恋姫†無双 関羽千里行 第1章 10話
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 第1章 10話 ―戦いの後で―

 

 

 張角たちの処遇を決めて解散した後、戦の労を労うため軽い酒宴を開いた。その場には街の長老たちや商店主たちも呼んで俺から事情を説明した。今までの経緯が経緯だけあって初めは難しい顔を浮かべていた街人たちだったが、今は外部に漏れるとまずいので特別に1度だけ、天和たちが曲を披露するとそれもすぐになくなった。むしろ皆また天和たちがいろんなところで講演できる日を楽しみにしてくれているといった様子だ。これなら天和たちや黄巾党の人たちがこの街で暮らしていくのにも支障はないだろう。そうして酒宴を終えて自分の部屋に戻ると部屋に趙雲が訪ねてきた。

 

趙雲「北郷殿、失礼しますぞ。」

 

一刀「ああ、趙雲さん。どうかしたんですか。」

 

趙雲「はて。いまなにかおっしゃいましたかな。」

 

一刀「ああ、ごめんね。星どうかしたのかい?」

 

 先ほどの酒宴の席で星には真名で呼ぶことを許された。他のみんなともお互い真名を交換しており、ずいぶんと仲良くなったようだった。

 

星「何。ただ貴方とは一献飲みたいと話したので、折角なので今夜にしようかと。」

 

 そう言う星の右手には酒が一瓶握られていた。恐らく自前のものなのだろう。瓶に施された装飾からなかなかの一品であることが窺える。

 

一刀「そういうことか。そういうことならご相伴にあずからせてもらうよ。ちょうどこっちも星が好きそうなつまみがあったのを思い出したしね。」

 

 そういうと俺は机の引き出しから小さな小瓶を取り出した。中身に察しがついたのか星の目が驚きと期待の入り混じった様子で光る。

 

星「それは...まさか!?」

 

一刀「この前市場で見つけてね。前に友人からこれが上物だってことは聞かされていたから買っておいたのさ。」

 

 教えてくれたのは君なんだけどね、星。二人で向かいになって坐り、お互いに酒を注ぎ真ん中に明けた小瓶を置いて乾杯する。

 

一刀「乾杯。」

 

星「乾杯。」

 

 酒を一口に飲み干すと待ちきれないといった様子で小瓶の中のものをつまむ。

 

星「うむ。やはりこれはなかなかの一品でしたな。ですがなぜ私の好物がメンマだとわかったので?」

 

一刀「しいて言えば俺が天の御遣いだからかな。」

 

星「なるほど。それならば頷けるというもの。」

 

 俺の返答に心底楽しいといった表情を浮かべる。

 

星「折角ですから、酒の肴に天の世界の面白い話というのを聞かせていただけますかな。」

 

 それから俺は俺のいた世界について色々話した。その大半は前に星にも話したことがあったがこの世界でも星は面白おかしく、そして時にこっちがハッとさせられるような意見をくれてやはり話している彼女を見るだけでも十分楽しかった。そうして話していると星が急に俺に振った。

 

星「天和たちのことですが...」

 

一刀「ん?」

 

星「私が官軍に話すと言ったらどうしますかな?」

 

 一瞬戸惑ったがすぐに冷静に、

 

一刀「趙子龍ともあろう人がそんなみみっちいことをするとは思えないからね。特に何もしないよ。」

 

星「ほう。でもそれは買いかぶりかもしれませんぞ?」

 

一刀「逆に聞くけどなんで急にそんな話を?」

 

星「私を欲しくはありませんかな?」

 

 唐突に息がかかるほどに星が顔を近づけたことでドキッとしてしまう。不敵に微笑むその顔に少しの間見惚れてしまう。

 

星「私は貴方が欲しい。私をあなたの槍にして下さればあのことを私が外に漏らすことはありますまい。」

 

一刀「いきなりだね。」

 

星「良い雄に雌が魅かれるというのは自然の摂理というもの。それは何よりあなたの周囲が証明していましょう。それに私の見立てではあなたは英雄としての資質がある。それも乱世を制し、民を守る強い英雄の。それは私の槍を預けるにふさわしい。」

 

一刀「英雄ねぇ...」

 

 それは前にも星に言われたことがある。初めて星に会った時は大陸を見て回りたいと言った星を止める術がなかったんだよな。それを今回は星の方から家臣になりたいと言ってきた。それは凄く嬉しいんだけど...いや待てよ。

 

一刀「からかうのもいい加減にしてくれよ、星。愛紗が聴いているからってさ。」

 

??「...!」

 

 まさか気付いているとは思わなかったのか、顔を赤く染めた愛紗がうつむき加減で扉を開けて入ってきた。

 

愛紗「いつから気付いていたのですか。」

 

一刀「今だよ。なんか星がやけに色っぽく口責めしてくるからおかしいと思ったんだ。星もあんまり愛紗をいじめるなよ。」

 

星「これは失敬。ヤキモチを妬く愛紗が普段の勇壮な姿と異なり、乙女らしくかわいいものでついついからかいたくなるのです。」

 

一刀「はあ...愛紗もごめんな。もっと早くに気付くべきだったよ。」

 

愛紗「一刀様は誰にでも良い顔をしすぎです、全く...(少しは私の気持ちも...)」

 

一刀「そう言えば何か用事があったんじゃないの?」

 

 俺に指摘され、慌てて態勢を立て直す愛紗。何か言っていたような気もするが本人からそこに触れる気はないようだ。

 

愛紗「この前保護した少女が目を覚ましたようで、助けられた礼を星と一刀様にいいたいそうです。」

 

 

 

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ホウ統「ほ、ホウ士元と申しましゅ!こ、この度はたしゅけていただき本当にありがとうございましゅ!あわわ、噛んじゃった...」

 

一刀「これは間違いなく本物だな。」

 

愛紗「ですね。」

 

 誰かさんを彷彿とさせる言動に俺も愛紗も温かい気持ちになる。

 

一刀「俺は北郷一刀。一応この街を任されている者だ。そしてこっちは関羽雲長。でそっちが君をここに連れてきてくれた...。」

 

星「北郷一刀が一の家臣、趙子龍だ。」

 

愛紗「おい、星!」

 

星「おっと失礼。一の家臣になるのはこれからでしたな。今は北郷殿を口説き落としているところだ。」

 

愛紗「せーいー!」

 

星「おお、怖い怖い。」

 

 ケタケタと笑う星に対して愛紗の目つきが鋭くなる。ホウ統はどうしていいのかわからずあわわと呟きながらワタワタとしてしまっている。

 

一刀「ホウ統さんもそんなに緊張しなくていいよ。二人はただじゃれ合ってるだけだから。」

 

愛紗「一刀様!」

 

ホウ統「あわわ、わた私はホウ士元としか名乗っていないのにどうして名前をご存じなのでしゅか?」

 

一刀「ああ。俺は天の御遣いなんて呼ばれていてね。ちょっと人よりある方向でモノに詳しいんだ。」

 

星「私の好物を一発であてたくらいですからな。その方向というのもいかがなものか。」

 

一刀「ま、まあね...あはは。」

 

 渇いた笑いを浮かべる俺に対してホウ統はそんなことにはいも介さず尊敬のまなざしを向けてくる。

 

ホウ統「あ、あの!実は徳の高いと噂の天の御遣い様の元に士官に参ったんでしゅ!助けられた身で恐縮でしゅが、願わくば私をそのさんれちゅにお加えくだひゃい!あぅ...また噛んじゃった...」

 

 緊張でしどろもどろになっている所を見て朱里と出会った時の事を思い出す。

 

一刀「うーん、とりあえず一回深呼吸してみようか。すー、はーって。」

 

ホウ統「は、はい。すー、はー。」

 

一刀「落ち着いた?」

 

ホウ統「はい。」

 

一刀「それじゃ最初から話してくれるかな。」

 

ホウ統「はい。私は水鏡先生という有名な方の私塾で勉強をしていたんです。それでいつかは世の中を平和にするためにこの知識を使おうって思っていて...そんな時天の御遣いが降り立ったという噂を聞いたんです。しかもそのお方は弱き民たちの守護者であり、統治する街は大いに栄えていると。それで友達とこの街を目指していたんですけど、途中立ち寄った街が黄巾党に襲われて友達ともはぐれてしまったんです。でも目的地は一緒だったのでここまで来ればきっと会えると思っていたのですが...途中でまた黄巾党に襲われて食料も失い、お腹が空いて途中で意識がなくなって...」

 

 別れた友達のことを心配しているのか、襲われた時の恐怖を思い出しているのか、ホウ統の顔は憂いを帯びているように感じた。

 

一刀「そうか。とても怖い目にあったんだね。でもここは安全だから安心して。ところで1つ聞きたいのだけれど、一緒にいた友達ってもしかして諸葛孔明って名前じゃないかな?」

 

ホウ統「あわわ!な、なんで知っているんですか?」

 

一刀「まあさっきのある方向に詳しいってやつかな。でも残念ながら君の友達がここに来たって報告はないなぁ。」

 

ホウ統「そうですか...」

 

 落ち込む彼女を元気づけるように、

 

一刀「でも君の友達凄く頭がいいだろ?だから何かあっても切り抜けてきっとどこかで元気にやっているさ。俺の方でも情報がないかあたってみるよ。」

 

 そういうとホウ統はパッと顔を明るくしてこちらを見た。その瞳にはやはり畏敬の念と言ったものが混じっているようにも感じられた。

 

ホウ統「ありがとうございます!そんなことを言って下さっているのに図々しいかもしれませんが...私を貴方様の仲間に入れて下さい!」

 

一刀「もちろん!歓迎するよ。君ほどの人物が仲間になってくれるなんて。繰り返しになっちゃうけど俺は北郷一刀。これからよろしく頼むよ。」

 

雛里「私はホウ士元、真名は雛里です。これからよろしくお願いします、ご主人様!」

 

一刀「ご主人様!?ウチは堅苦しくする必要はないから畏まらなくてもいいからね。」

 

愛紗「一刀様が認めるほどの人物だ。私の真名もあなたに預けよう。私は姓を関、名を羽、字を雲長、真名は愛紗だ。私の真名、受け取ってもらえるだろうか。」

 

星「私は姓を趙、名を雲、字は子龍、真名は星だ。よろしく頼む。」

 

 そうしてその場にいるものとは真名を交換し合い、今この場にいないものには明日紹介しようということになった。

 

一刀「いやぁ、ウチは軍師できるのもほぼ俺しかいないから結構困っていたんだ。雛里が来てくれて本当に助かるよ。」

 

 すると雛里が目を丸くしこれぞまさしく驚きと言った表情を浮かべた。

 

雛里「あの、ご主人様は政治だけでなく軍略にも長けていらっしゃるのですか?」

 

一刀「そんな大したものじゃないけどね。この前のだって策なんて呼べない代物だったし。」

 

愛紗「謙遜することはありません。一刀様の軍師としての腕前は結構なものになっていると思いますよ。それが今回の大勝利を導いたのですから。」

 

雛里「あの...私が倒れている間に何かあったのでしょうか?」

 

 事情を知らなかった雛里にこれまでの経緯を伝えた。3万の黄巾を追い払ったこと、首謀者の張角たちや黄巾党に対する誤解など。特に俺が作戦を立てたことや俺が実際に戦場で剣を取って戦ったこと、張角たちに下した処遇の下りを聞くと、雛里の俺を見る視線にますます尊敬や羨望と言ったものが混じるようになっていった。

 

雛里「ご主人様は噂通りの凄い御方だったんですね...私なんかがお役にたてるのでしょうか...」

 

一刀「役に立つに決まっているさ。君みたいな凄い子が来てくれたんだ。これで天下がぐっと近づいた気がするよ。」

 

 そういって笑顔を向けると雛里は顔を赤くして手にしていた帽子を目深にかぶってしまった。

 

星「そこで私の槍を加えることでさらに天下は確実なものになりましょうな。そこに目をつけるとは流石は我が主。」

 

 そこにさらっと星が家臣宣言をすべり込ませてきた。全く、星の突飛な発言は相変わらずだ。愛紗も呆れて仕方なしといった顔をしている。

 

一刀「そうだね。星がいてくれると凄く心強いな。これからよろしくお願いするよ。」

 

星「承知。無論武だけでなく女としてもよろしくされましょうぞ。」

 

一刀「...っ!?」

 

愛紗「せーいー!」

 

星「おっと、ではこれで失礼しますぞ、主。正式な儀礼は明日にでも。では。」

 

 それだけ言うと星はあっという間に広間から飛び出していった。それをいつのまにか青龍刀を持った愛紗が顔を真っ赤にして追いかけていく。なんだか最近こんな愛紗を見ることが多いな...そう考えて今追われているのが自分でないことに少しホッとする。それを見ていた雛里はあわわと呟きながらどうしたものかとふらふらしている。それにしても今日は星や雛里に天和たち黄巾党の人たちなど一気にウチも大所帯になったなぁなどとしみじみと思う俺であった。

 

 

 

 

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それからしばらく日がたった別の場所では...

 

??「それは本当なの?」

 

??「はい。ここのところ黄巾の勢力が明らかに弱まっています。」

 

??「それは諸侯の掃討作戦が功を奏しているということ?」

 

??「確かにそれはあります。しかし、未確認情報ですが黄巾党の首謀者と言われている張角が死んだようです。これが真実であればこの要因が一番大きいかと。」

 

??「殺された?どういうこと。」

 

??「細作の持ってきた情報では天の御遣いと言われる北郷一刀という男の軍が張角を討ち取ったそうです。その男の元には関羽という猛将もおり、七千の部隊で三万あまりの黄巾党を破ったとか。」

 

??「天の御遣いに関羽ね...面白いじゃない。」

 

 少女は面白いものを見つけたというようにほほえみを浮かべた。しかしその瞳には好奇だけではない別のものが入り混じっていた。

 

??「(黄巾討伐で名をあげるつもりが、天の御遣いなんていう変な奴に妨害されるなんて...この御方の覇道のためにも次の手を考える必要があるわね。)」

 

 

 

 

さらに別の場所では...

 

??「旅に出た祭殿から手紙が届いているぞ。」

 

??「ホント?どれどれ...あら、祭ったらついに男を見つけたみたいよ♪最もまだ器を見極めてる最中みたいだけど...今はその男の所にいるみたい。」

 

??「ほう?どんな男だ?」

 

??「どうやら天の御遣いらしいわよ?名前は北郷一刀だって。変わった名前ね。」

 

??「ふむ。噂の占いに出てくる御遣いか。ならばその男、我らの覇道の妨げになるかもしれないな。」

 

??「そう?私はそうは思わないわよ。」

 

??「なぜだ?細作の情報によるとあの陣営にはかなりの人材が揃っているらしいが。」

 

??「私の勘♪」

 

??「フフッ。そうか。その勘は良く当たるからな。はてさて、これからどうなることやら...」

 

一刀の知らないところでその名は確実に広まっているのであった。

 

 

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―あとがき―

 

ここまで読んで下さった方は有難うございました。いつもコメント下さる方、支援して下さる方も有難うございます。

 

10話をお届けしました。前回の続きなので容量は少なめです。8話で拾ってきたのは雛里さんでした。7話のコメントに書いて下さった人がいましたがドンピシャですね。雛里さんを書いてるとだんだん朱里さんと区別がつきにくく...ともかくこれで北郷軍にも軍師が加入です。雛里さんの双肩に北郷軍のいろんなものがかかっているので頑張っていただきたいところです。

 

そしていつも何かと色っぽい星さんも加入してくれたわけですが...北郷軍の出費が酒代で大変なことになりそうです。今までもコメントの方でそんな雰囲気のものもありましたが、物語以前に北郷軍の軍資金が尽きて終了!?霞・祭・星のトリオとかなんて恐ろしいんだ...どうでもいいけど3人とも名前がサ行+母音。なんか3人まとめて面白い名前つけられたらいいんですけどね。

 

とりあえず一区切りつきました。次回は拠点ですが、ここから先の本編は悩んでる所も多いので更新ペースが遅くなるかもしれません。

 

それでは次回もよろしくお願いします!

 

説明
恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第10話になります。
前回の続きです。
それではよろしくお願いします。
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コメント
クラスター・ジャドウさん とりあえずこの先ではPC変えてから難しい方いれられたのでそっちを使っていますが、確かに恋姫的にはそっちが正しいとも言えますね。書き手的には厚みがました=キャラが増えた=書くの大変です(笑(Red-x)
…ふむ、助けたのはホウ統だったか。確か、「ホウ」の字は常用漢字じゃないから、恋姫だと「鳳」が代用で充てられてたかな?史実だと政治家だった諸葛孔明とは違い、鳳士元は史実でも軍師だったからな。更に趙雲も正式加入した事で、文武両面で厚みが増したな。(クラスター・ジャドウ)
無印だと翠さんも結構飲んでた気がしますね。でもそがやっぱりいないですねぇw(Red-x)
おおう、こういうミスはなかなかなおりませんね;有難うございました。(Red-x)
一刀・愛紗・雛里VS桃香・朱里・鈴々もありかなぁ〜(真山 修史)
愛紗がご主人様じゃなく一刀て言ってるよ、ヒナリン紹介のとき(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
桃香がどうなるのか気になります。できれば仲間になってほしいですね(竜羽)
楽しく見させてもらってます。これからもがんばってください!       ボソ・・・「酒飲みさしすせそ」 す・そ がいない・・・ダメだこりゃw  (ゆぎわ)
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恋姫†無双 関羽 趙雲 

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