Masked Rider in Nanoha 三十九話 六課の休日 後編
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 異様な息苦しさか室内を覆っていた。その原因は五代の語った話。ゴ・ジャラジ・ダとの戦いで垣間見た黒い目のクウガ。そのキッカケの緑川高校の事件も語り、その痛ましい内容になのは達だけでなくゴルゴムなどの非道な作戦を知っている光太郎さえ言葉を無くしていた。

 語っている間、五代もその時の事を思い出したのかその拳を握り締めていたのがその証拠。多くの未確認と戦った五代が唯一憎しみに囚われかかった戦い。それが、そのジャラジとの戦いだったのだから。

 

 息苦しいと感じたからかクロノが立ち上がってカーテンと共に窓を開けた。そこから入る風が全員の表情を少しだけ和らげる。

 

「……聖なる泉は優しい心って意味で、それが枯れるって事は憎しみに心が支配されているって事なんだ」

 

 五代が最後として告げた言葉に全員が理解した。優しさを無くす時、クウガは仮面ライダーではなく怪人となってしまう。そういう意味だろうと誰もが納得する。そして、ややあってから真司がふと不思議に思った。

 聖なる泉を取り戻すと予言ではなっている。しかも、それにはRXやアギトだけでなく龍騎士。つまり自身も要因の一つと考えた。となれば、まず疑問なのは五代が憎しみに囚われるのだろう理由。正直、真司には五代が誰かに憎しみを抱くなどとは思えなかったのだ。例え邪眼がどれ程卑劣な事をしたとしても、五代は憎しみではなくみんなの笑顔のために戦うだろうと。

 

「大丈夫! 五代さんが凄まじき戦士にならないように私達が支えます」

 

 そんな事を真司が考えているとなのはがはっきりとそう告げた。その表情はとても優しい笑顔。そして、見せるサムズアップ。なのはは告げる。力では及ばない自分達でも心ならば五代達と並ぶ事が出来る。なのははそう言ってフェイトとはやてを見た。それに二人も頷き、笑顔を見せる。

 決して憎しみに囚われないように、優しさを失わないようにしてみせると。どんな時でも、五代をいつもの五代でいられるように頑張るから。そんな風にフェイトとはやても力強く告げたのだ。それを聞いて黙っているようなクロノではない。

 

「五代、なのは達だけじゃない。僕やユーノ、アリアにロッテだっている。それに六課の仲間と仮面ライダーが三人もいるじゃないか。予言なんか気にするな。そんな忌まわしいさだめの鎖から解き放ってみせるさ」

「クロノ提督の言う通りです。予言はあくまで予言。それが的中したとしても、少しでもよりよい結果を望むならば必ずや最後には希望を掴み取るはずです。私は、五代さんも皆さんもそういう強さの持ち主だと信じています」

 

 告げられたクロノとカリムの励ましに五代は心から嬉しく思い、全員へサムズアップを返す。それになのは達もサムズアップを返して全員が笑顔になる。そこへシャッハがお茶の用意を整えて姿を見せた事で完全に空気は明るいものへと変わるのだった。

 

 一方、同じベルカ自治区で事件が起きようとしていた。例の聖王のコピーを運んでいたトラックを追い駆けてシグナムとヴィータが動いていたのだ。

 

「ウーノの報告ではこの辺りのはずだ」

「でもよ、それらしいのは少しも……」

 

 ベルカ自治区へ続く道。その上空を飛行しながら二人は周囲を見回していた。ウーノから告げられた聖王のコピーを運んでいる車両。それを見つけ、確保するためだ。しかし、先程から一向にその姿が見えない。

 それに二人は若干の焦りを見せていた。どこかで行き違ったのか。或いは別のルートを選んだのかもしれない。そんな不安を感じながら二人はウーノの言葉を信じて捜し続けていた。そんな時、シグナムの視界にあるものが映る。

 

「あれは……トンネルか。ヴィータ、私が見てくる。お前は万が一に備えて待機していてくれ」

「おう」

 

 トンネル内で何かトラブルが起きて停車している可能性もないとは言い切れない。そう判断したシグナムはヴィータへそう告げると一人トンネルへと降りていく。そして、そこでシグナムは見たのだ。横転するトラックと数機のトイを。

 即座にレヴァンテインを構え、トイへ立ち向かうシグナム。同時に念話でヴィータを呼ぶのも忘れない。いくらトイが数機とはいえ油断してはいけないと思ったからだ。AMFはベルカの騎士たるシグナムにはさして脅威ではない。それでも、獅子は兎を倒すにも全力を尽くすとばかりにシグナムは念には念を入れたのだ。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 まずは手近な一機をその剣撃で沈黙させる。ジェイルによってレヴァンテインの強度が増した事もあり、トイはそれだけで動かなくなった。それに手応えを感じる彼女へ残るトイが攻撃するも、それを危なげなくかわしてシグナムはそれらへ肉迫する。

 そのまま駆け抜けるようにトイの間を走り抜け、一機を撃破しつつ反撃に備え体の向きを変える。だが、それはもう必要なかった。何故ならばそこには頼もしい仲間であり家族の姿があったのだ。

 

「すまんな、ヴィータ。助かった」

 

 ヴィータは残ったトイをグラーフアイゼンで叩き潰して佇んでいた。それに笑みを浮かべシグナムが礼を述べると彼女はやや照れたように顔を背ける。

 

「別に必要ねーとも思ったけどな。で、トラックの積荷は?」

「これからだ」

 

 二人は横転するトラックの荷台の中を確認するべく近付いていく。そして、その中を見て言葉を失った。そこには割れたガラスのような破片とポッドがあるだけだったのだ。そこにいるはずの存在が綺麗にいなくなっていた。

 それに二人は不味い事になったと理解。すぐにウーノとロングアーチへ連絡を入れつつその周囲を調べ始める。するとすぐにヴィータがあるものを見つけたのだ。それは下水道への入口。しかもそこへ何か硬い物を引き摺ったような後が続いていた。

 

「あたしはここから追い駆ける」

「分かった。私は、念のため付近の捜索を続けよう」

 

 頷き合って二人は別れた。シグナムはロングアーチの指示を受けながら、ヴィータはウーノの案内を聞きながら動き出す。共に早く見つけないと危険だと判断しながら。そう、トイが襲撃した事から二人はある推測を立てていた。

 それは例のコピーがレリックを持っているのではないかという事。残っていた痕跡。あれがレリックの入ったケースか何かだとすれば、またトイがコピーを襲うかもしれない。そんな危機感を胸に二人は捜索に乗り出す。無事であってくれと願いながら……

 

 

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「えへへ、やっぱこれだよ」

「そんなに乗せられる物なんだな、アイスって」

 

 満面の笑みでアイスを手にするスバル。その数、何と六段。しかもそれを両手に持っているのだから大したものだ。ノーヴェはトリプルなのだが、それが可愛く見えるような光景だ。チンクとギンガはダブルで、ウェンディはダブルとシングルの両手持ち。

 そこから考えてもスバルのアイスがいかに常識外れか分かろうというものだ。彼女達は、まずはアイスを食べたいとのスバルの提案に乗ってこうしてアイスを購入したのだが、その後の行動を決めかねていた。

 

 というのも、スバルとウェンディはこの後の行き先をゲームセンターにする事で合意した。しかし、意外にもノーヴェが服を見たいと言っていたためだ。それを受けてギンガとチンクは別れて行動しようと告げたのだが、それには三人揃って拒否を示した事が更なる混迷を生んだ。

 折角の外出。初めての休日。それを五人で過ごす。それ自体はスバル達三人に共通する気持ちだったために。なので、とりあえずはアイスを食べながら考えるとなり、五人は揃って店先に用意されていた簡易椅子へ座った。

 

「いや、初めて二段重ねのアイスを食べるッスけど不思議なもんッスね。落ちないかどうか不安になりながら食べるっていうのは」

「余程うっかりしない限りは大丈夫よ」

「しかし、色々な味があるのだな。少々驚いた」

 

 笑みを浮かべながら告げるウェンディへギンガはそう笑顔で答える。昔は彼女もそう思っていた事を思い出して。チンクは店頭での光景を思い出して微笑む。彼女が知る味の倍を超える数の種類があり、それを見ているだけで正直楽しくなってしまったのだ。

 故に本来一つで済まそうと思ったアイスが二段になったという訳だ。そんなチンクの言葉を聞いてノーヴェが同調するように口を開く。自分も迷ったと。だから彼女も三段にしてしまったのだ。上からストロベリー、ミルク、メロンという選択のノーヴェ。対するチンクはチョコミントにバニラだ。

 

「ね、この後の事だけどさ。まずは服を見に行こう。で、その後でゲームセンターってのはどうかな? ゲーム機は無くならないけど服は無くなるからね」

 

 スバルが手にしたアイスを舐めながら笑顔でそう提案した。それにノーヴェがやや嬉しそうに笑みを見せる。ウェンディはその言葉にそれもそうかと納得し、ギンガとチンクは微笑みと共に同意した。

 そして決まったのなら善は急げとばかりにスバルが立ち上がり動き出す。それにやや慌てるようにノーヴェも立ち上がって後を追う。ウェンディもそれに続けとばかりに歩き出し、それにギンガとチンクは苦笑しながら立ち上がる。

 

「で、スバル? 行くお店は決まってるの?」

「えへへ、実は特になかったり」

「アタシはギンガのオススメがあればそこがいいッス。あ、スバルのでもいいッスけど可愛い服のお店で頼むッスよ」

「アタシは動き易い服が置いてあればいいけどな」

「道行く店々を軽く覗いていけばいいではないか」

 

 そんな風に賑やかに話しながら歩く五人。そこから通りを三本隔てた通りをエリオとキャロがドゥーエに案内されるように歩いていた。

 

「……で、ここは……前は喫茶店だったかしら」

「そうなんだぁ。でも、ドゥーエさんってクラナガンに詳しいんですね」

「まあね」

「あ、そういえば昔住んでいたとか」

 

 エリオの言葉にドゥーエは頷いて笑う。もうあれからどれだけ経ったのかと思ったのだ。レジアスの秘書として潜入し、最高評議会への接触を窺っていたあの頃。もう、それがはるか昔の事に思え、ドゥーエは時の流れに思いを馳せる。

 もし真司がいなければ未だに彼女は地上本部にいて、最悪六課の敵になっていただろう。今は愛しい弟と妹のように接している二人の少年少女にさえ、敵意や殺意を向けたかもしれない。そう考えてドゥーエは小さく苦笑した。

 

 有り得なかった事を考えても仕方ないと結論付けたのだ。そんなドゥーエの反応にエリオとキャロは不思議そうな表情を見せる。二人には彼女が何を理由に苦笑したのか分からないために。すると、そんな彼らに気付いてドゥーエが少し馬鹿な事を考えたと答えると、その背中を押すように歩き出した。

 そして歩きながらラボでの日々を話し出す。それにエリオもキャロも笑ったり驚いたりしながら笑みを見せる。そんな風に楽しく過ごしていた三人だったが、突然エリオが足を止めた。それにキャロが不思議そうに小さく首を傾げる。だが、ドゥーエはその意味に気付いて同じように足を止めていた。

 

「……ドゥーエさん」

「ええ、間違いないわ。下からね」

 

 エリオは自然保護隊での日々で培った聴覚で、ドゥーエは戦闘機人としての能力でそれぞれ足元から聞こえる僅かな音を感じ取っていた。そして、それを念のため確認するようにエリオが耳を地面に当てる。

 そして立ち上がると彼は真剣な眼差しでドゥーエを見つめた。それが意味する事を察し、ドゥーエはキャロへ視線を向ける。その視線の質が真剣なものだと分かるや否や彼女も同じく真剣な表情へ変わった。そうして三人は近くの下水道への入口を探し、その重い蓋をエリオとドゥーエが開ける。

 

 音の正体を確かめようと彼らはすぐにそこから地下へ降りようとした。だが……

 

「えっ……」

「女の子……?」

「みたいね」

 

 そこから幼い少女が姿を見せたのだ。着ている服はボロボロで衰弱しているように見える存在が。すると少女は三人の姿を見て安心したのだろうか気を失った。慌ててその少女を支えるドゥーエ。エリオとキャロはそんな痛ましい姿にやや悲しそうな顔を見せるも、その少女の足元に気付いて軽い驚きを見せた。

 そこには鎖で繋がれたケースが一つあり、更に鎖の先端が不自然な切れ方をしていたのだ。まるでもう一つ同じようなケースが繋がっていたように。

 

「これ……もう一つあったみたいだけど、何のケースかな?」

「……分からない。ドゥーエさん、その子を頼んでいいですか? 僕らは念のために地下の様子を見て来ます」

 

 直感でケースの中身と少女の正体を悟ったエリオは事態を重く見た。その判断から出た言葉にドゥーエは少女から視線を彼へ移し、鋭く告げた。

 

「待ちなさい。まずは連絡よ。それと、この子は三人で見るべきね」

 

 その理由が分からないキャロへドゥーエが告げたのは、一瞬だが見えた少女の瞳の色合い。そう、両目が異なる色をしていたのだ。それは文献に残る聖王の特徴と同じ。更にその格好も現れた場所も尋常ではない。そのため、ドゥーエは下手をすると邪眼が動いている可能性もあると指摘。なので、今は下手に動かず待機するべきだと締め括った。

 それにエリオはやはりと納得し、下水道の探索を一旦中止する。キャロは直ちに六課へ連絡を入れてヘリと他の者の応援を待つと共に、残ったケースを慎重に調べた。結果、レリックが入っていると判明。そこへロングアーチからシグナム達が見つけたトラックの情報が入り、少女が聖王のコピーである事が確定した。

 

 そのまま待つ事数分で近くにいたスバル達がそこへ駆けつけた。トイが下水道から侵入してくる可能性があるため、少女をそのまま三人が守り、五人が残ったケースの探索とトイの撃破をする事になった。

 デバイスを起動させるスバルとギンガに対し、ノーヴェ達は若干不安があった。素手でも戦えるノーヴェやスティンガーを常に隠し持っているチンクと違い、ライディングボードで戦うウェンディは特にだ。そのため、ドゥーエは彼女へ自分のピアッシングネイルを手渡した。

 

「何でドゥーエ姉はこれを持ってるんッスか?」

「街だと何があるか分からないでしょ? そんな時に二人を守るためよ」

 

 冗談めかしてウインクと共に告げるドゥーエに全員が苦笑した。何も起きなくてよかったとエリオとキャロが言えば、スバル達もまったくだと頷いて。そして五人は次々と下水道へ降りていく。それを見送り、キャロは五人の無事を、エリオはヘリが到着次第追い駆けようと準備をし、ドゥーエは抱き抱えた少女を見つめて思う。

 

(ここまで一人で頑張ったのね。……ごめんなさいね。私が貴女を苦しめたようなものよ。だから、せめてこれからは守り抜いてみせるわ。命に代えても、ね)

 

 優しく前髪を撫で上げ、ドゥーエは視線を空へと向けた。遠くから聞こえてくるヘリの音。それに真剣な眼差しを向けながら。

 

 

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「ちっ! やっぱり当たりかよ!」

 

 襲い来る複数のトイを相手取り、ヴィータは舌打ちをした。あれからそれなりの距離を進んだ所で別の道からやってきたトイと接触したのだ。しかし、その最中彼女へ知らせが入る。それは目的の相手は既に保護され、現在六課のヘリがその搬送のために向かっている事。それを聞いてヴィータはシグナムはその護衛に付くべく動いているだろうと推測した。

 

(ザフィーラの奴は隊舎の守備があるから動けないだろうし、シャマルは多分そのヘリに同乗しているはず。隊舎の守備は……双子達とトーレにセッテもいるか。なら怪人が一体ぐらい来ても何とかなりそうだ)

 

「ウーノ、怪人の反応は本当にないのか?」

『ええ。どうやら、本当にトイがレリックに反応しただけみたい』

「了解だ。なら、さっさと全部黙らせてジェイルの実験用にしちまうか。アイゼンっ!」

”了解”

 

 カートリッジを排出し、ヴィータはアイゼンを振りかざす。そのまま彼女はトイの攻撃を避けつつそれらへ迫る。そして、その一撃がトイを二機纏めて壁に向かって殴り飛ばした。更にヴィータはその場で体を回転させ、残るトイへと襲い掛かる。

 ラケーテンシュラークと呼ばれる攻撃。それは高速回転しながら相手を攻撃する荒業だ。ヴィータはそれを以ってトイの体を打ち砕く。そのままヴィータはトイの集団を駆逐し、先を目指して進む。その理由はスバル達。

 

 彼女達はレリックのケースを探索しながらトイを倒しているのだが、ウェンディはやや武装に不安があるので援護して欲しいとウーノが告げたからだ。

 

(ったく、こうなるとあいつらの外出は色々と問題が多いな。ジェイルの奴、固有武装もデバイスみてえに待機状態とか考えろよ)

 

 そんな事を考えつつ、ヴィータは進む。一方スバル達もトイの集団と遭遇し戦闘を開始していた。スバルとギンガが前衛を務め、ノーヴェがウェンディとコンビで中衛を、チンクは全体の援護を行なっていた。

 

「これで……っ!」

「ラストォォォォ!!」

 

 ナカジマ姉妹の拳が最後のトイを打ち砕く。それを見届け、安堵の息を吐くウェンディ。やはり自分には接近戦は向いていないと実感したのだ。トイ相手ならばまだ戦えるがそれでも一人では辛く、ノーヴェとチンクがいて何とか無事に済んだ部分が大きいために。

 しかし、そんな彼女へノーヴェが手を差し出した。それにウェンディが疑問符を浮かべると、そんな彼女へノーヴェはからかうような笑みを見せながらこう言った。

 

―――お疲れさん。慣れない割に頑張ったじゃねーか。

 

 その告げられた言葉にウェンディが軽くむっとするも、即座に何かを思いついたのか同じような笑みを浮かべる。それにノーヴェが不思議に思うと彼女はその手を握ってこう返す。

 

―――いやぁ〜、お姉ちゃんが支えてくれたッスからね。

 

 その姉が自分だと理解した瞬間、ノーヴェが恥ずかしそうに顔を背けた。彼女は姉扱いされる事がほとんどない。そのためこう言われるとどうしても嬉しく思って照れてしまうのだ。その反応にウェンディがニヤニヤし、スバル達はそんな二人に小さく微笑みながら周囲の警戒を始めた。

 だが何もそれらしい気配はなく、ロングアーチからの報告でも追加のトイはいないとの報告が入る。それに安堵して彼女達は探索を再開する。そして、そう時間は掛からずにレリックのケースは発見される。同時にヘリがエリオ達の近くへ到着して、少女はシャマルとシグナムが責任を持って搬送する事になったのだった。

 

 

 

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 クラナガンでスバル達が少女絡みの事件に立ち向かっていた頃、ティアナは翔一とエルセアへの道を走っていた。そのティアナだが、今は何故か若干安堵したようにビートチェイサーを走らせていた。

 その理由。それは一度彼女が好奇心から速度をもっと出してみようとした事だ。元来クウガ用に開発されたビートチェイサーの最高時速は四百キロ。そこまではさすがに出せなかったものの、そのあまりの加速力と速度にティアナは焦ったのだ。そこから何とか落ち着いて速度を落として安定した状態にして現在に至ると言う訳だ。

 

(さっきは焦ったわ。でもこれ、一体何キロまで出せるんだろう? 五代さんに帰ったら聞いてみようかな)

 

 そこでティアナは翔一から聞いた話を思い出していた。このビートチェイサーはクウガのためのバイクだという事を。そこから考えれば、普通のバイクの速度など軽く超えているはず。そう結論付けてはいた。だが、具体的にどれだけだせるのかはやはり気になるものだ。

 

「ティアナちゃん! 見えてきたよ!」

 

 そんな時彼女の耳に翔一の声が聞こえた。意識を前方へ向けると確かにあの頃と同じ景色が見えてきていた。

 

「本当だ。じゃ、休憩しましょ!」

「了解!」

 

 二人揃って思い出の公園へとバイクを止める。そして、あの時と同じ場所へ歩き出す。勿論、自販機で飲み物を買うのを忘れずに。

 

「ティアナちゃん、何飲む?」

「そうね……じゃ、翔一さんと同じので」

「分かった」

 

 そう笑顔で言葉を返し、翔一はボタンを押す。ティアナは周囲へ視線を向け、思いっきり体を伸ばした。ここまで二人は結構な距離を走ったのだ。しかし、ティアナは楽しい時間だったと感じている。正直に言うと、あの時のように翔一と同じバイクで走る方が嬉しさは強い。だが、今回のように自分で運転し共に走るのは楽しさが強い事を知り彼女は笑みを浮かべた。

 

 そんな風に景色を眺めているティアナの頬にふと冷たいものが押し当てられる。それに小さく驚きながらもすぐにそれが誰によるものかを察して彼女は嬉しそうに振り向いた。

 

「もう! 翔一さん、おどかさないでよ」

「ごめん。ちょっとやってみたくなって。はい、これティアナちゃんの分」

「ったく、そういうとこは子供みたいなんだから……」

 

 翔一の笑顔にティアナは苦笑しながら缶コーヒーを受け取った。そのまま二人はあの時と同じように隣り合って地面に座る。吹き抜ける風。静かな空間。何もかもがあの時と同じだった。唯一違うとすればティアナの心境ぐらいだろうか。

 あの頃、彼女は翔一を優しい居候ぐらいにしか思っていなかった。だが、今はもうそんな感覚ではない。もう一人の兄。いや、頼れる仮面ライダーにして憧れる相手だ。

 

 出会った時から彼女をどこか導いていた翔一。それは、訓練校に行った後も変わらなかった。はやてと再会した後も、翔一はティーダからの頼み通り時折訓練校を訪ねティアナへいつも差し入れを渡していたのだ。

 それは半分以上スバルに食べられてしまうのも常だったのだが、それでもティアナは嬉しく思っていたのだから。その時、彼女が軽く悩みや迷いを話すと翔一はそれに一緒に考え、そして必ず意見を述べる。そして、最後にこう言って締め括るのだ。それは、ティアナの指針となっている言葉。

 

―――どんな答えでも今のティアナちゃんがそう決めたのなら、きっとそれが今のティアナちゃんにとっての正解だよ。

 

 それは今を悔やむ事無く生きる事。もし明日後悔する事になったとしても、その時の自分が決断したのならそれがその時の正解。振り向いてもいいが立ち止まり続けてはいけない。翔一はそう言ってくれたのではないか。そうティアナは今も考えている。

 自分のままで自分だけの道を行く。翔一がアギトと知った今だからこそ、彼女は余計に思うのだ。例え姿形が変わっても、それを人たらしめるか否かはその在り様なのだと。ティアナにとって、翔一達の変身とは自分のままで戦士に変わる事を意味するのだから。

 

(アタシだけのオンリーワン。それはまだ見つからないけど、焦る必要はないんだ。翔一さんを見てるとそう思える。いつかきっと見つかる。自分の出来る事を懸命にしていれば……絶対に)

 

 そう思いながら翔一を見つめるティアナ。それに翔一も気付き、視線を彼女へ向けて笑みを浮かべた。それに少しだけ顔を赤めるも彼女も同じく笑みを返す。彼女が初めて兄以外で深く関った男性。その雰囲気や考え方は独特で、気がつけば自身へ大きく影響していた。

 しかし、それが少しも嫌ではなく、むしろどんどん自分もそうありたいと思えるような相手。尊敬出来、信頼も出来、そして共に歩きたいと思う人。それが今のティアナにとっての翔一になっていた。

 

「さて、今日のお昼は何を食べようかな〜?」

「ティアナちゃんの好きなものでいいよ。俺、結構お金あるし」

 

 舌なめずりでもしそうなティアナの言葉。それに翔一は気にするでもなくさらりと答える。彼は六課での給料をほとんど使う事がない。よって、その管理自体ははやてがしているのだが、今日はその彼女が翔一へ多めの資金を渡していたのだ。それが自分とティアナへの配慮だろうと理解した翔一は、はやてへお礼を述べると共に絶対に何かお土産を買ってくると告げていた。

 

「へぇ、そんな事言っちゃうんだ。なら高そうな場所でもいいわね?」

「どうぞ」

「……ホント躊躇いがない。翔一さんはさすがだわ」

 

 呆れつつも嬉しそうに笑い、ティアナはコーヒーを飲み干した。そしてゴミ箱を見つめて―――狙い定めて缶を投げた。それは綺麗にゴミ箱に入り、ティアナは小さく笑みを見せる。翔一も同じように缶を投げて見事にゴミ箱へ入れる。

 そのアッサリさにティアナは少しだけ苦笑。自身は狙っての成功に対し、翔一は何も考えずの成功だったからだ。まだ先は長いと思いながらティアナは立ち上がる。翔一も立ち上がり、二人は揃ってバイクへと向かって歩き出す。

 

 行く店はティアナが知っているので翔一はそれについていく形で並走する事に決まり、二人は共にヘルメットを被ってそれぞれバイクに跨った。

 

「じゃ、行こう」

「ええ」

 

 互いに笑顔で声を掛け合い、それを合図にバイクは走り出す。ティアナは風を感じながら視線を少しだけ隣の翔一へ向ける。

 

(……こうしてずっと走っていたいな、翔一さんと)

 

 少女の顔から、ほんの少しだけ女の顔に変えてティアナは笑みを浮かべる。こんな時間がいつまでも続いて欲しいと願いながらバイクは走る。あの頃と違う気持ちをティアナへ確かに感じさせながら。

 

 その頃、六課隊舎でも警戒態勢が解除された事を受けてオットーとディードが揃って安堵の息を吐いていた。今回はトイのレリックへの反応が原因で怪人達は動いていないと分かったからだ。トーレやセッテもどこか安堵している。それを見てオットーはその理由を悟った。

 

(やはりライダーがいない状態での怪人との戦闘は避けたいですからね)

 

 トーレもセッテもライダーがいなくても怪人と戦うだろうが、そこに不安が尽きないはずとオットーは感じていた。自分達だけでも怪人と戦う事は出来る。しかし、やはり仮面ライダーがいるのといないのでは安心感が違うのだから。

 そこまで考えた所でオットーは別の事へ意識を向けた。それは今からここへ運ばれてくるだろう少女の事。聖王のコピーであるその子が来る事で邪眼の襲撃はより一層激しさを増すだろうと思ったからだ。

 

「オットー、食堂で読書の続きをしましょう。あそこなら何かあった時、すぐに動けるわ」

「そうだね。そうしよう」

 

 まだ気を抜ききる訳にはいかない。そんな風にも聞こえるディードの言葉にオットーも同意して頷いた。宿舎から本を取ってくるため立ち去るディードを見送り、彼女は視線をトーレ達へ向けた。

 トーレ達も彼女達と同じような事を考えたらしく自主訓練を終了してこのまま隊舎内で待機する事に決めていた。すると、時計を見てセッテが何かに気付いてやや慌てるように動き出す。

 

「どうしたのですか、セッテ姉様」

「オットー、もうそろそろ昼食の時間だ。急がないと混み合ってしまう」

「……今はアインしかいないからな。手伝うのだそうだ」

 

 トーレの言葉にオットーは納得したように頷いて、ならば自分もと動き出すのは当然だった。そして同時にディードへその旨を伝え、読書は手伝いが終わったらとなった。

 嬉しそうに話しながらその場を立ち去る二人を見つめ、トーレはやや呆れながらため息を吐く。だが、自分だけになったのを認識するとどこか迷うような表情になり、考えこんだ。

 

(私も……手伝った方が良いだろうか?)

 

 リインとセッテ達が手伝うとしても普段の人数にはまだ足りない。彼女は料理など出来ないが片付けや皿洗いぐらいなら出来る。そう考え、トーレは面白くて仕方ないといった風に笑い出した。

 戦闘機人として生きようと思っていたはずの自分が、いつの間にか人として生きる事を選んでいる事を思い出したからだ。その原因と理由を悟り、トーレは小さく呟く。

 

―――まったくあのバカめ。どこまで私を変えれば気が済むのだ。

 

 そう呟くトーレの表情には心からの笑みが浮かんでいた。とても人間らしい優しい笑顔が。そしてトーレも二人に遅れてその場から動き出す。向かうは当然食堂だ。妹達だけに働かせる訳にはいかないと自身を納得させ彼女は歩く。

 

 同じ頃、指揮所でも事態の収拾が始まっていた。一連の出来事に対してのはやてからの指示が入ったのだ。そこにいる光太郎ならば怪人が動き出している事を察知しているかもしれないとの期待もあり、グリフィス達はその返答を待っていたのだから。

 

「分かりました。では、気をつけて戻ってきてください」

 

 グリフィスがそう言って通信を切ったのを聞いてシャーリーが視線を向けた。今日はクアットロがいないため、彼女はジェイルとの共同研究を中断して従来の所属であるロングアーチにいたのだ。

 

「はやて部隊長は何だって?」

「とりあえず、現状では休暇の者には連絡を入れないようにって。下手に心配させる必要はないって事らしい。スバルやエリオ達はまた休暇状態へ戻すようにとの指示だ」

 

 その答えに指揮所の誰もが笑みを見せた。光太郎が傍にいるはやてがそう告げたという事は、やはりこの襲撃がトイだけの単独と判断出来たからだ。ならば、無理に休暇中の者達を集める必要はない。そこまで考え、ふとアルトが問いかけた。

 

「五代さん達は?」

「もう話も終わるそうだからじきに戻ってくるだろう。途中真司さんをクラナガンに降ろして、それからあの人も休暇らしい」

「それにしても、本当に良かったですか? アギトは真司さん達と一緒にお出かけしなくて」

 

 ツヴァイの言葉にアギトは躊躇う事無く頷いた。確かに最初は迷ったが、何も自分は決まった仕事がある訳ではない。ならば、好きな時に真司達と過ごす事が出来る。そう考えたため、アギトは同じような存在であるツヴァイの手伝いを取ったのだ。

 

「おう。それに、お前はアタシに仕事教えるって言ってくれたじゃねーか。だから、アタシはそれに応えたい。休みはお前と同じ時でいいさ」

「アギト……分かったです!」

 

 その笑顔で告げられた内容にツヴァイは嬉しそうな表情を見せる。ユニゾンデバイスと融合騎。似ている二人は既に友人となっていた。おそらく次元世界にも自分達以外いないであろう存在。故に、その絆は深く強い。

 そんな風に友情を感じている二人を見てグリフィス達も微笑む。そこへヘリからの通信が入り、ルキノがそれに応答する。そしてそれを終えると、彼女はグリフィスへ視線を向けた。

 

「保護した少女は衰弱しているものの命に別状はないそうです。それでシャマル先生が医務室の準備をして欲しいと」

「分かった。手の空いてる者に頼んでおく」

「あ、なら私がジェイルさんに頼んでおくわ。あの人、医療方面も詳しいだろうし」

 

 シャーリーがそう応え、即座にデバイスルームのジェイルへ通信を入れる。それを見ながらふとアルトが呟いた。

 

「今日はこれでいいけどさ。邪眼がこの子の事を知ったらこれからどうなるかな……?」

 

 それに誰もが不安を感じた。邪眼が気付かぬままでいてくれるなどと誰も思えなかったために。必ずどこかからこの事を知り、少女を手にしようと動くだろう。それは、今まで以上の激しさを伴った隊舎の襲撃。ライダー四人と六課の総力をぶつけるだろう戦い。その事を考え、ルキノがはっきりと告げた。

 

「大丈夫だよ。何があってもライダーは……六課は負けないっ!」

 

 その手はサムズアップを作っていた。それに誰もが頷いて同じ仕草を返す。希望を失う事無く戦う。それを可能にする魔法の仕草。その安心感を感じながら全員が動き出す。今、自分達が出来る精一杯を行なうために。

 

 

 

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 平穏を取り戻した六課隊舎に一台の車が現れた。そこから降り立つのは大きなケースを手にした一人の男性。そう、レジアスだ。表向きは査察官としてここへきた彼。実際はバトルジャケットを受け取りに来ただけだ。

 だが、一応ポーズとして査察もするためにレジアスは事前連絡なしでやってきた。彼はゆっくりと隊舎へ向かって歩き出す。その後ろから宿舎から本を手にしたディードが歩いてきて、そんな彼の姿に違和感を感じた。

 

(……見た事のない方ですね。まさか、スパイでしょうか?)

 

 姉達が言っていたライアーズマスクによるスパイ懸念を思い出すもディードは小さく首を振った。何故なら、目の前の男性は六課関係者のようには見えなかったのだ。今も隊舎を見つめ何か呟いている。

 

「あの、何か御用でしょうか?」

 

 背中から聞こえたその声にレジアスは振り向き、ディードの格好に違和感を覚えた。陸士の制服ではなかったからだろう。しかし、非番の者かと考えてそれを指摘する事はしない。

 

「すまんが責任者を呼んでくれるか。査察官が来たとな」

「査察? 分かりました。では、こちらへ」

 

 受け答えからスパイではないだろうと結論付けるディードだったが、査察との単語には不思議そうな表情を浮かべた。その反応にレジアスはどこか幼さを感じるも、無言で彼女の後ろをついて行く。

 その内心で非番の者を働かせる事になるのは申し訳ないと思っていたが、今は少しでも時間が惜しいために。それもあってレジアスは彼女以外の者へ応対してもらおうと考え、そんな事を述べたのだ。

 

 ディードはレジアスをロビーへ案内し、一礼して指揮所へ向かった。その後ろ姿を見送ってレジアスは苦い顔をする。

 

(やはり、あのような年齢の者達を魔力あるなしで差別せざるを得ない現状はどうにかせねばならん。魔力があろうとなかろうと、時代を作るのは若者なのだ)

 

 幼い少年少女さえ魔力を有しているだけで管理局は良い条件で勧誘する。その反面、大人であろうと魔力のない者は冷遇される。魔導師主義とでも言えばいいのだろうか。非殺傷が出来ない事や万が一の際に身を守る術がないという理由で、魔法の使えない者達はどうしても管理局では難色を示されるのだ。

 それを何とかして改善し、誰でもその気持ち一つで平和のために働けるようにとレジアスは動いている。局員として大切なのは魔力ではなく平和のために働きたいという気持ち。そう考えるからこそ、彼は多くの陸士達から慕われているのだ。

 

 改めて管理局の抱える問題を見つめた気がしたレジアス。そこへディードが戻ってきた。グリフィス達からヘリの受け入れと念のための邪眼警戒のため少し待って欲しいと告げられたために。

 実はディードはそれを受け、オットーへ食堂の手伝いは出来ない事を告げていた。自分がその査察官の相手をしようと考えていたのだ。

 

「申し訳ありません。今立て込んでいるので、もう少しお待ち頂けますか?」

「そうか。なら構わん。簡単な案内を頼もうと思っただけだ。儂一人で勝手に見させてもらう」

「でしたら、私がご案内します」

 

 レジアスの言葉にディードはそう笑顔で答えた。それには彼の方が困惑した。非番だろうディードにこれ以上働かせるのは忍びない。そう本心を告げると、ディードはその気持ちに笑みを見せてこう言った。

 

「お気になさらず。これは私が好きでやる事ですので」

「……そうか。では頼む」

 

 中々出来た若者だと、そう思いながらレジアスはディードの案内で歩き出す。こうして二人は六課隊舎を見て回った。最後に彼がデバイスルームを見たいと告げた時はさすがにディードも慌てたものの、レジアスは心配はいらないと告げた。

 そう、彼はこう言ったのだ。ここにジェイルがいる事は知っていると。それについて何かするつもりもないとの言葉を聞いて、ディードは目の前の相手が誰かを何となく察した。六課にいるジェイルの存在を知り、査察官として来るような相手など彼女には一人しか心当たりがなかったからだ。

 

 それでも一応ジェイルへ確認を取り、その予想が正しいと理解してからディードはレジアスを部屋へと入れた。

 

「では、どうぞ……レジアス中将」

「すまんな。案内助かった」

 

 ディードの言葉に軽く手を上げ、レジアスは室内へと入っていく。それを見送り、ディードは複雑な心境だった。案内している最中彼女達は軽く雑談をしたのだが、その時の印象はとても戦闘機人を欲しがるような強硬派のものではなかったのだ。

 

(もしや、あの方もみんなの笑顔のためにと思っていたのでしょうか。戦闘機人の力で、誰かを守ろうと……)

 

 生憎レジアスの本心をディードは理解出来なかったが、今まで抱いていた彼へのイメージが大きく変わったのは事実だった。タカ派で強引な手法の人物。それが、本質は優しい人物なのではと思えるように。

 ディードがそんな風にレジアスの印象に思い馳せている頃、室内ではジェイルとレジアスが初めての直接対面を果たしていた。

 

「これが……バトルジャケットか」

「そうだよ。重量は出来る限り軽減したけど、今はそれでも三十キロはある。体を鍛えていない者では着るだけでトレーニングだよ」

 

 その言葉をレジアスは鼻で笑った。若い頃から魔導師達と共に現場で働き、魔力がない事を揶揄されぬためにここまで来たのだ。そんな彼は未だに肉体面でも現役なのだから。

 

「ふん、儂を甘く見るな。今でもそこらの魔導師には体力面で負けはせん」

「なら結構。一度着てみるといい。君の体に合わせてはいるが一応確認をしておいてくれ」

 

 それに頷き、レジアスはバトルジャケットを着装するべくそれが置いてある棚へ近付く。胴体部や脚部などを身に着けていき、最後に頭部を装着する。外見は完全にブランク体だが、その様子を翔一が見たのならきっとG3-Xを思い出しただろう。

 確かに感じる重量感にレジアスは若干の動きにくさを覚える。だが、それでも想像した程ではないと感じていた。その要因は内部に設けられたジェネレーターにある。大気中の魔力を吸収し、それを使って僅かではあるが装着者の負担を軽減しているのだ。

 

「……どうだね?」

 

 軽く動いているレジアスへジェイルは感想を尋ねた。それに彼は両手を握り締めてややぶっきらぼうに答える。

 

「まだ違和感はないとしか言えん。強度等は戻ってから確かめてみよう」

「そうしてくれ。データや要望はウーノへ頼むよ」

 

 そのジェイルの言葉に頷いてレジアスはバトルジャケットの頭部を外した。その顔には汗がはっきりと浮かんでいて、バトルジャケットが着るだけで体力を奪う事を示していた。その後、レジアスはジェイルからバトルジャケットの機能説明を聞き、それを簡単に書き記した物を受け取った。

 バトルジャケットはそのまま持ち出すのは色々と問題があるので、持参したケースへしまいそれを手にしてレジアスが部屋を後にしようとした時だ。ジェイルが彼へこう告げた。

 

―――君を案内したのが、私の自慢の娘の一人だよ。

 

 それにレジアスは足を止めた。ジェイルに娘がいる訳はない。もしそんな風に呼ぶ相手がいるのならそれはある者達しかいないのだ。それを理解したからこそ、彼は足を止めた。

 

「……あれが戦闘機人だと言うのか」

「そうだよ。分かったかい? 私達は揃って勘違いをしていたんだ。戦闘機人なんて言っても、それはやはり人なんだ。戦うための機械じゃない。その意思や心は無くせないんだよ。結局私が出来たのは……あの子達に重い物を背負わせる事だけさ」

 

 ジェイルの悔いるような声にレジアスは何も言えない。何故ならば、それを彼にさせたのは元を辿ればレジアスだからだ。犯罪者だったジェイルに違法行為をさせる。以前であれば、それ自体に良心が痛む事は無かった。

 しかし、今のジェイルを見て良心が痛まぬレジアスではない。ジェイルが更生しようとしている事は最高評議会を通じて何となくだが感じていたし、通信を通じて知ってはいた。だが、直接会って余計に悟ったのだ。ジェイルが本当に更生しようとしている事と自分が彼にさせた事の重みを。

 

(儂が考えていた戦闘機人の構想は、間違っていたのか……? いや、そもそもの出発点がいけなかったのだ)

 

 誰かを助け守るために誰かに犠牲を強いる。それがもたらす結果を考えた時、レジアスはグレアムが伝えた仮面ライダーの言葉を思い出した。

 

―――誰かを悲しませて残りを笑顔にしても、今度はその誰かが悲しみを生む。

 

 その言葉がいかに正しい言葉だったかを今更ながらに痛感し、レジアスは両目を閉じて顔を上げた。決して己が抱いた考えの基は間違っていない。しかし、結果を急ぎすぎるあまりに大切な事を見落としてしまった。

 自分が誰かを守るために犠牲になるのなら問題は無かっただろう。しかし、その犠牲を他者に強いてしてしまった。例え一人を犠牲にして次元世界全てを守る事が出来るとしても、その一人の犠牲を最初から肯定してしまってはいけなかったのだ。そう結論を出し、レジアスはジェイルへ告げた。

 

「ならば、儂は貴様に重い物を一つ背負わせたのだな」

「……なに、あの頃の私が好きでやった事さ。君が気にする事じゃない」

 

 そのジェイルの言葉にレジアスは小さく驚きを浮かべた。

 

(……あの娘と同じ事を言いよって)

 

 ディードが自分を案内する時に口にした言葉を思い出し、レジアスは何とも言えない気持ちになった。ジェイルの言葉が自分を気遣ったものだと理解したからだ。それに対し、レジアスは僅かにある事を言うべきか逡巡するが、何かを決意してジェイルへ告げる。

 

 ただ、その背を向けたままで、声には何の感情を込められていなかったが。

 

―――それでもだ。それと気遣いはいらん。ただ、その気持ちには感謝してやる。

 

 それにジェイルが呆然となる中、レジアスはそのまま部屋を後にした。沈黙が訪れるデバイスルーム。レジアスが去ったのを見届け、ジェイルはようやく我に返った。そして、扉へ向かって小さく告げる。

 

―――してやる、か。やはり君は偉そうだね。

 

 その声には呆れと不満が混ざっていたが、その顔には確かな笑みが浮かんでいるのだった。

 

 

 

-6ページ-

 無限書庫。そこでユーノは六課からの依頼をこなしていた。それはマリアージュ関連の情報調査。ウーノをはやてから紹介され、二人で協力しながらある存在を調べていたのだ。

 それはマリアージュを生成する事が出来る冥王と呼ばれる存在。古代ベルカの王の一人、ガレアの王イクスヴェリアだ。そして、二人はその位置を特定する事に成功していた。ユーノが見つけ出した資料を基にウーノが足跡を丹念に辿った結果だ。

 

『これが少しでも邪眼への牽制になればいいのですけど』

「そうだね。こちらでも、もう少し邪眼対策になりそうな物を探してみるって伝えておいてくれ」

『了解しました。はやて部隊長に伝えておきます』

「うん、お願いするよ」

 

 ウーノの答えにユーノも笑みを返し、そこでモニターは消えた。するとそれを待っていたかのようにユーノへ近付く者がいた。

 

「スクライア司書長、探し物は見つかったのですか?」

「ルネか。うん、でも困った場所にあってね。ちょっと苦労しそうだよ」

 

 ルネッサの問いかけにユーノは苦笑混じりで答えた。そう、彼女はユーノの助手としてこの事に関っていた。最初は一人でやろうと思っていたユーノだったが、それを知った彼女が手伝いを申し出たのだ。普段の仕事も多くあまり負担を掛けるのはよくないと考えたのだろう。

 ユーノはその申し出に申し訳なく思って断ろうとするも、彼女の告げた「もし疲れが見えでもしたら恋人が心配する」との一言の前に折れて現状と相成った。だが、実はルネッサはユーノの手伝いをしながらもウーノとは接点を持とうとせずにいた。

 

 それを気になったユーノがどうしてか聞くと彼女はやや躊躇いがちにその理由を答えたのだ。

 

―――自分から人と接するのは苦手なので……

 

 それにユーノも納得。確かに彼女は自分から誰かに話しかけるのは苦手だったのだ。無限書庫に来た日から今までもそうだった。自分から声を掛けるのは必要な時や業務に関わる時のみで、それ以外は決して自分から関わる事はないのだ。

 故にいつも誰かが声を掛けないと喋らない。ユーノはそれを思い出し、更にウーノとの話を聞かれると不味い事も多いと考えてそれを正す事はしなかった。

 

「困った場所、ですか」

「そう。実はね……」

 

 ユーノがルネッサへその場所を話すと確かにと彼女は頷いた。そして彼へこう告げたのだ。すぐには探しにいけないですねと。それにユーノは悪戯っぽく笑みを見せて軽く答えた。

 

―――どうだろうね?

 

 同時刻の六課隊舎内医務室。そこでシャマルは一人の少女を見つめていた。その眼差しはやや険しさを含んでいる。

 

「……この子が聖王のコピー」

 

 まだ小学生になるかならないかぐらいの外見にも関らず、今後背負う事になるだろう事実。その重さにシャマルは表情を辛そうに歪めた。それを敢えて教える必要はないが、ずっと黙っていていいものでもない。

 話す事になるのがいつで誰になるかまだ分からない。せめてその時には少女が自身の事を受け止められるぐらいに強くなっている事をシャマルは願った。

 

(レリックの入ったケースをつけていたのもそれを使って聖王としての力を引き出させるため。ジェイルさんはそう教えてくれた……)

 

 搬送するのと入れ代わりに部屋を出て行ったジェイルが自身へ告げた言葉。それを思い出して彼女はため息を吐いた。邪眼がこの少女の存在を知るだろう事はシャマルだけでなく誰もが覚悟していた。

 何せ、この少女はトイの襲撃を受けたために保護されたような部分もある。つまり、トイが動いた事から邪眼が今回の事の顛末を調べるだろうと。故に、今もロングアーチが例のトンネルを警備している陸士隊へ警戒を呼びかけているのだ。

 

「今後は、この子が戦いの鍵になるのかしら」

 

 昏々と眠る少女を見つめ、シャマルはそう呟く。その声には明らかな悲しみが込められていた。そこへザフィーラが姿を見せた。彼は眠る少女を見つめると視線をシャマルへ動かす。その眼差しに気付いたのかシャマルは振り向くと何かあったのかと問いかけた。

 

「今主達が帰ってきた。もう心配はいらん」

「……そう。良かった」

「それと、もう一つ朗報だ。ユーノと共同で調査を進めていたウーノが、先程マリアージュを生み出す存在の現在位置を特定したとの事だ」

 

 その言葉にシャマルが驚く。既にマリアージュとは何度か戦っているのだが、仮面ライダー達にしてもその存在は厄介だった。倒した際に起きる爆発がその原因。基本接近戦で戦うライダー達にとってその爆発力は脅威。故に早めにマリアージュをどうにかしたいと考えていたのだ。

 なので、その報告はまさしく朗報だった。シャマルがそう思い笑みを見せるとザフィーラも同じ笑みを返す。しかし、何かを思い出してその表情が曇った。

 

「どうしたの?」

「いや、その存在がいる場所が少々問題でな」

 

 シャマルはその言葉に小首を傾げる。どこに居るとしてもいけない場所はないと思ったからだ。だが、ザフィーラから告げられた言葉に彼女は自分の考えがある意味で間違っていたと知る事になる。

 

「海の中だそうだ。まぁ、行く手段については南にあてがあるらしいから心配はないがな」

 

 それを聞いたシャマルだったが、それでもまだ不安は尽きないのか不安そうな顔を見せる。何事もなければいいと呟きながら彼女は視線を眠る少女へと向けるのだった。

 

 

 

-7ページ-

 ベルカ自治区にあるジェイルラボ。そこで邪眼はトイからの情報で聖王のコピーの居場所を把握していた。トイが六課の者達に破壊された事。そして、トイが追跡していた相手がレリックを所持していた事。それらから邪眼はコピーを六課が保護し匿っていると判断したのだ。

 

「……ふむ、しばらくは動かないでいるか。奴らはこちらを警戒するだろうが、あくまでも我の目的はキングストーンだ」

 

 そう自分を納得させるように呟く邪眼。確かにこの遊戯には多少面白みを感じているが所詮邪眼にとっては戯れ。邪眼にとって大切なのは二つのキングストーンのみ。しかし、そこへアハトがマリアージュを連れて現れて邪眼の前に跪いた。

 

「創世王様、ご報告があります」

「何だ?」

「はっ、ツバイからの報告でマリアージュを生成する存在の居所が判明しました。六課もそこへ向かうようなのでそれの確保を許可して頂きたいのです」

 

 その後もアハトは言葉を続けた。その存在を改造する事でマリアージュを操作する事が出来るかもしれない。そうなれば自爆操作も改造も可能となる。そう出来ないとしても今以上の速度でマリアージュを量産出来ればライダー達への攻撃には十分である事を。

 それを聞き、邪眼も頷き許可を出した。それにアハトが感謝を述べ立ち去ろうとすると、何故かそれを邪眼が止めた。その理由が分からないアハトが疑問符を浮かべていると、背を向けたまま邪眼はこう尋ねた。

 

「ツバイの方はどうなっている?」

「はい、既にある程度計画を変更したものの進行しています。後は時期を見て行動を起こすだけです」

 

 勝手に計画を変更した事に邪眼は少し不満そうだったが、アハトが告げた変更内容に納得した。それならばライダーに絶望を与える事は出来なくともその心に影を作る事は出来るだろうと判断して。邪眼は嗤う。その時が楽しみだと。その笑い声を聞いてアハトも邪悪な笑みを浮かべた。

 

 オットーと同じ顔が不気味に歪む。そして邪眼へ一礼してアハトはマリアージュと共にその場を去った。六課が動く前に生成する存在を確保するために。

 

「ツバイの報告によれば、奴らもすぐに動き出す可能性があるらしいし……」

 

 急がなくては。そう思ってアハトは歩く。計画の実行日は近い。それまでに何とかして邪眼の期待に応えねばと。しかしアハトは、いや邪眼以外の誰も知らない。

 

 邪眼が、そもそも自身以外に何も期待などしていない事を……

 

 

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後編。ついに登場の聖王様と冥王様。次回は幕間的な話。そしてその次はRXのあの力が本領発揮するかも。

説明
休日を謳歌するスバル達。だがその時間は唐突に破られる。聖王のコピーを狙うトイとの戦いが始まったのだ。
その一方でレジアスとジェイルは直接出会い、ティアナは翔一への意識を変化させる事となる。
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