしはとあるルート(田村屋)を通じて入手した高坂家の合鍵を使って玄関を開けて入っていきます。
「お邪魔しま〜す」
思った通り、桐乃のご両親は不在のようです。あの変態は加奈子の所に出向いているのでしょうから今現在この家には桐乃しかいない筈。
「何か急に暑くなって来ましたね」
額から汗を掻きながら2階の桐乃の部屋へと向かいます。
桐乃の部屋の前に辿り着きました。
「この部屋の中に桐乃が……しかも着崩れて息を乱した桐乃が……」
室内の桐乃の姿を想像すると体が芯から燃え上がって来ます。
「入るよ……桐乃」
ドアノブを掴んで回そうとします。
ところが桐乃の部屋は鍵が掛かっていてわたしの侵入を許しません。
「病気の最中に鍵なんか掛けていたら、家族だって入れなくて病気が悪化しちゃうかも知れないんだよ」
桐乃の為を思い鞄から糸ノコを取り出します。
そして、一切音がしているように見せない高技術を生かしてちょちょっと鍵の出っ張り部分を切り落とします。
わたしほどの熟練工の手に掛かると作業はほんの30秒で済みます。音さえ立ててよければ5秒で済むのですが。ともあれこれで鍵は無用になりました。
「さて、桐乃……お邪魔するね」
ドキドキしながら室内へと入ります。
桐乃は予想通りに寝ていました。頬はまだ赤く熱があることを示しています。
額に乗っているタオルはもう生ぬるくなっています。
そのせいか少し気持ち悪そうな寝顔に見えます。
「桐乃……辛いよね」
わたしは事前に用意しておいた熱さまし用のシートを桐乃の頭に乗せます。
これで少し気分が良くなってくれると嬉しいのですが……。
「あれっ? あやせ?」
桐乃が目を覚ましました。頭を触っていたからでしょうか。
「えっと……やっほぉ〜」
不審がられないように殊更明るい声を出します。
「お見舞いに…来てくれたんだ」
桐乃は熱がまだあって辛いだろうにわたしに向かって微笑んでくれました。
感動ですっ!
「あれっ? でも今この家アタシの他に誰もいない筈なんだけど。どうやって上がったの?」
桐乃が首を捻りました。まずいです。話題を逸らさないと。
「えっと、あの変態…じゃなくてお兄さんが通してくれたの」
「でも今日は校内模試とかで夕方まで学校に閉じ込められている筈なんだけど?」
桐乃が窓の外を見ました。まだ日は高いです。まずいです。これは何とか強引にでも乗り切らないと。
「えっと。桐乃は今、何かして欲しいことはある?」
話題を変える。これに限ります。
「別に……特にないけれど」
桐乃は部屋の中を見回しました。そして、扉が開いていることに気付いてしまいました。
「そう言えば……鍵掛けて寝ていた筈なのに……なんで扉が開いているんだろう?」
桐乃はまた首を捻りました。病気のせいでいつもの速い頭の回転は出来ないようですが、いつ真実に辿り着くか分かりません。
こうなっては仕方ありません。強引に、この家に来た目的を遂げるしかありません。
「桐乃……寝汗を沢山掻いているよ」
「あっ、本当だ」
桐乃の額にはびっしりと汗が吹き出ています。更にオレンジ色のパジャマも所々汗による変色が見られます。
「わたしが体を拭いてあげるね」
こんなこともあろうかと用意しておいた洗面器とタオルを見せます。
「えっ? 悪いからい〜よ」
桐乃は遠慮しました。
でも、わたしはこれが目的で来たのです。引き下がれる訳がありませんでした。
「女の子同士なんだし……遠慮することはないよ」
桐乃の背後に回り、そのまま手を伸ばして寝巻きのボタンを一つ一つ外していきます。
「はっ、恥ずかしいってば」
「女の子同士なんだから♪」
桐乃の言うことを聞かずにボタンを外し終えます。
パジャマを脱がして今度は白いシャツを脱がしに掛かります。
「分かった。自分で脱ぐから」
「遠慮しない。遠慮しないの♪」
シャツもスパッと脱がせることに成功しました。
「桐乃……病気の時はブラしない方が楽だよ」
桐乃の胸にはまだ最後の砦が残っていました。
「それはそうなんだけど……でも、ほらさ。場合によってはアイツに体拭いてもらうこともあるかも知れないし。そうなったら……やっぱりブラ、必要じゃん」
桐乃の顔が更に真っ赤になりました。
でもわたしは桐乃言葉を聞いて別の意味で真っ赤になりました。
「兄妹でそんなことを考えているなんて不潔だよっ!」
ちょっと力を込めて桐乃の体を拭き始めます。
「ひゃぁあああああぁっ!?」
桐乃が驚きの声を上げますがお構いなしです。
「くっ。くすぐったいってばっ! だ、ダメだって〜〜っ!」
桐乃は笑い声をあげています。でも偶に──
「あっ」
凄く色っぽい声を上げます。そしてその声はわたしの鉄の理性をいとも簡単に壊していくのでした。
「桐乃は……そうやってわたしのことを誘っているんだね」
「へっ?」
桐乃の運動選手とはとても思えない白い肌がわたしの目に焼きついて離れません。
やっぱりこれは……桐乃からの婉曲な誘惑で間違いありませんっ!
「きっ、桐乃がっ! 桐乃が悪いんだからねっ!」
「えっ? 何っ? 何の話っ!?」
桐乃が驚きながら振り返ります。その際に真っ白いブラジャーが目に入ってしまいました。
その下着の白さはわたしを1匹のケダモノに変えてしまうには十分な破壊力を有していました。
「桐乃がそんなはしたない格好でわたしを誘惑するからっ!」
「誘惑って何っ!? …………って、きゃぁああああああぁっ!?」
気が付くとわたしは桐乃の両肩を掴んでベッドへと押し倒していました。
目の前に桐乃が、桐乃の火照った体がありました。
「きっ、きっ、桐乃〜〜〜〜っ!」
我慢しきれなくなって桐乃の胸に顔を埋めます。
「嫌ぁあああああああぁっ! なっ、何をするのよ、あやせ〜〜〜っ!」
桐乃が何か抗議していますが当然無視です。
「桐乃がっ! 桐乃が可愛いからいけないんだよっ! わたしの理性を溶かしちゃうぐらい可愛いのが悪いんだからあっ!」
「訳分かんないわよ〜〜っ! 嫌ぁああああああああぁっ!」
暴れる桐乃の両腕を押さえ付けてその胸の感触を両の頬で感じます。
やっぱり桐乃は可愛いです。この子は絶対わたしだけのモノにしてみせますっ!
「体調不良の所を悪いのだけど……桐乃には、わたしの娘を産んでもらうからっ」
「娘を産むって……何を言っているの?」
「桐乃〜〜っ♪ 子供が出来ることをこれから2人でしよう〜〜っ♪」
声を掛けながらブラに手を掛けます。そして力づくで剥ぎ取ります。
桐乃の胸が丸見えになりました。盛り上がり方も先端もとても綺麗です。携帯の待受画面にしたいぐらいです♪
「きゃぁああああああああああぁっ!!」
それでも桐乃は動けない体で必死に抵抗を続けます。ですがきっとすぐに女の子同士の良さを分かってくれると思います。
「嫌ぁああああああああぁっ! 変態〜〜〜〜っ! 誰か助けてぇええええぇっ!?」
「無駄だよ。だってこの家今誰もいないんだから。はぁはぁはぁ。さあ、桐乃。一緒に女の子同士の楽園に行こう〜♪」
「嫌ぁああああああぁっ! 変態強姦魔〜〜っ!」
嫌よ嫌よも好きの内。
わたしは新世界のイヴとイヴになるべく、桐乃の可憐な唇に向かって自分の唇を近づけていきました。
「いっただっきま〜…………グフェッ!?」
「桐乃から今すぐ離れなさいっ!」
女の人の声が聞こえたと思った瞬間、わたしの体は大きく吹き飛ばされました。
変態男のタンスにぶつかってようやく体が止まります。でも、ぶつかった衝撃で体がすごく痛いです。
「なっ、何するんですかっ!」
わたしを突き飛ばした犯人の顔を見ます。
するとそこに居たのは赤いリボンを付けた黒いセーラー服の女性でした。
あの人は……
「くっ、黒猫さんっ!」
昔あの変態男をまだ追っていた時の宿命のライバル黒猫さんに間違いありませんでした。
「貴方は病人相手に何をしようとしていたのっ!」
黒猫さんは桐乃を背に庇いながらわたしを睨み付けます。
「お姉ちゃん……助けてぇえええええぇっ!」
桐乃は黒猫さんの背中でブルブルと震えています。そしてその身をピッタリと黒猫さんに密着させています。2人は凄く親密に見えます……。
「やっぱりお前が諸悪の根源っ! わたしからあの変態男を奪い、今度はまた桐乃さえも奪っていこうとするっ! このっ、泥棒猫があっ!」
恨みと憎しみを篭めて宿敵泥棒猫に向かって突撃を敢行します。
泥棒猫を倒してアイツの目の前で桐乃と愛し合う姿を見せつけてやろう。
そう心に決めました。
「死ねぇええええええええええええええぇっ!!」
泥棒猫の細い首に向かって手を伸ばします。勝った!
そう思った瞬間でした。
「貴方、なかなか面白いものを持ち歩いているのね」
「えっ?」
自分の体からバチッと大きな音が爆ぜました。
次の瞬間、目の前が急に真っ白に染まり、今度は急激に暗黒の闇へと景色を変えました。
「これ……合法モノではないわね。どこで手に入れたのかしら? おかげで助かったけど」
泥棒猫の声が聞こえました。
そしてバチバチと音が鳴り響いているのが聞こえているのを最後にわたしは意識を手放しました。
先輩から桐乃への見舞いをお願いするメールを貰ったのは昼休みのことだった。
桐乃が風邪を引いて寝込んでいる。
お袋は法事の都合で夜遅くまで帰れない。
俺は校内模試で夕方遅くまで学校に監禁。
だから黒猫が見舞いに行ってやってくれないか?
アイツきっと大喜びするから
携帯を閉じて軽く息を吐く。
「今は松戸の学校に通っているのだからあまり気軽に言わないで欲しいわね」
今の学校からだと高坂家まで片道1時間ちょっと、往復だと2時間半。滞在時間を含めれば3時間強。
自宅で主婦の役割を果たしている人間としてはなかなか難しい時間の捻出。
「学校終わったら日向に電話しておかないと」
放課後のプランを組み直して目を閉じた。
放課後を迎えて約1時間後、私は高坂家の前に到着していた。
乗り継ぎが奇跡的に上手く行ったので思ったよりも早く来れた。
「さて、あの子はちゃんと寝ているのかしらね? ……うん?」
玄関を見て違和感を覚える。
「開いてる?」
玄関の扉が微かに開いていた。
ゲーム制作時、そして先輩と付き合っていた時にこの家には何度も来たことがある。その際に玄関が開いていたことなど一度もない。お義父さまが警察官ということもあって高坂家の防犯意識は普通の家よりも高い。
そんな高坂家で玄関が閉められていないという事態があり得るのかしら?
不審なものを嗅ぎとったわたしはカバンの中に入っていた折り畳み傘を左手に持ち、庭に撒かれている小石の幾つかを拾って制服のポケットに忍ばせた。
そして音を立てないように慎重に家の中へと足を運び入れた。
家に入るとすぐに2階が騒がしいことに気付いた。今この家には病気療養中の桐乃がいるだけの筈。その2階が騒がしいということは…………っ!
「桐乃っ、今助けに行くわっ!」
シャーペンを目潰し道具用に1本右手に握りながら2階へと急ぐ。
階段を登っていると上から声が聞こえて来た。
『嫌ぁああああああああぁっ! 変態〜〜〜〜っ! 誰か助けてぇええええぇっ!?』
もう間違いなかった。
桐乃は暴漢に襲われているのだ。
警察に連絡をとも思った。
でも、この一瞬の遅れが桐乃にとっては永遠の苦しみへと繋がるかも知れない。
それを考えると暢気に電話している暇はなかった。私は全力で階段を駆け登る。
『嫌ぁああああああぁっ! 変態強姦魔〜〜っ!』
声が聞こえて来るのは桐乃の部屋。
幸いにして桐乃の部屋は半開き。鍵が掛かっていない状態だった。
でも、桐乃の声は切羽詰っていた。一刻の猶予もないことを示している。
だからもう後は出たとこ勝負だった……。
「怖かったよぉおおおおぉっ! お姉ちゃ〜〜〜〜んっ!」
桐乃は子供の様に大きな声を上げて大粒の涙を流しながら私に抱き着いていた。
「よしよし。悪い女はもう退治したから大丈夫よ」
幼い下の妹と接するのと同じ要領で優しく右手で頭を撫でながら私よりも身長の高い妹をあやす。
新垣あやせという名前の犯罪者はグルグルに縄で縛って窓からゴミ集積場に放り投げておいた。
「もう大丈夫よ」
左手で背中を摩りながら念を押す。
「本当?」
まるっきり子供に戻った表情と態度で尋ねる桐乃。
「ええ。大丈夫だから」
太鼓判を押して安心させる。姉スキルA+の保有者を甘く見ないで欲しい。
「それから、その格好をどうにかして頂戴。風邪がぶり返してしまうわよ」
今の桐乃は上半身裸。幾ら女同士とはいえやっぱり恥ずかしいし、それに何より病人が裸でいるのは良くない。
「うっ、うん。今着るね」
桐乃が頬を染めながら寝間着を着替え直した。
それから私があやせを放り投げた窓を閉めている間に桐乃は布団に入り直す。
「もうあの変態が襲ってくることはないと思うから、私はそろそろ帰るわね」
時計を見ればもう帰らないと夕飯の支度に支障をきたしてしまう。日向に買い物は任せてあるとはいえ、タイムリミットだ。
「帰っちゃヤダっ!」
……桐乃が私の袖を引っ張りながら駄々をこねた。瞳に大粒の涙を浮かべながら。
珠希がこういう反応を見せた時の対処法は一つだけ。
「分かったわよ。貴方がちゃんと眠るまで一緒にいてあげるわ」
「うんっ♪」
とても嬉しそうに頷いてみせる桐乃。
「じゃあ、じゃあ。一緒にお喋りしようよ、瑠璃お姉ちゃん♪」
「病人がそうやって体力消費しちゃダメでしょうが」
お小言を言いながら桐乃の顔を優しく撫でる。
「今日の夕飯の支度は日向に任せないとダメそうね」
嫌そうな表情を浮かべる妹の顔を浮かべながら目の前の妹の手を優しく握った。
今日の帰りは遅くなりそうだった。
「お、お兄さんっ!? ここは女子シャワー室なんですよっ!? 早く、出ていってくださいっ!」
学校のシャワー室で気持ちよくお湯を浴びていたら突然お兄さんが入ってきました。
お兄さんはわたしと一緒に桐乃の部活を見学していたのですが、何でここに?
「いやぁ〜。桐乃は俺を置いてさっさと帰っちまうし、体も冷えたんでシャワーでも浴びようと思ったら間違えちまったぜ。はっはっは」
「間違えたのはわかりましたから、早く出ていってくださいっ!」
腰にタオルを巻いただけの姿のお兄さんは笑いながらちっとも出ていく気配がありません。
幾ら仕切りがあるとはいえ、戸を一枚隔てただけでわたしは裸なんです。恥ずかしくなって慌ててバスタオルを体に巻き付けます。
「まあまあ、ここには俺とあやせしかいないんだから問題ないって。全然平気」
「わたしは全然平気じゃありませんっ!」
「俺はあやせの色っぽい姿を見られて幸せなんだけどなあ♪」
「わたしが不幸せなんですっ!」
お兄さんはわたしの抗議をまるで受け付けてくれません。
それどころかニヤニヤと笑いながら1歩1歩わたしへと近付いて来ます。
「じゃあ、あやせは俺と一緒に幸せにならないとなあ♪」
とうとうお兄さんは戸を開けてわたしが浴びているシャワーの所まで入ってきてしまいました。
「よ、寄らないでくださいっ! ぶ、ぶち殺しますよっ!」
鋭い視線で睨み大声を上げながらお兄さんを威嚇します。
でも、肩は、足は迫り来るお兄さんを見ながら震えています。
「ぶち殺すかどうかは俺とあやせがお楽しみを体験してからでも遅くないんじゃないのか?」
ニンマリと意地の悪い笑みを湛えながら更に近付いてくるお兄さん。
わたしは無意識に後ず去ります。でも、ここはシャワー室。しかも囲いの中。後退する空間などある筈がありませんでした。
わたしはあっという間に壁際に追い詰められてしまいます。
「お兄さんのやっていることは犯罪なんですよ! わかっているんですか!」
「なるほど、犯罪か。それは困ったなあ」
「18歳のお兄さんは余裕で逮捕されちゃう年なんですからね!」
これでお兄さんが思い止まってくれるなら……。
「じゃあ、俺の取るべき道は2つしかないなあ」
「そうです。ここから今すぐ出ていくのがお兄さんが逮捕されない唯一の道なんです。えっ? 2つ?」
2つってどういうことでしょうか?
「1つはどうせ捕まって社会的人生が終わるんだったら、とことん悪いことをしてやるって道だ。あやせたんには俺の子供を産んでもらおうかな?」
「ひぃいいいいいぃっ!?」
お兄さんのギラギラと欲望に満ちた瞳がわたしの体を舐め回します。
「もう1つはあやせたんと合意の上でエロいことをするなら俺は法的な責任を問われなくて済むというわけだ。恋人同士がエッチしても問題ないからな。へっへっへっへ」
「だっ、誰がお兄さんなんかとエッチするもんですかぁっ!」
「まあ、どっちにしても今からあやせたんの身に起こることは同じなんだけどな」
お兄さんはわたしが体に巻いているバスタオルの裾を手に持ち、荒々しく引っ張りました。
「きゃぁあああああああああああぁっ!?」
バスタオルを剥ぎ取られてしまったわたしはお兄さんの目の前に生まれたままの姿を晒していました。
「へっへっへ。さすがは現役プロモデル。中学生のガキにしちゃ良い体しているじゃねえか」
お兄さんの牡の瞳がわたしの全身をくまなく眺めています。
誰にも見られたことがなかったわたしの体は今、お兄さんの下衆な欲望の前に晒されてしまっているのです。
「で、出ていって……」
顔は緊張して強ばり、もう大声を出すこともできません。
ただ、小さな声でお兄さんが出ていってくれるのを願うばかりです。
でも、ケダモノと化したお兄さんにそんな訴えが通じるはずがありませんでした。
「胸がよく見えないんだよっ! その邪魔な手を退けろっ、オラァっ!」
「きゃぁっ!?」
お兄さんの荒々しい力で両手を頭上に押さえつけられてしまいました。
「ひょっひょっひょ。きっとあの水着グラビアを見た男どもはみんなあやせの真っ裸を想像して悶々としたはずだぜ〜。なるほど。これがその答えなんだなあ」
「も、もう……許してください」
恥ずかしさと悲しさから涙が出てきます。
「何言ってんだ? あやせが痛さと悲しさと恥ずかしさから泣くことになるのはこれからなんだぜ?」
そう言ってお兄さんはわたしの唇を自分の唇で強引に塞いだのです。
「う、嘘……」
ファーストキスを強引に奪われた……。
その事実に呆然となっている間にお兄さんは文字通りの魔手をわたしの体へと伸ばしてきました。
「さあ、水も滴る良い女をご馳走になるとするか」
「嫌ぁああああああああああああぁっ!!」
わたしの悲鳴が誰かに聞こえることはありませんでした……
「やっぱりわたしの幸せはお兄さんと結婚して子供を沢山産んで幸せな家庭を築くことにあったんですね」
目が覚めてわたしは全てを達観しました。
何故かゴミ捨て場に縄で縛られた状態で目が覚めましたけれど、そんなことは些細な問題です。
気を放出してロープを断ち切ります。
「よしっ! 今日こそお兄さんがわたしにプロポーズするように仕掛けないといけません。目指すはお嫁さんです」
お兄さんはわたしの顔が好みらしいのできっと上手くいく方法はある筈。その方法を放課後になるまでに考えよう。
そう心に決めて学校に向かうことにしました。
「おはよう〜」
元気よく挨拶しながら教室の扉を開きます。
お兄さんとの明るい未来がもうすぐそこまでやって来ていると思うと胸が弾みます。
と、教室の隅に熱っぽい表情で天井を見上げているツインテール少女がいました。加奈子です。
「どうしたの、加奈子?」
小走りに彼女の元に近寄ります。
「あっ、ああっ。あやせか」
加奈子は顔をこれでもかってぐらいにりんごよりも真っ赤に染め上げています。
「実はさ……」
「うん」
「あたし、京介の彼女になったんだ。念願叶って京介の彼女になれたんだよ〜っ!」
「へぇ〜、加奈子がお兄さんの彼女に…………って、えぇえええええええぇっ!?」
思い切り大声を上げてしまいました。でも、騒がずにはいられませんでした。
「あやせがデートをセッティングしてくれたおかげだ。ありがとうな」
「………………は、はあ」
「あたし達の結婚式には絶対来てくれよな。京介ったら、あたしが結婚できる年齢になったらすぐ結婚しようだなんて気が早いんだから♪」
両手を頬に当てて体をクネクネと軟体動物以上にくねらせる加奈子。完璧にバカップルモードに突入しています。
「今すぐ花嫁修業始めないと、後1年しか時間ねえよ。こうしちゃいられない。あたし、ちょっと家庭室で料理の勉強しているから先生にはそう言っておいてくれ」
言うが早いか加奈子は教室から出ていってしまいました。
「お兄さん……何で…………っ?」
ガックリと膝をついて落ち込みます。
きっとお兄さんはわたしに振られた寂しさをあのチンチクリンで紛らわせることにしたのだと思います。
昨日のわたしが考えた通りになってしまったのがあまりにも酷いです。
「でもまだわたしには桐乃がいるっ!」
そう。まだわたしには桐乃に娘を産んでもらうという昨日立てた目標が残っています。
まだ終わった訳じゃないんです。
そして、タイミングを見計らったように桐乃がやってきました。
「桐乃ぉおおおおおおおおおおぉっ!」
桐乃を全力で抱きしめに掛かります。
「アタシ来年は絶対に瑠璃お姉ちゃんの通っている高校に入学するから♪ だから……浮気しちゃ、嫌だよ♪」
桐乃に向かって伸ばした筈の腕は虚空を掴みわたしはそのまま廊下へと出ていきました。
「えっ? アタシと瑠璃お姉ちゃんは恋人じゃないって? やだなあ。アタシは全力で瑠璃お姉ちゃんと結ばれるって決めたんだもん。絶対に恋人になってみせるんだから♪」
桐乃の声は甘ったるくてとても楽しそうでした。
そしてわたしを完全スルーしていました。そこには何より強い拒絶の意思が込められているように思えて仕方ありませんでした。
「しばらく……旅に出よう」
全力で突き進んで来た筈なのにどうして望む結果が出なかったのか?
その原因を探る旅に出ようとわたしは決心を固めたのでした。
了
説明 | ||
あやせたん原点回帰 とある科学の超電磁砲 エージェント佐天さん とある少女の恋煩い連続黒コゲ事件 http://www.tinami.com/view/433258 その1 http://www.tinami.com/view/436505 その2 http://www.tinami.com/view/442666 その3 http://www.tinami.com/view/446990 その4 http://www.tinami.com/view/454921 その5 http://www.tinami.com/view/459454 その6(完結編) 水着回 http://www.tinami.com/view/463613 美琴「ていうか、一山超えたら水着回とか安くない?」 http://www.tinami.com/view/470293 美琴「ていうか、一山超えたら水着回とか安くない?」♪♪ 上条×美琴 http://www.tinami.com/view/496987 本気or冗談? 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コメント | ||
アイネさま はい、ごくいつものことです(枡久野恭(ますくのきょー)) あやせたんが残念すぎる……あっいつものことか(?_?;)(アイネ) |
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俺の妹がこんなに可愛いわけがない 新垣あやせ 高坂桐乃 | ||
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