牢獄の愛魔法使い 三話
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三話 萌えに関する魔女条例 アニメや漫画を読んで萌え萌えしている魔法使いを見つけても、後ろ指を指してはならない

 

 

 

 魔法の天才。悪魔との契約を十五歳にして交わした佐金美静が名門、ウェイト魔法学校に入学する。

 そんなニュースが、多分国中に報道されたのだと思う。

 那美子さんの特訓の末、わたしは入試に受かり、今こうして、入学式の学校へと足を踏み入れようとしている。

 わたしは想像以上に目立ってしまい、もう取材を三回もされてしまった。中学時代は平凡で、一度は中堅程度の魔法学校の入試に失敗したのに、今では誰もが注目する天才として扱われてしまっている。

 それを那美子さんは祝福してくれた。菖蒲さんは……どうだろう。

 彼女が今もここにいてくれたら、彼女はわたしに対して、どんな言葉をかけるだろうか。やっぱり、祝福の言葉?もっと無邪気に、自分のことのように喜ぶかもしれない。

 もう菖蒲さんには会えない。でも、彼女のくれた魔法で、こうして人々に注目されることで、いくらか恩返しは出来た気がする。――後は、これを一過性のものにしないこと。それが重要になる。

 わたしは絶対に、魔法使いとして成功する。決して落ちこぼれない、主席であり続ける。

 他のどんな生徒よりも素晴らしい箒、アイリス・ブーケを手に、校門から一歩踏み出した。世界が、比喩ではなく、一変する。

 ここはもう、普通の人間の領域じゃない。魔法と共に生き続ける魔法使い達だけが存在することを許される場所。肌を打つような、魔力の気配がそれを知らせる。

 遂にわたしは、ここまで来た。一年の勉強、そして三ヶ月の特訓。その間にあった菖蒲さんとの出会い、別れ。その全ての経験があって、わたしはこの学校に入学出来た。まずはわたしを支えてくれた全ての人に感謝。それから、誓う。夢を夢で終わらせない。恩を仇で返さない。期待には、最高の結果を返すと。

「おはよー!佐金美静さんだよね?思ったより小さいんだー」

「あっ、おはようございます。……小さいですか?」

 友達を待っていたのか、校門の近くで立っていた女の子が駆け寄って来た。「小さい」という言葉に反応して胸を確認すると、相手もそんなに大きくない。なんだ、身長の話か。

「うんうん、だって、雑誌だと大きな写真で載ってたから。どこのアイドルかな、って思うぐらいに可愛いのに、すごい天才なんてすごいよね」

「ありがとうございます……」

 ……朝からのテンションの高さに、ちょっと戸惑ってしまうのと同時に、その明るさに憧れの女性を重ねて見てしまう。彼女は黒髪だし、わたしより身長が高い。たったそれだけの共通点なのに、菖蒲さんがそこに立っているような気がした。

「あ、自己紹介してなかったよね。私は月山雪華。あなたと同じ、この秋からの新入生……って、入学式に来てるんだから当然だよね。同じクラスになるかもしれないし、よろしくー。というか、違うクラスでも仲良くしたいから、よろしく!」

「あはは、はい。では改めて、わたしは佐金美静です。よろしくお願いします」

「んー、同い年だし、もっと砕けた喋り方で良いよ?私のことも、雪華って気軽に呼んでくれれば良いし」

「そうですか?……じゃなくて、そうかな。じゃあわたしのことも、美静って呼んでね。雪華ちゃん」

「ふぇ、ふぇぇー!!」

「えっ?」

 なぜか雪華ちゃんは顔を真っ赤にして、利き腕らしい右手で、ばんばん左の二の腕にしっぺをしている。……自虐癖のある人?

「ゆ、雪華ちゃんって……。私のこと、美静ちゃんが雪華ちゃんって……!うおおー!激烈に萌える!いや、萌えるというよりもう、萌えゆ!」

「そ、そう」

 ……もしかして、雪華ちゃんってまさかの「わたし萌え」?雑誌の取材を受けたから、顔を知られているのは当然かと思ったけど、真っ先にわたしに反応して声をかけて来たってことは、わたしのファン?

 これは……いきなりすごい人に会ってしまったかもしれない。

「じゃ、じゃあ美静ちゃん。体育館行こう!手を繋いで行こう!なんなら、恋人繋ぎで行こう!」

「普通に繋ぐけど……。えっと、雪華ちゃんは誰かを待ってたんじゃないの?」

「その“誰か”が美静ちゃんだよ!っていうか、また雪華ちゃんって……萌え禿げるっ」

 ……ちょっと彼女と距離を置いたぐらいが良いのかもしれない。わたしはそんなに気にしないけど、このままだと雪華ちゃんが本当に萌えでどうにかなりそうで怖い。後、自然に流れで手を繋ぐって言ってしまったけど、女の子同士とはいえ、この年で手を繋いで歩くなんて……かなり恥ずかしいことな気がする。

「じゃあじゃあ、レッツでゴー!やったー、初めて会って、いきなりデート出来るなんて……」

「で、デート……」

 この子と菖蒲さんの共通点は、一つや二つじゃなかったらしい。……わたしのこと、そういう方面の意味で好きなんだな。いや、あえて何も言わない、思わない。人のアブノーマルな性癖に突っ込んでいたら、魔法使いの世界では生きていけないと思うし。

 いや、でもこうしてわたしが当事者になっているのは……少しずつ慣れていけば良いかな。雪華ちゃん、決して悪い人じゃないと思うし、喋らなければ奇麗系美人で、容姿的にもわたしは好きだし。

「そういえば美静ちゃん、あの写真では髪下ろしてたけど、今日ポニテなんだね。大人しい感じと見せかけておいて、髪型は活発な感じで、そのギャップがすごい良いよ!良いセンスだっ」

「……わたし、髪の毛長いから、激しく動く時は上げておかないとすごく邪魔になるの。だからファッション的な意味があってポニテにしてるんじゃないよ。むしろわたしは、下ろしている方が好きかな」

「だよね!やっぱり、黒髪ロングは清純派の証、美静ちゃんにぴったりの髪型はストレートだよ。でも、ポニテも良いよね……さわさわしたい。ついでに頭もなでなでしたい。後、匂いも……」

「雪華ちゃん……あんまりセクハラっぽいことはしないでね。女の子同士でも罪に問えるんだよ」

「うっ、冷たい美静ちゃんもまた……」

 駄目だこの子、わたしが思っていた以上に末期なのかも。今も身悶えているし、さすがに魔法使いでもここまでの変態さんは、ちょっときついかもしれない。それだけ将来有望なのかもしれないけど。わたしさえいれば、雪華ちゃんは無限のポテンシャルを発揮出来るのかもしれないけどっ。

 でも、黒髪ロング好きなのは嬉しいな。同じ作品について語り合えるかも。秋アニメにも黒髪のすごく可愛いヒロインの作品があったし、後でその話を振ってみようかな。

「そこ行く美女二人!ほら、そのセミロングの彼女と、ポニーテールの彼女のことだ!少し待ちたまえ、そして僕の話に耳を傾けるのだ」

 えっ?いきなり後ろから声がかかったけど……わたし達のこと、だよね。

「どうしました?」

「ちっ、野郎か。なに?私、美静ちゃんと愛を語らうのに忙しいんだけど」

 雪華ちゃん、男の子にはこういう反応なんだ……。

 わたし達を呼び止めた男の子は、一目見た感じだと、女の子と間違うぐらい背が低くて、華奢で、顔立ちも中性的。男子の制服を着ていなかったら、十分美少女で通用する容姿だと思う。

 特徴的なのは髪の色で、なんと銀髪。目の色も瑠璃のような深い青色で、ハーフか、外国人なのは明らかだ。ここぐらいの名門校になれば、海外から入学するような子もいるんだろうな。日本は唯一といって良いほど、魔法の発達している国だし、その力は諸外国が求めている。それらの国の問題は、自国で萌え作品を生産するのが難しいことだから、まだ日本が独占状態なんだけども。

「やはり、君は美静さんだね。期待の天才と、その名前は聞き及んでいるよ。僕は藍川空也。こんな見た目だけど、クォーターなだけで、生まれも育ちも日本だから、外国語には期待しないでくれよ」

「初めから何も期待してないわよ。で、何の用?私の美静ちゃんを奪おうっていうの?」

「雪華ちゃんのなんだ……」

「いやいや、ただの挨拶だよ。実は僕も、美静さんと同じ、悪魔契約を交わした者なんだ。相手は蛇の化身、ナーガ。美静さんには悪魔の格でも、属性でも不利だからね。初めから張り合おうなんて考えてないから、安心してもらいたいな」

「は、はい」

 那美子さんの言っていた通り、悪魔契約者が本当にわたし以外いもいた……本人は競うつもりがないと言っていても、自然とわたしと比較される存在になると思う。……わたしも負けないようにしないと。

「同じ学校に通う学友として、これからよろしく。では、わざわざ引き止めてしまって失礼」

「本当に失礼ね。しょーもないプレッシャーかけるために引き止めるなんて性格悪いわよ。……美静ちゃん、あんなクソみたいな野郎は忘れて、一緒に行こっ」

「は、はーい」

 案外、空也君も悪い子じゃない気がするけど……雪華ちゃんからすると、男は誰もが敵なのかもしれない。

 ちょっと不機嫌になってしまった雪華ちゃんに手を引かれて、わたしは入学式の会場へと入って行った。

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 入学式の後は、早速新入生達に魔法の洗礼が与えられる。

 わたしには関係のない話だけど、一応その説明をされた。

 現在では一般的になっているこの「洗礼」、実はつい最近に出来た魔法習得の方法で、百年前まではわたしのように悪魔と契約するのが一般的だった。ではなぜ、悪魔契約が廃れ、洗礼が流行ったかといえば、単純にいえば洗礼の方が簡単で、扱えるようになる魔法の質も悪魔契約とそう大きくは変わらないからだ。

 ただ、洗礼の場合、扱える魔法の種類は魔法使い本人の魔力の扱いの上手さに依存する。つまり、大きな魔力を放出するのが上手い魔法使いは大魔法をいきなり使えたりするし、逆にそれが苦手なら、いつまで経っても初歩的な魔法しか使えないことになる。そして、わたしは魔力を扱う以前に、魔力が血の中にしかなかった。洗礼では魔法を使えない体質だったということになる。

 だからこそ、わたしは魔法を使うのに悪魔契約を用いた。悪魔から与えられる魔法は、初歩のものから、災害にも似た甚大な被害を与えるものまで、その全てが最初から解放されている。術者は、その中から自分が使えそうなものを使っていけば良い。わたしが学校に通う前の見習いの時点から、制御の難しい飛行強化の魔法を使ったのがそのわかりやすい例だ。

 一見すると、悪魔契約の方が誰でも、十分な魔力さえあれば大魔法が使えるのだから、人気が出そうなものにも思える。でも、実際そこは違っていて、強力な魔法は魔力が足りていても、暴発の危険性をはらんでいる。

 火球の魔法を使うと、その炎が弾け飛んで術者自身も焼いてしまったり、竜巻の魔法が術者を切り刻む、といった類のもので、十中八九術者は死亡するか、以降の生活が困難になってしまう。魔法使いが最も恐れ、そして、未だになくならない驚異だ。

 これを減らすためには、洗礼によって魔法を得て、分不相応な魔法の行使を予め封じておいた方が良い、ということでこちらの方が主流になっている。悪魔契約が意識的に忌避され、その方法も残されていないのはひとえに暴発が恐ろしいからだろう。

 さて、洗礼の理論的なところを掘り下げると、つまり既にいる優秀な魔法使いの「子」に自分がなるような儀式ということになる。

 ここでは学校長から直接、その魔力を注がれる。これが「洗礼」であり、魔法使いの魔力をもらった人間は、自分もまた魔法使いになることが出来る。もちろん、その魔力をきちんと行使するには才能と、自身にある程度以上の魔力が必要になる。この学校では測定器が7以上の数値を出さなければならない。わたしが前に受けた学校よりもレベルが高いのは、このことからも伺える。

 洗礼を受けた後、魔法学生達は「属性の決定」という作業をする。つまり、雷だとか水だとか、自分の使いたい魔法を選び、その魔本をもらって「刻印」を得ることで、本格的にその属性の魔法を使うことが出来るになるという。名前そのままの儀式だけど、これが一番重要だといっても過言ではない。

 一度「刻印」を得てしまうと、簡単には変えることが出来ず、自分の適性ではない魔法を選んでしまうと、その後の学校生活に大きく支障を来たしてしまう。それは悪魔契約で呼び出す悪魔の性質も同じだけど、菖蒲さんの選んでくれたグラシャ=ラボラスが与えた雷の魔法はわたしと波長が合った。菖蒲さんの見立てに狂いはなく、わたしも彼女の見込み通りの才能を持った魔法使いだったようだ。

 この学校で出来た最初の友達、雪華ちゃんは果たしてどうだろうか。自分と合わない属性を選んでいなければ良いけど。

 ちなみに刻印とは、学問上の用語であって、実際に体に焼印を刻むとか、そういうことではない。わたしが悪魔に対して誓いの言葉を唱えたように、その属性の魔法を使うための呪文を唱え、それと同時に誓いを立てる作業になる。

 

「あー、美静ちゃん待っててくれたんだ。もう流れ解散だったのに」

 しばらく校門で待っていると、雪華ちゃんが嬉しそうな表情でやって来た。

「うん。ちょっと心配だったから。何の魔法を選んだの?」

「色々悩んだんだけど、やっぱり氷魔法になったよ。名前と関わりのある属性の方が上手く行くっていうし、私、魔力測定の時点で氷が良いって言われてたから」

「そうなの?魔力を測定した時点で適性ってわかるんだ」

「だって、エラーかと思えるような20なんて数値が出たんだもん。となると、魔力の消耗が激しいっていう、氷か雷が良いってことになるでしょ?それで、名前との相性的に氷が一番だ、って」

「それはすごいね……。わたしも、20なんて数値は出なかったな……」

「えっ、嘘。私、美静ちゃんにそんなトコで勝ってるなんて思わなかった」

「測定にすごく時間がかかっちゃったんだけど、結局12って。折角悪魔と契約したのに、案外平凡だよね……」

 実際はこの学校の合格基準値である7の時点ですごいことなんだけど、職業魔法使いともなれば、30以上は普通に出せるという。そう思えば、わたしの魔力も、それに残念ながら雪華ちゃんの魔力もまだまだだ。確かに、学生としては破格なんだけど。

「でも、そっか。氷魔法って、玲菜さんと同じだよね」

「そう!……私、玲菜さんに憧れてたの。だから、どうせなら氷魔法が良いな、って思ってたんだけど、途中から雷魔法にも憧れちゃってね……炎も良いな、って思ったけど」

 菖蒲さんと、那美子さんの影響だろうか?わたしは全然テレビや新聞を読んでいなかったので、恥ずかしながら二人の活躍を全然知らなかったけど、一般的には玲菜さんに次ぐ天才として知名度があったはずだ。

 それだけに、今回の菖蒲さんの殺害と、那美子さんの引退は大きな波紋を呼んだ。そして、それに関係のあるわたしの存在も人々に知られるようになった。実は、才能云々よりもそっちの方の理由の方で取材を受けたのかもしれない。

 逆にいえば、それだけ偉大な魔法使い二人にわたしは教えてもらえた。胸を張って、この学校で更に魔法を究めていけば良い。そう思う。

「じゃあ美静ちゃん。一緒に帰ろ?あ、お昼も途中で食べたいなー」

「うん、良いよ。わたし、良いお店を知ってるの」

 案内するのはもちろん、あの思い出の洋食屋さん。夏の間、那美子さんとしょっちゅう利用していたので、もうすっかり常連さんだ。それでもまだ飽きは来ないし、那美子さんにだけ微妙な接客態度を見せるウェイトレスさんも面白い。

「美静ちゃんおすすめのお店……どんな女子力溢れたお店なのかな…………」

「えっ。わたしのイメージって、そういうのなの?よくある感じの洋食のお店だよ」

「またまたー。美静ちゃんみたいな美少女が通うお店が普通な訳ないって!」

「び、美少女……」

 そんなことを言ったら、雪華ちゃんの方がわたしより奇麗だと思うんだけど、灯台もと暗し、自分のことには気付いていないのかもしれない。

 わたしのことを好きでいてくれるのは嬉しいし、可愛いと言われるのはちょっと恥ずかしいけど、嫌じゃない。雪華ちゃんがそう思って、そう言ってくれるならそれでも良いんだけどね。

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「この世の正と負は差し引きゼロ、そうして調和は取れてるってことか。にしてもなんでこう、去年も今年も、悪いことばっかり起きるんだ?」

「確かに、ここ最近は悲劇ばかりが起きている風に感じられます。菖蒲さんの死に追い打ちをかけるように、奴等が動き出すとは……」

「おい、藍川。あんたの弟だか妹だかが、美静と一緒に入学したんだよな?そいつに任せて良いのか」

 藍川――那美子の友人である魔法使い、藍川陽は人差し指を立てて思案顔になる。

「弟は、才能については申し分ない魔法使いであると、ぼくが保証します。しかし、何分彼も新米。万が一学校が襲われるようなことになり、教職員の助けなしに敵を弟が撃退出来るかは、微妙なところですね」

「別に、あんたの弟に全部任せるつもりじゃねーけどな……美静は絶対にそこ等のゴロツキ魔法使いには負けないし、あいつの性格を考えれば、能動的に戦おうとするだろ」

「そこまで、正義感のある方なのですか?」

「いや……あいつの原動力は、正義とはまた違うな。ある意味で自分勝手な、自分自身のためだ。それだけのためにあいつはいくらでも努力するし、きっと危険を顧みず戦いもする。自分の生活に立ち入り、それを荒らそうとする人間は、排除しに動くだろうな」

 その攻撃性を示すように指で銃を撃つような仕草をする。

「お話だけを聞いていると、危険な人みたいですね。まるでそう、穏やかな顔をして、心には悪魔か魔物かを飼っているような」

「そこまで危ない奴じゃねーよ。大事なトコでは、ネガると思うしな。でも、あたしが思う以上にあいつは大きく育った。お前の弟には悪いが、学年一、下手すりゃ学校一だと思うぜ」

「なるほど……まあ、弟もライバルがいた方が燃えるというものでしょう。あまりに実力差があると、逆に萎えてしまうでしょうが……」

 

 入学式のある今日、那美子もまたウェイト魔法学校に足を運んでいた。

 美静の出る入学式を見るためではなく、もっと事務的な手続きのために職員室に。そして、この街において「魔法警察」という役目を担う陽と偶然出会ったのだった。

 警察から聞く話など、良い話であるはずがない。それは、ある魔法犯罪者がこの街に現れ、どうやらこの学校を狙っているらしいという情報だ。

 ――魔法学校には、いくつもの高価で貴重な魔法の道具、資料が集められている。このウェイト魔法学校ほどの名門となれば、その量、価値は並大抵のものではなく、魔法使いであれば誰もが求めるほどのものだ。

 しかし、その多くは当然ながら持ち出し禁止であり、学校から外に運び出そうと思えばその手段は窃盗以外になくなる。そして今回、その犯罪者の一味は襲撃作戦を立てているという話だった。

「貴重品のある研究室、特別教室の類はお前等が警備するとして、一般教室と外が手薄になる訳だな……いっそ、そいつ等が捕まるまで休校にするって手もあるだろうが……」

「学校側は平常通りの授業をするつもり、という話です。高い月謝を払わせておいて、ロクに授業をしなかったとなると親がうるさいのでしょうね」

「で、怪我人が出たら裁判だなんだ言い出すんだろ?……あー、教師ってリアルに胃に穴が開きそうだな。やだやだ」

「校内は禁煙ですよ」

「そ、そうか」

 反射的にライターを取り出そうとしたところに制止の声がかかる。さすがに警察権を持つ人間は規則にうるさい。

「しかし、二人も悪魔契約をした魔法使いが出て来るなんてな。下手すりゃ、あたし等以上に混沌とした世代になるんじゃないか?」

「ぼくも、訳あって入試には立ち合っていましたが……正直なところ、異常ですよ。規格外の魔力を持つ生徒や、優秀な魔法使いの二世、無名でも才能に溢れる生徒がいたりと、大きな転機となる世代としか思えません。

 玲菜さんの没後一年、菖蒲さんの亡くなった年に新たな大魔法使いの卵達が現れるとは。それこそ、差し引きゼロの状態が保たれていることを実感しますよ」

「あたしからすりゃ、あんまり子ども等に背負わせたくないんだけどな」

「そうですね……。でも、彼女達は騒がれ、期待と呪詛を背負わせられることでしょう。ぼく達の場合、知らず知らずの内にそれを玲菜さんに押し付けてしまっていたのでしょうが」

「あいつはそれを嫌がりはしなかったけどな。ま、あたしが思うに、少なくとも美静はそのプレッシャーに押し潰されないと思うぜ。……あいつのマイペースさは並じゃねぇ」

「あなたに話を聞けば聞くほど、その人がわからなくなって行きますね……」

「それだけ、単純じゃない奴ってことだよ」

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 宙を舞う氷塊。コンクリートを突き破って生える岩石の茨。昼が反転した夜の世界に轟く雷鳴。そして、それ等全てを飲み込もうと放たれる閃光。直後のホワイトアウト。続くブラックアウト。

 光が全てを呑み、闇がそれを食らった。後に残るのは無音と無彩色の世界。

 行き過ぎた科学は魔法になる。では、本当に強力で、最も美しい魔法は?――行き着く先は芸術。

 科学が怠惰な人間と、住みにくい世界を作った結果、科学は排されて魔法が復活した。魔法は科学以上に不可思議だけど、科学ほど楽に使えるものではない。だから、苦労を知らない人間にほどほどの苦労と、それに見合う結果を与えることが出来た。

 でも、だからといって世界がより住みよく、人もまた善良になるかといえば、そうなるはずもない。魔法を悪用する人もいれば、魔法によって壊された自然もある。反転結界があるとしても、魔法が一度現実の世界で行使されれば、科学以上に自然は狂い、動植物の絶滅を生む。魔法を次世代の技術に選んだのは、正解だったのだろうか。

 入学して二日目、三年生によるオリエンテーション的な魔法の実演を見ていて、わたしはそんなことを考えていた。

 美しくも激しく、極彩色を見せながらも、退廃的な無色の景色を作り上げる魔法。光と闇の炸裂が見せた風景は、大昔のモノクロのサイレント映画のようだった。どこか切ない感動がある。

「やっぱり三年はすごいね……後二年で、私もあんなのになれるのかな」

「雪華ちゃんならきっと、なれるよ。先生に驚かれるぐらいの魔力を持っているんだから」

「うーん、でも、魔力の扱いってそう簡単じゃないんでしょ?私、自分の魔力を中途半端に使っちゃって、暴走しないかとかが心配で……」

「そうだね……でも、この学校の制服はかなり質の良い法衣って話だから、多少は大丈夫なんじゃないかな。それに、もし大変なことになりそうだったら、わたしが助けるよ。……数ヶ月の差だけど、魔法使いとして先輩だもんね」

「美静ちゃんっ……。う、うぅ、君はなんて天使なんだ……いや、あなたが聖女か。女神か。一生お仕えしますだー!」

「あ、あはは。ちょっと、きつい……」

 まだ反転世界の中なのに、むぎゅう、と抱きつかれてしまった。まるでそのまま潰されてしまいそうなぐらい強い力で、雪華ちゃんって見た目によらず怪力なんだというのがわかる。魔力もすごいみたいだけど、握力とかも測ったらすごそうだな……。

「ごめんごめん。なんというか、私、お姉ちゃんいるんだけどね。お姉ちゃんにまず抱きつき癖があって、私をしょっちゅう抱きしめるの。で、その復讐じゃないけど、私も人に抱きつくようになっちゃって……」

「お姉さんじゃなくて、他の人にするんだね……わたしは良いけど、だれかれ構わず抱きつかないようにしてね。嫌がるというか、怖がる人もいるだろうし」

「うんうん、美静ちゃんのお言葉とあらば、超絶気を付けるよ。それに私、抱きつくのが好きなんじゃなくて、高まっちゃうとついついやっちゃうだけだから、美静ちゃん以外の女の子とか、ましてや男には萌えないから、大丈夫!」

「そ、そうなんだ……」

 わたしがまず、菖蒲さんや那美子さんのことを知っていて、本当によかった。もしわたしが他の魔法使いのマニアックな萌えを知らなかったら、雪華ちゃんを受け入れられなかったかもしれない。わたしはかなりノーマルな方だと思うし。

 雪華ちゃんのテンションは、天然成分の薄まった菖蒲さんのようで、付き合いやすいというのもあるし、何とかなっていたかもしれないけど。

「でも、こうして見てると魔法の花形は炎とか雷って気がするよね。私も、美静ちゃんと被っちゃうけど雷がよかったかな」

「そうかな?……わたしは、氷や水、それから光のような柔軟で、奇麗な魔法もすごいと思う。雷を専門にしている身からすれば、どれもスピード感がなくて、大人し過ぎる気もするけどね」

「あはは、なるほど。じゃあ私はせっかちだし、明らかに静かな方じゃないけど、魔法ぐらいはクールな感じを気取ってみようかな。氷の壁を作って耐えて、隙を見つけて一気に攻める、みたいな」

 今の戦況が、正にそんな感じだった。強固な氷のバリケードが、相性の悪いはずである炎すらも遮り、雷の直撃を受けてもわずかに削れるだけで耐えてみせて、次の魔法を受けた時に遂に決壊したかのように見えて、放たれた剣のような鋭さを持った氷が、他の魔法使いの驚異となって豪雨のように降り注いだ。

 硬質であると同時に、脆いイメージを受ける氷魔法だけど、その性質は水と同じく流動的で、防御に回れば堅牢。攻勢に出れば攻撃的な魔法として名高い炎にも次ぐ激しさと、雷にも似た広域の制圧能力を持つ。究められた氷魔法は他のどんな魔法にも負けない最高水準の能力バランスを持ち、最強の魔法と呼ばれて然るべき性能を持っているといえる。

 その分、氷の魔法は水を操った上で、熱量、つまり炎と同じような力を操らないといけないので、その魔力の消費量は単純に二属性分で通常の二倍。ちなみに扱いが難しいせいで魔力を多く使うという雷属性は、二倍ではなく三倍も四倍も必要らしい。

 ……那美子さんが燃費が最悪だと言うのもよくわかる。けど、雷の魔法が使われているのは、やはりそのスピードと他の魔法との相性を考えた時の突破力が魅力的だからだ。電光石火の高速戦は他の魔法使いには真似出来ない。

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 やがてパフォーマンスが終わると、世界は緩やかに元に戻って行く。といっても屋内で灯りがあるので昼夜が反転しているような感覚はなかった。

「こういうのを見ちゃうと、やっぱりすぐにでも魔法が使いたくなるね。……あ、美静ちゃんはもうばんばん使っちゃってたか。ねぇ、もし良かったら今日学校終わってからにでも、ちょっと付き合ってもらって良いかな?」

「付き合うって、魔法の練習?」

「うん。中々本格的には魔法を使わせてもらえないみたいだし、ね?美静ちゃんが見ていてくれたら安心だし、私もすごく頑張れると思うの」

「わたし達だけで、魔法……事故があった時にわたし一人で何とか出来ると思えないし、那美子さんの都合が合うのなら、何とか出来ると思うよ。わたしもまだまだ未熟なんだから、二人きりで、なんて危険なことは出来ないよ」

 まだわたし自身が見たこともないので、魔法の暴発というものがどれだけ恐ろしいのか、いまいちイメージは掴めていない。でも、それで亡くなっている人がいるという事実があるのだから、決して楽観することも出来ない。わたしの軽率な判断で、大事な友達である雪華ちゃんを失う訳にはいかないから……わずらわしいかもしれないけど、わたしは素直に首を縦に振らなかった。

「そっか。でも、そうだよね。私、美静ちゃんとこれからも末永く仲良くしたいんだから、慎重に慎重にいかないと」

「あ、はは。わたしも、雪華ちゃんともっと一緒にいたいから、気を付けていこうね」

「……い、今の発言は、相思相愛であったと認識しても良いの?そうだよね。うん、そうなんだ。私と美静ちゃんは相思相愛。末永く、もういっそ、永遠に一緒に…………」

「ゆ、雪華ちゃん?」

 黙っていたら、こんなにも速く一人でどんどんすごい思考に至ってしまうなんて……。雪華ちゃん、間違いなく悪い子じゃないんだけど、この辺りは気を付けておかないと。とんでもない噂が立ってしまうかもしれない。しかも雪華ちゃんはそれを喜んでしまいそうだし。

「はっ、ごめんごめん。美静ちゃんは、そうだよね……高嶺の花だからこそ、ってところはあると思う。同い年なのに既にすごい魔法使いで、可愛くて、名立たる魔法使い達に教えてもらって。私とは違う、天才的で、だけど努力家で、しかも謙虚な天使のような存在、それが美静ちゃん。だから私は、あえてこう美静ちゃんのことを呼ぼう。美静ちゃんマジで天使、と」

「呼ばなくていいよっ。そんな、わたしなんて全然まだまだ、頑張っていかないといけないんだし、雪華ちゃんとそんなに実力の差なんてないよ。だから、一緒に頑張ろう?」

「美静ちゃん……あなたは本当に、本当に…………可愛いなあ!自然体でそんなに萌え生物として振る舞えるなんて、ある意味悪魔だよ!マジでデビルだよっ。ああもう、何この可愛い生き物はっ」

「あ、悪魔……」

 その気になれば、いつでもわたしの契約悪魔は呼べるけど、そういうことじゃないよね。

 いまいちわたしには、雪華ちゃんの言う「可愛い」の基準がわからないんだけど、今の場合、わたしが謙虚というか、健気だから琴線に触れた、という判断で良いのだろうか。

 ということは、雪華ちゃんの萌えを感じる「属性」とは健気な清純派の女の子。

 わたしって、清純派だったかな。自分の性格なんて自分じゃよくわからないし、家族が「あんたは清純で無垢よねぇ」なんて褒めるとは思えない。那美子さんにはよく真面目って言われて、菖蒲さんは……とにかく可愛いって言ってくれてたな。

 自分のキャラクターというものがいまいちわからないけど、それを意識し始めた瞬間、雪華ちゃんの感じる萌えポイントは嘘くさいものになってしまうかもしれない。今のままで良いか。雪華ちゃんを萌え狂わせてしまう元凶なのはちょっと複雑だけど。

「悪魔、小悪魔な美静ちゃん……じゅるっ。とと、失礼。思わず涎垂らすのと舌なめずりを同時にしちゃったけど、私は怖くないよー。本当だよー」

「それは良いけど、そろそろ教室に戻る時間みたいだよ」

「教室?そういえばクラス分けって、入学式の時に発表されなかったよね。どのタイミングで知らされるんだろ」

「体育館を出る時に……ほら、先生が配ってくれるみたい。もっと掲示板に名簿を貼り出すとか、ネットで見れるようにしたら良いのにね」

「そうだよねぇ。今時、こんな前時代的なことしてるなんて」

 もしかすると魔法学校には、意図的に科学を混在させることを避ける風潮があるのかもしれない。

 行き過ぎた科学が危険とされた今、パソコンのOSの開発は止まって、携帯電話はアプリの開発だけが一部の企業や個人によってのみされている現状。

 これ以上便利な機器が生まれることはなくても、現代人の必需品として携帯は小学生でも持ってるし、パソコンはどの家庭にもあるはず。なのにこの学校は、少々アナクロ過ぎる気がする。

 警報装置やスプリンクラーの類はあるけど(魔法学校ではしばしば火事が起こるのかもしれない)、それ以外にはおよそ機械類というものが見当たらない。廊下から見る限りだと職員室にパソコンがなかったし、学校なら普通はあるはずのコンピュータールームもない。

 機械には頼らず、魔法で全ての情報が管理されているのだろうか。図書館の本も、検索の魔法というもので簡単に書架から出し入れが出来ると聞くし、優秀な魔法使いが大勢いれば、人間は科学から完全に離れても生活が出来るのかもしれない。

「さて、美静ちゃんとは同じクラスかな……」

「一緒だと良いね。えーと、月山は――あ、あった。同じ二組だね」

「そ、そうだよね!これ、見間違いじゃないよね。やったー!これはもう、神が言っているんだね。私と美静ちゃんは、共に魔法使いの道を爆走して行く運命だと」

「爆走なんだ……。わたしはもうちょっと、マイペースで行きたいかな」

「もちろん、美静ちゃんに合わせるよっ。いやー、本当によかったよかった。遠距離も良いけど、やっぱり同じ教室で授業を受けているからこそ、燃えるものだよね」

 氷魔法を使うのに、燃えるのか……。なんて、どうでも良いことを思った。

 

 そして、この時わたしは、雪華ちゃんやよく見ると同じクラスになっていた空也君の名前を確認するばかりで、担任の先生の名前を確認していなかった。

 絶対にあるはずのないその名前に、疑問すら浮かべなかった。

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 初めの席順は、名前の順に“あ”から……なんてありきたりなことは、この学校にはなかった。

 使う魔法の属性ごとに整列されているのだから、これも魔法学校独特のことだ。属性を示すのによく使われる言葉である「地火水風」に光と闇を加えた「土、炎、水、氷、風、雷、光、闇」という順番が採用されていて、その中でさらに名前順が適用されているのだから、ちょっと覚えづらい。教室に八列も机は入らないから、厳密に列ごとに属性が分けられている訳じゃないけど、それぞれの属性を見かけるのには、箒に自分の属性を示すリボンなり、ペイントなりがされていて、それを見ればすぐにわかる。

 ちなみに色で属性を表す場合は「土が茶、炎が赤、水が青、氷が紫、風が緑、雷が黄色、光が白、闇が黒」となっている。これはまあ、ゲームなんかで見る属性のイメージカラーとほぼ同じ。氷は水色の方がらしい気もするけど、白色や青色とぱっと見て区別が付きにくいからだと思う。

 わたしのもらった箒、アイリス・ブーケはその名前の通り、紫色に染められたブラシ部分が特徴的な箒だけど、これではなんだか氷属性っぽくて紛らわしいかもしれない。職業魔法使いは自分の魔法の属性を明かしたりしないから、別にこれでも問題ないどころか、フェイントとして機能するんだろうけど、わたしはわかりやすいように柄全体に、福寿草の花のような黄色のリボンを巻き付けておいた。

「うぅ……同じクラスでも、席が離れてちゃねぇ……」

 必然的にわたしと雪華ちゃんの席は、風属性の列に隔てられてしまって、まるで織姫と彦星のような関係になった。でも、悲観するほど離れてはいないし、どうせ魔法学校の授業は実習が多いから、体育館やグラウンドに出ることになる。教室での順番はそこまで重要じゃないから、これぐらいで良いのかもしれない。

「全員揃ってるな。いや、あたしが担任であることに不満がある奴がいるなら、一生登校して来ないでもらっても良い。二日目にしてもう休む奴なんて、つまりはそういうことだろうからな」

 がらりと教室のドアが開いて入って来た人……つまりは、担任の先生。その人の容姿に、声に、その言動に、わたしは既視感があった。いや、既視感というより、進行形でわたしはその人のお世話になっている訳で、全ての要素を忘れる訳がない。

「このクラスの担任、日向那美子だ。今年度からの新任教師だが、この夏まで職業魔法使いをしていたから、そこ等の教師よりよっぽどマシな指導が出来ると思う。自己紹介的なことは以上。あんまこういう時に何話せば良いかわかんねーんだよ。後はほら、自己紹介とか委員決めとか、勝手に進めてくれ。こんだけ生徒がいれば、一人ぐらい仕切りたがりがいるだろ」

 前に立っている人は他でもない、那美子さん。ただ、わたしと二人でいる時より、適当さ加減に磨きがかかっている気がする……もしかして、那美子さんでも緊張しているのか。

 ……それにしても、プリントを確認してみると二組の担任は間違いなく那美子さんであり、いつの間にかに先生になっていたらしい。確かにそろそろ何か仕事を始めるようなことを匂わせていたけど、まさかの先生。しかもわたしの学校、わたしのクラスなんて。

 わたしは席を立って、教卓にぬべーっと伸びている那美子さんのところまで向かった。とりあえず、突っ込むべきことは突っ込んでおかないと。

「那美子さん……いいえ、先生。さすがにそのざっくばらんさは、問題じゃないですか……?」

「おお、よう美静。お前が仕切ってくれるなら、あたしも安心して任せられるってもんだ」

「確実に話聞いてませんよね!後、しれっとタバコ出そうとしないでください。校内は禁煙なんですから」

「ラムネだからセーフだ」

「授業中にお菓子を食べるのもアウトだと思いますけどね……。まあ、前に来ちゃいましたし、わたしが決めてしまいますね」

 煙の出る新商品らしいラムネを咥えた那美子さんは、窓のすぐ傍まで行ってから、白い煙をふぅーっと吐いた。他の先生に報告されたりしたら、一発アウト食らいそうなものだけど……実績のある那美子さんだし、許されるのかな。

「えっと、やっぱり自己紹介はしておきましょうか。では一番左前の方から、お願いします」

 それからクラスの総勢四十人の、大して変わり映えのしない挨拶が始まった。魔法学校だからもっと独特なものを期待していたけど、たまに自分の「属性」を公言する生徒がいるぐらいで、後は中学までと何ら変わらなかった。変わりがあるとすれば、一際元気の良い雪華ちゃんの自己紹介。

「月山雪華です!好きなものは美静ちゃん、好きな人は美静ちゃん、好きな萌え属性は美静ちゃんっ。とりあえず私は、美静ちゃん委員に立候補するね。美静ちゃんを困らせる人は、誰であれ粛清するからそういうことで」

 これにはさすがに、那美子さんも面倒臭そうに口を挟んだ。

「あー、月山」

「はいっ」

「良いな、その委員。美静はあたしと菖蒲の愛弟子だ。ちゃんと守ってやってくれよ」

「もちろんですっ。美静ちゃんは私のお嫁さんになるかもしれない女性ですから」

「おーおー、若いって良いな。いや、あたしも若いけど」

 反対意見が出ないことは、予測出来てた。だからずっこけたりはしないし、あえてノーコメント。

「次は……委員を決めないといけませんね。那美子さん、どんな委員があるんですか?」

「えーと、クラス委員、風紀委員、選挙委員、実技委員、美静委員を一人ずつ選出することになってるな。大体どんな仕事をするかイメージ出来ると思うが、選挙委員は生徒会選挙の時の雑務をすることになる。実技委員は魔法実技の時の雑用係だな。後、クラス委員はイコール生徒会員だから、よく考えて立候補しろよ」

 極ナチュラルにわたし委員が出来ちゃってるし、那美子さんってこういう悪ふざけにはノリノリなんだな……それはどうやら雪華ちゃんだから良いとして、他の役員はちゃんと決まるかな。こういうのって、中々立候補者が出なくて、適当に押し付け合いになる印象がどうも強い。

「それでは――実技委員に立候補される人はいますか?」

 まずは簡単に決まりそうなものから。皆も楽なものから決めたいだろうし。

 すると、一人の男子が静かに手を挙げた。箒のシンボルカラーは白。つまり光属性の魔法使いだ。

 光魔法とは、その響きから勝手に神様の奇跡を扱う魔法かな、というイメージを持つけど、実際はそれとは大違い。他の属性に対抗するため、相手の魔法の発動を妨害することや、無力化することに特化している。カードゲームなんかで使われる言葉を使えば、自分以外を「メタる」感じ。これといった個性はなく、別に闇魔法に強いという訳ではないけど、上手く扱えばかなり強い魔法とされている。

 そんな魔法を使う生徒は、大人しそうで勉強熱心そうな眼鏡の少年だった。

「他に立候補する人はいませんね?えっと、名前は……」

「大塚光です」

「はい、ありがとうございます」

 黒板に大塚、と書き付けて、次に決めるべき選挙委員へ。これも土魔法を使う真面目そうな女の子、石葉紗江さんに決まって、風紀委員。手を挙げたのは空也君で、それを見ると、慌てて雪華ちゃんも一際高く手を挙げた。……対抗意識を持ってたりするのかな。

「えーと、こういう時は話し合いで解決?それとも、カジュアルにじゃんけん?」

「そこの黒髪……えーと、雪華だっけ。お前は美静委員だから、兼任になるだろ。そっちの銀髪に決定な」

「は、はーい」

 大岡さんもびっくりな日向裁き。というか、本当に那美子さんは雪華ちゃんに美静委員なるものをさせるつもりなんだ。いまいちその仕事内容がわからないわたしには不安しかないけど……それじゃあ、最後にクラス委員か。決まらなそうだな……。

「ええ?私、兼任でもしっかりやりますよ!」

「お前、自分が軽々しく口にした美静委員の仕事を理解してないな?美静を守る委員ってことは、美静のために命も捨てる覚悟で美静のために働き、美静が行く場所にはどこへでもついて行くべきだろ。気分的にはSPみたいなもんだな。委員会に出たりしないといけない身分で、それは無理だろ。……それとも、そんなに過酷な委員はやりたくないか?」

「な、那美子さん……」

 変なところで真面目に怖い。それが那美子さんな気がする。

 さすがの雪華ちゃんも、ここまで脅すように言われてしまうと、半泣きになっていてもおかしくない……。

「いいえ……そうですよね。さすが先生、美静ちゃんを教えた人だけはあります!私、粉骨砕身の覚悟で美静ちゃん委員をやり遂げますね」

「おう、それで良い。ということで、クラス委員は美静に決定な。はい、拍手ー」

 どっと起こる拍手の音……って!

「なんで自然な流れでわたしがクラス委員にされてるんですか!?」

「おいおい、あたしのクラスで疑問を軽々しく口にして良いのは、出来の悪い生徒だけだぜ。ま、答えてやるけど、大体クラス委員なんてのは、クラスで一番成績が良くて、かつ真面目な奴がするもんって相場が決まってるんだ。お前は正にそうだろ。ま、菖蒲は真面目ぶってやってたけどな」

「……菖蒲さんも、クラス委員だったんですか」

 そう言われてしまうと、なんだか断りづらくなってしまう。……まだまだわたしは、菖蒲さんの影を追い続けているんだろうな。

「単純な成績では玲菜が一番優秀だったけど、あいつは問題児中の問題児だったからな。仕方なく二位の菖蒲がやったんだ」

「玲菜さんって、学生時代はそんな……?」

「いや、あいつは社会出てからも。って、そんなのはどうでも良いんだ。これで最初にクラスですべきことは終わったな。やっとまとまったから、一応ちゃんとあたしも自己紹介しておく。

 知ってると思うけど、あたしは十八から職業魔法使いとして、玲菜、菖蒲と同時期に活動してた。もう二人とも死んで、あたしもなんか疲れたから、美静を鍛えるために辞めたけどな。でも、この学校の生徒は多くが職業魔法使いを目指しているだろうし、その先輩として、その実態や実体験の話を交えながら、あたしにしか出来ない授業をしていければ、と思ってる。まあ、教育者として褒められた人間とは自分を思えないし、でかいこと考えてても、実力が追い付かないかもしれないけどな。もし無理そうなら一年だけの付き合いだ。せめてこの一年はよろしく頼む」

 那美子さんの言葉は、意外なほどに真面目で、いつもの自信満々で強引な彼女とは明らかに様子が違っていて……彼女の本心とは、こういったものなのかもしれないと思った。

 でも、やっぱり那美子さんは最初、緊張していたんだな。那美子さんも人並みに不安で、落ち着かなくて、わたしと同じような心配をしていたんだろう。やっぱり、いきなり違う環境に放り込まれるのはすごく怖いことだ。

「じゃあ、もう今日はこれで解散な。明日明後日、土日を跨いで月曜から本格的に授業が始まるから、遅刻欠席はないように。もしそれまでに魔法を試したかったら、教職員か美静を頼ってくれ。休日でも都合が合えば、あたしも、他の先生も結界を用意してくれるだろ。――まあ、そんなことしなくてイヤってほど魔法は使えるんだけどな。くくっ」

 め、目が怖い……わたしを徹底的にしごいていた時と同じ目だ……。

 けど、この分なら雪華ちゃんの魔法を使ってみたいという願いも簡単に叶いそうだな。

「那美子さん。いきなりですけど、雪華ちゃんが魔法を使ってみたいって言ってたんですけど、もういきなり良いですか?」

 まだ生徒の多くは教室にいるけど、そのままわたしは那美子さんに声をかけた。散々一緒にいたんだから遠慮もないし、元々気さくな人から話しやすい。先生という立場になった今でも、きっとそのことを意識することは少ないだろう。

「ああ。すげー積極的な子だな。さすが、お前の彼女ってとこか」

「変なこと言わないでくださいよ……否定出来ないんですから。――雪華ちゃん。那美子さん、良いって」

 雪華ちゃんがわたしの彼女というより、立場的にはわたしが雪華ちゃんの彼女……って、真面目な考察はいいや。少し大きな声で呼ぶと、雪華ちゃんは目を輝かせてやって来た。

「本当ですか?ありがとうございます。先生」

「そんな長い時間は付き合えないけど、三十分も試せば十分だろ?じゃあほら、箒を手に持て。反転結界の作り方はもう見ただろ?箒を交わして、誓いの言葉を唱えるんだ」

「は、はい。うー、緊張するなぁ」

「雪華ちゃん、頑張って。わたしはすっかり慣れっこだし、すぐに怖くなくなるよ」

 他のどんな人の応援より、雪華ちゃんにとってはわたしの言葉が響いたみたいで、みるみる内に笑顔になってくれた。適材適所。わたしはこうやって雪華ちゃんをサポートする。それで間違ってない、よね。

「じゃあ――」

 

 

『大切な人を守る盾を。そして、理不尽を砕く剣を!』

 

『煉獄の果てに救いを!』

 

 

 雪華ちゃんの氷魔法を象徴したような少し長い誓いと共に、もう一つの反転した世界が姿を見せ始めた。

 今は十一時くらい。それが反転して、夜中の闇が教室を包んで行く。電気は点いたままになっているけど、窓からは月明かりが入り込んで幻想的な照明効果がある。

 那美子さんが予め弾いたのか、わたしと雪華ちゃん以外の生徒の姿は結界の中になかった。

「本当に出来た……」

「あたしが八割サポートしてやってるからな。これで反転結界すら作れなかったら、そいつは半年で学校を去ってもらう必要があるぜ」

「で、ですよねー」

「よし、じゃあ美静。お前が魔法を受けてやってくれ。氷は基本的に物理の魔法で打撃に弱い、どうやって相殺するかわかるよな?」

「はい……こうですよね」

 氷の魔法を受ける。そのために必要な装備を頭の中で思い描いて、それを具現化させる。「装備作成」も魔法の大事な要素の一つで、単純な魔法攻撃や魔法障壁の形成、雷魔法が得意とする飛行強化とはかなり違った方面の魔力の使い方をする。

 具体的には、魔力を目に見える、手に取れる形に成形するというもの。更に簡単に説明すれば、魔法を使った剣や盾の作成。ここで作られる盾とは、魔法を受け止める障壁とは質が異なり、石が飛んでくるとか、相手が箒に乗って突っ込んでくるとか、物理的な攻撃を遮断するものになる。剣などといった武器も同様で、物理的な攻撃を受け止めたり、形を持った飛び道具を破壊したり出来る。

 反転結界は物理的な衝撃も勝手に魔力的なダメージに変換して、それを法衣が受け止めてくれるという仕組みになっているけど、防御魔法の方はそうもいかない。飛んでくるツララを、雷の網は通してしまう。そういったものを防ぐには、強固な盾を作成するのが一番だ。

 ――とはいえ、残念ながら雷魔法は装備作成において、魔法自体の持つ攻撃性の高さから武器しかまともに作ることが出来ない。盾を作っても籠手のように小さなものだったり、メリケンサックのような武器の性質をどうしても持ってしまう。だからわたしは、箒とほとんど同じ長さ。身長とほとんど変わらない長さの槍を作り出した。

 雷の武器というと、トールのミョルニルのイメージからか、ハンマーや斧といった武骨な武器を連想されがちだけど、魔法は自身の想像力の世界。わたしが槍を作りたいと思えば、見事な槍を形作ることが出来る。おおよその形の指定は、わたしが今まで読んで来たライトノベルやゲームの記憶が手助けしてくれて、かなり立派で刃は幅広な槍がわたしの手の中に現れた。

「上等だ。丸裸にされたくなかったら、しっかりそれで防げよ」

「え、ええ」

「はっ、裸!?美静ちゃんの、裸!?」

「ああ。美静を丸裸にした暁には、何しても良いぜ。あたしが許可してやる」

「ありがとうございます!」

「そういう変なこと、勝手に決めないでもらえますかねぇ!本人に許可を取るべきでしょう、常識的に考えて……許可絶対に出しませんけど」

 那美子さんと長くいて、この人の対処法はわかって来ていた。この人の前ではとにかく、声を出さないといけない。黙っていたら話が急転直下の展開を迎えるし、小さな声で抗議したところで押し流されてしまう。わたしにはあまり得意じゃないことだけど、どんどん前に出ていかないと。

「はは、でもほら、実際魔法を当てれば法衣は破けるんだぜ?野球拳する勢いでしっかりやってみろよ、雪華」

「ですね……美静ちゃんをひん剥くためにも、全力でやりましょう!」

「おし、やれ。そして欲望のままに破り尽くせ!」

「……はぁ。やる気を奮い起こさせるには、一番有効なんだろうけど……なんか、恥ずかしいですよ」

 雪華ちゃんは初めて魔法を使った時のわたしと同じように、箒を構えて思うがままに魔法を発動させた。こうして行使される魔法こそが、その人の基本となる魔法……どんなものなのか、純粋に興味がある。友達としても、魔法使いの端くれとしても。

「こ、こんな感じで良いのかな。えいっ」

 箒を軽く振るうと同時に、放たれたものは――ない。代わりに、箒の柄の先端部にはまるでライフルに装着する銃剣のように、ナイフ状の氷の刃が現れた。

「あれ?と、飛んだりはしないの?」

「へぇ……こりゃまた、変り種の登場だな。洗礼型でこういう魔法の使い手が現れることは少ないんだが、今年はやっぱり激動の年らしい。それは、自分で飛べと命じれば飛んでいくし、そのまま近接武器として使うことも出来る。普通の魔法を車でいうオートマチックとたとえるなら、そいつはマニュアル操作。いちいち自分で命令して制御しないといけないが、それだけ多様な使い方が出来るってやつだな」

「ええ……?」

 那美子さんが珍しいというぐらいなのだから、当然わたしこんな魔法を見たことはない。見た目的には、武器作成の魔法と似ているけども、どうやらそういう訳でもなさそうだ。

「とりあえず、まっすぐ飛べって命じてみろ。どれぐらいの速さが出るかわからないから、空に向けてからな」

「あ、はい……真上じゃなくて、ちょっと前に向けた方が良いですよね?」

「お前の魔力なら、落ちてくるまで氷が残り続けて、頭にぶっ刺さりかねないからな。そうしてくれ」

「は、はーい」

 まるで銃を扱うように箒の先を空に向けて、氷の刃が射出された。それは本当の銃弾か徹甲弾のように高速で宙を切り裂いていって、教室の壁も貫通して……どこまで進んだのか、それすらわからないところに消えていった。

「あー、ありゃ結界の端にぶち当たっただろうな。ほとんど失速もなかっただろうし、やっぱり氷魔法を使いたがるような奴は天才ばっかりか。称賛と愛をこめて、こう呼んでやるよ。この魔力バカが。職業魔法使い以外になったら、世界にとっての損失だぞ、お前」

「そ、そんなに……?」

「そんなにだ。美静に雪華、最近じゃ氷魔法と雷魔法の使い手がセットで台頭して来るのが流行りなのかもな。……こいつぁまた、育てがいがありそうだ」

「あはは、お手柔らかにお願いします。私ほら、美静ちゃん委員ですし」

「おいおい、とりあえずの美静の特訓は終わったけど、まだ美静も危なっかしいんだからな?お前等セットで、暇な放課後は特訓だ。二人がかりで良いから、あたしに百パー勝てるようになるまでやらせるからな」

「那美子さん……それ、三年間で達成出来るんですか?」

「達成してもらわないと困る。言っとくけど、あたしなんかにはタイマンで勝てても普通なんだぞ?それを二人がかりで良いって譲歩してるんだから、一年か二年の内にやってくれ。そうじゃないと、あたしがいよいよもって教え方悪いみたいじゃねーか」

「そんなことはないと思いますけど……」

「言葉じゃなく、行動で証明してくれってことだよ。魔法使いの世界なんて、実績だけが全てなんだからな」

 今のままだと、とても出来ないと思うけど、とりあえずわたし達の最終目標は那美子さんに勝つことになってしまったらしい。

 まだまだ今のわたしには、菖蒲さんにあったような軽やかな「速さ」も、いきなり攻勢に転じるような激しさ、勇猛さもない。それを身に付けてこそ、一人前の雷魔法使い、そう呼ばれるようになれるのだろう。

 そんな風に考えて、わたしはいつか超えるべき相手に向かい合った。

「――とりあえず那美子さん。わたしと一戦交えてもらって、良いですか?」

「おっ、威勢が良いな。そういうことならあたしも、今の実力の差を徹底的に……と行きたいとこだけど、この反転世界はあたしと雪華の作ったもんだからな。お前が戦うことは許されない。まあ、ここが学校じゃないなら、そんなの気にしないけどな。一応、教師としてその辺りの規則は守っておくよ」

「あ……そうですよね。ごめんなさい」

「謝るほどのことじゃないけどな。一応、先生らしく注意なるものをしてみたってとこだ。――そんじゃ雪華、お前の魔法をもうちょっと試してみたい。そうだな、次は氷塊をイメージしてみてくれ。大きさはなんでも良い。それを一つ、美静に飛ばしてみろ」

 反転結界の中での決闘は、誓いを言い合ってその結果を作った張本人達でしないといけない、というルールがあった。今まではわたしと那美子さんでばかり結界を作っていたから良かったけど、今回は雪華ちゃんが作ったんだから、わたしは部外者。そうだった。

 けど、魔法を受ける役を引き受ける分には問題がないのだろう。改めて槍を構えて、雪華ちゃんの魔法を待つ。

「氷塊、氷塊……ロックアイスの大きいのみたいな感じ……こうかなっ?」

 わたしと雪華ちゃんの距離は、二メートルほど。箒を自由に乗り回す魔法使い的には至近距離も良いところだけど、動かないで魔法を受ける分には適性の距離といえる。それなのに、一辺が一六十センチほどの氷の塊が作られている間中、冷凍庫を開けた時のような冷気が感じられた。

「かなり大きな氷の塊……この槍一本で捌ききれるかな」

 もちろん、いくら魔法といっても大きなものを動かすのには大きな力が必要であって、さっきみたいな速度で氷塊が迫ってくる訳がない。でも、どの程度の勢いで飛んでくるかは未知数。槍で払いのけきれる力ではないだろうから、突き出すと同時に雷を放って砕いて……破片が危ないかもしれないから、そこから払いに繋げる。――こんな動きのシミュレートをしているなんて、魔法使いというより槍使いみたいだ。

「美静ちゃん、撃って大丈夫?」

「タイミング教えなくて良いぞ?その方が楽しいだろうし」

「楽しいって……。まあ、それで良いですけどね。実戦で相手がわざわざ宣言してから攻撃する訳ないんですから」

 槍を構え直すと同時に、宙に浮いていた氷塊は狙いを定めたように動き出した。初めてということもあって、速度はさっきに比べるとだいぶ遅い。でも、人間が走る程度には速い……射程に捉えたと思った次の瞬間に槍を突き出し、即座に雷撃を放って想定通りに氷を砕く。舞い散る破片は横薙ぎの一撃で吹き飛ばして、再び槍を中段に構え直す。

「お、おー……」

「なに感心してんだ。お前は美静を脱がすって野望があったんじゃないのか?」

「そうでしたー!ククク、今のは私の魔法の中でも最も最弱……第二第三の魔法が美静ちゃんを赤裸々にしちゃうのだ!」

「あはは……頑張ってね」

 一応、わたしの危機は続いているのか。でも残念ながら、雪華ちゃんが今作れる氷はどれも脆くて、槍先で突くだけで砕くことが出来るものばかりだと思う。正直、さっきのあれだけ大きな氷塊も、わざわざ魔法を使うまでもなく、砕ききることが出来た。

 既に持っている魔力は強大でも、それをきちんと出力することが出来ないのだろう。わたしも以前はそうだったし、今日初めて魔法を使ったのだからそれも当たり前だ。問題はこれから、どれだけ雪華ちゃんが氷魔法を使いこなせるか。

「次は……お前でも、床を凍らせることは出来るか?一応結界に近い魔法だし、出来なくても構わない。ただ、もしかすると、って考えがあるんだ」

「床が凍る……路面氷結のイメージかな……」

「出来るなら、ツララが床から生えてるようなのを頼む。攻撃性があるような感じの凍らせ方だな」

「床からツララ、それなら結構簡単に考えられますね。こう、剣山みたいな感じで……」

 想像を口にすることで、雪華ちゃんの中で確かなイメージが出来上がって来て、それを受けた魔力が彼女の願いを叶えようと動き出したのだろう。冷たい風が吹き、木で出来た教室の床が凍って行く。霜柱よりも鋭く、確かな形を持ったツララが無数に作られ、雪華ちゃんの周囲一メートルほどの範囲は本当に剣山のようになった。

「よし、上出来だ。とりあえず、そのツララを上に飛ばすように命じてみてくれ。変な話と思うが、飛ばすんだぜ」

「完全に地面に生えちゃってる感じだけど、飛ばせる……かな?とりあえず、えいっ」

 軽く箒を振ると、床に根付くように生えていたツララ達が、まるで対空ミサイルのような勢いで次々と空へと飛んで行き、教室の天井に突き刺さっていった。今度は突き破って飛ぶようなことはなかったけど、速さは最初のように凄まじいものだった。やっぱり、小さい氷を飛ばすのは造作もないことなのだろう。

「なるほどな……雪華、お前の魔法はアレだ。ただの魔法というより、『人形術』の方に近いみたいだな」

「人形術?えっ、もしかして私って、魔法の才能がない、みたいな?」

「いやいや、それも魔法には違いないぜ?尤も、あたしも全然詳しくはないんだけど、人形術ってのは命ないものを操る力、みたいな感じだ。つまりお前は、操る対象である『人形』を氷という形で自分で用意して、それを飛ばしている。だから普通の魔法じゃ飛ばせないような、床に生えたツララも飛ばすことが出来るんだろうな。よし、もう一つ実験をしてみよう」

 那美子さんは出来るだけ平静を装っているみたいだけど、どうも感動……いや、興奮しているみたいだ。それだけ雪華ちゃんの魔法は珍しくて、学術的価値があるのだと思う。

 わたしも、悪魔契約よりもっと珍しいであろう「人形術」というものには興味があるし、雪華ちゃんもまた人と少し違う魔法を使うということに、奇妙な親近感を覚えていた。

「よっ、と。炎と氷は相性が悪いが、あえて苦手属性で試すってのも面白いな。雪華、これに念じて、浮かせてみろ」

 いつの間にかに那美子さんは自分で作ったのだろう、長剣を片手に持っていた。結構な重量があるそれを床に突き刺して、後は雪華ちゃんに任せたとばかりに後ろに下がる。

「これに直接、ですか?」

「まずはな。多分、無理だろうけど」

「うっ、そう言われると、意地でも浮かせたくなりますね……」

 結構、雪華ちゃんも乗せられやすい方なのだろうか。必死に念を送るように剣を見つめるけど、全く動く様子もない。自分で作っていない物は動かすことが出来ない、ということなのかもしれない。

「次は、その剣を凍らせてみろ。で、その上で浮かせる。これは出来ると思うんだけどな」

「凍らせて、浮かせる……」

 こっちは簡単で、一瞬の内に剣を氷漬けにしてしまう。そして、宙に浮かばせる工程。これは……。

「すごいっ、簡単に浮いた!でも、なんで……?」

「お前がこの剣を凍らせたことで、所有が移った、ってことだろうな。かつての人形術の使い手はあらゆる物体を操ったらしいが、お前はそれと魔法のハイブリッド型。操る対象を魔法で自作出来るが、逆に自分の作った物以外は一度魔法をかけないといけないらしい」

「えーと……つまり?」

「ざっくり言えば、凍らせた物はなんでも操れるってことだ。で、もちろん自分の作った氷も操れる。ちょっと他にはない、かなり特別な魔法だっていう自覚は持っておけよ。このことが知られれば、お前も有名人になるだろうしな」

「そ、そこまですごいんですか……」

「すごいかどうかはともかく、珍しいからな。話題性と注目性は間違いなくある。そっから、ただ珍しいだけで終わるか、珍しくて優秀と認識されるようになるかはお前次第だ。お前の魔力なら放っておいても大物になるだろうけど、あたしが嫌でも立派に育ててやるからその辺りは心配するな」

「そんなスパルタだと、むしろ私がついて行けるか、心配ですけど……美静ちゃんとなら、頑張れると思いますっ」

 かつてのわたしと同じ心配をしていて、それがなんだか面白い。でも、雪華ちゃんも注目される存在か……那美子さんじゃないけど、わたし自身、まるで菖蒲さんと玲菜さんの再来のように思えて来てしまった。

 わたし達は本当に、新世代の魔法使いとして、世間の注目と期待を背負うようになるのだろうか?

 目立つのは出来れば避けたいわたしだけど、菖蒲さんに授けてもらえた魔法を世間に見てもらうことは、きっと彼女への恩返しになる。菖蒲さんの遺志を継ぐなんて大それたことは言わないけど、自分の夢を追って、その結果として自分は菖蒲さんに悪魔契約を教えてもらい、那美子さんに鍛えられた育ったんだと、胸を張って言いたい。

 自分の魔法にまだ戸惑いがある様子の雪華ちゃんを見ながら、そう思った。

-7ページ-

「うぅ……折角の美静ちゃんとのホリデーがお釈迦にっ」

「あはは、お疲れ様。でも、たった二日ですごい上達だったよ?雪華ちゃん、わたしより物覚えが良いし、思い切りもすごいから、油断してるとすぐに追い付かれちゃうね」

「そ、そんなことないよっ。私の方こそ、美静ちゃんの魔法をすぐ傍で見ていて、改めて実力の差がわかった感じ。本当にすごくて、圧倒されちゃって……」

 土曜日曜と、どちらも午後からは那美子さんの予定が空いていたので、その時間を使ってわたし達は魔法の特訓を受けた。

 二日とも一時から五時まで、間に数十分の休憩しか挟まないしごきを初めて経験する雪華ちゃんは満身創痍。目からはどことなく生気が抜けた感じがして、足取りもおぼつかない。かつてのわたしも、こうだったっけ。

「でも、まだまだ那美子さんには届かなかったね。機動力では翻弄することすら出来てた。けど、炎魔法とぶつかり合うには、まだ圧倒的に突破力と、瞬発力が足りてない……。どちらも雷魔法には大事な要素だし、弱点を浮き彫りに出来ただけでも、意味がある手合わせただったけどね」

 那美子さんとの一対一の戦いは、今日こそ叶った。わたしが今使える限りの最高の魔法を使って、正しく全力を出し切って、でもやっぱり、電撃を掠らせることすら出来なかった。これが今のわたしの限界なのだろう。

 後は、明らかになった課題を、確実に出来るだけ早急に達成する。そうして魔法使いとしてのランクを上げて、また再挑戦をする……今後の指針が見えて来た。

 学校でも先生をしているのに、個人的な師匠もしてもらって、那美子さんには本当にお世話になりっぱなしで申し訳ない。でも、今更遠慮をし合う仲でもないのだから、こうなったらとことんお世話になろうと思う。気を遣われているなんて知られたら、那美子さんは逆に怒り出しかねないと思うし。

「それにしても、すごいよね。事情があったとはいえ、ついこの間まで第一線で活躍していた魔法使いに教えてもらえるなんて。しかも美静ちゃんは、個人的な知り合いでもあったんだから」

「うん……なんで他の誰かじゃなくて、わたしなんだろう、って思ってた。けど、きっとこれも必然だったんだよね。自分の才能を見出されて、学校に入学して、こうして雪華ちゃんに出会って……ここまでが全て、なるべくしてなったこと。最近わたしはそう思えるんだ。前までは結構、運命論なんて信じてなかったんだけど、魔法使いの世界に染まったということなのかな」

 もうきっと、今のわたしと、魔法使いになる前のわたしとでは、どんな場合でも感じ方は異なっていると思う。運命を信じなかった自分。夢を持ちながらも、自分が特別な人間ではないと信じて疑わなかった自分。そして、夢破れて逃げ出して、時間の止まった日常を望んだ自分。

 あの時と今では、目に映る景色だって大きく違う。夕日はこんな風に美しく輝いていなかったし、黄昏の街に伸びる影は不気味なものでしかなかった。――今は違う。二つの長い影法師は、わたしと、わたしの魔法使い友達のもの。ぴったりとくっ付いて動くそれは、友情の証でこそあれ、恐ろしげな魔物では決してない。

「この後、雪華ちゃんはどうするの?」

「んーと……まだ五時過ぎだし、ご飯には早いもんね。私は実家住みだから、七時に帰れば夜ご飯は普通に食べれる訳だし……」

「那美子さんも、友達に会いに行く用があるっていうし、なんか中途半端に時間が出来ちゃったね。もしよければ、一緒に本屋さんでも覗かない?まだ新刊は出てないと思うけど、ぶらぶら見て回ろうよ」

「にゃっ!?」

「ね、猫さん?」

「にゃんということかっ。それはつまり、美静ちゃんからのデートのお誘いかっ。もちろん、行きます!行かせてもらいますっ」

「え、えー……」

 本屋デートなんて、あるものなのかな……いや、萌えが魔力の源である魔法使い的には、それも十分ありなのかもしれないけど、わたしは女で、雪華ちゃんも女だし。

 いや、この際かなり譲歩して、わたしもいい加減その辺りを認めたとしよう。雪華ちゃんがわたしみたいな女の子が好きで、雑誌で見たわたしに……惚れて、しまった。うん、この事実を受け入れた上で、改めてこれがデートかどうかを考えてみる。

 デートとは、わたしが知る限りであれば、付き合っている人同士が買い物に行ったり、食事に行ったりして、その親交を深めること。本屋という、およそじっくりと話すには向かない場所だけど、買い物に行くという点では正しい。萌えを語る中で、親交も深まるかもしれない。

 ………………。

 うん、これはデートだよ。雪華ちゃん。

「これが、わたしの限界か……」

 なんとか否定したかったのに、よく考えてみたら、正しい気がして来てしまった。自分の中に、もっと確固とした否定する意思があれば、その事実をはね退けることも出来たかもしれないのに……那美子さんや雪華ちゃんの押しの強さが羨ましい。

「この辺りで本屋さんっていえば、あっちの青い看板のトコだよね」

「うん。雪華ちゃんもよく行くの?」

「そうだねー……そこそこかな。私、どちらかというとゲームとかアニメの方が好きだから。もちろん、CDとかDVDを買ったりするけど、レンタルビデオ屋の方がよくお世話になってるんだ」

「アニメか……ねぇ雪華ちゃん、アニメっていえば、今やってる……!」

 きっと、神泉の伝説の素晴らしさを雪華ちゃんも理解してくれている。そう信じて、わたしは切り出した。同志が発見出来ることを願って。

「もしかして、『ナイレギ』?最高だよね!」

「えっ……?わたし、『神泉の伝説』って言おうとしたんだけど……」

「ああー、『ナインスレギオン』じゃないんだ……。あれ、ゲームが原作だったんだけど、昨今まれに見るバトルものの大作だと思うんだよね。この辺だと、裏にこりゃまた強烈な『儚き空に朱は溶けて』があったから、いまいち注目されてないんだけど」

「ごめん、夏は色々と大変で、全然アニメ見れなかったから……。でも、漫画やラノベになってるなら、読んでみたいな。雪華ちゃんの好きな作品」

「それなら、人気の漫画家さんがコミカライズしてるから、是非読んで欲しいな。私も、なんとなく手を出してなかったけど、その『神泉の伝説』、読んでみるね。……えへへ、美静ちゃんと一緒ー」

 残念ながら雪華ちゃんも同じ作品が好きだった訳じゃないけど、自分の好きな作品に興味を持ってもらえるのなら、言ってみた甲斐があった。やっぱり、なんでも思ったことは口に出してみるべきだ。それが他の人にも素敵な出会いを提供出来るのだから。

 そんな満足感に包まれながら、ゆっくりとわたし達が言うところの「本屋さん」。サブカル書籍の専門店へとゆっくり歩いて行った。

 店内に入って、一番に目に付くのは現在アニメが放送されている作品の原作達のコーナー。もうすぐ夏アニメは終わるから、秋からの新番も混在していて、中々華やかなワゴンになっている。

「あ、これが『ナインスレギオン』か……。この漫画家さん、わたしも知ってるな」

「うん、夕木流さん。私はキャラデザが山嶋未央さん担当って知ったからこの原作ゲームをやったんだけど、漫画の夕木さんの絵柄にもすごく合ってる世界観なんだよね。夕木さんのオリジナル作品が現代ものだっただけに、騎士と魔法使いの作品というのも斬新な感じがしてすごく良いんだよ」

「色遣いがすごく奇麗だね……。わたし、激しいバトルものって苦手だけど、この人の作画なら楽しく読めそう」

「是非、読んでみてっ。で、これが『神泉の伝説』だね。うーん……表紙のキャラから香る、この絶妙な美静ちゃんっぽい匂いはっ……」

「あ、ばれちゃった?わたし、黒髪のヒロインが大好きで、特に貧乳の子には目がないの。染めてた髪を戻したのも、このキャラが原因だったり」

 隠していても仕方がないことだし、雪華ちゃんはオープン過ぎるほどに自分の属性を曝け出しているから、別に大丈夫。……そう信じていたんだけど。

「黒髪、貧乳……はっ、これは愛の告白!?」

「違うよっ。というか、雪華ちゃんが貧乳なんてことになったら、わたしはどうなるのって話だよ」

「実は男の娘だったり?」

「しません!」

 もし本当にそうであれば、ある意味で幸せ……じゃないな、うん。わたしは女の子である自分にすごく満足してるし――って、願っても性別を変えられる訳がないんだから、どうでも良い話か。

 それにしても雪華ちゃん、わたしが男なら、堂々と付き合えるとか、そういう魂胆なのかな。雪華ちゃんなら、女の子同士でいちゃいちゃするのも気にしないだろうけど。

「冗談はいいとして……美静ちゃんがおすすめするなら、喜んで全巻買いをしちゃおうっ。なに、文庫本七冊買うぐらいの出費、痛くもかゆくもないぜよ」

「大丈夫なの?やっぱり好き嫌いはあると思うし、まずは一冊だけ買って様子見した方が……」

「いやいや、美静ちゃんが好むものを好めなくて、何が美静ちゃん萌えか!仮に趣味が合わなかったとしても、それを合わせて行くのが萌え道の真髄だよっ」

「そ、そういうものなんだ……」

 中々に奥深いかもしれない。萌えの道というものは。

 そういえば、好きな有名人やキャラクターに影響されて、その趣味や服装を真似る反応のことを心理学で同一化かといった気がする。わたしが黒髪に戻したのも、思えば同一化だな……知らず知らずの内に、人として当然の反応をしていてしまったのか。

「新番はどう?何か気になる作品はあるかな」

「えーと……なっ、黒髪成分がここまで欠如した季節があるなんて」

 最も尊く、最も王道であるヒロイン属性、黒髪。物語のヒロインを描こうと思えば、筆頭候補として黒髪を伸ばした女の子が挙がり、たとえ西洋的な金髪ヒロインの作品であっても、黒髪のキャラクターは東洋から来た神秘的なサブヒロインとして活躍して良いものだ。実際、雪華ちゃんおすすめの「ナイレギ」にはきちんと東洋人のキャラクターもいた。それなのに……嘆かわしいほど今度のアニメヒロインには黒髪の子が少ない。

 表紙を飾るヒロイン達は、茶髪、金髪、ピンク髪……しかももれなく巨乳。明らかに扱いの小さそうなキャラクターには、黒髪の姿も見える。けど、それだけだ。スタッフロールで六番目か七番目のキャラなんて、本編中で強烈な名言を残すか、キャラソンが出た時にそれがよほどの電波曲でなければ、視聴者の印象には残らない……そんな不遇なポジションに黒髪っ子が追いやられているこの事実。

 リアルの女性の黒髪離れの影響がここまで来たか、と未来を憂わざるを得ない。やっぱりわたしは、「神泉の伝説」を生涯の愛読本として、泉水ちゃん(ヒロインの名前)だけを愛し続けるしかない、のか。いや、それを悲しく思ったりはしない。だって泉水ちゃんは、わたしのために生まれたとすら思える至高のキャラクターなのだから。

「美静ちゃん?」

「未来が見えない……けど、わたしは過去の思い出の中で生き続けるよ。幸い、『神泉の伝説』はまだ終わっていない作品だし……」

 ここは屋内で、天井があって見えないのに空を仰ぎ見るように上を見て、ふと柱の広告が目に留まった。そこには、正に今話題にしているライトノベルのタイトルがあって……。

 

『君苑将也の大人気ライトノベル神泉の伝説、来月遂に感動の最終巻発売!!』

 

 八巻で完結、か。確かにそろそろ終わりっぽい雰囲気はしたけど、もう終わり……い、いや、わたしは早めに終わってくれた方が良いと思う。長く続いてしまうと、友達に「これ、全二十五巻なんだけど、面白いよ」なんて軽々しくすすめられないし、君苑先生の新作も読んでみたい。多分、この先生なら黒髪ヒロインの素敵な作品をまた書いてくれると思うし。

 ――だから、このまるで追い討ちを食らってしまったような感覚は嘘。軽く涙も出そうになってるけど、こんなの何かの間違いだよ……きっと。

「え、えーと……最終巻、一緒に見届けようねっ」

「うん……そうしよ。そして、アニメ二期を持ち望もう……わたしの心の中で、泉水ちゃんは永遠だから」

 こうしてわたしは、店を後にした。

 うっかり商品を持ったまま出ようとして恥ずかしかったけど、店員さんに止めてもらって、逆にしゃきっとすることが出来た気もする。

説明
三話にして、やっと本編開始、といったところでしょうか
この小説はいわば主人公が最強系のお話ではありますが、その前段階としての修行パートも本編に入れたかったので、ややスタートダッシュが遅いかな?と思われる構成となりました
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牢獄の愛魔法使い

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