IS学園にもう一人男を追加した 〜 OVA 一夏の夢の旅。エピローグ後、波乱の再来。
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一夏

「んぅ・・・ぇっ?」

 

目を見開けば、そこは公園だった・・・

 

 

【一夏の夢の旅。エピローグ後に戻る波乱】

 

一夏

(あれ〜? 俺は確か、学園の寮のベットで寝ていたはずなのに。しかも制服着てるし・・・あっ、これは夢か。夢なんだな)

 

頬に手を伸ばし、思いっきり引っ張る。

 

[ギューッ!]

 

一夏

「・・・痛く、ない。痛くない!」

 

どうやら、俺はどこかで"痛くなるかも"と心配していたようだ・・・大概はここで"痛い"と叫ぶところだろうから。

 

一夏

「なら、もう一度、寝れば・・・」

 

そう言いつつ、俺は近くのベンチに横たわり、目を閉じた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ツンツン・・・]

 

一夏

「んっ・・・」

 

[ツンツンツンツン!]

 

一夏

「ん〜、何だよ、箒・・・」

 

「だ〜れ〜、ほうきって〜?」

 

一夏

「え・・・うぉっ!?」

 

俺はてっきり、箒がまた"修行"に連れて行こうと頬を木刀で突いていたと思っていた。だが、現実は寝ている俺の顔を覗きこんでいた少女が木の枝で突いていただけだった。

それに驚いた拍子に、古びたベンチの足は折れて、俺の背中は固い土に強く打ち付けられた。

 

一夏

「いったぁ・・・!」

 

・・・痛い? さっきは痛くなかったのに・・・

 

少女

「だ、大丈夫ですかぁ!?」

 

一夏

「え、あ、うん・・・」

 

少年

「本音ー! 何してんだ?」

 

そこに水を入れたおもちゃ用のバケツを抱えた少年がやってきた。すると、"本音"と呼ばれた少女が現状を説明し、て・・・"本音"? どっかで聞いた名前のような・・・思い出せない。

 

少年

「別に大丈夫だろ。この兄ちゃん、頑丈そうだし。ほっとけ」

 

こ、このガキっ・・・

 

本音

「で、でも〜」

 

少年

「・・・兄ちゃん、背中」

 

少女の視線に耐え切れなかったのだろうか、少年は面倒そうに俺に"背中を見せろ"と要求してきた。この時、少年の頬が少し赤かった事は黙っておこう。

良いものを見れた事だし、そのお礼として何も言わず、制服を上げて背中を向ける。

 

少年

「・・・大丈夫だな。一応、家に来るか?」

 

一夏

「いや、これぐらい平気だ。お気遣い結構だ。でさ、ここはどこなんだ?」

 

少女

「ここは"日光公園"だよ〜!」

 

一夏

「日光、公園・・・」

 

聞いた事ない名称だ。少なくても自宅近所にある公園じゃない・・・

 

少年

「おかしな奴・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

少年

「そこ、泥の張りが甘いぞ。崩れちまう」

 

一夏

「こ、ここか?」

 

俺はこの2人の山作りに(強制的に)協力させられている。何故だろう・・・?

 

少年

「どうせ暇だろ」

 

この言葉が原因だったな・・・

 

本音

「わぁ〜い! 穴が貫通したぁ〜!!」

 

一夏

「もしもし、本音ちゃん? 俺達は山を作ってるんじゃ・・・なぁ?」

 

少年

「だから?」

 

少年はすでに、山作りから穴作りに変更していた・・・変わり身はえぇな、おい。

 

男?

「おっ、やってるなぁ! 子供達!」

 

女?

「あれ? 君はお手伝いさん?」

 

俺がこの2人の関係に圧倒されていると、俺達に声をかけてきた男女のペア。

女性の方は俺に語りかけてきたが、男性の方はすかさず少年少女を抱き上げて頬を擦り合わし、めちゃくちゃ愛で始めた。

 

少年

「父さん、暑い!」

 

少女の方はキャハハと笑っていたが、少年の方は明らかに嫌そうに"父親"の頬を両手でグイグイと押す。だが、その反応すらも喜びに感じ取る父親は・・・

 

「照れ隠しかぁ? 可愛いな、こいつぅ!」

 

少年

「ぐぐぐぐっ! か、母さん! 助けて!」

 

「ガンバレ〜、シオンちゃ〜ん!!」

 

シオン

「くそっ!」

 

シオン・・・? "本音"と"シオン"・・・ん?

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、君の名前は?」

 

少年少女を砂場に残して、ベンチに腰掛ける俺とシオン君の両親。

 

一夏

「あ、一夏です・・・織斑一夏」

 

「っ・・・」

 

「織斑君って、いうんだ・・・」

 

急に歯切れが悪くなったぞ・・・?

 

「こ、この辺に住んでいるのかい? "織斑"の苗字なんてそうそういないからね」

 

一夏

「いや、その・・・」

 

知らないっていう訳にもいかず、良い言い回しを考える・・・第一、これは夢なんだろ? 夢でどうしてこんな目に合ってるんだ!?

 

一夏

「なんていうか・・・お、俺───」

 

本音

「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ〜〜!!!」

 

結局、言い逃れる言葉を探し出せず、白状しようとした瞬間、本音ちゃんが泥だらけの顔でこちらに走ってきて、俺の膝を揺さぶる。

 

一夏

「ど、どうしたんだい!?」

 

"しめたっ"と思った俺は、今の流れを断ち切って、夫婦の注目を本音ちゃんに向けさせる。

 

本音

「すごいよすごいよぉ! あれっ!!」

 

泥にぬれた指先を砂場の方に向ける。そこには・・・

 

一夏

「・・・城?」

 

2メートル近くの砂のお城が立ち誇っていた。それを見た夫婦は・・・

 

「こりゃ、また大層な物を!! 家からカメラ取って来る!!」

 

「なら、私は町内会の人達、連れてくる!! 息子の力作だものね!! 本音ちゃんは、家でお風呂に入ってきてらっしゃい!! 織斑君、シオンちゃんをよろしくぅ!!」

 

本音

「わぁ〜い!!」

 

一夏

「え、ちょっと待っ!?」

 

3人は俺の静止の声を最後まで聞く事無く、一目散に走り去っていった。んで、残された俺は・・・

 

シオン

[サッ・・・サッサッ]

 

一夏

「うっわ、細かい所までちゃんと削ってやがる・・・」

 

窓際の細かい部分を指で削っているシオン君の近くで、作業の様子を見守るしか出来なかった。

 

シオン

[サッサッ]

「・・・ふぅ。あれ、皆は?」

 

一夏

「これを見たら、興奮してどっかに飛んでいったよ」

 

シオン

「そ、そうか・・・すごいのか。これ」

 

いや、どこから見ても、並みの完成度じゃないぞ・・・

 

シオン

「じゃ、俺は家で風呂でも浴びに行くか・・・兄ちゃんは?」

 

一夏

「いや、俺はいい・・・それにしても、お前の両親、良い人だな」

 

シオン

「・・・だろ。自慢の家族だ!」[ニコッ]

 

一夏

「そうか。ずっと仲良しでな」

 

シオン

「当たり前だ・・・そういえば、兄ちゃんの名前、聞いてなかった」

 

一夏

「ん? そうだったか? 俺は織斑一夏・・・ってか、お前の名前も聞いてなかったな」

 

シオン

「俺? 俺は───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏

「んぅ・・・朝か?」

 

今日は日曜日。冬休みの補習を終えた翌日だ・・・それにしても、さっきまで俺は長い夢を見ていたような・・・はて? 何だっけ?

 

[モゾッ]

 

一夏

「え・・・!?」

 

まさか・・・またっ!

 

一夏

「ら、ラウラ!」

 

ラウラ

「ひっく・・・うぅ!」

 

ドイツから帰ってきたんだな・・・って、前にもこんな事があったなぁ・・・違うところがあるすれば、ラウラが俺の上で何故か泣いていた事だけだ。

 

一夏

「ど、どうして泣いてんだよっ!? あと、服着ろ」

 

ラウラ

「もぅ・・・ダメだ・・・私は、もう・・・」

 

「一夏ぁ! とっく、ん・・・に・・・」

 

・・・デジャブ。

 

「いっちかぁ!! アタシの訓練、手伝い、なさ・・・」

 

セシリア

「箒さんも鈴さんも、どうしまし、た、の・・・」

 

シャルロット

「な、何してるの?」

 

しかも増えとる!!

 

ラウラ

[ダァァァァ!! ガシッ!!]

 

シャルロット

「ど、どうしたの、ラウラ!?」

 

俺と掛け布団に挟まれていたラウラが、布団から飛び降りて、シャルロットに飛びついて抱きつく。そして、次のラウラの発言が俺を地獄の淵に立たせた。

 

ラウラ

「もう、ダメだ・・・"汚された"」

 

4人

[ピキッ・・・]

 

一夏

(どゆことぉ〜!!??)

 

とんでも勘違い発言! ってか、ドイツに行っている間、ラウラの身に何が起きたんだ!?

 

「いいいい一夏っ!! ま、まま、まさかラウラに・・・!」 ←『雨月』構え

 

一夏

「ま、待ってくれ、誤解だ!! 俺は何も───」

 

セシリア

「あら? 言い訳なんて男らしくありませんわね。ふふふふふふっ」 ←『ブルー・ピアス』or『ブルー・ティアーズ』ロックオン

 

「最近、『龍砲』の特訓しかしてなかったから、得物の素振りとか久しぶりだわぁ・・・」『双天牙月』で肩慣らし中

 

シャルロット

[ニコニコ] ←『疑似手』"蜂の巣"準備

 

べ、弁解の余地すら与えてくれない、のか・・・"波乱"だ。

 

 

 

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獅苑

「う〜ん・・・」

 

俺は悩んでいた・・・机の上にばら撒かれた"今の所持金"を見つめて。

 

【増えた獅苑ファミリー。行き着く先は・・・・・・うさ耳?】(その1)

 

人里離れた静かな場所。机の前の窓の向こうには綺麗な湖が見えて、とても美しい昼ごろの風景なのだが・・・

 

獅苑

(どうすっかな〜・・・これで今週まで持つかどうか・・・)

 

今の俺は現実から目を背けてはならない。政府の工作員が俺を嗅ぎ回っていて、両親が残してくれた資金は自宅に置いてけぼり。更識家が管理してくれているなら、自宅内にまで調査は入らないと思うけど・・・

 

[クイクイ]

 

座っていた俺の上着のすそを引っ張られる感覚。視線を下に向けると、そこには小1くらいの美少年が腕にりんごを抱えて立っていた。

 

?[美少年]

「た、ただいま、です」

 

獅苑

「ん、おかえりなさい」

 

抱えていたりんごを一つ取り、そのままかじりつく。"しゃり"と歯ごたえがした後、俺は"もう1人の片割れ"の存在がいない事に気づく。

 

獅苑

「1人で出かけてたのか?」

 

?[美少年]

「う、ううん・・・えっと、外に───」

 

?[やんちゃ少女]

「やっほぉ〜い!!」

[パリンッ!! ドゴォッ]

 

獅苑

「───おぶっ!?」

 

窓ガラスが蹴破られ、幼児体系の少女がガラスの破片と共に俺の顔めがけ飛んできて、破片は俺に触れなかったものの、少女は俺の前頭部に纏わり付いた。その時、[美少年]はりんごを振り落とさないようにその場からいち早く離れていた。

 

?[やんちゃ少女]

「たっだいまっ、シオン!」

 

獅苑

「おかえり・・・」

 

そろそろ、玄関から入る事を覚えてくれないかなぁ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺・・・俺達は今、ドイツのお隣の国"オーストリアのアッター湖"近くの人里離れた場所に身を置いている。そう言うのも、今の俺は全国の政府から指名手配されているお尋ね者のため、こうして人目につかぬ廃舎を修繕して住んでいる。

 

哀楽(アイラ)[やんちゃ少女]

「ごっはん♪ ごっはん♪」

 

秋激(シュウ)[美少年]

「あ、アイラ、ダメだよ。フォークで机を叩いちゃ・・・」

 

この子達は"補足"で説明したと思うが、『死戔』の中にいた"二卵巣双生児クローン"。ドイツの"ツークシュピッツェ"の奥底で実体を発見し、2人が目覚めた以降、俺と行動を共にしている。

 

獅苑

「では、手を合わせて・・・」

 

机についた俺が手を合わせると、前に並んで座る2人も手を合わせて・・・

 

3人

「いただきますっ」

 

いつもどおり、夕食を仲良くいただく。

※オーストリアの味のレパートリーは多彩です。そこには、長く複雑な文化の歴史が息づいていて、数多くの食文化が融合している。

 

哀楽(アイラ)

[バクバクバクバク!!]

 

秋激(シュウ)

「そ、そんなに、急いで食べなくても・・・ほら、こっち向いて」

 

哀楽(アイラ)

[ふきふきふき]

「ん〜〜・・・[バクバクバク!]」

 

秋激(シュウ)

「もう・・・」

 

獅苑

[ニタニタ]

 

ホント、何度見ても和むなぁ〜。もうこれだけでお腹一杯だ。

 

哀楽(アイラ)

「シオン、食べないの? いらないなら食べちゃおっと!」

 

獅苑

(どうぞどうぞ♪)

 

こんな日が永遠と続けばいいなぁ・・・

 

 

 

 

 

 

深夜。

 

[・・・]

 

獅苑

[パチッ]

 

もう来たか・・・

 

哀楽(アイラ)

「シオン・・・」

 

布団の中で既に目が覚めていた哀楽が怯え、俺にしがみついている。こういう心に裏表のないところが哀楽の"欠陥"である。嘘がつけない・素直って事だ。

 

秋激(シュウ)

「・・・もう、近くまで来てる」

 

あのオドオドした調子は見受けられるも、秋激は落ち着いて外の気配を探っている。

 

哀楽(アイラ)

「し、シオン〜・・・」

 

獅苑

「大丈夫だよ、こんな事もあろうかと思って・・・」

 

怯える哀楽をなだめ、布団から手を出し、床にある小さな隠しボタンを押す。

 

[ガコンッ!]

 

哀楽・秋激

「うわっ!?」

 

布団の下の床が斜めにめり込んで、地下の方までローラースライダーのように下っていった・・・

 

 

 

 

 

 

 

アルファ2

『隊長』

 

マスクの中に耳に取りつけたインカムで、部隊全員だけに声が伝わる。

 

アルファ1(部隊長)

『何だ?』

 

アルファ2

『情報によると、相手はガキ1人らしいじゃないですか。そんな相手に、俺達が出向く必要があったんですか?』

 

アルファ3

『そうっすよ。しかも、プロフィールを見た限りじゃ、ただのガキ───』

 

アルファ1(部隊長)

『俺達はプロだ。ただ任務に集中すればいい。私情を挟むな』

 

アルファ2

『・・・了解』

 

アルファ3

『了解───っ!?』

 

アルファ2

『? アルファ2?───っ!?』

 

突如、薄暗い部屋から"消えた"隊員2人。その事態に、アルファ1は身をかがめて周囲の警戒度を上げる。

 

アルファ1(部隊長)

『やはり、只者ではない・・・"デルタチーム"応答しろ。敵襲を受け、2人やられた。援護を頼む・・・デルタチーム?』

 

通信は繋がっているはずなのに、肝心の相手の返答がない。

 

アルファ1(部隊長)

『まさか! 既に外へ [プツンッ] っ!?』

 

身を起こして足を出した瞬間、足首にひっかかった糸が切れ、アルファ1は天井に吊り上げられた。そこには、消えた隊員達も自分自身に呆れた様子で脱力していた。

 

アルファ2

『隊長・・・』

 

アルファ1

『何だ・・・?』

 

アルファ2

『俺達、プロですよね』

 

アルファ1

『・・・言うな』

 

 

 

 

 

 

 

[バフンッ!]

 

修繕廃舎から少し離れた森の中に、木の葉と土の下から飛び出してくる布団一式。

 

獅苑

「・・・ふぃ」

 

布団から投げ出された俺は、2人を脇に抱え、木の葉をクッションにして尻餅をつく。

自分で作ったとはいえ、刺激的なコースだった・・・でもまぁ、

 

哀楽(アイラ)

「キャハハハ♪」

 

ご機嫌みたいだったみたいだし、作った甲斐があったな。

俺は、凍らせた水が入ったペットボトルと非常食を入れたサイドバックを手に、廃舎に背を向けて歩き出す。

 

秋激(シュウ)

「あ・・・りんご・・・」

 

獅苑

「ん?」

 

昨日の昼に持ってきてくれたあのリンゴか? でも、戻るにしても2人を連れて行くわけにはいかないし、置いてくわけにもいかないし・・・

 

秋激(シュウ)

「ごめんなさい。我侭、言って・・・」

 

獅苑

「悪いな・・・」

 

あのリンゴをくれたおばさん、優しい人だったらしいからな。せっかくの厚意に責任を感じているんだろう。

その時、森の隙間から、夜空の雲が晴れて満月が顔を出す。

 

哀楽(アイラ)

「ウサギさんだよ! ウサギさん!」

 

獅苑

「おい、どこ見て言ってるんだ? 月は向こう、だ・・・ぞ・・・」

 

[シャリ・・・!]

 

哀楽が見上げていた方向に目を向けると、1人の女性が木に乗ってリンゴをかじっていた。

 

「よっと・・・やっぱり、リンゴは日本産が一番だね! はい、リンゴ」

 

秋激(シュウ)

「あ、ありが、とう・・・」

 

獅苑

「お前は・・・」

 

木から飛び降りた女性は、腕に抱えていたリンゴを秋激に渡しに来ると、月明かりが女性を照らす。その姿に見覚えがある。

 

獅苑

「篠ノ之、束・・・何故、ここにいる?」

 

「そんなのアンタに関係ないでしょ。私が用があるのは、この子達だもん」

 

哀楽(アイラ)

「ひぅ!」

 

秋激(シュウ)

「ぅ・・・」

 

2人とも警戒して、俺の後ろに隠れる。

 

「もう、そんなに警戒しなくてもいいのになぁ〜」

 

獅苑

「保護者として言う。2人に何の用だ?」

 

「保護者・・・はぁ。ただ単に、体を弄くらせて欲しいだけですよー」

 

獅苑

「っ・・・理由は?」

 

「理由なんて聞かないでも分かるでしょ。私は全部知ってる。それだけ・・・それとも、その子達の代わりにアンタが身を捧げる?」

 

獅苑

「端からお前の要求なんか呑むか」

 

「要求? 違うよ、全然違う・・・要求じゃなくて、確定事項だから」

[カチャ]

 

秋激(シュウ)

「っ!」

 

[バンッ!!]

 

森に鳴り響いた発砲音。篠ノ之博士が構えた銃の口は俺の心臓を狙っていた。だが、銃弾は俺の心臓を届く事無く、俺と銃弾の間にジャンプして入った秋激の手に収められていた。

 

[スッ] 

「っ!?」

 

哀楽(アイラ)

「コロスよ・・・」

 

獅苑

「しゅ、秋激・・・? 哀楽・・・?」

 

一瞬で起こった出来事。秋激はその綺麗な小さな手で銃弾を掴み取り、哀楽は篠ノ之博士の後頭にしがみついて小枝の先を首筋に当てていた。

篠ノ之博士は、この2人がクローンだと知っているはずだが、容姿と行動が大差ありすぎて面を喰らっている。

俺もそうだ。

さっきまで愛らしかった2人がここまで豹変した。秋激からは静かな殺意が滲み出し、哀楽の目は周りが見えなくなっているほど血走っている。

 

獅苑

「・・・あっ、おい! よせっ!」

 

哀楽(アイラ)

「っ・・・」

 

秋激(シュウ)

「・・・」

 

俺が静止すると、哀楽は自分がしている事に気づいて直ぐ様、篠ノ之博士から離れ、秋激は焼けた手に持った銃弾を捨てる。

 

獅苑

「秋激、大丈夫か!? 今、水で!」

 

サイドバックから解け始めていた水のペットボトルを取り出し、ハンカチに浸して火傷した秋激の手に優しく当てた。

 

秋激(シュウ)

「っ〜〜・・・」

 

獅苑

「我慢しろよ」

 

目をつぶって必死に痛みに堪える秋激。もうさっきまでの狂気は消えていた。それは、哀楽も一緒で・・・

 

哀楽(アイラ)

「ご、ごめんなさい! だから・・・怒らないで」

[ギュッ]

 

獅苑

「怒らないから・・・帰ってくれるか、篠ノ之博士?」

 

「・・・う〜ん。そうもいかないんだよね」

(でも、これ以上、刺激しちゃ今後のためにならないし・・・)

 

くー

「束様。『ゴーレム』、デルタチームを撃退しました。無論、死亡者はゼロです」

 

獅苑

「っ・・・?」

 

また、見覚えのシルエットと声。

 

くー

「あっ・・・」

 

獅苑

「・・・くー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獅苑

「・・・で?」

 

「"で?"って?」

 

あの後、くーが会話に割って入ってくれて、"寝床を貸す"という名目で俺達は篠ノ之博士の秘密基地に来ている。

哀楽と秋激はくーが寝かしに行っていて、今は俺と博士だけが薄暗い部屋にいる・・・いや、俺の場合は閉じ込められている。

 

獅苑

「何で俺だけガラス張りの部屋に閉じ込めるんだよ。動物じゃないんだぞ」

 

「あのね〜。居候の分際で騒がないで・・・それに、これはアンタのためでもあるんだよ」

 

獅苑

「あ?」

 

「まず一つは、アンタが持つ"IS"の解析。動かない原因が分かれば、アンタも都合がいいでしょ?」

 

獅苑

「まぁ・・・確かに」

 

"あの時"から、うんともすんとも言わなくなっちまったからな・・・『コウ』は未だに眠っているのだろうか?

 

「もう一つは・・・ポチッと」

 

篠ノ之博士が擬音を口に出しながら、何らかのボタンを押した。すると、ガラス張りの室内に噴出す白い霧。その霧を吸い込むと勢い良くむせた。

 

「アンタにかけられた"催眠"は解けてない。いつ発症するか分からないのはアンタも困るだろうと思って、、強制的にリハビリしてもらうから」

 

獅苑

「ごほっ、ごほっ・・・!」

 

い、意識が遠のく・・・

 

「さ〜て、一体、どこまで持つかな?」

 

 

 

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お婆さん

「zzz・・・」

 

W

「・・・zzz」

 

B

「お前も寝んな・・・」

 

【就職デビュー・・・?】(その1)

 

"あの時"から一週間後、俺を含めた『W』、スコール、オータムの4人は、日本に身を隠している。

近くのボロアパートを貸してもらい、その狭い部屋に押し込まれたように生活している。だが、この一週間の間、スコールの人脈の幅が役に立って、衣・食と困ってはいない。

 

お婆さん

「っ・・・あらあら、お客さんかい?」

 

そして今、俺と『W』は昼食を買いに、家近くの古びたパン屋に来ている。ちなみに、『W』の"メカチックな片目"は包帯で隠している。

 

W

「[コクッ]・・・こ、れ。よっつ」

 

レジカウンターに膝立ちして顎を乗せる『W』は、真隣にあるメロンパンを指差す。

 

お婆さん

「はいはい、メロンパンね・・・ぴったり500円です」

 

W

「・・・」

 

B

「あ〜、500円な」

 

小銭入れから500円玉を取り出し、『W』の頭上を覆ってお婆さんのしわしわの手にコインを乗せる。

 

お婆さん

「はい、確かに・・・可愛い妹さんね〜」

 

B

「まぁ、そうですね・・・」

 

番号から数えると、俺のほうが下の子なんだがな・・・

 

 

 

 

 

 

 

B

「ただいま〜」

 

W

「ただい、ま・・・」

 

パン屋から徒歩2分。二階建てのアパートの階段を上がって奥の部屋の扉を開ける。

 

オータム

「ん〜、ほかぇんなはい」

 

六畳と四畳半の畳部屋に、何とまぁ、だらしない格好で寝そべってせんべいをかじるオータムが1人。

 

B

「スコールは? あと、昼食」

 

オータム

「スコールなら、遠い知り合いに会いに行くとか言ってたぞ・・・おっ! メロンパンか、久しぶりに食べるなぁ!」

 

砂糖の乗ったメロンパンを喰らうオータムを合図に、俺達も間食を始める。

 

W

[モグモグモグモグ・・・!]

 

B

「こんぐらいしか買ってこなかったけどさ、足りるか?」

 

オータム

「[ゴクンッ]・・・十分に足りるさ。家でゴロゴロしてるだけなんだからよ」

 

B

「それもそうか・・・」

 

W

[モグモグモグモグ・・・!]

 

オータム

「そういや、このパン、近所で構えてるオンボロのパン屋から買ってきたのか?」

 

B

「そうだが・・・何かワケありか?」

 

オータム

「いや前にさ、散歩している時、あの店に黒服の男女が出入りしててな。もしかしたら・・・」

 

B

「政府の奴等とでもいうのか?」

 

オータム

「『亡国企業』が私達を探しているのかもしれないぞ。確証はないが」

 

B

「それはないだろ。俺とコイツが気づかないはずがない」

 

オータム

「何だ。一週間ぶりに暴れるかと思ったのに」

 

W

[モグモグモグモグ・・・ゴックン]

 

B

「ちょっと気になんな。その男女・・・」

 

W

[ジーーー]

 

オータム

「おいおい。深入りしすぎて、ボロ出すなよ。あの婆さん、もしかしたら只者じゃないかもしれないぞ?」

 

W

[ジーーーーーー]

 

B

「わぁってるよ。線引きぐらいは出来る」

 

W

[ジーーーーーーーーー!]

 

B

「・・・食べかけだけど、食うか?」

 

W

[コクッ!!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B・W

[そろ〜・・・]

 

後日。俺達2人はあのパン屋を道角から顔を横から出して監視中。道行く人達の視線が体に突き刺さろうが、集中力を乱す事無く、パン屋を監視し続ける。

監視を始めて1時間後。パン屋の常連客とは頭から足の先まで雰囲気も見た目も違う人物が、店内に入っていった。

それを合図に俺達は、パン屋へ歩み寄り、窓越しから店内の様子を伺う。パン屋の出入り口である引き戸は少し開いていたため、そこに目を当て、耳を立てる。

 

お婆さん

「また、あなた達ですか・・・」

 

黒服(男)

「今日こそは、我々と一緒に来ていただきます。私共も奥様が穏便に済ませている内に、事を済ませたいのです」

 

黒服(女)

「私共は楊(よう)様を拘束しに来たのではありません。安全は保障されています」

 

お婆さん ←(楊

「何度も聞きましたよ。ですが、毎度の事ですが、お引取りを・・・」

 

黒服(男)

「・・・分かりました。私個人としては、楊様に手荒なマネはしたくありませんから」

 

黒服(女)

「ですが、奥様はいずれ、実力行使で来るかもしれません。その時は・・・」

 

お婆さん

「その時はその時に考えれば良いことでしょう。それより、1つどうです? もちろん、お代金は貰いますよ」

 

B

「・・・」

 

オータムの言っていた事が当たったかもしれないな・・・黒服達は見た感じ訓練を積んでいるプロだろう。一体、あの婆さんの裏には何が・・・?

 

W

「・・・くる、よ」

 

お会計を終えた黒服の2人組。俺達はすぐに引き戸から離れて道角に退避する。

引き戸を開けて、黒服2人が徒歩で駅の方に向かって行くのを見て、『W』に耳打ちする。

 

B

「ギリギリまで追え。俺は婆さんに話がある」

 

W

[コクッ]

 

黒服2人が歩んでいった道とは別の道から先回りをしに行った『W』。俺は『W』を見送った後、道角から出て、パン屋の引き戸を開ける。

 

お婆さん

「いらっしゃ・・・あら? 昨日の坊ちゃんかい?」

 

B

「坊ちゃん、言うな・・・メロンパン四つ」

 

お婆さん

「はいよ」

 

レジ奥で座っていた婆さんは、わざわざ席を立ってメロンパンを専用のトングでおぼんの上に乗せてくれる。

 

B

「・・・さっきの2人組、何もんだ?」

 

俺がボソッと囁くと、のそのそとしてた婆さんの動きが完全に止まった。

 

B

「話も聞かせてもらったぞ・・・さっきの2人組の事も含めて、婆さんの事も教えてもらえないか?」

 

お婆さん

「盗み聞きとは、失礼な坊ちゃんね〜」

 

だから、坊ちゃんって呼ぶな・・・

 

お婆さん

「それより、何でそんな事を聞くのかしら?」

 

B

「こっちの都合だ。身の回りは固めておかないといけないからな」

 

お婆さん

「なら、私も話すつもりはないわ」

 

B

「・・・」

 

こりゃ、俺が折れるまで話すつもりはねぇな・・・頑固な婆さんだ。諦めて帰るか・・・

 

お婆さん

「はい、メロンパン四つ」

 

B

「どうも・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

スコール

「ただいまぁ〜」

 

W

「まぁ〜・・・」

 

夜中。スコールが『W』の手を引いて帰ってきた・・・

 

オータム

「お前、今までどこ行ってたんだ!? 心配してたんだぞ!!」

 

2人が部屋に戻ってきた途端、オータムが『W』の肩をがっちりと掴む。

 

W

「???」

 

ゆっさゆっさと揺らされる『W』が、何だか分からない様子で首をかしげている。

オータムはスコールに説明を求めると・・・

 

スコール

「街で迷子になってたわよ」

 

オータム

「・・・とりあえず、アイツを呼び戻そう」

 

 

 

 

 

 

B

「"テレシア"?」

 

『W』が無事に帰ってきた事をホッとした後、追尾した黒服の正体について聞いていた。だが、話を聞いたのはおねむ中の『W』ではなく、話を聞き出したスコールだ。

 

スコール

「経営社"二階堂ボックス"。さっき言った高級ホテル『テレシア』とか、ほかにも高級店とかチェーン店の有力経営社。元は貴族で政治的にもかなりの権力家よ」

 

B

「そいつらが、何で婆さんとこに来るんだ?」

 

スコール

「その人、たぶん・・・前の"二階堂ボックス"の女社長だったからかしら? その女社長、会社も権力も捨ててまで、男と駆け落ちしたって、情報だし」

 

B

「駆け落ち〜?」

 

んな、昼ドラみたいな事を・・・

 

オータム

「こっちも色々、近所の奴等に聞いてみたんだが、あのパン屋は元々、婆さんの夫が切り盛りしていた店らしいぞ・・・ほい、お茶」

 

スコール

「ありがと」

 

B

「んで、その夫さんは?」

 

オータム

「10年前に亡くなった・・・んでさ、私が気になってんのは、もし婆さんがその・・・え〜と・・・」

 

スコール

「二階堂」

 

オータム

「そうそう! その二階堂が、今更、婆さんを連れ戻す意図が分からねぇ?」

 

B

「いや、そんなの簡単な話だろ。なぁ?」

 

スコール

「ええ。簡単な話よ・・・知りたい?」

 

オータム

「勿体ぶらず、教えてくれよ!」

 

スコール

「・・・どうする?」

 

B

「いや、素直に教えてやれよ・・・」

 

何で、そんなに楽しい顔してんだよ? そんなにオータムを弄りたいのか?

それとも・・・

 

スコール

「"やれよ"?」

 

B

「・・・教えてください」

 

いかにも"自分も知ってますよ"と装ってた俺を苛めたいのか・・・って、どっちもか。

 

スコール

「じゃあ、オータムに質問だけど、今の世中は女尊男卑よね。つまり、多くの女性が優遇されて、女貴族は強大な政権を握ってる。その権力者の1人が自分の知らぬところでウロチョロされたら、どう思う?」

 

B・オータム

「「・・・すまん。もう一度、言ってくれ」」

 

スコール

「だから。自分の周りに、自分と同じぐらいの権力者が居たら、邪魔だと思わない?」

 

オータム

「確かに邪魔かもな」

 

スコール

「なら、その人をどうする?」

 

オータム

「殺すなり、処分するなり・・・あっ、ここは日本だから、監禁とかか?」

 

スコール

「悪いけど、"監禁"も法に触れるから。それだったら、わざわざ向こうから出迎えの人を寄越すはずがないでしょ」

 

オータム

「そ、それもそうか・・・分かるか?」

 

B

「ん? いや、まぁ・・・"手元に置いておきたいから"とかか?」

 

スコール

「それが一番、妥当な答よ」

 

B

「って事は、今の二階堂の社長と、あの婆さんは血縁者かもな」

 

単純な話、黒服が言っていた"奥様"は、血縁者である婆さんが何かアクションを起こす前に、手元で監視しておきたいって事か。

あの婆さんが私利私欲に動くような人間じゃないと思うが・・・

それに、黒服が言った言葉・・・

 

 

黒服(女)

『ですが、奥様はいずれ、実力行使で来るかもしれません。その時は・・・』

 

 

B

「・・・」

説明
・・・
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コメント
面白かったです!! 自分はいま亡国企業のオリ主の小説を書いてるので、色々と参考になります!! (カイザム)
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インフィニット・ストラトス

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