タイトルみてい2
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 「原稿上がりました。初めての、仕事だったのにもかかわらず、〆切ぎりぎりになってしまい申し訳ありません。っと」

 

なんとか〆切に間に合わせ、依頼者のチェックも済んで、担当編集へのデータ送信を済ませれば三ヵ月近くは次の仕事までオフである。実際には自分の中で依頼者の癖に似せるシュミレーション、その他練りこみをしていかないとこれから先続けていけないことは分かっていたのだが、奏は疲れきった頭からそんなことはシャットアウトした。もう今週何本目かもわからない栄養ドリンクのふたをまわしながら、

 

  「それにしても、なんだかあっさりOKを出されると少し拍子抜けだな」

 

  奏はそう一人ごちる。

  やはりこれが仕事であり、依頼者がいる以上は依頼者の満足のいく出来でなければ当然やり直しという結果になるのだが、出来上がった文章を送るとものの三十分もしないうちに、

 

  「これで大丈夫です。次もよろしくお願いします。お金のほうは今週中に支払い済ませておきますので」

 

  とメールが送られてきた。

 

  奏がこの仕事に出会ったのはちょうど半年前になるだろうか。あれは同じ文芸サークルの友人、隆弘に最初は半ば無理やり1年以上も、オタクの街なんて呼ばれる秋葉原に週四ペースで通わされた史悠がいい感じに染まってきたであろう、夏の最中だった。

  とあるショップで「○○文庫新人大賞受賞作」なんてルビを見かけ、ふと手に取った。

  (新人大賞、か)

  ここにもかつての自分と同じような夢を持ちながら、自分とは違って光をつかんだ人がいるんだな、なんて店内の冷房にすっかり熱気を奪われ気だるげにそれを眺めていた時、ふと隣の隆弘がつぶやく

 

  「この作家今ネットで有名な奴じゃん」

  「やっぱり新人大賞受賞ともなると、すぐに話題になるぐらいに面白いのか? これ確か今月発売だろ」

  「いやいや、なんか大賞発表直後にこれから書く自信がない、代筆募集したいとか色々ブログで言ってたらしくてさ。俺が気がついたときにはもう記事が消えてて乗り遅れたわ完全に」

  「なんじゃそりゃ」

  

  (なんて責任がない)

  思っても口には出せない。自分が同じ立場だったとしたら大手を振って喜べるのだろうか?今までただ必死で駆け上り続けた階段が急に終わり

目の前に楽園が広がってたとしたら安心して踏み入れられるだろうか。

  

  「案外まじでどこかの会社に依頼してたりしてな」

  「さすがにないだろ」

 

  だよな、と笑う隆弘と店を出る。

 

 

  なんてことないいつも通りの日常だった。

 

 そして夜、コンビニで購入した夕飯を食べてお風呂にも入ってしまい、ネットサーフィンでもしてから寝るかな、といつも通りにPCを立ち上げた。

  「これって……昼間のか」

  やはり今話題というだけあってブログランキングの上位に来ている。

  

  (案外まじでどこかの会社に依頼してたりしてな)

  別に奏自身そんな話を信じているわけではなかった。ただ、本当に一握りの好奇心だけで指を動かした。

 そもそもそんな仕事があるのかすら怪しい。

  検索ソフトといえば日本人の九割は思い浮かべるであろう先生の、三頁目、上から五段目にそれはあった。

 

  「ゴーストライター募集 時給応相談 」 

 

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