幻想郷帰宅日記 第十章(前編)
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第十章「前進!地霊殿へ!-前編-」

 

 

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☆今までの粗筋☆

 

主人公である"神塚 光助(19)"はごく普通の中の下な少年。

さる理由から隙間の妖怪"八雲 紫"によって近所の神社から想像世界『幻想郷』に送られてしまったのです!

 

 

* * *

 

 

紫「貴方の近所の神様がうちの神社の巫女と行方不明中なのよ

  だから手掛かりとして、いつもお参りに来てる貴方を選んだって訳」

光助「それならもっと屈強な人の方がいいんじゃないですか?

   信心深くて御神輿担いでる人ならお祭りとかでよく見掛けますが」

紫「嫌よぉ、そんな男面倒だもの・・・貴方みたいにひょろーっとしてた方が扱い易いじゃない?」

光助「それはあんまりですよ・・・」

 

* * *

 

彼がここから出る為には、何と5日間幻想郷に滞在し、その体を幻想郷の「大気」に同調させる必要があった!

こうして光助少年による大脱出劇が始まる・・・!(紫さんからはおいてけぼり食らいました)

いや、既に始まっていたのだ!!

 

 

※3章辺りから読んで頂ければ、もう少し解りやすいと思います(汗)

 

 

 

 

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小悪魔「ハァッハァッハァッ・・・・」

 

 

ザザザ・・・

周囲を掠める木々の枝が服に擦れる。

 

ここまで来るのにどれ程経っただろうか。

とにかく速く飛ぶことに夢中だったので、時間がどれ程経ったか等は覚えていない。

傍らに抱えた妖精は意識が無いまま、うなだれている。

 

小悪魔「っち!」

急に気配を感じて伏せた瞬間

 

・・・−ジュン!

頭上を高熱の電気が通り過ぎた。

 

 

?「あーあ、外したか」

 

 

上空から聞こえる少しトーンの低い声。

聞き覚えのある声だ。

 

小悪魔「魔理沙・・・・・・さん」

魔理沙「お前、パチュリーんとこの使い魔だろ?何でここに居るんだよ」

 

霧雨魔理沙。

紅魔館の丁度正面に位置する魔法の森を住処にする魔法使い。

パチュリー様とも面識があり、何度か会った事もある。

山の向こうに位置する博麗霊夢の知り合いでもあり、退魔士っぽいこともしていると聞く。

 

先程会った瞬間から何の警告も無く攻撃を仕掛け、妖精と妖怪を吹き飛ばしてしまった。

・・・まぁ、あいつらは意外と頑丈だから消える事は無さそうだが。

一応、妖精だけは身元確保が出来たが、こんな危険な状況なら連れて来るんじゃなかったか。

愛着が湧いた訳ではない・・・ただ何となくだ。

 

しかし今の魔理沙さんはどこかおかしい・・・。

この様子だと、何か急いでいる様にも見える。

 

魔理沙「パチュリーんとこから離れられないお前がここに居る時点で、なんかおかしいだろ?異変だろ?」

 

なんとも滅茶苦茶な言い草である。

必死という訳でもなさそうだが、この人はいつもこんな感じだ。

会話がかみ合わないのはいつもの事であるが。

 

魔理沙「本物だってんなら、いつもの意識会話でパチュリー出してみろよ」

挑発的に箒に横乗りになり急かしてくる。

いつもならばそうする所だが・・・。

 

小悪魔「だから、今は連絡が取れないんですよ!」

魔理沙「んんー?その様子じゃあやっぱ偽者っぽいぜ?」

小悪魔「違いますってば!」

 

先程、事情を説明しようと考えたが、肝心の無線が通じない。

パチュリー様ならまともに話が出来ると踏んだからだ。

おかしい・・・さっきまでは使えていた筈だったのに。

ふと、一度冷静になって周囲を見渡して見る。

 

小悪魔「まさかこの山・・・妖怪の山!?」

 

氷妖精や人食い妖怪とじゃれている(謎)間にそんな所まで来ていたとは。

成程、微弱ではあるが屋敷の山の感化とは少し違う。

とてもじゃないが自分の迂闊さを恨んだ。

 

確か、この山は白狼天狗達や河童の作った発明品による妨害電波によって特殊波長の意識通信は出来ないのだ。

これではパチュリー様に連絡は取れない・・・!

が、逆に言えば、人間を『落とした』という事もバレずに済む訳だ。

・・・・・命拾いしたわね。

なんて思っている場合ではない。

 

魔理沙「大体さ、お前らが集まってる時なんて大抵ロクな事起きないだろ」

 

スッ・・・キュォオオオオオオオ・・・・・・

 

こちらが思案を巡らせていると、痺れを切らした様に魔理沙が腕を構えた。

まずい!あれは・・・!!

 

魔理沙「ま、霊夢も居ないし、私がケリ付けといてやるか」

 

魔理沙の腕に溜まった魔力は大きな渦を描き、その場で固定された。

そのまま狙いを定められてしまう。

あの魔力は・・・・・・割と本気だ!

 

小悪魔「っ・・・!」

 

舌打ち交じりに悪態をつき、背後を向けて全力で逃げ出した。

この距離で逃げ切れる自身は無いが、せめてもの抵抗だ。

 

 

魔理沙「今度こそ避けるなよ・・・・・・ファイナル・スパーク」

 

 

一瞬、真夜中の野山が昼のように明るくなり、そして暗くなった。

 

 

 

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光助「準備出来ましたよ」

ヤマメ「よし・・・じゃ行くかね」

 

俺は大浴場での修羅(謎)を終えた後、簡単な身支度をして宴会場である旅館の玄関に居た。

大浴場で着替えた後、『人間をどうするか小会議』が始まったらしく、色々な話がされたみたいだった。

「隙間の妖怪が絡んでる」とか「里へのイメージに繋がる」だとか「食べれば即解決」等と物騒な話も聞こえてきたが・・・。

とどのつまり、どうやら地霊殿まで付いて来てくれるらしい。

 

光助「でも、本当にいいんですか?」

ヤマメ「あぁ、ここまで来たし面倒は最後まで見たいからねぇ」

 

目の前でにやりと笑うヤマメさんの性格なら何となく頷けてしまう。

しかし、あのパルスィさんまで付いて来てくれるとは・・・・かなり驚いたが。

なんとも心が温かい人達、いや妖怪達である・・・・とそんな事を思いつつ横目にパルスィさんを見る。

こちらの目線に気付いたのか、彼女はつかつかとこちらに歩み寄って来た。

 

パルスィ「勘違いするんじゃないわよ人間・・・・・ヤマメが心配なだけ」

光助「ハイ」

 

鼻と鼻が擦れる距離まで詰め寄られてそんな事を言われた。

そりゃ人間なんて妖怪に比べればそれこそ食べ物か何か位だろうし。

・・・・こうして見ると、パルスィさんがこの中で一番妖怪っぽいかな。

 

ヤマメ「おや勇儀、もしかしてアンタも来るかい?」

 

そう聞こえて振り返ると、旅館着の勇儀さんがヤマメさんの脇にいつの間にか立っていた。

昨日の酔いなど何処吹く風といった面持ちであり、先程の寝惚けた感覚も見当らない。

流石"呑み"に慣れている(であろう)鬼である。

もし来てくれるなら心強い気もしたが・・・・・。

 

勇儀「いんや、やめとくよ」

 

カリカリと頭を?きながら勇儀さんが言ったので、一緒には来ないらしい。

少し残念な反面、少々ホッとしてしまった。

いや、初めて会った時からの威圧感というか何と言うか・・・・。

 

ヤマメ「何か用事でもあったのかね」

勇儀「あぁ、まだ萃香が飲み足りないってね・・・・で、しょうがないからつき合ってやるのさ」

ヤマメ「まぁいつもの事さね」

 

そう言うと御二方はやれやれと肩を落とした。

あの人(妖怪)・・・・まだ飲むのか。

 

 

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光助「勇儀さん、ありがとうございました。お祭り、楽しかったです」

勇儀「アタシも久し振りに楽しませてもらったよ・・・・他の奴の太鼓なんて稀に聴けるか聴けないかだからね」

光助「いやぁ、ははは」

褒められた様で、少し照れてしまう。

 

何だかんだ言ってこの街道の町の人は良い妖怪ばっかりであったし、何より楽しかったので皆が俺の先入観である"人を恐怖させる妖怪"である事を忘れさせてくれたと思う。

あの後飲み会での事を少し思い出したけれど、萃香さんと宴会の席で「ここに住んじゃえば〜?」とまで言われた。

それもいいかもしれないな、と少し思ったけれど・・・やっぱり家に帰りたいというのが本音だ。

 

勇儀「あ・・・・それとな光助」

光助「はい?」

お互いに笑い合った後、いつになく真剣な顔で勇儀さんが近付き、耳打ちをする。

 

勇儀「地霊殿は・・・・地上よりも地獄よりも危険な場所だという事を知っておいてくれ」

光助「!」

 

先程の風呂場での思考を読み取った様な勇儀さんに言葉を失う。

風呂場での会話からして何となく予想してはいたが、あの勇儀さんが言うくらいだと・・・・

 

勇儀「まぁ〜、それだけなんだけど・・・ヤマメが居れば何とかなるだろ、安心しな」

光助「は、はぁ・・・・」

 

やはりここは何がどうであれ『幻想郷』なのだろう。

まだ気を抜くには・・・早過ぎたのだ。

 

 

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光助「いってきまぁーす」

勇儀「気を付けてなぁ〜・・・」

 

最早遠くに見える旅館に手を振りながら、僕達は地獄街道を真っ直ぐ進んでいた。

町並みは昨日の雰囲気が抜けていて、宛ら誰も居ないゴーストタウン(日本版)の様になっていた。

更に昼という事もあってか、地下だというのに明るい霧が立ち込めている。

 

そんな妖しくも新鮮な雰囲気の街道を進む俺達一行。

現在のメンバーはヤマメさん、パルスィさん・・・だ、あれ?

あの風呂桶が居ない・・・。

 

ヤマメ「そういや、キスメは何処にいったんだい?」

パルスィ「そういえばそうね・・・」

光助「俺も見てませんよ」

 

あの騒動の後、一緒に風呂から上がった所までは目撃しているが後は分からない。

意外と友好的(?)な妖怪であったので、急に居なくなると少し寂しいが。

 

ヤマメ「まぁ地獄に来ればいずれはまた会えるさ」

光助「は、はぁ・・・・」

 

そんな俺の心情を悟ったのかヤマメさんが声を掛けてくれた。

でも"また来れば"か・・・この幻想郷は一度出たらもう入れないとも考えられる。

今の目標は"ここから出て安全な場所を探す"という事だが。

 

意外とここは安全なのだから暫く滞在しても問題無いのではないのだろうか?

いや・・・・・却下。

 

光助「(・・・あんな事したなんて、もうお婿にも行けないでしょ)」

忘れていたが、俺は宴会で"物凄い事"をしてしまったのだ。

詳細は・・・・やっぱりちょっと口に出せない。

と、いう訳で

光助「(やっぱ新しい安全な場所を探そう!)」

そう心に決めたのだ。

 

パルスィ「何一人でガッツポーズなんて取ってるのよ、キモいわ」

 

そんな俺の様子をゴミを見るかの様な横目で見てくるパルスィさん。

光助「あ、いえ、何でもないですよ」

そんなやり取りをしながら10分程歩いた所だろうか・・・

 

相変わらず地獄街道の道は続いているが、今度は町並みが無くなって来た。

後は太い一本道がずっと続いているだけで、辺りの壁は段々と燃える様な"赤色"に変化してきている。

地熱はヤマメさんにして貰った靴の糸コーティングによって分からないが、徐々に温度が上がってきている様に感じた。

 

そうして暫く3人で歩いていると、道の終端に近付いた。

その途切れた道の真ん中に標識が立っていて、不思議な字が躍っている。

字体からして封印の札か何かだろうか?神社で見る様なダルマ筆で書いた字によく似ている。

 

光助「ヤマメさん・・・・この先が本当に」

ヤマメ「地霊殿さね、ちょっと険しいけどもねぇ」

そう言って見た先・・・・・

 

そこは何とも赤い空気に包まれた岩石群の道だった。

 

光助「この先に地霊殿が・・・・」

先にここに着いた時に通った通路とは比べ物にならない位の険しい道だ。

言うなれば、草木の茂っていない岩石山の様である。

どういう現象なのかは分からないが、所々に赤く淀んだ空気が漂っている。

酸素なのかどうかも怪しい。

 

光助「ここって人間はちゃんと抜けられるんですか?」

ヤマメ「まぁ前例が無いって訳じゃないけどもねぇ・・・・」

光助「けども?」

パルスィ「ま、あんたみたいな只の人間が通るのは初めてでしょうね」

フフンとパルスィさんが後ろで鼻をならした。

 

微妙に緊張が走る。

 

が、ここは所詮ゲームの世界である筈。

どんな仕掛けだろうと一度は"人間"である主人公が通った道である。

"只の"が付くとまた意味と効果は大分違って来るのであろうが・・・・救いはあるかもしれない。

それに・・・

 

光助「頼りになる凄い人達が二方も居るからだいじょうぶですよ」

ヤマメ「ふふふ、言うじゃないか」

パルスィ「ふ、ふーん・・・」

 

少し甘え過ぎだとも思ったが、この人達(一人は微妙)に救って貰っている事は事実なのである。

何やらパルスィさんの表情が緩くなったかと思いきや、こちらに目線に気付くとすぐに元のきつい目に戻った。

こう見るとこの人(しつこい様だけど妖怪)も性格は可愛いんだなぁ、と思う。

 

パルスィ「なっ、何ニヤついてるのよゴミ人間が!」

光助「いんや?何でもありませんですのよ」

ヤマメ「光助もパルスィの扱い方が分かって来たのかねぇ・・・」

光助「何となくですがね」

ははは、と二人で笑いながら歩みを進める。

 

その時・・・

 

?「誰じゃぁああああぃ!」

光助「え・・・・あっ、ギャァアア!!」

 

前方で叫び声の様な怒声が聞こえたと思うと、俺の背中が燃えていた。

初撃はふわっと暖かい風が通ったかと思う位の感覚であったが、ジワジワとその威力が留まっていき・・・

烈火に投げ込まれた栗の如く熱くなり始めたのだ。

何だ!?

炎は見えなかったが、背中の熱さと度合いで燃えていると判断出来る。

光助「うわっちゃぁあああああ!!」

熱い!死ぬ!!

 

パルスィ「うん?!」

ヤマメ「おっと!・・・・・よっ!」

すぐ傍に居た御二方がそれを見て何か行動を起こす。

 

バシャ!ぐるぐる・・・

光助「はぁちゃちゃああ・・・・・へぶぁるるるる!」

 

突如として襲い掛かった灼熱の感覚に暴れていると、ヤマメさんが何やら手から糸を出し始めた。

その糸は大きくうねり、やがて大きな束になると俺へと降り注いだ。

糸の束に揉まれた末に・・・・何と人間ミイラとなったのだ。

 

ヤマメ「やれやれ、危なかったね光助」

光助「へ、へふぃ(は、はい)・・・ありふぁふぉうれす(ありがとうです)」

 

暫くしてミイラがぱっくりと開き、中から這い出る事が出来た。

這い出て見ると、ヤマメさんが俺に巻いてくれた糸はプスプスと音を立てて焼かれていた。

もし助けが遅れていたら・・・きっとこんがりと焼けていただろうと思うとぞっとする。

まぁ、方法はどうであれ助かった。

 

と、ここで先程の怒声の主が揺らめく赤い大気から姿を現した。

一体誰がこんな攻撃を・・・

 

黒猫「ニャーン」

光助「うむむ・・・あれ?猫?」

 

そこには二つの尾を持つ黒猫が座っていた。

二つの尾を持つ・・・・というと、少し聞いた事があるあの『猫又』ではないだろうか。

 

光助「あれが正体・・・?」

さっきの炎攻撃を仕掛けてきた妖怪なのだろうか。

 

ヤマメ「まぁこの近くなら居ると思ったけどもさ・・・」

そうヤマメさんが言うと、目の前の猫又の影が揺らめいて人型になった。

 

ヤマメ「いきなり侵入者って決め付けて攻撃してくるなんて・・・あんたらしくないじゃないか、お燐?」

その陽炎から出て来た正体とは・・・・

 

 

燐「あれぇ?よく見たらヤマメじゃないか、何でこんなところに来たんだい?」

 

 

二対のおさげの赤髪を持つ少女だった。

 

 

 

-後編に続く-

 

説明
やっと書けました第10章(前編)でございます。
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