リリカルなのは×デビルサバイバー As編
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「ちょ、ちょっとまった!!」

 

 話を止めたのはユーノだった。

 話を止めたものの、考えが纏まっていないのか暫く口を開閉したあと、一回深呼吸したのちに、改めて口を開いた。

 

「アクマを作るって目的なのは分かったよ。でも、それとマグネタイトっていうやつに、なんの意味があるんですか?」

「アクマを召喚するには本来、かなり複雑な手順を踏まなければならないが……。今回に限りは、そのはなしは関係ない。アクマという存在の肉体は、人とは違い、マグネタイトで構成されている」

 

 細かく言うと、すこし違うんだがな。と、男は付け加えた。

 

「マグネタイトがアクマを……?」

「人間界とアクマたちが住む世界、魔界は世界の理が違う。だから、アクマを人間界に召喚するためには依代のようなものが必要になる。そのために受肉する必要があるが、方法の一つとして……」

 

 COMPをカイトは操作する。

 

「マグネタイトでの受肉がある。ってことらしい」

 

 ピクシーを召喚し、現状の説明のために呼んだ。と理由を話したあと、一言二言ピクシーに礼を言った後、送還した。

 

「……力を探る上で」

 

 男は顔を伏せた。

 気のせいか、先ほどまでの声よりも重く感じ。

 

「まずは外見を真似するのは、当然のことだった。その結果、この男たちはマグネタイトの存在を知り……」

 

 モニターの映像を、夜天の書へと切り替えた。

 

「マグネタイトの蒐集のために夜天……いや、闇の書を利用する事を決めた。結局は、アクマを生み出すなんてことは出来なかったんだがな」

 

 どこか哀れんだような声で、男は言った。

 アクマとは言っても、その多くは他の宗教で神と呼ばれた者たちであり、そうでなかったとしても妖精、妖怪、悪霊、天使……人知を遥かに超えた存在であることは確かだ。

 だというのに、アクマを創りだそうとするとは、どれだけ愚かで――傲慢だったのだろう。

 

「マグネタイトを集める上で、最も邪魔になったのは他ならない、悪魔使いの存在だった」

 

 次に映されたのは、一枚の写真だった。

 ベージュの色あせたカラー写真。その写真からでは、だれが映っているのか、判別できそうにない。

 ただ分かるのは、写真に映っている者の性別と人数だ。

 一人は女性で、あとの二人は男性の計三人だ。

 

「この写真は聖王と覇王、それに悪魔使いの写真か」

「知ってるのか?」

 

 カイトはクロノに問いかけると、頷いたあとに教科書に載っていると言った。

 

「悪魔使いが映っている唯一の写真だと言われてる。他の写真が存在してないから、本物かはわからないが」

「ふ〜ん……」

 

 カイトは写真をじっと見つめ続ける。

 その行動は、写真を目に焼き付けて忘れないようにしているように思えた。

 

「マグネタイトは人の感情。そして人の感情の中で最も本能に近い部分、それが恐怖だ」

 

 男は手を前に出し、何処からか剣を出現させカイトに向けた。

 

「こうして刃物を向けられただけで、多少の恐怖を感じる。あいつらはこれを応用したのさ。バグで暴走する闇の書に対して、マグネタイトを集める機能を取り付けた。が……悪魔使いの行動により、想定した結果はでなかったようだ」

 

 次にモニターに映されたのはキメラ……と呼べば良いのだろうか? 首は三つあり、尻尾は蛇が生えているように見える。

 

「……ケルベロス?」

「の、贋作だな。何かを受肉することには成功したが、大した力を得ることは出来なかったようだ。ちなみにこれがこの贋作の能力値だ」

「ほ〜……」

 

 手渡された紙には、キメラの能力値が書かれていた。

 ケルベロスといえば、その高い攻撃力と速さが魅力の悪魔だが、能力値を見る限り見る影もない。それどころか、元々低かった魔力が更に低くなり、弱点として雷と魔が追加され更には炎耐性に下がっている。

 

「これは酷い」

「見ての通り計画そのものは失敗したわけだが……。それでも、マグネタイト収集能力については今も起動している」

 

 なるほどと納得した所で、納得してはいけないという事に気がついただろうか?

 この話だけでは、マグネタイト収集能力が追加されてるよ? という話にしかならないからだ。

 そのことについて、カイトたちが尋ねるとまだ話は続く、と男は言った。

 

「この話から続くのが、あのバリアの正体と体調不良、そして見えない攻撃だ。そのどちらもが副産物に過ぎないのだが。さて、君達は付喪神というものを知っているか?」

「付喪神? なんなんですか、それって?」

「付喪神とは簡単に言えば"物が"意志を持ち、行動するようになったもの……と形容すればいいだろうな」

 

 なのはの質問に男が答える。

 付喪神――神と名付けられているものの、その正体としては妖怪に近いといえる。

 猫が長い年月を掛けて、猫又と呼ばれる妖怪になるように(例外はもちろんある)付喪神もまた長い年月を掛けて、大切にされた物が……あるいは、憎悪を受けたものが意志を持ったものとされる。

 前者の方法で付喪神となれば、勿論人に益をもたらす、守り神のような存在となる。

 逆に後者のような方法で付喪神となると、人に害をもたらす存在となる。

 

 と、そこまで話した所ではやての動きが止まった。

 いや、止まったのははやてだけではない。リインフォースや、シグナム。主に守護騎士たちはまるで時が止まったかのように、固まってしまっていた。

 

「……憎悪? まさか」

「そうだ、クロノ・ハラオウン。防衛システムなどという名を持ってはいるが、それがあれの本質じゃない。アレの本質は……そう、この老人たちが喉から出るほどに望んでいた――」

 

 

 

 ――神、なのだから――

 

 

* * *

 

 

 

「皮肉なものだな」

 

 防衛システムが映っているモニターを見ながら、カイトはポツリと、言葉をこぼした。

 

「神を創りだそうとしていた奴は、志半ばで倒れた。でもあの防衛システムはある種、その望みを叶えようとして――結果叶えてしまった。"神"の名の通り、あの老人たちの願いを」

「……それが人の役に立つものであれば、僕たちとしては嬉しかったんだけどね。それで、それがバリアと体調不良とかに、どう繋がるんだ?」

 

 リンディの指示で、各員にはお茶が配られていた。

 クロノはそれを口に含み、飲み干したのちにそう聞いていた。

 

「まずはバリアの方からだな。簡単に言えばあのバリアはマグネタイトだ。そもそもバリアという言い方がおかしい、あれはただの高純度の、それでいて高出力のマグネタイトだ」

「……は?」

「キミだって知ってるだろう? 高レベルの相手に対して、攻撃はあまり通らない。ちなみに今回に限って言えば、通っていたとしても、再生能力がそれを上回っているから、攻撃が通用していないように見えただけだ」

 

 男は再びコンソールを操作すると、なのは達の戦闘シーン……なのはたちが撃ったトリプルブレイカーの映像だった。そのシーンをスロー再生にしていくと、確かにバリア……マグネタイトを突き抜け、命中していた。だが次の瞬間恐ろしいほどの勢いで、ダメージが回復している。

 

「これがあのバリアの正体だ。攻撃の無効化ではなく軽減が正しいわけだ。問題はこのバリアを貫けたのが、トリプルブレイカーだけだったことだね」

 

 広範囲にわたって海を蒸発させたスターライトブレイカー……それに加え、フェイトとはやての渾身の一撃だ。その威力はスターライトとは比べもにならないほどの威力のはずだ。

 

「問題の解決は後回しだ。次に体調不良と不可視の攻撃だが、これは同一のものだ」

「同一?」

「これが付喪神の話につながる。体調不良、不可視攻撃……その正体は至極単純。あの防衛システムに取り付いている、幾多の怨霊によるものだ。そして、あの不可視の攻撃は体調を崩した者たちならば見ることが出来る」

 

 簡単だろ? 男はそう言うと、お茶を一口のんだ。一瞬顔をしかめたものの、そのまま一気に飲み干した。

 その後男はノートPCを取り出すと、カイトとエイミィを呼び画面を見せた。

 

「――!!」

「――っっっっ!!!??」

 

 そこに写っていたのは、苦悶の表情を浮かべた人の姿だった。それだけならば、エイミィが口を逃避する理由には勿論ならない。そうなってしまった理由、それはそこに映る人々の姿に他ならない。

 とある少女が映った。

 その少女は腕をなくし、足をなくし……それでも、何かに手を伸ばそうとしていた。

 とある少年が居た。

 少年は下半身をなくし、右目をなくしていた。けれども苦悶の表情を浮かべたまま、そこにとどまっている。

 数人の男女が居た。

 やはり身体はボロボロであり、何かから逃げるように近くの居る霊たちを押しのけようとしては元の場所に戻る。それを繰り返していた。

 

「こいつは……っ」

「これが防衛システムに取り憑いた霊たちさ。そして、この霊たちの負の感情が、人々に影響を与えた。体調不良という形でね」

 

 ギュッっと、男は拳を作っていた。

 かなりの時間強く拳を作っていたのか、指が肌色から赤紫色に変色していた。

 

「そしてこれが私の目的でもある」

「え?」

「この霊たちを開放し眠らせること……これで私が話せる情報は以上だ。これを聞き、どう行動するかはお前たち次第だ」

 

 そう言うと男は端の方へと移動して座り込んだ。

 先ほどの言葉の通り、カイトたちがどう行動するか決定するまで待つようだ。

 

「さてと、どうしたもんか……」

 

 カイトは一回ため息を吐いたあと、配られたお茶に手を伸ばし、飲み干した。

 先ほどの話を頭の中で纏めるために、顔を伏せ考え込んでいた所、あのー? と、なのはが横から声をかけた。

 思考を邪魔されたのことに気を悪くする事無く、カイトはなんだ? と答えた。

 

「さっきの映像なんだけど……」

「うん。あれがどうかしたか?」

 

 さっきの映像とは勿論、防衛システムの映像のことだろう。男が出したノートPCにフェイトたちが集まって見ていた。

 

「……ん?」

 

 見ているのは良いのだが、その反応は先程のカイトたちの反応とは真逆のものだった。

 眉をひそめているもの。

 困惑しているもの。

 さまざまな表情を浮かべているが、カイトたちのように驚いた表情を浮かべている者はひとりとしていない。

 

 そんな彼女たちの様子を見て、カイトもまた眉をひそめる。アレを見たら何らかの反応があるはずだと、普通は思う。

 

「えっとね? あれになにが映ってるのかな? って」

「何って、幽霊とかそんな感じのだけど、それぐらい見ればわかるだろ?」

「見えないから聞いてるんだけど……?」

「はぁ?」

 

 カイトはモニターの前に居る者たちを押しのける形で、モニターの前に移動した。

 もう一度その映像を見るが、映っている内容は違うものの、やはり同じような光景だった。

 

 それを確認した後に、周りに居るフェイトたちの様子を確認するが、眉を潜めているだけでやはりなのはが言うように見ることが出来ないようだ。

 

「無駄だ」

 

 そう言ったのは男だった。

 

 疲れを見せた様子ではあるが、それを隠すかのように強気な口調で言う。

 

「何故お前とそこのオペレーターを名指ししたと思う? それはお前たちしか見ることが出来ないからだ。あそこにいる女の子二人も見ることはできるだろうが、あの年齢で見せるのは忍びないからな」

 

 男はすずかとアリサの事を指さした。

 

 それに気づいてすずかがカイトたちの方を見たが、なんでもない、気にするな。と伝えると、すずかはアリサの看病に集中し始めた。

 

「なんで私たちには見えないんですか?」

 

 なのはが問いかけた。

 

「リンカーコア……それを持つということは、一般人に比べ大きな力を持つということになる。それは人の可能性が成した力なのかもしれない」

「人の可能性……?」

「そうだ。だが、不公平だとは思わないか? 一般人に比べ、多彩な力を発揮する者たち。リンカーコアという気管を一つ持っているだけで、魔法や身体能力の強化といった恩恵を得ることが出来る」

 

 例えばの話、運動能力が高いとは言えず、アリサやすずかといった面々と競っても負けてしまうほどだ。

 しかし、魔導の力を使用すれば話は別なはずだ。元々ある能力差をひっくり返すことが出来るほどの力。それが魔導。

 

「何かを得ているということは、何かを失っているということ。その一つが恐らく、霊的能力の喪失……ということなのだろうな。そして、それが原因で本来見ることが出来る攻撃を不可視と勘違いしてしまったんだ。真実はそこにあるのだけどね」

「待ってくれ!」

 

 大きな声でクロノが叫んだ。

 

「リンカーコアを持ったことによるデメリットなんて、聞いたことがないぞ!?」

「デメリットとは言っているが、普段の生活では欠点となり得ないからな。例えそこにあったとしても、気づかなければ、意味が無いのだから」

「知らなければ、無いのと同じ。気づかなければ無いのと同じ……か」

 

 カイトは右手を強く握りしめ、次にCOMPをとりだして見続けていた。

 

「……なんとなく、分かる気がするよ」

「無知は罪だ。知っていれば、あの攻撃に対しても何らかの対抗策を打ち出せたかもしれないからね。今となってはどうしようもないが」

「そうだな……知っていればなんとかなることなんて、この世界には数多くあるな」

 

 頭を一度振り、頭の中を一度真っ白にする。

 

「でもこれで、すべての話は終わったか……。それでリインフォースさん。この男の話の裏付けを取りたいんだけど?」

 

 カイトがリインフォースに話を振ると、彼女は少しの間考えたのちに、口を開いた。

 

「すまない、どうにも力になれそうにない」

「はい?」

「記憶がないんだ。恐らくだがこの事に気づいた我らや、次世代の主に機能を外させないようにするための措置なんだろう」

「てことはなに? 裏付けなしでこの男の話を信じるか判断しないといけないのか」

 

 辺りが静まり返る。

 カイトたちPT事件関係者は、敵だったこの男に対して、疑いを持っている。

 はやてたちとしては、この男のことを知らないため、カイトたちの様子から、この男に対して疑いの目を持っている。

 

「……私は信じれない」

 

 そう言ったのはフェイトだった。

 

「母さんをそそのかしたかもしれないこの男を、私は信じれない」

「なら私は信じる!」

 

 はやてが小さな声ではあるものの、はっきりと宣言した。

 

「フェイトちゃんと昔何があったかしらないけど、この人の言ってることにおかしな事はあらへんと思うし……なら、私は信じようと思います。皆は、手伝ってくれる?」

 

 はやては、自身を守ってくれる家族であり騎士たちを見た。そしてその中には、カイトもまた含まれていた。

 

「聞かれるまでもありません。私たちは主とともに」

 

 代表してリインフォースが言い、シグナムたちは頷いて同意した。

 カイトはまだ考え込んでいるのか、まだ何も言わない。

 

「私は……その、フェイトちゃんと同じかな。あなたを信じることはできないです」

 

 ごめんなさい。と、なのはは頭を下げた。

 

 フェイトとはやて、そして仮面の男を考えたとき、優先されたのはフェイトだったのだろう。男が居なければ、もっと悩みぬいたかもしれない。

 

「なら、私とこのフェレットも同じかねぇ」

「フェレット言わないでください! まぁ、同じ意見ですけど」

 

 そう言ったのはアルフとユーノだ。

 フェイトとなのは寄りの二人だ。そういうのも無理はないのかもしれない。

 

「なら僕たちはどうします? 艦長」

「私たちは……そうね、信じてみましょうか。嘘を言ってる様子はなさそうですし」

「そうですか……なら、僕たちも信じよう。あとは、キミはどうする?」

 

 まだ意志を表明していないカイトに視線があつまる。いまだ考えを纏めているのか、顔を伏せている。

 

「いや、考えても仕方ないか。結局のところ、戦うしかないんだから。やるよ、俺もその男を信じてみる」

「……そうか。ならこの後の作戦を伝えるとしよう。時間も無いことだしな」

 

 男は手元の時計を見て、そう言った。

 その時計はひと目見るだけで古そうな物だとわかるほど、塗装が剥げており、それでも問題なく動いている様子を見ると、大事にしているものだとわかる。

 

「時間?」

「あぁ、そうだ。そろそろ聞こえてくるはず」

「聞こえてくる?」

 

 そう言われ、カイトは耳を澄ました。

 それから数分の時が経っただろうが、最初に気づいたのはカイトではなかった。

 

「あれ? この声……?」

「声って、どうしたの? すずかちゃん」

 

 アリサの様子を見ていたなのはが、すずかに問いかけた。

 問いかけられたすずかも、なにやら困惑した表情を浮かべて、彼女にだけ聞こえるその声に集中していた。

 

「これって、借りたCDの……?」

「CD? CDって俺が貸したやつか? ……って、あ」

 

 次にその声が聞こえたのはカイトだった。

 いつもつけている、そのヘッドホンから流れる声と今聞こえてくる声は同じ物のように思える。

 そして、その声をカイトが間違えるはずがない。そして、その声も主は……

 

「アヤ、さん?」

 

 

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十五話ぐらいで、As編は終了する感じ。

うむ、少し長くなってしまった気がする。

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11stDay 声
遅れてしまい申し訳ないです。
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