【小説】しあわせの魔法使いシイナ『空を泳ぐ魚』 |
綾の住む「央野区」は、普通の街と少し違っています。
街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。
綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。
今日は日曜日。
綾はお昼ごはんのホットケーキを焼いています。
ホットケーキの甘い香りが、ふんわりとあたりにただよいます。
こがね色の焼きかげんを見つつ、綾はフライパンの上のホットケーキを上手に放り上げて裏返します。
一枚目をお皿にのせて、さあ二枚目にとりかかろうと綾は思いました。
その時、お皿の上のホットケーキのそばに、ゆらゆらゆれる赤いものを見つけました。
『何かしら?』綾は目をこらしてよく見ました。
それは、小さな赤い魚でした。
魚が空中をひらひらと泳いで、ホットケーキをつついています。
綾は、せっかく作ったお昼ごはんがつつかれては困るなあ、と思いましたが、この魚はお腹がすいているのかも、と思い直して、魚がホットケーキをつつく様子をしばらく見つめていました。
けなげにホットケーキをつつく魚を見ているうちに、綾はだんだん魚がかわいく思えてきました。
「好きなだけお食べ」綾は魚にそう言いました。
「ふぁ〜、よく寝た」
シイナが二階から、あくびをしながら階段をおりてキッチンにやってきました。
「おや、何か小さいのがいる」シイナは魚を見て言いました。
「ねえシイナ、この魚はなんなの?」綾がシイナに聞きました。
「この子はね、空を泳ぐ魚だよ」シイナが答えました。
「空を泳ぐ魚?」
「そう。普通の魚は海や川を泳ぐけど、この魚たちは空を泳げる魚なの」
「ふうん、不思議ねえ」
「綾ちゃんのホットケーキの匂いにつられてやってきたんだね」シイナが笑って言いました。
そう言っているうちに、空中を泳ぐ魚が次々と綾の家の窓から入ってきました。
金色の魚、銀色の魚、ブルーの魚、ピンクの魚、黄色の魚、しま模様の魚、水玉の魚、透き通った魚まで、大きなのも小さなのも中くらいのも、数えきれないくらいたくさん入ってきました。
「あらら、こりゃ大変」
二人はあっという間に、魚の群れに囲まれてしまいました。
「このままじゃお昼ごはんが食べられないわ」綾が言いました。
「私にまかせて!」
シイナはホットケーキをお皿ごと持ち上げました。
そのまま、玄関から外にでます。
魚たちはシイナの持つホットケーキの匂いにつられて、シイナの後をぞろぞろついて行きます。
外に出たシイナは、ホットケーキを勢いよく空に放り投げます。
ホットケーキはそのまま空高く舞い上がりました。
「さあ、お行き!」シイナは言いました。
すると魚たちは、一斉にホットケーキを目がけて空へ飛び立っていきました。
そして、その先を見ると、空を泳ぐ魚たちがたくさん群れを作って泳いでいました。
まるで夜空に浮かぶ天の川のように、青空の一角を魚たちの群れが横切っていました。
綾も玄関から出てきて、見上げました。
「わあ…すごい…」綾は某然とつぶやきました。
「見て、綾ちゃん」シイナが西の空を指差しました。
すると、街並みの向こうからやってくるのは、巨大な空を泳ぐクジラでした。
「うわぁ…」
クジラが綾の家の上を通り過ぎるとき、クジラの影に家がすっぽりと包まれてしまいました。
クジラが通り過ぎると魚たちの群れもまばらになりました。
「行ったみたいだね」
「そうね、一時はどうなるかと思ったわ」
「お昼ごはん食べよう、綾ちゃん」
シイナはそう言って、綾と一緒に家に入りました。
「あれ?」シイナが首をかしげました。
キッチンに目をやると、最初に来た赤い魚が一匹、まだ残っていました。
「よっぽどこの家が気に入ったんだね」シイナが言いました。
「まあ、一匹くらいいいかな」
綾とシイナと魚の三人で、お昼ごはんにホットケーキを食べました。
赤い魚は、その後もときどき綾の家に来てごはんを食べるようになりました。
魚が来る日には綾はちょっとだけ、いつもよりごはんの時間が楽しく感じられるのでした。
―END―
説明 | ||
普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。 何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもやきもき。 でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。 |
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