恋姫†無双 関羽千里行 第11-4話 |
第11話 ―拠点1-4―
○華雄
愛紗「それでは行きましょうか。」
今日は街の警邏を行う日だ。例のごとく持ち回りなのになぜか一緒になる日が多いのは突っ込んではいけないのだろう。準備を整えて城門へ向かう。
愛紗「今日は大通りの方から回ってみましょうか。最近旅の商人も増えてきたことですし、何かあっては大変です。それに菓子屋が新しくできたという話もあります。ついでに寄って二人で飲茶など...いえ、新しく菓子屋ができたとあっては人がごった返していて警備の者が見て回る必要があるはずです。ですから...」
今日の愛紗はご機嫌な様子だ。そこへ、
兵士「関羽様!」
愛紗「どうした。」
兵士「それが...」
愛紗「...ふむ。...そうか。」
愛紗はがっかりとした表情を浮かべて俺に向き直った。
愛紗「申し訳ありません。緊急の用事ができてしまったため、警邏に同行することがかなわなくなりました。ですので、か、な、ら、ず、誰か別の者を連れていって下さい。」
一刀「そうか。残念だね...」
愛紗「全くです...」
2人で大きく溜息をつく。
一刀「今日は誰か非番の人っていたっけ?」
愛紗「そうですね...華雄は確か今日の調錬はもう終わっているんではないでしょうか?」
一刀「そっか。じゃあいつものところにいるかな。ちょっと行ってみるよ。」
愛紗「わかりました。いいですか、必ずだれか連れて行って下さいよ?」
一刀「心配性なんだから...わかったよ。」
俺は城の中に建てられた1つの施設の前までやってきた。
一刀「失礼しまーす。」
一礼して中へ入る。ここは愛紗の強い希望でお爺ちゃんのところにあったのを模倣して作られた道場だ。もちろん細部は違うが、この雰囲気には落ち着くものがある。その道場の中で、
華雄「ふっ!ふっ!」
華雄が愛紗から教わった柔軟体操をしていた。なんでも愛紗に体をもっと柔らかくした方が、武に幅が出ると言われたらしい。柔軟体操でも気合いの入った掛け声を出す彼女らしさに少しクスリ。ただ、真剣なその様子に声をかけるのをためらってしまう。
華雄「お、北郷ではないか。」
のけぞった華雄と視線がばっちり合ってしまう。
一刀「やあ。頑張ってるね。」
華雄「ああ。まだ始めたばかりだがな。」
一刀「そか。今日はこれから鍛錬?」
華雄「今日はもうすることもないからな。それならばその時間を鍛錬に使うのが当たり前というものだろう。」
少しずれている気もするが華雄の向上心には感心させられるばかりだ。華雄はこっちに意識を向けつつ柔軟体操を続けている。
華雄「何か用があるのではないのか?」
一刀「ああ。街の警邏に付き合ってもらおうと思ったんだけど...」
華雄「警邏だと?ぬう...」
華雄が少し苦い顔をする。警邏に対して華雄は何か気にかかることがあるようだ。
一刀「もう鍛錬始めちゃってるみたいだし、無理にとは言わないよ。別の人を探すか見つからなかったら一人で行ってくるよ。一人だとしても危険なんてないしね。」
華雄「うぐ...」
華雄は少し悩んだ後、
華雄「いや、己が主君を放っておくわけになど行くまい。それにだいたい、私以外にあてなどないのだろう?」
一刀「ま、まあね。」
華雄「ならば私が同行しよう。さっさと警邏を終わらせるぞ。」
一刀「そうか。ありがとう。」
苦い顔の華雄に疑問を抱きながらも俺たちは警邏のために再び城門へと向かっていった。
おかしい。
何がおかしいのかというと、それは華雄の挙動だ。城門を出てからというもの何かを探すようにキョロキョロと視線を次々に移らせている。しかし、その目からは危険を探すような鋭いものではなく、どこか不安のようなものが見て取れた。
一刀「どうかしたの?」
普段の漢気を感じさせるようなどっしりとした態度とは全く異なるその様子に気になって声をかけてみる。
華雄「いや、どうかしたということはないが...まあきにするな。とにかく早く警邏を終わらせよう。」
一刀「警邏って早く終わらせるようなものでもない気がするんだけど...」
華雄「このあたりは人通りも多いから危険だ。早く次に行かなければ。」
人通りの多いところってなおさらじっくり行く必要があるのでは?そう思った矢先、
男の子「あ、華雄さまだ!」
華雄「!!」
隣の華雄がビクンと震える。声の元を探して後ろを振り返ると、
女の子「ほんとだ!華雄さまー!」
子どもたちが大挙してこちらに向かってきた。
華雄「北郷!ここは逃げるぞっ!」
一刀「え?なんで逃げなきゃいけないの?」
華雄「今は何も訊くな。だから...」
そんなやり取りをしてる間にどこからともなく現れた子どもたちにあっという間に俺たちはすっかり囲まれてしまった。
華雄「くそ...」
男の子「華雄さま!なにしてるの?」
華雄「うぐ...今は警邏中だ。だから邪魔するんじゃないぞ。」
女の子「華雄さま、華雄さま!華雄さまみたいにかっこよくなるにはどうしたらいいの?」
華雄「そんなことは知らん。自分で何とかしろ。」
女の子「えー。」
しょんぼりする女の子。それを見た華雄は慌てて、
華雄「そ、そんな顔をするな!そうだな、武芸を磨け。」
女の子「それはどうやるの?」
男の子「おいらも教えて!」
華雄「あ、ああ...まずだな...」
最初はぶっきらぼうに対応していた華雄もなんやかんやで今はちゃんと質問に答えていた。おそらく子どもが苦手なんだろう。
俺はしばらくたくさんの子どもに詰め寄られしどろもどろになっている華雄を見てほっこりとしていたのだった。
○霞
華雄「ひどい目にあった...」
子どもたちに質問攻めにされていた華雄はすっかり憔悴していた。
一刀「華雄ってあんなに子どもに好かれてるんだね。ちょっと意外だったよ。もしかして警邏行くの渋ってたのってああなるから?」
華雄「ああ、私は子どもが苦手だというのに、あいつらときたら私が街に出る度どこからともなくわんさか出てくるからな。」
華雄はこれで面倒見がいいので、そういうところを子どもたちにかぎつけられたのかもしれない。
華雄「はぁ。こんな警邏さっさと終わらせるぞ。」
どんどん通りを進んでいこうとする華雄。そこへ、
霞「華雄はモッテモテやなぁ。」
面白いものを見つけたとばかりの表情を浮かべた霞が現われた。
一刀「やあ、霞。」
華雄「張遼!?まさか見ていたのか!?」
霞「あんな華雄めったに見れへんからな。堪能させてもろたわ。」
それを聞いてがっくりと項垂れる華雄。
一刀「霞と華雄は一緒に旅をしていたんだろ?あんなのは見慣れた光景じゃないの?」
霞「いんや。華雄ときたらあの頃はいっつも怖い顔しとったからな。最近はそれも少し抜けてきたけど。」
華雄「くっ。そう言うお前こそ、旅先の酒家で毎回飲んだくれては、地元の酔っ払いどもと暴れて毎回酒家の主人に怒られていたではないか。」
霞「あー!それは言わんって約束やったやん!」
華雄「ふん。そんなこと忘れたわ。」
霞にとっては知られたくない過去らしく、恥ずかしさか顔を少し赤くしている。もっとも、普段の彼女の言動からすればそれくらいならば容易に予想がつきそうなものだが。
霞「あー、もう!一刀、この事は絶対に愛紗に言わんといてな。一刀なら約束守ってくれるやんな?」
一刀「うーん、どうしようかなぁ。」
そんな彼女にちょっとした悪戯心がうずいてしまう。すると、
霞「なんや。タダではだめってことかいな。ほんならこれでどうや。」
そう言って霞が出したのは酒瓶だった。
一刀「お酒?」
霞「そう。これはさっき酒家から受け取ってきたものやねんけど、なかなか出回らない代物で、酒家のおっちゃんにずっとまわってきたらとっておくように頼んであったものなんや。これを一口飲ませたるさかい。それでどうや。」
一刀「一口?」
霞「うぐっ。...じゃあ杯に1杯!」
一刀「それだけ?」
霞「ええい!これ半分でどや!」
一刀「もう一声!」
霞「丸ごと一瓶!ってやれるかぁー!」
自分で言っておいて自分にツッコミをいれている。彼女の賑やかさに周りの街人たちが一瞬振り返るが、騒いでいる本人を確認するといつものことかとそのまま何事もなかったかのように振舞っている。割と霞は街人たちの間では有名人なのかもしれない。それは華雄も同じようで、少し呆れ気味の表情を浮かべている。
一刀「冗談はここまでにしておいて。別に何ももらわなくて黙っておいてあげるよ。お酒は嫌いじゃないけどそこまで欲しいってわけではないし。」
霞「それはありがたい話やけど...一刀、何を言っとるん。これなくして人生は語れへんで。」
一転して真面目な口調になる霞。
一刀「いや、そこまでは...」
二人「その通り!」
そう言ってどこからともなく現われたのは我らが誇る?酒豪の二人だった。
一刀「星!祭!」
星「全く。主ときたらまだそんなことを言いなさるのか。」
祭「そうじゃ。いつも儂が口を酸っぱくして言っておろう。」
それは口を酸っぱくして言うようなことじゃない気がする。だが今の二人にとってそれは大して重要なことではないようだ。
星「して霞。それはなかなかの一品と見受けられるが。」
霞「ギクッ。」
祭「儂らの間で交わした取り決めを忘れてはおるまいな?三人のうち誰かが佳き酒を得た時には他の二人にも声をかけるようにと。」
霞「ギクギクッ!」
星「よもや、我らに黙ってその酒を一人で楽しもうなどとは考えていなかっただろう?なあ、霞?」
追い詰められていく霞。全く、二人はお酒となったら目がないようだ。おそらくそれは霞も同じなのだろうが、よほどの一品だったのだろう。独り占めしようとしたことをこの二人に悟られていたようだ。
霞「ウグッ...せ、せや。これからそっちに行こうと思っててん。」
星「ならば話は早い。これからその酒に合う肴を買って酒宴としようではないか。」
祭「あいにく儂らは金を持ってきておらんものじゃから、酒家に出向いて持っているであろう霞に払ってもらうことになるがな。」
霞「はぁ。わかったわ。もうどないにでもしたらええ。」
二人にがっちりと両脇を固められる霞。さながら逃げられないとあきらめて警察に補導された犯人のようだ。
星「では主。我らはこれで。」
祭「あとで警邏が終わってきたら訪ねてくるといい。まあ酒が残っているかはわからんが。」
俺と華雄は連行されていく霞をただ見守るほかなかった。
―あとがき―
れっど「今回の拠点パートのラストお疲れ様でした。これから拠点でやりたいことってありますか?」
華雄「無論、戦いだ。」
霞「なんでやねん!そんなことよりウチと愛紗の...」
れっど「戦いは無理ですが仕合くらいなら。」
華雄「それでかまわんぞ。」
霞「ちょ!無視せんといてーな。」
れっど「だって...ねぇ?」
華雄「私に同意を求められても困る。」
霞「ちゅーわけで次回はウチと愛紗の...」
れっど「次回から本編に戻ります。」
説明 | ||
恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第11話、拠点の最後になります。 拠点書くのはやっぱり悩む! それではよろしくお願いします。 |
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コメント | ||
クラスター・ジャドウさん 有難うございます、修正しておきますね。(Red-x) 誤字報告:そんなやり取りをしてる間にどこからともなく笑われた〜⇒そんなやり取りをしてる間にどこからともなく「現れた」〜。(クラスター・ジャドウ) もうすこし一刀の種馬力が発動する話が個人的に読みたかったかな。(レイブン) 華雄と霞が連続してるから、一緒の拠点扱いですかね?(BLACK) |
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