本編補足
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もがれた共和国の黒翼

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C1 不満

C2 会場までの道

C3 シーン皇国外交使節団祝賀会

C4 黒い翼、地に落ちて

C5 余韻

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C1 不満

 

ロズマール共和国首都ロズマリー。ロズマリー基地。雪の降りしきる中、司令部の窓から基地内に停泊するシーン皇国扶桑級戦艦及び若宮級空母を眺め、腕組みするロズマール共和国親衛隊隊長のガグン。

 

ロズマール共和国魔術技術長官のリシューはコーヒーカップにコーヒーを入れ、それをすすりながら席に着く。リシューの肩を揉む黒巫女A。ストーブに手をかざしていた黒巫女服に身を包むガグンの侍従のヒメナは主の傍らに寄り、彼を見上げる。

 

ヒメナ『どうなさいました?ガグン様。』

 

ガグンは頬を膨らませる。

 

ガグン『なぜ俺が奴らの護衛に選ばれなかったのだ。』

 

コーヒーを吹き出すリシュー。振り向くガグンとヒメナ。リシューは眉を顰めてテーブルの上に毀れるコーヒーを眺める。

 

リシュー『ああ、せっかくのコーヒーが無駄になったな。』

 

黒巫女Bが布巾でそれを拭き取る。ガグンはリシューの前に駆け寄り、テーブルに手を置く。

 

ガグン『リシュー!何がおかしいのだ!』

 

リシューは顔を上げ、ガグンを見る。

 

リシュー『コーヒーが毀れただけだ。気にするな。』

 

ガグンは眉を顰める。

 

ガグン『いや、今明らかに吹き出したではないか!』

 

リシューは眼を閉じて、左手でコーヒーをすすりながら右手を広げる。

 

リシュー『うむ。まあ、正直言って、貴様が選ばれなかったことについてはあまりにも当たり前すぎて突っ込みどころも無いのだがな。』

 

ガグンは上体を前に出し、顔をリシューの顔に近づける。

 

ガグン『それはどういったことなのだ!俺には功があるというのに!なぜ、赤猫眼なんぞに…。』

 

リシューは眼を開く。

 

リシュー『山を破壊したり、突撃をボイコットしたり、過去を振り返れば現元老院議長殿の演説の最中に太守の首を引っ提げてきたり、兵舎をぶっ壊して上官を人型機構で締め上げたりしたではないか。あまりに貴様の行動は短絡的で思慮が足らないのだ。そんなき…。』

 

ガグンは姿勢を戻し、眼を閉じて鼻の下を指でなぞる。

 

ガグン『フッ、それは俺の武略よ。』

 

リシューの手からコーヒーカップが落ち、中身を撒き散らしながら床に当たって音を立てて割れる。割れたコーヒーカップを片付ける黒巫女A。床を布巾で拭く黒巫女B。眼を開くガグン。

 

ガグン『およ?どうしたリシュー。』

 

リシューは微笑みを浮かべる。

 

リシュー『すばらしい脳内構造をしているよ。貴様は。』

 

ガグンは腕を組み、目を閉じて笑みを浮かべる。

 

ガグン『天才だから当然のこと!』

 

リシューは暫しガグンを見つめると溜息を付き、呪文を唱えて服に付いた染みを落とす。リシューの横に黒巫女のシンシティアが現れる。シンシティアの方を向くリシュー。

 

シンシティア『教主様。定時でございます。』

 

腕時計を見るリシュー。

 

リシュー『もうそんな時間か。』

 

リシューはガグンの方を向く。ガグンは頷き、リシューは立ち上がった後、黒巫女達の方を向く。

 

リシュー『では、留守の間ここを任せる。』

 

頷く黒巫女達。ガグンは立ち上がり、リシューの方を向いて扉から出て行く。音が鳴り、ヒメナは黒巫女達の方を向く。シンシティアは机の上に座ると、三つの包丁をジャグリングする。腰に手を当てる黒巫女Aと黒巫女B。ヒメナは扉へと駆けていく。

 

C1 不満 END

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C2 会場までの道

 

ロズマール共和国首都ロズマリー。浅く積もった雪を踏み、歩むリシューとガグン、後ろから付いて来るヒメナ。リシューは顔を上げた後、白い息を吐く。

 

リシュー『なあ、ガグン。』

 

ガグンはリシューの方を向く。

 

ガグン『何だ?』

 

リシューはヒメナの方を向く。

 

リシュー『お前の侍従が付いてきているのだが。』

 

ガグンはヒメナの方を向いた後、リシューの方を向く。

 

ガグン『んっ?俺の侍従だから問題無かろう。』

ヒメナ『そ〜だ!そ〜だ!!侍従が御主人様に付き従うのは当然だ!!』

 

ヒメナはガグンの背中におぶさり、顔を近づけて微笑む。

 

ヒメナ『ネッ。御主人様!!』

 

ガグンは顔を背けて、ヒメナの頭を掴んでそっぽを向かせ、リシューの方を向く。リシューは軽く顎を上げる。

 

リシュー『いや招待状が無ければ会場には入れんぞ。』

 

立ち止まるガグンとヒメナ。リシューは2、3歩足を進め、振り返って顔を見合わせるガグンとヒメナを見る。ガグンは顎に手を当て、2回頷くとヒメナの襟首を持ってリシューの前に出す。

 

ヒメナ『ひゃ、あ〜ん!なな何をなさいますガグン様ぁ〜!!』

ガグン『えっと…。荷物扱いでいいよなコレ。』

 

唖然とするリシュー。

 

ヒメナ『荷物なんて酷いです!僕こんなにガグン様に…。』

 

ガグンはヒメナの方を向く。

 

ガグン『安心しろ。これで会場には入れる。』

 

ヒメナはガグンの方を向き、手を叩く。

 

ヒメナ『やった!流石!ガグン様!!』

 

リシューは溜息をついた後、笑みを浮かべる。

 

リシュー『無理だろう。』

 

ヒメナを投げ捨てるガグン。

 

ガグン『やってみなければ分からんではないか!』

 

ヒメナは壁を蹴ってガグンの横に舞い降りる。

 

ヒメナ『そ〜だ!トンチキ教祖!!』

 

リシューは腕を組み、ガグンとヒメナを見つめる。

 

リシュー『たくっ、相変わらずだな。貴様らは。』

 

リシューは人差し指を上に指す。

 

リシュー『いいか。ベンゾウリックスの自爆テロのおかげで宮廷は神経質になり、警戒も強い。』

 

ガグンは眉を吊り上げ、靴音を立てて一歩前に踏み出す。

 

ガグン『我々が信用できぬと!ガギグルス殿にとって信頼が足らぬとぬかすか!』

 

リシューは眼を閉じ、首を横に振った後、ガグンを見つめる。

 

リシュー『そうではない。念には念を入れているということだ。』

ガグン『我が隊の精強と結束はそんなにやわな物ではないのだぞ!よりにもよってキェルケゴアなんぞ娘婿を娘が死んでからも重要しやがる。確かに政治のセンスは認めるが、俺だって…。』

 

リシューは溜息をつく。

 

リシュー『ガグン。ガギグルス様の娘の死は公言するな。』

 

ガグンは白い息を吐き、そっぽを向く。ガグンの眼と鼻の先に近づくリシュー。ガグンは眼を開き、リシューの方を向く。

 

リシュー『絶対にガギグルス様の前では公言するなよ!!』

 

ガグンは喉を鳴らし、眉を顰めて軽く頷く。

 

ガグン『…ああ、分かったよ。』

 

リシュー、ガグンとヒメナに雪と水しぶきがかかり、スーパーカーが彼らの横を勢いよく通り抜ける。固まるガグンとヒメナ。リシューは去っていくスーパーカーの方を向く。ガグンは眉を吊り上げ、剣に手をかける。

 

ガグン『あんの野郎!俺様の一張羅によくも!!』

リシュー『アンセフィム達だな。』

 

ガグンは眼を見開く。リシューはガグンの方を向く。両手で頭を抱えるガグンを見上げるヒメナ。

 

ヒメナ『ガグン様!如何なされました?』

ガグン『あー!しまった!奴め!何て派手な登場の仕方を!!畜生。』

 

ガグンは手を下げて握り拳を震わす。

 

ガグン『ヒメナ!俺専用のヴェイ級人型機構を用意せよ!アンセフィムの奴め、目立ちやがって!許せぬ!!』

 

ヒメナは笑顔で頷く。

 

ヒメナ『ラジャー!!』

 

振り返り、駆け出すガグンとヒメナ。リシューはヒメナとガグンの襟首を掴む。

 

ガグン『にゃん!』

ヒメナ『ぎゃん!』

リシュー『これだから!すばしっこいのと短絡的なのが同時に居ると!』

 

リシューは二人を前に投げ、双方の額を鉢合わせさせる。のけぞるガグンとヒメナ。

 

ガグン『な、何をするのだ!リシュー!!』

 

リシューは眉を顰め、ガグンを見つめる。

 

リシュー『アホか!貴様は!!そんなことをしたら襲撃と間違われるだろうが!』

ガグン『で、でもカッコイイではないか!間違いなくアンセフィムよりは目立つ。』

 

リシューはガグンの頭を軽く叩く。

 

ガグン『うにゃ!』

リシュー『シーン皇国の外交使節団が来ているのだぞ!ベンゾウリックスの一件もあるだろう!』

 

ガグンは人差し指を顎に当て、首をかしげる。

 

ガグン『ベンゾウなんたら。誰それ?』

 

ガグンは人差し指を口に当てて唖然とするリシューを見つめる。

 

ガグン『お前の…信者?』

 

リシューは眼を閉じて、握り拳を震わせる。

 

リシュー『お前、人の話を聞いていた?』

ガグン『うん。要所要所は。』

 

ガグンはヒメナの方を向く。

 

ガグン『では、ヒメナ。俺専用の人型…。』

 

リシューは眉を顰めてガグンとヒメナの襟首を掴む。

 

リシュー『だから、襲撃と間違えると言っとろ〜がぁ!!』

 

1台のリムジンが徐行して彼らの横に現れる。ガグンとリシューはそのリムジンの方を向く。後部のサイドガラスが開き、ロズマール共和国元老院議長ヴォルフガング・オーイーが顔を出す。

 

ヴォルフガング・オーイー『おはよう。騒がしいと思ったら、朝から随分と仲睦まじい事だ。』

 

ヴォルフガング・オーイーの方を向くリシュー。

 

リシュー『あっ、これはこれは元老院議長殿。ちょうどいいところに…。』

 

ヴォルフガング・オーイーはリシューの顔を覗き込む。

 

ヴォルフガング・オーイー『何か?』

リシュー『この馬鹿、阿呆をどうにかして下さい!人型機構で参上すると言っているのですよ!!』

 

ヴォルフガング・オーイーの方を向くガグンとヒメナ。ヴォルフガング・オーイーは腕組みをして2、3回頷く。

 

ヴォルフガング・オーイー『天下の大将軍のガグン殿がよもや襲撃と間違われるような人型機構での出仕等軽率な事をする筈があるまい。』

 

ガグンは腕組みし、眼を閉じ、顎に手を当てて2、3回頷く。

 

ガグン『そうですな。オーイー殿。そんなことは露程にも感じておりませんでした。』

 

唖然とするリシュー。ヴォルフガング・オーイーは正面を向き、リシューを見る。

 

ヴォルフガング・オーイー『付き合いが長いのにの。』

 

ヴォルフガング・オーイーはガグンとヒメナを見つめ、眉を顰めるリシューの方を向く。

 

ヴォルフガング・オーイー『ところで施工の方は順調かね。』

 

リシューは眼を見開いた後、暫し軽く上を向き、再びヴォルフガング・オーイーを見る。

 

リシュー『施工、ああ、これは軍事機密なので口外はいたしかねますよ。』

 

ヴォルフガング・オーイーは頷き、微笑む。

 

ヴォルフガング・オーイー『そうか。任務熱心な事だ。君の事だから塔に新たな要素を三つぐらいつけていると思っていたのだがね。』

 

リシューは眼を見開いた後、眼を閉じて咳払いをしながら暫しヴォルフガング・オーイーを見つめる。

 

リシュー『…い、いえ、特には。ただ工事の方は順調に推移しているとだけは言っておきましょう。』

 

ヴォルフガング・オーイーは口髭をなぞる。

 

ヴォルフガング・オーイー『ほほう。』

 

ヴォルフガング・オーイーの顔から頬笑みが消え、眼を細めてリシューを見る。

 

ヴォルフガング・オーイー『ところで貴公は確か導魔教という新興宗教をうち立てて、美女達を侍らせているとか。』

 

リシューは眉を顰める。

 

リシュー『それが…何か?』

 

ヴォルフガング・オーイーは腕組みして、正面を向く。

 

ヴォルフガング・オーイー『近頃、魔竜教なる新興宗教が台頭し、蔓延してきていると聞くが…。』

リシュー『あの穴掘り連中は商売敵ですなぁ。』

 

ヴォルガング・オーイーは笑いだす。

 

ヴォルフガング・オーイー『ははは。そうか、商売敵か。』

 

ヴォルフガング・オーイーはリシューを見つめる。

 

ヴォルフガング・オーイー『いや、奴らがよからぬ事を企んでいるという報があってな。』

 

リシューは眉を吊り上げる。

 

リシュー『そんな奴らと一緒にされては困ります!これでも我が教えは微弱ながらオンディシアン教の一派なのですよ!!そんな集団と同等に扱われては困ります!』

 

ヴォルフガング・オーイーに近づくリシュー。

 

リシュー『それよりも元老院議長となられてから、心配事や悩み事も増えたのでは?』

 

ヴォルフガング・オーイーは首をかしげる。

 

リシュー『我が教えに沿って悩みもか…。』

 

ヴォルフガング・オーイーは微笑む。

 

ヴォルフガング・オーイー『まあ、頑張ってくれ給え。』

 

リムジンのサイドガラスが閉じ、走り去っていく。手を伸ばすリシュー。

 

リシュー『議長!』

 

たたずむリシューの方を向く、ガグンとヒメナ。

 

ガグン『あんな見え見えな勧誘誰もひっかからないよな〜。』

ヒメナ『ですよね〜。』

 

リシューは舌打ちする。

 

リシュー『やかましい!!行くぞ!!』

 

リシューは雪を踏む音を立てて歩き出す。続くガグンにヒメナ。

 

ロズマール共和国ロズマリー城。衛兵達が所狭く配置に付き、報道陣が城門に群がる様子を足を止めて眺めるリシューとガグン、ヒメナ。城門の階段を上がっていくアンセフィムにヴォルフガング・オーイー。アンセフィムの姿が見えなくなり、ダオンがスーパーカーの後部座席に乗り込む。城門を徐行して去っていくスーパーカー。

 

リシュー『ダオンに招待状が来ていなかったとはな。』

 

リシューの方を向くガグン。

 

ガグン『ダオンと言えば優れた将と聞くが…。入れなかったのか。』

 

リシューはガグンを見る。

 

リシュー『貴様は見ていなかったのか。今、スーパーカーに乗込んで去っていったが。まあ、あの主だからな。内心ひやひやしているに違いない。』

ガグン『ほう。』

 

ガグンは顎に手を当てた後、ヒメナの方を向く。

 

ガグン『ヒメナ、お前はティガノの所へ戻っていろ。』

ヒメナ『嫌です。僕はガグン様の傍らに…。』

 

ヒメナはガグンの背中に飛び乗る。ヴォルフガング・オーイーの姿が見えなくなり、リムジンが徐行して去る。

 

ヒメナ『バックパック扱いでも構いませんから〜。』

 

ガグンはロズマリー城を見つめる。

 

ガグン『…あのダオンですら、会場に入れなかったのだ。ましてやお前では無理であろう。』

 

ヒメナは俯き、ガグンの背から降りる。

 

ガグン『では、ティガノの所へ行っていろ。』

 

ヒメナは頷く。リシューとガグンはロズマリー城へと足を進める。ヒメナは胸に手を当て、ガグンの後ろ姿を見つめる。

 

ヒメナ『ガグン様。ヒメナはガグン様の傍らにずっとおります。』

 

C2 会場までの道

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C3 シーン皇国外交使節団祝賀会

 

ロズマリー城、祝賀会会場。ガグンとリシューを始めロズマール共和国要人がそれぞれの席に着いている。ガギグルスの横に左横に座るヴロイヴォローグ。ガグンは自身の座る席を見回し、会場の席を何度も見帰した後、ガギグルスの隣に座るキェルケゴアを睨みつける。

 

ガグン『ヴロイヴォローグ殿は分かるが、なぜ、あいつがガギグルス殿の隣に座るのだ!』

 

リシューはガグンの方を向く。

 

リシュー『天下の大将軍たるお前がそのような下らん嫉妬をするとはな。』

 

ガグンはリシューの方を向く。

 

ガグン『お前に言われると凄まじく胡散臭い。気に入らん。』

 

リシューは眉を顰めてそっぽを向く。

 

ガグン『だいたい奴のよ…。』

 

ガグンはリシューを見た後、咳払いして腕組みをする。

 

ガグン『婚姻関係は疾うの昔に…。』

 

ロズマール共和国軍務官でカン大陸帝国人との混血児のリョ・メルディオがガグンの隣へ現れる。

 

リョ・メルディオ『ほほぅ。驚きですな。失礼。』

 

リョ・メルディオはガグンに会釈して席に座る。リョ・メルディオを睨みつけるガグン。

 

リョ・メルディオ『珍しい事もあるものです。天下にとどろくガグン様が程度の低い嫉妬などするとは…。』

 

ガグンは眼を閉じて腕を組むと椅子に深く腰掛ける。

 

ガグン『ムッ、し、嫉妬などしておらんぞ。』

リョ・メルディオ『そうですか。いや、そうですよね。よもやガグン様がそのような事をする筈ありませんからね。』

ガグン『うむ。その通りだ。よく分かっているではないか。』

 

頭を抱えるリシュー。会場の入り口で雪を払うロズマール共和国ブレイマン伯爵とコアラ獣人でロズマール共和国の将テイラー及び多数の要人達。

 

ブレイマン『だいぶ吹雪いてきたぞ。』

テイラー『今日はここに泊まりになりそうですな。』

 

ブレイマンはそっぽを向き、テイラーはブレイマンの背を見て鼻で笑うと双方とも自身の席へと向かう。

 

リョ・メルディオの隣に現れるゼムド王国及びセレノイア王国への要衝ハッコ城任命城主ヒカシューが現れる。

 

リョ・メルディオ『これはこれは電撃戦鼠殿。』

ヒカシュー『いやはや、この吹雪で転属前に流石の電撃戦鼠の異名も廃るところでしたわ。』

 

ヒカシューはリョ・メルディオの横に座るリシューとガグンの方を見る。

 

ヒカシュー『おお、ガグン殿にリシュー殿か。私など危険区域への転属の為の配慮で呼ばれたようなもの。それがこの御二方と席を共にできるとはまさしく光栄。』

 

ヒカシューは深々と頭を下げ、リシューとガグンは軽く会釈をする。席に着くヒカシュー。ガグンはキェルケゴアを眼に映し、腕組みしながら右手の人差し指を左腕に打ちつけている。暫し、ざわめき。

 

時計が鳴り響き、ドレスに身を包んだドグラマが司会席に現れる。舌打ちするガグン。

 

ドグラマ『これよりシーン皇国外交使節団祝賀会を始めます。』

 

会場が暗くなり、スポットライトが会場の右に用意された空席に当てられファンファーレが鳴り響く。現れるシーン皇国政治家アケチ及び連合艦隊司令長官トーゴー、隊士隊隊長カモウ、及び高家で海軍中佐を努める女カッパのカワジリ。彼らはそれぞれの名が入った席へ皆一礼した後に座る。スポットライトが消え、ガギグルスが立ち上がり、明るい壇上へ上る。

 

ガギグルス『まずは東方より遥々と危険な道のりを経て我が国へ国交の為に来た勇者達に拍手を。』

 

会場より拍手の音が鳴り響く。

 

ガギグルス『我が国とシーン皇国が盟友として契りを結び後々の未来に繁栄をもたらしてくれる事を。そして我々の未来とこの歴史の一節に栄光の光が与えられることになるだろう。今日という日が我が国にあってもシーン皇国にあっても良い日となることを。』

 

アケチが立ち上がる。

 

アケチ『私達にささやかな贈り物がございます。』

 

アケチは中央に設けられた舞台に手を向ける。ライトアップされる会場の中央の舞台。

 

アケチ『我が国の伝統芸能の一つである人形浄瑠璃をご覧ください。』

 

山伏姿に白い布で顔を覆った人形師のサルコが現れ一礼し、舞台の中へ消えていく。

 

黒い舞台から現れる背景の山林、男女の人形が現れる。欠伸をするガグン。リシューは眉を顰めてガグンに耳打ちする。

 

ガグン『それ程権威のあるものなのか!』

 

ガグンは体を前に出し、サルコの人形浄瑠璃を見つめる。

 

ガグン『まあ、確かにまるで生きているような…。』

リシュー『静かに…。』

 

ガグンは2度頷く。兵士の人形が現れ、村人達の人形が歓声を上げ、鎧兜を着た男の人形を送り出す。彼らが去った後、口に手を当て泣く女の人形。

 

ウェイターの一人がガグンの傍らにより耳打ちする。ガグンは眼を見開く。

 

ガグン『なっ!』

 

ガグンは立ち上がり、椅子を押し倒して会場を飛び出していく。

 

ロズマリー城医務室。

 

医者『ふぅ。まったく。無茶をしよっ…。』

 

扉を蹴り破って駆けこむガグン。唖然とする看護婦と医者。ベッドに仰向けになるヒメナ。

 

ガグン『ヒメナ!この馬鹿野郎!!』

 

ヒメナの傍らに駆け寄るガグン。ヒメナはガグンの方を向く。

 

ヒメナ『ごふっ、ごほっ、ご、ごめんなさい。』

 

眉を顰めそっぽを向くガグン。

 

ガグン『アホ!だからティガノの所へ行けと…。』

 

ヒメナは上体を起こす。

 

ヒメナ『すみません。僕なんかの…ゴホッ。せいで。ガグン様が折角の祝賀会が…。』

 

ガグンはヒメナの方を向く。

 

ガグン『いいから寝ていろ。』

ヒメナ『僕、ガグン様の御側に居たくって…。』

 

ガグンは溜息を付く。

 

ガグン『馬鹿な事を…。』

ヒメナ『どうか僕なんかに構わず祝賀会場へ戻ってください。』

 

ガグンは腕組みしてヒメナの横に座る。

 

ガグン『まあ、いいわ。』

 

ヒメナは眼を丸く見開いてガグンを見つめる。ガグンは頭を掻いてそっぽを向き、顔を赤らめて布団で口元を隠すと涙を流す。

 

C3 シーン皇国外交使節団祝賀会

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C4 黒い翼、地に落ちて

 

早朝。ロズマリー共和国ロズマリー基地司令部。

 

シンシティア『教主様。』

リシュー『何だ?』

シンシティア『シーン皇国の人形浄瑠璃。私も見たかったなぁ。』

リシュー『では今度シーン皇国へ行くか。』

黒巫女A『それよりもあのド生意気なクソガキはくたばりやがったのですか?』

リシュー『さあな。』

 

ドアが開きガグンが現れる。

 

ガグン『たいした事は無い俺の部下だ。』

リシュー『そうか。聞いていたのか。』

 

ガグンは自信の耳を指す。

 

ガグン『俺は地獄耳よ。』

リシュー『都合のいいところだけな。』

 

窓から整列したロズマール共和国新鋭人型機構ライグル及び先行量産型ライグルを見下ろすリシューの傍らに寄るガグン。ガグンは窓から下を見下ろした後、リシューを見る。

 

ガグン『今日はドルテン殿の新鋭人型機構のお披露目だったか。羨ましいことだ。』

 

ガグンは窓の方を向き、その眼にライグル級人型機構のコックピットのハッチに立ち、戟を携えるドルテンを映している。コンドール広場を覆う雪が、太陽の光で煌めき、一台の高級車が現れ、停止する。運転手が席から降りて、後部座席の扉を開け、現れるガギグルスとキェルケゴア。辺りを見回しながら歩いて行く彼ら。

 

ドルテン機及び配下の部隊率いる新鋭機先行量産型ライグル級人型機構群に囲まれながらガギグルスはキェルケゴアに上着を渡し、積もった雪を踏みしめながら周りを見渡した後に壇上へ上り詰め、机に向かう。

 

護衛の先行量産型ライグル級人型機構がガギグルスの背後に動く。振り返るキェルケゴア、ガギグルスは壇上の上の机に手をかける。黒い影がガギグルスを覆い、彼は後ろを振り返る。ドルテン配下の先行量産型ライグル級人型機構の一機の握り拳がガギグルスに振り下ろされる。ガギグルスは眼を見開いた後、眼を閉じて先行量産型ライグル級人型機構の拳に押しつぶされる。舞い散る血飛沫を織り交ぜた粉雪。唖然とするガグンとリシュー。

 

上着を投げ捨て、ガギグルスに駆け寄るキェルケゴアとガグン及びドルテン機。ドルテン機のコックピットが開き、ドルテンが現れてガギグルスに握り拳を振り下ろした先行量産型ライグル級人型機構のコックピットを開き、ドルテンの部下Aを引きずり出し、揺する。

 

血に染まった先行量産型ライグル級人型機構の握り拳、壊れた壇上からはガギグルスの血が流れ落ち、雪に赤い滴を点々と残していく。ガギグルスを抱きかかえるキェルケゴア。立ち尽くすガグン。

 

ガグン『おい、嘘だろ・・・。』

 

ガギグルスを揺するキェルケゴア。キェルケゴアは呪文を唱え、手を光らせてガギグルスの傷に当てる。ガグンは眉を顰める。窓に駆け寄る黒巫女達。リシューの方を向くガグン。

 

ガグン『あれは冗談だよな…。』

 

青ざめた表情のリシューとひきつった顔の黒巫女達。ガギグルスは血で染まる右腕で胸のペンダントを引きちぎり、蓋を開けて暫し見つめた後、微笑を浮かべて眼を閉じる。

 

ガグン『これも何かの演出じゃあ・・・。』

 

ガギグルスの右腕が地面に崩れ落ちる。

 

リシュー『それは…無い。謀反だ…。謀反が…。』

 

眼を見開いて崩れ落ちるガグン。ガグンは眼を閉じて歯を食いしばり天井を見上げる。ドルテンはドルテンの部下Aの両肩を持ち、彼の体を、眼を見開いて見る。

 

ガグンは眼を見開いて、ガギグルスを潰した先行量産型ライグル級人型機構のコックピットのハッチに居るドルテンとその配下の兵士Aを睨みつけ、剣を抜き、床を蹴って司令部の窓を頭突きで割ると、額にガラス片を突き刺し、血を流しながらコンドール広場へと降り立つ。司令部の窓から顔を出すリシュー。

 

リシュー『ガグン!ガグン!!戻れ!!相手は世界強武の一人…。』

 

リシューは舌打ちする。

 

ガグンは地面を蹴り、ガギグルスを潰した先行量産型ライグル級人型機構のコックピットのハッチに飛び乗るとドルテン配下兵士Aを斬る。ドルテン配下兵士Aは口から血を流し、胴体が切り離されて、下に落下する。

 

唖然とするドルテン。ドルテンの配下の兵士Aの下半身からおびただしい血が吹き出す。ガグンは眼を血走らせ、剣の切っ先をドルテンに向ける。

 

ガグン『おのれ!ドルテン!貴様は!!』

 

ドルテンは下半身だけとなったドルテンの配下兵士Aの方を見る。

 

ドルテン『おおっ、貴様!!なんということを!』

 

ドルテン配下の兵士Aの下半身は横に倒れ、コックピットのハッチから地面へと落下していく。

 

ガグン『貴様というやつは!!!!!!ガギグルス様の仇!!!!』

 

ガグンはドルテンに向かい斬りかかって行く。ドルテンはガグンを睨みつける。

 

ドルテン『俺の・・・俺の部下をよくも!何も分からぬ小童めが!!』

 

斬りかかるガグン、ドルテンの戟の一閃。ガグンの体はリシューによって後ろに引っぱられる。ガグンはリシューを睨みつける。

 

ガグン『何をするリシュ・・・。』

 

肩筋から右腰にかけて斬られた傷からおびただしい出血をするガグン。ガグンは眼を見開いて傷口に手を当てる。よろけるガグンは息を切らしながらガギグルスを押しつぶした先行量産型ライグル級人型機構のコックピットのハッチに剣を突き刺して立ち上がる。リシューは呪文を唱え、光る手でガグンの傷口を触る。ガグンはリシューを睨みつける。

 

ガグン『手出し無用だ!』

 

リシューは眉を顰めてガグンを見る。

 

リシュー『何を言うかその傷では・・・ガグン!』

 

ガグンはドルテンを睨みつけ、血を滴らせながら一歩づつ進んでいく。

 

ガグン『無理などしておらぬ!!』

 

ガグンの口を覆う白い息。

 

ガグン『俺は!俺は!!どうしてもこいつを…。こいっ…。』

 

ガグンは白眼をむき、血を吐いてその場に蹲る。ガグンに駆け寄るリシュー。

 

リシュー『ガグン!!ち、一時撤退だ!シンシティア、キェルケゴア殿を頼む。』

 

C4 黒い翼、地に落ちて END

-7ページ-

C5 余韻

 

ロズマール共和国ロズマリー病院。

 

ガグン『うおおおおおお!俺はまだ負けてなぞおらん!ドルテン!!!』

 

音が鳴り、ガグンの目の前で眼を回すヒメナ。

 

リシューはヒメナの方を向く。

 

リシュー『可哀相にずっと看病していたのにな。』

 

リシューはガグンの方を向く。

 

リシュー『夢の中でまで戦っていたのか。もう戦いは終わったぞ。』

 

ガグンは首をかしげ、リシューを見る。

 

リシュー『ここはロズマリー病院だ。』

 

ガグンは自身の体を見回した後、リシューの方を向く。

 

ガグン『戦いは終わっただと。』

 

ガグンはリシューに詰め寄る。

 

ガグン『ならドルテンは?ドルテンはどうしたのだ!誰が討ち取った!?』

リシュー『誰も討ち取ってはおらん。』

 

眉を顰めるガグン。

 

リシュー『ガギグルス様の仇討に参戦した議長を司令とする共和国全諸侯部隊の中を強行突破して逃げた。妙な事に軍勢が来るまでしきりに我々に対して通信を試みていたようだがな。』

ガグン『逃げた!?』

 

リシューは溜息を付き。空を見つめる。

 

リシュー『あの機体のセキトエンジンの馬力ならもうアバタール・レジェンタス領に着いている頃だろう。』

 

ガグンは下を向く。

 

ガグン『勇者国家に逃げ込んだだと!まだ勝負は終わっていないと・・・終わっていないと言うのに!』

 

リシューは腕組みしてガグンの方を向く。

 

リシュー『いや、貴様の負けだ。完敗だ。もし俺が貴様を後ろに引かなかったら切り裂かれ死んでいたからな。それは…お前が良く分かっている事だと思うが…。』

 

ガグンは歯を食いしばって俯く。ガグンの頬から流れる雫を日の光が煌かせる。リシューはガグンの肩を叩く。

 

リシュー『お前の侍従がのびていて良かったな。』

ガグン『う、うるせえ…。』

 

ガグンは布団を顔まで被り、横になる。

 

C5 余韻 END

 

END

 

説明
・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
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R-18グロテスク 悪魔騎兵伝(仮) 

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