天馬†行空 二十話目 世に生を得るは事を為すにあり |
「水関攻めの先手は公孫賛と劉備ですか……華琳様、ここは我々が初陣を飾るのでは?」
「水関は華雄だけで、まだ『飛将軍』呂布が後に控えているでしょ。ここで兵を損じるよりも、劉備や公孫賛の手並みを見るいい機会だし、私達は寧ろ虎牢関での戦に備えるべきよ。脳筋はそんなことも解らないの?」
「――っ! 何をっ!?」
「はいはい……二人共、そのくらいにしておきなさい?」
軍議が終了した後、自陣で先程の軍議で決まった事項について話しが及ぶや否や、春蘭と桂花は角を突き合わせる。
わりとよく見られる光景に華琳はやんわりと二人を止めた。
「ここは桂花が言った通りに様子を見るつもりよ。出番は次の虎牢関でしょう。もし劉備達が水関攻めに失敗するような事態になれば、我々が出る可能性もあるわね……まあ、まずそんな事は無いでしょうけど」
「華琳様、では、やはり劉備が水関攻めの要になる、と?」
「ふふっ、それはどうかしらね?」
怜悧な口調の秋蘭に、華琳はからかうような様子で答えをはぐらかす。
「確かに、劉備とはしばらく行動を共にしていたから、彼女たちの才気にある程度の兵力が加われば水を抜く事は可能でしょう」
その華琳の言葉と向けられた視線に桂花は頷きを返した。
「けれど、例え劉備の助力が無くとも公孫伯珪なら独力でも水関を抜けると見た」
「しかし華琳様。武の要であった『昇り竜』は公孫賛の下を去ったと聞き及んでいます……対する華雄は『猛将にして良将』とも呼ばれる((兵|つわもの))、更に公孫賛の部隊は騎兵が主となっております。城攻めには向かぬ軍であると愚考致しますが……?」
「そうね秋蘭。実際、公孫賛は麗羽に水攻めを押し付けられた時に躊躇いを見せていた……尤も、極僅かなものだったけれど」
秋蘭の分析に頷くも、華琳は軍議中の公孫賛が然程動揺していなかった事を思い出す。
「思い出してみて春蘭、秋蘭。公孫賛もだけど、横に居た沮授は眉さえ動かさなかったわ」
「……すみません。それは気付きませんでした」
「…………ぬむむむ」
あまり注意していなかったらしく、頭を下げる秋蘭の横、春蘭は唸り声を上げている。
「――? どうした姉者?」
「……うむ、なあ秋蘭」
「うん?」
「その、そじゅ、って誰だ?」
「……………………姉者」
真剣な顔つきで思案していたらしい姉のその問いに、妹は僅かに肩を落とし、眉間を揉み解しながら掠れた呟きを漏らした。
「後で教えるから、今は黙って話を聞いていてくれ……」
「華琳様が公孫賛の横に居た、っておっしゃってるのに……その場に居た奴がどうして憶えてないのよ……」
春蘭にキツイ態度を取る桂花でさえ、開いた口が塞がらないと言った様子だ。
「……まあ、察するに公孫賛は初陣を望んでいて、見事思惑通りに事を運んだという事ね」
「――すぐに公孫賛の陣へ間諜を放ちます」
「その必要は無いわ桂花。慌てずとも水は目と鼻の先。中軍で、ゆっくりとその戦振りを見せてもらいましょう」
あくまでも余裕のある態度を崩さず、華琳は畏まる桂花に微笑みかけるが、
「――それよりも、虎牢関と洛陽に間諜を。董卓配下の将について調べさせなさい……どうにも気に掛かることが有るわ」
「はっ!」
矢庭に表情を引き締め、命を下す。
一礼し、天幕を桂花が去ると華琳は口元に手を当て、何か思案する様子を見せた。
「華琳様、もしや先程の軍議で張勲に訊ねられた――」
「――その通りよ」
秋蘭の問いに短く答え、華琳はそれきり口を噤む。
(あの三将軍の力量は、黄巾の乱において些かも錆付いていない事が天下に示された。特に、皇甫嵩は新兵をよく率いて大功を上げている。もし私が董卓なら、使わない手は無い。だとして……まさか、董卓は幼帝を擁していないのか? それならばあの三人が居ない理由にはなるが)
目を閉じて、深く俯く華琳。
(だが、もしそうなら三人の内、誰かがこの連合に参加しそうなもの……しかし、それも無い……ならば…………動けない、のか?)
控えている春蘭が心配そうに見つめるが、華琳は深く、深く思考に没頭していた。
(よもやとは思うけど……現状を何も把握していない、とか?)
ふと浮かんだその考えはあまりにも馬鹿馬鹿しいものに思える。
――だが、
(もしそうなら……今の都で何が……?)
そこから思考を進めようとしたが、すぐに華琳は思い直し、首を振ってその考えを頭から追い出した。
「うん? ――策殿、如何された? ……ははあ、またぞろ袁術の孺子がつまらぬ駄々を捏ねましたか」
「……ううん。本当に珍しいけど、袁術じゃないわ」
少し険のある顔で陣に戻った主君を見て、祭は我が儘な蜂蜜色の髪の少女を思い浮かべた。
てっきりその人物が不機嫌の元かと思った祭だが、渋い顔で否定する雪蓮の様子に首を傾げる。
「その様子では袁紹でもないようだな。――してみると、曹操、公孫賛……或いは劉備か?」
「残念、全部外れよ。……冥琳にしては珍しいわね」
「……おい雪蓮、軍議で一体何があった?」
軽く掛けた問いに力の無い笑みで返した雪蓮を見て、祭は怪訝そうな顔になり、冥琳は真剣な顔で問いを発した。
「――あ〜……そこまで深刻な話じゃないわ。そうね、敢えて言うなら……ただの感傷よ」
(ただの、と言った割には感情が強く表に出ているな……そう、怒り、苛立ち……それにあれは諦観、か?)
「それはそうと、こっちの先鋒は公孫賛。それに劉備が補佐に付くわ」
雪蓮の話に、冥琳は眉をわずかに上げる。
構想としては単体で関に当たる諸侯(無論、将来性のある者)に助力を申し出る形で一番手柄を上げるつもりだった。
(ここに着てから改めて明命に関の諜報をさせたが……思った以上に敵の備えはしっかりとしている。公孫賛たちが梃子摺るようなら、早晩我々の出番も来よう)
「董卓軍は水関に華雄、虎牢関に呂布と張遼って話だけど」
「その情報は古いな。今は水関に華雄と張遼に徐晃、虎牢関は呂布、という配置のようだ」
「へえ、最前線に戦力を集中、かしら? ……呂布が後ろに居るのが解せないんだけど」
「水関と洛陽の中間地点に呂布を置く……恐らく、董卓は内に憂いを抱えているのだろう」
「私達にとっての袁術みたいな?」
「多分、な」
冥琳の推測に、雪蓮が顔を顰める。
「ふむ、公孫賛と劉備が苦戦すれば我らが手柄を立てる機会も得られようが、そうなれば彼奴等は共に語る相手としては不足、となる、か? ……策殿、先程難しい顔をしておられたのは、この事で?」
「……う〜ん、それでもないのよ祭」
軽い溜息を吐きつつ雪蓮は((頭|かぶり))を振ると、ゆっくりと顔を上げた。
「もう白状しちゃうわ。……董卓軍の中に、ううん、連合でも構わないんだけど、聞き及んだ将の中におばさまの名前が無いのに腹が立ってね」
そう言って乾いた笑いを浮かべる雪蓮に、祭は「成る程」と小さく声を漏らす。
「その呼び方は……朱公偉殿、確か文台様を官に取り立てた人物だったか。私は面識が無いのだが、どのような人物なのだ?」
「母様とそっっくり! な性格」
「……身も蓋も無い説明だな」
「じゃが策殿の言われようは尤もじゃな。しょっちゅう喧嘩をされては、終わる度に酒を呑む。そんなお二人だったからのう」
「……一度本気で((戦|や))り合ったって母様が笑いながら言った事があったんだけど、祭、本当?」
「――あっはっはっは! そう言えば確かにあったのう。太陽が中天にあった頃から日が沈むまで戦り合っておられたわ」
「……母様が化け物なのは知ってたけど。おばさまも大概ね……」
呆れたように肩を落とす雪蓮。冥琳も思わず眉間に指を当てて難しい顔をする中、一人、祭だけがからからと笑っていた。
「……しかし、懐かしいのう。堅殿も公偉殿も帝への忠義が篤い方達じゃった」
「――それよ。母様が生きていたなら当然この連合に参加していたでしょうけど、おばさまだってこの戦には名前がないとおかしい人なのよ」
「成る程、それでか」
表情に再び険が浮かんだ親友を見て、冥琳は腕を組み、静かに頷いた。
「――しかしな雪蓮。文台様が亡くなられて時が経つ……公偉殿に心変わりがあっても」
「それは無いわ」
冥琳の話を雪蓮は途中で遮り、
「おばさまは黄巾の乱で功を立てているにも拘らず、十常侍に背いて職を解かれている。あの悪臣達に歯向かう気概を未だに持っておられる方よ」
その蒼い瞳を友人に向けて、強く、静かな口調で語る。
「してみると、妙ですな」
「ふむ……連合に加わるつもりなのに来られないのであれば、董卓が身柄を拘束しているやも知れぬ。しかし、その逆なら――」
――逆なら、なぜ董卓軍にその名が無いのか? 董卓が参戦を断った? ……歴戦の、未だ力を失っていない将の加勢を断るほど董卓が愚かだとは思えない。
ならば、董卓の政には幼帝の姿が見えないのか? ……董卓が帝を蔑ろにする輩なら朱儁が都に留まる理由は無いだろう。もし、董卓を討つべく密かに人を集め、決起する為であれば解らなくもないが……雪蓮の話から察するに、曲がった事柄に対してはすぐさま文句を言わないと気の済まない人物に思える。
「……董卓がその存在を秘している、のか? 例えば、虎牢関における戦の切り札として……」
「だったら私もスッキリするんだけどね〜」
「おいおい、もしそうなったら容易ならぬ敵――それこそ文台様並みの相手――が立ち塞がる事になるぞ?」
「――あ」
その指摘に、今更気付いたとばかりに手を叩く雪蓮に、冥琳は溜息を吐いた。
「ま、まあその時はその時よ! 私と祭で何とかするから! ね!」
先代から仕える将の肩を叩きながらごまかすように大声を出す友人の姿に、呆れ半分、いつもの調子が戻ってきたことを喜ぶ気持ちが半分の冥琳だった。
「では、敵将の釣り出しは私が引き受けましょう」
「すまん愛紗、悪いが頼むよ」
姿勢を正し、拱手する愛紗に白蓮は頭を下げる。
「……私では師匠が出て来た時に対処が出来ません……口惜しいですが、お願いします雲長殿!」
「ああ、お主の思い、確かに受け取った」
悔しそうに俯く陳到に、愛紗は力強く頷いた。
「むー……愛紗ばっかりずるいのだ!」
「あ、あはは。で、でもね鈴々ちゃん? もし相手が星ちゃんだった場合、戦いながらお話して、お話した事を憶えて帰れるかな?」
「……にゃはは」
胸を張る愛紗を見てぷくりと頬を膨らませる鈴々に、桃香は穏やかに窘める。
「笑って誤魔化すな鈴々。それで雛里、沮授殿、相手が星以外の場合は生け捕りでしたな?」
「は、はい愛紗さん。出来るならあまり怪我をさせずにお願い出来たら……」
「なるべく敵、味方共に損害は避けたいところです。後のことを考えるならここでしっかりとした情報を得ておきたいですね」
天幕に知らない人が増えた為か、帽子を深く被り直しながら、小声で返事をする雛里と、それを微笑ましく見ながら応じる沮授。
「ふむ、難しい注文だ……が、出来うる限りの事はしよう」
「よっし、水関についてはそんなとこか。さて、じゃあ例の件についての相談なんだが……」
「あ、うん。一刀さん達の方だね」
白蓮が声を潜めると、桃香も小声で相槌を打つ。
「桃香、お前はどうした?」
「うん、朱里ちゃんと相談して密偵さんを送ったよ。……先生に、一刀さんの力になって下さいって手紙を出した」
「考える事は一緒か、私もそうしたよ。上手く行くと良いけど……」
「大丈夫だよ、白蓮ちゃん」
「え?」
「きっと上手くいくよ。先生が董卓さんのことを詳しく知れば、必ず一刀さんの力になってくれる。それにね――」
心配そうにしている友人に、桃香は柔らかく微笑む。
「――一刀さんなら、きっと最後まで諦めないって……私は、そう思うから。ね、白蓮ちゃんもそう思うでしょ?」
「では、いよいよ明日決行です。風、盧植殿の方は頼むわよ?」
「はーい」
「俺と士壱さんが突入組か。稟さん、警備の連中はどれ位減らせる?」
「元々、目立たぬように少人数で詰めているようですから……。そうですね、外と内、総勢三十名を十名までには」
「それは有り難いや。そこまで数が減れば、私と北郷なら大丈夫かな」
卓を囲み、頭をつき合わせる。
(多分、俺もだけど)風さん達三人の顔には緊張と、それ以上に高揚が見て取れる。
「陛下が保護できれば、例え外に行った連中が戻ってきても風さん達でけりが付くかな?」
「ふふふー、任せて下さいお兄さん」
「一刀殿が言われた……花火、でしたか。それが上がれば、後は速さが全てです。御二人とも、抜かりなきよう」
「「了解っ!」」
その報が都の董卓と、成都の劉焉の元に届けられたのは、奇しくも同日同時刻――反董卓連合が水関を攻めたその日の夜――だった。
――天水陥落。それが、届けられた報せの内容――
「なんじゃとぉぉぉお!!?」
白髪混じりの灰色の頭から冠が落ちるのも気に留めず、老齢の域に入りつつある男性が驚愕の叫びを上げる。
男が見下ろす先に畏まる兵士は、その大声にびくりと体を震わせた。
「ど、どう言う事じゃ!? 誰が天水を攻めおった!?」
「は、はっ! 西涼の馬騰に御座います!」
「戯けた事をぬかすでないわ!! 西涼へは阿呆な五胡共を焚き付けて抑えとしておく手筈だったではないか!」
「そ、それが。突然、西平の韓遂が兵を率いて五胡と相対した為、馬騰が自由に動けた訳でして」
「――韓遂じゃとっ!? くっ、あの奸物め、余計な手出しをッ!! この劉焉の戦を邪魔するかあッ!!!」
男性――劉焉――は手にしていた酒盃を床に叩きつけて、馬騰と韓遂を口汚く罵る。
「お、おのれ、西涼の田舎者風情が……!!」
蓬髪を掻き毟り、荒い息を吐きながら劉焉は玉座に座り、落ちた冠を拾う近侍の女官を苛立ち紛れに蹴り飛ばした。
「え、ええい! 馬騰に使いを出し、天水を通過する旨を伝えよ! こうなれば、直接長安を攻め落としてくれるわ!!」
「お、落ち着いて下され我が君! 正式に連合へ参加を表明しておらぬ我等が今派兵すれば、寧ろ董卓への加勢を疑われかねませぬ! それに馬騰は益州へ入って後、独立を歩んできた我が方を王朝の敵と見ておる節があります故、使いを出しても断られるでしょう!」
「ぐ……っ! くくっ!! く、お、おの、おのれええぇぇぇぇぇぇッ!!!」
怒り心頭に達したか、顔を赤黒く染めて癇癪を起こす劉焉を一人の文官が慌てて諌める。
必死の形相で押し止める部下の言に僅かながら理性が戻ったのか、劉焉は一瞬言葉に詰まり、またしても苛立ちを吐き出した。
「の、のう、張魯に頼んで漢中を通って長安を攻めるのはどうかのう((王累|おうるい))?」
「((?義|ほうぎ))様、元々、天水を制して二方向から長安を攻める予定だったのです……。例え六万の兵が有っても、天水を手に入れられなかった今となっては……」
劉焉の剣幕に怯えるように、上座に居た?義が劉焉を諌めていた王累に提案するが、王累は力なく首を横に振る。
「むう……何か良い手は無いものかのう、皆の衆?」
溜息を吐き、?義は座に居並ぶ者達を見渡すが、誰も俯いたまま顔を上げない。
――その時だった。
「――ふ、ふふふふふ。か、かかかかかっかかッ!!」
まるで((怪鳥|けちょう))のような金切り声が玉座の間に響く。
?義、王累をはじめとした座の皆が向いた先には、肩を震わせて嗤っている劉焉の姿があった。
その薄気味悪い嗤い声が止まると、劉焉はギラギラと光る((眼|まなこ))を見開き、満面の笑みを浮かべる。
「ふふふ、多少、予定が遅れるだけの事よ。……武都の兵は待機させておけ。じきに天水を攻める時が来る」
唖然とした様子で自らを見つめる下座の部下達に、劉焉は自信に満ちた様子でそう告げた。
「董卓が残ろうが散ろうが、もはや劉協に天命は無いわ! 儂等は事が収まった後に改めて義兵を興せば良い。……くくっ、その時こそ、劉協も、西涼の馬鹿共も、全てを過去の遺物としてくれようぞ!! かか、かかかっかかかかかかッ!!」
突然の宣言に、満座が静まり返る。
そんな中、劉焉の狂ったような嗤い声だけが玉座の間に響き渡っていた。
「やあ、でもこれが成功すればなんとか都は戦火を免れそうだね」
「そこまでがまた大変でしょう。連合諸侯を陛下に収めて頂かなくてはなりませんし、長安より西の件もあります」
「天水については威彦さんの策が成功すれば大丈夫なのですよねー?」
「一応はそうだろうね。まあ、その後の経緯次第ではまた危うくなるかもだけど。それより私は董卓殿のその後が心配だよ」
「? どういう事ですか士壱さん」
「うん、たとえ都が戦火に晒されなくてもさ、結果的に中原諸侯が連合を結成した事実や陛下がかどわかされていた件もあるでしょ? その責で、免職や所領没収になるかもしれないんじゃないかと思って……」
「え!? いやでも士壱さん、董卓さんは陰謀に巻き込まれた、謂わば被害者ですよ!? それに、そんな苦しい事情があっても都の治安を回復した功績もあるじゃないですか。全てが明るみに出れば、そんな、処罰とかは――」
「――陛下を奉じながら、僅か一月も経たずして諸侯の不信を招き、あまつさえ連合を組んで挙兵までされた――。都に陰謀があって、それを証明できたとしても、相国という地位に懸かる責任はそれで相殺できるようなものじゃないと思うんだ」
俺の反論を、士壱さんはふるふると首を振りながら断ち切った。
「それに、もしもだよ? 董卓殿が罪に問われずに位を留めたとして『都を危機に晒した』と中原の民に認識されてしまった人物を、新しい帝は相国と言う臣の最高位に置いたままにしている事になる……これを、劉焉辺りはどう解釈するだろうね?」
――!
「この場合、たとえ連合が解散しても火種は燻り続ける。そして劉焉はこの時世を『新しき帝にも天命は無い』と((嘯|うそぶ))くかもしれない……いや、きっと高らかにそうのたまうんじゃないかな」
「そうなってはまた同じ、いえ、今以上の凶事を招きかねませんね。――難を避けるためには、董卓殿を罰しなければならない。幼い陛下にとってつらい決断が待っている、という事ですか……」
「案外、董卓さんはそこまで理解された上で都に留まって居られるのかもしれませんねー。逃げようと思えば、始めから逃げられた筈です。……明日行われる街のお祭りの開催まで許されたくらいですから」
「だね。たとえ戦が外で行われていても、皆の楽しみを取り上げる訳にはいかない、って仰られたそうだよ」
「俺も酒家のおかみさんから聞きました。『やっと、私達が安心して暮らせる日々を守ってくれる人が来てくれたんだねえ』って…………くっ!」
洗い終えた酒杯を拭きながら、嬉しそうにそう言っていた店主の言葉を思い出し、その「暮らし」がまた壊れそうな「今」に思わず悔しさが声となって漏れる。
くそ、どうにもならないのか!?
「はあぁ〜……((吉祥|きっしょう))でも現れないものかねー」
俯き、唇を噛み締めていたその時、ふと士壱さんの呟きが耳に止まった。
「宵殿、それは……流石に無理があるでしょう?」
「いや、解ってるよ稟。そんな奇跡、そうそう起こる様なものじゃないってくらい。……でもね、ようやくここまで来たんだ、どうせなら陛下をお救いして、董卓殿もお咎め無し! ってキレイに終わらせたいじゃないか……」
「どこかに野良麒麟とかいませんかねー」
「いや、風!? 麒麟は元々野良でしょう!?」
「では野良大鵬――」
「野良から離れなさい!!」
――吉祥、或いは吉兆か。そう言えば以前、想夏から聞いたことがある。確か、風さんが言った麒麟とか他には鳳凰なんかが現れると、それは今の帝の世を祝福している((徴|しるし))だとされて、大赦が出される、って……?
「ではー……お兄さん? 稟ちゃんだけではツッコミが少し寂しいのですよー、いつもみたいにお兄さんも――」
――麒麟や鳳凰? それが現れる…………天の仲介者たる帝を、天から現れた存在が祝福する?
「――お兄さん? 聞いているのですかー?」
待てよ…………なら、いける、か? 出来るのか、俺に?
いや、違う。出来るか、じゃないな。
「お兄さん?」
俯いている少年の顔が厳しいものだと気付いた程立は、不安そうに少年に声を掛ける。
「――ゴメン風さん。稟さんに士壱さんも、ちょっといいかな?」
その声に、少年はやっと顔を上げると、引き締まった表情で椅子から立ち上がった。
「一刻、いや半刻だけ時間を貰いたいんだ」
全員の視線が少年に集まる。
その視線を真っ向から受け止め、少年は一つ頷いて黒地の羽織の襟を正すと部屋の戸に向き直り、歩き出した。
「奇跡を起こすための、準備をしてくるよ」
あとがき
天馬†行空 二十話目、更新しました。
今回のタイトルは原作の一刀が言った言葉からです。
また、今回の話は作品説明にも記載しましたが同じ一日(多少誤差はありますが)であった出来事です。
詳しくは、華琳、雪蓮、白蓮と桃香の部分→朝から昼にかけて
一刀達→夕方
劉焉→夜 となっております。
前回から行き成り話がぶっ飛んでいますが(特に一刀達の部分)、これは後の話でちゃんと説明を入れるつもりですのでご安心を。
さて、今回劉焉が初登場となりました(今まで名前だけは頻繁に出てきていましたが)。
基本的に、陰謀が好きな割にはどこか抜けているヤツ、としています。
それと、故孫堅さんと朱儁さんの勝手な設定も作ってしまいました。
このあたりのフラグも雪蓮と冥琳の会話通り、すぐに回収できるかと。
次回は水関の戦いと、ある決意をした(バレバレかもしれませんが)一刀の話になるかと思います。
では、次回でまたお会いしましょう。
※余談ですが、劉焉のシーン、桔梗と紫苑、焔耶に鷹は出席していません。
彼女達は巴郡に留まっている上、劉焉とはあまり反りが合わないので(劉焉が一方的に疎んでいるので)。
説明 | ||
真・恋姫†無双の二次創作小説で、処女作です。 のんびりなペースで投稿しています。 一話目からこちら、閲覧頂き有り難う御座います。 皆様から頂ける支援、コメントが作品の力となっております。 ※注意 主人公は一刀ですが、オリキャラが多めに出ます。 また、ストーリー展開も独自のものとなっております。 苦手な方は読むのを控えられることを強くオススメします。 ※今回の話は、全て同じ日に起こった出来事として書いています。 |
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>陸奥守さん 全ては次かその次の話で明かすことに。一応、フラグに関しては今回の話の中で僅かですがヒントがあります。(赤糸) でもある意味一刀のやろうとしている事強力な死亡フラグかもね。俺の想像通りの事をしようとしてるなら。(陸奥守) >黒乃真白さん 見当は既に付いておられるご様子。後は、私が上手く表現できるかにかかってますね。(赤糸) ついにあの台詞が解禁される時が……いや、まだそうと決まったわけじゃないんだ。俺の勝手な推測で皆を混乱させたくない(黒乃真白) >アルヤさん 劉協陛下救出、そして戦の終結。ここから一刀の本領が今まで以上に発揮される時です!(赤糸) >summonさん そしてようやく劉協陛下の出番も。一刀とあわせて反董卓連合編の後半はこの二人がメインになります。(赤糸) 天の御使いの名は伊達じゃないってとこ見せてやれ!(アルヤ) おお、かっこいい一刀さんが見られそうな予感がしますね。(summon) |
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