魔法幽霊ソウルフル田中 〜魔法少年? 初めから死んでます。〜 自分より強い相手に勝には? 田中「人質」な31話
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花子さんに出会う前の俺は、色んな事に対して諦めて、絶望していたと思う。

 

守護霊気取って取り憑いたはいいものの、なんにも知らなかった俺はなのはちゃんに何もしてあげれなくて。

 

何よりも一番きつかったのは、士郎さんが入院して、高町家のみんなが大変だったあの頃。

 

俺が何もしなくても、なのはちゃんは家族みんなで頑張って立ち直っていく。

 

その姿をただ見ているだけだった俺は、『俺はいなくてもいい』ってずっと言われ続けてるような気がしてたから。

 

だから、同じ思いをしてるかもしれないリニスさんに教えてあげたい。

 

『俺達幽霊だって、出来ることはある』って。

 

 

 

 

 

「やはり、来ましたか」

 

森の上空、奇しくも初めて出会った時と似たような状況で、俺とリニスさんは再び対峙していた。

 

違いがあると言えば今は真夜中というぐらいか。

 

「そりゃあまあ、俺もなのはちゃんも諦めてませんからね」

 

俺を睨んでいるリニスさんに対して俺はできるだけ軽口で対応する。

 

ちなみになのはちゃん達は置いてきた。

これからの戦いに(精神衛生上宜しくないという意味で)ついてこれそうにないからな。

 

俺の高速飛行は一直線を飛ぶだけなら音速超えるし、なによりマクシー君の『十傑走り』が速いのなんのって。

途中木の枝に頭ぶつけてポロリをするというハプニングもあったが、余裕で先回りすることが出来たぜ。

 

「諦めない? フェイトが、あの子が母親に振り向いてもらおうとするのを邪魔する事をですか!」

 

リニスさんは怒りを浮かべた表情で、真下にいるフェイトちゃん達を指差した。

 

 

まだジュエルシードに軽く魔力を当てただけで、封印はしていないらしい。

ジュエルシードが川にかかっている橋の上に浮き上がり、青い輝きを放つのをフェイトちゃんと人間体のアルフちゃんが見ている。

 

 

よし、こっちの先回りも完璧。

今回はジュエルシードも利用させてもらう腹積もりだからな。

 

「まさか、俺もフェイトちゃんがお母さんと仲良くなれば万々歳。なのはちゃんは純粋に、フェイトちゃんと友達になりたいらしいですよ?」

 

「なら何故ここに。言った筈です、『次に会うことがあれば容赦はしない』と」

 

ヴゥン……とリニスさんは魔力弾(人魂)を精製した右手を俺に向ける。

いいぞ……そのまんま注意を俺に向けといてくれよ……!

 

 

「このまんまじゃ、フェイトちゃんはジュエルシード集めたらいけないんです。だから止めに来ました、貴女とフェイトちゃんを」

 

「貴方にできるとでも? 死者である貴方が生きているフェイトを止める? 私だって馬鹿じゃありません、分かってるんですよ。前に戦った時、貴方は私に傷をつけることが『できない』のは」

 

「ありゃ、バレてましたか。でもまぁやってみせますよ。なんせ今日の俺は――――

 

 

チラッ、とリニスさんにバレないようにフェイトちゃん達の方を盗み見る。

頼む、まだジュエルシードを封印しないでくれ!

 

 

 

「凄い魔力、これがジュエルシードねぇ。なんだってフェイトの母親はコレが欲しいんだか……」

 

「母さんの研究は難しいから私にもよく分からないけど、母さんが必要なら手に入れるよ。――バルディッシュ」

 

〈シーリング〉

 

 

今だっ!!!

 

 

ダカダカダカダカダカ! バシッ!!!

 

「「ぶっ!?」」((なにあの変な走り!?))

 

〈シーリング失敗。何者かに対象を強奪〉

 

 

 

――――俺じゃなくて、『俺達』ですから」

 

「もう一人、援軍をっ……!?」

 

すぐ傍まで待機させてたマクシー君をフェイトちゃんへ向けて全力ダッシュ。

今まさに封印されようとしていたジュエルシードを、横からかすめ取ることに成功した。

 

よっしゃ! 作戦その1、『フェイトちゃんにジュエルシードを封印させない』!

 

「フェイトちゃん達を止めるのはアイツがやってくれます。リニスさんを止めるのは――――俺の役割だっ!」

 

「戯れ言を! なら貴方を倒して、フェイトに加勢するまでっ!」

 

ついでに作戦その2! 『実は俺一人で戦ってることを悟らせない』!

 

リニスさんのフォトンランサーが放たれるのと、俺の人魂シュートが撃ち出されるのはほぼ同時だった。

 

ボカン! と俺達の攻撃は相殺され爆音を生み出す。

さあ、リベンジマッチの始まりだ!!!

 

 

 

 

一方、田中達の下ではフェイト達が突然現れた乱入者に困惑していた。

この森の近くにある温泉旅館には以前戦った魔導師たちがいる、だから乱入者が現れる事に対しては驚きはしなかった。

しかし問題は乱入者の『見た目』だ。

 

「よ、鎧……?」

 

アルフが乱入者に対して見たままの感想を呟く。

ジュエルシードを封印しようとした寸前でジュエルシードを強奪した人物は、見た目だけで言えば『騎士』だった。

 

ミッドチルダ出身の二人から見れば、その姿は遥か昔に存在した古代ベルカの騎士のような姿。

ただし、『それ』はある違和感をフェイト達に与えていた。

 

「フェイト、コイツ変だよ。人間のにおいがしない……」

 

「うん。気配も全く無かった」

 

光を放つジュエルシードを左手で弄んでいる騎士は、確かに目の前にいるはずなのに未だ『気配がしなかった』。

狼であるアルフも人間のにおいがしないと言う。

 

分からない、ジュエルシードを奪った目的も、魔導師なのかそうではないのか、いや『人間なのかも怪しい』。

 

 

(あと、さっきの変な走り方人間技じゃない……クッ。お、思い出したらちょっと可笑しくなってきた……!)

 

不覚にも思い出し笑いをしそうになるフェイト。

 

仕方ないと思う、だって足は見えない程激しく動いてるのに上半身は腕組みしたまま固まっているのだ。

そんな走り方を鎧を着た騎士がやっている様はシュールすぎる。

が、なんとか笑いをこらえて、目の前の騎士に意識を集中する。

 

「あの! その宝石を返してください!」

とりあえず会話が通じる相手なのか確かめるため、フェイトは鎧の騎士に向かって呼びかけるが。

 

「…………」

 

「返す気は無いってわけかい……!」

 

 

騎士は右手に剣を、左手に盾をジュエルシードごと握りこむ。

更に右手で人差し指を『チョイチョイ』とジェスチャーをしている辺り、『返して欲しかったら力ずくで来い』とでも言っているらしい。

 

 

「ぐっ……フェイト、適当にボコボコにして取り戻そう!」

 

「う、うん。ごめんなさい、少し痛いかもしれないけど――――いきますっ!」

 

〈サイズフォーム〉

 

アルフは正面、フェイトは飛行して左側から攻める。

 

ただしフェイトの速さはアルフの比ではない。

騎士から見れば、フェイトの姿は突然消え、アルフだけが突っ込んでくるように見えるだろう。

兜が視界を狭めているから尚更だ。

 

(鎧を着込んでいても私の雷なら感電する。誰かは知らないけどジュエルシードは渡さない!)

 

結果、鎧の騎士は正面のアルフに気を取られている間にフェイトのバルディッシュで切り裂かれる。

 

 

 

ガアン!

 

「えっ!?」

 

 

筈だった。

バルディッシュの柄と騎士の十字剣の切っ先が競り合う。

閃光の刃は騎士に届いていなかった。

 

しかも、『顔の向きすら変えず、右腕のみを動かして』だ。

 

(動きを読まれた!? 初動すら見せなかったのになんでっ!?)

 

攻撃を見ることもなく防御する姿に、思わずあの白い魔導師と戦った記憶が蘇る。

 

 

「ならあたしが相手だっ!」

 

 

しかしフェイト達の攻撃はまだ終わらない。

正面から突っ込んでいたアルフは、既に騎士の懐へ入っている。

 

騎士の右手はフェイトが塞いでいる、つまり剣術は不可能。加えてアルフの体術は並みではない、左手の盾だけで防ぎきることも不可能だ。

 

「おりゃあああっ!!!」

 

アルフは鎧ごと砕くつもりで拳に魔力を纏わせ騎士の鳩尾に拳を叩き込む。

 

 

 

ベチコーンッ!!!

 

「たてベブッ!?」

 

「ア、アルフーっ!?」

 

 

……筈だったのだが、騎士は左手の盾でアルフの顔を横からぶっ叩いた。

所轄、『シールドスマイト』と呼ばれる技である。

防御はムリだけど攻撃は可能だったということらしい。

 

「〜〜〜〜っ(泣)!?」

 

アルフは余程痛かったのか、目に涙を浮かべて橋の上でゴロンゴロン悶えている。

 

攻撃はないと侮っていたためにプロテクションも張れなかったようだ。

 

 

「よくもアルフをっ!」

 

使い魔であるアルフを傷つけられ、フェイトは怒りに顔を歪める。

ガン! と鍔迫り合いをしていたお互いの得物を離し、再び高速で騎士の周りを飛び回る。

 

 

フェイトの最大の長所は『速さ』だ、並みの魔導師どころか達人級の強さを持つ者でも追いつけないほどのスピードである。

 

その速さを活かし常に高速で視界の死角へ回り込み、閃光の刃が当たるまで何度も斬りつける!

 

(読まれてもいい! 体が追いつけないぐらい、速く!)

 

 

ガアン! ギン! ガガガ!! ゴッ!

 

「っく!」

 

だが通らない。

右も左も上も後ろも、後ろに目が付いていると錯覚するぐらいに反応され斬撃の全ては右手の剣のみで封殺されていた。

 

しかもこの騎士『その場から一歩も動いていない』。

何のカラクリもなく、本当にこの騎士自身の実力だとすれば格が違い過ぎる。

 

 

(なら、ロングレンジで打ち抜く!)

 

しかし、フェイトは接近戦のみで戦う騎士ではない。

例え相手の方が上手だとしても、同じ土俵で争わなければいい。

 

どうやら騎士の装備は剣と盾のみ、防御する時にプロテクションも使わない所から、にわかには信じがたいが魔導師ではないらしい。

 

ならば遠距離からの砲撃で一方的に攻める。

そう考えたフェイトは距離をとるため上空へ飛ぼうとして。

 

 

 

チラッと、騎士が左手にあるジュエルシードを見せた。

 

(――――ッ!? 駄目、ジュエルシードに当たる!)

 

ジュエルシードは、言ってしまえば魔力の塊のようなもの。

他者が少しでも『願うだけで』中に秘めている魔力を暴走させてしまうロストロギア。

 

そんな不安定過ぎる爆弾に攻撃という強過ぎる『刺激』を与えればどうなるか。

下手をすれば、この世界すら巻き込んだ大災害になりかねない。

 

 

フェイトはここにきて初めて、騎士が何のためにジュエルシードを強奪した理由が分かった。

 

(遠距離戦を封じられた、迂闊に砲撃は撃てない……!)

 

つまり人質。

騎士は初めからフェイト達に接近戦しかさせないつもりだったのだ。

 

 

しかし疑問も残る。

何故、『初めて会った筈の』騎士がフェイトの戦法を知っているのか。

何が目的でフェイト達と戦っているのか。

 

 

いくら考えようと答えは出ない、だが一つだけ分かることはある。

自分達は今、とんでもなく不利な状況に立たされているということだ。

 

「アルフっ!  ジュエルシードに攻撃が当たらないように気を付けて!」

 

 

 

「あたたた……頬がヒリヒリする……。分かった、じゃあまずはコイツの動きをバインドで

 

 

「……」←ねえねえ今どんな気持ち? 俺一歩も動いてないんだけどどんな気持ち? の動き

 

「むっかあああっ! あったまきた! コイツぶん殴る! 顔面タコ殴りにしてやる!!!」

 

「ちょ、アルフー!?」

 

あと、アルフが若干制御不能気味で更にピンチ。

あの騎士、騎士道精神とかないのだろうか。

 

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「ふっふっふっ。マクシーくんの方は順調だ……あだっ!?」

 

「隙ありです!」

 

いかん、マクシーくんの操作に集中しすぎて肩に被弾した。

まあ大したダメージじゃないからいいけど。

 

 

今、俺はフェイトちゃん達が戦ってる真上でリニスさんと人魂を撃ち合っている。

 

フェイトちゃんがちょっと高く飛び上がるか真上を見上げれば人魂の光が見えるのだろうけど、生憎フェイトちゃんはマクシーくんと交戦中だから気付いてない。

 

そう、マクシーくんにジュエルシードを奪わせた本当の理由は『フェイトちゃんに俺達の戦いを気づかせないため』。

俺がリニスさんに勝つためには『フェイトちゃんとリニスさんを完全に分断する』必要があるのだ。

 

 

「あたれっ!」

 

「なんのっ! 人魂シュート!」

 

正面からリニスさんがフォトンランサーを幾つか撃ってくる。

対して俺は花子さんとの特訓で身につけた、人魂の高速射撃でフォトンランサーを撃ち落とした。

 

「前の俺と同じと思ったら大違いだっ! ちゃんと射撃もこなせますよ!」

 

「くっ!」

 

ふふふ、伊達に花子さんの鬼畜射撃を捌いてないぜ。

さーてリニスさんに勝利するための更なる布石を打つとしようか!

 

 

俺はチラッとマクシーくんの方を見る。

さっきNDKの動きで挑発したから、アルフちゃんが見事に引っかかってるぜ。

ふむ、素直に顔面を殴るのか……まあアルフちゃんのパンチは破壊力ありそうだからガードはやめて。

 

 

ヒュッ! ゴーンッ!

 

「あがっ!?」

 

マクシーくんをしゃがませてパンチを回避、そして勢い良く足を伸ばしてアルフちゃんの顎に鋼鉄の頭突きをお見舞いする。

 

再び橋の上で痛そうに転げるアルフちゃん、あー……ごめんね、君が嫌いな訳じゃないけどこんなやり方しなきゃ格闘で勝てそうにないからさ。

 

 

――――さて、ここで一つマクシーくんの異常な強さについて解説しておこうと思う。

 

先ずは『フェイトちゃんの攻撃に反応できる』点、フェイトちゃんは確かにマクシーくんの死角を突いて攻撃をしていたけど……。

 

 

ぶっちゃけ、マクシーくんを動かしてるのは上にいる俺だから、フェイトちゃんの動きが丸見えなのである!

だからフェイトちゃんがいくら『マクシーくんの』死角を突いても無駄無駄、アルフちゃんとのコンビネーションも丸分かりなんだよね。

 

 

「アルフっ!」

 

アルフちゃんの様子が目に入ったリニスさんが、マクシーくんに向けて援護射撃をしていた。

当たり前だ、リニスさんにとってはアルフちゃんもフェイトちゃんと同じぐらい大切な教え子なんだから。

 

「でも、させませんよ! 貴女の相手は俺だ!」

 

ズドドンッ! と援護射撃は俺のディバインバスター(人魂)で粉々に打ち砕かれた。

よし、作戦その3『リニスさんにマクシーくんの戦いを干渉させない』!

 

「……ッ!」

 

歯噛みするリニスさん、本当なら、今すぐあっちに行ってフェイトちゃん達に加勢したい気持ちでいっぱいだろう。

 

そうやってマクシーくんの方へ攻撃をしてくれれば、俺の負担も減るからどんどん攻撃してくれ。

ぶっちゃけマクシーくんの操作がキツい、頭がさっきからガンガンするんだ。

俺が動きながらマクシー君を動かすって、例えるなら『徒競走しながら格ゲーやる』みたいな感じに近いし、難しすぎてマクシー君一歩も動けない。

 

そして俺はまたもやマクシーくんの方をみる。

いちいちあっちを視界に入れなきゃいけないのがこの戦法の弱点なんだよな……。

 

何回かその隙を突かれて攻撃受けちゃったし、まあ今のところ大事には至ってないからいいけど。

 

「うあああっ!!!」

 

おー、フェイトちゃん本気だしてるな、アルフちゃんをやられた怒りからか姿が捉え辛い。

 

が、その金髪は夜中でも目立つんだよ。

右から首を斬りつけるみたいだな、よし……。

 

 

ガシッ

 

「えっ?」

 

剣を収めて、『素手でバルディッシュを掴む』。

マクシーくんをその場で回転させる、ハンマー投げみたいにね!

 

ブン! ブン! ブン! ブンッ!

 

「ええええっ!?」

 

どんどん回していきまーす!

思い出すぜ、赤い配管工がカメの親玉の尻尾をつかんでブン回し爆弾にぶつけるあのゲームをなあ!

回転速度は増していって、やがて俺もマクシーくんがよく見えなくなる程速く回転していく。

 

そろそろ投げるか。

え? どこにだって?

まあここには爆弾はないから……。

 

「い……いひゃい。ひひゃかんら……」(い……痛い。舌かんだ……)

 

アルフちゃんへゴー!!!

ボヒュン! と回転に任せてフェイトちゃんを投げた。

すんごい勢いで投げたから、飛行すらできずにアルフちゃんへ一直線だ。

 

「きゃああああ!?」

 

「フェイボッ!?」

 

フェイトちゃん渾身の頭突きがアルフちゃんの腹に直撃ー!

二人仲良く転がって、後ろにあった木に激突してよーやく止まった。

 

「「痛っ!?」」

 

なんかコメディ番組みたいだな、うん。

 

 

さて、ここでマクシーくんの強さの理由その2『フェイトちゃんの攻撃についてこれるスピード』について話そう。

 

先程からマクシーくんはフェイトちゃんの攻撃を難なく受け止めたり掴むといった芸等を見せている。

 

攻撃がどこから来るか分かるからそんな事が出来る、というのは違うのだ。

やっぱりフェイトちゃんは速いから、いくら反応できても『体がついてこれない』つまり普通なら攻撃は当たっている訳だ。

 

では何故当たらないのか、それは『マクシーくんの動かし方』にある。

 

ポルターガイストで動かせる物の速度というものは、『軽ければ速く、重ければ遅く』なっていく。

 

ポルターガイストで動くマクシーくんの総重量は大体40キロぐらい、まあ金属の塊だからこれぐらいは当たり前だ。

 

俺にとってこの重量は『それなりに重い』ので、実はマクシーくんはもっと遅くなる筈だった。

 

もっとも、『マクシーくん全体の重さを動かすなら』の話。

 

 

例えば、千羽鶴を『折り紙千枚を一斉に折る』ことで10秒も経たずに完成させるように。

 

マクシーくんの体のパーツを細かく、一つ一つ『分割してポルターガイストで操作する』なら話は違う。

金属の板一枚ごとの重量は大して重くはない、だからフェイトちゃんに匹敵するスピードで動かせるという訳。

 

操作だけに集中すればもっと攻めることが出来るよ? 今の所フェイトちゃん達の攻撃を受け止めてから反撃しかしてないけど。

まあその分操作が複雑になるからもっと頭が痛くなるんだけどね。

 

「おっ? あっちの方が先に終わったかな?」

 

「っ! あの子達はそう簡単にやられませんっ!」

 

俺は頭が痛むのもバレないように我慢して、リニスさんを挑発する。

 

リニスさんは口では否定しているものの、その表情は隠しきれない焦りと不安でいっぱいになってる。

 

よし、作戦その4『リニスさんの余裕を無くす』!

 

 

「ここから先は手加減なしです! 本気で貴方を倒しますっ!」

 

リニスさんの雰囲気が変わる。

恐らく俺を殺す気でくる、フェイトちゃんを助けようとしても俺に絶対邪魔されると理解したからか。

 

さあ……こっからが正念場。

『アレ』が来るまで耐えきってやるぜ!

 

 

リニスさんは右腕を上に高く上げた。

 

ぞくり、と真上から嫌な感触。

不味い、とにかく今の場所から離れなければと思い『フェイトちゃんの飛行』をイメージする。

 

「サンダーレイジ!!!」

 

「うがあっ!!?」

 

ズゴオンッ!!! と凄まじい轟音と共に上空から落ちてきたのは雷。

 

自然現象のソレと遜色ないまでにリアルなイメージは、光と同じ速度で俺を貫く。

 

くそっ、後ろに飛んだつもりが、回避が遅れたか!

 

直撃は免れたけど左足をやられた。

『イメージを重ねる動き方』は動かすまでに少しだけ集中しなきゃいけない、必ず初動が遅れてしまうのだ。

 

「やはり回避しましたか。ですが、私の攻撃は終わってませんよ?」

 

「っ!?」

 

正面から聞こえた声に、俺は目を見開く。

 

リニスさんは両手で魔力刃を作り上げ、間髪入れずに追撃をしかけてきた!

 

「うぐうぅぅっ!」

 

バチチチッ! と俺も咄嗟に作った人魂ソードで何とか受け止める。

 

だが体勢がいけなかった。

後ろに回避しようと飛んでいた所で正面から斬りつけてきたのだ。

 

ガアン! と、勢いの乗った斬撃は男女の力の差は関係なしに俺をはじきとばした。

 

「のわわっ!」

 

「まだまだいきますよ! フォトンランサー!」

 

しかもまだ終わってない。

吹っ飛んだ俺の『前後から』フォトンランサーが迫ってきた!

 

一体どんなイメージ力だよ!

俺なんか人魂は手元以外の離れた場所には作るのに時間かかるし、サンダーレイジなんて雷そのものだったぞ!?

 

やっぱり『魔法として』使っているから人魂のバリエーションが豊富なのか、俺は炎の塊としか思ってないし。

 

「終わってたまるか、全部撃ち落としてやる!」

 

 

花子さんの人魂はもっとスパルタだったんだ、これぐらい!

 

俺は体勢を整え横を向く、フォトンランサーが左右に来る形にして両腕を水平に伸ばす。

 

 

「ディバインバスター(人魂)!」

 

両手から放つディバインバスターで左右の攻撃を全て破壊した。

だが、ディバインバスターの衝撃を左右から受けるために体に痛みが走る。

 

直撃よりかはマシだけど連発はしたくないな。

 

「あれを凌いだのは予想外です。でも、『それで精いっぱい』。なら押し切らせてもらいますよ」

 

「あーもう! 攻撃する暇もないなちくしょう!」

 

 

リニスさんは攻撃の手を緩めることは無い、だがこのままじゃ駄目だ。

ただリニスさんに攻めさせればいいのではない、俺がリニスさんに勝つためには『アレ』が、『あの技』を使う時しかないのだ。

 

限界ギリギリの頭をフルに使い、俺はリニスさんの攻撃を凌ぎながらマクシーくんの操作を再開する事にした。

 

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「うう……」

 

騎士のジャイアントスイングで放り投げられ、木に激突したフェイトは頭をさすりながら、とりあえず隣で気絶しかかっているアルフを揺すり起こすことにした。

 

「アルフ、起きて」

 

「きゅ〜……ハッ!? フェイト、大丈夫かい!?」

 

「うん、ちょっと痛かったけど大丈夫。体勢を立て直そう」

 

アルフもフェイトも重なって木に寄りかかってしまっていたので、さっさと立ち上がらないといつ追撃がくるか分からない。

 

二人は並んで立ち上がり、騎士を睨みつける。

 

「……」

 

一方の騎士はフェイト達が立ち上がった事など気にもしてないようで、ジャイアントスイングの際におさめた剣を抜いてすらいない。

 

(あたし達相手に剣もいらない……ていう理由じゃないだろうね。多分)

 

(うん、挑発に見せかけた攻撃の準備って考えたほうがいい)

 

二人は騎士に聞かれぬよう念話で話し合う。

今まで散々この騎士にはしてやられているのだ、安易な挑発とは捉えずに充分な警戒をするべきと判断したためである。

 

(それにしても、コイツは手強いっていうか……)

 

(滅茶苦茶な戦い方をして、相手を翻弄するのが得意みたい)

 

ついでに騎士の戦闘スタイルについても考察する。

騎士はフェイト達が攻めてくるのを待っているのか、動く気配がない。

 

(だよねぇ、あたしもまさか盾で殴ってくるなんて考えもしなかったしさ。近づいてぶん殴れそうだったのに……)

 

(私も遠距離からの攻撃は封じられちゃうし、絶対に見えてない筈の攻撃も防がれた)

 

二人が共通して思うことは『思い通りにいかない』ということであった。

セオリー通りに戦おうとすると、騎士は予想外の動きをして必ず崩されてしまう。

そしてフェイト達が動揺している隙を突いて攻撃を仕掛けてくるのだ。

 

 

そこまで考えたフェイトとアルフは、既に次はどう動くのかを決めていた。

 

(でも、ま。そうまでして『普通に戦わせたくない』なら……)

 

(否が応でもまともに付き合ってもらうっ!)

 

ドッ! とアルフは走り、フェイトは飛行して騎士へと向かう。

フェイトの周りには発射の準備ができたフォトンランサーの光が浮いていた。

 

「やあっ!」

 

〈フォトンランサー〉

 

 

発射された閃光は真っ直ぐ騎士の『足元』へ着弾、これには今まで一歩も動くことのなかった騎士も回避するしかない。

後ろに大きくジャンプして距離をとろうとする。

 

「や〜っと動いた。いくらフェイトに対応できるぐらい速くても、空中ならかわしようがないよねぇ?」

 

だが、後ろへ回避することを読んでいたアルフがまだ空中にいる騎士の所へ飛び込んでいた。

騎士の足は地についておらず動くことはできない、今度こそアルフは右の拳を叩き込む。

 

「さっきのお返しだっ!」

 

ゴンッ! と鈍い音を響かせ騎士は殴り飛ばされ、盾を構えるも余りの威力に盾が粉々に砕け散ってしまう。

 

「くう〜っ! すっきりした!」

 

「バルディッシュ、お願いっ!」

 

〈ライトニングバインド〉

 

 

騎士が体勢を崩した今、このチャンスを見逃すフェイトではない。

主の呼びかけに答えたバルディッシュは木に叩きつけられた騎士の周りにバインドを展開、騎士の五体を拘束する。

 

〈バインド完了〉

 

「…………」

 

木に磔にされた騎士はバインドを解こうともがくが動くことができない。

 

縛られたバインドを破るには魔力を使いバインドの魔力構成に干渉することが必要なのだ、魔導師ではない騎士には自力で脱出は不可能である。

 

 

「まずはジュエルシードを返してもらいますっ!」

 

最後の仕上げに、フェイトが騎士の左腕目掛けてバルディッシュを振り下ろす。

左手にあるジュエルシードさえ取り戻してしまえば、後は空から攻撃するなり逃げるなり自由にできるからだ。

 

 

腕も足も、念入りに頭まで縛られた騎士は予想外の動きなど出来るわけがない、そう考えたフェイトの作戦は成功する『筈だった』。

 

フェイト達が初めに考えるべきだったのは、突然乱入してきた騎士が魔導師かどうかではなく『人間なのかどうか』。

 

『挑発』や『ジャイアントスイング』、騎士があまりにも人間くさい挙動をとるせいで見抜けなかったのだ、もし、フェイト達が初めからこの騎士が田中の操る『空っぽの甲冑』だと気付いていたら――――

 

 

 

ガシャガシャガシャッ!

 

「「!!?」」

 

――――体をバラバラにしてバインドから逃れる事など、簡単に予想できただろう。

 

 

 

兜が、腕が、足が、胸が、騎士の体を覆っていると『思っていた』パーツが次々に分離し、緩んだバインドから脱出していく。

そこには、本来あるはずの『肉体がない』その事実にフェイト達は驚き、一瞬のスキをつくってしまった。

 

ガシャガシャッ!

 

「…………」

 

「っ!? プロテクション!」

 

〈プロテクション〉

 

 

 

バラバラになった鎧が組み上がり、上半身だけの騎士が『飛行しながら』フェイトに切りかかってくる。

 

 

ガッ! とフェイトはとっさに張ったプロテクションで防御に成功するが、頭の中が混乱に支配される。

 

(なっ、中身がない!? なんで!? なんで動いてるの!?)

 

とりあえず落ち着くためにフェイトは距離をとろうと後ろへ飛ぶ、しかし騎士の上半身は逃さないとばかりに剣の鞘を左手に持って斬撃のラッシュを叩きつけてきた。

 

ガッガッガッガッ! とプロテクションが削られていく、騎士はあろうことかジュエルシードを握っている左手まで使っているから下手に反撃ができない。

 

「うっ……く!」

 

「フェイト! いま助けに……ってうわああっ!? あ、足が!?」

 

「……」

 

助けに入ろうとしたアルフの前にも騎士の下半身が立ちふさがっていた。

騎士の下半身はフェイトに駆け寄ろうとするアルフに向かって真っ向からジャンプ、空中で体をひねり逆さまの状態で激しく回転する。

 

「…………」

 

「ぐあっ!? なんだいコイツっ!」

 

気絶させるのが目的なのか、頭を狙ってくる足を腕でガードする。

だが下半身の回転は止まらず、そして何故か空中に留まって幾度となく繰り返される蹴りにアルフは足を止めざるをえなかった。

 

反撃する間も与えないとばかりにひたすら攻め続ける上半身と下半身。

 

実はこの動き、『テケテケ』と『トコトコ』の戦闘をそのままトレースしたものである。

 

田中は自分の体を動かす際、以前に自分が見た他者の動きをイメージする事によって同じように動くことが出来るのは知っての通りだろう。

 

だがしかし、この『イメージを重ねる動き』は完璧にトレースが出来るわけではない。

その理由とは『イメージのずれ』にある。

 

田中は他者の動きをイメージする時『第三者の視点から見た』動きを自分に重ねてしまっている。

完璧に動きを再現するためには、『自分の視点から見た』動きのイメージが必要なのだ。

 

だから田中はフェイトの動きをイメージする時、集中する時間もかかる上にかわしきれていない。

 

もっとも、今回のようにマクシー君を『第三者視点で』操作し、トレースする分には全く問題ない。

 

「……」

 

「わ、ちょ! 痛たたっ!」

 

空中に止まる程の速度で、カポエラの如き回転蹴りを繰り出す『アシダケコプター』の状態で下半身は更にアルフに迫る。

 

あまりの勢いにアルフは踏ん張れず、尻餅をついてしまった。

 

そして下半身はアルフの上で回転を止め、逆さまの状態から正位置へ戻り、両足を伸ばして――――

 

 

 

ズドムッ!!!

 

「ぐっはっ!!?」

 

「アルフぅぅぅ!?」

 

思いっきり真下へ落下、下にいるアルフの首に伸ばした足がクリーンヒット。

トコトコ直伝『ギロチンドロップ』である。

 

重力だけでなくポルターガイストで地面へ押し付けてるから威力アップ、よい子は真似をしないように。

 

「ぐ……フェ、フェイト……がくっ」

 

白目を向いて気絶するアルフ。

 

 

ポルターガイストの操作なら『第三者視点の動き』を『第三者視点で再現する』ので、完璧かつ迅速に動かせれる。

ぶっちゃけ田中が直接戦うよりよっぽど強かったりする。

 

 

 

「アルフ! しっかりして!」

 

フェイトが叫ぶがアルフから返事はない、一応息はしているものの戦闘は完全に不可能である。

 

「……」

 

「……」

 

「くっ……!」

 

そして上半身の加勢に入る下半身。

 

相手の正体は以前不明のまま、オマケに人質としてジュエルシードがある。

 

正に、絶体絶命の状況に追い詰められていた。

 

 

-4ページ-

 

 

「「フォトンランサーっ!」」

 

ズドドド! と俺とリニスさんの攻撃が空中で相殺される。

 

俺は撃ち落としきれなかった数発を受けつつも、リニスさんから目を離さずその動きに注目する。

右に行ったな、なら俺は左に飛んで……!

 

「「アークセイバー!」」

 

 

リニスさんと全く同じ技で応戦する!

 

「くっ!」

 

 

さっきから俺がしぶとく足掻いてるからリニスさん、ますます焦ってるな。

 

ふふふ、マクシー君を動かしまくったから頭が割れそう。

だがしかし! こうやってリニスさんと同じ技を出し続けておけばそんなに考えずとも時間稼ぎが出来る。

 

 

スカッ

 

狙い通り、俺とリニスさんのアークセイバーは相殺さ……れ……?

 

 

ギャリリリッ!!!

 

「あだ! あだだだだ!?」

 

「!?」

 

あれ!? スカった!?

俺が撃ったアークセイバーは軌道がずれてたらしく、リニスさんのアークセイバーがそのまんま俺にぶち当たった。

 

リニスさんも当たったのは予想外だったらしい、目をまん丸にして俺を見ている。

 

しかし何で当たらな……ああ、頭痛のせいで狙いが定まってないんだ、マズいマズい。

 

 

「ぐうっ! 流石リニスさん、俺が相殺させるのを読んで軌道を修正するとはっ!」

 

「え、は、はあ……?」

 

限界を悟らせないようにリニスさんが凄いってことにしておく。

いや実際凄いんだけどね、サンダーレイジとか真似出来なかったし。

 

 

まあさっきから何発も被弾してる、俺も限界が近いのは仕方ない。

このままなら落とされるのも時間の問題、だが。

 

「ですが、向こうはもうケリがつきそうなんで。向こうが終われば2対1ですよ」

 

そう言って俺は下のフェイトちゃん達を指差す。

そこにはマクシー君(下半身)のギロチンドロップで気絶したアルフちゃん、『フェイトちゃん達を追い詰める』のは成功した!

 

 

「!!? あ……ああっ……!」

 

動かないアルフちゃん、マクシー君の上半身と下半身の猛攻で追い詰められるフェイトちゃんを見てリニスさんは顔を青くする。

 

「アルフっ! フェイトっ!」

 

「おおっと!そっちにはいかせませんよ!」

 

 

マクシー君がなぜ中身がないのかとか、そんなことを考える余裕もないのか、我を忘れてそっちへ向かおうとするリニスさんの間に俺は割り込んだ。

 

うーん……どう見ても悪役だよねこの構図。

ちょっと気乗りしないが勝つため故致し方なし。

 

「何が目的なんですかあなた達は! あの子達を傷つけて、ジュエルシード回収の邪魔をして。既に死んでるあなたに何のメリットがあるんですか!?」

 

俺を睨みつけて叫ぶリニスさん。

ホントすんません、いま説明すると色々長いし、全部が終わったらきちんと事情説明するんで勘弁して下さい……。

 

「そんなこと、今気にしてる場合じゃないでしょう。早く俺を倒さないと『手遅れ』になりますよ?」

 

ホントすいません!

マクシー君めっちゃ加減してますんでお許しを!

アルフちゃんとか顔殴りましたけど痣一つ付けてませんから!

 

「っ!」

 

リニスさんは『手遅れ』という言葉を聞いて、完全に表情から余裕が消えた。

このままダラダラと戦い続ければ二人の命は無い、そう勘違いしてくれたようだった。

 

 

「以前私は貴方のことを『フェイトの障害にはなり得ない』そう言いましたが――撤回します。」

 

ヒュン! とリニスさんは俺から距離を取る。

その挙動、そして言葉から感じとれる気迫で分かった、『ケリをつける気だ』と。

 

 

ボウ……とリニスさんの周りには、満天の夜空に浮かぶ星と見間違えるほどの数の光が現れてゆく。

 

「目的はわかりませんが、あそこまでフェイトを追い詰める仲間を呼んでまで、私達を止めようとする貴方は」

 

アルフちゃんがやられて、フェイトちゃんが追い詰められて、その上俺はなかなか倒れないなら『そうするしかない』だろう。

 

俺を完全に倒しきるために、『あの技』で決着をつけるしかないと。

そう思ってくれるように俺は今まで動いていたのだから。

 

俺はリニスさんの動きを見ることだけに集中する、リニスさんの周りの閃光はどんどん増えていって、ざっと30は越えるほどになった。

 

あれはフォトンランサ―を放つ発射体、1秒に7発もの圧縮魔力弾を放つシロモノ、それを何発も用意して固い防御を『削ぎ落とす』今のフェイトちゃんの必殺にしてリニスさんが最期に教えた切り札。

 

 

 

「……『貴方は私の敵です』!!!」

 

『フォトンランサ― ファランクスシフト』

その技を……待っていた!

 

 

-5ページ-

 

 

一方、場所は切り替わって森の中。

温泉旅館からそんなに離れてはいない所で、田中達がいる方向へ向かう影が一つ。

 

「み、見るだけなんだからセーフ。アタイは師匠なんだから弟子の成長を見てやる必要があるっ」

 

温泉旅館で田中を待っていたはずの花子さんであった。

ぶつぶつと言い訳じみたことを呟き、後ろめたそうな表情で飛んでいる姿は普段の彼女からは想像が出来ないほどのコソコソ具合である。

 

何故花子さんが移動してるかというと……まあ、説明しなくてもわかるだろう、田中を待っているのが我慢できずに心配してコッソリ様子を見ようとしているのだ。

 

 

ちなみに初めの方はちゃんと待っていたのである「アイツならやれる、なんてったってアタイの弟子なんだからきっと大丈夫……」と半ば自己暗示気味にではあるが。

 

 

「特訓もしっかりやってるし、アイツはやるときはやれる男なんだから」

 

『離れた位置にいる相手を狙撃する訓練か……ちょろいもんだぜ!』

 

「そ、それにポルターガイストはアタイより器用だし、そんじょそこらの幽霊には負けない筈」

 

『見ててください花子さん、これが俺のポルターガイストの全力っ! 百ます計算千枚同時書きっ!(記録57秒)』

 

「……だ、大丈夫。アイツの言った作戦通りなら絶対に勝てる、『そんな作戦でホントに大丈夫なんだろうね』って何度も見直したから……」

 

『大丈夫だ、問題ない』

 

「だい……じょうぶ…………」

 

 

こんな感じで納得しようとしたらいつの間にか田中のいる方向へ飛んでしまっていたのである。

いや、これで納得できる方がすごいが、それにしたってこの主人公安心感というものが全く無い、というか『絶対に勝てる作戦』の時点で死亡フラグがたっている。

 

「だいたい! 今回もジュエルシードに悪霊が取り憑かないって決まってないんだから、アタイがいたほうがいいに決まってるよっ!」

 

それが建て前か本音なのかはどうかは兎も角として、正論ではある、建て前か本音かは兎も角として。

 

どうやらこの世界は、田中が言っている『魔法少女リリカルなのは』の筋書き通りに物事が進んでいない。

ジュエルシードの暴走体が一部は悪霊であったり、そもそも花子さん達幽霊が介入することもイレギュラーなのだ。

何が起きてもおかしくない、つまり作戦通りに戦える保証はどこにもないのである。

 

明確な目的(言い訳)で理論武装した花子さんは田中のもとへ急ごうと飛行スピードを上げていった。

 

 

 

――――この時の花子さんの行動は正しかった。

彼女が田中を心配して駆けつけようとしなかったら、おそらくは全てが台無しにされてしまっていたのだ。

 

 

 

「お、やっと見つけたぜ……って人違いかよ」

 

「!? 誰だいアンタ?」

 

目の前に現れた、戦いを求める意志に。

 

説明
大変更新遅れました、VSリニスです。
嗚呼、がらにもなくシリアスばかり書いて眩暈が……。
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魔法少女リリカルなのは ソウルフル田中 幽霊 ギャグ 

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