たいとる未定
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これが自分が心から望んだ道だ。

  なんて、胸を張って言える人は世の中に何人いるんだろう。

  皆それぞれの事情を抱えて、葛藤を飲み込んで、そんな妥協の末の道を歩んでいる人は何人いるんだろう。

  あるいは、自分の他にも同じ曲がり道をした人がいて欲しいと胸の奥で願っているのかもしれない。

  でも、それと同時に今すぐ引き返してまっすぐ歩いていきたい、と願う人もいるだろう。

  そんな十人十色の曲がり道を人は「人生」と呼ぶのではないだろうか。

 

 

  眠気を奪う甲高いアラームが響く。〆切のちょうど十二時間前を知らせるアラームに泰はうんざりとした表情を浮かべる。目の前のデスクトップに映る肝心の原稿は一つ前のアラームからほんの二行ほどしか進んではいない。

 

 「初仕事早々〆切延ばして貰うのはさすがにまずいよな」 

 

  今後の奏の生活を支えていくためにも、小説家という夢への道にしがみつくためにもそれは出来ない相談だった。

  

  大学に入れば何か変わると思っていた。東京へ行けば夢に近づくと思っていた。

  なんていうのはよく聞く話で、かくいう奏もその一人である。しかし、仕事をもらうという事への責任、時間制限を守らなければいけない義務感。それらはコンビニのバイトなんかでは味わえない焦りを奏の胸に刻む。

 

  「このキャラと因縁があるのはどのキャラだっけ……」

 

  かれこれ二日は寝ていないほとんど閉じかけの瞼を必死に擦り、史悠は依頼主に渡されたノートを一ページ一ページめくっていく。そこに記されているのは登場人物の生い立ち、登場人物を取り巻く環境、降りかかる事件、全てが物語の終末までびっしりと書き込まれているいわゆる「プロット」という奴である。ここまでプロットを詳細に作りこむ作家がいるのか、は謎だが。

 

  (こんなに、こんなにも自分だけの世界が出来上がっているのなら自分で書けばいいのに)

  

そう思っても口には出さない。出せば、それが最後自分の行動が理解できなくなり全てを投げ出したくなると分かっているから。

  ただただ必死にノートと画面を見つめて、キーボードを叩く。

  これが奏の仕事。希望を持って家族に見送られてはじめた大学生活二年目にして見つけた初めての仕事。

  文字を表現できない、あるいは表現したくなくなった者が依頼し、それを熱意のある者、それ相応の表現力を持った者が代筆する

  いわゆる「ゴーストライター」である。

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