The Duelist Force of Fate 9 |
第九話「歪曲者の登場」
マスターとサーヴァントの関係は聖杯戦争においては基本的に利害の一致における協力体制というのが正しい見方だ。
ぶっちゃけて言えば、サーヴァントは本質的にマスターの為に聖杯戦争に参加するわけではない。
召喚された彼らサーヴァントは己の望みを聖杯で叶える為に戦ってくれるに過ぎない。
無論、裏切りの可能性は常にある。
だからこそ、サーヴァントには絶対逆らえない令呪が三つマスターには与えられる。
どんな命令だろうとサーヴァントに押し付けられる魔術刻印。
使い切りの切り札がマスターとサーヴァントを隔てているとも言える。
だから、少なくともマスター同士の駆け引きは常に最後の令呪を決して使わず温存する事に限られる。
相手の令呪を打ち消す事が出来なければ、相手にサーヴァントを反逆させられかねないからだ。
「は、はははは、そうか・・・そうかよ・・・今まであんなに優しくしてやったってのに・・・遠坂は僕じゃなく・・・そのお人よしの馬鹿を選ぶって言うんだな・・・く、くくく・・・なら、僕の為に死ねよ!!!!!!!!」
ワカメ。
まったく使えない男。
無神経極まりない馬鹿。
あの子の兄。
つまり、間桐慎二というマスター。
血筋に魔術刻印が途絶えてもその知識だけは受け継がれていたという事か。
サーヴァントを縛るはずの令呪が魔導書から放たれる。
「戦え!! 赦すな!! 殺し尽くせ!! ライダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
彼の雄叫びと共に三つの令呪で魔力をブーストされたサーヴァントが壮絶な魔力を立ち上らせる。
ライダー。
細身の女性。
紫色のボンテージっぽい衣装に身を包み、眼帯を掛けた美女。
呪詛の篭った彼の叫びは果たして彼女から理性を奪ったのか。
その体は極大のブーストで力が漲っていた。
「衛宮君ッ、行くわよ!!」
そもそもの始まりは昨夜まで遡る。
学校に仕掛けられた結界への対策に悩んでいた私達の前に一枚のカードが提示された。
『王宮のお触れ』
【決闘者】のサーヴァントである彼の話によれば、それで全ての罠は無効化されるのだという。
翌日、さっそく学校でカードを試した。
カードを配置したのは大きく戦え尚且つ人目を避けられる体育館の中央。
人払いの魔術で無人となった体育館が怪しいとサーヴァントが来れば、不意打ちで一撃を加える。
プランとしてはシンプルだが単純故に己の整えた場(フィールド)に相手を引き込むには有効な戦術だった。
しかし、のこのこ現れたのは同じ学校の生徒。
思わず出て行ってしまった衛宮君に迂闊だと声を掛けた時には遅かった。
体育館の中央に置かれたカードを奪い取った慎二との話し合いは物別れに終わった。
こっちに付けと馬鹿丸出しで迫る馬鹿に対して礼を尽くして拒絶したこちらに激昂するなんて甚だ遺憾だ。
馬鹿に見せ付ける目的で衛宮君に対し、軽い・・・頬に接吻(スキンシップ)を行ったのは軽率だったかもしれないが、だからと言って殺されてやるつもりは毛頭無かった。
セイバーが前衛、私が後衛、そして衛宮君が私の護衛。
デッキ節約の名目でサーヴァントである彼は戦闘用ではないカードを学校中に敷設して二次防衛体制を整えているはずだった。
最初から結界を無効化するカードが破壊されるのは織り込み済みであり、令呪三つをブーストされたサーヴァントが相手だとしても事前準備がある此方側が有利には違いなかった。
「行け!! ライダァアアアアアアアアアアアッ!!」
慎二がこちらにライダーを嗾(けしか)ける。
しかし、令呪で冷静さを失ったライダーが気付くより先に私はカードの発動を叫ぶ。
「魔法カード発動『光の御封剣』!!!」
彼から渡されていたカードの一枚が元々『王宮のお触れ』が置かれていた場所で発動する。
床に偽装されていたカードの効果は三ターンの間相手の攻撃を封殺する一枚。
彼の魔力が込められたカードは彼の手を離れても発動し具現化する事が出来る。
ただ、具現化の度合いがデュエルでなければ1ランク下がり、効果も弱体化する。
彼が使わないカードの力はせいぜいにして一分(ターン)程にしか過ぎないはずだったが、それでも不意を打たれたライダーが硬直した。
「セイバーッッ、GO!!!」
『はい。凜!!』
「いや、それオレの台詞!?」
「投影しか出来ない雛(ひよっこ)は黙ってなさい!!」
セイバーが三本の光の剣で身動きが取れないライダーへと突撃する。
混乱していたワカメが「ひぅ!?」と情けない声を上げた。
未だに状況が飲み込めていなかったのかもしれない。
しかし、現実には容赦ない力でセイバーの見えない剣が光の剣の上からライダーを両断しようとしていた。
「―――ッッッ!!!」
セイバーの剣が迫る中、身動きの取れないライダーの気配が変質する。
その身動きを封殺された剣の檻の中で彼女の腕が動いた。
ギチギチと断裂していく筋肉の悲鳴にすら構わず彼女が己の目を覆う眼帯を取り外そうとした。
「ッッッ、衛宮君!!!」
私の声に反応した衛宮君が己の手の中に普段は見えないセイバーの剣を再現する。
「分かった!!」
衛宮君が剣を投擲した。
先行するセイバーを追い越し、光の剣を抜けて、衛宮君の剣が彼女の手へと突き刺さった。
本来のライダーならば避けられただろう一撃。
しかし、断裂していた腕で剣を払う事も出来ず、ライダーが己の眼帯を取り外した時にはもうセイバーの剣がライダーの体に斬撃を加えていた。
確実に致命傷と言える一撃。
「やった!? 勝っ―――」
ベキッとライダーの足元が灰色に染まると砕け散った。
「シロウ!! 凜!! こちらを見てはいけません!! 早く建物の外へ!!」
それと同時にセイバーが私達に忠告しつつ後退した。
「まさか!? 石化の魔眼!?」
「遠坂?!」
「衛宮君!! 退避するわよ!!」
私はセイバーの忠告で瞬時に状況を理解した。
この広い体育館でもしもライダーの名を持つサーヴァントが見ただけで相手を石と化す魔眼を使えば、勝ち目などない事は分かっている。
それに対抗できるのは唯一強力な対魔力を持つセイバーだけ。
セイバーが視線を遮ってくれている間に足手まといになる事だけは避けなければと体育館の横の扉から私は衛宮君を連れて飛び出した。
「遠坂!? セイバーは大丈夫なのか!!」
「さっきのが致命傷になってるはずだけど、令呪でブーストされたてるからまだ動けるかもしれない!! 打ち合わせ通りプランBに移行よ!! セイバー!! 無理そうなら退避して!!」
『はいッ!!』
セイバーが私達と同じように体育館から転がり出てくる。
その姿はいつもの鎧では無かった。
「セイバー!? 大丈夫か!?」
『はい。シロウ。思うように身動きが取れなかったからでしょう。辛うじて防具だけで済みました』
私はその言葉に顔を顰めた。
「セイバー。まさか貴女の鎧やられたの?」
セイバーが私の言葉に頷く。
『すみません。仕留め切れませんでした。予想外に令呪のせいで魔眼が強力になっているようです』
私が魔術で彼に連絡を取ろうとした時だった。
「はははは、もう逃げるのかよ!! やっぱり衛宮お前は大した事ないな!!! 今ならまだ赦してや―――」
ゴトンと重い音と共に何かが粉々になる音がした。
「しん―――」
私は慌てて頭を上げようとする衛宮君を抑えた。
「馬鹿!? 死にたいの?! もう助からないわ」
「―――そんな・・・」
衛宮君がショックを受けたらしく私の腕の中で僅かに震える。
「自分のサーヴァントの能力も把握してないマスターが悪いのよ。自業自得・・・そもそも大勢の関係ない人間を殺して魔力供給しようなんて考えてた奴に同情してる場合じゃないわ。あんな馬鹿みたいに反則な能力のまま追ってこられたら学校の皆を避難させられない。どうにかしてあいつを足止めしないと」
私がそう言った時、まるで硝子が粉々になったような甲高い破砕音が響いた。
「来るわ!!! とにかく人気が無くて障害物の多い場所にあいつを誘導するわよ!!」
「校内に戻るのか!?」
「いえ、学校の裏の雑木林。あそこなら障害物もあるし、まだ何とかなる!!」
私と衛宮君は頷いてセイバーを殿に走り出す。
体育館から離れて数秒。
体育館の一部が崩落したのか。
莫大な埃が体育館の各扉から吹き始めた。
どうやって相手の視線から逃れ戦うか。
私の中はそれだけで一杯だった。
「行くわよ!!」
だから、私は見逃してしまったのかもしれない。
何かが蠢き始めていた事を。
それが人知れず影から影へと広がっていた事を。
ライダーはその日、結局その場で姿を消してしまった。
不可解な戦いの後、生き残っていたらしい間桐慎二が急に留学する事になるが・・・それはまだ二日後の話だった。
「足ッッ!? 僕の足がああああああああああああああッッ?!、痛いッ、痛いッっ、痛いッッッ!? ちくしょおおおおおおおおッッ!? 何なんだよコレはぁああああああああああああああああああ」
ヒタヒタヒタ。
「ひぃ?! な、な―――」
クチャクチャクチャ。
「く、来るな!? 何なんだよ!? この黒いの!?」
クスクスクス。
「は、お、おお、お前ッ?! た、助けろ!! 元はと言えばお前のせいだろぉぉおおおおおおお!!!! 全部ッ、全部ッ、お前みたいなクズの代わりにオレがこんな目にあっ―――」
ドス、バキャ。
「ヒギィ!? な、何、何して!? あ、あああ、足が!? 僕の足がああああああああああああ!?」
クス、グチュギチュミチュクチュギチュ。
「あ!? あ゛!? あ゛?! や゛、や゛べッ、ろ゛!? や゛へで!? ヒギィィイイイイイイイイイ!?!!」
ヒソヒソヒソ。
「な゛ な゛んな゛んだよぉおおおおおおおお!? か゛んげいないだろおおおおおおおおおおおッッ、ぜんばい゛がぢら゛ない゛女の子をいっば家にいづれ込んでるどがぁあああああああああ!?」
バチンバチンバチン。
「お゛、お゛まえほ゛んどう゛にさ―――」
グジュン。
「あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!」
ヒソヒソ、ヒソヒソ。
「や゛、や゛べで・・・や゛べでぐでぇええええええええええええええええええ!!!!?」
ヒソヒソ、ヒソヒソ。
「わ゛がッッ、わ゛がり゛まぢだがらぁああああああああああああああああ!!!!?」
クスクスクスクス。
「ひ゛ッ、ひ゛ッ、ばげも・・・の・・・・」
クスクスクスクス、ドスドスガスゴスゴスゴス。
「こ゛んな゛ッ、い゛がッ?! ぐ?! お゛ぐ?! で、でで!? ででい゛ぎま゛ずがらぁあああああああああああ」
クスクスクスクスクスクスクスクス。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ?! も゛うッ、うぢででい゛――――がああああああアアアアアアアアアアアアアアアアああ亜アアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスククスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス―――――――――――。
桜が衛宮君の家に住まわせてくれとやってきたのはライダーとの戦いから三日後の事だった。
To be continued
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