ぎのぐんシーズン・はいぱー!
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※注:

 作中の『聖フランチェスカ学園』は聖フランチェスカ学園であって聖フランチェスカ学園ではないもうひとつの聖フランチェスカ学園です。

 ですので、『恋姫無双』(無印)並びに『春恋乙女』等に出てくるそれとは規模から内装・歴史・校則その他に至るまでぜーんぜん違います。

 せいぜい制服が似ているくらいです。たぶん、通っている生徒も、学園周辺の様子とかも違うのでしょう。

 さし当り、一刀くんが寮暮らしじゃないですし。

 ……えっと、お気を付けを。

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 ???

 

 北郷一刀は聖フランチェスカ学園に通う高校二年生である!

 授業中は半分眠り!

 休み時間は及川やら他の野郎どもと駄弁り!

 放課後は部活で汗だくになり!

 そして、彼女はいない!

 出来る気配が微塵も無ぇ!

 おかしい! 変だ! 妙だ!

 この学園は圧倒的に女子の方が多いはずなのに!

 世の中、間違っている!

 この世界は、間違っている!

 

 ――と。

 まぁ一日の八割はそんなわけわからん思考で頭が一杯な、普通の学生だ。

 ……この俺は。

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 ??? ぎのぐんシーズン・はいぱー ???

 

「……い様。起きてください! 遅刻しちゃいますよ、兄様っ!」

 

 カンカンカーン!

 

 朝。とある家族向けマンションの一室。

 ベッドでぬくぬくと惰眠を貪っていた俺の部屋に、金属と金属を叩き合わせる甲高い音が響く。

 

「――う? お、おお……まさか現実におたまでフライパンを叩いて人を起こす奴がいるとは思わなんだ。……ひょっとして、俺はまだ夢を見ているのか?」

 

 眠い目をこすりながら体を起こし、音の出どころである人間に声をかけた。

 

「もう! 何言ってるんですか兄様! 早く顔を洗って、ちゃんと目を覚まして来てくださいっ」

 

 右手におたま、左手にフライパン。

 さらにブルーの大きなリボン+学園中等部の制服+白地の花柄エプロンを装備して、翡翠色の髪を耳下あたりまでのショートカットにした背の低い女子。

 こいつは俺の義妹(いもうと)だ。

 

「あーあー。わかったわかった。だからそんな怒るなよ、流琉。……可愛い顔が台無しだぞ」

「なっ! ななななななななななな、な、何言ってるんですか兄様っ!?」

「二度目だな。っていうか、どもり過ぎだろ?」

「に、兄様が変なこと言うからですよっ!」

 

 口調は強いが、顔は赤いし目線は逸らして斜め上。

 ……こりゃ、照れてるな?

 うんうん、可愛い奴め。

 

「さて。……それじゃ、顔洗う前に着替えちゃうかな」

 

 枕脇に置いてあったスマホで今の時刻を確認しつつ、ベッドから出る。

 流琉は遅刻〜とか言ってたが、登校までにはまだまだ余裕のある時間帯。

 真面目でしっかり者な我が妹は、俺が普段よりゆっくり寝ていると、こうして早めに起こしに来るのだ。

 さすがにフライパン鳴らしながらってのは初めてだけどね。

 

「わかりました。さぁ、早く着替えちゃってくださいっ」

 

 俺の言葉を受け、気を取り直したらしい流琉がおたまをびしっとこちらに向けながら言う。

 こらこら、妹よ。

 「おたまで人を指しちゃだめ」って、小さい頃習わなかったか?

 ……うん、習わねぇな、それ。

 

「どうしたんですか兄様? 本当に早く着替えないと、ご飯食べる時間なくなっちゃいますよ?」

 

 そんな下らんことを考えていると流琉に急かされた。

 もちろん、俺としたって着替えたいのはやまやまだ。

 準備万端寝間着のボタンには手をかけているし、起きてからまだ間もないってのに腹も減ってきた。

 この家のお料理番長でもある流琉の料理は絶品だから、一食でも喰いっぱぐれるのは人生の損失といっても過言じゃない、かも知れない。

 しかし、だな……。

 

「なぁ、流琉?」

「はい。なんですか?」

「お前は、そんなに俺の裸体が視たいのか?」

「なっ! ななななななななななな、な、何言ってるんですか兄様っ!?」

 

 再び顔を赤くして三度目の言葉を繰り返す流琉。

 まるでさっきのセリフをコピペしたかのようだ。

 ……ま、それはともかく。

 

「そうか、それじゃ止むを得ん。兄として、妹が『視たい』と切望しているモノを隠すのは『兄道』に背く行為だからな。……さてさて」

 

 言いつつ、上着のボタンをさっさと外してしまう。

 それで露わになった部分が多少すーすーするが、とりあえずそれはそのままにして次はズボンに手を――。

 

「き、きゃああああああああああっ!? ち、違いますっ! 視たい視たくないで言えば視たくないわけでもないような気がしますが、違うんですっ!? ご、ごごごごめんなさいっ!!」

 

 ――かけたところで、一層赤面度合を増した流琉が何事か叫んで部屋から出て行ってしまった。

 ま、そりゃそうだ。

 最後早口で何言ってるか良くわからんかったが、俺のヌードなど誰も視たくなかろうて。

 特に流琉は純情っ娘だしなぁ。

 

 さてと。

 そいじゃ、ホントに着替えますかね?

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 ???

 

「あっ! 兄ちゃんおはよー!」

「おう。おはよう」

 

 制服に着替え、洗面所で顔を洗ってリビングへ行くと義妹がいた。

 と、言ってもこいつは流琉じゃない。

 

「もー、兄ちゃんってば何してたの? あんまり遅いからボクもうお腹ぺこぺこだよ〜」

「ああ、悪い悪い。食べるの待っててくれたのか、季衣?」

「うん! だってみんなで食べた方が美味しいもん!」

 

 そう言って「えへへー」と笑うのは、俺のもう一人の義妹。

 両サイドで春巻きみたいな形に結んだピンク色の髪と、つるんとしたおでこが特徴で、今は床に座っているが背丈は流琉と同じくらい。

 ついでに二人とも学園中等部の二年生で同学年だ。

 一応こいつの方が姉なのだが、その辺りはあまり気にしてないのかお互い名前で呼び合ったりしている。

 そもそも俺はもとより、流琉と季衣にしても血のつながりはない。

 そこらへん説明しても良いんだけど……今は止めておこう。

 別に大したドラマがあるわけじゃ無し、何より飯が冷めちまうからな。

 

「兄ちゃ〜ん……。ボクもう我慢できないよぉ〜……」

 

 それに季衣も限界みたいだ。

 急かされるようにして、俺も自分の定位置に着く。

 リビングの広さに対して少々大きめな、足の短いテーブル。

 でかい卓袱台、と言った方が良いかも知れないそれの、入口から一番遠いところが俺の飯時の指定席だ。

 特に話し合って決めたりはしてないが、何時の間にかそうなっていた。

 そしてそこから見て左側が、愛用のあんまん型クッションを尻で押しつぶし、両足を伸ばしてダレている季衣の場所。

 で、右側が――。

 

「なぁ、季衣? 流琉はどうした?」

「……ふぇ? なーにー……兄ちゃーん……?」

 

 ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜。

 

「いや、流琉の姿が見えないからどうしたのかと……」

「……ふぇ? なーにー……兄ちゃーん……?」

 

 ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜! ぐるりゅりゅりゅ〜〜〜〜〜〜っ!

 

「な、なんでもね。……大丈夫か、季衣?」

「……ふぇ? なーにー……兄ちゃーん……?」

 

 ……こりゃ、ダメそう。

 どうやら腹が空きすぎて頭が回ってないらしい。だってセリフがコピペだもの。

 テーブルの上には、すでにいくつかの料理が並んでいる。

 焼き魚、ベーコンエッグ、葉物のおひたし、レタスメインにミニトマトやら胡瓜やらが入ったサラダ。

 和洋入り混じったそれらがざっと、十人前。大皿に盛ってある物もあれば、個別に分けられている物もある。食べるのは俺たち三人だけ。

 うん、全くもって……いつもと変わらん普段通りの量だ。

 

「――季衣〜? ちゃんと我慢してる? 先に食べちゃダメだよ〜……って、に、兄様っ!? い、いいいいいいらしてたんですかっ!?」

 

 そんな料理たちを眺めていると、キッチンの方から流琉がやって来た。

 両手で持った四角いお盆の上に、湯気立つご飯と味噌汁がのっている。

 

「ああ、さっきね。……すまん、なにか手伝おうか?」

「あ、ありがとうございます。でも、これで最後ですから。兄様は座ってて良いですよ」

 

 そう言われ、腰を上げかけていた俺はすごすごと座り直す。

 仕事の都合で海外赴任することになった父さんと、『お母さんは、お父さんにに付いて行きます! だって私たち、ラブラブだから! ……一刀、後は任せたわよ!』と高らかに宣言した母さんが二人仲良く連れ立ってから早一月。

 家事、特に料理はもっぱら流琉に任せきりのような状態になっていた。

 

「流琉。……いつもすまないねぇ」

「それは言わない約束です、兄様。……ふふっ」

 

 ある意味お約束なやり取りをしている間にも、流琉は手際良く動き配膳を終えた。

 さっき俺がからかったせいか、ちょっと硬かった表情も今は和らいでいる。

 からかい過ぎて嫌われました、とか洒落にならんからな。

 

 ――『兄様なんて大嫌い!』

 

 う、うおおおっ!? 想像しただけで胸が痛いっ!? 

 

「う、ううぅ……兄ちゃん、流琉ぅ。ま、まだ食べちゃ、ダメ? ボク、ホントもうダメかも……」

 

 と、こっそり悶絶していたら、左側から死にそうな声が聞こえてきた。

 

「あ、ああ、すまん季衣!」

 

 視線を向けると、器用におでこだけテーブルに乗っけてぐったりしている季衣がいた。

 なんでそんな妙な格好なのか一瞬疑問に思ったが、それはすぐに解消する。

 おでこを置いてる部分以外は茶碗とお椀と料理皿でいっぱいだからだ。

 先に言った、料理十人前。

 そのほとんどを胃袋におさめるのが季衣なため、こいつの皿は特別でかいのである。

 そしてそこに盛られているのは、前衛的なオブジェ・『幾重にも重ねられた鮭の切り身』と、黄色い目玉の数&茶色の羽の枚数が通常の数倍ある妖怪・『べぇこんえっぐ』。あと大量のおひたしと大量のサラダ、山盛りの白飯に大海のごとき味噌汁っ……は、言い過ぎか。

 それらが小柄な身体のどこに入るのかは全く不明。とにかく入るものは入る。それも、割と余裕で。

 

「あはは。皆そろったし、食べちゃいましょう兄様」

「そうだな。ほら、季衣。ちゃんと体起こせ」

 

 俺の右手側の一辺、ピザまんを模したクッションに座った流琉にひとつ頷き、へたり気味の季衣へ声をかける。

 

「ううっ……二人とも、もう食べていいの?」

「ああ」

「うん」

 

 そうして力なく尋ねてきた季衣へ、俺たちが軽く返事をするやいなや。

 

「わーいっ! いっただきまーっすっ! まぐまぐまぐまぐまぐまぐまぐまぐっ」

 

 急速に元気を取り戻した季衣が凄まじい勢いで箸と口を動かし始めた。

 次々と消えて行くおかずたち。

 小さなお口に吸いこまれるようにその量を減らすご飯と味噌汁。

 慣れない人間が見たら驚愕すること請け合いの光景だが……まぁ、俺たちにとってはごくごく当たり前な朝の一時である。

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 ???

 

「季衣ー? 準備出来たー?」

「ほーい」

 

 家の玄関先。

 朝飯の後、片づけと最終的な身支度を整え終わる頃には学園へ向かう時刻になっていた。

 

「大丈夫? 忘れ物ない?」

「平気平気、流琉ってば心配性だなー」

 

 一番準備に時間がかかり、遅れて出てきた季衣の世話を焼く流琉。

 ホント、どっちが姉か分からんな、これじゃ。

 

「そんなこと言って。今度教科書忘れても貸してあげないんだから!」

「ええー、それは困る……ってやばい! 今日体育あったんだ! 体操着忘れてた!」

「早く取って来なさいっ」

「う、うんっ」

 

 どたばたと部屋へ戻って行く季衣に苦笑しつつ、俺は思う。

 

 ――あ、財布が無ぇ。

 

「す、すまん流琉! 俺もちょっと――」

「もう兄様まで……って、これですよね? はい、どうぞ。リビングの床に落ちてましたよ」

 

 そう言った流琉の右手にあるは、まごうことなき俺の財布。

 

「……ありがと」

「いえいえ。どういたしまして」

 

 はっはっはー。どっちが年上だー北郷一刀ー? しっかりしろー北郷一刀ー?

 

「ごめんごめーん、お待たせ二人ともー……あれ? 兄ちゃんなんで顔赤いの?」

「気にするなっ! さ、さー行くぞー」

「? うん」

 

 若干挙動不審な俺を不思議そうな顔で眺めながらも素直に頷く季衣。

 そしてそんな俺たちを見てくすくす笑う流琉。

 ……うん、実に悪くない。

 妹って良いな。妹って素敵。妹わんだほー!

 

「に、兄様ってば! 突然何叫んでるんですかっ!?」

「えー? 何で怒るのさ流琉。『妹』ってボクたちのことでしょ? 嬉しいじゃーん!」

 

 おお、やっべ。……口に出てた。

 

 ――で。

 なんだかんだありつつも、俺たち三人はそろって玄関を出発。

 目的地はもちろん、我らが母校聖フランチェスカ学園である。

 

「おうっ、お主ら。相変わらず兄妹仲が良いようじゃのう?」

「ええ。おかげ様で。厳原さんは今日もおっぱ……じゃない、お美しいですね」

「はっはっはっ! 小僧、ずいぶん口が上手くなったではないか!」

 

 途中、マンションの廊下で偶然出会った厳原(いづはら)さんと少しだけ話す。

 厳原さんは『アモーレ巴蜀』なんていう妙ちきりんな名を持つこの建物の大家だ。

 銀色の髪を上の方で結わえ、そこに櫛と簪を刺し、服装は今時珍しく常に着物。

 粋でいなせで色っぽい雰囲気の御姐さん、って感じだろうか。

 下の名前は確か、桔梗だったかな?

 

 そんな厳原さんと別れてから、しばし。

 いつもの妹たちなら、何かしらきゃっきゃっうふふと話しつつ、それなりに騒がしい学園までの道行きなはずなのだが、今日は珍しく二人とも変に静かだった。

 それでも何もしゃべっていないわけではなく、俺の後ろを歩きながら二人でひそひそと何事か言葉を交わしてはいるらしい。

 

(まぁそういうこともあるだろう。二人とも年頃だしな。

 ……年頃か。そろそろ彼氏の一人もできるのかも知れん。……いや、実はすでにいたり?

 ……ははは、まさかな。だが万が一それが現実だとして紹介でもされたらどうする?

 ――しかもそいつがすげぇろくでなしでおまけに兄ちゃん兄様赤ちゃんできたのなんて言われた日にゃあその野郎月の無い夜には気を付けろっ!?)

 

「あのっ、兄様?」

「ん? どうした、流琉?」

 

 静けさのあまり妄想が暴走し始めていた俺だが、突然声をかけてきた流琉にはごく自然に対応する。

 なぜならこの程度の妄想、日常茶飯事で慣れたもんだからだ。

 流琉が歩いていた足を止めるのに合わせ、体ごと振り向き俺もその場に立ち止まる。

 

「あの、あのですね? その……」

 

 なんだろう?

 声をかけては来たものの、言いよどむ流琉。

 その横では、季衣が神妙な顔をして俺を見上げていた。

 

 ど、どうした? なんだこの雰囲気は? 朝飯の時の和やかな空気はどこへ行った?

 ……ま、まさか本当に彼氏が出来て、その告白なのかっ?

 どどどどどど、どっちっ? 季衣か、流琉か? もしかして両方っ!?

 

「どっ、どこの馬の骨だ二人ともっ!!?」

「に、兄ちゃんっ!?」

「兄様っ!?」

 

 思わず上げた大声に、目を見開く季衣と流琉。

 驚いているようだが、今はそんなこと構っちゃいられねぇ!

 

「わ、わっ!?」

「きゃっ!?」

 

 寄り添うように立っていた妹たちを、内から湧き出る衝動のまま二人まとめて抱きしめる。

 

「……渡さんっ! お前たちは、誰にも渡さんからなぁーーーーーーーーーーーっ!?」

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 ???

 

 ―――――数分後。

 

「な、なんだ。違うのか。……ほっ」

「『ほっ』じゃ、ないですよ兄様っ! こ、こんな往来で、な、なんてことするんですかもうっ!」

「う〜ん? ボクはそんなに嫌じゃなかった気がするけど……でも、やっぱり恥ずかしかった!」

「……ごめんなさい」

 

 俺は、説教を食らっていた。

 どうやら「二人に彼氏が出来た」っていうのは完全に勘違いだったらしい。

 勢いで抱きしめたから全然意識の外だったのだが、ここは普通の路上で通勤通学時間でもある。

 当然俺たち以外にも道行く人はいるわけで、そんな場所で抱き合っていた(というか俺が一方的に抱きしめていた)制服姿の三人組はさぞ悪目立ちしたことだろう。

 ――そして、たぶん今もそう。

 だって俺、道路の隅に正座させられているんだもの。その上、どう見ても明らかに年下な女の子二人に、頭ごなしに叱られているんだもの。

 ああ、通行人の方々からの視線が、すごく痛いです……すごく、痛くて……ハァハァ。

 

「に、兄ちゃん? なんでちょっと息荒くなってるの?」

「それはね、ご通行中の皆様に浴びる視線がなぜかちょっと気持ちいいからだよ」

「に、兄様? どうしてちょっと気持ちいいんですか?」

「それはね、きっと俺が微Mだから」

「……もう立ってください兄様」

「……はい」

 

 何かを諦めたような顔つきの流琉に促され、立ち上がる。

 

「――こほん」

 

 ズボンについた薄い汚れをはたきながら咳払い一つ。

 

「季衣、流琉。……俺がさっき言ったことは忘れるように」

「うん。……本当に忘れたい」

「はい。……本当に」

 

 目を伏せて、寂寥の気配をその身に纏う妹二人。

 よっしゃっ!

 ……話題を変えよう。うん、それが良いってかそれ以外に道は無し。

 

「と、ところで。流琉が言おうとしてたのは、結局何だったんだ?」

 

 無理やり気を取り直して流琉へ問いかける。

 

「へっ? あ、あのそれは……えっと」

 

 すると、再び言葉を詰まらせ、もじもじ体を揺らす流琉。

 よし、とりあえず話の転換は出来た。

 ――が、本当になんなんだろう?

 そんなに言いにくいことなのか?

 季衣もどこか落ち着かないようで、ちらちら俺を見たり、励ますように流琉を見たりと、視線を忙しく動かしている。

 ……ふむ。

 これは、別に今聞かなくても良いかもな。

 もし、すごく大切なことだとすれば、いつかはちゃんと話してくれるだろうし。

 

「良――」

 

 そう思った俺が「良いんだよ流琉。無理に言わなくて」と優しく声をかけかけたところで。

 

「に、兄様っ!!」

 

 意を決したらしい流琉が、叫んだ。

 

「兄様は、や、やっぱり胸の大きい女の人が好きなんですかっ!!?」

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 ???

 

 

 

 

「…………好きだが?」

 

 

 

 

 ???

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 ――さて。

 結論から言おう。

 

 ――殺されかけた。我が可愛い義妹たちに。

 

『わ、私、私っ……まだ成長期ですからっ! これからなんです、仕方ないんですっ! ……兄様のばかっ!!』

 

 ずどむっ! ――ぐはっ!? み、みぞおちにエルボー……だとっ!?

 

『ボ、ボクだって! そのうち、桔梗さんより「ぼーん」で「どーん」で「ずばーん」になるんだもんっ! ……兄ちゃんのあほーっ!!』

 

 ごめすっ! ――ば、バカなっ!? 流琉と寸分たがわぬ位置に頭突き……と……は……がくり。

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 ???

 

「そんなわけで遅刻したっ!! 許してくれ委員長っ!」

「無理、っていうかそれ以上近寄らないで、このシスコン男!」

「はっはっはっ……シスコンの何が悪いんじゃい、こんツンデレがぁ!?」

「逆ギレ!? だいたい、誰がツンデレなのよっ!? あんたみたいな変態にデレることなんて生涯、ううん、来世になってもないんだからっ!」

「やかましい! 良い機会だ委員長。今から、俺がお前に妹の素晴らしさを叩き込んでやる! 覚悟しやがれ!」

「きゃぁああああっ! お、犯されるーーーーーーっ!? た、助けてください華琳さまぁ〜〜!!!」

 

 ???

 

「へくちっ! ……風邪かしら?」

 

 ???

 

「やー。……今日も平和ですねー、稟ちゃん」

「そ、そう? ……なにやら階下で騒ぎが起きているようだけど」

「ぐぅ〜」

「寝るなっ! ほら、いい加減教室へ戻りなさい。授業が始まりますよ」

「えぇ〜?」

「『えぇ〜』ではなく! ……まったく、どうしてこう貴女は屋上が好きなのですか、風?」

「それは、太陽が風を呼んでいるからなのです。運命、なのですよー」

「……それは、要するに此処が暖かくて静かで、眠り易いからでは?」

「そうとも言いますね〜? でもそうじゃないかも知れません。にんともかんとも……ぐぅ〜」

「起きろっーーー!!」

「おおっ!? ……ああ、なんだ夢でしたかー」

「夢?」

「そですねー。なにやら生徒会長さんが『へくちっ!』と可愛いくしゃみをしている夢を見てしまったのです」

「か、華琳さまがっ……へくちっ? …………ぷはぁ!」

「おやおやー。今のいったいどこに欲情したというのでしょうかー? ……業が深いですねぇー」

 

 ???

 

「……へくちっ!」

 

                                 ――終幕っ……? 

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【あとがき】

 

 初めましての方も、そうじゃない方も、皆様最後までお読みくださりありがとうございます。

 

 ええと、一応作品解説的なことですが、今作は以前『恋姫無双小ネタ集』に二つばかり書いた「ぎのぐんSeason」というネタの中身(?)みたいなモノです。

 「ぎのぐんSeason」は、タイトルの通り「『魏の軍師』たちがメインヒロインな架空の恋愛SLG」の妄想プロモーション文で(これだけじゃ意味が解らないと思いますが…)、ストーリーなど全く考えていなかったのですが、自分のなかでファンタジーが広がってきたため、ちょっとだけ小説っぽく書いてみた次第。

 それにあわせてタイトルも『ぎのぐんシーズン』と改めました。

 ――但し!

 ……先刻ご承知の通り、今回のメインはなぜか流琉と季衣。

 タイトルに偽りありです。……ごめんなさい。

 どうしてこうなったのか、話すと長いんですが「フライパンを持ちエプロン姿の流琉が思った以上に作者のツボにはまった」。……それ以上でもそれ以下でもありませぬ。

 

 で、なんとなく長編っぽい雰囲気だとは思うのですが、これはこれで一応完結だったりします。

 ただ、またしばらくして妄想が溜まったら、他のキャラも書いてみたいとは思うので、機会があったらまた別の「ぎのぐんシーズン」もお読みいただけたら幸いです。

 おそらくその前に、『小ネタ』か、あるいは『とーたく酔いどれ太平記』(この作者が書いてる長編です。けどまだ二話だけ……)を更新するかと思いますが……予定は未定でございます。

 

 ――ではでは。

説明
拙作『恋姫無双小ネタ集』で書いたモノの妄想が広がったので、「やっちまった小説」です。
詳細は「あとがき」にて。
ご意見ご感想などありましたら、コメントいただけると嬉しく思います。
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コメント
summonさん>妹びゅりほー! 妹みらこー! 妹ふぁんたすてぃっく!(ひさやすた)
グリセルブランド さん>おお、色んな意味で的確なコメントありがとうございますwww 一刀「俺の妹がこんなに可愛いはずがあるっ!」 季衣「兄ちゃん、日本語変だよ?」(ひさやすた)
妹わんだほー!(summon)
流琉 「兄様だけど愛さえあれば関係ありませんよね(ゲス顔)」  季衣 「ラノベか何か?(無邪気)」(グリセルブランド)
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恋姫 無双 流琉 季衣 一刀 

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