夜天の主とともに 34.止まることなどできはしない
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夜天の主とともに 34.止まることなどできはしない

 

 

 

「クリスマスプレゼント?」

 

それはすずかの一言から始まった。すずかの友達である八神はやてが入院したと聞いたなのは、フェイト、アリサ、ナリンはみんなで行けばはやても喜ぶだろうと少し前からお見舞いに行っていた。

 

そして季節は冬。12月となり今日はクリスマスイブ。病院で退屈しているであろうはやてにサプライズでクリスマスプレゼントを渡しに行こうというすずかの提案なのであった。

 

「サプライズでかー。それはいい考えね。はやても喜びそうじゃない。」

 

「でしょ?だから学校終わってからみんなではやてちゃんにあげるプレゼント買いに行こうと思うんだけどみんなはどう?」

 

すずかの問いかけになのはとフェイトはうーん、と唸りながら今日の予定を確認していた。アースラからの緊急要請もなく特にこれといってなにもないことを確認したうえで頷いた。

 

「うん。行こう行こう!」

 

「そうだね。みんなで行ったらはやても喜ぶかもだね。」

 

この時点で行くことが決まったのは四人。最後に残ったナリンも行くと思われたが、

 

「あー、すまんけどワイ用事あって行けれへんわ。」

 

そう言ったナリンは申し訳なさそうに頭を掻きながら苦笑いした。

 

「あんた、その用事ってどうしても行かなきゃいけない用事なわけ?」

 

そう言ったアリサの表情は気分を害したというかなんというか「えっ?この流れで行かないとかノリ悪いんじゃないの?」と言っているようなものだった。

 

ナリンもそれがわかってるだけにただ謝るしかできなかった。

 

「どしてもなんや。堪忍してや!」

 

よく眠ることはあれどナリンの友達づきあいがいいことがよくわかっているなのはとフェイトは念話で話しかけた。

 

『もしかしてナリン君、魔法関連?』

 

『そや。なんや新しくわかったことがあるってユーノから今朝方連絡があったんや。けっこう重要らしいんでいかなあかんわけ。』

 

『だったら私たちも『ええって。』?』

 

『報告聞きに行くだけならワイだけでも事足りる。そやから2人ははやてんとこ行きな。』

 

『……ホントに大丈夫ナリン?』

 

『えらい信用ないな。ちょいショックやでフェイト。』

 

『そんな。信用ないなんてそんなことないよ。ただナリンだけお見舞いに行けないの、さびしくない?』

 

『大丈夫やって。やから行ってき。』

 

『…うん、わかった。』

 

『じゃあナリン君そっちはよろしくね。』

 

『はいはい。』

 

と、三人の中で解決はしたものの事情がつかめてないアリサとすずかは急に黙り込んだのを見て?状態になっていた。この念話、秘密裏に話すのには特化しているが誰かと話しているときにやると肉声のほうが完全に疎かになってしまうのが欠点だったりする。

 

「なにあんたたちそろいもそろって黙り込んでるのよ?」

 

「え、え〜っとそのちょっとぼーっとしてたみたい。」

 

「フェイトちゃんも?」

 

「ご、ごめんね。でももう大丈夫だから。」

 

「ワイも「あんたはどうせ寝てたんでしょ。」それヒドない!?」

 

五人の中で笑いが沸いた。無論そのうちの一人はげんなりしているが。

 

「ま、まぁともかくはやてによろしゅう言っといてな。んじゃ。」

 

そう言ってナリンは一人教室をあとにした。

 

「じゃ私たちもそろそろ行きましょうか。」

 

「「「おー!」」」

 

 

 

 

 

同時刻、海鳴大学病院

 

はやては急いでいた。使い慣れた車椅子にに乗り普段なら病院内の廊下を疾走しないはやてだが今だけは違った。途中目的地行くまでに何度か人にぶつかりそうになったが謝罪も簡単に済ませて急いだ。

 

そしてたどり着いたのはある一人の少年病室、時野健一の病室だった。なぜここまで急いで来たかというと今朝方健一の意識が戻ったと聞いたからだ。目を覚ましたことを知ったのは昼を過ぎてからだった。遅れてシグナム、シャマル、ヴィータも追いつく。

 

「ちょ、ちょっとはやてちゃん急ぎすぎ。」

 

「そうですよ主はやて。」

 

「嬉しいのはわかるけどさもっと落ち着けよ。」

 

「ご、ごめん。じゃ、じゃあ開けるで。」

 

そろ〜っとドアを恐る恐る開け病室へ入るとそこには先客がいた。健一の両親だった。何週間か前に日本へ戻ってきていたのだった。

 

「あらはやてちゃん。もしかして健一のお見舞いかしら?ありがとね。」

 

「い、いえ。私も入院してますからお見舞いっていうのが正しいのかわかりませんですけどけん君が目を覚ましたって聞いて。おじさんもこんにちは。」

 

「ああ、こんにちはわざわざありがとう。」

 

改めて二人の顔を見ると少しやつれているようにも見えた。そしてその奥には、

 

「おっ、来たのか子狸。」

 

いつもの調子の健一がいた。

 

「ちょ、子狸はひどぉない。…でもよかったわ目覚まして。」

 

「……心配かけてごめん。ありがとな。はやても入院してるって聞いたけど大丈夫なのか?」

 

「少なくともけん君よりは大丈夫やて。」

 

「それもそうか。」

 

何気ないやり取りで病室に笑いが響く。その後ろでは健一の両親とシグナムたちが話していた。

 

「……それではやはり健一は。」

 

「……シグナムさん、シャマルさん。私たちがいない間健一のこと、どうもありがとうございました。」

 

「い、いえ。私たちは何もしてあげられることができませんでした。」

 

「それでもですよ。たぶんあの子の心の支えになっていたと思うんです。」

 

「あいつはあなたたちのことを家族と思っていますからね。」

 

その言葉はシグナムたちにとって嬉しいものだった。しかし同時にひどく罪悪感も湧き出てきた。健一が今この状態にあるのは自分たち、ひいては闇の書にあるのだから。

そう感じているところで健一とはやての声で引き戻された。

 

「母さん、父さん。確か俺って明日は一日だけなら外に行っていいんだよね?」

 

「そうね、あまり遠くには行けないけれど許可はもらっているわ。」

 

「だったらさ家族で街に行こうよ。もちろんはやてやシグナムたちも一緒にさ。」

 

「ええんかな、そんな家族水入らずの場に私たちおっても。」

 

遠慮がちに言うはやてに健一は問題ないと言わんばかりに首を横に振った。

 

「そんな今更だろ。家族みたいなもんだしさ。いいよね?」

 

「それはいい考えね。あなた、じゃあいろいろ計画立てないといけないわね。」

 

「そうだな、明日はレストランも臨時休業しよう。夕食時にはレストランを貸し切りにして私特製のクリスマスディナーを作ろう。」

 

話がどんどん進んでいくさまを見ていることしかできなかった。ここで硬直が解けたシグナムが口を開いた。

 

「あ、あの私たちもよろしいのですか?」

 

「当然ですよ。明日はみんなで楽しみましょう。」

 

「ヴィータちゃんと言ったかな?君は何が好きなのかな?」

 

「…………アイスです。」

 

「そうかアイスか。じゃあおじさんが今までに食べたことがないくらいおいしいアイスをデザートに作ってあげよう。」

 

パァァァァァ。とヴィータの顔が目に見えて嬉しそうで満面の笑みへと変わった。

 

それからは明日についていろいろと思いを馳せながら談笑した。そしてはやてが自分の病室へ戻る時間になった。

 

「では私たちはこれで。」

 

「健一のおじさん、おばさんまた明日な!」

 

「けん君また明日な。」

 

そう言いはやてたちは病室を出て行った。後に残されたのは健一とその父母だった。

 

「………本当によかったの健一?」

 

「……なにが?」

 

「はやてちゃんに言わなくてよかったの?」

 

母の言葉に俯く健一。その顔には弱弱しい笑みを浮かべていた。

 

「いいんだよ。余計な心配させたくないし、言ったらあいつの病状悪化させるかもしれないし。」

 

「本当に‥‥すまない。父さんお前のために何にもしてやれなかった。」

 

「あなたの病気治してあげられなくて………。」

 

父を見ると涙を流していた。見れば母も同じように泣いていた。

 

「何で父さんたちが謝るのさ。これは誰のせいでもない、自分の体のせいだよ。そうだ、言ってたもの家から持ってきてくれた?」

 

「…ああ。はやてちゃんに渡せばいいんだな?」

 

「ありがと。明日よろしく…ね。たの……しみだ………な。」

 

そこまで言うと健一は再び眠りについた。規則正しい寝息が病室を包む。それを上書きするように二人の男女の嗚咽が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「明日楽しみだなはやて!!」

 

「そやなー、久しぶりにみんな揃うし楽しみやな。あっ、ザフィーラどうしよ?わんこの姿じゃ難しいなぁ。」

 

「そこは人型を取ってもらえばいいでしょう。その気になれば尾も耳も消せるはずですし。」

 

「私も何かした方がいいでしょうか?あっそうだ私も料理のお手伝い「「「それはダメ(だ)。」」」そんな〜。」

 

病室に笑いが響く中ふいにドアをノックする音がした。

 

「はーい、どうぞ。」

 

「「「「おじゃましまーす。」」」」

 

入ってきたのは四人の子供だった。そしてその中にいた二人を見てシグナムたちは目を見開いた。なのはとフェイトだった。二人も目があった瞬間同じくらい目を見開いていた。

 

「あの、すいません。お邪魔でしたか?」

 

何とも言えない空気に場違いだったのではないかと勘違いしたアリサはシグナムにそう言った。

 

「い、いえ。」

 

「いらっしゃい、みなさん。」

 

「よかった。」

 

唯一何の反応もしなかったヴィータはというと、

 

「うううううううっーーーー!」

 

「こらヴィータなんで睨んどるん?お客さんに失礼やろ。」

 

「あだっ!」

 

ものすごくなのはを睨んでいたヴィータは叱られ後ろに下がったがそれでも睨み続けた。

 

「みんなわざわざありがとうな。この子もいつもはこうやないんやけど。でもどしたんみんな?」

 

「それじゃあすずか。」

 

「うん。」

 

「「せーの、サプライズプレゼントー!!」」

 

すずかとアリサがコートに隠していた物はプレゼントだった。それを見たはやては目を輝かせた。サプライズだっただけに嬉しさも二倍だったのだ。

 

はやてが喜びをかみしめていると再びドアが開いた。入ってきた人物はシグナムたちが今このタイミングで一番来てほしくない者だった。健一の母だった。

 

「お友達がお見舞いに来てるところごめんなさいね。はやてちゃん、これ健一からあなたにって。」

 

そう言って健一の母が持っていた袋から取り出したのは狸のぬいぐるみだった。

 

「健一がクリスマスプレゼントってことでずいぶん前から用意していたものらしいの。」

 

「わぁぁ……ありがとうございます!!」

 

「明日あの子にお礼言ってあげてね。」

 

「はい!」

 

健一の母が病室を出ようとしたときになのはが呼び止めた。

 

「あの、健一君ってもしかして…時野健一君ですか?」

 

「あらあの子のお友達かしら?そうよ。」

 

そう言うと今度こそ病室を出て行った。ヴォルケンリッターや健一がいることを知ったなのはとフェイトはすぐさまアースラへ連絡を取ろうとしたが、

 

「……念話が通じない。通信妨害ですか?」

 

「シャマルはバックアップのエキスパートだ。この距離なら造作もない。」

 

さすがにどちらもこの場で事を荒立てるつもりは毛頭なくお見舞いは無事遂げられた。その後すずかとアリサは帰りなのはとフェイトは残った。

 

そしてなのはとフェイトはシグナムたちに連れられとあるビルの屋上へ来ていた。

 

「はやてちゃんが闇の書の主……。健一君もその影響で…。」

 

「悲願はあとわずかで遂げられる。あとわずかなのだ。」

 

「邪魔をするならはやてちゃんのお友達でも!!」

 

「待って、待ってください!」

 

なのはは必死だった。アースラにこのことを伝えられないからではなくこのままでははやてが死んでしまうと思ったからである。

 

「闇の書は完成させちゃだめなんです!!そうしたらはやてちゃんが」

 

しかしのその先の言葉は突如現れたヴィータの横殴りの攻撃に阻まれた。防御は間に合ったがこらえきれずフェンスに直撃した。

 

それに気を取られたフェイトは間一髪だったが気迫とともに放たれたシグナムの斬撃を回避した。

 

「管理局に我らが主のこと、そして健一のことを伝えられては困るのだ。」

 

「私の通信妨害範囲からは一歩も外には出すわけにはいかない。」

 

スタ、スタ。とヴィータがなのはへと近づく。

 

「あともうちょっとなんだよ。あともうちょっとではやてが戻ってくるんだよ。そしたら健一も元通りになって帰ってくるんだよ。」

 

ヴィータの服装が騎士服へと変わっていく。

 

「だから……邪魔すんなぁぁぁぁ!!」

 

咆哮とともに放たれた鉄槌はなのはへと直撃し爆炎を上げた。しばらく見ていると炎の中から人影が現れた。なのはだった。こちらもすでにバリアジャケットを展開していた。

 

「…悪魔め。」

 

「悪魔で…いいよ。悪魔らしい方法で話すから!」

 

一方フェイトはシグナムと対峙していた。シャマルは後方へ下がり通信妨害に集中、シグナムは剣を構えた。

 

「こんな出会いをしていなければ一体お前とどれほどの友となっただろうか。」

 

「まだ間に合います!」

 

「止まれん……止まれんのだ!!」

 

シグナムの魔法陣が展開されひときわ強く魔力光を放つ。

 

「主の笑顔のためならば、そしてその傍らで笑顔を見せる健一のためならば騎士の誇りさえ捨てると決めた。もう………止まれんのだ!!」

 

「止めます。私とバルディシュが。」

 

 

 

 

 

最後の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「……みんな?」

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A's編っす
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